Vibgyor(ビブジョー)(0:0:2)【Vibgyor】(ビブジョー)◾︎あらすじ◾︎「神父」と呼ばれた殺人鬼。ガブリエル・ミュージニア・ハインスタイン。彼の死刑宣告が行われた裁判後、1人の新人記者が彼の面会室を尋ねた。記者の名は、リッジエル・アイベルク。記者は、その面会室での出来事を飲み込めず日々を過ごしていた。「彼は、人を切り開いてみたくてたまらない」神父の去り際の一言が、頭にこびり付いている。◾︎配役◾︎(0:0:2)●リッジエル(性別不問)▶︎リッジエル・アイベルク。Visitシリーズの主人公。 新人記者であり、「神父」の取材の後から様子が可笑しい。●ノア(性別不問)▶︎ノア・ビーチャンテス。リッジエルの上司。 取材から帰ったリッジエルの様子が可笑しい事に気づき、気にかけている。ーーーーーーーーー◾︎本編◾︎ノア:リッジエル。リッジエル:……。ノア:リッジエル?リッジエル:……。ノア:リッジエル・アイベルク。リッジエル:……。ノア:リジィ!!!リッジエル:わ、あ、す、すいません。ノア:また上の空だったね、最近おかしいよ、君。リッジエル:すいません、少し考え事をしていて……。ノア:また例の「38人殺し」のこと?リッジエル:……。ノア:少し入れ込み過ぎなんじゃない?ノア:確かにクエンティン州いちの殺害人数を誇るシリアルキラー。ノア:新聞の一面を飾るに相応しいビッグネームだけどさあ。リッジエル:……。ノア:殺害事件の記事は、栄養ドリンクや増強剤のようなものだよ?リッジエル。リッジエル:……。ノア:飲めば忽ち(たちまち)ヒーローのように身体中がパンプアップ。でもその実(じつ)、その効果はあとの自分から前借りしてきただけ。ノア:地の力を付けなきゃ。ノア:編集長は、ガンガン過激な事件を追えって言うけどね、本当の記者としての力はその土地にいくら根付く事ができるかっていうコミュニケーション能力で……リッジエル:……。ノア:……はあ。ノア:まあ、こんな話、しなくてもわかってるよな、アイベルク。ノア:そんなことより見てよ!ほら!うちの可愛い姪っ子!可愛い双子でさあ。この間ジュニアハイスクールを卒業したんだー。ノア:お姉ちゃんの方の名前がアメリアでさ、「勤勉」って意味で……リッジエル:ノア先輩。ノア:おっ、食いついた、写真見る?可愛いよ。リッジエル:38名の殺人と、1人の傷害と監禁ですよ。ノア:そこかよ。リッジエル:いや、だって、そんな、38人殺しなんて通り名じゃ、真実がきちんと伝わってませんよ……ノア:じゃあ、何がいいって言うんだい?リッジエル:……「神父」ノア:(神父と言い始めた瞬間に割り込む)ノア:だめ。リッジエル:……なぜですか?あの方を象徴するには一番適切な表現だと思います。ノア:あの方って言うな。リッジエル:……。ノア:リッジエル・アイベルク。ノア:あの殺人鬼を、「あの方」だなんて言うな。リッジエル:……すいません。ノア:いいか、アイベルク。ノア:一番適切な表現なんて、通り名で使っちゃいけないんだよ。ノア:このライクユアタイムス誌はね、クエンティンはおろか。この国で一番国民に読まれている新聞だ。ノア:その新聞が、「あいつ」を「神父」と呼んだとする。ノア:一体なんにんの、他の善良なる「神父」が被害を被る(こうむる)?リッジエル:あ……。ノア:風評被害ってのはね、民衆が起こすものだ。ノア:でもその種はいつだって、私たち記者が撒くんだ。リッジエル:考えが、浅はかでした……。ノア:……それに。ノア:録音を聞く限り、こいつは相当な食わせものだよ。ノア:人を操って、心を乱して、弱味に漬け込む。ノア:そんな奴の言葉を「神父」の言葉として掲載してみなよ。ノア:たちまち信者爆誕。とめらんないよ、そうしたら。リッジエル:……先輩の仰る通りです。ノア:前に同行取材した新興宗教の教祖の話、覚えてる?リッジエル:はい。キャルボニー州の集団催眠の事件ですよね。リッジエル:かなり前ですが、大きなモールの爆破予告で幕を閉じた派手な事件だったのでよく覚えてます。ノア:そ。ジョリージョエル・モールの爆破予告。ノア:クエンティンでもかなりニュースになったでしょ?リッジエル:はい。ノア:あの時の教祖の言葉、覚えてる?リッジエル:……記録を見て見ないと。ノア:私はね、忘れられないんだよね。あいつの言葉。ノア:何も疑わず、何も恐れず、何も屈しないノア:最強の信者の作り方は、教祖が死ぬことだ、って。リッジエル:……思い出しました。ノア:本当に神様ってやつになっちゃうんだよ、あいつら。ノア:人の心の動きがわかるヤツらってさ。ノア:本物の、揺るがない神様になっちゃうんだよ。リッジエル:本人が居なくなることで、脳内に信仰対象が住まう、というやつですよね……。ノア:そ。だからさ、絶対「神様を連想させるような」通り名なんて、付けちゃだめなんだよ。リッジエル:すいません、記者としての本分を見失ってました……。ノア:多いんだよね、ああいうタイプのシリアルキラーに取材に行くとさ。ノア:影響受けちゃうやつ。リッジエル:……面目ないです。ノア:いいよいいよ、その為にさ。ノア:私が「先輩」であり、「バディ」であり、「メンター」としているわけですから。ノア:きっちり仕事させてくれて感謝しかないよ。リッジエル:……はは、なんですか、それ。ノア:あー!やっと笑った。良かった良かった。ノア:そもそもアイベルク、君は真面目すぎるんだよ。リッジエル:そう、ですかね。ノア:真面目も真面目、大真面目のクソ真面目だろー。ノア:適当で良いとは言わないけどさ、毎度毎度自分自身を現場に素直にぶつけてたら身が持たないよ?リッジエル:でも、それ以外に方法がわからなくて……。ノア:仮面を被ったっていいんじゃない?リッジエル:仮面?ノア:そ。心理学用語で言うんだったら、ペルソナとかいうやつよ。リッジエル:ペルソナ。心につける仮面というやつ、ですよね。ノア:厳密には、自己の外的側面ってやつだけどね。ノア:色んな側面を持っていいんだよ、それが心の仮面ってこと。リッジエル:心の仮面……。