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リッジエル:8月「15日」、クエンティン中央収容所。特別面会室。
リッジエル:只今より、「ガブリエル・М・ハインスタイン」氏のインタビューを行う。
リッジエル:ここからの会話より、音声記録を行う。
リッジエル:……それでは、インタビューを始めさせて頂きます。
リッジエル:まずは、今回快く取材を受けていただきありがとうございます、「神父」。
リッジエル:ご機嫌は、如何でしょうか。
ハインスタイン:悪くはないね。
リッジエル:それはよかった。
ハインスタイン:しかし、いけ好かない。
リッジエル:……え?
ハインスタイン:まずはきちんと、名乗ったらどうかね?
ハインスタイン:それとも、最近の新聞社ではそういった方針なのかね?「殺人鬼」には名前は明かしてはならない、と。
リッジエル:そ、そんなことはございません。大変失礼いたしました、「神父」。
リッジエル:依頼書にて名前を記載していたので、てっきり把握して頂いていると……。
ハインスタイン:だとしても、だ。
ハインスタイン:きちんと名を名乗るのが、社会としての「当然」ではないのかね?
ハインスタイン:それとも。
ハインスタイン:君にとって私は、名誉を勝ち取る為の、賛否を得る為の、名を売る為の道具に過ぎないのかね?
リッジエル:大変、申し訳ございませんでした、「神父」。
リッジエル:私は、ライクユアタイムス社から参りました、「リッジエル・アイベルク」と申します。
ハインスタイン:……「ガブリエル・М・ハインスタイン」だ、今日は私も君とこうして話せるのを楽しみにしていた。
ハインスタイン:「有意義な時間」にしようじゃないか、リッジエルくん。
リッジエル:ありがとう、ございます。「神父」。改めて、本日は宜しくお願い致します。
ハインスタイン:ああ、お手柔らかに、頼むよ。
リッジエル:……時間も、限られておりますので、早速本題に入らせていただきます。
リッジエル:「ガブリエル・М・ハインスタイン」、職業は「神父」。
リッジエル:貴方の教会の近くに住んでいた住人に聞き込みをしても、全員が総じて「あの人がそんな事をするはずがない」と
リッジエル:信じられないというような印象が強く根付いていました。
リッジエル:「神父」、なぜ貴方は神に仕える「神父」という立場でありながら
リッジエル:その、38名という過去このクエンティン州でも類を見ない人数を殺害するに至ったのでしょうか。
リッジエル:先日行われた裁判でも、貴方は死刑を宣告された。その時にも、反論などはせず死刑を受け入れたと聞きました……
ハインスタイン:気に入らない。取材は終わりだ、リッジエルくん、気を付けて帰りたまえ。
リッジエル:なっ、えっ、な、なぜですか。
ハインスタイン:看守、私をあのかび臭い牢に戻してくれ。
リッジエル:ま、待ってください!「神父」!まだ、まだ取材にお答えいただいておりません!!!
ハインスタイン:38名と、1名の監禁と傷害。
リッジエル:……え?
ハインスタイン:正確には、38名の殺人と、1名の監禁と傷害だ。
ハインスタイン:物事は正確に伝えていただけないかね?リッジエルくん。
リッジエル:……一体なぜ、そのような事を。
ハインスタイン:聞こえなかったかい?リッジエルくん。「物事は正確に伝えてくれたまえ」。
リッジエル:……申し訳ございません。
ハインスタイン:私をがっかりさせないでくれ。「リッジエル」。
リッジエル:が、がっかり?
ハインスタイン:私は今までどの記者からの取材も断ってきた。
ハインスタイン:しかし、今ここに君はいる、そうだろう、リッジエルくん。
ハインスタイン:その意味をしっかりと考えてほしいね。
リッジエル:肝に、銘じておきます。どうか、質問にお答えいただけませんか。
リッジエル:一体なぜ、貴方のような人がこんな大量殺人を
ハインスタイン:君は、「夜の経験」が無いだろう。リッジエルくん。
リッジエル:……今その話は関係がありますか?「神父」。
ハインスタイン:段階も踏めず、甘いピロートークも無しに「夜伽(よとぎ)」は始まらない。
ハインスタイン:なあ。リッジエルくん。
ハインスタイン:下手したら、君は恋人が居た事も無いのではないかね?
