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臍帯とカフェイン

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「ギジン屋の門を叩いて」⑳見上げてみれば

 
  

 
 「だいすきだよ、あやかちゃん。」
「これからも、たぶん、永遠に。」
「ずっと。ずっと。」
 

 
 

駒原 綾香:こまはら あやか。猫宮 織部の幼馴染。
尾石貝 茉希:おせっかい まき。暴露しちゃう。女性。大家の娘
寺門 眞門:てらかど まもん。店主。男性。いわくつきの道具を売る元闇商人。
猫宮 織部:ねこみや おりべ。助手。女性。家事全般が得意です。
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 : 「ギジン屋の門を叩いて 見上げてみれば」
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駒原 綾香:来ないで!!
猫宮 織部:あ、あやかちゃん……
駒原 綾香:来ないでよ!!こっちに来ないで!!
猫宮 織部:わ、私だよ、あやかちゃん
駒原 綾香:知らない!あんたなんて知らない!
尾石貝 茉希:ちょっと!久々の再会なんじゃないの!?
尾石貝 茉希:なにその対応まじありえねえ!
駒原 綾香:なんなのよ……もう……なんなのよ!!来ないでってば!
猫宮 織部:あやかちゃん、お願い待って、少し話したいだけなの
駒原 綾香:あんたと話すことなんてないんだよ!!
駒原 綾香:『この、化け物!!』
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尾石貝 茉希:(モノローグ)
尾石貝 茉希:雨というものは、とてもいい。
尾石貝 茉希:それが、彼の口癖だった時期がある。
尾石貝 茉希:きっとそれは、雨そのものの事を指しているのではなくて。
尾石貝 茉希:その雨が降った事で、起こる何かが、彼にとってとても幸せなことなのだったと
尾石貝 茉希:幼き日の私は、そう考えていた。
尾石貝 茉希:
尾石貝 茉希:まだ、鳩羽(はとば)くんが居た頃の私は
尾石貝 茉希:いったいどんな少女であっただろうか。
尾石貝 茉希:どこにでもいる、ただただ普通の少女で
尾石貝 茉希:将来の不安や、哀しいこと、つらくなってしまうほどの何かを
尾石貝 茉希:何一つ考えず、きっとただただ普通の少女で。
尾石貝 茉希: 
尾石貝 茉希:何一つ、『彼』の思う重さや、『彼女』の抱える辛さなんて
尾石貝 茉希:想像することもできない、そんな、ただ普通の。
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駒原 綾香:(モノローグ)
駒原 綾香:猫宮織部という少女は、それはもう活発で溌剌(はつらつ)としていて
駒原 綾香:とても気持ちのいい女の子だった。
駒原 綾香:私は、そんな彼女の「にへら」と笑う顔が好きで
駒原 綾香:どこに行くにもついていった事をよく覚えている。
駒原 綾香: 
駒原 綾香:雨上がりが好きだった。
駒原 綾香:土砂降りの庭が、ずぶぬれのシャベルが
駒原 綾香:「待ってたよ」って囁(ささや)いているみたいに
駒原 綾香:雨粒できらきらと輝いていて
駒原 綾香:それを見る度に猫宮織部という少女は、
駒原 綾香:雨粒以上の目の輝きで、私に言うのだ。
駒原 綾香:「あやちゃん、どろんこになろう!」
 : 
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猫宮 織部:あやかちゃん……
寺門 眞門:見失ってしまったな……
猫宮 織部:どうして、逃げちゃうんだろう……
寺門 眞門:……何か、身に覚えは?
