にょすけ

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エイプリルフールの前座(0:0:2)

久保田:あ。飯島:あ、え、どうしたの。久保田:え、始まってる?飯島:え?久保田:え、これもう始まってる?飯島:え?始まってる?え?久保田:いや、え、え、え。飯島:え、え、え、え、始まってる?久保田:え、はじまってる?え、え?飯島:あ、始まってる?あ、始まってるわ、これ。久保田:え、やばやばやば。何も準備できてない。飯島:え、嘘、準備できてないの?ごめん、え、どうしよ。久保田:え、本当にはじまってる?飯島:ちょっとまって、確認してみる。久保田:うん、お願い。飯島:えーっと・・・あ、始まってる。久保田:え!え!え!はじまってる!?飯島:ごめん!ごめんめっちゃ始まってる!!!久保田:やばいじゃん、え、どうしよ、え、やばい、え飯島:え、どうしよう、止めたほうがいい?え?止めたほうがいい?久保田:え、止められる?止められるの?飯島:ちょっとまって確かめてみる。久保田:うん、お願い。飯島:えーっと・・・あ、無理みたい。久保田:え、え、え、無理なの!?飯島:ごめん!無理だった!とめらんない!ごめん!久保田:えー!!!どうしよ、やばいよ、はじまってるなんてやばいって!飯島:どうしよ、え、本当ごめん、え、どうしよ久保田:やばいやばいやばいよ、え、どうしよ、なんも嘘考えてないよ。飯島:え?久保田:え?飯島:嘘ってどういうこと?久保田:え?どういう、って、嘘じゃん、嘘飯島:なんで嘘?久保田:え、だって、ほら、嘘ついていい日じゃん飯島:え?なにそれこわ久保田:え?こわくないよ飯島:いや怖いよ、怖い、嘘ってなに?嘘つく人こわいじゃん久保田:怖くないって、ほら、エイプリルフールだよ、エイプリルフール飯島:エイプリルフールだからって嘘ついていいと思うなよ久保田:いや、だって、ほら、嘘ついていい日だから飯島:じゃあ嘘をそのまま配信で流そうとしてたってこと?久保田:そうだよ飯島:最低じゃん久保田:え、最低じゃないよ、エイプリルフールだもん飯島:そんな人だと思わなかった久保田:え?飯島:最低だよ、もう、解散しよ、やってらんないよ久保田:え?ちょっとまってよ飯島:ほんと最悪久保田:ちょっと待ってって、エイプリルフールじゃん、嘘ついてもいい日じゃん飯島:知らない、話しかけないで久保田:ねえ、ちょっと本当にさ、やめよ、配信中に喧嘩するのやめよ飯島:知らない久保田:いや、まずいじゃんって、リスナーも見てるし飯島:・・・。久保田:いや、さ、ねえ、まじで、配信中に空気悪くすんのやめようよ・・・飯島:・・・うっそー!!!!!!久保田:え?飯島:エイプリルフール!!!!久保田:は?飯島:実は配信はじまってませんでしたー!だっまされたー!久保田:は??飯島:どっきりでした!久保田:・・・うざ飯島:え?久保田:は?まじで、は?うっざ飯島:いや、ちょっと久保田:まじありえん、え?なにそれ、うざ飯島:ちょ、ねえ久保田:最悪なのそっちでしょ、は、うっざ、やる気なくした飯島:いや、その、ごめんって久保田:嘘つくなよ、ほんと飯島:だってエイプリルフール・・・久保田:しらねえし飯島:いや、そっちだってさっき・・・久保田:うざ。ちょっとタバコ吸うわ飯島:は、いや、ちょっと待って、タバコ吸ってたの?久保田:はー飯島:いや、ちょっと、まって、やばいって久保田:うるさいんだけど、ちょっと黙っててくれる飯島:いや、だって・・・久保田:まじうぜー(すぱすぱ)飯島:配信・・・してないって言ったの・・・嘘でした久保田:・・・は?飯島:配信、されてる、これ久保田:え、はじまってんの?飯島:はじまってる久保田:え?飯島:え久保田:は?飯島:え、いや、その・・・久保田:うっそぴょーーーーん!タバコ吸ってませんでしたー!!!飯島:え!?は!?え!?久保田:うそでしたー!エイプリルフール!!!飯島:や、やめろし!焦った!ほんと焦った!!!久保田:あははは!だまされたー、うけるー飯島:やられたわまじで、ほんとやられた久保田:さぷらーいず飯島:やられたわー、あ、やば久保田:え、なに?どうしたの?飯島:これ配信できてなかった久保田:はー!?やってるじゃんそれは飯島:うっそー!!!配信されてましたー!!!久保田:いやもういいよ、何回やるの飯島:それもそうだね、今日何する?久保田:劇でもする?飯島:いいね、やろっか

朗読「ロストチルドレン」