ノア:その「38人殺し」だって、結局はそのペルソナを使い分けてたんだよね。ノア:だから、男性的に感じることもあるしノア:女性的に感じることもある。ノア:アニマとアニムスってやつ。リッジエル:男性的側面と、女性的側面。ノア:そ。流石優秀だねー。ノア:録音を聞くとさ、「38人殺し」は君に「性的」な話をしてたよね。リッジエル:……そう、ですね。ノア:しかも、最初、とにかく話を聞かず、君を苛立たせるような発言ばかりしてたろ。リッジエル:はい、して、ました。ノア:そしてその後、アイベルク、君と「38人殺し」の関係性は逆転する。リッジエル:逆転。ノア:そう、だって考えてもみなよ。ノア:人としてどうとか、権利がどうとか言うけどノア:殺人鬼は殺人鬼で、君は善良な市民だろ?ノア:なんで君が、「あいつ」に許しを乞う必要があるのさ?リッジエル:たし、かに……ノア:そ。それが、所謂(いわゆる)「マインドコントロール」の常套手段だろー。リッジエル:「マインドコントロール」……。ノア:感情のすり替えを行ってるんだよ、これは。ノア:主従関係を構築してるのさ。ノア:人間として、なんていう大義名分を掲げてノア:こちらに非があるように思わせる。ノア:主導権はこちらにあるぞ、って言ってるようなものじゃないか。リッジエル:確かに、そうだったかも知れません。ノア:ね。やられてるんだよ、アイベルク。ノア:危なかったなー?リッジエル:……そっか、これが、マインドコントロールなんですね。ノア:前にもさ、別の部署の部下がやられて大変だったんだよ。ノア:そいつなんて、裁判の傍聴席(ぼうちょうせき)毎回取るようになってたもんねー。リッジエル:……すいません、ノア先輩。ノア:いいって。それが仕事。リッジエル:思えば、あの面会からずっとその事ばかり考えていたように思います。ノア:思いますじゃないよ、全然その事しか考えてなかったでしょ。リッジエル:はい……ノア:ずっと上の空だったもんなあ。ノア:編集長はそのままにしとけなんて言うしノア:こっちは気が気じゃなかったよ?リッジエル:今度、何か、奢らせてください……ノア:おっ?言ったね?ノア:期待しちゃおっかな。リッジエル:……ノア先輩。ノア:ん?リッジエル:なんで、こんなに優しくしてくれるんですか。ノア:そりゃ仕事ですからねえ。リッジエル:それは、そうなんですけど……ノア:うそうそ。仕事ってだけじゃないよ。ノア:なんかさ、ほっとけないって思ってるよ、君のこと。リッジエル:ほっとけない……?ノア:そ。趣味と言う趣味もなくて、編集長主催のバーベキューにも来ない。ノア:1回、家行ったことあったよね?リッジエル:はい、一度だけ。ノア:全然部屋に家具とか、家電とかもなくてさ。ノア:「あー、これが噂のミニマリストかー」って思ったけど、それと同時にさ。リッジエル:それと、同時に?ノア:いつでも、消える準備してんのかな、って。ノア:そう思っちゃったんだよね。リッジエル:……。ノア:図星?リッジエル:……なんとも、言い難いです。ノア:だからさ、なんか、ほっとけないな、ほっといたらだめだな、って。ノア:そう思ったんだよね。ノア:少なからず、私の手が届くうちはさ。リッジエル:……同情?ノア:同情とは違うかな。ノア:だって別に、それが可哀想だなんて思ってないし。リッジエル:可哀想じゃ、ない……?ノア:うん。だって、運の良さや、産まれなんてどうしようも無い以上さ。ノア:人には本来、立場も、優位も、何もないはずでしょ。ノア:平等ってわけじゃないけどさ、人は人だと思うんだよね、どんな状況でも。ノア:だから別に、君の状況を可哀想とは思わないし、そういう人生なんだな、って思うだけ。リッジエル:……そういう風に考える人、初めて見たような気がします。ノア:えー、そうかなぁ。ノア:だってさ、歩く道がほんの数ミリズレただけで車に轢かれたり轢かれなかったりするんだよ。ノア:明日は我が身、なわけ。ノア:じゃあさ、可哀想とかじゃないじゃない、それは。ノア:「ただ、手を取るだけ」。ノア:案外そんなもんなんだよ、世の中の本来の仕組みなんてさ。リッジエル:「ただ、手を取るだけ」。ノア:……次の取材さ、久しぶりに同行しない?リッジエル:同行ですか?ノア:うん。ノア:なんて事ない、介護施設の取材なんだけどさ。リッジエル:介護施設ですか。ノア:リッジエル、君はさ。ノア:人間が人間有り得る(たりえる)のは、何があるからだと思う?リッジエル:人間が人間有り得るには……?ノア:そう、きっかりじっくり考えてみて。リッジエル:難しいですね……。リッジエル:よく、人間しか「芸術」はしないって聞きます。ノア:ああ、よく言うよね。芸術を行う心こそが人間って。リッジエル:あとは、「知恵」や「知識」ですかね。リッジエル:それがあったから、猿との差別化がされて地球は人間が支配し始めたと言っても過言ではないですよね。ノア:おー、小難しい感じになってきた。いいね。リッジエル:あとは……それこそ、「目的の無いセックス」リッジエル:生殖を理由としない、快楽を求めるセックスをすること、とか、ですかね……。ノア:セックスをしない人間もいるよ?リッジエル:それは、その……そう、ですね。ノア:それに、自慰行為を行う猿や鳥もいる。ノア:生殖行動は痛みと快楽が一緒くたになる行為だからねえ。ノア:人間しか快楽を求めない、っていうのはちょっと驕り(おごり)があるかな?リッジエル:すいません。ノア:いや謝ることでは無いんだけどね!ノア:出尽くした?リッジエル:そう、ですね、これ以上は出ないです。ノア:いいねいいね、凝り固まってる感じがしていいねー。リッジエル:……馬鹿にしてますか?ノア:してないしてない!ノア:その介護施設はさ、所謂認知症という病気を持つ人が共同生活をする施設。リッジエル:えっと、グループホームというものですか?ノア:そ。まさにそれ。ノア:認知症ってさ、まずドンドン記憶が消えていくって言うのがあるんだよね。リッジエル:よく、若年性アルツハイマーなんかが映画などにも題材として使われますよね。ノア:うん。記憶を無くすって、分かりやすいクライシスだもん。