猫宮 織部:ない、です。ずっと、疎遠(そえん)だったから。
寺門 眞門:そうか。
寺門 眞門:いま、茉希が追いかけていってる。
寺門 眞門:私たちもこのあたりを探してみよう。
猫宮 織部:はい。……あの、旦那様。
寺門 眞門:…ん? なんだい。猫宮さん。
猫宮 織部:……私はやっぱり、化け物なのでしょうか。
寺門 眞門:気にすること無い。
猫宮 織部:……。
寺門 眞門:気にする事、ないよ。君は君なのだから。
猫宮 織部:……はい。そうですよね。
猫宮 織部:いくら人を蘇らせてしまっても、私はちゃんと、人間。
 : 
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尾石貝 茉希:(モノローグ)
尾石貝 茉希:雨が降るたびに、彼の髪かくるくるとうねる姿を
尾石貝 茉希:私は、なかば楽しみながらバカにしていたのをよく覚えている。
尾石貝 茉希:『彼女』が来てからというもの、髪の毛のうねりさえも
尾石貝 茉希:どことなく楽しそうなのは、きっと気のせいじゃない。
尾石貝 茉希:きっとそれが、そう、『彼』が自身を『人間』であると
尾石貝 茉希:安定させる一つの、大切な、想いでもあったのだろうと。
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駒原 綾香:(モノローグ)
駒原 綾香:公園の砂場が、どんだけ濡れていようと
駒原 綾香:なんも関係ないみたいに、思い切り全力で
駒原 綾香:お気に入りのワンピースが元々何色だったかも
駒原 綾香:わからないくらいに、泥だらけになっても。
駒原 綾香:
駒原 綾香:私と「彼女」は、いつまでも笑っていた。
駒原 綾香:「彼女」のあどけない、元気な声が今でも私の耳に残っている。
 : 
 : 
0:茉希、綾香に追いつく。
尾石貝 茉希:だぁぁぁから!!!
尾石貝 茉希:逃げんなって言ってんだろうが!!
駒原 綾香:放してよ!
尾石貝 茉希:絶対放さない!ねえ!なんで逃げんの?
尾石貝 茉希:ただ話をしたいだけなんだよ、こっちは
駒原 綾香:あんたとも、『あいつ』とも話すことなんて無い
尾石貝 茉希:何をそんなにつっけんどんにしてるわけ?
尾石貝 茉希:それが流行りなの?はー、うざ
駒原 綾香:は?
尾石貝 茉希:ただ話したいって言ってるだけなのにさ
尾石貝 茉希:あんた呼ばわり、あいつ呼ばわり
尾石貝 茉希:しかも!さっきなんて!猫ちゃんの事、化け物呼ばわり!
駒原 綾香:それは
尾石貝 茉希:それはなんだよ!
尾石貝 茉希:その言葉に猫ちゃんがどんだけ傷ついてるか知ってんのかよ!
尾石貝 茉希:幼馴染(おさななじみ)なんだろ?
尾石貝 茉希:仲良しだったんだろ?
尾石貝 茉希:なんで、そんなあんたが、猫ちゃんを化け物呼ばわりすんだよ
駒原 綾香:……仲良し?
駒原 綾香:それ、『あいつ』が言ったの?
尾石貝 茉希:そうだよ、「駒原 綾香(こまはら あやか)」、あんたでしょ?
尾石貝 茉希:猫ちゃんの、幼馴染。
駒原 綾香:違う。
尾石貝 茉希:はぁ????
駒原 綾香:私は『あんなやつ』の幼馴染なんかじゃない。
尾石貝 茉希:だからぁ……なんなのそれ。
尾石貝 茉希:喧嘩別れでもした?心変わり?なんなの?
駒原 綾香:あんた、あいつが「なんなのか」わかってないの?
尾石貝 茉希:だから!化け物呼ばわりはやめろっての!
尾石貝 茉希:一番気にしてるのは猫ちゃんなんだよ!
駒原 綾香:「化け物呼ばわり」じゃない!!!!
尾石貝 茉希:は?
駒原 綾香:「化け物そのもの」なの!!!