「タイガーリリーの谷を抜けたら、今度こそは終わらないネバーランドだ。」ネオン文字に彩られた僕の町はいつの間にか髑髏島のように、無法者が闊歩する。知っていたはずの街頭は、知らないような顔をして、いつの日かの思い出を養分にぎりぎり辛うじて懐かしさを醸し出している。タイムカプセルをしようなんて言ったのは誰だったのか。いくら過去と未来を繋げても、現代の僕は何も変わらない。タイムリープの先には、孤独と孤独の庭を繋げただけの大人になり切れない僕の夢がそこにあるだけだ。「妖精の粉を振りかけたら、あとは信じて飛び立つだけ。」そう手紙には記されていた。幾分かの希望と、正直少し芽生えている嫉妬心を胸に、飛んできてみただけだ。「あとは信じて飛び立つだけ。」言葉や、声や、表情でようやく伝わる類の愛情を、きっとどこかに置き去りにしてきた。それは、この街の隅っこかもしれないし、それは、誰かの心の中かもしれない。寂しさを感じる度に、他人の心の内を覗いてみても、そこに自分が居なかったらという恐怖や諦めにも似た感情が、僕を僕に閉じ込めていく。ネバーランドは終わらない。いつかの約束を叶えない限り、いくつかの嘘を見破らない限り、僕は寂しい僕を忘れて、ロストチルドレンの輪の中で陽気に的当てを楽しむだけだ。ネバーランドはわかってる。約束は既に違えていて、その嘘もその本当も既に虹の彼方へと消えていて、そうして僕らは大人になっていることも。その為に、思うこの寂しさがより濃くなるにつれて、これが大人になっているのだと明確に、わかっている。空を飛びたいと思っただけ、空は飛べないと思っただけ、思ったぶん、大人になって、ネバーランドは無くなっていく。「あとは信じて飛び立つだけ。」掘り起こしたばかりの僕も、ピーターパンを忘れた僕も、同じように泥だらけでタイガーリリーの谷を目指していた。そこに何も無くても、そこに誰もいなくても、僕らは文字をつむぎ、声を荒らげ、その表情を目に焼き付けていく。そうでしか、得られない愛情の事を忘れないように。ようやく。ようやく伝わる程度の愛情が、ネバーランドの僕にも、そうじゃない僕にも、必要なのだ。「あとは信じて飛び立つだけ。」あとは信じて、飛び立つだけ。かつてのネバーランドも、これから得るかもしれない魔法の日々も、吐き出しては、苦しみと生きる髑髏島も、何もかもが、この胸にやどるのだから。あとは信じて、飛び立つだけ。そうして夜間飛行の先に、ようやく伝わる程度の愛情が、この胸にやどるのだから。あとは信じて飛び立つだけ。あとは信じて、飛び立つだけ。

インビジブル・インプ(ゲーム型インプロ劇案)

このシナリオは「即興劇」いわゆるインプロ形式のシナリオです。キャストはここに記載された設定を用いながら自由に演技をすることができます。しかし、ただのインプロではなくこのシナリオには数個のルールが存在します。◆◆◆◆◆①他人の「専用テキスト」をのぞき見してはならない。②このシナリオの性質上、答えを知るものは「女神」以外を演じてはならない。◆◆◆◆◆【配役】 性別不問  4名 + 1名★カリオラ:性別不問。異世界転生をした勇者の一人。pass kariora★ジャッカス:性別不問。異世界転生をした勇者の一人。pass jakkasu★ミオルヒ:性別不問。異世界転生をした勇者の一人。pass mioruhi★オーゼム:性別不問。異世界転生をした勇者の一人。pass oozemu※途中の専用テキストのパスワードは、各配役のキャラクター名となっている。 これは「誤タップ」によるネタバレを防止する為である。★勝敗をジャッジする女神:性別不問女神だけは全員の専用テキストを閲覧することができ、それぞれがルールを逸脱していないか?ミッションをクリアしているか?を確認し、ジャッジすることができる。勝利条件を満たしたものが居た場合、その結果を発表し物語の結末をキャストに委ねるものとする。◆◆◆◆◆【本編】カリオラ:魔王城も目と鼻の先、ここまでの道のり長かったな。ジャッカス:あっという間の半年間でもあり、永久に続くような時間でもありミオルヒ:仕方ないですよ、それだけ色々とありましたから。オーゼム:でも、それももう少しで終わる、ってことだよね。ジャッカス:オーゼムは、魔王を倒したらどうするの?オーゼム:どうするって、そりゃもちろん元の世界に帰りたいよ。カリオラ:右に同じ。ミオルヒ:でも私たち、あちらの世界では一度死んでしまってますからねえ。ジャッカス:それはそうだけど、そこはほら、女神様がお得意の奇跡でちゃちゃーっとミオルヒ:してくれるかもしれませんね。カリオラ:でも、まだ魔王を倒して無いのにそんな後の話をしてもな・・・オーゼム:なんだ?自信ないのか?カリオラカリオラ:そういうわけじゃないけど、でも、まさかって事もあるだろ?ジャッカス:まさか、ねえ。例えば?ミオルヒ:私たちが全滅してしまうとか?カリオラ:考えたくは無い、が。そういう可能性も無いとは言い切れない。オーゼム:おいおいー、最終決戦前に弱気だなぁ。ミオルヒ:・・・カリオラ、顔色が悪いですよ?カリオラ:・・・言うべきか、言わないでおくべきか、迷ったんだ。ジャッカス:なに? 改まって。カリオラ:最後に寄った街で、験担ぎの為に占いの館にいったんだよ。オーゼム:珍しいな。カリオラ:それだけ、ナイーブになってたんだよ。で、そのときになんだがジャッカス:そのときに?カリオラ:・・・なあ、俺たちって本当に異世界転生した勇者だよな?ミオルヒ:何を今更。ジャッカス:そうだよ、カリオラ。オーゼム:・・・まさか。カリオラ:・・・占いで言われたのは、たった一つ。カリオラ:「俺たち、異世界転生勇者の中に、スパイがいる」----------------------【ルール説明】★配信の枠主、インプロ劇の主催者が読み上げてください。このインプロ劇は、即興劇を行いながら「異世界転生勇者」の中に隠れた「スパイ」を見つけるゲーム型インプロ劇です。これからキャストは、それぞれの名前が書かれた「専用テキスト」を黙読します。