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『ETHICA(エチカ)』(1:1:0)

【配役】
ヴァニラ・センドリク:駆け出し心理カウンセラー。イーサンの彼女。


レナード・オーウェン:刑事。イーサンの親友 


 : 
 : 
 :「エチカ」
 : 
 : 
(深夜、雨の降る人のまばらなダイナーにて。)


ヴァニラ・センドリク: ここのダイナー、チキンレッグが美味しいのに。頼まなかったんですか?


レナード・オーウェン: チキンレッグか。今回は遠慮するよ。こういうのはめでたいことがあった時に食いたい質(たち)でね。


ヴァニラ・センドリク: まじめなひと。


レナード・オーウェン: 君はたくさん頼むんだな。夜なにもたべてなかったのか。


ヴァニラ・センドリク: なんか、お腹空いちゃって。ポテト要ります?


レナード・オーウェン: いや、大丈夫だ。ありがとう。
レナード・オーウェン: ここにはよく来るのか?


ヴァニラ・センドリク: ええ。独りになりたい時とかに。ほら、今にも潰れそうじゃない?ここ。


レナード・オーウェン: ・・・・・・この辺りは人通りが少ない。このダイナーを一週間張ってれば俺の検挙率は今の倍になるだろうな。


ヴァニラ・センドリク: あら。案外出世欲があるんですね?そういうの無頓着(むとんちゃく)なのかと思ってました。


レナード・オーウェン: 冗談だ。


ヴァニラ・センドリク: わかってますよ、下手な冗談。


レナード・オーウェン: よく言われる。


演出: (間)


レナード・オーウェン: ヴァニラ。何故俺が君に連絡したのか、心当たりは無いのか?


ヴァニラ・センドリク: ……イーサンのこと、ですよね。
ヴァニラ・センドリク: やっぱり、あの人が疑われてるんですよね。


レナード・オーウェン: 察しが良いのは変わらないな。話が早くて助かる。
レナード・オーウェン: 君はどこまで知っている?


ヴァニラ・センドリク: なにも、ですよ。
ヴァニラ・センドリク: 9月8日、雨の強い日、夕方、セントルイスモーテルの美味しいハンバーガーを食べに行く約束をしていたのに
ヴァニラ・センドリク: 彼は約束の時間に来なかった。
ヴァニラ・センドリク: それから約2週間、部屋はもぬけの殻、連絡もない。
ヴァニラ・センドリク: やっとスマートフォンが鳴ったと思ったら、レナードさん、貴方からの連絡でした。


レナード・オーウェン: でも君は、今、彼が疑われていると


ヴァニラ・センドリク: 刑事である貴方に呼び出されたんだもの。彼の居なくなった日。新聞に大きく載った殺人事件。関連性は、充分じゃないですか?


レナード・オーウェン: なるほど。まあ、概ね(おおむね)君の想像通りだ。9月9日。オックスフォードで一人の身元不明の死体が発見された。
レナード・オーウェン: その後10日、11日と連続して、同じ殺害方法の死体が見つかった。今のところ被害者は合計3名。
レナード・オーウェン: 連続殺人事件として現在警察が捜査している。


演出: (間)


レナード・オーウェン: 詳細は話せないが、イーサンに疑いが向けられている。


演出: (間)


レナード・オーウェン: 本当に何も連絡はきてないのか。


ヴァニラ・センドリク: ……そもそもが、そういうの、あまりする人じゃなかったですから。
ヴァニラ・センドリク: 貴方も付き合いが長いなら、知ってるでしょう?
ヴァニラ・センドリク:「こんな物に時間を縛られるのはごめんだ」なんて言って、スマートフォンを持たせるのも大変だったんですから。


レナード・オーウェン: ああ、使い方を教えても覚えやしない。携帯しているだけで電源が入っていない時もあったな。
レナード・オーウェン: 君に無理やり押し付けられた。首輪を繋がれている気分だと。まんざらでもない顔だったがな。
レナード・オーウェン: ・・・・・・君は俺よりもあいつのことを知ってるだろう?
レナード・オーウェン: 正直なところ、どう思ってる?