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猫宮 織部:(モノローグ)
猫宮 織部:雨というものは、とてもいい。
猫宮 織部:それが、彼の口癖で。
猫宮 織部:きっとそれは、雨そのものの事を指しているのではなくて。
猫宮 織部:その雨が降った事で、起こる何かが、彼にとってとても幸せなことなのだったと
猫宮 織部:私は、そう考えていた。
猫宮 織部: 
猫宮 織部:カウンター越しに、彼のくしゃくしゃになった髪の毛を眺めると
猫宮 織部:私もきっと今同じなのだと、酷く安心したものだった。
猫宮 織部:いつの間にか、『彼』を私の、私自身の『鏡』のように
猫宮 織部:照らし合わせて、見つめていた。
猫宮 織部:時折『彼』が機嫌がいいと、歌っていた鼻歌を思い出しながら。
猫宮 織部:私は長い夜を超えることも、なんら苦ではなくなっていた。
 : 
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駒原 綾香:「猫宮織部」は、死んだの。
駒原 綾香:私の目の前で。
駒原 綾香:私を助ける為に、川に入って。
駒原 綾香:今でも、忘れられない。
駒原 綾香:雨上がりで、中川(なかがわ)の水嵩(みずかさ)が増していて
駒原 綾香:それを面白がって、二人で河原で遊んでた。
駒原 綾香:先に足を滑らせたのは、私。
駒原 綾香:あの日は、新しい靴を卸したばかりで
駒原 綾香:すこし、ブカブカの靴が、なんだか歩きにくくて
駒原 綾香:でも、びゅんびゅん飛ぶように先を走っていく
駒原 綾香:「織ちゃん」に追いつきたくて
駒原 綾香:私も思い切り走った。
駒原 綾香:でも全然追いつけなくて、
駒原 綾香:「織ちゃん待って」ってわたし何度も何度も呼びながら
駒原 綾香:滑りやすい足場をそのままに走った。
駒原 綾香:「あやちゃん危ない!」って
駒原 綾香:織ちゃんの声が聞こえた時にはもう
駒原 綾香:私は、水の中だった。
駒原 綾香:いっぱい、川の水や、水草がクチの中に入ってきて
駒原 綾香:うまく泳げなくて、
駒原 綾香:たくさん、水を飲んで
駒原 綾香:もうそこからはめちゃくちゃ。
駒原 綾香:織ちゃんが私を支えてくれて
駒原 綾香:私を岸に運んでくれて
駒原 綾香:でも織ちゃんは出てこなくて
駒原 綾香:ようやく見つけた織ちゃんは、
駒原 綾香:水に浮かんでぐったりしてた。
駒原 綾香:顔は青ざめて、息をしてなくて、
駒原 綾香:何度名前を呼んでも、からだをゆすっても
駒原 綾香:「あやちゃん」って私を呼ぶことはなかった。
駒原 綾香:死んだのよ、その時に、私の知ってる「猫宮織部」は。
駒原 綾香:
駒原 綾香:死んだの。
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猫宮 織部:(モノローグ)
猫宮 織部:雨というものは、とてもいい。
猫宮 織部:それが、彼の口癖で。
猫宮 織部:きっとそれは、雨そのものの事を指しているのではなくて。
猫宮 織部:その雨が降った事で、起こる何かが、彼にとってとても幸せなことなのだったと
猫宮 織部:私は、そう考えていた。
 : 
 : 
駒原 綾香:でも、「動き出した」。
駒原 綾香:ぼうって、炎が噴き出したみたいに
駒原 綾香:あたりが明るくなったと思ったら
駒原 綾香:「織ちゃん」が動いてた。
尾石貝 茉希:動いて……た……?