その専用テキストに書かれたミッションをこなしながら、誰がスパイなのか、誰が転生者なのかなどを推理しながら即興劇を行っていきます。それぞれの勝利条件は、専用テキストに記載されています。●共通ルール●1.相手の役職を指摘する行為は、それぞれに対し1回しか行うことができない。 なお、指摘をし、それが間違いであった場合「女神」より 間違えた指摘をしたものの「役職」が公開される。2.「転生者」と「スパイ」がミッションを踏破し、 勝利条件②を遂行した場合、「女神」役の説明により 誰が勝利したのか?が公開される。3.勝利/敗北が決まってから、おおよそ10分ほどで劇的な結末を演じる事とする。 (この部分が最大の即興劇) (インプロの終わりは女神役がタイムキーパーを行う事とする)■注意点■この遊びは、勝利を目的としているものではなく与えられた条件やミッションをこなしながら如何に場を面白くすることができるか?というインプロ劇の為の「あそび」です。あくまで、劇的に、楽しく行ってください。▼▼▼▼以下、ボタンより各専用テキストに入る事。(リスナーへの情報開示は主催者の判断に委ねるものとする。)

モーフィウス卿 第三幕 最終章 フォルタルセーゼの城にて。

【配役】語り部:性別不問町人(A):性別不問 兼役推奨町人(B):性別不問 兼役推奨モーフィウス:性別不問 クロードギュスターブ:性別不問 メイヴ語り部:第三幕 最終章 フォルタルセーゼの城にて。語り部:ああ、崩れゆく城。燃えさかるフォルタルセーゼの町々。語り部:愛しき姫君は何処へ。語り部:しかしそれを探す事もままならぬこのていたらく。語り部:誰がその騎士を恨んだ、誰がその騎士を呪った。語り部:石を投げ、その騎士に打つかれば全ての人間が喜んだ。町人(A):この、大嘘つきめ!町人(B):出て行ってちょうだい!語り部:飛び交う石々、つぶての先に。語り部:蹌踉めく足で、彼は言った。モーフィウス:どこに、どこに行けば君に会える。モーフィウス:どこを辿れば、君の傷ついた心に会える。モーフィウス:私の傷を、癒やす必要もない。モーフィウス:空も、海も、風さえも君の声を運ばない。モーフィウス:この城からですら、愛しき君の香りはしない。モーフィウス:ああ。この無情なる空虚を、どうしてやればいいのだ。モーフィウス:あの時の別れが、こうして、二度と会えぬという事なら。モーフィウス:私は、私でありたくなどなかった。モーフィウス:一生、嘘をつき通せばよかった。語り部:剥がれた仮面の下には、ただの土埃にまみれた羊飼い。語り部:先代王との約束も人知れず、ただ敗北の騎士は姫を想うばかり。モーフィウス:私は大嘘つきだ!町人(A):そうだこの大嘘つきめ!モーフィウス:いくらでも、嘘つきで構わない!町人(B):先代王の顔に、泥を塗った!モーフィウス:そうだ、私は踊り続けた泥人形。モーフィウス:誰に知られずともいい、称えられなくてもよい。モーフィウス:だがこの心に咲くものだけは!町人(A):嘘つき!モーフィウス:嘘のままではいられぬ!町人(B):大嘘つき!モーフィウス:どうか!どうかこの心に咲くものだけは!町人(A):槍で突け、つぶてをなげろ、この大嘘つきの、鼻っ柱に。町人(B):私たちを欺いて、さぞおもしろおかしくしていたんでしょうよ。町人(A):不快だ!町人(B):許されない!町人(A):投げろ、投げろ、つぶてを投げろ!町人(B):未だ、誰も見ていない、投げてはつかみ、つぶてを奴に!モーフィウス:ああ、マリアーナ。モーフィウス:君はどこに居るんだ、その甘く儚げな声を聞かせておくれ。モーフィウス:私のためでなくていい、私を呪う呪詛でも構わない。モーフィウス:私はただ、ただ君に生きていて欲しかっただけなのだから。語り部:街は怒り狂い、その心を一人の青年にぶつけた。語り部:敵の兵士が樽を蹴る、黄金の杯に葡萄酒がこびりつき語り部:誰も予想もしえなかった未来へと転がった。語り部:あれよあれよと転がり続け、もはや誰が黒幕なのか。語り部:若き嘘つき羊飼いは、騎士を名乗り。語り部:老いた愚王の策略は見事に散った。語り部:花よ花よと甘露で育った姫だけ散って。語り部:したり顔だけ、どこ浮かぶ。語り部:くれないに染まる鎧は、この血の赤か、この夕陽の赤か。語り部:笑うその身が、唯一の闇の先。ギュスターブ:可哀想な羊飼い、何もかもを失ってギュスターブ:頼りの姫も、行方知れず。モーフィウス:ギュスターブ・・・!ギュスターブ:滾るな滾るな、そのか細い手では私は殺せん。ギュスターブ:血迷って、襲いかかろうものならばギュスターブ:その身が微塵にさけるまでよ。モーフィウス:その笑み、その顔、何もかもを失ったのはモーフィウス:貴様のほうだろう、ギュスターブ。モーフィウス:国を焼き、王を殺し、自らの地位すらも捨て去った。モーフィウス:何が望みだ、なにを想う、貴様の瞳に映るものはなんだ!語り部:そう、憤慨する青年の先で、今も町人は命を略奪されている。語り部:この国の未来が燃えている。ギュスターブ:貴様だよ、モーフィウス。ギュスターブ:私の瞳に映るものは、いつも、いつだって、ギュスターブ:貴様以外の何物でも無い。ギュスターブ:貴様の曇る瞳が見たかった。