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臍帯とカフェイン

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「ギジン屋の門を叩いて」⑲門出を祝う。

藍色 鳩羽:あいいろ はとば。助手。少年。家事全般が得意です。(猫宮織部と兼役)
寺門 眞門:てらかど まもん。店主。男性。いわくつきの道具を売る元闇商人。
猫宮 織部:ねこみや おりべ。助手。女性。家事全般が得意です。(藍色鳩羽と兼役)
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 : 「ギジン屋の門を叩いて 門出を祝う(かどでをいわう)」
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0:ギジン屋店内。
0:一人の少年が、黒電話の受話器を耳に当て
0:誰かと話している。
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藍色 鳩羽:だから、そんな金額じゃひとつもお売りできませんってば。
藍色 鳩羽:いいですか、呪物とは、貴方の欲望を。貴方の闇を。
藍色 鳩羽:誰にも知られないうちに、すべてひっくるめて
藍色 鳩羽:無かったことにできる夢の代物です。
藍色 鳩羽:あなたの人生に値段をつけろって言われたら
藍色 鳩羽:その金額提示できます?できないですよね?
藍色 鳩羽:つまりはそういうことです、はい、では、きちんと5億円お持ちくださいね。
藍色 鳩羽:はい、はい、それでは失敬。
寺門 眞門:誰からだ?
藍色 鳩羽:ああ、旦那様。
藍色 鳩羽:ほら、例のあれですよ、あれ。
寺門 眞門:例の、あれ?
藍色 鳩羽:やだな、覚えてないんですか?この間「呪物を売ってくれー」って
藍色 鳩羽:殴りこんできた、政治家の。
寺門 眞門:ああ、鑢沼(やすりぬま)のところの。
藍色 鳩羽:それですそれです。
藍色 鳩羽:まったく、この期に及んで「5億円なんて金払えんー!まけてくれー!」とか言ってきたんですよ。
寺門 眞門:けしからんな。
藍色 鳩羽:ほんっとですよ。大悪魔「マモン」から呪物を買えるって事がどれだけ素晴らしい事なのか。
寺門 眞門:で、どうなった?
藍色 鳩羽:はい!もちろん、きちんと5億円支払っていただかないと、と。
寺門 眞門:うむ、中々様になって来たじゃないか、鳩羽(はとば)。
藍色 鳩羽:へへ、旦那様にそう褒められるとなんだかこそばゆいですね。
寺門 眞門:では、取り消そう。
藍色 鳩羽:わあ!待って待って!取り消さないで!うれしいです!うれしいですってば!
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猫宮 織部:藍色、鳩羽、さん。
寺門 眞門:そうだ。それが、10年前、私の助手をしていた男の名だ。
猫宮 織部:前の、助手さん。
寺門 眞門:……鳩羽は、孤児でな。
寺門 眞門:私がはじめて会った時は、浮浪者まがいの事をしていたよ。
寺門 眞門:器用な子でね。私の苦手な家事などもすべてこなしてくれていたし
寺門 眞門:呪物の取り扱いも上手かった。
猫宮 織部:呪物の、取り扱い……。
猫宮 織部:鳩羽さんも、呪物商だったということですか?
寺門 眞門:呪物商見習い、といった所かな。
寺門 眞門:実際に私の元について、客人に手練手管で呪物を売っていたよ。
猫宮 織部:……すごい、ですね。
寺門 眞門:……あいつなりに、「捨てられない」ようにするために必死だったんだろうね。
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藍色 鳩羽:旦那様!ホットミルクが入りましたよ!
寺門 眞門:おお、ありがとう、鳩羽。うむ、いいかおりだ。
藍色 鳩羽:あ、それと旦那様用の作務衣、新しいのだしておきましたから
藍色 鳩羽:ちゃんとタンスにしまっておいてくださいね。
寺門 眞門:気が利くじゃないか、鳩羽。
藍色 鳩羽:僕が気が利かなかったことなんてありますか?
寺門 眞門:ないな。
藍色 鳩羽:どっやぁぁぁぁ!!!
寺門 眞門:ど、どや?
藍色 鳩羽:しらないんですか?どや顔のどや、ですよ。
寺門 眞門:……知らん。
藍色 鳩羽:はー、まったく。旦那様?
藍色 鳩羽:ちゃんと世の中の流行りも吸収していかないとダメですよ。
藍色 鳩羽:そりゃもちろん、文学の世界も素敵ですよ?
