ギジン屋の門を叩いて【三瞑鏡事件録】
【配役】
猫宮織部A:ねこみやおりべ。家事全般が得意です。女性
猫宮織部B:ねこみやおりべ。家事全般が得意です。女性
猫宮織部C:ねこみやおりべ。家事全般が得意です。女性
寺門眞門:てらかどまもん。ギジン屋の店主。男性。
尾石貝茉希:おせっかいまき。完全なるトラブルメイカー。女性
このシナリオは、「猫宮織部画廊奇譚」のシナリオを声劇用に調整をかけたものです。
ギジン屋の門を叩いて【三瞑鏡事件録】
(さんめんきょうじけんろく)
猫宮織部A:すこすこのすこ!!
猫宮織部B:すこてぃっしゅふぉーるどです!!!
猫宮織部C:そうなのです!!!
尾石貝茉希:もうだめだよこりゃ。
猫宮織部A:そんなこと言わないでよ茉希ちゃーん!!!
猫宮織部B:そうだよ、もっと問題解決に積極的になってくれなきゃあ!
猫宮織部C:そうなのですー!!!!
尾石貝茉希:とは言ってもねえ……。
寺門眞門:ぐぬぬぬ……。
尾石貝茉希:うちの大黒柱が全くと言って良いほど機能してないからねえ……。
猫宮織部A:えーん!旦那さまぁ!
猫宮織部B:しっかりしてくださいよ、旦那さまぁ!!
猫宮織部C:そうなのですー!!!!!
尾石貝茉希:これは私が状況を整理するしかないってわけだ。
尾石貝茉希:おっと、これはもしやもしや?
尾石貝茉希:名探偵まきちゃんの出番ってこと?
尾石貝茉希:やったね、主役はいただきだぜ!
尾石貝茉希:仕切り直して。
尾石貝茉希:私は名探偵まきちゃん。
尾石貝茉希:この鹿骨町で探偵を生業としているそこそこの美少女だ。
尾石貝茉希:どれくらいそこそこかと言うと……ってそこはまぁ別にいいか。
尾石貝茉希:私の親愛なる友人、猫宮織部とその主人 寺門眞門に起きた事を説明しよう。
尾石貝茉希:先刻。それは、雨の降る何気ない一日だった。
寺門眞門:三瞑鏡(さんめんきょう)?
尾石貝茉希:そうそう、なんかね、家の倉庫を漁ってたら出てきてさあ。
寺門眞門:いかにも古めかしい箱だな。
尾石貝茉希:本当、いかにも!って感じでしょ?これってさ、やっぱり呪物とかそういう類のものなんじゃないかなあ?
寺門眞門:うーむ、まぁ確かに、呪力は感じるが……。
尾石貝茉希:ちょこっと最近金欠でさあ。
尾石貝茉希:眞門さん、この呪物、買い取ってくれない?
寺門眞門:そもお前のものではないだろ、これは。
尾石貝茉希:うちの倉庫で見つかったなら私のものでもあるでしょー?
寺門眞門:お母さんに許可はもらったのか?
尾石貝茉希:もらってない。
寺門眞門:じゃあだめだ。保護者の許可をもらうか一緒に来店しろ。
尾石貝茉希:えーーー!!!けちんぼーー!!!!
尾石貝茉希:トレーディングカードの買い取りじゃないんだからいいじゃんよー!!!
寺門眞門:金がないならそもそも働け! 働けばお前につけた「暴露の指輪」はきちんと外れるようになってるのだぞ!?
尾石貝茉希:やーだやだやだやーだー!働きたくないーーー!!!!
寺門眞門:はー。この娘は……。
尾石貝茉希:あれ、ところで今日は猫ちゃん居ないの?
寺門眞門:ああ、ちょっと買い物に行ってるよ。
尾石貝茉希:ふーん、そうなんだー。働き者だねえ、猫ちゃんは。
寺門眞門:誰かさんと違って、な?