駒原 綾香:私の事、わかってないみたいに、どこも見てないみたいに
駒原 綾香:起きて、動いたの。
駒原 綾香:「あいつの中には、私の知ってる猫宮織部の中には、織ちゃんじゃない何かが」
駒原 綾香:「何かが入ってる。」
駒原 綾香:「そんなの、化け物そのものじゃない。」
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 : 
尾石貝 茉希:(モノローグ)
尾石貝 茉希:きっと私は、私だけがこの「物語」の中で
尾石貝 茉希:誰よりも凡人(ぼんじん)で、何もなくて、何も、「二人」にしてあげられない。
尾石貝 茉希:どうしてこんなにも、二人に「重荷(おもに)」を置いていくのか。
尾石貝 茉希:こんな世界を作った神様を、私は一生恨むことに決めた。
尾石貝 茉希:きっといつか、その神様を、ぶん殴ってやるのだと、心に決めた。
尾石貝 茉希:この、この猫ちゃんを傷つける、この事実を、絶対に、隠してあげたかった。
尾石貝 茉希:この時の私は、そう、本当にそう、思っていた。
 : 
 : 
猫宮 織部:……あやかちゃん。
尾石貝 茉希:ね、猫ちゃん……。
駒原 綾香:こないで、化け物。
猫宮 織部:そっか、うん、ごめんね、あやかちゃん。
猫宮 織部:ずっとずっと、怖がらせちゃってたんだね。
駒原 綾香:……。
猫宮 織部:……茉希ちゃん、あやかちゃんを見つけてくれて、ありがとう。
尾石貝 茉希:なにも……だよ
猫宮 織部:ううん、ありがとう、だよ。
猫宮 織部:旦那様。
寺門 眞門:……なんだい、猫宮さん。
猫宮 織部:聞こえてましたよね?
寺門 眞門:……ああ。
猫宮 織部:私も、聞こえてました。
尾石貝 茉希:猫ちゃん……
猫宮 織部:私、思い出しちゃった。
 : 
 : 
尾石貝 茉希:(モノローグ)
尾石貝 茉希:きっと、明日はいい天気になる。
尾石貝 茉希:土砂降りの雨の中、私は『彼女』に言うんだ。
尾石貝 茉希:そして、彼女は『にへら』と笑いながら私と一緒に窓を見る。
尾石貝 茉希:そんな世界であったなら、よかったのに。
 : 
 : 
猫宮 織部:旦那様、私、「火車憑き」じゃないです。 
猫宮 織部:旦那様、私が、「火車」だったんです。
 : 
 : 
寺門 眞門:(語り)「君は、君の意思で来たのか?それとも「それ」の意思で来たのか?」
寺門 眞門:(語り)私をまじまじと見つめるその手は強く強張っている。
寺門 眞門:(語り)「どちらでも、あるかもしれません。」そう答えた私の手もまた、ひどく強張っていた。
寺門 眞門:(語り)そう伝えた瞬間に、私の身体は「じゅく」と音と立てて燃え上がり
寺門 眞門:(語り)仄暗い(ほのぐらい)この部屋を見渡せるほどに、赤く、白く、照らした。
寺門 眞門:(語り)「この呪いを、解く事はできますか?もし、もしできるなら、私は、私はここで。」
寺門 眞門:(語り)「私、つらいんです。この呪いのせいで、沢山の人を傷つけている。」
寺門 眞門:(語り)「悪魔の子、と揶揄(やゆ)されることもありました。」
寺門 眞門:(語り)「でも、ここに、貴方がいると聞いて。」
寺門 眞門:(語り)「「呪物屋」の、貴方がいると聞いて。」
寺門 眞門:(語り)彼は何も答えない。私から噴き出る炎が彼の手のひらを焼く。
 : 
 : 
猫宮 織部:ごめんね、あやかちゃん。
猫宮 織部:怖がらせたかったんじゃなかったの。
猫宮 織部:そう、私、ずっと見てた、二人の事。
猫宮 織部:雨上がりの中で、楽しそうに遊ぶ二人が
猫宮 織部:羨ましかった。
猫宮 織部:雨そのものじゃない。
猫宮 織部:雨が止んだら、
猫宮 織部:虹が出るでしょう?