藍色 鳩羽:芥川とか、太宰とか、かの文豪と酒飲み友達だった、っていうのもわかりますけどね
藍色 鳩羽:旦那様、今や時代はグローバルですよ。インターネットの時代ですよ。
藍色 鳩羽:ちゃんと時代の最先端に食らいついて、未来的商い(みらいてきあきない)をしていかなきゃ!
寺門 眞門:み、未来的……ねえ
藍色 鳩羽:そうです!まずはパソコンやスマートフォンを使えるようになりましょう
藍色 鳩羽:旦那様。ほら、大家さんとこの、娘さんいるじゃないですか。
寺門 眞門:ああ、茉希ちゃんか。
藍色 鳩羽:そうそう、茉希ちゃん。まだ小さいのに、器用にスマートフォンで動画見てたんですよ?
寺門 眞門:う……
藍色 鳩羽:あ~んな小さい子ができるんですもん、大悪魔「マモン」様とあろうお方が
藍色 鳩羽:え?まさか?え?できないとおっしゃる?え?できないんですか?
寺門 眞門:鳩羽、お前最近煽り方が悪魔じみてきたな。
藍色 鳩羽:ありがとうございます。
寺門 眞門:誉めとらん。
藍色 鳩羽:まあ、冗談はさておき旦那様。
藍色 鳩羽:その旦那様の苦手なインターネットのちからも中々どうして侮れなくてですね。
寺門 眞門:うん?
藍色 鳩羽:「金曜箱(きんようばこ)」という呪物がちまたで話題なようなのです。
寺門 眞門:「金曜箱」? 知らん呪物だな。
藍色 鳩羽:「語り場きつね」という掲示板サイトがあってですね。
藍色 鳩羽:そこのオカルト板で騒がれているみたいなんです。
寺門 眞門:どんな呪物なんだ、それは。
藍色 鳩羽:「すべてが謎」
寺門 眞門:謎?
藍色 鳩羽:はい、その箱にはダイヤル式の鍵がかかっていて、正しい数字を入力すると
藍色 鳩羽:「なんでも自分の思う通り」にできる力を得られるとかなんとか。
寺門 眞門:くだらん。呪物とはそんな都合のよい物ではない、
寺門 眞門:願いが叶った分だけ、いい想いをした分だけ
寺門 眞門:どこかの誰かが割を食ったり、自身の何かを犠牲にするのが呪物だ。
藍色 鳩羽:ええ、でも、そんな事「みんな」には関係ないですもん。
寺門 眞門:「みんな」?
藍色 鳩羽:はい、その掲示板の人たちや、何も知らずに「金曜箱」を検索する人々ですよ。
藍色 鳩羽:それが「嘘」なのか「本当」なのか、なんて関係ない。
藍色 鳩羽:話のネタとして、そこに生まれ出でた瞬間に、それはもう「そういった意味」と
藍色 鳩羽:「そういった意義」を持ち始める、そうでしょう?
寺門 眞門:……優秀な助手だな。
藍色 鳩羽:当然ですよ、師匠が素晴らしいですからね。
寺門 眞門:人が居る限り、呪物は無くならない。
寺門 眞門:人が生き続ける限り、呪いは無くならない。
寺門 眞門:感情というものが、想いというものが、呪いを呪いたらしめ
寺門 眞門:呪物を、呪物たらしめる。
藍色 鳩羽:へへ、そう、だからもうこの「金曜箱」という呪物はきっと
藍色 鳩羽:あっても無くても、既にもう「呪物」になっていると思うんですよ。
藍色 鳩羽:この、インターネットという「思考」と「感情」だけを媒体にした海の中で。
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 : 
寺門 眞門:そうして、鳩羽は「金曜箱」という呪物に執着するようになった。
猫宮 織部:「金曜箱」、私も、聞いたことないです。
寺門 眞門:そう、それはそうなんだ。
猫宮 織部:え?
寺門 眞門:「実在しなかった」のだから。金曜箱なんてものは。
猫宮 織部:どういうことですか?
寺門 眞門:鳩羽の言う通り、金曜箱という呪物は「インターネット」という
寺門 眞門:実態のない世界での、ネットミームだったのさ。
猫宮 織部:架空の存在ということですか?