ギュスターブ:貴様の掠れる声が聞きたかった。ギュスターブ:ならば、それならば、私はすべてを捨てても構わない!ギュスターブ:父も、国も、妹も!何もかもを捨てても構わない!語り部:遠く、家屋の崩れる音がする。語り部:誰もが笑顔で水を汲みに来た井戸も、語り部:子犬たちが寝転び、娼婦がたばこを吸い、語り部:昨日の雨のことを肴に、交わっていく麦酒も語り部:何もかもが、崩れる音がする。モーフィウス:絶望してなるものか。語り部:静かに、そうこぼした。モーフィウス:絶望して、なるものか。語り部:青年は、嘘をついた。モーフィウス:絶望、して、なるものか。語り部:その嘘は、国を欺き、姫を欺きモーフィウス:絶望してなるものか。語り部:自らを欺き、モーフィウス:絶望してなるものか。語り部:その運命も、欺いた。モーフィウス:『その剣(つるぎ)の切っ先に、明明(めいめい)となる未来がある。』モーフィウス:『その礎となる覚悟すらも、私には容易い。』モーフィウス:『我が名はモーフィウス、穿て、そして、切り開け。私はここに在る。』モーフィウス:『ギュスターブ、剣を取れ!』モーフィウス:『剣を取れ!!!!ギュスターブ!!!!』ギュスターブ:『何を抜かすか、この軟弱者めが!』ギュスターブ:『貴様のか細い剣(つるぎ)なんぞで、この国を救おうとでもいうのか。』ギュスターブ:『穢れたその身を、その命を、呪いつづけろ!』モーフィウス:『例え、我が身朽ちようとも』モーフィウス:『例え、明日の朝日が私に微笑まずとも』モーフィウス:『死ぬ事など恐れない、私は、未来のすべての為に切り開くものなり!』◆◆◆◆国立劇団 稽古場クロード:絶望してなるものか。メイヴ:違うな、もっと、何も無い、その台詞には何もないはずだ。クロード:絶望して、なるものか。メイヴ:さっきよりもいい。もっと、言い聞かせるように。クロード:絶望してなるものか。メイヴ:違う、それだとただ声量が変わっただけだ。クロード:絶望してなるものか。メイヴ:クロード。クロード:はい。メイヴ:少し休憩しよう。クロード:・・・ふう、そうですね!何か飲みましょう!メイヴ:ああ。何飲みたい?クロード:・・・チャイ、以外で。メイヴ:チャイ嫌いか?クロード:まあ、はい。でも、そういうことじゃなくて。メイヴ:ん?クロード:なんかこう、チャイを飲むなら、一区切りついてから、でしょ。メイヴ:・・・それもそうだな。メイヴ:よし、ジャポーネ土産のグリーンティーでも飲んでみるか。クロード:グリーンティーって・・・淹れ方わかるんですか?メイヴ:あー・・・クロード:ぷっ。だと思った。じゃあ、僕が淹れますよ。メイヴ:悪いな。クロード:いえいえ。クロード:・・・ねえ、メイヴさん。メイヴ:うん?クロード:なんでこの「モーフィウス卿」、主人公は本物の騎士にしなかったんですか?メイヴ:ん?うーん。クロード:先代王様に認められて、羊飼いだった青年が騎士の格好をしてクロード:城に潜入した。それは愚息ギュスターブの謀反を暴くためだった。メイヴ:そうだなあ。クロード:でも、だとしたら本物の騎士が出てくる設定でもよかったじゃないですか。メイヴ:そうだな。クロード:でも、このモーフィウスは、あえて「嘘つき」にした。クロード:モーフィウスが嘘をつかなければ平和に解決したことがたくさんある。クロード:そこをあえて、嘘つきにしたのは何でなんですか?メイヴ:そりゃ、何も問題なく解決する話なんて。面白くないだろ?クロード:まあ、はい、それはそうなんですけど。メイヴ:そうじゃないって、事よな。クロード:はい。メイヴ:・・・嘘つきだって、いいと思ったんだ。クロード:嘘つきでもいい?メイヴ:ああ。なあ、俺らがしてる、この演劇って、嘘だよな。クロード:なんてこと言うんですか。怒られますよ、いろんな人達に。メイヴ:だって、嘘だろ。こんな話、本当にあったわけじゃない。メイヴ:嘘の設定、嘘の人間、嘘の台詞、嘘の世界だ。クロード:そう言っちゃうと、そうですけど・・・メイヴ:でも、そこから感じるこの心や、この気持ちは嘘じゃない。クロード:それは・・・。メイヴ:じゃあ、嘘ってなんなんだろうな。クロード:嘘・・・。メイヴ:何もかもが嘘で、その嘘のリアリティを突き詰めてメイヴ:嘘を本当にしていく。クロード:・・・。メイヴ:嘘は、俺たちの、最大のテーマだ。クロード:僕たちの。メイヴ:そう。どんな嘘をついていても、どんな嘘を繰り広げてもメイヴ:この嘘という剣を掲げて、俺たちの本当をメイヴ:「本物」を、ぶつけていく。クロード:僕たちが、嘘をつくから。クロード:その嘘で、反旗を翻して、この道を、本物にしていく、って事・・・ですか?メイヴ:・・・主役らしくなってきたじゃないか。クロード:・・・師匠が、いいですからね。メイヴ:だから、大嘘つきが世界を救ったっていいと思ったんだ。メイヴ:大嘘つきが、嘘つきと、つぶてをいくら投げられてもメイヴ:世界を救ったっていい。そう思った。クロード:・・・なんか、メイヴさんって、変わりましたよね。メイヴ:そうか?クロード:なんか、昔はもっともっとトゲトゲしててクロード:自信満々で、苦しそうで、かっこよくてクロード:空気が冷たくて、でも熱くて、なんかわからないけどクロード:絶対に、倒せないって思っててメイヴ:倒せちゃったって?