ヴァニラ・センドリク: 首輪、か。イーサンらしい言い方ですね。
ヴァニラ・センドリク: ……手放しで、彼はしてない、とは言えない私がいます。


レナード・オーウェン: (ため息)
レナード・オーウェン: そうか。
レナード・オーウェン: 俺としては、君には手放しで「彼はしていない」と言ってほしかった。
レナード・オーウェン: いなくなる前なにかイーサンに変わったところはなかったか。


ヴァニラ・センドリク: 貴方も同じように思っているから、私に会いに来たんじゃないですか?レナードさん、いや、「刑事さん」
ヴァニラ・センドリク: 変わったところ……ですか。
ヴァニラ・センドリク: そもそもが変わってるからなあ……。
ヴァニラ・センドリク: 歯磨きする時とか、普通ブラシに歯磨き粉を出すじゃないですか?
ヴァニラ・センドリク: それを彼は、チューブを咥えて、歯磨き粉を口にだしてから磨きはじめたりするんですよ?
ヴァニラ・センドリク: 変わってますよね。


レナード・オーウェン: ああ、日頃から変わっていたことに関しては同感だ。
レナード・オーウェン: うちに泊まった時もそれをやられた。
レナード・オーウェン: おかげでうちにはあいつ専用のチューブを用意する羽目に。
レナード・オーウェン: 辛い(からい)のは嫌いだと文句も言われたな。
レナード・オーウェン: 君の家にもどうせコップに挿した歯ブラシと同じ数のチューブがあるだろう。


演出:(間)


レナード・オーウェン: イーサンがいない間君はどうしていた。捜索願はだしたのか。


ヴァニラ・センドリク: だしてませんよ、まだ。


レナード・オーウェン: まあ、そうか。
レナード・オーウェン: しょっちゅういなくなるやつだったしな。


ヴァニラ・センドリク: ええ、ほんとに。
ヴァニラ・センドリク: あ、でも。


レナード・オーウェン: ん?


ヴァニラ・センドリク: いつもは、私にハムスターを預けていくんです。


レナード・オーウェン: あいつにハムスターなんて飼えたのか。
レナード・オーウェン: 何代目だ?


ヴァニラ・センドリク: ふふ、奇跡的にまだ一代目。


レナード・オーウェン: よかった。まだ犠牲者・・・ハムスターは無事なようで。
レナード・オーウェン: それが今回は、ハムスターごと消えたのか。


ヴァニラ・センドリク: いいえ。部屋に置き去り。
ヴァニラ・センドリク: 私が気づかなかったら、死んじゃってたかもしれないです。


レナード・オーウェン: ・・・・・・そうか。ハムスターには君がヴィーナスに見えただろうな。


演出: (間)


レナード・オーウェン: あぁ、そういえば。イーサンは馬鹿に恥ずかしがって話そうとしなかったが、
レナード・オーウェン: 君と彼はどこで出会ったんだ?


ヴァニラ・センドリク: 出会いですか?
ヴァニラ・センドリク: イーサンが?
ヴァニラ・センドリク: 話したがらなかったの?本当に?


レナード・オーウェン: ああ。「僕と彼女が恋人関係になったこと以外に何を知る必要がある」と。
レナード・オーウェン: もともとあいつは個人的な話はあまりしないやつだったが。


ヴァニラ・センドリク: ああ、なるほど。
ヴァニラ・センドリク: ふふ、本当に恥ずかしかったんですね。
ヴァニラ・センドリク: 逆に、なんだと思います?とても意外だと思いますよ。


レナード・オーウェン: どうせイーサンが君に一目ぼれしたってべたなナンパでもしたんじゃないか。
レナード・オーウェン: そういうのは臆さずにやるやつだ。


ヴァニラ・センドリク: ふふ、正解。さすが「刑事さん。」
ヴァニラ・センドリク: どんな口説き文句だったと思います?
ヴァニラ・センドリク:「君はどこから降りてきた天使なんだい?」


レナード・オーウェン: 君は、そんな最低な文句になびいたのか?
レナード・オーウェン: 冗談だろ?
レナード・オーウェン: (笑いながら)


