マンドレイクの領域(0:0:2)
【配役】
◆ドレイク:性別不問。ビー・ドレイク。すーぱーぷりちー、くーるでふぇちっしゅ。
世界が求めた大悪党で、大怪人、天才ビー・ドレイク様といえばあちきのこと。
◆マンチェスト:性別不問。落ちぶれスーパーヒーロー、いや、元ヒーロー様。
しょぼくれやがって、その××××を山羊の餌にしてやったほうが
いくぶんか世界のためなんじゃない?あ、山羊が可哀想か。
ドレイク:それで、ヒーロー様。あんたは一体、何をしてるんだい。
マンチェスト:話しかけてくるな、ヴィラン。
ドレイク:おいおいおい、つれないじゃあないか。ヒーロー様とあろう者が弱者の声を聞かないだなんて、まさしくエセヒーローに成り下がっちまったってのかい?マンチェスト?
マンチェスト:弱者?どの口が言っている。
ドレイク:弱者だろう?我々はすでに弱者だ。
マンチェスト:だからどの口が!
ドレイク:私も、君も、一般人も、等しく全員がすでに弱者だ。見てみなよ、ヒーロー様、この惨状を。
ドレイク:終末時計って知ってるだろう?
ドレイク:後どのくらいこの世界が『保っていられるのか』を表した恐怖とエゴの塊みたいなあいつさ。
ドレイク:どこぞの科学者が言った、言ってしまったろう?3日後にこの終末時計が終わりを指すって。
マンチェスト:……リンデンバーク・コヴァルスキ、どのテレビ番組もそいつのニュースを延々垂れ流したままだ。
ドレイク:それじゃあ分かりきってるだろう、ヒーロー様!
ドレイク:私も君もわかりやすくこの人為的災害の被災者であり、被害者だ!
ドレイク:おめでとう!晴れて君も、私も、屁理屈無く弱者の仲間入りという訳だ兄弟。
マンチェスト:止めろ、馴れ馴れしく兄弟と呼ぶな。
ドレイク:どーうした、マンチェスト。今こそ我々二人で「マンドレイク」を名乗り、世界征服に乗り出すべきだ!
ドレイク:だってだって、あのスーパーヒーローマンチェスト様はとうの昔にヒーローを引退なされたわけだからなあ!
マンチェスト:……なんとでも言え。その挑発には乗らんぞ。
ドレイク:なーんだ、つまらん。
マンチェスト:……お前は何故、ここに居るんだ?ビー・ドレイク。
ドレイク:なんでって?
マンチェスト:3日後には、全世界の保有する核ミサイル、核爆弾、システム管理された全ての核が発射される。
ドレイク:君こそ分かりきったことをわざわざ言い直すじゃないか?
マンチェスト:ヴィランでも、抗えない危機だろ、これは。
ドレイク:なあ知ってるか、マンチェスト。説明台詞って奴は嫌われるんだぜ?
マンチェスト:お前にも、最期を迎えたい相手くらい居るだろう。
ドレイク:無視すんなよ面白みも捨ててきたのか、スーパーヒーロー様。
マンチェスト:真面目な話をしてるんだよ、ドレイク。
ドレイク:はーあ、調子狂うな、まったく。
ドレイク:そういうあんたこそどうなんだよ、元スーパーヒーロー様。
ドレイク:ずーっと、あんたの後をつけていたが、何の目的もなくただフラフラフラフラ。
ドレイク:日課のパトロールをするにも、こんなゴーストタウン誰も助ける相手は居ないだろ?
マンチェスト:悪趣味な事をするなよ、スーパーヴィラン。
ドレイク:褒めるなよ、虫酸が走るだろ。
マンチェスト:褒めてない。
ドレイク:知ってる。
マンチェスト:パトロールなんてしちゃ居ないさ。
ドレイク:スーパーヒーローを辞めたから?
マンチェスト:ああ、そうだな。
ドレイク:へえ、あんた、その辺弁えられるやつだったんだな。
ドレイク:じゃあこうやって彷徨いてるのはなにかい、死に場所でも求めてるって?