猫宮 織部:その虹の中でね、
猫宮 織部:何も気にしないで、泥だらけになる二人が
猫宮 織部:すっごく好きだった。
猫宮 織部:だからいつも、いつも、遠くから見てたんだ。
猫宮 織部:そう、だから、怖がらせたかったんじゃないの。
猫宮 織部:私、ただ、なんとかしたくて。
猫宮 織部:助けたくて、無我夢中で私も川に飛び込んで
猫宮 織部:でも、気づいたら私
猫宮 織部:「中」に入ってた。
猫宮 織部:多分、その時にはもう、「織ちゃん」は死んじゃってたんだ。
猫宮 織部:羨ましくて、大好きで、憧れた、この子の中に
猫宮 織部:入っちゃってた。
猫宮 織部:ごめんね、あやかちゃん。
猫宮 織部:怖かったよね。
猫宮 織部:ごめんね。
 : 
 : 
寺門 眞門:(モノローグ)
寺門 眞門:誰も、何も言えなかった。
寺門 眞門:誰も、動けなかった。
寺門 眞門:その表情を読み取る事も、できないまま
寺門 眞門:猫宮さんは「私、先にお店に戻ります」と一声だけ残して
寺門 眞門:ふらりと、その場を離れていく。
 : 
尾石貝 茉希:……追いかけろ。
駒原 綾香:……え?
尾石貝 茉希:追いかけろよ……
駒原 綾香:な、なに
尾石貝 茉希:追いかけろって言ってんの!!!
駒原 綾香:何、何よあんた、そもそも誰なのよ!
尾石貝 茉希:誰かなんて関係ないんだよ!
尾石貝 茉希:違うだろ!ふっざけんな!
尾石貝 茉希:なんで猫ちゃんが謝ってんだよ!
尾石貝 茉希:ちげーじゃん!
尾石貝 茉希:ちげーよ!全然ちげー!
尾石貝 茉希:くそだ!お前!くそだ!!
尾石貝 茉希:ちがうじゃん!「ありがとう」なんだよ!
尾石貝 茉希:てめぇが!猫ちゃんに!かけるべき言葉は!!!!
尾石貝 茉希:「ばけもの」でも!
尾石貝 茉希:「あんた」でも!
尾石貝 茉希:「こないで」でもない!
尾石貝 茉希:「ありがとう」なんだよ!!!!
尾石貝 茉希:猫ちゃんは、なんも悪くない!
尾石貝 茉希:なんも、悪くないじゃんよ!なんで、そんな猫ちゃんが謝らなきゃいけないんだよ!
尾石貝 茉希:おかしいだろ、そんなの、おかしいんだよ!
尾石貝 茉希:お前が謝れ!猫ちゃんを、傷つけた、お前が!
尾石貝 茉希:お前が謝れよ!!なあ!!!
寺門 眞門:茉希……
尾石貝 茉希:こんなのってないよ、ねえ、眞門さん、こんなのってない
尾石貝 茉希:追いかけようよ、眞門さん、だめだよ、猫ちゃんを独りにしちゃだめ
尾石貝 茉希:絶対だめ
寺門 眞門:……茉希、先に行っててくれ。
尾石貝 茉希:眞門さん……?
寺門 眞門:今、猫宮さんに必要なのはきっと私じゃなく、お前だよ、茉希。
尾石貝 茉希:眞門さん……
寺門 眞門:「友達」である、お前が、必要なんだ。
尾石貝 茉希:……うん。
0:茉希、猫宮を追いかける。
寺門 眞門:……駒原さん。
駒原 綾香:なんなんですか、あなた達……
駒原 綾香:ずっと、考えないようにしてたのに
駒原 綾香:ずっと、忘れてたのに……
寺門 眞門:そう、「私が猫宮織部を殺してしまったかもしれない」から。
駒原 綾香:なっ……
寺門 眞門:そう、だろう?
駒原 綾香:……。
寺門 眞門:ずっと、ずっと、罪悪感と共に生きてきたのだろう、今まで。
駒原 綾香:……。
寺門 眞門:「私が、溺れなければ」
寺門 眞門:「私が、雨上がりに遊びに誘わなければ」
寺門 眞門:「私が、新しい靴を卸していなかったら」
駒原 綾香:やめて……
寺門 眞門:聞け。
駒原 綾香:やめてよ……
寺門 眞門:聞け!!その!お前の罪悪感すらも!