クロード:そういうことじゃなくてメイヴ:倒せちゃったけどなクロード:・・・でも、今はメイヴ:今は?クロード:もっと、倒せないです。メイヴ:・・・ありがと、嬉しいよ。クロード:嘘つきでも、世界を救っていいんですよね。メイヴ:ああ。クロード:嘘つきなのに、この世界を救いたいって気持ちは本物で、いいんですよね。メイヴ:ああ、その通りだ。クロード:最高の嘘を、ついてやりましょ。メイヴ:・・・そうだな。クロード:だって、僕は、僕たちは、「演技」がすきだから。クロード:この気持ちは、どんな嘘をついたって、メイヴ:・・・本物だよ、クロード。◆◆◆ギュスターブ:可哀想な羊飼い、何もかもを失ってギュスターブ:頼りの姫も、行方知れず。モーフィウス:ギュスターブ・・・!ギュスターブ:滾るな滾るな、そのか細い手では私は殺せん。ギュスターブ:血迷って、襲いかかろうものならばギュスターブ:その身が微塵にさけるまでよ。モーフィウス:その笑み、その顔、何もかもを失ったのはモーフィウス:貴様のほうだろう、ギュスターブ。モーフィウス:国を焼き、王を殺し、自らの地位すらも捨て去った。モーフィウス:何が望みだ、なにを想う、貴様の瞳に映るものはなんだ!語り部:そう、憤慨する青年の先で、今も町人は命を略奪されている。語り部:この国の未来が燃えている。ギュスターブ:貴様だよ、モーフィウス。ギュスターブ:私の瞳に映るものは、いつも、いつだって、ギュスターブ:貴様以外の何物でも無い。ギュスターブ:貴様の曇る瞳が見たかった。ギュスターブ:貴様の掠れる声が聞きたかった。ギュスターブ:ならば、それならば、私はすべてを捨てても構わない!ギュスターブ:父も、国も、妹も!何もかもを捨てても構わない!語り部:遠く、家屋の崩れる音がする。語り部:誰もが笑顔で水を汲みに来た井戸も、語り部:子犬たちが寝転び、娼婦がたばこを吸い、語り部:昨日の雨のことを肴に、交わっていく麦酒も語り部:何もかもが、崩れる音がする。モーフィウス:絶望してなるものか。語り部:静かに、そうこぼした。モーフィウス:絶望して、なるものか。語り部:青年は、嘘をついた。モーフィウス:絶望、して、なるものか。語り部:その嘘は、国を欺き、姫を欺きモーフィウス:絶望してなるものか。語り部:自らを欺き、モーフィウス:絶望してなるものか。語り部:その運命も、欺いた。モーフィウス:『その剣(つるぎ)の切っ先に、明明(めいめい)となる未来がある。』モーフィウス:『その礎となる覚悟すらも、私には容易い。』モーフィウス:『我が名はモーフィウス、穿て、そして、切り開け。私はここに在る。』モーフィウス:『ギュスターブ、剣を取れ!』モーフィウス:『剣を取れ!!!!ギュスターブ!!!!』ギュスターブ:『何を抜かすか、この軟弱者めが!』ギュスターブ:『貴様のか細い剣(つるぎ)なんぞで、この国を救おうとでもいうのか。』ギュスターブ:『穢れたその身を、その命を、呪いつづけろ!』モーフィウス:『例え、我が身朽ちようとも』モーフィウス:『例え、明日の朝日が私に微笑まずとも』モーフィウス:『死ぬ事など恐れない、私は、未来のすべての為に切り開くものなり!』これは、うそつきがせかいをすくうはなし。

Vのころしかた(0:0:2)

【配役】カミムラ:性別不問 職業 看護師暗示ェイル:性別不問 職業 イラストレーター※このお話はVライバー、Vチューバーに攻撃をするものではなりません。※このお話は人が不快に思う可能性があるお話です。LOG//▼カミムラさんが作業通話にログインしました。カミムラ:ふー、おつかれ。暗示ェイル:おお、おつかれ。暗示ェイル:今日は早かったね。カミムラ:あー、うん、早退してきちゃった。暗示ェイル:そうなんだ。カミムラ:うん、あれからどう?暗示ェイル:全然。コメント欄はなんか雑談してる人もいるし暗示ェイル:いつもと変わらないと言えば変わらないかんじ。カミムラ:なるほどねえ。暗示ェイル:でも、時々布のこすれる音がするって言い始める奴とか暗示ェイル:住所の特定したとか言い出す奴がいて、それで盛り上がったりしてるかな。カミムラ:ふーん。で。暗示ェイルは一日何してたの?暗示ェイル:特に何も。なんとなくたまにコメントを覗いては、本を読んだり、ご飯食べたり。カミムラ:そっちもいつも通りかー。暗示ェイル:まあ、そんなものでしょ。カミムラ:本当に、「まりあん」様、死んだのかな、これ。暗示ェイル:どうだろうね。暗示ェイル:今日一日ずっと、まりあん様のアバターは笑顔で固まったまま動いてないよ。カミムラ:登録者ようやく100人になったのにな。暗示ェイル:一年で100人だよ。カミムラ:そう、一年で100人。暗示ェイル:ようやくって言葉は合わないような気がする。カミムラ:ようやく、だろ。暗示ェイル:それはそうなんだけどさ。カミムラ:4ちゃんねるとかで話題になってたりするかな。暗示ェイル:多分してない。カミムラ:なんで?暗示ェイル:してたらもっとコメント欄あれてるよ。暗示ェイル:多分同接20人居ないよこれ。カミムラ:世知辛いなあ。暗示ェイル:うん、世知辛いよね。カミムラ:死んでるのかなー、羽八多喜まりあん。