ヴァニラ・センドリク: 汗だくで、必死に言うんだもの。
ヴァニラ・センドリク: 可愛くなっちゃって。


レナード・オーウェン: 君も案外物好きなんだな、変わり者同士お似合いってことか。
レナード・オーウェン: まああいつと友人関係である俺も君のことはいえないか。


ヴァニラ・センドリク: 貴方の事もよく話してました、ほんとに楽しそうに。
ヴァニラ・センドリク: レナードさん、昔は同級生に、こう呼ばれてたんですって?
ヴァニラ・センドリク:「校長像壊し(こうちょうぞうごわし)のオーウェン」


レナード・オーウェン: 「校長像壊しのオーウェン」か。


レナード・オーウェン: ここだけの話だが、校長像を壊したのは俺じゃないんだ。
レナード・オーウェン: 俺は、俺自身なぜそうしたかわからないが、校長像を壊したことにした。
レナード・オーウェン: イーサンと初めて出会ったのもその時だったな。


ヴァニラ・センドリク: イーサンですよ。


レナード・オーウェン: ん?


ヴァニラ・センドリク: 校長像。壊したの。


レナード・オーウェン: きいたのか。


ヴァニラ・センドリク: はい。楽しそうに話してました。
ヴァニラ・センドリク: それがあったから、レナードさん。
ヴァニラ・センドリク: 貴方は学校のヒーローになったって。


レナード・オーウェン: ・・・・・・ヴァニラ。時々、あいつが恐ろしいと。
レナード・オーウェン: 思うことはないか。


ヴァニラ・センドリク: しょっちゅうですよ、その分可愛らしいとも思いますけど。


レナード・オーウェン: ・・・・・・イーサンの居所(いどころ)に心あたりは?


ヴァニラ・センドリク: いつもなら、彼の地元のピーカブーストリートか。国道沿いをただひたすら、なんですけどね。


レナード・オーウェン: そこなら俺も知ってる。だが姿を見せなかった。


ヴァニラ・センドリク: ねえ、レナード。


レナード・オーウェン: なんだ。


ヴァニラ・センドリク: 殺された人達は、どんな人達だったの?
ヴァニラ・センドリク: 話せる範囲でいいの。


レナード・オーウェン: ・・・・・・看護師だ。3人とも。もうじきマスコミに公開される情報だ。
レナード・オーウェン: オックスフォードの大学病院に勤務していた。


ヴァニラ・センドリク: 大学病院……。


レナード・オーウェン: イーサンは、そこで放射線技師として働いていただろう。


ヴァニラ・センドリク: ええ。そのはずです。


レナード・オーウェン: これはまだ一般に非公開の情報だが。死体発見現場からは、
レナード・オーウェン: ・・・・・・放射線技師服の繊維(せんい)が見つかっている。


ヴァニラ・センドリク: ……そこまで話しちゃって大丈夫なんですか?


レナード・オーウェン: イーサンは犯行推定時刻に、君の前から姿を消している。


ヴァニラ・センドリク: ほとんどイーサンが犯人と決まって、動いてるみたいに見えますね。


レナード・オーウェン: そうだ。
レナード・オーウェン: どうしても、納得がいかない。
レナード・オーウェン: だが、あいつが事件に巻き込まれているのは確かだ。


ヴァニラ・センドリク: 『刑事さん』


レナード・オーウェン: ヴァニラ。君は本当に何もしらないのか?


ヴァニラ・センドリク: どうして、『校長像壊しの容疑』、自分で被ったんですか?


レナード・オーウェン: 今その話をする必要はないだろう?


ヴァニラ・センドリク: 気になっちゃって。
ヴァニラ・センドリク: 貴方がその選択をしなかったら、
ヴァニラ・センドリク: イーサンが今頃、ヒーローだったかもしれない。


レナード・オーウェン: 何が言いたい?


ヴァニラ・センドリク: 『イーサンを守った』の?
ヴァニラ・センドリク: それとも『注目を浴びたかった』の?


レナード・オーウェン: (深く深呼吸する。)
レナード・オーウェン: 答えはその両方だ。


演出:(間)


レナード・オーウェン: ヴァニラ、君、仕事は?