尾石貝茉希:それ系のダメージはもう一切ききませーん、私最強になりつつあるんでー。
寺門眞門:厄介者だな本当に。
尾石貝茉希:光栄です。
寺門眞門:褒めてない。
尾石貝茉希:と、こ、ろ、で~。
寺門眞門:なんだ?
尾石貝茉希:買い取りは置いておいても、この呪物、気にならない?
寺門眞門:ならない、すぐに置け、手にとるな。
尾石貝茉希:いいじゃんちょっとくらい。
寺門眞門:だめだ。
尾石貝茉希:けち!!!
寺門眞門:おまえなぁ!
尾石貝茉希:けちけちけちけちけーち!眞門さんのけちんぼ。
寺門眞門:これだけ厳重に蓋がされてるんだ、「あけるな」と言ってるのと同じだろう!?
尾石貝茉希:でもあけてくださいって言ってるようなものでもあるじゃん。
寺門眞門:お前と哲学問答をするつもりはない!いいから置け!
尾石貝茉希:やーだーーーー!そもそもこれは私の家のものなんだからどうしようが自由、自由だーーーー!!!!
寺門眞門:このわからずやめ!!!
尾石貝茉希:そうして眞門さんと組んずほぐれつ。
尾石貝茉希:箱を開けるのか開けないのか、問答を繰り返している隙に。
尾石貝茉希:私たちは猫宮織部が帰宅していることに気づいていなかったのだ。
尾石貝茉希:「ただいま」と声をかけられたかと思えばそのまま私たちの手をすべり
尾石貝茉希:「三瞑鏡」と書かれた箱は猫宮織部の足下に落ち、その姿を見せた。
尾石貝茉希:その時だった。強い光がこのギジン屋の店内を照らす。
猫宮織部A:わわわわー!!!眩しいー!!!!
猫宮織部B:な、何が起きたんですか!?雷ですか!?
猫宮織部C:そうなのです?
猫宮たち:え?
猫宮たち:えええええー!?
尾石貝茉希:と、まぁこんな具合にですね。
尾石貝茉希:なぜか猫宮織部が3人に増えてしまったわけですよ。
寺門眞門:ほぼお前のせいだ。
尾石貝茉希:眞門さんにも責任はあるでしょう!?
寺門眞門:どこがだ!!お前が元凶だろこの場合は!!!
猫宮織部A:ま、まぁまぁ、二人とも落ち着いてください。
猫宮織部B:喧嘩してても問題の解決にはならないですしおすし……。
猫宮織部C:そうなのです!!!!!
尾石貝茉希:で、取り出したるは三瞑鏡の箱の中から見つかった取扱説明書ぉ~!!!
寺門眞門:呪物に取り扱い説明書があるなんて聞いた事ないぞ。
尾石貝茉希:でもあるんだから、あるわけですよねえ。
猫宮織部A:えっと、何々。
猫宮織部A:この呪物「三瞑鏡」とは、真実を見つけ出す為の代物である。
猫宮織部B:そのものを三面に写し、真実を選ぶべし、ふむふむ。
猫宮織部C:そうなんですー……?
尾石貝茉希:で、猫ちゃんが三人に増えたわけで。
尾石貝茉希:どうやらここから本物の猫ちゃんを選べばこの状況は解決するっぽいことが書いてあるわけなんだけど。
寺門眞門:肝心の猫宮織部という人の事を、私が忘れている。
尾石貝茉希:なーーーんで忘れちゃうかねえーーー!!!!
寺門眞門:私に言うな!!!この呪物に言え!!!
尾石貝茉希:まぁ要約すると? いわゆるあれよ、真実の愛を確かめる為の道具ってことよねこれは。
尾石貝茉希:誰が本物なのかを当てられてば、それは絆があるってこと。
尾石貝茉希:でも、記憶とかに頼ってしまうと意味がないから当てなきゃいけない人はその対象の人の記憶をなくす、って寸法ね。
尾石貝茉希:……いや、なにそれ、どういうこと!?記憶がなかったら真実もなにも、ただの当てずっぽうでしかないじゃん!!破綻してるでしょこれ!?