(はばたきまりあん)暗示ェイル:死んで「いってる」っていうのが正しいかもしれないよ。カミムラ:動かなくなって何日だっけ?暗示ェイル:今日で二日目。カミムラ:二日かあ。長いのかな、短いのかな。暗示ェイル:どうなんだろね、あ、またコメント欄動いてるよ。カミムラ:どれどれ。カミムラ:・・・ははは、無責任な奴らばっか。暗示ェイル:僕らも人のこと言えないけどね。カミムラ:ま、そりゃそうだ。あれ、こいついつも高額の投げ銭してたやつじゃなかった?暗示ェイル:あー・・・「やんちゃBOY」ね、毎回5万くらい投げてたよね。カミムラ:ガチ恋勢ってやつ?暗示ェイル:そうかもね。カミムラ:あ、投げた。暗示ェイル:え?カミムラ:こいつ、この状況でまた5万投げたぞ。暗示ェイル:・・・「まりあんたん、君は本当に僕の天使になったんだ」だってさ。カミムラ:きっつー。この状況でそれはきっついわ。暗示ェイル:特にほかの視聴者はなんも言ってないね。カミムラ:・・・本当に、死んだのかな。暗示ェイル:・・・通報する?カミムラ:まさか。暗示ェイル:だよね。カミムラ:うん。これが俺たちの「リバーズエッジ」だろ。暗示ェイル:そうだね。カミムラ:死んでてもらわなきゃ、まりあん様には、ずっと。カミムラ:動かないアバター、聞こえないスピーカー、動き続ける配信時間とコメント。カミムラ:ただ眺めてるだけで、自分たちは生きてるって事が実感できる。暗示ェイル:・・・そんな風に思ってたんだ、カミムラは。カミムラ:暗示ェイルは?暗示ェイル:・・・ちょっと違うかな。カミムラ:じゃあどんなん?暗示ェイル:ざまぁみろ、って思ってるかな。カミムラ:ざまぁみろ?暗示ェイル:うん。暗示ェイル:「ピュグマリオーン」って知ってる?カミムラ:いや、わかんない。猿?暗示ェイル:それはピグミーマーモセットでしょ。カミムラ:じゃあ本当にわかんない。暗示ェイル:「ピュグマリオーンとガラテア」って話があってさ。暗示ェイル:自分が彫刻で作った女性に恋をする話なんだよ。カミムラ:へえ。暗示ェイル:その彫刻の女性がさ、段々と裸で居ることを恥じているんじゃないか、って暗示ェイル:服を彫ってあげたりして、必要なものを与えて暗示ェイル:純愛としてその心を育んでいってさカミムラ:うん。暗示ェイル:最後、女神様がその彫刻を本物の動く女性にしてあげるって話。カミムラ:いい話じゃん。暗示ェイル:どこが。カミムラ:純愛ってやつだろ、流行ってんじゃん。失礼だな、純愛だろ。って。暗示ェイル:彫刻は彫刻だよ。カミムラ:ん?暗示ェイル:彫刻以上でも、以下でもない。暗示ェイル:でも、別に彼の純愛も、純愛以上でも以下でもない。カミムラ:んん?暗示ェイル:そのままでよかったはずなんだよ。カミムラ:そのまま?暗示ェイル:彫刻の女性は、彫刻の女性のままでいるべきだったんだ。カミムラ:あ、ちょっとまって。暗示ェイル:なに?カミムラ:なんか聞こえなかった?暗示ェイル:聞こえてないよ。カミムラ:まじ?あれ?気のせい?暗示ェイル:コメント欄見てみなよ。カミムラ:・・・誰も反応なしだ。暗示ェイル:ほらね。カミムラ:ごめん、遮っちゃった。暗示ェイル:いいよ。カミムラ:で、なんだったっけ。暗示ェイル:・・・彫刻の女は本当に愛されたかったのか?カミムラ:ふむ。暗示ェイル:だって元々はただの大きな大理石の塊だったんだ。暗示ェイル:そんな石の塊が、女性の形をしていたからって暗示ェイル:本当にその純愛を受け入れてたんだろうか。カミムラ:ねえ。暗示ェイル:そんなこと、おこがましいと思うでしょ?カミムラ:いやさ。暗示ェイル:なに?カミムラ:何の話?それ。暗示ェイル:・・・だから、ざまぁみろって。カミムラ:ざまぁみろなんだ。暗示ェイル:そう。ざまぁみろ。ピュグマリオーンの話とおなじだから。カミムラ:難しいことをよくわからない感じで話すよなあ、暗示ェイルは。暗示ェイル:そんなことないよ。簡単だよ。カミムラ:自分にはよくわからないよ。暗示ェイル:・・・だってさ、まりあん様のこと、誰も何も知らないんだよ。暗示ェイル:たまたまインターネットで繋がって、たまたま声がかわいくて暗示ェイル:たまたま好きだなぁと思って、たまたま全然人気がでなくて暗示ェイル:たまたま飲酒とオーバードーズが重なって暗示ェイル:たまたま死んだだけの、「画面での出来事」に過ぎないのに暗示ェイル:この今、芽生えてる気持ちだけは本物なんだもの。カミムラ:まりあん様だって本物だろ。暗示ェイル:本物じゃないよ。カミムラ:本物だよ、だから、落ち着くんじゃ無いか。カミムラ:本物の「死体」が、今できあがっていってるんだよ。カミムラ:自分たちの手の届かないところに、カミムラ:でも、誰にも手の届かないところに。カミムラ:自分たちだけじゃない、この、コメント欄にいるやつらもそう。カミムラ:全員が好きに思いを馳せる事ができる、カミムラ:自分達だけの「死体」が今、できあがっていってる。暗示ェイル:イかれてるよ。カミムラ:全員だろ、それは。カミムラ:配信が動かなくなって二日。カミムラ:わかってて、誰も通報してない。カミムラ:プロバイダーにも、この配信サイトの大本にも。カミムラ:このまままりあん様がどう朽ちていくのか、全員が見守ってる。カミムラ:それは、自分も、お前も、併せて全員そうだ。