朗読詩『宇宙鯨の捨て方』喪ったものの数のかぞえかただけ、上手くなっていく日々だ。爪弾き、転がったそれらを指折り数えては、失せ物に涙することを人生と呼び始めた。何をどれだけの数、どんな形で、どれほどの価値があったのか。どんな色で、どんな形で、それを得る為に何を払ったのか。それを繰り返し、かぞえることだけ、うまくなっていく。「目に見えないものすらも、自分のものであるかのように錯覚していたんだね、アーチヒェン。」いつかの、消えたはずの幻は僕に語りかける。そこには、プレイリストから消したはずの愛の歌が流れていて。かつて、酷く愛したあの人からの言葉すら思い出すかのようで。それは、ほんの少し、煩わしいとさえ思った。「いい加減、消えてくれないか、パンディロラム。」「いい加減、忘れさせてくれないか、パンディロラム。」憂鬱な夜につけた名前を、僕は何度も呼ぶ。呼び続ける。喪って、捨て去って、自分の物ではなくなったそれらすべてを本当は愛したかったのに、本当はいつまでも、愛したかったのに。その手で握るのが痛くなった、だから、捨てたのだとごまかして。「自分の手に在る物なんて、そんなもの存在しないんだよ。アーチヒェン。」「握れば握っただけ、その手の砂は流れていく。」「置くだけなのさ、ようは共にあるということ。」「自分の物になるものなんて、自分以外に有り得ないのだから。」ぷかぷかと浮かぶ、いつかの星座の形をもう思い出せない。文字を綴るその背中と、機嫌の良いときに聞こえてくる鼻歌が好きだった。うまく出来たと言って、少しこげたクッキーを口にねじ込む強引さが好きだった。夜眠るときの、腕に残る重みが好きだった。失い続けて、からっぽになったと思ったこの気持ちは、ただのわがままなんだ。「わかってはいるんだよ、パンディロラム。」「僕の物になることなんて、何一つない。そこには、何もない。」「きっとこれは、大きな我が儘で、きっとこれは、愚かな妄想で。」「でも、でもどうしたって。」温もりを手にしていた。し続けていたい。握り返せば、微笑んでくれる夜が欲しい。抱き寄せては、溶けてしまいそうになる、熱くほどけるような言葉が欲しい。僕だけの、僕だけの星空を願ってしまう。僕にしか解明できない、未知の宇宙が欲しい。誰も見たことのないような、特別で、特別な、愛の集合体を。まるで実験を重ねるみたいに、この机の上に拡げていたい。拡げ続けていたい。そして、その机に突っ伏しながらこの愛はここにあるのだと安堵を吐きこぼして、そのまま眠りにつきたい。そうやって、そうやって、この夜を越えたい。越えてしまいたい。「そう願うのが、悪い事なのかな、パンディロラム。」見上げる度に、その遠さに頭が痛くなるほどの絶望がそこにある。届きはしない。その速度にも、その高さにも、届きはしない。きっとこの感情は、この思いは、この寂しさは、「宇宙くじら」と何ら変わりない、あって存在しないもの、なくて存在するもので。有る事を確かめる度に、無い事を認める度に。大きく、巨大で、推し測れないほどの空蝉(うつせみ)が、そこにあって、そこにないのだ。「そこにあったから、愛は痛むし、そこには無いから、愛はいつだってどこにでもある。」パンディロラムの消え入りそうな声が、何度もこの部屋に響いている。形を成さず、見えないそれが、欲しくて欲しくてたまらないのだ。僕たちは、そんな目に見えないものを、見える形で欲しくなってしまう。「自分の手に在る物なんて、そんなもの存在しないんだよ。アーチヒェン。」「握れば握っただけ、その手の砂は流れていく。」「置くだけなのさ、ようは共にあるということ。」「自分の物になるものなんて、自分以外に有り得ないのだから。」じゃあ、このからだは、この気持ちは、この心は、この苦しさも、この悲しさも。すべてが、僕のものなのだとしたら。どうやって、この苦しさを失くしていけばいいのか。「わからないよ、パンディロラム。」「どうやって、この宇宙くじらを捨てていけばいいのか。」「何を拾い集めていけばいいのか。」淡く、彗星のしっぽのように消え入りそうなパンディロラムは、常夜灯の明るさに溶けてしまいそうだ。棄てる事も、拾う事も、なんて難しいんだろう。何かを手にしたことなんて、きっと本当は無いのに。真空の中を泳いでは、クロールした。星屑も、やわらかな砂も、きっとどうだっていいんだ本当は。浮かんでいる、数々の言葉の上に浮かんでいる。いつか、それが分かる日がくるのか。ずっと考え続ける日々だ。そうやって、そうやって。また、喪ったものの数のかぞえかただけ、上手くなっていく。2025.04.22 06:43