寺門 眞門:そう、誰が言い始めたのか知らないがね。
寺門 眞門:様々な悪意、様々な願望、それらを煮詰めて濃縮したような
寺門 眞門:「人の想い」が作り上げた、架空の呪物。
寺門 眞門:……そうなるはずだった。
猫宮 織部:……はず、だった?
寺門 眞門:「人間」という生き物は、いつだって想像を超えて
寺門 眞門:いつだって、不可能を可能にしてしまうんだ。
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寺門 眞門:鳩羽、いい加減そろそろ寝たらどうだ?
藍色 鳩羽:大丈夫です、旦那様
寺門 眞門:「大丈夫そうに見えないから言っている」のをわかっているな?
藍色 鳩羽:……でも
寺門 眞門:昼間は呪物商、夜は情報収集、ほとんど眠れていないじゃないか。
藍色 鳩羽:でも、今金曜箱のスレッドがすごく盛り上がってきていて。
寺門 眞門:「実在しないかもしれない」のだろう? その呪物は。
寺門 眞門:なぜそこまで執着する、鳩羽。
藍色 鳩羽:かなえたい夢が、あるんですよ。
寺門 眞門:……呪物で、夢を叶えようとするのは……
藍色 鳩羽:わかってます、愚行そのものです。わかってるんです。
藍色 鳩羽:でも、金曜箱なら、もしかしたら。
寺門 眞門:そううまくいくはずがないだろう。
寺門 眞門:私たちが扱っているのは、「呪物」だ。
寺門 眞門:我々がそれを一番に知っているはずだろう?
寺門 眞門:さあ、今日はもう寝よう、そんな馬鹿げた呪物の事など忘れて……
藍色 鳩羽:馬鹿げてなんかない!
寺門 眞門:っ……。 鳩羽……。
藍色 鳩羽:……僕は本気なんですよ、旦那様。
寺門 眞門:そんな電子の箱にかじりつく事が、本気なのか?鳩羽。
藍色 鳩羽:本気、ですよ。こうしてスレッドが盛り上がれば盛り上がるほどに
藍色 鳩羽:人が集まれば集まるほどに、この呪いが受肉していくのがわかる。
藍色 鳩羽:実態を成していくんですよ、実在しないはずだった「呪物」が形を成していく。
藍色 鳩羽:顔も知らない、不特定多数の「誰か」の言葉が、想いが
藍色 鳩羽:「リアリティ」を作り上げていく。
寺門 眞門:……鳩羽、お前がそうまでして叶えたい夢とはなんだ。
藍色 鳩羽:……言えませんよ。
寺門 眞門:「人に言えない」ような事なのか?鳩羽。
藍色 鳩羽:……。
寺門 眞門:鳩羽。今のお前は呪物商と名乗る資格がない。
藍色 鳩羽:なっ……
寺門 眞門:呪いに溺れるな、呪物に溺れるな。
寺門 眞門:強欲に生きるとは、そんな泥にまみれて生きることではない。
藍色 鳩羽:じゃあ、旦那様は! 自分のいのちに代えてでも欲しいものが目の前にあったとき
藍色 鳩羽:我慢することができるんですか、諦めることができるんですか。
寺門 眞門:そういうことじゃない
藍色 鳩羽:そうじゃないですか。諦めろって言ってる。
寺門 眞門:違う、もっとプライドを持てという話だ。
藍色 鳩羽:違わないよ!プライドってなんですか、それがあったら自由に自分の思う通りに生きられるんですか。
寺門 眞門:……道は違えない。
藍色 鳩羽:はっ……道……?
藍色 鳩羽:そんなもの、僕は最初から違えてますよ。
藍色 鳩羽:踏み違えて産まれてきたから、僕はルンペンみたいなものだったんだ。
寺門 眞門:鳩羽、やめよう、不毛だ。
藍色 鳩羽:不毛なんかじゃないですよ。 旦那様、僕は諦めきれないです、この呪物を。
寺門 眞門:……好きにしろ。
 : 
 : 
 : 
猫宮 織部:どうぞ、ホットミルクです。
猫宮 織部:……大丈夫、ですか。旦那様。
寺門 眞門:ありがとう、猫宮さん。……ふう。
寺門 眞門:猫宮さんのホットミルクは、本当に心が落ち着くね。
猫宮 織部:……よかった。
寺門 眞門:だめだね、本当に。
猫宮 織部:え?
寺門 眞門:もう、乗り越えた、割り切った、覚悟ができたと思っていたんだが。
猫宮 織部:……無理に話さなくても、いいんですよ?