マンチェスト:その通りだ、冴えているじゃないか、ヴィラン。
ドレイク:……いい精神病院紹介しようか?マンチェスト。
マンチェスト:結構だ。そんな病院があるならお前が通え、ドレイク。
ドレイク:やだもう、どうしよう、泣けてきちゃう。
ドレイク:本当の本当に、死に場所を求めてたっての?
ドレイク:あのスーパーヒーロー様が?そんなみすぼらしい格好で?
マンチェスト:なんとでも言え。その通りだ。
ドレイク:おいたわしや!ああ!なんてことだ、マンチェスト!ああ!スーパーヒーロー様!
ドレイク:どうしてどうしてどうして!?
ドレイク:ホワッツアップ?なんて可哀想なことになってるんだい!?なあ!スーパーヒーロー様!
マンチェスト:そのお前の皮肉にも、応える力ももう無いんだよ、ヴィラン。
マンチェスト:もうお前を責める気にもならない。
マンチェスト:好きなようにしてくれ、ドレイク。
ドレイク:……俺が、僕が、私が、お前のヒーロー生命を絶ったんだぜ?マンチェスト。
ドレイク:憎い相手がこうして、お前の前に現れてる。
ドレイク:お前を挑発してる。どうした、マンチェスト。
ドレイク:スーパーヒーロー様、ほら、お前が砕くべき悪がここにいるぜ?
マンチェスト:君も、弱者なんだろう?ドレイク。
ドレイク:……。
マンチェスト:なら、何も責めないさ。
マンチェスト:私も、何もしない、私は、いや。
マンチェスト:私も、弱者なのだからな。
ドレイク:……つまんない。
マンチェスト:つまらない?
ドレイク:俺とあんたは、言わばカートゥーンよろしく
ドレイク:追って追われて、仲良くケンカするあの猫とネズミのようなものだろ?
ドレイク:つまらないな、今のあんたは実につまらない。
マンチェスト:そうかもしれないな、私は、つまらない人間なんだ。
ドレイク:……やめだ、やめ。はー、まったく。
ドレイク:張り合いのないヒーロー程タチの悪いものはない。
ドレイク:隣、座るぜ、マンチェスト。
マンチェスト:座るなよ。
ドレイク:座るだろ、はじめてあんたと今からヴィランとヒーローじゃなく、弱者同士として話をするんだからな。
マンチェスト:……なんで、話がしたいんだよ、さっきから。
ドレイク:そんな事もわからないのか?マンチェスト。
マンチェスト:……わからないな。
ドレイク:お前、経験ないの?
マンチェスト:なにがだ?
ドレイク:あーもー、いいや、健全性に欠ける話題だった。
マンチェスト:意味がわからないな……
ドレイク:意味なんていつもわかってないだろ?マンチェスト。
マンチェスト:……そうだな、お前の言うことも、やる事も、何一つわからない。
ドレイク:そうだろうなあ、マンチェスト。
マンチェスト:……あと3日で、世界が終わるなら。
ドレイク:終わるなら?
マンチェスト:ひとつ、聞いてもいいか、ビー・ドレイク。
ドレイク:なんでも聞けよ、『相棒』
マンチェスト:…………私は、どうすれば良かった?
ドレイク:……はっは!それはあんた、なにかい、あの、『選択』の時のことを言ってるのかい?
マンチェスト:そうだ。
ドレイク:……今のあんたにゃ、話してもわからないと思うぜ。
マンチェスト:なぜだ?
ドレイク:あんたは、もう、ヒーローじゃあ無いんだろ?マンチェスト。
マンチェスト:…………そうだな、聞く資格すら、無いのかもしれないな。
ドレイク:……イライラするな?(小声で)
マンチェスト:何か言ったか?
ドレイク:ああ!なんだ、この、胸の奥がぐにゃぐにゃとひしゃげる感じは!気持ち悪い!
ドレイク:なんだその、もう、萎んだ出涸らしのような背中は!
ドレイク:イライラする!ああ!イライラする!
