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臍帯とカフェイン

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Vのころしかた(0:0:2)

【配役】

カミムラ:性別不問 職業 看護師

暗示ェイル:性別不問 職業 イラストレーター


※このお話はVライバー、Vチューバーに攻撃をするものではなりません。

※このお話は人が不快に思う可能性があるお話です。



LOG//▼カミムラさんが作業通話にログインしました。


カミムラ:ふー、おつかれ。


暗示ェイル:おお、おつかれ。

暗示ェイル:今日は早かったね。


カミムラ:あー、うん、早退してきちゃった。


暗示ェイル:そうなんだ。


カミムラ:うん、あれからどう?


暗示ェイル:全然。コメント欄はなんか雑談してる人もいるし

暗示ェイル:いつもと変わらないと言えば変わらないかんじ。


カミムラ:なるほどねえ。


暗示ェイル:でも、時々布のこすれる音がするって言い始める奴とか

暗示ェイル:住所の特定したとか言い出す奴がいて、それで盛り上がったりしてるかな。


カミムラ:ふーん。で。暗示ェイルは一日何してたの?


暗示ェイル:特に何も。なんとなくたまにコメントを覗いては、本を読んだり、ご飯食べたり。


カミムラ:そっちもいつも通りかー。


暗示ェイル:まあ、そんなものでしょ。


カミムラ:本当に、「まりあん」様、死んだのかな、これ。


暗示ェイル:どうだろうね。

暗示ェイル:今日一日ずっと、まりあん様のアバターは笑顔で固まったまま動いてないよ。


カミムラ:登録者ようやく100人になったのにな。


暗示ェイル:一年で100人だよ。


カミムラ:そう、一年で100人。


暗示ェイル:ようやくって言葉は合わないような気がする。


カミムラ:ようやく、だろ。


暗示ェイル:それはそうなんだけどさ。


カミムラ:4ちゃんねるとかで話題になってたりするかな。


暗示ェイル:多分してない。


カミムラ:なんで?


暗示ェイル:してたらもっとコメント欄あれてるよ。

暗示ェイル:多分同接20人居ないよこれ。


カミムラ:世知辛いなあ。


暗示ェイル:うん、世知辛いよね。


カミムラ:死んでるのかなー、羽八多喜まりあん。(はばたきまりあん)


暗示ェイル:死んで「いってる」っていうのが正しいかもしれないよ。


カミムラ:動かなくなって何日だっけ?


暗示ェイル:今日で二日目。


カミムラ:二日かあ。長いのかな、短いのかな。


暗示ェイル:どうなんだろね、あ、またコメント欄動いてるよ。


カミムラ:どれどれ。

カミムラ:・・・ははは、無責任な奴らばっか。


暗示ェイル:僕らも人のこと言えないけどね。


カミムラ:ま、そりゃそうだ。あれ、こいついつも高額の投げ銭してたやつじゃなかった?


暗示ェイル:あー・・・「やんちゃBOY」ね、毎回5万くらい投げてたよね。


カミムラ:ガチ恋勢ってやつ?


暗示ェイル:そうかもね。


カミムラ:あ、投げた。


暗示ェイル:え?


カミムラ:こいつ、この状況でまた5万投げたぞ。


暗示ェイル:・・・「まりあんたん、君は本当に僕の天使になったんだ」だってさ。


カミムラ:きっつー。この状況でそれはきっついわ。


暗示ェイル:特にほかの視聴者はなんも言ってないね。


カミムラ:・・・本当に、死んだのかな。


暗示ェイル:・・・通報する?


カミムラ:まさか。


暗示ェイル:だよね。


カミムラ:うん。これが俺たちの「リバーズエッジ」だろ。


暗示ェイル:そうだね。


カミムラ:死んでてもらわなきゃ、まりあん様には、ずっと。

カミムラ:動かないアバター、聞こえないスピーカー、動き続ける配信時間とコメント。

カミムラ:ただ眺めてるだけで、自分たちは生きてるって事が実感できる。


暗示ェイル:・・・そんな風に思ってたんだ、カミムラは。


カミムラ:暗示ェイルは?


暗示ェイル:・・・ちょっと違うかな。


カミムラ:じゃあどんなん?


暗示ェイル:ざまぁみろ、って思ってるかな。


カミムラ:ざまぁみろ?


暗示ェイル:うん。

暗示ェイル:「ピュグマリオーン」って知ってる?


カミムラ:いや、わかんない。猿?


