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「ギジン屋の門を叩いて」⑤愛をもう一度(2:1:0)

小石川 藤十郎:かつて名を馳せたという名探偵。にんじんにおびえている。
寺門 眞門:店主。男性。店主。男性。いわくつきの道具を売る元闇商人。
猫宮 織部:助手。女性。家事全般が得意です。
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 : 「ギジン屋の門を叩いて 愛をもう一度」
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猫宮 織部:……私が、剥きましょうか?
寺門 眞門:いや、多分そういう問題でもないだろう。
猫宮 織部:…でも。
寺門 眞門:これはまごうことなき、ただのにんじんだよ、猫宮さん。
猫宮 織部:です、かねえ。
寺門 眞門:うむ。流石に私も……「爆発するにんじん」なんていう呪物は見たことも聞いたこともない。
小石川 藤十郎:…ですよね。
猫宮 織部:小石川さん。これ、ポストに入ってたんですよね?
小石川 藤十郎:その通りです。
猫宮 織部:うーん……。
寺門 眞門:悪戯ではないのかね?
小石川 藤十郎:その可能性も、もちろん、あります。ですが。
猫宮 織部:ですが?
小石川 藤十郎:「彼女」は、やるときはやる。と、思うんです。
寺門 眞門:彼女、ねえ。
猫宮 織部:ううーん、ちょっとまだよく理解できてないです、私。
猫宮 織部:もう一度説明をお願いできませんか?小石川さん。
小石川 藤十郎:はい……。
小石川 藤十郎:私の名前は、小石川 藤十郎(こいしかわ とうじゅうろう)。
小石川 藤十郎:この、鹿骨町(ししぼねちょう)で、探偵を生業(なりわい)としています。
寺門 眞門:この時代に探偵とは、珍しいな。
小石川 藤十郎:ええ、よく言われます。
猫宮 織部:なんといいますか、ペットの捜索や、浮気調査のイメージがありますね。
小石川 藤十郎:確かに。そういった仕事が多かったのは事実です。
寺門 眞門:ということは今は違う、と。
小石川 藤十郎:ええ。一応、その、100の事件を解決した、名探偵と、呼ばれては、います。
猫宮 織部:100!!すごいじゃないですか!な、なんかそこまでいくと二つ名とか!二つ名とか無いんですか!?
小石川 藤十郎:一応……「規格外探偵」(きかくがいたんてい)……と。
猫宮 織部:規格外!!!なんかすごくエモい!エモいですね!!
寺門 眞門:エモ?
猫宮 織部:エモーショナルの略です!!
寺門 眞門:なるほど。
猫宮 織部:でも、何が規格外なんですか?
小石川 藤十郎:推理の仕方が、ですね。
猫宮 織部:推理の仕方。
小石川 藤十郎:女子高生の振りをしながら推理したり、猫の気持ちになって推理したり。
猫宮 織部:猫!?女子高生!?
寺門 眞門:それは一体なんの意味があるんだね?
小石川 藤十郎:普段の自分とは違う観点で物事を見ることで、推理力をあげる、といった形ですね。
寺門 眞門:なるほど?
猫宮 織部:他には!他にはどんな違う観点でっ!?
小石川 藤十郎:えっと、中二病とか、社畜とか、ラップとか、ハードボイルドとかですかね。
寺門 眞門:探偵は元々ハードボイルドなのではないのか?
猫宮 織部:旦那様。必ずしもではないのでは?
寺門 眞門:そうか、失敬。
寺門 眞門:しかしラップとは?どういうことなのだね?
小石川 藤十郎:ヨーヨー!チェケラ!ってやつですね。
寺門 眞門:それはふざけているのかね?
猫宮 織部:旦那様!ラップは日本の魂ですよ!?
寺門 眞門:そ、そうか。失敬。
小石川 藤十郎:猫宮さん、わかるクチですね?
猫宮 織部:ええ!もちろんです!ディヴィジョンですよ、ディヴィジョン!
寺門 眞門:わからないんだが。
猫宮 織部:あとでいっぱい説明して差し上げますよ、旦那様!
寺門 眞門:え、遠慮しておこうかな?
小石川 藤十郎:ま、まあ。そういった色々な観点で推理をしているので「規格外だ」と。
寺門 眞門:まあ、確かに「規格」(きかく)の「外」(そと)ではあるな。
猫宮 織部:珍しいですね!
小石川 藤十郎:よく、言われます。
寺門 眞門:しかし、そんな特殊な方法を思いつくのは一種の才能ではあるな。
寺門 眞門:私では、絶対に思いつかない。
小石川 藤十郎:……いえ、元々は完全に普通の探偵だったんですよ。
猫宮 織部:普通?