マンチェスト:お前は一体なにがしたいんだ、ビー・ドレイク。
マンチェスト:お前は『ヒーロー殺し』、ヒーローのヒーローとしての矜恃を殺して回るのがお前の信念だったんだろう?
ドレイク:その分かったような口ぶりがなおのこと俺をイラつかせるのがわかってないようだな、このクソ正義が。
マンチェスト:わかったような口ぶりも何も、お前は、そうやって俺のことを殺したようなものだろ?
ドレイク:わかってないね、あんたは『何もかも』がわかってない。
マンチェスト:わかってないって……
ドレイク:『正義』とは、なんだ?マンチェスト。
マンチェスト:……は?正義とは、なんだ?だと?
ドレイク:世界の終わりに講釈垂れてやるよ、クソ正義。
ドレイク:答えろよ、質問に、ここからは
ドレイク:『正義』を自覚する時間だ。
マンチェスト:悪人が正義を語るか、世も末だな。
ドレイク:世も末なんだよ。こんな状況じゃなきゃ本当にてめぇを嬲り殺して、ギデオンニュースペーパーに送り付けてるとこだ、あんたのイカれた脳みそをな。
マンチェスト:い、イカれてるのはお前のほうだろう、?ヴィランが何を言ってる!!!
ドレイク:ヴィランが頭イカれてんのは当たり前だほうがバカかよテメーはよぉ!!!
マンチェスト:ぐ……くそ、それは、そうだな……
ドレイク:てめぇもイカれてんだよ、マンチェスト。
マンチェスト:……それは、否定するぞ、ドレイク。
マンチェスト:私はイカれてなどいない。
ドレイク:そうだな、笑っちまうくらい『常識人』だよ、あんた。
マンチェスト:なにがなんなのか意味がわからないぞドレイク!!!なにが言いたいんだ、イカれてるやら常識人やら!!
ドレイク:ヒーローとしては、悲しくなるくらいに常識人で。
ドレイク:人間としては、悲しくなるくらいにイカれてんだよ、あんた。
マンチェスト:……は?
ドレイク:イカれてなきゃいけなかったんだよ、あんたは、『ヒーロー』として。
マンチェスト:ヒーローとして、イカれてなきゃ、いけない……?
ドレイク:あんたは常識人だったんだ、あまりにもな。
ドレイク:あまりにも常識人すぎて、普通すぎて、だから、終わっちまったんだよ。
マンチェスト:待て、待てドレイク、何もわからない、なにが言いたいんだお前は先程から。
ドレイク:『正義』とは、なんだ?マンチェスト。
マンチェスト:『正義』……とは……
ドレイク:あの時出なかった問いの答えを、世界の終わりを前にして。なあ、出せよ、答えを。
マンチェスト:……ヴィランのお前に、それを答えろ、って?
ドレイク:そうだ。誰も見ていない、ただ、あんたと俺との正義問答だ。
ドレイク:今度はオーディエンスも居ない、いくらでも待てる、『正真正銘、最期の質問』だ。
マンチェスト:……正義とは、悪を挫く為の心だ。
ドレイク:てめぇは脳みそがスーパーパワーで出来てんのかよ?
マンチェスト:なっ……
ドレイク:その心が、なんなのかを聞いてんだよ、バカ正義。
マンチェスト:もう少し『易しく』話せないのか?お前は。
ドレイク:はは!世も末だな!ヒーロー様がヴィランに『優しく』話せだとさ!
マンチェスト:簡単にわかりやすく話してくれと言ってるんだ!
ドレイク:その気概がてめーをてめー自身で殺してんだよクソヒーローが!!!!
マンチェスト:なっ……
ドレイク:てめぇは最初から全ての『選択』を間違ってんだよクソ正義!!!!
ドレイク:てめぇは誰を見てんだ!?ああ!?
ドレイク:てめぇが守りたいものはなんだったんだよ、なんだ!?
ドレイク:てめぇがぶちのめしたくて、てめぇが掲げたかった愛ってのは何を守るための何なんだよ!?
ドレイク:あんたを一番愛して、あんたを一番見てるのは誰だエセヒーロー!!!!!
