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臍帯とカフェイン

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「ギジン屋の門を叩いて」㉒ギジン屋


【配役】
尾石貝 茉希:おせっかい まき。女性。大家の娘

寺門 眞門:てらかど まもん。店主。男性。いわくつきの道具を売る元闇商人。

猫宮 織部:ねこみや おりべ。助手。女性。家事全般が得意です。



ーーーー

尾石貝 茉希:だーかーらー!!!食べればいいじゃん!キムチ炒飯くらい!

猫宮 織部:で、できないよそんなこと!

尾石貝 茉希:いいんだって!いっつもいっつも甘々激甘ひねくれ悪魔なんだから、勝手に食べればいいんだよ

猫宮 織部:においも辛いって言ってるんだよ?そんなの旦那様が可哀想

尾石貝 茉希:そうやって織部が甘やかすから未だにお子ちゃまぐちなんだよ、あの人」

猫宮 織部:あ、甘やかしてないもん!変なこと言わないでよ!まき!

尾石貝 茉希:どぉーうかんぐぁえてむぉ?(どう考えても、を煽るように)甘やかしまくりでしょーよー

猫宮 織部:そ、そんなことないですー!

尾石貝 茉希:毎日毎日ホットミルクホットミルクホットミルク。もう名前変えたらいいじゃん、寺門ホットミルク。そうしよ、もう。

猫宮 織部:て、寺門ホットミルク……

尾石貝 茉希:よくない?売れない芸人みたいで

猫宮 織部:む、ぷ……そ、そんなことありません、ダメです(笑いを堪えつつ)

尾石貝 茉希:ほら、笑ってんじゃん、織部笑ってんじゃん

猫宮 織部:笑ってません

尾石貝 茉希:寺門ホットミルク

猫宮 織部:むぷ(笑いを堪えている)

尾石貝 茉希:私の勝ちじゃない?これ

寺門 眞門:またお前はなにをしている

尾石貝 茉希:あ、寺門ホットミルクじゃーん

猫宮 織部:ぶはー!!!(堪えきれず)

寺門 眞門:ね、猫宮さんがお茶を吹いた!?

尾石貝 茉希:なははははは!!完全に私の勝利だねこれは!!

猫宮 織部:ごほ!ぶほ!!も、もう!!まき!!

尾石貝 茉希:こういうのは笑わせたもん勝ちでしょー!笑われるな、笑わせる人生を送れ!ってねー

猫宮 織部:も、もお!びしょびしょ……着替えてくる!

尾石貝 茉希:ほーい、いってらぁー

寺門 眞門:まったく

尾石貝 茉希:怒らないんだ?

寺門 眞門:なにがだ

尾石貝 茉希:いやほら、仕事もせずになにをしているー!って、いつもなら怒るから

寺門 眞門:言わなくてもわかるだろう?

尾石貝 茉希:……まあね

寺門 眞門:お前がいると、猫宮さんはよく笑うよ

尾石貝 茉希:当然でしょー、何せ私だし

寺門 眞門:本心で言ってるのが少し腹立たしいな?

尾石貝 茉希:本心だよ

寺門 眞門:……。

尾石貝 茉希:全部ね、本心。

寺門 眞門:そうだな

尾石貝 茉希:……二人さ、なんかあったの?

寺門 眞門:……ん?

尾石貝 茉希:いや、なんかさ、ギクシャクとも違う、なんか、異様な空気感を感じるからさ

寺門 眞門:そうか?……そんなことないだろ

尾石貝 茉希:あるよ、ある。どんだけ見てきたと思ってんの。

寺門 眞門:……お前には、言えんやつだな。

尾石貝 茉希:それ、ちゃんと皆がハッピーエンドになるやつ?

寺門 眞門:……当たり前だろう?

猫宮 織部:ふー!着替えたらなんだか気分一新!ってかんじがしますね!

寺門 眞門:おかえり

猫宮 織部:ただいま戻りましたっ!……なんか大事なお話されてました?

尾石貝 茉希:あ……それは2人が……

寺門 眞門:私たちがなんだかぎこちないってさ

尾石貝 茉希:……うん。

猫宮 織部:覚悟しただけなんだ

尾石貝 茉希:覚悟?

猫宮 織部:うん

尾石貝 茉希:覚悟って、なに?

猫宮 織部:言えない

尾石貝 茉希:なんで?

猫宮 織部:……まだ、色んな道を諦めたくないから。

尾石貝 茉希:……。

猫宮 織部:だから、それしかないんだって言葉にしたくないから、だからまだ言えない。

尾石貝 茉希:……諦めて、ないんだね?