小石川 藤十郎:ええ。俗にいう「テンプレート通り」の普通の推理しかできない、つまらない探偵だったんです。
寺門 眞門:テンプレートは別に、つまらなくはないがね?
小石川 藤十郎:ええ。それは、その通りです。
寺門 眞門:で、そんな「テンプレ探偵」が何故そんな奇抜な推理法を行うようになったのだね?
猫宮 織部:確かに。
小石川 藤十郎:……私には、助手が居たんです。
猫宮 織部:助手!私も!私も助手ですよ!
寺門 眞門:それも、有能なね。
猫宮 織部:あら、旦那様ったら。
小石川 藤十郎:……助手とは、そういうものですよね。
小石川 藤十郎:背を見て育つ。師の見ている景色に加えて、さらに師の見えていない死角まで後ろから覗き見る。
小石川 藤十郎:だから、師よりも、より鋭角に物事を判断できている。
寺門 眞門:よくある話だな。シャーロックホームズはワトソンが居なければ成立しない。
小石川 藤十郎:ええ。私にも、そういった助手が居ました。
猫宮 織部:その方が、女性だったんですね。
小石川 藤十郎:……男性だと思っていたんですがね。
寺門 眞門:ほう、性別を偽っていたと?
小石川 藤十郎:……はい。
寺門 眞門:気づかなかったのかね?
小石川 藤十郎:……はい。
猫宮 織部:あら……。
小石川 藤十郎:鈍かったんですよね、私は。だから推理小説や、サスペンスドラマのような
小石川 藤十郎:テンプレートをなぞるような推理しかできなかった。
寺門 眞門:ふむ。
小石川 藤十郎:でも、名前だけが膨れ上がり、能力に伴わない知名度を手に入れてしまいました。
寺門 眞門:それは難儀だな。
小石川 藤十郎:……あれは、忘れもしない。10月4日。
小石川 藤十郎:私は、その助手に「規格外」の推理力を鍛えられ
小石川 藤十郎:そして、裏切られたのです。
猫宮 織部:裏切られた……?
小石川 藤十郎:……はい。その助手が、殺人を、犯してしまったのです。
小石川 藤十郎:それも、私の……ために。
寺門 眞門:私のため?
猫宮 織部:どういうことですか?
小石川 藤十郎:私の推理力を高めるためだけに、私が特殊な推理をしなければ解決できない事件を。
小石川 藤十郎:……起こしたんです。
寺門 眞門:……歪んだ愛だな。
小石川 藤十郎:ええ、その通りだと、思います。
猫宮 織部:その助手さんは、そのあと……?
小石川 藤十郎:……なにも、できず、逃がしてしまいました。
寺門 眞門:無能だな。
猫宮 織部:旦那様!
寺門 眞門:失敬。
小石川 藤十郎:いえ、おっしゃる通りです。
寺門 眞門:で、なぜにんじんなんだ?
小石川 藤十郎:……その助手の言葉なんです。ありえないなんてことはない。
小石川 藤十郎:例えば、カレーを作るとして、その時に皮をむいたにんじんが急に爆発をすることもあるかもしれない、と。
寺門 眞門:面白い例えをするじゃないか、その助手は。
猫宮 織部:にんじんが、爆発。
小石川 藤十郎:ええ、するわけがない。するわけがないんですよ。
小石川 藤十郎:だって、生のにんじんの皮を剥いて爆発するだなんて。
小石川 藤十郎:どんな高等技術なんですか。
猫宮 織部:た、確かに。
小石川 藤十郎:あまりにも悩みすぎて、精神科に行くことすら勧められました。
寺門 眞門:ああ、反対側の端っこのほうに一つあるな。やたら騒がしい病院が。
猫宮 織部:今、改装工事中ですよ、あそこ。
寺門 眞門:ほお、なんで?
猫宮 織部:爆発したらしい、と。
小石川 藤十郎:ば、爆発!?
寺門 眞門:病院が爆発するなら、にんじんも爆発するかもしれんな。
小石川 藤十郎:え、ええ……?
寺門 眞門:冗談だ。
小石川 藤十郎:じょ、冗談か。
猫宮 織部:旦那様ったら……。
小石川 藤十郎:……あれ以来、事件解決の依頼も増えました。
小石川 藤十郎:解決件数も1000を超え……
猫宮 織部:1000!?すごいじゃないですか!