ノア:短期記憶って言ってさ、数分数秒前の出来事も覚えてられなかったりするんだよね。リッジエル:数秒前も……。ノア:だから勿論、認知症の人達はスタッフの顔なんて覚えてないし、当然名前もわからないってことよね。リッジエル:そう、ですね。ノア:じゃあ、誰がスタッフをしてても多分おなじだよね?リッジエル:ええ、そうだと思います。リッジエル:覚えて貰えてないなら、誰が対応したところで結果は同じで、ただ淡々とこなすことしか……。ノア:そうじゃあ、ないんだなあ。リッジエル:え?ノア:「感情」はさ、残るんだよ。最後まで。リッジエル:「感情」?ノア:気持ちのいい対応をしてくれた、という嬉しい感情。ノア:蔑ろにされた、という悲しい感情。ノア:その時に起きた出来事や、トラブルを覚えてなくてもさ。ノア:その時に感じた感情っていうのは残るんだって。リッジエル:感情が、残る。リッジエル:そうか、そうなると……。ノア:わかった?リッジエル:はい、わかりました。ノア:優秀だねえ。リッジエル:「この人は安心をくれる」から、記憶が無くても「このスタッフさんじゃないとだめなんだ」という状況ができるってことですよね。ノア:正解。ノア:記憶がいくら消えてもさ、感情だけは最後のほうまで残るんだよ。ノア:それってさ、人間が人間有り得るのは「感情があるから」だしノア:きっと恐らくさ、他の生き物もそうだったりするんじゃないかなーっておもうわけ。リッジエル:選択肢に人間以外も含まれたらめちゃくちゃじゃないですか。ノア:だっていいんだもの、それで。ノア:「ただ、手を取るだけ」、それだけなんだからさ。リッジエル:……「ただ手を取るだけ」。リッジエル:でも、それって、簡単なようでいて、一番難しいこと、ですよね。ノア:そうかもしれないね。ノア:綺麗事ってだけかもしれない。ノア:でもさ、いいんじゃない、綺麗事でもさ。リッジエル:……ノア先輩。ノア:なんだい、リッジエル・アイベルク。リッジエル:その取材、同行、したいです。ノア:そう来なくっちゃね。リッジエル:……ありがとう、ございます。ノア:さっきよりいい顔になったね!ノア:いい顔ついでにさ、私の姪っ子の写真ちゃんと見てよー。リッジエル:結局それを見せたかっただけなんじゃないですか?先輩。ノア:あははは、そうかもしれない。リッジエル:まったく……ノア:いいから、ほら、見てよ、この子がお姉ちゃんの「アメリア」。旧ゲルマン語でさ、「勤勉」って意味なんだけど名前の通りほんと才女でね。リッジエル:顔、でれでれになってるじゃないですか。リッジエル:でも確かに、可愛いし、聡明そうです。ノア:でしょでしょ?ノア:実はさ、名付け親は私なんだよ。ノア:ほら、私頭いいし、語彙力あるからさ。リッジエル:あまり自分でそういう事言わないと思いますよ。ノア:いいんだよ!誰も言ってくれないんだから!リッジエル:こっちの、妹さんの方は?ノア:ふふ。この子の名前も私がつけた。ノア:この子もゲルマン語でさ、「勤勉」って意味なんだ。ノア:双子で同じ意味を持つふたつの名前、ほら、センスいいと思わない?リッジエル:それが言いたかっただけなんじゃないですか?リッジエル:それで、名前は?ノア:ああ、「エマ」、だよ。ーfinー2024.10.02 11:48
新作シナリオ「Vibgyor」一般公開イベントのお知らせいつも大変お世話になっております。シナリオライターのにょすけです。先日の声劇シナリオ「Visit」シリーズのイベント「VISIT DAY」のご参加誠にありがとうございます。当イベントのコンプリート報酬は、Visitシリーズの新作シナリオ「Vibgyor」の先行公開でした。合計15組の方々がコンプリート報酬をゲットし、先にお楽しみいただけたものと思います。こちらの一般公開日が、今回決定いたしました。2024.09.23 18:01
むくりこくりの怪物たち。(セリフ集)この台詞集はXのタグ企画で作成したものです。◆怪物の名称◆何を食すのか(食性)◆フレーバーテキスト(説明)◆怪物のセリフ上記4点で構成されています。https://x.com/nyoskerion/status/18319087062773189592024.09.07 16:54
Blitz(0:0:2)【配役】◆アルフォンス: アルフォンス・レオニール 男性(性別不問) あだ名「アル」。ヴィットーリオの元で働いていた若きマフィア構成員。 ベスタフ州マフィア「テオドーレリア」の金庫の金を盗んだ事で捕まった。◆ヴィットーリオ:ヴィットーリオ・チョッパーズ 男性(性別不問) あだ名「ヴィッツ」。金を持ち逃げした部下を追い回し、この廃屋にぶち込む事に成功。 「テオドーレリア」の中では若頭の位置。 憎悪と愛情と友情と情けを持ってして、拳銃を机に置く。2024.09.04 07:42
ショートショート【人狼ジャッジメント ジェイ×怪盗】「…怪盗?」一切れにしたハムを、パンに挟むとそれを口に頬張る。時折ひとかけのチーズを放り込み、それを市場で一番安いワインで流し込んだ。「そう、怪盗。知らないの?今持ちきりよ。」ソフィアは、私の飲むワインを奪い取ると勝手に注いではボトルを空にしてゆく。溜まったもんじゃないわよ、と嘆くその姿は麗しく、この都の男達の注目を集めた。「ソフィア、せめて席についてから味わったらどうかね。」近くを通りかかったボーイに、新しいグラスを頼むと彼は静かに続けた。「それで、その怪盗がどうしたっていうんだい?お嬢さん。」またハムを一切れ切り取ると、小さめに切ったパンに挟み、それをソフィアに渡す。燻製されたハムのかおりが、安酒によく合いこの都が平和であることが容易に感じられる。「ジェイ!!お嬢さんはやめてってば!もう私子供じゃないもの!」酒が回っているのか、ソフィアは頬を赤らめながら言う。渡されたハムをがつりと頬張ると、それをワインでぐぐと流し込むこの飲み方は、もちろんジェイが教えたものであった。「失敬。それはすまなかった。で、ソフィア。その怪盗がどうしたと言うのだね?」夕陽に照らされた街並みが、ジェイの顔を赤く照らす。