リッジエル:質問にお答えください、「神父」。これは貴方への「取材」です。
ハインスタイン:可愛いクマのぬいぐるみを抱きながら、かわいいパジャマを着て布団に入るような「いいこちゃん」なのだろうか。
ハインスタイン:そうしてマザーグースの「おとぎ話」を聞きながら眠っている。
リッジエル:「神父」。
ハインスタイン:それとも、そんな、どこの一般家庭でも行われている「愛の塊」のような夜さえ経験がないのではないのかね?ん?
リッジエル:やめてください。
ハインスタイン:そうか、「リッジエルくん」だなんて呼んでしまうのは失礼だな。
ハインスタイン:本当は、「リッジエルちゃん」なのかもしれない。そうすると、呼称は「リジー」。
リッジエル:お答えいただけないようですね、質問を変えます。
リッジエル:「神父」、貴方は裁判の最中に、このような発言もしていました。
リッジエル:「私はいつでも(神父に遮られる)
ハインスタイン:(記者の台詞を遮る)可哀そうなリジー、誰にも愛されず、愛し方も知らず
ハインスタイン:そうして、大人になっても愛がわからない、可哀そうなリジー、ああ、可哀そうに。
リッジエル:馬鹿にしないでください!!!!!!
リッジエル:一々、私を詮索するような事はやめてください。
リッジエル:これじゃ取材にならない。
ハインスタイン:「話を聞いてくれない」
リッジエル:……なんですか?
ハインスタイン:「質問が進まない」
ハインスタイン:「時間だけが過ぎる」
ハインスタイン:今、君の心の中はどうなっていたかね?
ハインスタイン:私に向けて、どんな感情が芽生えていた?
リッジエル:……この取材を受けていただいたのは、こうして私を使って監獄内での鬱憤を晴らす為ですか?
リッジエル:質問に答えてください、「神父」。私は、「取材」に来たんです。
リッジエル:貴方の遊びに付き合う為に来たわけじゃない。
ハインスタイン:最後まで聞きたまえ、リッジエルくん。
ハインスタイン:今、君は「苛立ち」を覚えている。そうだろう?
リッジエル:……当然、です。「神父」。
リッジエル:と、言いたいところですが……「苛立ち」とは、少し違うような気がします。
リッジエル:そうして、私の質問をはぐらかして、まるで、そう、ですね……。
リッジエル:まるで、私の父のようだ。
ハインスタイン:ほう、「父」?
リッジエル:はい。貴方のおっしゃる通り、私は「愛」というものがよくわかりません。
リッジエル:それは、貴方の言う通り、私が「おとぎ話」すら話してもらえない家庭だったから、というのは、あるとおもいます。
リッジエル:……父と、母は、私が物心つくときには既に「夫婦」ではなくなっていました。
ハインスタイン:ふむ、続けて。
リッジエル:……まるで、「懺悔室」、ですね、ここは。
ハインスタイン:私の「本職」だよ、「リッジエル」
リッジエル:……「父」とは、月一で会っていました。
リッジエル:「父」は、安定した仕事につくことができず、いつも同じ緑色のジャケットをどんな季節でも着まわしていました。
リッジエル:だから、会う時も、安いモーテルの横にあるような、ぱさついたチキンレッグを出すダイナーが集合場所でした。
リッジエル:他愛無い話を、何度も繰り返すようにするんです。
リッジエル:私が逆上がりが出来ない事をからかったり、それこそ貴方の言うように、物心ついても
リッジエル:「くま」のぬいぐるみを抱えて眠るような私の癖を。でもそれは、私との時間を少しでも引き延ばそうとしているような。
リッジエル:そんな印象を受けていました。
ハインスタイン:そう、かね。
リッジエル:はい、「神父」。
リッジエル:だから、今私の中にある感情は、それに近しいものです。
リッジエル:「苛立ち」とも、「怒り」とも違うような。
リッジエル:……私は、この「感情」の名前を知りません。
ハインスタイン:……君の取材を受けてよかったよ、「リッジエル」
リッジエル:……?