暗示ェイル:・・・死んでるのかな、やっぱ。カミムラ:死んでるよ、きっと。カミムラ:死んで「いってる」。暗示ェイル:捕まるのかな、僕ら。カミムラ:どうだろうな、でも、何もしてないよ。暗示ェイル:それはそうだけど。カミムラ:何もしてない。してないし、できないだろ。暗示ェイル:出来ないこと、ないでしょ。カミムラ:出来るのか?暗示ェイル:・・・。カミムラ:したくないだろ?暗示ェイル:・・・。カミムラ:出来ないって事にしておけよ。暗示ェイル:・・・まりあん様ってさ。カミムラ:うん?暗示ェイル:雑談、下手だったよね。カミムラ:そうだな。暗示ェイル:下手だし、アンチみたいなのは積極的に煽るし。カミムラ:いつも負けてたけどな。暗示ェイル:五月蠅かったよね、正直。カミムラ:そうだな。暗示ェイル:今、動かなくてさ、何も喋らないこのまりあん様はさ。カミムラ:うん。暗示ェイル:今までで一番、好きかもしれない。カミムラ:ひどいやつ。暗示ェイル:そうかもしれない。カミムラ:才能は無かったよな。暗示ェイル:こうあることが、完成形であった可能性だってあるのかも。カミムラ:勝手だな。暗示ェイル:勝手だよ。カミムラ:気持ち悪いやつ。暗示ェイル:でも、みんなだってそうでしょ。カミムラ:そうかな。暗示ェイル:そうだよ、勝手に中身を想像して、勝手に人生を想像して暗示ェイル:かわいそうだと思ったり、かわいいと思ったり、はたまた何も思わなかったり。暗示ェイル:この100人の登録者は、いったいまりあん様に何を思って、登録ボタンを押したのさ。カミムラ:そうな。暗示ェイル:そうでしょ?暗示ェイル:みんな勝手に考えてる。暗示ェイル:勝手に純愛して、勝手に偏愛して、勝手に性愛してる。カミムラ:その話って落ちある?暗示ェイル:ないよ。カミムラ:だよね。カミムラ:あ、また投げ銭。暗示ェイル:よくやるね、この人も。カミムラ:死んでたら意味のない投げ銭なのにね。暗示ェイル:まりあん様に意味はなくても、彼にはあるんだよ。暗示ェイル:もはや、彼こそがピュグマリオーンそのもののような気さえしてくる。カミムラ:純愛って、何が「純」なの?暗示ェイル:え?カミムラ:いや、なんかさ、ふと思っただけなんだけど。カミムラ:純愛ってなんなん?暗示ェイル:純愛とは、ひたすらな愛情、純粋な愛。カミムラ:ぐぐっただろ。暗示ェイル:まあ、一応。カミムラ:これって純粋なん?暗示ェイル:なんで?カミムラ:死んでる可能性がある相手に、金なげつけてんだぜ。暗示ェイル:うん。カミムラ:死んだ顔に顔面射精してるのと何が違うんだ?暗示ェイル:違うだろ、なんだよその例え。カミムラ:いや、一方的って意味で同じだろ。カミムラ:そもそもその女神はそのピュグマリオーンってやつが石にひたむきに愛を注いだことをカミムラ:純愛と認めたって言うけど、じゃあそのひたむきさって本当に「純粋」なのかって話。暗示ェイル:・・・。カミムラ:だってそうだろ、そんなのただの一方的な愛だ。暗示ェイル:・・・。カミムラ:あれ?あ、それが、「ざまあみろ」ってこと?暗示ェイル:まあ、そこからってかんじ。カミムラ:あ、そーいうこと。はー、そーいうことか。暗示ェイル:ねえ。カミムラ:ん?暗示ェイル:なんで、まりあん様のチャンネル登録したの?カミムラ:伸びなさそうだったから。暗示ェイル:やっぱり?カミムラ:うん。暗示ェイル:そうだよね。カミムラ:この話って落ちがあるんかね。暗示ェイル:ないよ、ずっと、ないと思う。カミムラ:そうだよな、じゃあ、ずっと、死体で居てもらえばいい。暗示ェイル:そうだね。それがいいよ、例えどんな事を想っていようと。暗示ェイル:今、まりあん様はそれ以上でも以下でもない。暗示ェイル:「彫像の女」なんだから。カミムラ:・・・いま、アバター動かなかった?暗示ェイル:気のせいだよ。カミムラ:そっか、気のせいか。暗示ェイル:そうだよ、彫像の女が、動くわけないんだから。

夜間飛行(朗読)

さよならなんて言う必要もないんだ。だって、僕には最初から何もなかったのだから。総武線の路線図を眺めながら、自分に言い訳をした。今日からまた、孤独な日々が続く。テーブルの上に並べられた料理に誰も手をつけない時のような、それでいて、寒空の下で羽織るマフラーの最初の冷たさのような。その正体がわからないまま、ただ後ろ指を刺されている。そういう類の何かだった。決して、褒められた人生では無かった。ただ、少なからず誰かを意図的に攻撃したことは無い。それだけが、誇れる事であったかもしれない。それでも、善人でも悪人でもなく、ただ人間であっただけの何かだった。耳元では、誰もが好きそうな流行りの音楽を流すイヤホンが耳から外れ、誰に聞かすわけでもなく宙に浮いている。昔、インターネットで読んだ小説の概要欄のことを思い出した。その小説の概要には、こう書き記してあった。「あなたの思ったことが概要です。」その話は、傷ついた女の子が行きずりの男とキスをして、そのまま恋や青春を忘れていくというだけの話だった。それが実話なのかも、創作であるかもわからないまま、その話の概要は僕には流れて来なかった。きっと、だから、僕は、生きていたくないと思ったのかもしれない。時刻は夕方を過ぎ、夜の帳を広げ始めたような時間だ。