黄昏時を迎えようとするこの都を彼はこよなく愛し、そしてワインとハムを愛した。それ以上に愛した女性の数もあったが、折ったレコードの針と同じだけの数の夜を越えた彼は、人数などに興味はなかった。「宣言通りなんでも盗む。宝石、命、はたまた人生すらも。そう噂されているとんでもない怪盗がこの都にいま潜伏しているのよ。」ほう、なんでも、ねぇ。と小馬鹿にしたようなジェイの笑いに、ソフィアはすぐさま反応した。「本当なんだから!この間だって街で評判の凄腕占い師が、自分の能力を盗られたって大騒ぎしてたんだから!」「きっとその占い師が偽物だったか、狂った人間だったんじゃないのかね?」「巷で噂の妖狐をまじないで倒したって話もあるほど有名なのよ!今更偽物なわけないわ!」ソフィアの美貌もさることながら、声の大きさに通りの通行人たちが驚いた顔でこちらを見ているのは実に滑稽で。「ソフィア、少し落ち着きたまえ。」「落ち着いてられるもんですか!新聞記者魂にかけて、この怪盗を絶対に記事にするんだから!」まったく、熱くなるとソフィアはいつもそうだ。猪突猛進的に突き進んでしまう、それが彼女のいいところでもあるのだが、と後にジェイは語った。「それで、目星はついているのかね?」グラスの中に都の夕陽が溶け込む。赤の酒はより橙を取り込み、ジェイの目の色までもきらきらと輝かせ、1つの宝石のようになると、ジェイはまたそれをくいと飲み干す。「…ふっふ、今回は抜かりないの。情報提供者がいるのよ!」「ほう?情報提供?」そう!そうなの!鼻息も荒く、ソフィアはもうすでに席から立ち上がる。「町外れのマイクさんと言う人がね!今日の夜会ってくれるのよ!」「ほう、夜に。」車のクラクションが鳴る、黒猫が一匹道路を横切ったらしい。ジェイが立てかけていたステッキがその拍子に倒れると、がちゃりと音がして、ジェイはソフィアから目を逸らした。倒れたステッキを立てかけ直すと、ジェイは続ける。「少々危険ではないかね?これだけ煌びやかな街で、わざわざ夜に会おうなどと。」「大丈夫よ!心配しないで!これでも私、学生の頃格闘術を習ってたんだから!」そう言い残すとソフィアは、ジェイの注いだワインをすべて飲み干して「ごちそうさま!」期待しててね!と言い残し街の外れへと駆けて行ってしまった。空になったグラスには、陽が落ち、紫色になった黄昏のみが注がれている。ジェイはグラスの縁をかるくなぞると、「…黒、くなりますな。」夕闇が落ちてくる。半刻ほど歩いただろうか?街はずれの森を抜けるとそこには1つの小屋があった。煙突からは黙々と煙があがり、なにか美味しそうなスープのにおいがする。ソフィアは中の様子も伺わず、扉をノックした。「…よう、あんたがソフィアか。」ひどいクマの男性が扉からぬうと顔を出す。その顔には生気がなく、今にも目玉は飛び抜けてしまいそうだった。だが、スクープに躍起なソフィアにはそんなことは関係なかった。「あなたがマイクさんね!情報提供ありがとう!さっそくだけど怪盗の話を聞かせてほしいの!」「…まぁ、まて。まずは、中にはいってくれよ。」手招きされるがまま。ソフィアは小屋の中に入っていった。入る前は気がつかなかったが、この男ひどい死臭がする。特段家の中が汚いわけではない、身なりもきちんとしている。家のいたるところに、獣の毛のようなものが転がっている以外は普通の様子だ。しかし、このにおいはなんだ?「…おなか、すいたろ。スープを…作ったんだ。飲んでいってくれよ…。」上ずった声でマイクが、言う。「…え。遠慮しておくわ。」ここまでついてきた、軽率な自分を恨んだ。ソフィアが言うや否やマイクは振り向きざまにソフィアを襲う。押し倒されたソフィアはそのまま後ろ向きに転倒しわ後頭部を強く打ち付けた。朦朧となる意識のなか、かろうじて見えたのはぎらりと鈍く光る鋭い牙であった。「そこまでにしていただこうか。」ばすん、と大きい音がするとマイクは自分の脇腹が熱くなるのを感じた。血だ。撃たれたのだ。なにに?誰に?おそらくそれは目の前のこの男に。「なんだテメェ!!」「私…?私は…そうだな…。」ひらりとマントを翻すと、その腕の中には気を失ったソフィアがしっかりと抱かれていた。「貴殿の命を貰いに来た、怪盗だよ。」「キ、キサマ…!俺の獲物だぞ!!!置いていけ!!」「残念だがね、この獲物は私のものだ。私は奪う者、奪われるのは心底きらいでね。」「なんだと…!」「さあ、私がお相手しよう。こう見えて学生の頃格闘術を習っていたんだ。」にやりとモノクルの奥が深く笑う。激昂したマイクは、真っ直ぐにジェイに向かってくるが、すぐさま足は縺れ地に手をついていた。「…とは言え…君のことは、もう「盗ませて」頂いた。」ジェイの手には、ぼんやりと赤く光る球体のようなものが収まっている。それは一見宝石のようにも見えるが、あまりにも血に染まったような色をしている。「お、おまえ…っ」マイクの身体が少しずつ崩れてゆく。宵闇に照らされながら、砂のようになってゆく。「ほう、貴殿の異能は…なになに…人狼というのかね?」赤く光りを放つそれを眺めながら、ジェイは不敵に笑う。抱きしめたソフィアが起きぬよう、優しくマントで包み込みながら。「たしかに貴殿の異能、頂戴しましたぞ…さらば!」街はずれの小屋には、スープだけが残された。何事もなかったかのように、都の夜はあけてゆき、人々は忙しそうに朝を迎えた。一切れにしたハムを、パンに挟むとそれを口に頬張る。時折ひとかけのチーズを放り込み、それを市場で一番安いワインで流し込んだ。「ジェイー!!!!」息を切らしながら、今日も麗しくソフィアは大声でジェイの名前を呼んだ。私のいるオープンバルのテラスに駆け寄るとソフィアは、私の飲むワインを奪い取ると勝手に注いではボトルを空にしてゆく。「…怪盗には会えたのかね?」モノクルを拭きながら、ジェイは意地悪そうに言う。「…会えなかった。それどころか、気づいたら家にいたの。私。」「ほう?それは不思議な事もあるものだ。」「でね!なんか、頭がいたいの!」「ベッドの角に頭をぶつけたのではないかね?あのベッドは子供向けだ。