寺門 眞門:「猫宮さん」は、すべて、持っていったんだぞ!
寺門 眞門:「人間」だ、「化け物」だ、区別をするのは大いに結構だ。
寺門 眞門:だがな、その中にある心だけは、その中に燻ぶる想いだけは
寺門 眞門:どうあったって「そのまま」なんだ。
寺門 眞門:猫宮さんは、ずっとあんたの事を考えていたよ。
寺門 眞門:その記憶はもしかしたら、「火車」のものかもしれない、
寺門 眞門:元々の「猫宮織部」の物かもしれない。
寺門 眞門:でも、そんな区別なんて関係なく、あの猫宮さんは
寺門 眞門:あんたの事をずっと、ずっと思っていた。
寺門 眞門:「自身の記憶がない」と言っていたあの「猫宮さん」が。
寺門 眞門:「あんたの事だけは、はっきりと覚えていたんだ!!!!!!!」
 : 
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 : 
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尾石貝 茉希:猫ちゃん。
猫宮 織部:……茉希ちゃん、どうしたの?
尾石貝 茉希:どうしたの?じゃない。
猫宮 織部:……へへ、なに?怖いなあ、もう。
尾石貝 茉希:猫ちゃん、こっち向いて。
猫宮 織部:……やだ。
尾石貝 茉希:やだ。じゃない。
猫宮 織部:やめといたほうがいいよ、だって私、人間じゃないんだよ。
尾石貝 茉希:うん。
猫宮 織部:死んだ人の中に入って、まるでそれが自分みたいに勘違いしてた
猫宮 織部:愚か者だよ。
尾石貝 茉希:うん。
猫宮 織部:火車の呪いで、こんな「人を蘇らせちゃう」ちからを
猫宮 織部:持っちゃったって思ってた。
尾石貝 茉希:うん。
猫宮 織部:でも、違った
猫宮 織部:これが、わたし、私そのもののちからだったんだ。
猫宮 織部:わたしが、わたしを苦しめてたんだ。
尾石貝 茉希:うん。
猫宮 織部:なんにも、言い訳できないよ。
猫宮 織部:だって私が悪いんだもん。
尾石貝 茉希:悪くないよ。
猫宮 織部:悪いよ。憧れちゃったんだもん、だめなことだよそれは。
尾石貝 茉希:ダメじゃない。
猫宮 織部:だって、おこがましいよ、人間じゃないんだよ、私
猫宮 織部:化け物呼ばわりに、傷ついてたけど、違ったんだ。
猫宮 織部:化け物そのものだったんだ。
尾石貝 茉希:いいかげんにしろ!!!!
猫宮 織部:茉希…ちゃん……
尾石貝 茉希:化け物だからなんだ!
尾石貝 茉希:呪いじゃなかったからなんだ!
尾石貝 茉希:猫宮織部本人じゃないからってなんだ!
尾石貝 茉希:関係ない……関係ないんだよ!猫ちゃん!
猫宮 織部:茉希……ちゃん
尾石貝 茉希:私の淹れるホットミルクじゃ、眞門さんは納得しない!
尾石貝 茉希:私が仕事したくないって愚痴れるのは何を隠そう、あんただけ!
尾石貝 茉希:猫ちゃんの作るあさりの味噌汁がこの世で一番おいしい!
尾石貝 茉希:一生懸命ネットスラングを覚えて、色んな所で使おうとしたり!
尾石貝 茉希:本当はキムチ炒飯が好きなのに眞門さんの為に我慢してたり!
尾石貝 茉希:たまには和服じゃなくてワンピース着てみたいって、
尾石貝 茉希:ファッション誌に折り目つけてるのもしってる!!!