右を向けば、歓楽街から楽しそうな笑い声が聞こえる。左を向けば、そこはただの暗い通路で、僕と僕の憂鬱以外そこには誰も居なかった。だから、この憂鬱に名前を付けたのだ。パンディロラム、その日の夜と憂鬱が溶け始め、色が滲んだ、そんな名前。「それでも、人は生きなければならないのだから、難儀だよね、アーチヒェン。」宙ぶらりんなイヤホンの先から、パンディロラムは語りかける。「そうさ、パンディロラム。そうやって人は誤魔化しながら呼吸をしつづけるんだよ。」傍から見れば独り言の、ただの戯言を、この夜には吐き出してもいいような気がした。「そうだよ、パンディロラム。だって、そうさ、そうやって、生き延びているだけなんだから。」息苦しく、ただ、別れを惜しむだけの心が疼くのか。それとも、さよならすらも言えないこの憂鬱な僕を、許せないのか。ただふつふつと湧き上がるのは、孤独と怒りで。何もかも分かったふうに過ぎ去っていく、世界のすべてに絶望さえしたように思う。「さあ、行こうか、パンディロラム。」そう言うと、左に向き直し、歩みを続ける。誰もいない、それでいい、孤独な道でいい。なにも持たず、ただ木偶の坊で、夜空を数えながら旅立つ愚か者でいい。転がした杖が、出口を指さなくてもいい。これから先、何かを得る必要も。ここから先、誰かと出会う必要もない。ただ、孤独でいい。そうして、ずた袋のような扱いでいい。上を向き続けて、ただただ自分の涙を零さないようにする人生で構わない。そう思えるほどに、ぼくは何も無い。「本当に?」いつの間にか止まった音楽に、パンディロラムの声だけが響く。目と目があった様な気もした。でもそんな訳はないのだ、だってぼくは孤独なのだから。一人きりで、何も持たず、何かを落として、誰かと別れ、それすらも後ろ指を刺されながら。何も無いを実感するだけの、ただの詰まらない人間なのだから。「本当に。」とは言えなかった。それでも、この胸をざわつかせるこれは何なのか。ただ心に問う。訊き続ける。この気持ちは、どこに落としてきたのか。ただ、名前を付けた。この夜に、この憂鬱に。帰路の途中の、ただの足跡の連続を、思い出と呼んだだけで。「なんの意味があるんだろう。」そう、思わず呟いていた。誰かそばに居てくれ。誰でもいい、そこに誰か居るのなら。そう思う事さえも、残るのは罪悪で。そんな価値も、権利もないと、自身を食い潰す。そんな憂鬱だ。愛される資格なんてない。愛する資格もない。そういう憂鬱だ。「愛される資格なんて、無くてもいいのさ、アーチヒェン。」かちかちと、イヤホンの左耳と右耳がぶつかる。天の川や、銀河を歌う、恋人たちの事を想い、ガムを噛む、高円寺を想いながら、伝える言葉はハローとハローだけ。いつの間にか、何年も前に作ったプレイリストが流れている。銀色の砂漠で、溺れるかのような音楽が、流れる。孤独って言うのは、本当に一人の時に感じるのでは無くて人と人との繋がりを目の当たりにした時に一番感じるものなんだ。そう言うとパンディロラムはケープゴートの星屑を夜空にばら蒔いた。「見てご覧よ、シューゲイザーの噴流が瞬いてる。」見上げるとそこには、靴下しか見えていない星座の巨人が轟々とソプラノファッジを奏でていて、僕はいつの間にかプラスチックの涙をころころと零していた。「泣いてもいいんだよ、アーチヒェン。その為に星空はこんなにも広いんだから。」パンディロラムの声は、透明で、半分ほど消えかかる魔術のようで、それでいて、僕の記憶深くのどこかを擽るようで、それ以上でも、以下でもなく、ただ優しさが含まれていた。「そうだね、パンディロラム。涙屑をそのままあの空に浮かべようか。それとも、そのまま草花のもとへ降ろそうか。」脈動する心臓の音と、僕の涙の音しか今は聞こえない。遠く、本当に遠くの惑星レールの傍を銀河カモノハシが泳いでいる。クロールして、空を飛ぶ夢を見たあの日を、二度と僕は忘れられなくて。イヤホンで塞いだ耳の奥には、間違いなくあの日の僕と君の、擽ったくなるような愛の告白だけが木霊していく。「大丈夫だよ、パンディロラム。多分大丈夫。」「そうだね、アーチヒェン。君は大丈夫。」誰もこの空を邪魔することなんて出来ない。あの日の零れた愛も、溶けてしまえば同じ僕だ。そして多分それは、もう二度と逢えないと思っていた君の事さえも。孤独って言うのは、本当に一人の時に感じるのでは無くて人と人との繋がりを目の当たりにした時に一番感じるものなんだ。そう言うとパンディロラムはケープゴートの星屑を夜空にばら蒔いた。「見てご覧よ、シューゲイザーの噴流が瞬いてる。」そっとスマートフォンの電源ボタンを押す。何もかもがそのまま消え去り、静かな天井だけがここには残った。大丈夫、パンディロラム。この夜空を忘れないよ。瞳のもっと奥に眠る銀河鉄道を夢に見ながら、こうして布団の中で蹲る。胎児のように丸くなりながら、この手を握るのは自分自身と酸素だけでいい。一人でいることは孤独じゃない。何も怖くなんてないさ、そうやって夜を繰り返す。大丈夫さ、パンディロラム。タオルケットは天の川よりもあたたかい。大丈夫さ、パンディロラム。孤独は胸の奥にそっと仕舞うよ。星屑を飲み干したみたいに、ゆっくりと部屋は真空になって行く。何も怖くなんてないさ、生きているかぎり。