いささか君には小さいように思えるよ。」「あら…その赤い宝石、どうしたの?」これかい?と机に置かれた赤い宝石を指差してソフィアは言う。「…私のコレクションのひとつさ。」長く伸ばしたヒゲを指でなぞると、またジェイは、意地悪そうに笑った。「怪盗は、どこにいるんだろ…はぁーあ、また編集長に怒られる。」「案外近くにいるかもしれんよ。そんな事よりソフィア、酒場のマスターのとこに3人目の子供が産まれたそうだ。名付け親を新聞で募集したいと言っていたよ。」目の色を変え。ソフィアはまた私のワインを飲み干すと「よし!仕事だ!」と席をあとにしようとする「あ」「ちょっとジェイ、なんで私のベッドが小さいの知ってるの?」「ふふ…さて、ね」恐らく怪盗にも盗めないものがあるだろう。空になったグラスに写るのはいつもの平和なこの都と、黄色い髪を靡かせる君の姿だった。この都には、君がいる。fin2024.08.27 16:25
シチュエーション【年上のお兄さんが優しく慰めてくれるシチュエーション】【年上のお兄さんが優しく慰めてくれるシチュエーション(恋愛)】おおっ、こんな所でうずくまってどうしたんだよ。風邪ひくぞ?え?なに?泣いてんの?え、泣いてんの?・・・なんかあったのか?お兄さんでいいなら、話、聞くぞ。・・・うん、うん、そっか、そっか、失恋しちゃったんだな。そんなに好きだったんだ?そいつのこと。うん、うん、そっか、そうだよな、大好きだったんだよな。つらいな、それは。うん、いいよ、泣け泣け。いくらでも泣け。ほら、大丈夫、お兄さんしか見てないから。他の誰にも見せないから。ゆっくり、心行くまで泣け。な?よしよし、しんどかったな。ここまでよく我慢したな、えらい。おまえはえらいな。お前がさ、ダメだったんじゃないんだよ。だってさ、お前はどこからどう見ても魅力の塊だぞ?いや、本当。本当だって。だってお兄さんはお前のこと、こーんなに大好きで、かわいいって思ってる。その相手もさ、おまえが嫌いで、ってわけじゃないんだよ。世の中には、いいことも、タイミング次第でよくない結果になってしまったりする。そこがさ、また悔しいんだけど。でもさ、ほんとに、お前はいい女だから。な、大丈夫、今日はお兄さんがずっと一緒にいてやる。大丈夫、よくがんばったな、えらかったよ。お兄さんが今日はたっぷり甘やかしてやる。2024.08.26 16:53
シチュエーション【突如現れるベンガルトラに驚くお姉さんのシチュエーション】【突如現れるベンガルトラに驚くお姉さんのシチュエーション】でさー、加奈子ってばまた同じ事言うのよ。「男なんて星の数ほどいる」って。女だって星の数ほどいるじゃんね?そう思うっしょ?加奈子のああいうところほんっとやばい。無理。ついていけない。恋愛気質っていうの?そんなかんじだよね。・・・え?ちょっと、え?なにあれ。え?え?え?トラ?え?え?トラだよねあれ?え??いや、え?いやいやいや。ここ住宅街だよ?え?いや、トラ?え?トラ?トラとかいる?普通?え、なにあれ、撮影?あ、撮影?撮影か。え?撮影じゃなくない?撮影じゃなくない?絶対撮影じゃなくない?え?なに?え?どっきり?え?撮影じゃなくない?え、なんなの?着ぐるみ?え?トラ?なにトラ?え?あれベンガルトラ?え、ベンガルトラ?本物?うっそ、え?うっそ。やばくない?ねえ、トラ。トラやばくない?え、どうしよ。え、ねえ、え。なんでそんなあんた冷静なの?え?顔に布をかぶせれば襲われない?いやいやいやいや、無理でしょ、普通に考えて無理。5M以内にそもそも近づけない。え?トラ?あれトラ?え、やば。やばくない?え?逃げよ?ほら、逃げよ?逃げようって。え?トラ?撮影?いや、え?いや、加奈子関係ないっしょ。いやいやいや。トラも星の数ほどいる、っていないから。トラ絶滅の危機にも瀕してるから。ベンガルトラとかやばいから。え。あれベンガルトラ?あ、ベンガルトラか。え、やばい。ちょっとよくわかなんない。え、だから加奈子はいいんだって。あ、え?あれ加奈子?うそ、加奈子?いや、それは絶対ちがくない?いや、え、加奈子?トラなの?加奈子ってトラなの?え、違うじゃん。全然違うじゃん。何言ってんの?違うよね、加奈子トラじゃないよね。あ、トラの名前が加奈子?え?いや、ないっしょ、それはないっしょ。トラに加奈子はないっしょ。ベンガルトラだよ?ないっしょ。加奈子はない。ないって。絶対ない。いや、だから、トラだって。ベンガルトラ。どうみてもベンガルトラ。トラだってば。え、トラってなに?トラってトラだよ。トラ。がおーって。え?そうだよね?まってやばいやばいやばい。混乱。混乱してる。トラだよあれは。逃げよう?逃げようって。ほら、はやく逃げようって。逃げよう?いや、加奈子はもういいって。いや、いないから、加奈子ここにいないから。あれはトラだから!ほら!はやく!トラなんだって!撮影じゃないって!トラだって!ほら!はやく!逃げようよ!逃げようよって!逃げようよ!なんで逃げないの!?トラだよ!?ベンガルトラだよ!?逃げなきゃじゃん!だめだよ!もう話おしまい!ほら!はやく!2024.08.26 16:50
シチュエーション【のじゃロリ娘が暗殺者として貴方の前に現れるシチュエーション】【のじゃロリ娘が暗殺者として貴方の前に現れるシチュエーション】ふっ、とまるのじゃ。そこのお前。止まるのじゃ・・・とま、ちょ、とまるのじゃ!とまるのじゃー!!!え、見えてないのじゃ?見えてないのじゃ?身長差なのじゃ?身長差で見えていないのじゃ?いや、目があってる、目があってるのじゃ。止まるのじゃ!!!とま、とまって、え、とまって。とまってください。あ、はい。ありがとうございます。あ、いえ、そんなに時間かからないので。ふっふっふ、おまえ!今日で年貢の納めどきなのじゃ!え?年貢?年貢は払ってない?いや、違うのじゃ、別に年貢を本当に収めてるかどうかは関係ないのじゃ。あ、いや、ちょっとまって、待つのじゃ。まって。え、あ、待って。力つよ。まつのじゃ!まってほしいのじゃ!まって!本当まって!まってって!まって!ほんの少し!