猫宮 織部:うん。

尾石貝 茉希:眞門さんも。

寺門 眞門:……もちろんだ。

尾石貝 茉希:わかった、じゃあもうきーかない!

寺門 眞門:まき……

尾石貝 茉希:……ハッピーエンドじゃなきゃ、やだからね。

寺門 眞門:……ああ。

尾石貝 茉希:それはそうとさ

寺門 眞門:ん?

尾石貝 茉希:ずっと聞きたかったことがあるんだけど

寺門 眞門:なんだ?

尾石貝 茉希:なんで、『ギジン屋』なの?

猫宮 織部:そういえば私もなんでなのか由来を知りません、旦那様

寺門 眞門:あー……

尾石貝 茉希:気になりますっ!わたし、きにきにキニク学派ですっ!

猫宮 織部:あ、ちょっと!

尾石貝 茉希:猫宮さん、それはなにかの学派のことかい?

猫宮 織部:まき!

尾石貝 茉希:ちがいまーす

猫宮 織部:もーーー!!!なんか恥ずかしいからやめて!

尾石貝 茉希:以上私の頭に浮かんだ二人のやり取りでした

寺門 眞門:本当に仲がいいな

尾石貝 茉希:へっへーーーーん!いいだぁろぉー!?

寺門 眞門:そこはかとなく腹立たしいな?

尾石貝 茉希:で、なんなの?ギジン屋って。

猫宮 織部:なんとなくですけど、人とかに例えるって意味の「擬人化」とかから来てるのかと思ってました

尾石貝 茉希:あーたしかに。音が似てるよね。

寺門 眞門:まあ、それも間違いじゃあないんだが。

尾石貝 茉希:違うの?

寺門 眞門:いや、正しいよ。私は強欲の悪魔として、よく様々な書物にて「擬人化」されて書き記されている。それこそ、人の欲の塊であるとね。

尾石貝 茉希:ホットミルク欲?

寺門 眞門:あながち間違いではない……

猫宮 織部:そんなまさかっ

寺門 眞門:悪魔ジョークだよ

尾石貝 茉希:おもんな

寺門 眞門:まき!?

尾石貝 茉希:さーせん、嘘つけないもんで

寺門 眞門:貴様……

猫宮 織部:もしかして、なのですが

尾石貝 茉希:お。織部冴えてるかんじ?

猫宮 織部:あってるかは、わからないんだけど

寺門 眞門:うん

猫宮 織部:偽の神と書いて、ギジン……ですか?

寺門 眞門:ご名答。

尾石貝 茉希:偽の神?

猫宮 織部:うん。

寺門 眞門:私は一時期、「慈善の神」として崇められていたことがあった。

尾石貝 茉希:眞門さんが?

寺門 眞門:ああ

尾石貝 茉希:くそわろた

猫宮 織部:まき!

寺門 眞門:猫宮さん大丈夫、私もその『くそわろた』だなあと思ってる。

猫宮 織部:旦那様……

寺門 眞門:たかだか片割れとなった悪魔風情が崇められるのはね、やはり違和感があったさ。なにより私は強欲、ただ自分の目的のためだけに動いていたからね。
寺門 眞門:私は「偽の神」、そういった自戒を込めてつけていたんだ。

尾石貝 茉希:偽物の神様。ギジン……。

寺門 眞門:だがね、今は少し違う。

尾石貝 茉希:違うの?

寺門 眞門:ああ。
寺門 眞門:二人とも、神様って本当にいると思うかい」

猫宮 織部:います……よね?ほら、あの、沖田先生のメンタルクリニックには神話の神々が来店するーって……

尾石貝 茉希:なにそれ

寺門 眞門:あれはちょっと置いておいて

尾石貝 茉希:え、いや、なにそれ

寺門 眞門:『神様』っていうのは、なんなんだろうね。

尾石貝 茉希:ちょっとー……置いてけぼりなんですがー……

猫宮 織部:神様……とは……?

尾石貝 茉希:あれじゃないの、そもそも、得体の知れないものなわけじゃん

寺門 眞門:そうだな

尾石貝 茉希:よく分からない事、信じられないような事を人は都合よく神様とか悪魔とかに見立てて「形」を作ってきたわけでしょ
尾石貝 茉希:人はさ、よくわからないものがさ、怖いじゃん

猫宮 織部:……うん、そうだね

尾石貝 茉希:でも、相手の姿形がわかれば、理解できれば、認識できれば、そんなのなんて事ない、普通なことだったりする。ね?

猫宮 織部:……うん!

尾石貝 茉希:だからさ、神様は造られた。そうじゃない?

寺門 眞門:なかなかやるじゃないか、まき。これならまた夢を追いかけなおしてもいいんじゃないのか?