本当に3分で帰るとは思わないじゃん(0:2:0)【配役】◆ファイトピンク: 合コンに誘った方。3分間巨大化系ヒーローとの合コンを設定したはいいが・・・ こう見えて軍事マニア。現実主義。合理的。◆マジョリージョ: 合コンに誘われた方。3分間巨大化系ヒーローとの合コンを楽しみにしていたが・・・ 脱!オタサーの姫。最近アクシーズファムで服を買うのをやめた。2025.04.20 20:06
ミッドナイトにまた逢おう(0:2:1)【配役】夏海:真淵 夏海(まぶち なつみ) 鹿骨町を離れ、離島で小学校の教師をしている。 女性。朱里:落合 朱里(おちあい あかり) 鹿骨町でバレエスクールのコーチをしている。 女性。DJ:ミッドナイトウィスパーのパーソナリティ。 性別不問。2025.04.18 12:28
「臍帯とカフェイン」方針変更のお知らせいつも台本/イラスト/シチュエーション掲載サイト「臍帯とカフェイン」をご利用いただきまことにありがとうございます。令和7年4月1日という日付を持ちまして、今後の「臍帯とカフェイン」の新しい方針に関して皆さまにご報告があり、筆を取らせて頂きました。ボイコネという声劇配信アプリが始まってから私、「にょすけ」の声劇シナリオライターとしての人生ははじまりました。月日にして、約5年。短いと言うべきなのか、長いと言うべきなのか。私の創作継続年数の中では、全力で取り組めた5年間である事は間違いないと感じております。それもすべて、キャストの皆々様、読者の皆々様。そして、何より「にょすけ」というクリエイターを推して頂いてるファンの皆様の力のおかげです。楽しかった。この5年間。本当に楽しかったです。その為、このような決断をするのが大変心苦しく思います。ですが、これも節目の時。いつまでも過去に縛られてはいけないと、そう思いました。以下、今後の「臍帯とカフェイン」新運営方針に関してを説明させて頂きます。2025.03.31 22:11
沖田メンタるクリニック ラグナロク編(0:0:2)【配役】◆沖田:うだつの上がらない精神科医。実に数年ぶりの出番でもはやどんなキャラだったか自分でもよくわからなくなっている。◆ゼウス:全知全能の神、ゼウス。のじゃろりでもいいし、おじいちゃんでもいい。何故ならゼウスとは全知全能だから。全知全能すぎてなんでもできるから。なんにでもなることができてしまうから。そうすべてはえっちのためなら。2025.03.31 15:00
朗読詩「オノマトピア」ざわわと、海が鳴る事は地球が三回転半しても難しいことだろうけれどすきだと、僕が声を出すことは地球が三回転半するまでに何万回言えることか。ぱたりと、本が倒れることは風のいたずらだったりするだろうけどばったり、君と出会うことは神様だのそんな類のいたずらなんかじゃなくて僕がそう、願っていたからだと信じたい。もっと、君にすきだって言えばよかったのにな今、しゅびびんと駅へ向かう。2025.03.19 07:32
朗読詩「山田くんの」山田くん家の猫は、いつも くーすか寝ている。山田くんが帰ってくる タイミングが彼には お見通しらしくて山田くんが帰ってくる十分前になるとごはん (ほら、あのカリカリしたやつ) の前で一回だけ、「みゃあ」と 鳴く山田くんが帰ってきた後にはいつもの ひざの上でごろごろと 喉を鳴らしながら二回ほど、「みゃあ」と 鳴く一度だけ 家出をしたことがあるらしいけれど山田くんが 名前を呼ぶとどこからともなく 甘えた声で一回だけ、「みゃあ」と鳴いたらしい三回鳴く姿を 誰もみたことがないのだけれど山田くんいわく「乙女にしか、わからない」とのことなのだが乙女の私でも わからないのだなあ、みーちゃんきみ、私のこときらいなのかい?「みゃあ。」2025.03.19 07:29