ほんの少し待ってくれたらすぐ終わるのじゃ!すぐなのじゃ!全然待たせないのじゃ!ほんとに!ほんとーに!あ、ふう、ありがとうございます。税金、税金でいいのじゃ。税金の納めどきなのじゃ。今までの悪行すべて、私が見ていたのじゃ。依頼主の命により、今からお主を暗殺するのじゃ。え?暗殺ってなにかって?え、殺すってことでしょ?違うのじゃ?え、暗殺になってないのじゃ?どういうことじゃ?え。見つかっちゃいけないの!?うっそ、しらなかったのじゃ!どういうことなのじゃ?でも、でも、いきなり切りかかったら卑怯なのじゃ。卑怯は一番よくないのじゃ。そうじゃろ?そうじゃよな?ほら、間違ってないのじゃ。あいさつは大事なのじゃ。日本人には礼節が必要って教わったのじゃ。それがわびさびじゃろ?そうじゃろ?それでは、おいのちいただくのじゃ!え、あ、ちょっと、まって、え、身長差やばい。届かない。まって、いかないで、いかないでほしいのじゃ!ほんと、ほんとさきっぽブッスー!ってやるだけ!それだけで済むのじゃ!さきっぽだけでいいのじゃ!まって、ま、ちょ、力つよ、つよい。ちょっと、ちょ、まって、ほんと、ほんとむしろもうやめて!それやめて!ぐりぐりすんのやめて!だめなのじゃ!それだめ!だめなのじゃ!あ、ちょ、ちょっとだめ、やめ、ちょ、やめ、やめろって!やめろ!やめるのじゃ!さきっぽだけでいいと言っておるじゃろ!けち!けちんぼ!ばーか!!!!!!2024.08.26 16:49
シチュエーション【からあげにレモンをかけてくるのを拒むお姉さんのシチュエーション】【からあげにレモンをかけてくるのを拒むお姉さんのシチュエーション】うぇーい!おつかれー!かんぱーい!!ごくごくごくごく、ぷっはー!やっぱり仕事終わりにはビールだよねえ!たまんないわー。え?林くんビール苦手なんだ?ぜーんぜんおっけー。いいよいいよ、もう昔みたいに乾杯はビール、とか男はビールをのめ、とかそんなこという人いないし!無礼講無礼講!すきにのも!わたしもこれ飲みおわったらレモンサワーのもうかなー。生絞りもある?あ、ある?おっけおっけ、え?生絞りグレープもあるの?うっわ、それは迷う。それは迷うわー。あ、林くん、からあげにレモンかけるのやめてね。うん。そういうのはね、ちゃんと確認とってからね。うん、あ、全然いいんだよ。うん、全部にはかけないで?そうそう、え?うっそ、ほんと?シークワーサーもあるの?超あついじゃーん!超アツいといえばさ、昨日の谷崎課長の終礼の言葉も激熱だったよねー!なんかこう、入社したてのころ思い出しちゃった、あ、はやしくんレモンかけるのやめて?ね?からあげにレモンぶっかけないで?ちょっと、その右手のレモン置いて?そう、え?だめだよ?確認取ろう?全部にいきなりかけようとしないで?うん、そうそう、ホウレンソウじゃん、こういうのって。こういうのってさ。林君そういうところあるよね、あんまり人に確認とらないし、自分の感覚でやっちゃうというかさ、こう職人気質なのかわからないけど、あ、レモンかけるのやめて?話してる最中におもむろにからあげにレモンかけるのやめて?え?なんで?今かけるタイミングだった?違うよね?かけちゃいけないタイミングだったよね?例えばさ、商談相手がプレゼンし始めた瞬間に「あ、すいません、ちょっとファンタ買ってきます」とかいう?いわないよね?失礼じゃん?さすがにってレモンかけるのやめて?うん、やめてって。置いて?そのレモン置いて?え、何個持ってる?何個持ってるの?レモン。めっちゃ持ってるよね?なにそれ、マイレモン?マイレモン?持ち歩いてるの?普段から?いやいやいやいや、ないよ。そんなに。レモン必要になる瞬間そんなない。あってもからあげにかける時くらいじゃん。あ、そゆこと?だから張り切っちゃった?あー、もうほんと、かわいいやつだなあ。そっかそっか。林君、今回の新入社員の中で一番まじめでがんばってるもんね。うんうん、わかる。若いなー・・・やめて?ねえ、やめて?レモンかけるのやめて?右手と左手にもってブシュー!ってやろうとするのやめて?違うよ?その持ち方は絶対ちがう。やめて?ほんと違う、それは違う。どうして?やめてって言ってるのにどうして?え?わざと?わざと?わざとだ?あ、これわざとだ?そういうどっきり?あー、もうなんだー、ちょっとやめてよー。びっくりしちゃった、そういうやつ?え、みんな知ってたの?やだー!もうほんと、やめてよー。本気にしちゃった!・・・って、だからレモンかけるのやめて?林君?林君?ねえ、林君?ちょっと、その、ロボットみたいな動きやめて?え、怖い。え、林くんだよね?本当に林くんだよね?林くん?ちょっと、聞こえてる?林くん?ちょっと、え、こわいこわいこわいこわい。こわいよ、林くん、目こわい。なんで?なんでそんなにレモン?あ、なんか、あ、こわい。こわい。こわいって。やめて、ほんと、もうやめて。レモンやめて、やめてーーーーー!!!!!!!2024.08.26 16:48
びじっと(0:0:2)【配役】ねこちぇる:ねこのしんぶんきしゃ。りんごにこぶんのたいじゅう。わんすたいん:いぬのしんぷ。さんじゅーはちにんころしたらしい。ーーーーーーーーねこちぇる:はちがつにじゅー……なんにちだっけ?わんすたいん:はちがつ、にじゅー、ごにちだよねこちぇる:そうだった、はちがつ、にじゅー、ごにち。ねこちぇる:くえんてぃん、ちゅうおうけいむしょ、めんかいしつ。わんすたいん:ちゅうおうじゃあないよねこちぇる:え、じゃあどこ、ここ。わんすたいん:みぎがわのほう。ねこちぇる:じゃあ、くえんてぃん、みぎがわのほうの、けいむしょ、めんかいしつ。わんすたいん:そうそうねこちぇる:めんかいを、はじめます。ねこちぇる:ごきげんは、いかがですか、しんぷ。わんすたいん:わるくないよ、でもいけすかないなあねこちぇる:なにがいけすかないの?ねこちぇる:いけすかないってなに?わんすたいん:なんか、やだなーやだなーってことねこちぇる:へー!やだなーやだなーってことなのかー!ねこちぇる:しんぷは、むずかしいことば、しってるなあわんすたいん:へへん、まあねねこちぇる:それで、なにがやだなーやだなーなの?