寺門 眞門:いや、話したいんだ。
猫宮 織部:旦那様。
寺門 眞門:金曜箱に執着するようになってから、あからさまに鳩羽の心は堕ちていった。
寺門 眞門:でも、私はどこかで鳩羽に甘えていたんだろうね。
猫宮 織部:甘えてた?
寺門 眞門:そう、「こいつならきっと、理解して戻ってこれる」と。
寺門 眞門:……まだ、子供だったのに、な。
寺門 眞門:しっかりもので、器量よし、大人じみた鳩羽に、甘えていたんだ。
寺門 眞門:大人だったんじゃない、大人にならざるを得なかっただけ、だったのにね。
猫宮 織部:……どう、なったんですか、そのあと。
寺門 眞門:……現れたのさ、「金曜箱」が。
 : 
 : 
 : 
藍色 鳩羽:見て!!! 見てよ!!! 旦那様!!!!
藍色 鳩羽:これが「金曜箱」!!!
藍色 鳩羽:僕らが追い求めて、追い求めて、心から欲した存在!!!
寺門 眞門:……鳩羽、お前、これをどこで。
藍色 鳩羽:目の前に現れたんです。ぱぁって、光ったとおもったら、ごとり、と。
寺門 眞門:……目の前に、現れただと……?
藍色 鳩羽:あとは、このナンバーを解明するだけ。でもそれももう、わかってるんですよ。
寺門 眞門:わかってる……だと……?
藍色 鳩羽:ええ、だって、「みんなで設定を考えたんですもの」。
藍色 鳩羽:実態のない呪物なら、「僕たちが設定を考えてやればいい」。
藍色 鳩羽:すっごく簡単な、イージーゲームだったんですよ。旦那様。
寺門 眞門:鳩羽……?
藍色 鳩羽:「そうでしょう? 旦那様。 だって僕は、ただ呪物を売るだけじゃない。」
藍色 鳩羽:「自分で、自分たちで、呪物を作り出したんだ。」
藍色 鳩羽:「それはもう、まごうことなき『神』と同じ。『悪魔』とおなじ。」
藍色 鳩羽:「そうでしょう? ねえ、旦那様。」
寺門 眞門:鳩羽、お前、何を言って
藍色 鳩羽:「ずっと、ずっと怖かったんです、僕。」
藍色 鳩羽:「こうして、お金も、生活も、安心も、安定も、安寧も、全部が手に入った。」
藍色 鳩羽:「でも、僕はどこまで行っても、『捨て子』であることは変わらないんだ。」
藍色 鳩羽:「捨てられるって、ひどいですよね、すごく、ひどい。」
藍色 鳩羽:「だって、もう、必要ないって言われてるんですよ。」
藍色 鳩羽:「この世に居なくてもいい。顔が見れなくてもいい。居てくれとも思わない。」
藍色 鳩羽:「野垂れ死んでもいい。消えてもいい。犬に食われてもいい。」
藍色 鳩羽:「いや、違うな、『どうでもいい』。これが正しいのかもしれない。」
寺門 眞門:鳩羽、お前どうした
藍色 鳩羽:「どうもしないですよ、ねえ、旦那様。ねえ、でもね、ねえ、旦那様。」
藍色 鳩羽:「僕、僕ね、しあわせだったんですよ、すごく、すごく幸せ。」
藍色 鳩羽:「だってね、旦那様が、僕を人間にしてくれたから。」
藍色 鳩羽:「僕ずっとずっと旦那様になりたかったんです、ずっと旦那様に。」
寺門 眞門:何を言ってるんだ、鳩羽、やめろ
寺門 眞門:その、呪物を、金曜箱を置きなさい
藍色 鳩羽:「いやだ。いやだいやだ。いやだ!」
藍色 鳩羽:「いやですよ、だって、だって、僕はこの箱の力で、契約するんだ。」
藍色 鳩羽:「大悪魔『マモン』と同等の、『ベルゼブブ』に。煉獄の王と。契約するんだ。」
寺門 眞門:ベルゼブブだと……?