朗読詩「白昼夢」流れてしまつた雲を追いかけて防波堤を越えた、二人だけの流星を掴み散りばめたあとの笑顔を見ましたらそれはもう、美しいとしかいい様のないほどにふたりの時間は流れていつたのでした。ぎいこぎいこと鳴くペダルを漕いで悠久の海を渡つてゆきますアスハルトの熱さに嫌気がさしたふたり逃げ出したのです蒼空は笑つているように思えましたふたりは、笑つています今までの些細な悪戯を数えながらペダルを漕ぐ足は速さを増し(とまつてしまう事は、優しさの延長であるかのように)今までの些細な悪戯を数えながらペダルを漕ぐ足は速さを増すのですあなたは、きようの事を話しながら制服のぼたんを外してゆき(手を振つているひとが見えます)(くやんとした顔をハンケチで拭い)(ふたりに手を振つているのです)今わたしも第一ぼたんに手をかけ制服を脱ごうとしていますあなたはそれを笑つてまたペダルを勢いよく漕いでいつたのです軌跡を儚げに残しながら。(とまつてしまう事は、優しさの延長であるかのように)2025.03.19 07:24
朗読詩「ゲル状」昨日までやわらかかった祖母の手には取り返しのつかない岩石が生えてしまった気味悪がる僕をよそにつうんとした口調でおこづかいをあげるなんて言い出したから僕は* *人間らしい動きをする人間が野菜らしい彩りの野菜を手に取り動物的にそれをくちに運ぶフロアではラルクアンシエルが流れている動物的にそれをくちに運ぶ* * *さざ波のような人だと貴方は言った数え切れないほどあたしを抱いたあとにマルボロを焚きながら言った言い放ってしまったあとまたあたしを抱いたひげが少し痛い。* * * *十八歳の夏に大抵の蝉は恋に落ちる落ちた後はダンプカーに轢かれるまたそれを繰り返すがやめる気はさらさら無い* * * あなたはまたあたしを抱いた五年遡った手紙と一緒にあたしを抱いた文字が淫乱に泳ぎ始めてあたしはまた鳩のように鳴いた落ちたわけじゃない動物的にそれをくちに運ぶ。* *後ろから突かれるたびに背中には灼熱が産まれてそれが少しずつ私を溶かし残った私は貴方のことばかり想っていた想わずには居られなかった。* **からっぽに、からっぽを注ぐとからっぽなの?*それは貰えないと断りながらも僕の目は岩石が持つその札束に目が眩んだしかしその後岩石から暖かい液体が流れている事に気づき僕は口を塞ぐ* * *あなたにまだ知っていて欲しいことがあったのあたしとてもとても人間だったのよって事。*ぬめりとした其れはかつての祖母の抜け殻を脱して今まさににんげんになろうとしている*明日には、脚が生えて世界中の写真を撮るのだとあぶくを出している。2025.03.19 07:23
朗読詩「雷雨」横たわれライオンお前は長く走りすぎた渇ききれないお前が瞳に写すのは限りない緑と求めていたはずの青だろうなあ 次第に灰色になるお前を私は少しだけ強く覆うよまだ腐らないお前を、 横たわれライオンお前は長く走りすぎた吠えたあとのあのびりびりとした振動はまだお前の周りにある渇ききれないお前の為に私は涙を流そうお前に強く打ち付けよう 横たわれライオンお前は最後まで走りすぎた2025.03.19 07:21