寺門眞門:……だから箱にしまわれてたんじゃあないのか?茉希。
尾石貝茉希:……えー?
寺門眞門:呪物が人の都合のいいように産まれるとは限らないだろう。
寺門眞門:確かにそういった、真実の愛やら絆やらを確かめる為に作られたというのもあるかもしれない。
寺門眞門:だがそううまくいくとは限らない。失敗作なんじゃあないのか、これは。
尾石貝茉希:げー……なんかやばそう……。
猫宮織部A:わ、私どうなっちゃうんでしょう?
猫宮織部B:この場合は私たちって言うべき?でしょうか?
猫宮織部C:そうなのです?
尾石貝茉希:とりあえず一旦あなたを猫宮織部A、あなたを猫宮織部B、そして「そうなのです」しか言わないあなたを猫宮織部Cとしましょう。
猫宮織部A:了解理解、最適解です!
猫宮織部B:ぶ!らじゃー!なのです!
猫宮織部C:そうなのです!
尾石貝茉希:で、眞門さんは。何か少しでも思い出した?
寺門眞門:うーん……ううーん……。
寺門眞門:なんとなくぼんやりとは、こうだったかな、ああだったかな、みたいなのはあるが……。
尾石貝茉希:つかえねー。
寺門眞門:おい!!茉希!!!
寺門眞門:……いや、まてよ、茉希、そもそもお前は覚えてるんだろう?
寺門眞門:なら、私にどれが本物の猫宮織部なのか?を教えてくれればいいだろう。
尾石貝茉希:私も覚えてません!!!!
寺門眞門:は?
尾石貝茉希:残念ながら!!!かろうじて猫ちゃんという存在が友人であることは記憶にございますが!!!見た目だったり色々な事が抜け落ちておりますです旦那様!!!
寺門眞門:貴様も使えんではないか!!!
猫宮織部A:……これわりとピンチなのでは……?
猫宮織部B:私もそう思います……。
猫宮織部C:そうなのです……。
尾石貝茉希:……髪型は、なんかさ、猫耳っぽい感じのおだんごがあったと思う。
寺門眞門:お、奇遇だな茉希、それは私も思っていた。
猫宮織部A:でも私たち……
猫宮織部B:全員おなじ猫耳おだんごですね……
猫宮織部C:そうなんですー……。
寺門眞門:……いつも、着物とエプロンを着てなかったか……?
猫宮織部A:そうです!旦那様!その通り!私着物とエプロンつけてます!!
猫宮織部B:いや、私もつけてますよ!ほら、旦那様!
猫宮織部C:そうなのです!
尾石貝茉希:全員おなじや……あかんやつや……。
寺門眞門:ぐ……ね、猫宮さんたち。君達もこう、何かないかね。
猫宮織部A:はい!
尾石貝茉希:はい、猫宮織部A!
猫宮織部A:私、家事全般得意です!特に料理とお掃除は大得意です!
寺門眞門:あー、そういえばそうだったかもしれない。
尾石貝茉希:ほら!絶対さ、あれだよ、眞門さん甘党だから!なんか甘いの入れてくれてたんじゃない!?
寺門眞門:そうだなぁー……んー……
猫宮織部B:ホットミルクです、旦那様といえば、ホットミルク!
猫宮織部C:そうなんです!!!!
尾石貝茉希:だああー、全員それっぽい。
尾石貝茉希:……でも、猫宮織部Cだけは無い、かな。
猫宮織部C:そうなんです!?
尾石貝茉希:それしか言わないしねえ。
寺門眞門:だめだ、情報が足りなさすぎる。
猫宮織部A:えーん、旦那様ぁ!思い出してくださいいー!!!
猫宮織部B:そうですよぉ!!!ぴえんぴえんの、ぴえんぺらーです!
猫宮織部C:そうなんです!!!!!