ヴァニラ・センドリク: 心理カウンセラー。まだ駆け出しですけどね。


レナード・オーウェン: 道理で。
レナード・オーウェン: 君はそういう目をしている。
レナード・オーウェン: 人を観察するという点で俺と君は似た目をしているだろうな。


演出:(間)


レナード・オーウェン: イーサンは、本当は、いなくなった後、一度君の元にきたんじゃないのか?


ヴァニラ・センドリク: ……イーサンとは本当に会ってない。会いたい。私だって会いたい。だから、今日ここに来たんです。貴方なら何か知ってるかも、と。


レナード・オーウェン: ……煙草いいかな。


ヴァニラ・センドリク: ええ。どうぞ。吸うんですね?


レナード・オーウェン: 俺がイーサンの居場所を知ってると言ったら、ヴァニラ、きみはどうする?


ヴァニラ・センドリク: 灰、落ちそうですよ。
ヴァニラ・センドリク: ……どうもしないわ、だってそんなもしもの話、不毛(ふもう)だもの。


レナード・オーウェン: 君のその目は、俺が知らないことを知ってると言ってるな。


レナード・オーウェン: イーサンは、俺以外に友人関係はあったか?


ヴァニラ・センドリク: 多くはなかったんじゃないかしら。
ヴァニラ・センドリク: ほとんどは貴方の話ばっかりよ。それは、貴方のほうがよくわかってるんじゃない?「校長像壊しのオーウェン」


レナード・オーウェン: その言い方止めてくれないかな。エンジェル。


ヴァニラ・センドリク: あらごめんなさい?「刑事さん」
ヴァニラ・センドリク: それにしても、被害者の男性たちは可哀想ね。
ヴァニラ・センドリク: 命が終わるってどんなかんじなのかしら。


レナード・オーウェン: いっそ気持ちいいんじゃないか。全て解放されて


ヴァニラ・センドリク: そうなのかしら。でも、うん、そうなのかもしれないわね。
ヴァニラ・センドリク: それでも、きっと、それで幸せってことはないのよ。


レナード・オーウェン: じゃあ、君の言う幸せはなんだ?


ヴァニラ・センドリク: 何でもない雨の日の夜に、行きつけのお店のチキンレッグを頬張ることかしらね。


レナード・オーウェン: そこに、イーサンはいないのか?


ヴァニラ・センドリク: 居て欲しいと、思うわ。


レナード・オーウェン: 雨が好きなんだな。


ヴァニラ・センドリク: 雨は、心地いいでしょ?雨音を聞いてると、ママのお腹の中にいるみたい。


レナード・オーウェン: 母親の腹の中でたべるチキンレッグはさぞかし最高だろうな。


演出: (間)


レナード・オーウェン: 君も吸ったらどうだ。バージニア。


ヴァニラ・センドリク: さすが刑事さんね。
ヴァニラ・センドリク: ライターがないの、貸して貰える?


レナード・オーウェン: 火付け役がいないとは。バージニアが泣いてるぞ。
レナード・オーウェン: (火をつける。)


演出: (間)


レナード・オーウェン: イーサンとは恋人になってどれくらいだ?


ヴァニラ・センドリク: (タバコを吸いながら)……そうね。
ヴァニラ・センドリク: 3年と3ヶ月、もう結婚を考えてもいい年数だわ。


レナード・オーウェン: 君は本当にイーサンが好きだったのか?
レナード・オーウェン: なぜだろうな、君の目にはイーサンが写ってないように見える


ヴァニラ・センドリク: そんな事聞くなんて、ナンセンスだわ。
ヴァニラ・センドリク: 必ずしも、一緒にいることが、好きとは限らないでしょ?


レナード・オーウェン: そうだな。君の言う通りだ。


演出: (間)


レナード・オーウェン: イーサンは、本当に君の事を愛していた。


ヴァニラ・センドリク: ええ、知ってるわ。そんな彼のことを、私だって愛しく思ってた。
ヴァニラ・センドリク: 「刑事さん」、この質問は何の意味があるのかしら?


レナード・オーウェン: 何故君は、被害者の3人が男だと思った?