わんすたいん:なまえ、きいてないからねこちぇる:なまえ?わんすたいん:そう、きみの、なまえねこちぇる:ここに、ぼくを、よんだの、きみでしょねこちぇる:ぼくの、なまえ、しってるよねえわんすたいん:しってるけど、ちゃんと、じこしょうかい、してほしいのねこちぇる:じこしょうかい、してほしかったの?わんすたいん:そう、だよねこちぇる:しんぷは、あまえんぼう、だなあわんすたいん:あまえんぼう、じゃ、ないよねこちぇる:あまえんぼう、だよねこちぇる:ねこちぇるはね、ねこちぇる・あいべるくって、いうんだよわんすたいん:ねこちぇる、いい、なまえだねねこちぇる:ありがと、しんぷの、なまえも、かっこいいねねこちぇる:がぶりえる・みゅーじにあ・わんすたいん、だってねこちぇる:ぎょうぎょうしい、なまえだねわんすたいん:よく、いわれますねこちぇる:きょうは、いろいろおはなしが、ききたくてねこちぇる:きたんだけど、いいのかなわんすたいん:いいよ、なにが、ききたいのねこちぇる:わかんない、だって、けっきょくはねこちぇる:ねこちぇるが、きたかった、わけじゃなくてねこちぇる:しんぷが、ねこちぇるを、よんだわけだしわんすたいん:そうだったねこちぇる:しんぷは、どんな、おはなしがしたいの?わんすたいん:しんぷはねえ、はんざいしんりがくとか、まいんどこんとろーるのはなしとか、すきだよねこちぇる:しんぷは、むずかしいはなし、しってるねえわんすたいん:よく、いわれますねこちぇる:しんぷは、なんで、しんぷなの?わんすたいん:あいでんてぃてぃーの、はなし、すきだよわんすたいん:しんぷに、なったから、わたしなのかわんすたいん:わたしだから、しんぷに、なったのかわんすたいん:そこが、むずかしい、ところ、だねねこちぇる:ところで、しんぷって、なんですかわんすたいん:そこから、だったんだねねこちぇる:おなかに、あかちゃん、いるんですか?わんすたいん:それは、にんぷ、だねねこちぇる:けっこん、しないんですか?わんすたいん:それは、しんぷ、だねわんすたいん:あ、しんぷだねそれは、それもしんぷだけど、ちょっとちがうね、そのしんぷとちがうねねこちぇる:あかちゃん、うまれるんですか?わんすたいん:しんぷのあとに、にんぷだから、たしかにあってるけど、ちがうね、ちがうねこちぇる:しんぷは、むずかしいこと、よくしってるなあわんすたいん:よく、いわれますねこちぇる:ろくおんしても、いいですかわんすたいん:もっと、はじめのほうに、いったほうがいいよ、そういうことねこちぇる:ろくおん、しますね、ぽちわんすたいん:できたかなねこちぇる:たぶん、できてます、なにか、はなしてみてくださいわんすたいん:てんぴぼしねこちぇる:なにか、はなしてって、いわれてねこちぇる:てんぴぼしって、はなすひと、はじめてみましたわんすたいん:きもちのいい、たんごが、すきですねこちぇる:ねこちぇるも、すきですわんすたいん:さんじゅー、はちにん、ころしましたねこちぇる:とつぜんの、こくはくに、しんぞうが、はねていますわんすたいん:だつごく、したいですねこちぇる:さんじゅーはちにんは、やりすぎなので、でてこないでくださいわんすたいん:いいえ、でますねこちぇる:でられないと、おもいますわんすたいん:いいえ、でてみますねこちぇる:どうやって、でるんですかわんすたいん:きみは、よるのけいけんが、ないだろうねこちぇる:はなしきいてない、うえに、せくはらは、もう、ゆるされませんよわんすたいん:ゆるされるせくはらと、ゆるされないせくはらの、さかいが、わからないねこちぇる:せくはらは、すべて、ゆるされませんよわんすたいん:だつごく、したいねこちぇる:はなし、きいてくれないわんすたいん:せまいんだもん、ここねこちぇる:どんくらい、せまいのわんすたいん:あじつけのり、さんまいくらいねこちぇる:それはせまいわんすたいん:せめて、あぶらあげくらい、ひろさほしいねこちぇる:あぶらあげでも、せまい、ですよ、しんぷわんすたいん:すばらしいよ、ねこちぇるねこちぇる:なにも、すばらしいことは、してませんわんすたいん:ここからだしてよー!!!ねこちぇる:おおきいこえ、ださないでわんすたいん:わたしはいつでも、だつごくできるねこちぇる:じょうちょ、どうしたのわんすたいん:じょうけんさえ、そろえば、あすにでもねこちぇる:どんな、じょうけん、ですかわんすたいん:まず、ろうやの、かぎを、てにいれますねこちぇる:ふむふむわんすたいん:かんしゅを、ぜんいん、ばいしゅうしますねこちぇる:どうやって、ばいしゅう、しますか、しんぷわんすたいん:ほっとあいますく、わたしますねこちぇる:めが、あたたかい、やつ、だわんすたいん:そして、それを、だれにもしられずに、じっこうして、だれもしらないときに、でていきますねこちぇる:それは、むりですねわんすたいん:なんでねこちぇる:ぼくが、しってしまいましたわんすたいん:!?わんすたいん:なんで!きいてたの!ねこちぇる:ろくおんも、していますわんすたいん:なんで!ろくおんしてるの!ねこちぇる:あきらめようわんすたいん:わたしの、かんぺきな、けいかくがねこちぇる:おばか、なのかなわんすたいん:よく、いわれますねこちぇる:あいって、なんですか、しんぷわんすたいん:きゅうに、むずかしい、はなししないでねこちぇる:おしえてください、しんぷわんすたいん:いいなーいいなーって、おもうこと、じゃないかなあねこちぇる:へー、あいって、すげーわんすたいん:そう、あいって、すごいよー?ねこちぇる:あいって、すごいなあわんすたいん:ねこちぇる……ねこちぇる:ねこちぇるは、あいされたことないから、あいってわかんないわんすたいん:ねこちぇる……わんすたいんも、そうだよねこちぇる:ほんと? しんぷも、おなじ?わんすたいん:おなじおなじ、ちょう、おなじねこちぇる:じゃあ、ふたりはおなじ、ってこと?わんすたいん:ちがうけど、おなじってことに、なるかもしれないねこちぇる:じゃあ、ねこちぇるがしんぷで、しんぷがねこちぇるだねわんすたいん:それって、なんか、すごくすごく、あいじゃない!?