藍色 鳩羽:「そう。いつか話してくれましたよね、旦那様。」
藍色 鳩羽:「旦那様と、ベルゼブブは、元々同じ一つの悪魔だったって。」
寺門 眞門:それは……そうだ、その通りだ、私は、お前を信用して……
藍色 鳩羽:「そう、うれしかった。でも、二人は別れてしまった。魂が2つに。」
藍色 鳩羽:「人間界に降り立った貴方は、バアル・ゼブブとして。」
藍色 鳩羽:「そして、地獄に残ったもう一人のあなたは『ベルゼブブ』として。」
寺門 眞門:……鳩羽、何をするつもりだ。
寺門 眞門:悪魔と契約? そんなバカげたことはやめるんだ。
寺門 眞門:わかっているだろう?何度も、何度も話したはずだ。
寺門 眞門:悪魔は、魂と引き換えに甘い夢を魅せるだけ、ただそれだけだ。
寺門 眞門:お前の願いが本当に叶うことなんて、ありはしない。
藍色 鳩羽:「叶うよ。」
寺門 眞門:……。
藍色 鳩羽:「この金曜箱は、開けたら僕と、一緒にこの設定を考えた仲間たちのいのちを吸うんだ。」
寺門 眞門:なっ
藍色 鳩羽:「不特定多数の、何人いるかもわからない、たくさんの仲間たちの命をもってして」
藍色 鳩羽:「僕は、この金曜箱のちからで、『悪魔になるんです』」
寺門 眞門:そんなふざけたことが許されるはずがない!
藍色 鳩羽:「許すユルサナイじゃないんだ!僕は、あなたみたいに『強欲』の悪魔になるんだ!」
寺門 眞門:やめろ!! 鳩羽!!
藍色 鳩羽:「金曜箱よ! さあ、僕の呼びかけに応えてくれ!」
寺門 眞門:鳩羽ッッ!
 : 
 :間
 : 
藍色 鳩羽:……え?
0:金曜箱が開かれると同時に、鳩羽の足元が黒く染まり
0:『地獄への門』が開かれていく
藍色 鳩羽:なに……なに、これ、え?
寺門 眞門:……くっ……。
藍色 鳩羽:だ、旦那様……?え?な、なにこれ、か、身体が沈んでいく……ねえ、なんで、なんで!?
寺門 眞門:……呪物が、自分の想い通りに動くことなんて、無いと、教えていただろうが……。
藍色 鳩羽:やだ、やだよ、いやです! いやだ! ちがう! 地獄に行きたいわけじゃない!
藍色 鳩羽:まって! 「ベルゼブブ」! ちがう! こうじゃない!
藍色 鳩羽:違うんだよ! 僕は、ここで! この人間界で! 悪魔になって! それで!
寺門 眞門:無理だ、鳩羽……もう、その呪いは、解除できない……
藍色 鳩羽:いやだ……ちがうんだ! まって!旦那様!助けて!!いやだ!!
藍色 鳩羽:ちがう! 僕はただ! あなたと同じになりたかっただけで! あなたに認めて欲しかっただけで!
0:沈んでいく鳩羽の手を握る眞門
寺門 眞門:……『認めて』いたさ……鳩羽……。
寺門 眞門:私は、お前を、一番に認めていた……。
寺門 眞門:悪魔になんぞ、ならなくても……。
藍色 鳩羽:……旦那様……。
寺門 眞門:この……大バカ者……。
0:鳩羽の身体が、沈んでいく。
藍色 鳩羽:……なんだ、そっか……僕、ちゃんと愛されてたんだ、旦那様に。
寺門 眞門:くっ……鳩羽……
藍色 鳩羽:……呼びたかったんです、旦那様
藍色 鳩羽:……悪魔になって、胸を張って……父さんって
寺門 眞門:呼べばいい……呼んだらよかったんだ……なんだって、何度だって……馬鹿者……
藍色 鳩羽:う……あ……と……う……
0:鳩羽、言い切る前に闇に沈む。
 : 
 : 
 : 
寺門 眞門:……その後、金曜箱は消え、鳩羽は戻らなかった。
猫宮 織部:……。
寺門 眞門:ごめんね、すぐに話してあげられなくて。
猫宮 織部:……そんなの、言えないに決まってますよ。旦那様。
寺門 眞門:……結果的に、鳩羽のその愚行で、何人が犠牲になったのかわからない。
寺門 眞門:でも、それが、きっと、ベルゼブブに力を与えてしまったんだ。
寺門 眞門:だから、鳩羽の為にも、ベルゼブブをこのままにしておくわけには、いかない。
猫宮 織部:……はい。
寺門 眞門:いざと言うときは、僕が「する」から。猫宮さん。
猫宮 織部:え……?な、何をですか。
寺門 眞門:……。
猫宮 織部:(ハッと気づく)絶対だめ!!!