朗読詩「はじめへ」なあ、はじめ。知ってるか。お前がずいぶん毛嫌いしている、チンピラの田口は将来お前なんかより良い父親になるんだそれはもう驚くほど家族思いの良い父親だだが相変わらずお前は彼と馴染めないなぜって、お前の嫉妬心に屈するほどやつは弱くないしお前もお前で、実は案外どうでもいいからだ。なあ、はじめ。知ってるか。お前が大好きだったあのバンドは、メンバーの覚醒剤所持でもう解散したよ相変わらず良い歌だけど。なあ、はじめ。知ってるか。お前の住んでいたあの下町は、ついに開発が進んであのやたら開かない踏切も今じゃコンクリの高架下だもう二度と開くことはないってさ町はすっかり綺麗になって老人や障害者が住みやすい良い町になったよでももう赤い電車は見えない見えないんだ。なあ、はじめ。知ってるか。お前が付き合ってるその、香水のきつい女だがお前が仕事を首になった翌日に通帳と印鑑を持って逃げるぞそのあとお前は近所のジョナサンでしばらく途方に暮れるがそこの今、コップを盛大に割った女を忘れるなそいつが将来のお前の嫁だ。なあ、はじめ。知ってるか。専門を中退してからも、良くしてくれたゆきちゃんを覚えてるかいますぐ彼女にお前の精一杯を捧げろお前ができるすべてをしろ二○○九年の夏に本当に唐突にしんでしまうからそして、お前は彼女の通夜にいけなかったことをしぬまで後悔することになるコールドプレイなんて聴くたびになみだがとまらなくなるんだ。なあ、はじめ。知ってるか。お前の柿アレルギーは一生治らないだからお前はもう二度と柿を口にすることはないだからたまには婆ちゃんに顔を見せてやれお前がまだ柿が好きだと思って毎年送ってくれてたのにもう今じゃお前の事なんて一ミリも覚えちゃいないんだから。なあ、はじめ。知ってるか。そのホームでは年間三十人が飛び降り自殺をするそうだそのたびにそのホームでは不吉な噂が流れる死にたがりが集まる呪いのホームだってでももしお前がその目の前の学生服の肩を掴めたらそんな嫌な噂が一つだけ減るんだまあただそれだけのことだが。なあ、はじめ。知ってるか。年金はきちんと払わないといけないんだ。なあ、はじめ。知ってるか。赤ん坊は案外グロテスクに生まれるだがグロテスクなだけにお前はその光景を絶対に忘れない血のにおいと消毒液のにおいに何度か吐きそうになるがそこは踏ん張れ彼女がお前の名前をよんだときお前はなみだがとまらなくなる。なあ、はじめ。知ってるか。お前が好きだった漫画は実は未だに完結していない驚くくらい長くなりすぎてもう主人公が三回も変わってる。なあ、はじめ。お前の居るその場所が俺のすべてだと言ったらお前は笑うだろうか。なあ、はじめ。いつかは必ず世界を旅しろはじめての給料で買ったその一眼レフを首からさげて必ず世界を旅しろその時お前はパレスチナの内戦に巻き込まれてしぬがお前のしがパレスチナの何億というにんげんを救うそうだただ、お前の家族は誰ひとり救われないずっとその国を恨んで生きることになるやっと歩けるようになる子供はもうお前の顔を思い出せなくなるだがお前は必ず世界を旅しろ必ずだ。なあ、はじめ。知ってるか。お前は生まれてきて良かったんだそうだ。2025.03.19 07:20
朗読詩「海獣」昨日だってそうだった。大して金にもならない仕事で、ただ毎日を削っていた。どう削ってみても、まるで僕から出てくるフケみたいに細々と卑しく落ちてゆくだけできっと何も感じちゃいないポラロイドカメラを自分に向けて切ってみたってきっと僕だけはそこに写らないんじゃないかなんて考えてみたりもしてそこからゆっくりと、僕は夜の部屋に溶けてゆくのだから。*波の音を聞いていた記憶をいくら思い返してもそのどこからどこまでが胎動だったのかなんて思い出すことも出来ないし、思い返そうとも思わないセックスの最中に僕の性器からにおう潮の香りはいつだって偽者なのだからどうしようもなかったその後にはなんとなく煙草を火をつけて紫煙を燻らせながら横目でバスルウムを見るそこに海はない。* *昨日だってそうだった。切れ掛かった蛍光灯を取り替えぬままに。ここ三日は陽の目を見ていないタオルケットに包まるだけでもうそこに清潔さも爽快さもましてや暖かさもないそのまま水母になったようなイメエジのままで緩やかに憂鬱を漂うことだけが救いのように感じたそこに海がない、ただそれだけの理由でなんだって憂鬱だった冷蔵庫を開ければコントレックスしか無いそこに海がない、ただそれだけの理由だった。海獣になりたい2025.03.19 07:19