小石川 藤十郎:はい……しかし、思うのです。
寺門 眞門:ふむ。
小石川 藤十郎:「これは、私が解決しているのではなく。その助手が解決しているようなものなのでは。」と。
猫宮 織部:なるほど。
小石川 藤十郎:作られた推理力、だと思うのです。底上げをされた、私のものではない、そんな感覚がぬぐえないのです。
寺門 眞門:結局はその助手の「作り上げたテンプレート」をなぞっているだけ、という事だな。
小石川 藤十郎:……はい。
猫宮 織部:それで……今回は、どういったご用件で……?
寺門 眞門:心が落ち着く雑貨なら沢山あるぞ。ドリームキャッチャー980円。
寺門 眞門:チャンダンのお香、590円。LED照明のついた手鏡なんかもある、自分を見つめ直すなら持ってこいだ。
小石川 藤十郎:(割り込むような勢いで)このにんじんが!!!一切腐らないし、萎(しお)れないんですよ!!!
寺門 眞門:は?
猫宮 織部:え?
小石川 藤十郎:1000件の事件を解決していく最中、何度も何度もこのにんじんをどうするべきなのか
小石川 藤十郎:……私も、何もしなかったわけじゃないんです。
小石川 藤十郎:こんなもの、手元に置いてあるからいつまでもいつまでも
小石川 藤十郎:居なくなった助手に心が捕らわれたままなんだ、そうだ、これが、これさえ無ければ!
小石川 藤十郎:これさえ無ければ!きちんと自分が努力した結果を!誇れる!はず!なんだ!
小石川 藤十郎:でも!皮を剥くのも怖いし!腐ったら捨てようとか思ってたんですよ!
小石川 藤十郎:腐らないんですよ!ギジン屋さん!腐らないんですよ、このにんじん!
寺門 眞門:圧がすごいな君は!
猫宮 織部:本物なんですか?そのにんじん。
小石川 藤十郎:触り心地的には本物……ですよね?
寺門 眞門:間違いなく、本物だな。
猫宮 織部:やっぱり皮剥いてみます?
小石川 藤十郎:怖いじゃないですか!腐らないんですよ!?普通じゃないんですよ?
寺門 眞門:ふむ。
猫宮 織部:……で、結局本日はどういうご用件なので……?
寺門 眞門:そこだよ。ナイスだ猫宮さん。
小石川 藤十郎:……「このにんじんってもしかして呪物」なのでは……?
寺門 眞門:なるほどな、それは確かに可能性は無くはない。
猫宮 織部:にんじんの……呪物……?
小石川 藤十郎:もうそれが気になって気になって気になって。
小石川 藤十郎:しょうがないんですよ。
猫宮 織部:それで、縛られてしまっていると?
寺門 眞門:難儀だな、それは、確かに。
小石川 藤十郎:わかってくれますか。ギジン屋さん。
寺門 眞門:くだらないがな?実に。
小石川 藤十郎:割と真剣なんですよ!私!
小石川 藤十郎:最近それで推理も集中できなくて。
小石川 藤十郎:死活問題なんですよ……。
猫宮 織部:スランプ、なんですね。
小石川 藤十郎:そうなんです……。
寺門 眞門:「呪物」だな。(はっきりと言い切るように)
小石川 藤十郎:や、やっぱり!!
猫宮 織部:に、にんじんの呪物なんてあるんですか!旦那様!
寺門 眞門:いいや、聞いたことないよ。
猫宮 織部:どういうことです?
寺門 眞門:正確には、「呪物となり始めている」ものだ。
小石川 藤十郎:呪物と、なり始めている……?
寺門 眞門:うむ。呪物とは何も、最初から「呪物」なわけではない。
寺門 眞門:人の想い、そこに残留する思念、魂、意思、意図。
寺門 眞門:「人」足りえる何かと、「思い」足りえる何かが
寺門 眞門:はじめて「呪物」を「呪物」たらしめる。
猫宮 織部:今回の場合だと、その助手さんの……?
寺門 眞門:ああ、間違いないだろうな。
小石川 藤十郎:その助手の想いが、思念が、今このにんじんを「呪物」にしていっていると……?
寺門 眞門:そういうことだ。
猫宮 織部:ど、どうしたらいいんですか?それって。
寺門 眞門:その思念をとめるしかない。それ以外に呪物化を止める方法はないからね。
小石川 藤十郎:思念を、とめる……。
小石川 藤十郎:それって、つまり……?
寺門 眞門:そのままの意味だ。それこそ、物理的に思念が飛ばせないようにするか。
寺門 眞門:思念の理由そのものを消すしか方法はない。
小石川 藤十郎:こ、殺せってことですか!?
寺門 眞門:簡単に言えば、だがな。
小石川 藤十郎:そ、そんな事できるはずない!殺人を正当化することなんてできないんだ!