ねこちぇる:それってなんか、すごくすごく、あいっぽいかも!!!わんすたいん:じゃあ、あいってことだよね!ねこちぇる:これが、あいかー!わんすたいん:でも、わんすたいん、38にんもころしちゃったねこちぇる:ごめんなさい、した?わんすたいん:ごめんなさいしても、だめなんだよ?ねこちぇる:そうなの?ゆるしてもらえないの?わんすたいん:ゆるしてもらえない、だめなやつねこちぇる:だめなやつなのかあ、じゃあ、どうするの?しんぷは、どうなるの?わんすたいん:しょくざいをしないといけないかもねこちぇる:たべものになるの?わんすたいん:そのしょくざいじゃないの、あやまってつみをつぐなうことだよねこちぇる:へー、しんぷはむずかしいことしってるなあわんすたいん:まあね、しんぷだからねねこちぇる:しょくざいおわったら、だつごくできる?わんすたいん:できないよ、しょくざいはおわらないもんねこちぇる:おわらないの!?わんすたいん:そう、おわらないよわんすたいん:おわらないことがわんすたいん:しょくざいなんだからねこちぇる:じゃあ、どうやってだつごくするの?わんすたいん:かんたんなことだよわんすたいん:もう、だつごくしてるねこちぇる:どういうこと?わんすたいん:ねこちぇると、わんすたいんは、おんなじでしょ?ねこちぇる:おんなじじゃないよ、ねこちぇるはねこだし、わんすたいんは、いぬだよわんすたいん:えっとそうじゃなくてねこちぇる:そうじゃないの?わんすたいん:ねこちぇると、わんすたいんの、きもちはおなじでしょ?だから、わんすたいんはねこちぇるとおなじだから、わんすたいんはこころでだつごくしてるというかねこちぇる:ねこちぇるはだつごくしたくないよ?つかまってないもんわんすたいん:そうじゃなくてねねこちぇる:え、ねこちぇるつかまってるの?わんすたいん:つかまってないねこちぇる:じゃあちがうじゃん!おなじじゃないじゃん!わんすたいん:つったわらないなあねこちぇる:むっずかしいなあわんすたいん:この世界軸では流石に無理があるか。ねこちぇる:しんぷ?わんすたいん:こういう世界線があっても、いいと思うよ、私はね。ねこちぇる:なんか、ふんいきがちがくて、よくわからないよ、しんぷ。わんすたいん:なんでも、ないよーわんすたいん:またあそぼーね、ねこちぇるねこちぇる:うん!つぎは、だつごく、できるといーね!2024.08.25 12:38
朗読詩「クマーシュペック」愛の緊急事態だと思った。それは、今まで私を司っていたものが愛と呼ばれるものであったと仮定した場合。その全ての危機的状況なのだと思っていた。なんなら今でも、そう思いたいのかもしれない。嵐のように過ぎた日々も、溶けながら流れ落ちた日々も、その全てを脅かされるような。そんな危機的状況であったと、思いたかったし、思っている。アイスコーヒーを淹れるには、大量の氷が必要で。私の冷凍庫にはその為の氷がいつも満杯だった。朝は決まって、アイスコーヒーだったし昼も決まってアイスコーヒーだった。湯を注ぐ度にパキパキと割れる氷は、私とあなたの関係そのもののようで。きっと私とあなただけじゃなく、すべての人間という人間がそうして互いの温度を冷ましながら、氷を割り進みながら、好きになったり嫌いになったりを繰り返すのだ。それって、なんだかとても痛々しくてそれって、なんだかとても愛情深くてそれって、なんだか、後戻り出来ないんだなってため息をついた。きっと、きっとこの愛はいつか、愛では無かったんだよってどこかの哲学者の言葉を借りながら納得させるのだ。それは何かの映画の一言かもしれないし、それは、誰かの心無い一言かもしれない。街のポスターの文言かもしれないし、ふと見上げた空の色が紫色に見えたとか、雲の形が変だったとか、爪がささくれてるとか、そんな事なのかも知れない。それでも、その時に、私は。愛があってよかったと思えるだろうか。それでも、その時に、私は。これで良かったと思えるだろうか。昨日観た映画が面白かったと、ふと話そうとしてしまった時の焦りや悲しい出来事があった時の、涙の流し方あなたの住む街の気温が高くて、熱中症に気をつけなきゃいけないことなんて何もかもが全て私の危機的状況でも無くなってしまってそれを、私は、その時に、もうそれでよかったと言えるだろうか。それって、なんだかとても痛々しくてそれって、なんだかとても愛情深くてそれって、なんだか、後戻り出来ないんだなってため息をついた。ガラスが割れたような音を出しながら、氷は砕けていく。南極を進む時の砕氷機を眺める、未開拓の地への憧れや、わくわく、ドキドキみたいな、そんな気持ちで居られたらよかったのかもしれない。でもそんな事は無いんだ。それが、愛が消えていくということなんだから。そもそもそれが愛であったのかどうかも、もう今じゃ分からない。でも、私は確かにこれを愛だと思いたかったのだ。だから、そうして、その時を迎えて私はそれを愛だとして、それって、なんだか、後戻り出来ないんだなってため息をついた。クマーシュペックの朝を迎える。話したことなかったけど、それは私にとってあなたの次に大切なことだったんだ。カリカリに焼いて、重ねたベーコンをアイスコーヒーと一緒に流し込む。ゆっくりと沈んでいく、私の一部になっていく。悲しいベーコンの話だ。普通じゃないと揶揄された私の人生を、全てそのベーコンに乗せる。普通って何なんだろう。私、そんなに可笑しいモノになっていたのかな。わからないな、多分、いつまでもわからないんだ。クマーシュペックの朝を迎える。話したことなかったけど、それは私にとってあなたの次に大切なことだったんだ。あなたの次に、大切なことだったんだ。愛の緊急事態だと思った。それは、今まで私を司っていたものが愛と呼ばれるものであったと仮定した場合。その全ての危機的状況なのだと思っていた。もう、何も飲み込めないよ。多分、そうやって、アイスコーヒーとベーコンを嫌いになっていくんだ。それって、なんだか、後戻り出来ないんだなってため息をついた。2024.08.03 09:03