尾石貝 茉希:雨の日に髪の毛がうねってて、それを気にしてる猫ちゃんがすき
尾石貝 茉希:その、髪の毛のうねりが、眞門さんと同じで
尾石貝 茉希:それをひそかに喜んでるあんたが、あんたが、
尾石貝 茉希:「人間じゃないわけない」!
尾石貝 茉希:人間って、そうじゃないじゃん、「人間」だから「人間」なの?ちがうよね
尾石貝 茉希:ちがうよ、絶対ちがう
尾石貝 茉希:悪魔だって!妖怪だって!呪いだって!
尾石貝 茉希:相手の事を、こんなにも想って、心が苦しくなって、
尾石貝 茉希:どうあがいたって、しんどくって、やりきれなくて
尾石貝 茉希:でも、誰かの為になんとかしてあげたいって
尾石貝 茉希:そうやって、お節介やきまくって
尾石貝 茉希:「にへら」って、最後には笑って
尾石貝 茉希:それが、それが「人間」なんだよ……
尾石貝 茉希:だから、だから……
猫宮 織部:茉希ちゃん……
尾石貝 茉希:私の「親友」は、ちゃんと、ちゃんと人間だから
尾石貝 茉希:だから、「独り」で泣かないでよ……
尾石貝 茉希:私、私は、嘘つけないんだよ……嘘、つかないよ……
猫宮 織部:茉希ちゃん……茉希ちゃん……
0:二人、抱き合いながら嗚咽が漏れる。
尾石貝 茉希:呪われたままでいい、私、ずっと呪われてたっていい
尾石貝 茉希:嘘つかないよ、猫ちゃん、私が、ずっと、あんたのこと
尾石貝 茉希:人間だって、認めてあげる。
猫宮 織部:うん…うん……
尾石貝 茉希:泣く時もいっしょ、しんどい時も、楽しい時だって
猫宮 織部:うん…
尾石貝 茉希:眞門さんが、いなくなったって、私が、ずっと、ずっと
尾石貝 茉希:一緒にぃ……いるから……
猫宮 織部:うん
尾石貝 茉希:猫ちゃん、大丈夫だから、絶対、私が、一緒に居る
猫宮 織部:うん
尾石貝 茉希:こんな、こんなひどい事する神様たちなんて
尾石貝 茉希:私がぶっ飛ばしてやるから
猫宮 織部:ふふ、なにそれ
尾石貝 茉希:「火車ちゃん」って呼ぶのも、かわいくていいじゃん
猫宮 織部:もう……
尾石貝 茉希:だから……大丈夫……ね
猫宮 織部:うん、茉希ちゃん、茉希ちゃん
尾石貝 茉希:大丈夫、「織部」、帰ろ、ね、一緒に
猫宮 織部:……うん、「茉希」
 : 
 : 
 : 
寺門 眞門:(語り)「君が合羽を着てきてくれてよかった。」
寺門 眞門:(語り)私がそういうと、彼女に一つの玉を持たせる。するとみるみるうちに
寺門 眞門:(語り)身体から噴き出していた炎は、小さく小さく陰って(かげって)いき
寺門 眞門:(語り)彼女の中の「火車」と呼ばれる何かが、幼子のように眠りについていくのがわかった。
 : 
寺門 眞門:(語り)きっと、明日はいい天気になる。
寺門 眞門:(語り)土砂降りの雨の中、私は『彼女』に言うんだ。
寺門 眞門:(語り)そして、彼女は『にへら』と笑いながら私と一緒に窓を見る。
寺門 眞門:(語り)そんな世界であったなら、よかったのに。
寺門 眞門:(語り)門を、車が通っていく。
寺門 眞門:(語り)明らかになった真実は、決して「しあわせなもの」ではなかったけれど。
寺門 眞門:(語り)いつだって、雨上がりには虹が出るのだ。
寺門 眞門:(語り)それに、気づくかどうかで、きっと世界は、優しいものになるのだから。
 : 
 : 
 :火車編 ー完ー

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