小石川 藤十郎:たとえ如何なる理由、意図があろうとも……。
寺門 眞門:「意図」、ねえ。
猫宮 織部:……その助手さんの、思念ってどういったものなんですかね?
寺門 眞門:ん?
猫宮 織部:いや……私、思ったんですけど。呪いって「想い」から生まれるんですよね?
寺門 眞門:ああ、その通りだよ、猫宮さん。
猫宮 織部:「呪い」とか「呪物」って言葉に引っ張られがちで、どうしても「ネガティブ」な想いだと
猫宮 織部:想像しがちだと思うんです。
小石川 藤十郎:……。
猫宮 織部:でも、「呪い」って元々は「のろい」ではなくて「まじない」ですよね。意味として。
寺門 眞門:ああ、まさしく。その通りだ、猫宮さん。
猫宮 織部:「まじない」や「呪術」は、相手を呪うとかそういうことじゃなくて
猫宮 織部:「願望をかなえたい」という力のことを指すと思うんです。
小石川 藤十郎:願望を、かなえたい……。
猫宮 織部:小石川さん。
小石川 藤十郎:は、はい。
猫宮 織部:その助手さんは、小石川さんになんて言ってたんですか?
猫宮 織部:きっと、助手さんが、その「規格外」の推理力を小石川さんに植え付けようとしたのには
猫宮 織部:理由があるんですよね……?
小石川 藤十郎:……「貴方を、愛してる」……と。
猫宮 織部:旦那様。
寺門 眞門:なんだい?
猫宮 織部:このにんじんにかけらている呪いって、悪いものですか?
寺門 眞門:……ふふ、いいや。このにんじんがあることで、そこの探偵がどういう精神状態になるか?は別としても。
寺門 眞門:このにんじんそのものに掛かっている呪いは、悪いものではないと思うよ。
小石川 藤十郎:え……?
猫宮 織部:どんな、呪いなんですか?旦那様。
寺門 眞門:「ずっと、貴方の傍に。」
小石川 藤十郎:なっ……。
寺門 眞門:相当な覚悟だったのではないかね。
寺門 眞門:うだつのあがらない、尊敬する師が、この先苦悩する姿が目に見えている。
寺門 眞門:そして、その解決方法を知っているのが自分だけなのだとしたら。
猫宮 織部:たとえ、それが「殺人」という大罪でも……。
寺門 眞門:それが唯一の方法であるなら、選んでしまうだろうね。「愛」なら。
小石川 藤十郎:だ、だが……。
寺門 眞門:「殺人を正当化することはできない」か。確かにその通りだろうな。探偵。
小石川 藤十郎:そうだ、如何なる理由があれどそれを正当化などできない。
小石川 藤十郎:殺人は、悪だ。
寺門 眞門:目の前で、我が子が大男に殺されそうになっている状況で、その大男を刺し殺した母親がいたとして。
寺門 眞門:その母親にも同じ事が言えるかね。
小石川 藤十郎:そ、それは……っ。それは状況が違う!正当防衛と殺人を同じ秤にかけることなんてできやしない!
寺門 眞門:そうだ、その通りだ。だが「同じ、愛」なのではないかね。
寺門 眞門:その「母親」も、君の「助手」も。
小石川 藤十郎:……っ。
寺門 眞門:「正しい行い」ではないよ。確かにね。しかし、「純粋なる悪」なのだろうか?
寺門 眞門:そうとは言えないかもしれない。少なからず「愛」というものが絡んだ瞬間に、物事とはいつもそうなる。
猫宮 織部:……その助手さんは、きっと本当は「今でも傍に」居たいんですね。きっと。
小石川 藤十郎:……妃山(きさきやま)。
寺門 眞門:おい、探偵。
小石川 藤十郎:……はい。
寺門 眞門:にんじんとは、どういう意味かわかるかね?
小石川 藤十郎:どういう意味……とは?
寺門 眞門:由来だよ、由来。にんじんという名前の由来だ。
小石川 藤十郎:……見当も、つきませんね。
寺門 眞門:はっ。だから助手もそんな凶行に及んだのではないかね。
寺門 眞門:君には徹底的に足りないものがあるな。まったく。
猫宮 織部:旦那様言い過ぎ!言い過ぎ謙信(けんしん)です!
寺門 眞門:武将かね?
猫宮 織部:違います!
寺門 眞門:失敬?
小石川 藤十郎:……どんな、由来なんですか。
寺門 眞門:「人が、参る」と書いて、にんじん。
小石川 藤十郎:…人が、参る……。
寺門 眞門:なぜ人なのだと思う?
小石川 藤十郎:え?