尾石貝茉希:仕方ない、眞門さん、これはしばらく一緒に暮らすしかないよ。
寺門眞門:なっ!?
尾石貝茉希:逆にいいんじゃね?これ。猫ちゃん溺愛サディスト悪魔の眞門さんからしたら3倍おいしいじゃん。
寺門眞門:どこから訂正してやろうか今から楽しみだよ、茉希。
尾石貝茉希:最悪さ、元に戻らなかったら三人とも娶(めと)ればいいだけだし。どの猫ちゃんも猫ちゃんっぽいならさ。
猫宮織部A:ままままま、まきちゃん!?
猫宮織部B:なんてことを、ああ、なんてことを言うの!
猫宮織部C:そそそそそそそうなんです!!
寺門眞門:……それしか無い、か。
猫宮織部A:だ、旦那様ぁ!!!!?????
猫宮織部B:め、娶るってこと?わ、私の事娶るってことですか!?
猫宮織部C:そ、そうなんです!?
寺門眞門:ちがう!!!ちがーーーう!!!そっちじゃない!!!
寺門眞門:わからないなら、一緒に生活してみるしかないという事のほうだ!
猫宮織部C:そうなんです?
猫宮織部B:なーんだー……。
猫宮織部A:そ、そうですよね、残念なようなほっとしたような……。
寺門眞門:何か言ったかい?
猫宮織部A:なななな、なんでもないです!
尾石貝茉希:そうして、3匹の猫、もとい3人の猫宮織部と溺愛サディスト悪魔の眞門さんとの奇妙な4人での生活がはじまったのです。
0:猫宮織部Cとの時間
寺門眞門:今日もお客さんは閑古鳥、か。
猫宮織部C:そうなんですー………。
寺門眞門:猫宮さんCは「そうなんです」しか言わないんだねえ。
猫宮織部C:そうなんです……。
寺門眞門:言いたいことが伝わらないのは、難儀だよねえ。
猫宮織部C:そうなんです!
寺門眞門:んー、そうだね、でもまだ良かったのかもしれないよ。
猫宮織部C:そうなんです?
寺門眞門:だって、3人いるわけだからね、買い物は他の猫宮さんが担当してくれている。
猫宮織部C:そうなんです!
寺門眞門:今思えば君を少し働かせすぎてしまっていたような気もするしねえ。
猫宮織部C:そうなんです?
寺門眞門:君はいつもテキパキなんでもこなしてくれるだろう?
猫宮織部C:そうなんです
寺門眞門:;はは、そうやって私の事をいつも立ててくれるのも君のよいところだ。
猫宮織部C:そ、そうなんです!
寺門眞門:……君は、よく働くから。
猫宮織部C:そうなんです?
寺門眞門:だから、こうしてゆっくりと話す時間がたっぷりある、というのは少し不思議な感
じもするねえ。
猫宮織部C:……そうなんです。
寺門眞門:ホットミルク、いれようか?
猫宮織部C:そうなんです!?
寺門眞門:;たまにはいいじゃないか、私がいれても。
猫宮織部C:そ、そうなんです……。
寺門眞門:遠慮することないよ、砂糖はどうするね。
猫宮織部C:そうなんです!
寺門眞門:はは、わかった、私と同じにしておくよ。
0:猫宮織部Bとの時間
猫宮織部B:どうですか?旦那様。
寺門眞門:うーん、よくわからんなぁ。
猫宮織部B:もっとちゃんと見てくださいね!?
寺門眞門:そう言われてもな……。
猫宮織部B:は、恥ずかしい思いを我慢して、ここまでさらけ出してるんですから……
寺門眞門:……そう、だったね。すまない、私ももっと本気になるよ。しっかり見せてくれる
かい、猫宮さん。
猫宮織部B:……はい、よく、拡げて見てみてください……。
寺門眞門:…………どれどれ、ってね。猫宮さん、流石に私と君の間柄だとしても、つむじの
形まで覚えてると言うことは無いと思うんだよ。
猫宮織部B:いいから!黙ってきちんと!まじまじと見てください!どうですか!私のつむじ
は!