ヴァニラ・センドリク: あら、そんなこと言ったかしら。


レナード・オーウェン: (鼻で笑う)エンジェル。
レナード・オーウェン: 被害者の男性たちは、本当に可哀想だった。
レナード・オーウェン: 俺もそう思うよ。


ヴァニラ・センドリク: ねえ、レナード。


レナード・オーウェン: (何も言わずに煙草を吸う)


ヴァニラ・センドリク: エチカ理論という言葉、知っているかしら。


レナード・オーウェン: ご教授願いたいね。先生。


ヴァニラ・センドリク: バールーフ・デ・スピノザ。哲学者。
ヴァニラ・センドリク: アムステルダムに産まれ、様々な哲学を世に生み出した偉人の一人。
ヴァニラ・センドリク: 彼が書いた「エチカ」という書物から、「エチカ理論」というものは生まれたの。


レナード・オーウェン: ほう。


ヴァニラ・センドリク: スペルは「E」「T」「H」「l」「C」「A」。エチカ。
ヴァニラ・センドリク: 神様について、感情や本性、人間の自由などについてその本には書かれている。


レナード・オーウェン: 興味深い内容じゃないか。


ヴァニラ・センドリク: そう言って貰えると嬉しいわ。
ヴァニラ・センドリク: そして、人々は「究極の選択」というものを「エチカ理論」というものに当てはめて話さなければならない。いわば「エチカの選択」ね。


レナード・オーウェン: エチカの選択。


ヴァニラ・センドリク: 例えば。
ヴァニラ・センドリク: 「トロッコ問題」というものを聞いたことがあるかしら?


レナード・オーウェン: 最大多数の最大幸福を選ぶか、否か。だったか。


ヴァニラ・センドリク: そう。
ヴァニラ・センドリク: 「刑事さん」、あなたの目の前に暴走して止めることのできないトロッコが迫ってきている。
ヴァニラ・センドリク: その線路の先には三人の作業員が線路の修復作業をしていて、暴走したトロッコには気づいていない。


レナード・オーウェン: そのまま進めば、3人の作業員はトロッコに轢き殺される。
レナード・オーウェン: 俺の手が届く距離には、トロッコの進行方向を切り替えるバーがあり、
レナード・オーウェン: それを動かせば、3人の作業員は助かる。しかし・・・


ヴァニラ・センドリク: もう片方の線路にも、一人の作業員がいる。


レナード・オーウェン: ・・・・・・それで?


ヴァニラ・センドリク: 「刑事さん」なら、どうする?


レナード・オーウェン: 俺は一人を殺すだろうな。


ヴァニラ・センドリク: そう、それは何故?


レナード・オーウェン: 君なら3人の作業員を殺すと思ったからだ。


ヴァニラ・センドリク: あら、面白い。
ヴァニラ・センドリク: じゃあ私に対抗しての意見なの?
ヴァニラ・センドリク: 案外可愛いんですね、「刑事さん」


レナード・オーウェン: よく言われるよ。
レナード・オーウェン: 講義を続けていただけるかな。


ヴァニラ・センドリク: 対抗したとは言え、あなたはそもそも三人を殺せる人ではないわよね。
ヴァニラ・センドリク: 私が質問した状況ではなく、本当に同じ状況になるなら、あなたは迷うことなく切り替えレバーをひく、そうよね。


レナード・オーウェン: 何が言いたい?


ヴァニラ・センドリク: イーサンもそうだった。


レナード・オーウェン: それは自白ととっていいのか?


ヴァニラ・センドリク: 焦らないで、「刑事さん」
ヴァニラ・センドリク: 私はただ「エチカ理論」を話しているだけ。


レナード・オーウェン: 君は、イーサンに一体何をした?


ヴァニラ・センドリク: 不思議なものでね、「刑事さん」
ヴァニラ・センドリク: こう言った質問もあるのよ。
ヴァニラ・センドリク: あなたは外科医。
ヴァニラ・センドリク: 今目の前に健康的な一人の青年がいる。
ヴァニラ・センドリク: その傍らにはそれぞれ、心臓、肝臓、肺、胃、腎臓を患った老人がそれぞれ五人いる。


レナード・オーウェン: 悪いが生殺与奪(せいさつよだつ)のたとえ話はもう結構だ。
レナード・オーウェン: 結論をきかせてもらおうか。


ヴァニラ・センドリク: 最後まで聞きなさい、レナード・オーウェン。
ヴァニラ・センドリク: この話はあなたにも、
ヴァニラ・センドリク: 「無関係」ではない。
ヴァニラ・センドリク: あなたはタバコをふかしながら最後まで聞くの、そう、このまま、人もまばらなこのダイナーで。