リッジエル:あり、がとうございます。
ハインスタイン:面白い返答だよ、リッジエル。
ハインスタイン:質問は、なんだったかな、そうだ、なぜ、殺したか?だったかね。
リッジエル:はい、「神父」。
ハインスタイン:君は、ミサには行く信仰深い人間だったかね、リッジエルくん。
リッジエル:いえ、私は「神」を信じてはいないので……。
ハインスタイン:そうか。それは「善い事」だ。
リッジエル:「善い事」?そんな馬鹿な。
ハインスタイン:「善い事」だよ、「神」を信じなくとも生きる事ができるのは。
ハインスタイン:……最初に殺したのは、「エマ」という女の子でね。
リッジエル:「エマ」……。
ハインスタイン:朝いちばんに彼女は聖歌隊の歌を聞きに来る、そしてそのまま私の読む聖書に耳を傾ける。
ハインスタイン:だが、彼女の目当てはそんな「神の御言葉」ではない。
リッジエル:では、何が目的だと……?
ハインスタイン:私の教会ではね、お祈りが終わったら、クッキーを配っていたんだよ。
リッジエル:クッキー……?
ハインスタイン:ああ、素朴な味のね、時々パンやぶどうジュースだった時もあったが。
ハインスタイン:エマはね、毎週欠かさずそのクッキーを食べに来ていた。
ハインスタイン:その、クッキーを頬張る姿がね、儚く、そして美しかったんだよ。
リッジエル:……美しかったから、殺した、とでも……?
ハインスタイン:リッジエル。
リッジエル:そんな、変態じみた、どこにでもあるような、殺人のテンプレートみたいな理由で
リッジエル:貴方は、貴方は殺人を犯したと……?
ハインスタイン:……リッジエル。
リッジエル:他にも、他にも37名の殺人を貴方は犯している、その全員が、その被害者全員への理由が
リッジエル:そんな理由なのですか?そんな理由で、38名も殺害ができる、と?
ハインスタイン:アルバート・フィッシュ。
リッジエル:……え?
ハインスタイン:ヘンリー・リー・ルーカス。
ハインスタイン:ペーター・キュルテン。
ハインスタイン:ジェフリー・ダーマー。
ハインスタイン:アーサー・ショー・クロス。
ハインスタイン:……知っているかね?
リッジエル:……存じ、あげません。
ハインスタイン:これは、過去5人以上を殺害したシリアルキラーたちの名だよ。
ハインスタイン:リッジエル、如何せん勉強不足ではないかね。
ハインスタイン:仮にも君は「殺人鬼」に取材に来たのだろう?
リッジエル:違います。
ハインスタイン:「違う」?
リッジエル:……私は、「殺人鬼」「シリアルキラー」に取材に来たのではありません。
リッジエル:私は、「神父」。貴方に取材に来たのです。
ハインスタイン:……彼らは、「殺す事に理由などない」と口々に言った。
リッジエル:…貴方も、彼らと同じだと言うのですか?
ハインスタイン:いいや。
リッジエル:……?
リッジエル:では、何故……?
ハインスタイン:「殺人そのもの」に理由があるのではない、と言う事だよ。
リッジエル:要領を得ません、「神父」。それはどういう……
ハインスタイン:「愛された事」が無い私が、何故このような職に就いたのだろうね。
リッジエル:「神父」……?
リッジエル:「愛された事」がない、って……。
ハインスタイン:君は、恋人がいた、もしくは誰かに恋焦がれたことはあるかい?
