スレッジハンマー選択肢⓪
選択肢⓪
2つの選択肢を無視し、「君達自身が、君達自身でこの物語の結末を決めた」
0:いつかの、どこか。
益子:ねえ、『獣になる』って、姿かたちも変わってしまうの?
ストルツキン:そうだな。みんな同じような『獣』の姿になる。
ストルツキン:毛は逆立ち、4つ足で駆け回り、顔じゅうをよだれまみれにする。
益子:そっか。じゃあ、えっと
ストルツキン:ん?
益子:ちょっと待ってね。そのまま動かないで。
0:益子、ポケットに入っていたリボンを
0:ストルツキンの毛にくくりつけていく。
益子:よし、いいね、可愛い。
ストルツキン:なんだ?これは。
益子:「リボン」。
益子:もし『獣』のストルツキンに出会ってしまっても
益子:ストルツキンだ、ってわかるように。
ストルツキン:わかってどうする。
益子:うん、もし『いよいよダメ』ってなったら
益子:どうせなら貴方に食べられたいから。
ストルツキン:……食べないよ。
益子:うん。
ストルツキン:食べない。
益子:ふふ、わかった。いくね。
ストルツキン:ああ。それじゃあ、またあとで。
ストルツキン:いーち、にーい、さーん、しーい…………
魚塚:あいつをぶっ殺す!!!ライムを戻さないなら!!あいつをぶっ殺すんだ!
デイアフター:「慈しみ」、決めるのは「御前」だ。
デイアフター:モンストロを一番に否定し、モンストロを遠ざけ、しかし
デイアフター:本能に抗えず、『ニンゲン』を唯一喰らった「御前」が
デイアフター:喰らうのだ。この「人間」を!!!
「慈しみ」:そ、そんな、そんなの、そんなの私には……っ
ストルツキン:いい加減にしてくれ!!!!!!!
0:「モンストロ」を「辞めたい」と願っていた彼の声が響く。
ストルツキン:何が「正しい」とか、それが「本来の形だ」とか
ストルツキン:そんな事、そんな事ばかりだ!!
ストルツキン:なんで本能に抗おうとしないんだよ、
ストルツキン:なんで相手をわかろうとしないんだよ!
ストルツキン:見ろよ、目の前の相手を、見ろよ!!!ちゃんと!!!
ストルツキン:言葉が通じる、考えがわかる、モンストロとか、モンストロじゃないとか
ストルツキン:それが違うものだとか、正しいものだとか
ストルツキン:そんな事の前に、俺たちは、こうして今ここで生きてる……
ストルツキン:生きてるだろう!?
0:しん、と静まり返る。
0:誰も口を開かない。数秒前の彼のこだまが少し反響しているだけだ。
ストルツキン:綺麗ごとかもしれない、
ストルツキン:甘い事を言ってるかもしれないのもわかってる。
ストルツキン:でも、「どうして罪は浄化されなければいけない」
ストルツキン:その罪は、「本当に罪」なのか。
ストルツキン:誰も間違いをおかさないのか、後悔しないはずないんだ。
ストルツキン:でも、そんな間違いを犯した後でも。
ストルツキン:それでも、俺たちは生きてる、生き続けてる。
ストルツキン:そうやって、生きていけるんだよ、俺たちは……。
魚塚:……でも、もうライムは帰ってこないんだろ……。
ストルツキン:「ライムは、どこにいる」
魚塚:え……?
ストルツキン:胸がぽっかり空いたように痛い、俺も、そうだった、益子がもう居ないんだって知って
ストルツキン:ずっとずっと、胸が苦しかった、痛かった、穴が空いていた。
魚塚:……そうだよ、胸が、ずっと痛いんだ。
ストルツキン:それは「そこに、ライムがいたからだろ」
魚塚:……。
ストルツキン:益子の居場所も、俺の胸の中だ。
ストルツキン:だから、「そこに、いるはずだろう」、彼らは。
魚塚:……そんなの、あまっちょろすぎるだろ。
ストルツキン:甘っちょろくても、詭弁でも、そうやって、心に折り目をつけて
ストルツキン:生きていくしかない、いや、そうやって生きれるはずなんだ。
ストルツキン:だから、「慈しみ」、俺は許すよ。
「慈しみ」:……あんた……。
ストルツキン:それだけ、伝えたかったんだ。
「慈しみ」:……ごめん……なさい……
「慈しみ」:うっ……うう……ごめんなさい……。
0:ストルツキンは、自身の毛に結ばれたリボンを外していく。
0:両手いっぱいになった「元リボン」を、魚塚に渡そうとする。
魚塚:これ、は……。
0:「元リボン」を受け取る為に手放したその両手から、「スレッジハンマー」はがらりと倒れる。
ストルツキン:これは、益子がくれたリボンなんだ。
ストルツキン:もしかしたら、これがあれば帰れるんじゃないか?