寺門眞門:いいうずまきです……。
猫宮織部B:ふふん、そうでしょうそうでしょう、うずまきには自信があるのです。
寺門眞門:うずまきの自信ってなに?
猫宮織部B:さあ!次は旦那様のつむじも見せていただきましょう!
寺門眞門:私のつむじを見る意味ってある?
猫宮織部B:わ、私のつむじだけ見て、逃げるおつもりですか!?旦那様!?
寺門眞門:ええー
猫宮織部B:見たからには見せる、やられたからにはやりかえす。倍返しだ!の法則です!
寺門眞門:勝手に見せびらかしてたんじゃないかー、うずまきに自信があるって言い始めてー
猫宮織部B:いいから見せやがれくださいませ!
寺門眞門:あー
猫宮織部B:……左巻きですね?
寺門眞門:そうなの?
猫宮織部B:左巻きです。
寺門眞門:何かあるの?左巻きだと。
猫宮織部B:いえ、左巻きだなーってだけです。
寺門眞門:平和だなー、なんか。
猫宮織部B:ふふ、平和ですねえ。
寺門眞門:鳥の鳴き声なんか聞こえてきてる気がするもんなあー。
猫宮織部B:ぴ、ぴぴぴ、ぴーちちち。
寺門眞門:君は猫ではなかったかい?
猫宮織部B:環境演出というやつですよ、旦那様。
寺門眞門:平和だねえ。
猫宮織部B:平和ですねえ。
0:猫宮織部Aとの時間
寺門眞門:でもその置物はすっごく可愛いし……。
猫宮織部A:旦那様。
寺門眞門:だって……。
猫宮織部A:そんな事おっしゃっているから、いつまでたっても在庫が溜まる一方なんです。
寺門眞門:だって、可愛いし。
猫宮織部A:可愛いからといって!売れないものをそのままにしていたらもっともっと売れな
くなってしまいますよ!
寺門眞門:うー、嫌だなぁ。
猫宮織部A:さあさあ、この半額シールを貼ってください。
寺門眞門:はーい……貼りましたぁ……。
猫宮織部A:素晴らしい!流石旦那様です!それではヤードセールと洒落込みましょう!
寺門眞門:きょうび日本でヤードセールなんて需要があるかと思えないが……。
猫宮織部A:いいんです!こううのは、雰囲気ですから、雰囲気!
寺門眞門:そういうもの?
猫宮織部A:そうです、いつもの風景のままだと気づけない事がたくさんあるじゃないですか、世の中って。
寺門眞門:マンネリっていうやつね。
猫宮織部A:はい。風景になってしまうというか。だから、時々スパイスが必要なんですよ、ぴりっとするような、目の覚めるような何か。
寺門眞門:それが、ヤードセールかい?
猫宮織部A:なんでもいいんですけどね、せっかく3人に増えて時間も手間もかけられるならこんなことするのもいいなーって。
寺門眞門:そんなこと考えていたのかい。
猫宮織部A:いいでしょう?たまには。
寺門眞門:違いないね。
猫宮織部A:決めました?旦那様。
寺門眞門:何がだい?
猫宮織部A:どれが本物の私なのか。
寺門眞門:ああ、そのことかい。
猫宮織部A:そのこと以外にも決める事がございましたか?
寺門眞門:誰を娶るのかって話かと。
猫宮織部A:だ、だだだだだだだ、だんなさま!?
寺門眞門:冗談だよ。
猫宮織部A:も、もう!!!
寺門眞門:選ばれなかったら、猫宮さんはどうするんだい?
猫宮織部A:……それは、私の事を言ってます?
寺門眞門:うん、猫宮さんAならどうする?
猫宮織部A:どうもしませんよ。
寺門眞門:どうもしないのかい?
猫宮織部A:ええ、だって、私は本物だけど、でも、他の2人だってきっと、旦那様の事を大事にしてくれると思うから。
寺門眞門:そうだね。
猫宮織部A:だから、いいんです。私が選ばれなくても。
寺門眞門:消えてしまうかも知れなくても?