マンチェスト:な、なにを、言って……
ドレイク:正義の正体とはなんだ!?マンチェスト!!!
マンチェスト:正義の……正体……?
ドレイク:『悪』とは!!!『エゴ』の塊だ!!!
ドレイク:その悪の対義語が『正義』だと言うのなら!
ドレイク:てめぇが掲げてる『正義』の正体って奴はなんなんだよ!!!!!
マンチェスト:……正義の、正体とは……。
マンチェスト:その、悪を、悪事を働き、人々を脅かす全てを打ち砕く……
ドレイク:足りねえ!!!!言葉を濁すんじゃねえよ!
ドレイク:ここにはオーディエンスは居ねえ!!!
マンチェスト:……正義、とは。
マンチェスト:……そうだな、そうだ、私は、濁してしまったんだ。
マンチェスト:あの時、それが露呈するのが、恐ろしかった。
マンチェスト:正義の本質を、悪の本質を、その二つの対立がなんなのかを。
マンチェスト:私は言葉に出来なかった。
ドレイク:言えよ、『ヒーロー』。
ドレイク:『悪』を、裁くんだろ。
マンチェスト:……ヴィラン、『正義』とは
マンチェスト:『自分が守りたいものを守ること』だ。
マンチェスト:自身が、悪だと決めたものをくじき、
マンチェスト:自身が、守りたいと思うものを守ることだ。
ドレイク:それを、なんて呼ぶんだよ、『ヒーロー』
マンチェスト:……『エゴ』だ。
マンチェスト:それは、悪というエゴの逆位置にある
マンチェスト:正義という名前の、エゴだ。
ドレイク:じゃあ、てめぇがあの時しなくちゃいけなかった事は、なんなんだよ?『ヒーロー』様。
マンチェスト:貴様の話など、聞かないという選択だ。
マンチェスト:ガバランデインも、あの障害者の彼も
マンチェスト:罪を犯したものを等しく裁く、それが、私という正義が『選ぶべきエゴ』だ。
ドレイク:…………できるじゃねえか、『スーパーヒーロー』
マンチェスト:……お前、なぜここに来た。
ドレイク:そんな事もわかんないのかよ、ヒーロー様よ。
マンチェスト:わからないな。ヴィランの思うことは。
ドレイク: 僕が一番の君のファンだったなんてオチ、読者からしたら最高のフレイバーだろう?
マンチェスト:気持ちの悪い奴だ。
ドレイク:お褒め頂きありがとう。
マンチェスト:褒めてない。
ドレイク:知ってるよ、ヒーロー様。
マンチェスト:もっと、早くに気づくべきだった。
ドレイク:残念ながら、普通に考えたらお前は気づかなかったさ。
ドレイク:世界の終わりくらい、どうしようも無いことにならなきゃ、あんたは気づかないくらいバカだったんだから。
マンチェスト:……皮肉だな。
ドレイク:たっぷりの皮肉さ、この物語は皮肉で始まって皮肉で終わるんだ。
マンチェスト:俺は、まだヒーローか?ドレイク。
ドレイク:誰に、何を聞いてるんだ?クソヒーロー。
マンチェスト:答えを教えてやる、俺はまだ、ヒーローだ。
ドレイク:……へえ、その心は?
マンチェスト:人助けに、資格は要らないんだよ。
ドレイク:いいね、嫌いじゃないよ、そのエゴの塊。
ドレイク:それで、ヒーロー様。あんたは一体、何をしてるんだい。
マンチェスト:何をしてる?いいや、これから成し遂げに行くんだよ。
ドレイク:何を、成し遂げるって?
マンチェスト:最期の最期まで、私はヒーローだったと
マンチェスト:貴様ら悪に見せつけるのさ。
ドレイク:……マンチェスト・バースト。
ドレイク:行けよ、世界の終わりだぜ。
マンチェスト:言われなくてもだ、『ヴィラン』
ドレイク:……最期の時まで、ヒーローであれよ。
ドレイク:「クソスーパーヒーロー」様。
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