リッジエル:……関係がある話とは思えません。
ハインスタイン:この世に、「愛」に関係の無い話なんてないんだよリッジエル。
リッジエル:……。
ハインスタイン:話したくないのであれば、話さなくてもいい。
ハインスタイン:想像してみてくれ。
ハインスタイン:その相手のどこが魅力的であったのか。
ハインスタイン:首筋の筋肉の形?
ハインスタイン:それとも温かく、囁くような落ち着きのある声?
ハインスタイン:時には鳥が囀るように歌い、
ハインスタイン:その瞳は、海辺に佇むシーグラスのような透き通る瞳かもしれない。
ハインスタイン:なぜる肌は、白く透き通り。
ハインスタイン:そして、大きく口を開け、シナモンアップルパイを頬張る姿かも知れないな。
リッジエル:「神父」、一体これは何の話なのです。
ハインスタイン:「だが、私には愛とは何なのか」理解ができない。
リッジエル:……「神父」……。
ハインスタイン:愛され方が分からなければ、愛し方もわからない。
ハインスタイン:「聖書」にはこうある、「親の罪は子に報いる」。
ハインスタイン:では、「親の愛は子に」報いらないのだろうか。
ハインスタイン:愛とはどこで生まれ、どのように落ちていき、どうこの胸に宿るのだろう?
リッジエル:親の愛は、子に……。
ハインスタイン:リッジエル。
リッジエル:……なんですか、「神父」。
ハインスタイン:君はなぜ、
ハインスタイン:どのような理由で、
ハインスタイン:私に取材をしたいと思って、
ハインスタイン:ここに来たのかね?
リッジエル:……貴方に、いえ、貴方を、知ってみたいと思ったからです、「神父」。
ハインスタイン:38名を殺害し、そして1名を監禁した私を、かね。
ハインスタイン:……なぜ?
リッジエル:……はじめは、興味本位でした。過去に類を見ない、クエンティン州最大の殺人事件。
リッジエル:世間も貴方の一挙一動に注目しています。
リッジエル:「クエンティン州最大の極悪人」
リッジエル:「38人を殺した悪魔の化身」
リッジエル:サイコパス、狂人なんて言う人達も居ます。
リッジエル:……でも、取材を続ける内に、そんな意見は貴方の事を知らない「メディア」に毒された奴らの声だって気づいた。
リッジエル:貴方を「よく知る」人達は、未だに貴方の事を信じています。
リッジエル:それはもしかしたら、化けの皮を被って、善人を、「神父」を演じていたのかも知れない。
リッジエル:……でも、そうじゃない、そうじゃないんでしょう?「神父」。
ハインスタイン:しかし人々の興味は尽きない。
ハインスタイン:好奇心に終わりはない。違うかね。
リッジエル:そうです、それは、その通りだ。
リッジエル:世間一般は、貴方の起こしたこの事件を「楽しんで」いる。
リッジエル:非日常の、安全圏からの「娯楽」として、貴方の言葉を待っている。
リッジエル:貴方の!「殺人鬼」としての言葉や信念を待っているッ!
ハインスタイン:……「リッジエル、本当は気づいてるのではないかい、君は。」
リッジエル:……。
リッジエル:先ほども言いました、「神父」。
リッジエル:私は、「殺人鬼」としての貴方を取材しに来たわけではない。
リッジエル:「神父」、貴方の事を取材しにきたんです。
ハインスタイン:実に良い!!「リッジエル」!!