暗示ェイル:それはピグミーマーモセットでしょ。


カミムラ:じゃあ本当にわかんない。


暗示ェイル:「ピュグマリオーンとガラテア」って話があってさ。

暗示ェイル:自分が彫刻で作った女性に恋をする話なんだよ。


カミムラ:へえ。


暗示ェイル:その彫刻の女性がさ、段々と裸で居ることを恥じているんじゃないか、って

暗示ェイル:服を彫ってあげたりして、必要なものを与えて

暗示ェイル:純愛としてその心を育んでいってさ


カミムラ:うん。


暗示ェイル:最後、女神様がその彫刻を本物の動く女性にしてあげるって話。


カミムラ:いい話じゃん。


暗示ェイル:どこが。


カミムラ:純愛ってやつだろ、流行ってんじゃん。失礼だな、純愛だろ。って。


暗示ェイル:彫刻は彫刻だよ。


カミムラ:ん?


暗示ェイル:彫刻以上でも、以下でもない。

暗示ェイル:でも、別に彼の純愛も、純愛以上でも以下でもない。


カミムラ:んん?


暗示ェイル:そのままでよかったはずなんだよ。


カミムラ:そのまま?


暗示ェイル:彫刻の女性は、彫刻の女性のままでいるべきだったんだ。


カミムラ:あ、ちょっとまって。


暗示ェイル:なに?


カミムラ:なんか聞こえなかった?


暗示ェイル:聞こえてないよ。


カミムラ:まじ?あれ?気のせい?


暗示ェイル:コメント欄見てみなよ。


カミムラ:・・・誰も反応なしだ。


暗示ェイル:ほらね。


カミムラ:ごめん、遮っちゃった。


暗示ェイル:いいよ。


カミムラ:で、なんだったっけ。


暗示ェイル:・・・彫刻の女は本当に愛されたかったのか?


カミムラ:ふむ。


暗示ェイル:だって元々はただの大きな大理石の塊だったんだ。

暗示ェイル:そんな石の塊が、女性の形をしていたからって

暗示ェイル:本当にその純愛を受け入れてたんだろうか。


カミムラ:ねえ。


暗示ェイル:そんなこと、おこがましいと思うでしょ?


カミムラ:いやさ。


暗示ェイル:なに?


カミムラ:何の話?それ。


暗示ェイル:・・・だから、ざまぁみろって。


カミムラ:ざまぁみろなんだ。


暗示ェイル:そう。ざまぁみろ。ピュグマリオーンの話とおなじだから。


カミムラ:難しいことをよくわからない感じで話すよなあ、暗示ェイルは。


暗示ェイル:そんなことないよ。簡単だよ。


カミムラ:自分にはよくわからないよ。


暗示ェイル:・・・だってさ、まりあん様のこと、誰も何も知らないんだよ。

暗示ェイル:たまたまインターネットで繋がって、たまたま声がかわいくて

暗示ェイル:たまたま好きだなぁと思って、たまたま全然人気がでなくて

暗示ェイル:たまたま飲酒とオーバードーズが重なって

暗示ェイル:たまたま死んだだけの、「画面での出来事」に過ぎないのに

暗示ェイル:この今、芽生えてる気持ちだけは本物なんだもの。


カミムラ:まりあん様だって本物だろ。


暗示ェイル:本物じゃないよ。


カミムラ:本物だよ、だから、落ち着くんじゃ無いか。

カミムラ:本物の「死体」が、今できあがっていってるんだよ。

カミムラ:自分たちの手の届かないところに、

カミムラ:でも、誰にも手の届かないところに。

カミムラ:自分たちだけじゃない、この、コメント欄にいるやつらもそう。

カミムラ:全員が好きに思いを馳せる事ができる、

カミムラ:自分達だけの「死体」が今、できあがっていってる。


暗示ェイル:イかれてるよ。


カミムラ:全員だろ、それは。

カミムラ:配信が動かなくなって二日。

カミムラ:わかってて、誰も通報してない。

カミムラ:プロバイダーにも、この配信サイトの大本にも。

カミムラ:このまままりあん様がどう朽ちていくのか、全員が見守ってる。

カミムラ:それは、自分も、お前も、併せて全員そうだ。


暗示ェイル:・・・死んでるのかな、やっぱ。


カミムラ:死んでるよ、きっと。

カミムラ:死んで「いってる」。


暗示ェイル:捕まるのかな、僕ら。


カミムラ:どうだろうな、でも、何もしてないよ。


暗示ェイル:それはそうだけど。


カミムラ:何もしてない。してないし、できないだろ。


暗示ェイル:出来ないこと、ないでしょ。


カミムラ:出来るのか?