寺門 眞門:……でも
猫宮 織部:ダメです。絶対に、させません。
猫宮 織部:兎村さんを殺すっていう選択肢だけは、絶対に。
寺門 眞門:でも、そのままには……
猫宮 織部:だめです、絶対にダメ。
寺門 眞門:どうして
猫宮 織部:誰も殺させない! 何も悪い事をしてない、帆柄家さんが
猫宮 織部:兎村さんが、不幸になってしまう結果なんて、絶対に選ばせません!
猫宮 織部:私たちは、私たちは「覚悟」しなきゃいけない、私たちのいのちは
猫宮 織部:旦那様、私と、旦那様の命は、二つとも、貴方が自由に使ってください。
猫宮 織部:でも、絶対に、私たち二人以外の命は使っちゃだめ!
寺門 眞門:猫宮さん……
猫宮 織部:「一蓮托生」でしょう!? 私たちは!
猫宮 織部:でも、絶対に、帆柄家さんはだめ……!
猫宮 織部:「親友」を裏切るようなこと、絶対しちゃだめ!!
寺門 眞門:……わかった。わかったよ。
猫宮 織部:絶対の、約束です、旦那様。
寺門 眞門:……ああ。約束する。
猫宮 織部:……旦那様、ひとつ、教えてください。
寺門 眞門:ん、なんだい。
猫宮 織部:弋(いぐるみ)さんと、なんの話をしたんですか?
寺門 眞門:……気づいてたのかい。
猫宮 織部:わかりますよ。貴方の助手なんですから、私。
寺門 眞門:……見えたものも、あるそうだ。
猫宮 織部:私の、過去、ですか?
寺門 眞門:ああ。
猫宮 織部:いったい、何が……?
寺門 眞門:内容はわからないそうだ。でも、一つ言えることは。
寺門 眞門:猫宮さん、君の中には『記憶が二つ存在している』。
猫宮 織部:記憶が……二つ……?
寺門 眞門:そう。かっぱつな、幼少期までの記憶。そして、もう一つ、見る事のできない記憶。
寺門 眞門:その、二つだ。
猫宮 織部:見る事のできない記憶。
寺門 眞門:猫宮さん。
猫宮 織部:……はい。
寺門 眞門:行こう、君の幼馴染を探しに。
猫宮 織部:……はい!
 : 
 : 
 : 
藍色 鳩羽:ねえ、旦那様。旦那様って、「門」っていう漢字が2つも使われてるじゃないですか。
寺門 眞門:いきなりなんだ。
藍色 鳩羽:ふふ、僕ね、門っていう漢字大好きなんですよ。
寺門 眞門:漢字が好き? 変な事を言うやつだ。
藍色 鳩羽:だってね、門って言う漢字の真ん中に、他の漢字が入ると
藍色 鳩羽:まったく別の意味になるんですよ?すごくないですか?これって。
寺門 眞門:門以外だってそんな漢字いっぱいあるだろう?
藍色 鳩羽:門は特別なんですよ!だって、「門出を祝う」って言うじゃないですか。
藍色 鳩羽:「門」はいつでも、何かの始まりなんですよ、旦那様。
藍色 鳩羽:だからきっと、僕も旦那様と出会って、旦那様という「門」を通って
藍色 鳩羽:それで、新しく始まったんだ。
寺門 眞門:ふふ、面白い事を言うな、鳩羽。
藍色 鳩羽:へへ!そうでしょ!
藍色 鳩羽:それにねー、眞門の「眞」が「門」を通ると、どういう意味になるか知ってますか?
寺門 眞門:うん?「眞」が「門」を通ると?
藍色 鳩羽:そう!「満ち足りる」っていう意味になるんですって!
寺門 眞門:「満ち足りる」、ねえ。
藍色 鳩羽:そう、旦那様が満ち足りて、幸せだと僕、しあわせだなぁ!
寺門 眞門:ふふ、なんだ、今日はやけに上機嫌じゃないか。なにか欲しいものでもあるのか?
藍色 鳩羽:やだな!違いますよ!
藍色 鳩羽:僕はただ、へへ、旦那様に「最高の助手だ」って言ってほしいだけなんです!
寺門 眞門:ふふ、なんだ、甘えてたわけだな? 「最高の助手」だよ、鳩羽。
藍色 鳩羽:えへへへ!失敬!

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