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臍帯とカフェイン

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モーフィウス卿 第三幕 最終章 フォルタルセーゼの城にて。

【配役】

語り部:性別不問

町人(A):性別不問 兼役推奨

町人(B):性別不問 兼役推奨

モーフィウス:性別不問 クロード

ギュスターブ:性別不問 メイヴ




語り部:第三幕 最終章 フォルタルセーゼの城にて。

語り部:ああ、崩れゆく城。燃えさかるフォルタルセーゼの町々。

語り部:愛しき姫君は何処へ。

語り部:しかしそれを探す事もままならぬこのていたらく。

語り部:誰がその騎士を恨んだ、誰がその騎士を呪った。

語り部:石を投げ、その騎士に打つかれば全ての人間が喜んだ。



町人(A):この、大嘘つきめ!


町人(B):出て行ってちょうだい!


語り部:飛び交う石々、つぶての先に。

語り部:蹌踉めく足で、彼は言った。



モーフィウス:どこに、どこに行けば君に会える。

モーフィウス:どこを辿れば、君の傷ついた心に会える。

モーフィウス:私の傷を、癒やす必要もない。

モーフィウス:空も、海も、風さえも君の声を運ばない。

モーフィウス:この城からですら、愛しき君の香りはしない。

モーフィウス:ああ。この無情なる空虚を、どうしてやればいいのだ。

モーフィウス:あの時の別れが、こうして、二度と会えぬという事なら。

モーフィウス:私は、私でありたくなどなかった。

モーフィウス:一生、嘘をつき通せばよかった。



語り部:剥がれた仮面の下には、ただの土埃にまみれた羊飼い。

語り部:先代王との約束も人知れず、ただ敗北の騎士は姫を想うばかり。



モーフィウス:私は大嘘つきだ!


町人(A):そうだこの大嘘つきめ!


モーフィウス:いくらでも、嘘つきで構わない!


町人(B):先代王の顔に、泥を塗った!


モーフィウス:そうだ、私は踊り続けた泥人形。

モーフィウス:誰に知られずともいい、称えられなくてもよい。

モーフィウス:だがこの心に咲くものだけは!



町人(A):嘘つき!


モーフィウス:嘘のままではいられぬ!


町人(B):大嘘つき!


モーフィウス:どうか!どうかこの心に咲くものだけは!


町人(A):槍で突け、つぶてをなげろ、この大嘘つきの、鼻っ柱に。


町人(B):私たちを欺いて、さぞおもしろおかしくしていたんでしょうよ。


町人(A):不快だ!


町人(B):許されない!


町人(A):投げろ、投げろ、つぶてを投げろ!


町人(B):未だ、誰も見ていない、投げてはつかみ、つぶてを奴に!



モーフィウス:ああ、マリアーナ。

モーフィウス:君はどこに居るんだ、その甘く儚げな声を聞かせておくれ。

モーフィウス:私のためでなくていい、私を呪う呪詛でも構わない。

モーフィウス:私はただ、ただ君に生きていて欲しかっただけなのだから。



語り部:街は怒り狂い、その心を一人の青年にぶつけた。

語り部:敵の兵士が樽を蹴る、黄金の杯に葡萄酒がこびりつき

語り部:誰も予想もしえなかった未来へと転がった。

語り部:あれよあれよと転がり続け、もはや誰が黒幕なのか。

語り部:若き嘘つき羊飼いは、騎士を名乗り。

語り部:老いた愚王の策略は見事に散った。

語り部:花よ花よと甘露で育った姫だけ散って。

語り部:したり顔だけ、どこ浮かぶ。

語り部:くれないに染まる鎧は、この血の赤か、この夕陽の赤か。

語り部:笑うその身が、唯一の闇の先。



ギュスターブ:可哀想な羊飼い、何もかもを失って

ギュスターブ:頼りの姫も、行方知れず。


モーフィウス:ギュスターブ・・・!


ギュスターブ:滾るな滾るな、そのか細い手では私は殺せん。

ギュスターブ:血迷って、襲いかかろうものならば

ギュスターブ:その身が微塵にさけるまでよ。


モーフィウス:その笑み、その顔、何もかもを失ったのは

モーフィウス:貴様のほうだろう、ギュスターブ。

モーフィウス:国を焼き、王を殺し、自らの地位すらも捨て去った。

モーフィウス:何が望みだ、なにを想う、貴様の瞳に映るものはなんだ!


語り部:そう、憤慨する青年の先で、今も町人は命を略奪されている。

語り部:この国の未来が燃えている。



ギュスターブ:貴様だよ、モーフィウス。

ギュスターブ:私の瞳に映るものは、いつも、いつだって、

ギュスターブ:貴様以外の何物でも無い。

ギュスターブ:貴様の曇る瞳が見たかった。

ギュスターブ:貴様の掠れる声が聞きたかった。

ギュスターブ:ならば、それならば、私はすべてを捨てても構わない!