レナード・オーウェン: 悪いが俺のタバコは君の話がもう飽きてしまったようだ。エンジェル。


ヴァニラ・センドリク: ならチキンレッグでも頼む?おいしいのよ。
ヴァニラ・センドリク: 続けるわ。
ヴァニラ・センドリク: その青年の臓器を移植すれば、五人の老人の命を助けることができる。
ヴァニラ・センドリク: 「レナード・オーウェン」あなたならどうする?


レナード・オーウェン: ……青年が生きたいというなら、5人の老人を殺すだろうな。


ヴァニラ・センドリク: そう、先程の解答と変わるのよね。命の重さで測るなら、どう考えても老人を生かすべきなのに。
ヴァニラ・センドリク: でも、何故かそうしない。


レナード・オーウェン: 君は5人の老人を救うのか。


ヴァニラ・センドリク: レナード。


レナード・オーウェン: 君が私に問いかけた2つの質問、君が俺を探ろうとする目と同じくらい嫌いでね。


ヴァニラ・センドリク: この二つの質問。
ヴァニラ・センドリク: そして全ての「エチカ理論」の、抜け道がある。
ヴァニラ・センドリク: それは『そもそも、考えないこと』。
ヴァニラ・センドリク: 不毛なのよ、こんな問題自体が。


レナード・オーウェン: それには同感だ。


ヴァニラ・センドリク: だからレナード、あなたの私への問い、
ヴァニラ・センドリク: 「君なら五人を救うのか?」
ヴァニラ・センドリク: この答えは、ノー。
ヴァニラ・センドリク: 『わたしは、何もしない。』
ヴァニラ・センドリク: でも、
ヴァニラ・センドリク: イーサンは違った。


レナード・オーウェン: ……。


ヴァニラ・センドリク: 『刑事さん』、私はイーサンに何もしていないわ。
ヴァニラ・センドリク: ただ、悩んでいた彼と話をしただけ。
ヴァニラ・センドリク: ただそれだけ。


レナード・オーウェン: 何度も言わせるなよ。
レナード・オーウェン: 俺の質問に答えろヴァニラ・センドリク
レナード・オーウェン: 俺の友人に、何をした?
レナード・オーウェン: イーサンは何を悩んでいた?
レナード・オーウェン: 君は何と答えた?
レナード・オーウェン: イーサンはいまどこにいる。


ヴァニラ・センドリク: ひとつ、ただ話をしただけ。
ヴァニラ・センドリク: ふたつ、イーサンは優しかった、だから誰を助けるべきかを悩んでいた。
ヴァニラ・センドリク: みっつ、私が伝えたのは『正しいと思うことをして』それだけ。
ヴァニラ・センドリク: よっつ、『イーサンがどこにいるかは、もう私にも、わからない。』


レナード・オーウェン: イーサンから、犯行の自供をきいたのか。
レナード・オーウェン: YESかNOでこたえろ


ヴァニラ・センドリク: YES


レナード・オーウェン: ……イーサンは、犯行後に君のところに来たという事だな?


ヴァニラ・センドリク: YES


レナード・オーウェン: イーサンは、自分がしたことへの罪の意識を感じていたか


ヴァニラ・センドリク: YES


レナード・オーウェン: イーサンは、
レナード・オーウェン: あいつ自身の中にある狂気に恐れていたか


ヴァニラ・センドリク: YES
レナード・オーウェン: イーサンは、
レナード・オーウェン: お前に希った(こいねがった)んじゃないか
レナード・オーウェン: 自分を殺してくれと


ヴァニラ・センドリク: YES


レナード・オーウェン: お前に自分を殺してもらうことが、
レナード・オーウェン: イーサンが正しいと思う行為だったんだな


ヴァニラ・センドリク: YES


レナード・オーウェン: ヴァニラ・センドリク。
レナード・オーウェン: お前はそれを、実行したのか。
レナード・オーウェン: お前が幸せを感じているのは、なぜだ。
レナード・オーウェン: 何でもない雨の日の夜に、
レナード・オーウェン: 行きつけのお店のチキンレッグを
レナード・オーウェン: 頬張る今の気分はどうだ?
レナード・オーウェン: あぁ、なんでも無くはないな。
レナード・オーウェン: 俺が同席している。
レナード・オーウェン: ……なにかいったらどうだ?