ハインスタイン:あの暗い監獄の中で君の書いた記事を見た時から、君は「そうなんじゃないか」と私は感づいていた。
ハインスタイン:「実に有意義な時間」だ、そうだろう、リッジエル。
リッジエル:……そこいらの殺人鬼や、マフィアのような殺しとは違う。
リッジエル:信念や、理念なんていう話じゃない。
リッジエル:私は……い、いや、僕は、貴方の事を全部わかってるわけじゃない。
リッジエル:殺人の事も、理由も、わからない事だらけ、です。
リッジエル:でも、でも。
ハインスタイン:言ってみたまえ。
リッジエル:……こうして話してる今も、ずっとそうだ。
リッジエル:取材の記録も、証言も、全部、ひっくるめて。
リッジエル:……「神父、貴方から殺意を感じられない」。
ハインスタイン:……ふ、ふふ、ふはははは。
リッジエル:貴方は、貴方は今も「それを殺人であるとは思っていない」
リッジエル:いや、違う、「殺人を悪」であると思っていない……?
リッジエル:貴方の行動は、きっと、恐らく、多分、「自分軸」じゃない。
リッジエル:「他人軸」なんだ。違いますか。
ハインスタイン:リッジエル。
リッジエル:……はい。
ハインスタイン:「人を殺したいと思った事は?」
リッジエル:……ありません。
ハインスタイン:では、
ハインスタイン:「愛されたいと思った事は?」
リッジエル:……何度も、あります。
ハインスタイン:では「愛とは何かね」
リッジエル:「わかりません」
ハインスタイン:「君は、愛に満ち溢れた人生を歩めているかね?」
リッジエル:「わかりません、そうだと、思った事が、ありません。」
ハインスタイン:「では、君は幸せかね?」
リッジエル:「……いえ、そう思った事が、あり、ません。」
ハインスタイン:「幸せでない者が目の前に居たら、救ってやりたいと思わないかね。」
リッジエル:「おもいます」
ハインスタイン:「私のような人間に」
リッジエル:……「なってほしくない」
ハインスタイン:「この不幸せな姿に」
リッジエル:「させたくない……させたくない、です。」
ハインスタイン:リッジエル。
リッジエル:「だから、殺して、命を終りにさせてあげた、絶頂の時に、今が、幸せな時に。」
ハインスタイン:エマには無数の痣があった。
リッジエル:「そうして、幸せな時間で止めてあげることが……それが……」
ハインスタイン:リッジエル。
リッジエル:「う……うう……やめて、母さん、ぶたないで」
ハインスタイン:リッジエル。
リッジエル:「なんでもする、もう父さんのところにもいかない」
リッジエル:「許して、許してください、お願い、許して」
リッジエル:「哭かないで、お願い、母さん、お願い」
ハインスタイン:リッジエル!!!!
リッジエル:はっ……。
ハインスタイン:何度も同じ事を言ってしまうがね、「リッジエル」。
ハインスタイン:「君の取材を受けてよかったよ、リッジエル」
リッジエル:……「神父」。
リッジエル:貴方はきっと、恐らく、いや、これは、間違いなく。
リッジエル:「エマ」を殺した時も、それ以外の37名を、殺した時も。
リッジエル:……貴方は変わらず「愛を説く」、「神父」だったのではないでしょうか。
ハインスタイン:……。
リッジエル:違いますか、「神父」。
ハインスタイン:……くく……くくくく……ははは!!!
リッジエル:し、「神父」……違いますか。貴方は、ずっと、変わらずに「神父」なんだ。
リッジエル:そこに、愛がある、愛を守る為に、貴方は、人を殺したんだ。
リッジエル:そこに「殺意」なんて無かった、今もそうだ、今も、貴方の心は、本当は「慈愛」に満ちているんだ。
リッジエル:「神」からの虚無の愛なんかじゃない。
リッジエル:貴方の、貴方が思う、貴方の「愛」のままに、手を下した。
リッジエル:貴方は、世間の言う悪魔なんかじゃない、「神父」のまま、「神父」のままなんだ!!