ギュスターブ:父も、国も、妹も!何もかもを捨てても構わない!



語り部:遠く、家屋の崩れる音がする。

語り部:誰もが笑顔で水を汲みに来た井戸も、

語り部:子犬たちが寝転び、娼婦がたばこを吸い、

語り部:昨日の雨のことを肴に、交わっていく麦酒も

語り部:何もかもが、崩れる音がする。


モーフィウス:絶望してなるものか。


語り部:静かに、そうこぼした。


モーフィウス:絶望して、なるものか。


語り部:青年は、嘘をついた。


モーフィウス:絶望、して、なるものか。


語り部:その嘘は、国を欺き、姫を欺き


モーフィウス:絶望してなるものか。


語り部:自らを欺き、


モーフィウス:絶望してなるものか。


語り部:その運命も、欺いた。


モーフィウス:『その剣(つるぎ)の切っ先に、明明(めいめい)となる未来がある。』

モーフィウス:『その礎となる覚悟すらも、私には容易い。』

モーフィウス:『我が名はモーフィウス、穿て、そして、切り開け。私はここに在る。』

モーフィウス:『ギュスターブ、剣を取れ!』

モーフィウス:『剣を取れ!!!!ギュスターブ!!!!』



ギュスターブ:『何を抜かすか、この軟弱者めが!』

ギュスターブ:『貴様のか細い剣(つるぎ)なんぞで、この国を救おうとでもいうのか。』

ギュスターブ:『穢れたその身を、その命を、呪いつづけろ!』



モーフィウス:『例え、我が身朽ちようとも』

モーフィウス:『例え、明日の朝日が私に微笑まずとも』

モーフィウス:『死ぬ事など恐れない、私は、未来のすべての為に切り開くものなり!』



◆◆◆


◆国立劇団 稽古場


クロード:絶望してなるものか。


メイヴ:違うな、もっと、何も無い、その台詞には何もないはずだ。


クロード:絶望して、なるものか。


メイヴ:さっきよりもいい。もっと、言い聞かせるように。


クロード:絶望してなるものか。


メイヴ:違う、それだとただ声量が変わっただけだ。


クロード:絶望してなるものか。


メイヴ:クロード。


クロード:はい。


メイヴ:少し休憩しよう。


クロード:・・・ふう、そうですね!何か飲みましょう!


メイヴ:ああ。何飲みたい?


クロード:・・・チャイ、以外で。


メイヴ:チャイ嫌いか?


クロード:まあ、はい。でも、そういうことじゃなくて。


メイヴ:ん?


クロード:なんかこう、チャイを飲むなら、一区切りついてから、でしょ。


メイヴ:・・・それもそうだな。

メイヴ:よし、ジャポーネ土産のグリーンティーでも飲んでみるか。


クロード:グリーンティーって・・・淹れ方わかるんですか?


メイヴ:あー・・・


クロード:ぷっ。だと思った。じゃあ、僕が淹れますよ。


メイヴ:悪いな。


クロード:いえいえ。

クロード:・・・ねえ、メイヴさん。


メイヴ:うん?


クロード:なんでこの「モーフィウス卿」、主人公は本物の騎士にしなかったんですか?


メイヴ:ん?うーん。


クロード:先代王様に認められて、羊飼いだった青年が騎士の格好をして

クロード:城に潜入した。それは愚息ギュスターブの謀反を暴くためだった。


メイヴ:そうだなあ。


クロード:でも、だとしたら本物の騎士が出てくる設定でもよかったじゃないですか。


メイヴ:そうだな。


クロード:でも、このモーフィウスは、あえて「嘘つき」にした。

クロード:モーフィウスが嘘をつかなければ平和に解決したことがたくさんある。

クロード:そこをあえて、嘘つきにしたのは何でなんですか?


メイヴ:そりゃ、何も問題なく解決する話なんて。面白くないだろ?


クロード:まあ、はい、それはそうなんですけど。


メイヴ:そうじゃないって、事よな。


クロード:はい。


メイヴ:・・・嘘つきだって、いいと思ったんだ。


クロード:嘘つきでもいい?


メイヴ:ああ。なあ、俺らがしてる、この演劇って、嘘だよな。


クロード:なんてこと言うんですか。怒られますよ、いろんな人達に。


メイヴ:だって、嘘だろ。こんな話、本当にあったわけじゃない。

メイヴ:嘘の設定、嘘の人間、嘘の台詞、嘘の世界だ。


クロード:そう言っちゃうと、そうですけど・・・


メイヴ:でも、そこから感じるこの心や、この気持ちは嘘じゃない。


クロード:それは・・・。


メイヴ:じゃあ、嘘ってなんなんだろうな。


クロード:嘘・・・。


メイヴ:何もかもが嘘で、その嘘のリアリティを突き詰めて

メイヴ:嘘を本当にしていく。


クロード:・・・。


メイヴ:嘘は、俺たちの、最大のテーマだ。


クロード:僕たちの。


メイヴ:そう。どんな嘘をついていても、どんな嘘を繰り広げても

メイヴ:この嘘という剣を掲げて、俺たちの本当を

メイヴ:「本物」を、ぶつけていく。


クロード:僕たちが、嘘をつくから。

クロード:その嘘で、反旗を翻して、この道を、本物にしていく、って事・・・ですか?