ストルツキン:「人間界」に。
魚塚:…試してみる価値は、ある。
デイアフター:……では、このダウナーホールの「浄化」はどうなる。
デイアフター:存在する意味は?どうすればよいというのだ。
ストルツキン:そんなもの、それぞれが自由に考えたらいい。
ストルツキン:その「スレッジハンマー」だって、握りかた一つで
ストルツキン:人を殺す道具にも、何かを作る事も、壊す事もできる。
ストルツキン:でも、「使わない」で飾る事も、胸の奥に秘めておくことも、全部、自由でいいはずだ。
ストルツキン:そうだろ?
デイアフター:……。
魚塚:ストルツキン。
ストルツキン:できたか?
魚塚:できた。強く念じるだけで、簡単に人間界へのゲートが開いた。
ストルツキン:そうか。
魚塚:相当強く、人間界に戻りたかった念が残っていたか、
魚塚:……それだけ、何かを導きたかったか、だと思う。
ストルツキン:約束したんだ。
魚塚:約束?
ストルツキン:「人間が何を食べるか」教えてもらうんだよ。
魚塚:……そうか。
「慈しみ」:……私は、許されていいの……?
ストルツキン:俺は許す、だけだ。
ストルツキン:でも、「お前」が「お前」を許すかどうかは、自分で決めたらいい。
ストルツキン:浄化して、消し去ってしまうのではなく、さ。
「慈しみ」:……。
魚塚:……これで、人間界に戻れる。
デイアフター:……上手く戻れる保証などどこにもない。
デイアフター:今まで一人だって、それをしようと思った者など居ない。
デイアフター:罪を抱えたまま、戻る者なんて。
魚塚:……でも、戻るって決めたから。罪と、ライムも、一緒くたに。全部抱えて戻る。
0:益子のリボンだったものが、ゆらゆらと光るゲートとなっている。
0:そっと潜るストルツキンを目で追いながら、魚塚は立ち止まる。
魚塚:ストルツキンと一緒に、人間界に戻るよ。
デイアフター:止めはしない。
魚塚:……お前も来るか?
デイアフター:……。
魚塚:ま、だよな。
0:ゆっくりと、魚塚の身体もゲートへと溶けていく。
魚塚:じゃあな、「ダウナーホール」
0:ダウナーホール地上
0:
0:マッチ缶をこじ開けたその街に、
0:調律師(ちょうりつし)は既に居なかった。
0:音の外れたメッセージボトルで、
0:明日(あす)の夜明けを恨みながらモンストロは
0:口々に捨て台詞を吐いていく。
0:「この街の夜は、愛情を吸っていくんだ。」って。
デイアフター:んしょ……よいしょ……
デイアフター:この、大槌と言うものは、実に重いな……
0:マッチ缶を振ってみると、からからと心臓が跳ねる音がして。
0:その音を、調律師と呼んだ。
0:儚げなフリをした、獣の耳朶(みみたぶ)は
0:穴を空けるにはおしく
0:かと言って鼻腔(びくう)の先は虚空(きょくう)でしかなく
0:透かして見せた未来には、
0:あの子の涙しか存在しなかった。
0:「割いた胸を、何度眺めても、その舌の根は乾かない」
デイアフター:ひとーつ、よいしょ。
デイアフター:ふたーつ、よいしょ。
デイアフター:みーっつ、よいしょ。
0:そうして、愛を何度も捌いては
0:自身を獣と罵る日々は、終わりを告げた。
デイアフター:よっつ、いつつ、むっつ、どっこいしょ。
0:「モンストロ」でもなく「人間」でもなく、
0:「貴方」の選択によって。
デイアフター:ありゃ、杭が一本足りない。実に「ちゅうちょはんぱ」である。
デイアフター:……まあ、いいか。あとは好きな花の種を撒くだけ。
0:ここは「ダウナーホール」。
0:どう生きねばならぬではなく、どう生きられるかを考えることができたなら。
デイアフター:「ばいばい、魚塚、げんきにやれよー。」
0:
0:
0:Aエンディング
0:「ばいばい、ダウナーホール」
0コメント