ハインスタイン:……エマ。
リッジエル:……そう、ですよね、「神父」。
ハインスタイン:リンダ、マイルストン。
リッジエル:……それは。
ハインスタイン:メイ、カナート、マチルダ、トマ、マイムス、ダニー、ニック。
リッジエル:…「神父」、それは、すべて。
ハインスタイン:アリスはよく庭で縄跳びをしていた。
リッジエル:……記録にあります。掘り起こされた遺体には、新品の縄跳びが添えられていた。
ハインスタイン:キムは空を描くのが好き。ヨウコは考古学者になりたかった。
リッジエル:「愛を知らない」子供は、大人になったとき、どう「愛」を知ればいいんですか、神父。
ハインスタイン:クリストラは猫の鳴きまねが上手かった、クーペは笑うとえくぼができるんだ、チャンドラは算数が得意。
リッジエル:あなたは、「人間」なのに、「人間ですら」ない顔もする。
リッジエル:でも、そこに、殺意が見えないんです、神父。
リッジエル:どうして、そんな顔をするんですか、神父。
ハインスタイン:リックソンも、エマのように、クッキーが大好きだった。
リッジエル:神父。
ハインスタイン:全員、一秒たりとも忘れたことなどないよ。
ハインスタイン:人は、私の考えが理解できない。恐れている。
ハインスタイン:それは当然だ、人を殺していい事などない。
ハインスタイン:そんなもの、そんなこと、「聖書に書いていなくとも」誰もが分かりえることだ。
ハインスタイン:では、「なぜ殺してはいけない」
ハインスタイン:では、「なぜ生きねばならない」
ハインスタイン:「祈れば救われる」なんて単純な話ではない、それで腹は膨れるのか。
ハインスタイン:傷が癒えるのか、救済とはなんだ。
ハインスタイン:リッジエル、目の前で酒臭い男が駅のホームでふらふらと歩きながら
ハインスタイン:世の中すべてを恨んでいたら?
ハインスタイン:SNSで悪態をつくことしか出来ない、幼稚な引きこもりの両親がついに息絶えたとしたら?
ハインスタイン:家に帰れば待っているのは、煙草の火と、何もない毎日が続く少女がいたとしたら?
ハインスタイン:そこに「節理」などない。「道徳」は要らない。「神」など居ない。
ハインスタイン:リッジエル。なあ、違うだろう?リッジエル。
ハインスタイン:君は違う。そんな、思考放棄の、責任を手放した、軽々しい愛などを掲げる人間ではない。
ハインスタイン:リッジエル、何故そんな顔をしている。まるで哭いているようだ。
リッジエル:……神父、哭いてなど、居ません。神父。
ハインスタイン:「君も、同じだろう、リッジエル」
リッジエル:……それは。
ハインスタイン:君は、「素晴らしい」よ、リッジエル。
リッジエル:……そんな事、ありません。だって、今の、この話を、どう纏めればいいのかさえ
リッジエル:何を伝えればいいのかさえ、私には、わからない。
ハインスタイン:……リッジエル、そろそろ「時間」だ。
リッジエル:あ……
ハインスタイン:最期に、聞いておきたい事はあるかね。
リッジエル:……貴方は、死刑判決が出た際に裁判所でこう口にしたと聞きました。
リッジエル:「私は、いつでも脱獄することができる」と。
リッジエル:それは、どうするつもりなのでしょうか。
ハインスタイン:そんな事かね。
ハインスタイン:簡単な話だ。
ハインスタイン:「もう、私は脱獄している」よ。
ハインスタイン:リッジエル。
リッジエル:……どういう事ですか。
ハインスタイン:「もう、そこに、私はいるだろ?」
リッジエル:あ……そんな、でも、神父
ハインスタイン:さあ、もう面会時間は終わりのようだ。看守たちの目が痛い。
リッジエル:そんな、そんな事、でも。
ハインスタイン:リッジエル。
リッジエル:でも、そんな、「私にはできない」!
リッジエル:私には、愛された経験も、愛した経験もないのに……っ
リッジエル:私にも、私にもできるのでしょうか、貴方のように、貴方が思う「愛」を。
ハインスタイン:「それを証明して見せたまえ」
ハインスタイン:……そうそう、「聖書」にはこんな言葉があるだろう?
ハインスタイン:まず「隣人を愛せ」、と。

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