暗示ェイル:・・・。


カミムラ:したくないだろ?


暗示ェイル:・・・。


カミムラ:出来ないって事にしておけよ。


暗示ェイル:・・・まりあん様ってさ。


カミムラ:うん?


暗示ェイル:雑談、下手だったよね。


カミムラ:そうだな。


暗示ェイル:下手だし、アンチみたいなのは積極的に煽るし。


カミムラ:いつも負けてたけどな。


暗示ェイル:五月蠅かったよね、正直。


カミムラ:そうだな。


暗示ェイル:今、動かなくてさ、何も喋らないこのまりあん様はさ。


カミムラ:うん。


暗示ェイル:今までで一番、好きかもしれない。


カミムラ:ひどいやつ。


暗示ェイル:そうかもしれない。


カミムラ:才能は無かったよな。


暗示ェイル:こうあることが、完成形であった可能性だってあるのかも。


カミムラ:勝手だな。


暗示ェイル:勝手だよ。


カミムラ:気持ち悪いやつ。


暗示ェイル:でも、みんなだってそうでしょ。


カミムラ:そうかな。


暗示ェイル:そうだよ、勝手に中身を想像して、勝手に人生を想像して

暗示ェイル:かわいそうだと思ったり、かわいいと思ったり、はたまた何も思わなかったり。

暗示ェイル:この100人の登録者は、いったいまりあん様に何を思って、登録ボタンを押したのさ。


カミムラ:そうな。


暗示ェイル:そうでしょ?

暗示ェイル:みんな勝手に考えてる。

暗示ェイル:勝手に純愛して、勝手に偏愛して、勝手に性愛してる。


カミムラ:その話って落ちある?


暗示ェイル:ないよ。


カミムラ:だよね。


カミムラ:あ、また投げ銭。


暗示ェイル:よくやるね、この人も。


カミムラ:死んでたら意味のない投げ銭なのにね。


暗示ェイル:まりあん様に意味はなくても、彼にはあるんだよ。

暗示ェイル:もはや、彼こそがピュグマリオーンそのもののような気さえしてくる。


カミムラ:純愛って、何が「純」なの?


暗示ェイル:え?


カミムラ:いや、なんかさ、ふと思っただけなんだけど。

カミムラ:純愛ってなんなん?


暗示ェイル:純愛とは、ひたすらな愛情、純粋な愛。


カミムラ:ぐぐっただろ。


暗示ェイル:まあ、一応。


カミムラ:これって純粋なん?


暗示ェイル:なんで?


カミムラ:死んでる可能性がある相手に、金なげつけてんだぜ。


暗示ェイル:うん。


カミムラ:死んだ顔に顔面射精してるのと何が違うんだ?


暗示ェイル:違うだろ、なんだよその例え。


カミムラ:いや、一方的って意味で同じだろ。

カミムラ:そもそもその女神はそのピュグマリオーンってやつが石にひたむきに愛を注いだことを

カミムラ:純愛と認めたって言うけど、じゃあそのひたむきさって本当に「純粋」なのかって話。


暗示ェイル:・・・。


カミムラ:だってそうだろ、そんなのただの一方的な愛だ。


暗示ェイル:・・・。


カミムラ:あれ?あ、それが、「ざまあみろ」ってこと?


暗示ェイル:まあ、そこからってかんじ。


カミムラ:あ、そーいうこと。はー、そーいうことか。


暗示ェイル:ねえ。


カミムラ:ん?


暗示ェイル:なんで、まりあん様のチャンネル登録したの?


カミムラ:伸びなさそうだったから。


暗示ェイル:やっぱり?


カミムラ:うん。


暗示ェイル:そうだよね。


カミムラ:この話って落ちがあるんかね。


暗示ェイル:ないよ、ずっと、ないと思う。


カミムラ:そうだよな、じゃあ、ずっと、死体で居てもらえばいい。


暗示ェイル:そうだね。それがいいよ、例えどんな事を想っていようと。

暗示ェイル:今、まりあん様はそれ以上でも以下でもない。

暗示ェイル:「彫像の女」なんだから。


カミムラ:・・・いま、アバター動かなかった?


暗示ェイル:気のせいだよ。


カミムラ:そっか、気のせいか。


暗示ェイル:そうだよ、彫像の女が、動くわけないんだから。




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