ヴァニラ・センドリク: NO
ヴァニラ・センドリク: レナード、私は彼にとって『エンジェル』なのよ。
ヴァニラ・センドリク: そして、先程のエチカの話でも言ったわ。
ヴァニラ・センドリク: 『私は』
ヴァニラ・センドリク: 『話を』
ヴァニラ・センドリク: 『しただけ』


レナード・オーウェン: しただけ、か。


ヴァニラ・センドリク: ねえ、レナード。


レナード・オーウェン: そして、去っていくあいつを止めなかった。
レナード・オーウェン: むしろ笑顔で見送った。


ヴァニラ・センドリク: 私、貴方が大嫌いなの。


レナード・オーウェン: はっ、
レナード・オーウェン: 俺のタバコの臭いがお気に召さなかったか。
レナード・オーウェン: 俺も君のバージニアの臭いには吐き気がする。
レナード・オーウェン: 意見が一致したな。
レナード・オーウェン: 楽しかったか。


ヴァニラ・センドリク: 貴方が『校長像壊し』を自分の手柄にしなければ。
ヴァニラ・センドリク: 今頃ヒーローはイーサンだった。
ヴァニラ・センドリク: 性格も態度も悪い校長を泣かせたと
ヴァニラ・センドリク: 讃えられた(たたえられた)のはイーサンだった。
ヴァニラ・センドリク: レナード・オーウェン。
ヴァニラ・センドリク: 貴方、イーサンを利用したんでしょう?


レナード・オーウェン: イーサンが可哀想だとでも思ったか。
レナード・オーウェン: 俺が、手柄を横取りして、
レナード・オーウェン: イーサンは心に傷を負ったと


ヴァニラ・センドリク: イーサンは、可愛い人なのよ。私にとって。


レナード・オーウェン: 可愛い、か。
レナード・オーウェン: ヴァニラ、教えてやるよ
レナード・オーウェン: あいつは可愛いやつなんかじゃない。
レナード・オーウェン: 校長像を壊したのは、イーサンだ。
レナード・オーウェン: だが、壊し方を教えたのは俺だ。
レナード・オーウェン: 初めてイーサンにあったとき、あいつは校長像の前に
レナード・オーウェン: 立ち尽くしていた。
レナード・オーウェン: 手ぶらで。
レナード・オーウェン: 俺はちゃんと親父の倉庫からハンマーを持ってきていた。
レナード・オーウェン: あいつは、俺をみるなりいった。
レナード・オーウェン: 「君と出会えてよかった。
レナード・オーウェン: 僕の代わりにこの校長像を破壊して見せてくれ。」と。
レナード・オーウェン: だから、俺は・・・・・・
レナード・オーウェン: 「せっかくきたんだろ、お前も付き合えよ」
レナード・オーウェン: そういった。
レナード・オーウェン: 一緒に校長の頭をハンマーでかち割った時は、
レナード・オーウェン: ああ、俺はこいつと仲良くなれるだろうなって
レナード・オーウェン: イーサンのやつ、ぐしゃぐしゃな顔して泣いてたな。
レナード・オーウェン: いま思い出しても笑える。
レナード・オーウェン: イーサンの居場所をおしえてやろうか。
レナード・オーウェン: 君のところを出て行ったあと、俺のところにきてな
レナード・オーウェン: 今は警察署の取り調べ室だよ。
レナード・オーウェン: ここの代金は俺が払っておくよ。
レナード・オーウェン: じゃあな、エンジェル。


ヴァニラ・センドリク: レナード・オーウェン。


レナード・オーウェン: ?


ヴァニラ・センドリク: 私、貴方が大嫌い。


レナード・オーウェン: 俺たちも仲良くできるかもな、生まれ変わったら。
レナード・オーウェン: 俺は嫌いじゃないよ、あんたのそういうとこ。

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