猫宮織部A:寂しくないっていったらウソですけど……。
寺門眞門:ふーん?
猫宮織部A:……大嘘です、けど。
寺門眞門:けど?
猫宮織部A:多分私たち3人とも、誰も文句なんて言わないです。
猫宮織部A:むしろ、なんだか夏休みのような、長いお休みをいただいてしまっているようで。
猫宮織部A:むしろ、よかったかな、なんて。
寺門眞門:……決めたよ、もう。
猫宮織部A:……そう、ですか。わ、なんか、途端にドキドキしますね、こういうの。
猫宮織部B:2人とも、お腹空いてませんか?
猫宮織部A:わ、びっくりした
猫宮織部B:お、驚かせてごめんなさい!こっちのやることがある程度終わったからお昼なんてどうかなーって!
猫宮織部C:そうなんです!
猫宮織部A:わ、いい提案です!今日はおそうめんなんて如何ですか?
猫宮織部C:そうめんです!
猫宮織部B:今そうめんですって言った?
猫宮織部A:言いましたね?
猫宮織部C:そ、そうなんです?
猫宮織部B:あ、また戻った。
猫宮織部A:今そうめんって言えてたのに!!
猫宮織部C:そ、そうなんです!?
猫宮織部B:あははは、おっかし。
尾石貝茉希:………それで、実際に生活してみてどうだったの?眞門さん。
寺門眞門:快適だった。
尾石貝茉希:……。
寺門眞門:実に!実に快適だった。
尾石貝茉希:ダメだこのおっさん。
寺門眞門:おっさんとは何だ!?
猫宮織部A:……緊張、しますね。
猫宮織部B:そう、ですね。
猫宮織部C:そうなんです……。
尾石貝茉希:ちなみにちょいちょい私も会いに来てましたけど、どれが本物の猫ちゃんなのかまーったくわかりませんでした。あははー。
猫宮織部A:まきちゃんのそういう所、好きだよ。
猫宮織部B:ザ・まきちゃん、って感じがする、今の。
猫宮織部C:そうなんです。
尾石貝茉希:馬鹿にされてるかな、これ。
猫宮織部C:そうなんです。
尾石貝茉希:なんだとー!このー!猫ちゃんCめ!!!
猫宮織部A:それで、旦那様……
猫宮織部B:どれが、本物の猫宮織部でしょうか……?
猫宮織部C:……そうなんです。
寺門眞門:……真実は。
尾石貝茉希:ごくり……。
寺門眞門:真実の、猫宮織部とは……。
猫宮織部A:どきどき
猫宮織部B:どきどき
猫宮織部C:そうなんです。
寺門眞門:決めなくていいんじゃないか?そんなこと。
尾石貝茉希:………なんて?
寺門眞門:決めなくていいよ、そんなこと、どうだっていい。
猫宮織部A:な、なんでですか、旦那様。
猫宮織部B:そうですよ、だって、増えちゃってる、わけですし、そのうち2人は偽物、ですし。
猫宮織部C:そうなんです!
寺門眞門:鏡ってさ、何が写ってる?
尾石貝茉希:なぞなぞの話してる?
寺門眞門:いいや、真面目な話さ。茉希、お前が鏡の前に立つとき、目の前に写るものはなんだ?
尾石貝茉希:そりゃ、あたしだけど。
寺門眞門:それは「偽物」の茉希か?
尾石貝茉希:いやいや、それだって本物のあたし。あ。
寺門眞門:ここに居る、そうなんです!と私を肯定してくれる猫宮さんも。
寺門眞門:くだらない時間を大切にしてくれる猫宮さんも。
寺門眞門:真剣に、私のことを考えて気づかせてくれる猫宮さんも。
寺門眞門:全部、本物だよ。間違いなく。
猫宮織部A:旦那様……。
寺門眞門:だから、いいよ、このまま3人のままで。
寺門眞門:元に戻らなくていい。このままでいいよ。
猫宮織部B:……食費、3倍かかっちゃいますよ。
寺門眞門:いいよそれくらい。
猫宮織部C:……そうなんです?