寺門 眞門:どう見ても、人ではないだろう?にんじんは。
小石川 藤十郎:そ、それは、確かに。
寺門 眞門:昔はな、人の形をしていたんだよ。にんじんとは。
小石川 藤十郎:え。
猫宮 織部:そうなんですか?
寺門 眞門:ああ。元々は「朝鮮にんじん」という根が枝分かれしているものを「にんじん」と称していた。
寺門 眞門:その「にんじん」はよくよく根がわかれ、それが「人の形」に近ければ近いほど
寺門 眞門:よりよい「漢方」となると言われていた。
猫宮 織部:へえ……。
寺門 眞門:西洋のマンドラゴラなんていう伝説の代物も、元々はにんじんではないか?なんて説もあるくらいだ。
猫宮 織部:マンドラゴラ!あの声を聴くと死んでしまうというやつですね!
寺門 眞門:ああ。実際には、盗難を恐れた農家の「ホラ」であった、なんて説もあるがね。
小石川 藤十郎:その、それがどういった関係が……。
寺門 眞門:テンプレート通りの推理を教えてくれよ、探偵。
小石川 藤十郎:え?
寺門 眞門:「殺人を正当化することはできない」では、殺人を犯した犯人は「どうなる」のが君の知る
寺門 眞門:「セオリー」なのかね?
小石川 藤十郎:そんなもの、きちんと逮捕され、罪を償うのがセオリー……。
寺門 眞門:この「にんじん」という物の意味は?
小石川 藤十郎:……「人が、参る。」
寺門 眞門:「参る」とは?
小石川 藤十郎:現れる……。
寺門 眞門:「にんじん」に込められた呪いは?
小石川 藤十郎:……「ずっと、貴方の傍に。」
寺門 眞門:「にんじん」にも花言葉があってね。
猫宮 織部:あ、知ってます!確か、「幼い夢」。ですよね?旦那様!
寺門 眞門:さすが猫宮さん、博識だね!
猫宮 織部:えへへー!!
寺門 眞門:……探偵、それぞれのキーワードから、君はどう「推理」する。
小石川 藤十郎:……。
寺門 眞門:私には、こう読み取れるがね?
寺門 眞門:「幼き日より、夢見ていた貴方の手で……
小石川 藤十郎:(割り込むように)私の手で、捕まり、そして、終わりを迎えたい。
寺門 眞門:……夢とは、終わるものだからな。わかってるじゃないか、探偵。
小石川 藤十郎:……すまない、ギジン屋。無理を言って、時間を作ってもらって。
小石川 藤十郎:ここまでおぜん立てをしてもらった。
小石川 藤十郎:また、笑われてしまうな、あいつに。
寺門 眞門:その「にんじん」どうするね?見たこともない呪物だ。買い取ってもいいが?
猫宮 織部:ちょうど28番の棚が空いてます!
小石川 藤十郎:……いいや、遠慮しておくよ。この「にんじん」は、そうだな。
小石川 藤十郎:すべてが解決できたときに。カレーにでもしてやるさ。
猫宮 織部:……ふふ、その意気ですね。
小石川 藤十郎:長々と失礼。お詫びに、そのアクセサリーを買わせてくれ。
小石川 藤十郎:えーっと、なんて名前だったか。
寺門 眞門:「ドリームキャッチャー」、980円だ。
小石川 藤十郎:ありがとう、また来るよ。
0:間
猫宮 織部:旦那様。
寺門 眞門:なんだい?猫宮さん。
猫宮 織部:私、わかりましたよ。
寺門 眞門:んー?
猫宮 織部:「人参」は「人」なのですよね?
寺門 眞門:ああ、そうだね?
猫宮 織部:(眞門の真似をしながら)「人」が「門」をくぐったら、なんになると思う?寺門さん。
寺門 眞門:ふふ、何になるのですか?旦那様?
猫宮 織部:(眞門の真似をしながら)「閃」(せん)、「ひらめく」という意味だ。
寺門 眞門:ふふ。
猫宮 織部:(眞門の真似をしながら)その助手さんが、あの探偵に贈りたかったのは、探偵としての「ひらめき」そのものだったんだね。
寺門 眞門:ふふ、90点だね、猫宮さん。
猫宮 織部:え、ええ!満点じゃないんですか!?旦那様!
寺門 眞門:「閃」という字には、もう一つ意味があるのさ。
猫宮 織部:え……?もう一つ……?
寺門 眞門:「覗く(のぞく)」という意味さ。
猫宮 織部:えっ。
寺門 眞門:この助手、一筋縄では、いかないだろうねえ。愛とはいつも、難儀なものだよ。

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