猫宮 織部:夢?

尾石貝 茉希:だーっ!!!ちょっと!言わないでよ!!

寺門 眞門:自分で言ったらどうだ?まぁきぃ~?あ、隠せないから言っちゃうかも知れないなぁ~?

尾石貝 茉希:んがががが、ぐぐぐ、ち、違うし……あ、ぐ……ぐぅ

猫宮 織部:あ、抗ってる……

尾石貝 茉希:が、学校の……先生にぃ……ぐぎぎ……学校の先生になりたい夢を持ってたけど!自信なくしたの!

猫宮 織部:学校の先生……っ!教師っ!?

尾石貝 茉希:もぉー!!!恥ずかしいから絶対言いたくなかったのに!!

猫宮 織部:なんで!いいよすごく!!!

尾石貝 茉希:うー……とりあえず私はそう思いましたぁ…………ん?あれ?

猫宮 織部:どうしたの?

尾石貝 茉希:人になるって意味の「擬人」。偽物の神様の「偽神」。じゃあ、神になるって意味の「擬神」だって「ギジン」って意味にできるよね。

寺門 眞門:ふふ、本当にもう一度追いかけてみたらどうだ?まき

尾石貝 茉希:んぐぐ、夢の話はパスで!

寺門 眞門:神は死んだと、どこぞの哲学者は言った。神は「死ぬ」んだ。人も「死ぬ」。そこに大きな差などなく、神も人も等しく、形を成してるだけ。
寺門 眞門:人が居なければ、はなから神なんてものは産まれすらしなかった。人として、神として、そんなものなんだか馬鹿らしくなるだろう?
寺門 眞門:鶏が先か、卵が先か、そんなナンセンス哲学とおなじ。だから私は、人というものの可能性の大きさに驚愕したんだよ。
寺門 眞門:呪いも、神も、願いも、全てひっくるめて。創造してしまう。戒めのつもりの「偽神」は、いつしか「擬人」になっていたし、「擬神」でもあった。すごい生き物なんだと、痛感させられたよ、私は。

尾石貝 茉希:なんか……変わったよね、眞門さん。

寺門 眞門:そうか?

猫宮 織部:ふふ、私もそう思います。

寺門 眞門:猫宮さんまで。

猫宮 織部:今の旦那様が、素敵だと思います。

寺門 眞門:……ありがとう。

尾石貝 茉希:はー、お熱いお熱い!

寺門 眞門:茶化すな、まき

尾石貝 茉希:茶化しますよー、これからも、ずっとね

猫宮 織部:……うん、そうだね、これからもずっと。

尾石貝 茉希:はーっ!なんかもー、おなかすいた!おなかすいたーっ!

猫宮 織部:ふふ、じゃあ夜ご飯食べてく?

尾石貝 茉希:たべてく!

寺門 眞門:なにが食べたいんだ?まき

尾石貝 茉希:キムチ炒飯!!!!

寺門 眞門:げ……

猫宮 織部:ま、まきぃ!それはちょっと……っ

尾石貝 茉希:いいじゃんいいじゃん!たまにはさ?

寺門 眞門:いいだろう、受けてたとうじゃないか

尾石貝 茉希:よっしゃー!ほらほら!言ってみるもんだよ織部!

猫宮 織部:い、いいんですか、旦那様

寺門 眞門:いい。大丈夫、いける。

猫宮 織部:で、でもキムチ無い……ですよ?

尾石貝 茉希:買ーーーってこい!買ってこい!!そんなもん二人で買い物してこーい!!

寺門 眞門:お前に店番を頼むのは些か不安が残るんだが……。

尾石貝 茉希:うっせー!いってこい!

猫宮 織部:ふふ、ありがとう、まき。いってくるね。

尾石貝 茉希:うーんと美味しいキムチ買ってこーい!

0:眞門、猫宮の2人は仲睦まじく店を出る。

尾石貝 茉希:ふー!まったく世話がやけますなー!

尾石貝 茉希:教師、かあ。
尾石貝 茉希:いいのかな、また追いかけても。

0:扉の開く音。

尾石貝 茉希:あ、はーい、いらっしゃいませー……えっ?な、なに?やめて!いや!やだ!!!離して!!!

猫宮 織部:(モノローグ)
猫宮 織部:私たちが帰るとそこには誰も居なかった。
猫宮 織部:あったのは、ぬめぬめとした嫌な気配の残り香と
猫宮 織部:「黒い箱」と、一通の手紙だけ。
猫宮 織部:私たちは、沢山の覚悟をしなければならない。
猫宮 織部:いつだって、別れは唐突に来るのだと。
猫宮 織部:失う事を、恐れてはいけなかったのだ。

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