寺門眞門:そうなんです、しか言わない猫宮さんが、何を言おうとしてるのかわかるんだよ、私には。
寺門眞門:それだけ、私たちは一緒にいた。一緒にいた時間が、それをさせる。
寺門眞門:それができるってことは、君も、きちんと猫宮さんだということ、そうだろ?
尾石貝茉希:……眞門さん。
寺門眞門:だから、私が見つけ出した真実はひとつだけだ。
尾石貝茉希:……なに?
寺門眞門:「3人に増えても、猫宮さんのいれたホットミルクはとてもうまい。」
尾石貝茉希:その時、ギジン屋の店内にあった鏡という鏡すべてが割れた。
尾石貝茉希:もちろん、私が持ち出してきた三瞑鏡(さんめんきょう)も一緒に。
尾石貝茉希:そして、それと同時にまたまばゆい光がギジン屋の店内に広がる。
猫宮織部:う……。
尾石貝茉希:ね、猫ちゃん!?
猫宮織部:あ、あれ、私、元に戻ってます!?
尾石貝茉希:わ、わ、わああああ!お帰り!お帰り猫ちゃん!!!
猫宮織部:ま、茉希ちゃん、く、くるしいよ。
尾石貝茉希:3人いてもいいけど!猫ちゃん3人いてもいいけど、やっぱり1人の猫ちゃんが安心するよお!
猫宮織部:大げさだなあ、ずっと一緒にいたじゃない
寺門眞門:おかえり、猫宮さん
猫宮織部:ただいま戻りました、旦那様。気づいてくれてよかったです、全部が私本人だってこと。
寺門眞門:……鏡に映る自分は、すべて自分そのものだからね。それを偽物と断定してしまうのは、違うと思ったんだよ。
寺門眞門:説明書にも、こう書いてあるだろう?この呪物「三瞑鏡」とは、真実を見つけ出す為の代物である。そのものを三面に写し、真実を選ぶべし。
寺門眞門:真実の「1人を選べ」とはどこにも書いて居ない。
尾石貝茉希:はへー……確かに……。
寺門眞門:君がヤードセールの話をしてくれたからだよ、猫宮さん。
猫宮織部:ヤードセールのお話が、ヒントになったんですか?
寺門眞門:ああ、いつも猫宮さんのいる当たり前の風景では気づけなかった事だったからね。
猫宮織部:ふふ、スパイス、ですね!
尾石貝茉希:でもざんねーん、3人娶る眞門さんを見るのもすこし期待してたんだけどなあー。
寺門眞門:茉希、覚悟しておけ。今日の夜は平穏には眠れんぞ。
尾石貝茉希:;やだ!!!やーだー!!!なんか変な呪い飛ばすつもりでしょ!!???
寺門眞門:なあにほんの少し、夢の中にずっとダンゴムシの裏側が写る程度さ。
尾石貝茉希:きんもー!!!!最悪!ごめんなさい!もう変なこと言わないから!!!!
寺門眞門:なら働け!茉希!
猫宮織部:……ふふ。でも私、思うんです。風景でもいいかなって。
猫宮織部:こんな風な風景が、毎日続くなら、その風景の一つでもいいかなって。
尾石貝茉希:猫ちゃん!たすけてぇ!!!!
猫宮織部:ふふ、ちゃんと謝ったほうがいいんじゃない?
寺門眞門:そうだぞ、茉希、そもそもお前は忍耐の前に礼儀というものを知らん。
尾石貝茉希:礼儀って何さ!親しい仲なんだから礼儀もなにもないだろ!
寺門眞門:お前なあ、親しき仲にも礼儀ありという言葉があってだな!!!なあ、そうだよね、猫宮さん!?
猫宮織部:ふふ、そうなんです。
おしまい
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