メイヴ:・・・主役らしくなってきたじゃないか。


クロード:・・・師匠が、いいですからね。


メイヴ:だから、大嘘つきが世界を救ったっていいと思ったんだ。

メイヴ:大嘘つきが、嘘つきと、つぶてをいくら投げられても

メイヴ:世界を救ったっていい。そう思った。


クロード:・・・なんか、メイヴさんって、変わりましたよね。


メイヴ:そうか?


クロード:なんか、昔はもっともっとトゲトゲしてて

クロード:自信満々で、苦しそうで、かっこよくて

クロード:空気が冷たくて、でも熱くて、なんかわからないけど

クロード:絶対に、倒せないって思ってて


メイヴ:倒せちゃったって?


クロード:そういうことじゃなくて


メイヴ:倒せちゃったけどな


クロード:・・・でも、今は


メイヴ:今は?


クロード:もっと、倒せないです。


メイヴ:・・・ありがと、嬉しいよ。


クロード:嘘つきでも、世界を救っていいんですよね。


メイヴ:ああ。


クロード:嘘つきなのに、この世界を救いたいって気持ちは本物で、いいんですよね。


メイヴ:ああ、その通りだ。


クロード:最高の嘘を、ついてやりましょ。


メイヴ:・・・そうだな。


クロード:だって、僕は、僕たちは、「演技」がすきだから。

クロード:この気持ちは、どんな嘘をついたって、


メイヴ:・・・本物だよ、クロード。



◆◆◆



ギュスターブ:可哀想な羊飼い、何もかもを失って

ギュスターブ:頼りの姫も、行方知れず。

モーフィウス:ギュスターブ・・・!

ギュスターブ:滾るな滾るな、そのか細い手では私は殺せん。

ギュスターブ:血迷って、襲いかかろうものならば

ギュスターブ:その身が微塵にさけるまでよ。



モーフィウス:その笑み、その顔、何もかもを失ったのは

モーフィウス:貴様のほうだろう、ギュスターブ。

モーフィウス:国を焼き、王を殺し、自らの地位すらも捨て去った。

モーフィウス:何が望みだ、なにを想う、貴様の瞳に映るものはなんだ!



語り部:そう、憤慨する青年の先で、今も町人は命を略奪されている。

語り部:この国の未来が燃えている。



ギュスターブ:貴様だよ、モーフィウス。

ギュスターブ:私の瞳に映るものは、いつも、いつだって、

ギュスターブ:貴様以外の何物でも無い。

ギュスターブ:貴様の曇る瞳が見たかった。

ギュスターブ:貴様の掠れる声が聞きたかった。

ギュスターブ:ならば、それならば、私はすべてを捨てても構わない!

ギュスターブ:父も、国も、妹も!何もかもを捨てても構わない!



語り部:遠く、家屋の崩れる音がする。

語り部:誰もが笑顔で水を汲みに来た井戸も、

語り部:子犬たちが寝転び、娼婦がたばこを吸い、

語り部:昨日の雨のことを肴に、交わっていく麦酒も

語り部:何もかもが、崩れる音がする。



モーフィウス:絶望してなるものか。


語り部:静かに、そうこぼした。


モーフィウス:絶望して、なるものか。


語り部:青年は、嘘をついた。


モーフィウス:絶望、して、なるものか。


語り部:その嘘は、国を欺き、姫を欺き


モーフィウス:絶望してなるものか。


語り部:自らを欺き、


モーフィウス:絶望してなるものか。


語り部:その運命も、欺いた。



モーフィウス:『その剣(つるぎ)の切っ先に、明明(めいめい)となる未来がある。』

モーフィウス:『その礎となる覚悟すらも、私には容易い。』

モーフィウス:『我が名はモーフィウス、穿て、そして、切り開け。私はここに在る。』

モーフィウス:『ギュスターブ、剣を取れ!』

モーフィウス:『剣を取れ!!!!ギュスターブ!!!!』



ギュスターブ:『何を抜かすか、この軟弱者めが!』

ギュスターブ:『貴様のか細い剣(つるぎ)なんぞで、この国を救おうとでもいうのか。』

ギュスターブ:『穢れたその身を、その命を、呪いつづけろ!』



モーフィウス:『例え、我が身朽ちようとも』

モーフィウス:『例え、明日の朝日が私に微笑まずとも』

モーフィウス:『死ぬ事など恐れない、私は、未来のすべての為に切り開くものなり!』




これは、うそつきがせかいをすくうはなし。





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