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臍帯とカフェイン

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「明日のミニアスケイプ」天井と煙と

 : 「配役」
佐原 健吾:健吾。(けんご)ふりも、続けていればいつかは。
前田 沙雪:沙雪。(さゆき)ふりだとしても、そこに愛があるなら。
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 :「明日のミニアスケイプ」②天井と煙と
 :(あしたのみにあすけいぷ  てんじょうとけむりと)
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佐原 健吾:(モノローグ)
佐原 健吾:「女は、オーガズムに達したふりをするけど、」
佐原 健吾:「男は恋に落ちたふりをする。」
佐原 健吾:かの女優の残したその言葉は、いったいどれほどの男女の共感を得たのだろう。
 : 
前田 沙雪:たばこ、やめたほうがいいよ
佐原 健吾:ん?
前田 沙雪:たばこ。
佐原 健吾:ああ、吸う?
前田 沙雪:ちがうって。やめたほうがいいよ
佐原 健吾:なんで?
前田 沙雪:バレちゃうよ
佐原 健吾:なにが?
前田 沙雪:もう!
佐原 健吾:怒るなよ
前田 沙雪:怒るよ、こっちはバレないようにめっちゃ気を使ってるのに
佐原 健吾:ごめんごめん
前田 沙雪:セックスの後しか、たばこ、吸わないんでしょ
佐原 健吾:そうだよ
前田 沙雪:においでバレるって、奥さんに
佐原 健吾:そうかな
前田 沙雪:そうだよ!
佐原 健吾:なんとかなるよ
前田 沙雪:ならない!
佐原 健吾:はいはい、やめるやめる
0:つけたばかりのたばこを灰皿に捨てる
佐原 健吾:これでいいだろ?
前田 沙雪:うん
佐原 健吾:今日もかわいかったな?
前田 沙雪:すぐそういう事言う
佐原 健吾:いや、かわいかったよ
前田 沙雪:そうやってごまかす
佐原 健吾:ごまかしてないって
前田 沙雪:・・・なら、いいけど
佐原 健吾:うまくなったしな
前田 沙雪:やっぱやだ!
佐原 健吾:ごめんごめんって
前田 沙雪:・・・なんでセックスしたあとだけなの?
佐原 健吾:ん?
前田 沙雪:たばこ
佐原 健吾:ああ、たばこ?
前田 沙雪:そう、普段から吸えばいいじゃん
佐原 健吾:いやいや、こういう時に吸うからうまい
前田 沙雪:なんか、そういうのっていや
佐原 健吾:そう?
前田 沙雪:大事にされてない気がする
佐原 健吾:えー、そんなことないよ?めっちゃ大事にしてる
前田 沙雪:健吾さんの「大事」にしてる、はアテにならない
佐原 健吾:ひどいなあ
前田 沙雪:なんか、発散のために使われてるみたいな
前田 沙雪:そんな気がする
佐原 健吾:それはないよ
前田 沙雪:・・・うそだ
佐原 健吾:めっちゃ可愛がってあげたろ?
前田 沙雪:・・・それは、そうだけど
佐原 健吾:発散のためだけなら、自分が気持ちよくなっておわりだろ?
前田 沙雪:・・・それは、そうなんだけど
佐原 健吾:だろ?
前田 沙雪:なんかやっぱいやだ
佐原 健吾:そう?
前田 沙雪:そう!
佐原 健吾:じゃあ、嫌い?
前田 沙雪:嫌いだったら、ここに居ない!
佐原 健吾:だよねえ
前田 沙雪:そういうところ、やだ
佐原 健吾:でも魅力のひとつでしょ?
前田 沙雪:ほんとやだ
 : 
佐原 健吾:(モノローグ)
佐原 健吾:たった一つの「箱」で人生がかわる。
佐原 健吾:たった一つの「箱」で、人生が、かわってしまう。
佐原 健吾:そうやって、人間は「愛」と「愛」をぶつけて
佐原 健吾:その「愛」が崩れない相手を、探すんだ。
佐原 健吾:お互いに、柔らかく受け止めあえて
佐原 健吾:そして、形をなぞることもできるくらい、深く、あわく、触れ合える。
佐原 健吾:そんなものを、きっと望んでいて。
 : 
佐原 健吾:明日の会議って何時からだっけ?
前田 沙雪:15時から。もう議事録の用意もできてるよ。
佐原 健吾:優秀じゃん
前田 沙雪:そりゃそうでしょ、誰に鍛えられてると思ってるの
佐原 健吾:誰ですかねー?相当優秀なんですかね?その人
前田 沙雪:はいはい、超優秀。頭あがりません。
佐原 健吾:照れるなあ
前田 沙雪:もう
佐原 健吾:ははは
 : 
佐原 健吾:(モノローグ)
佐原 健吾:肌と肌を合わせたあとの、ベッドの「体温」が心地いい。
佐原 健吾:まるで生き物みたいに、シーツがうごめいて、二人を包んでいる。
佐原 健吾:そのまま見上げた天井と、部屋の角を見て、ふと思ったのは、
 : 
前田 沙雪:どうしたの?
佐原 健吾:ん?
前田 沙雪:なんだか、ぼんやりとしてる。
佐原 健吾:ああ、いや、くだらないよ
前田 沙雪:なになに?
佐原 健吾:いやさ、こうして、お前とベッドに二人横になって
佐原 健吾:天井を見上げてるとさ、こう、なんか真四角な箱の中に
佐原 健吾:閉じ込められてるみたいでさ、なんかそれが
前田 沙雪:それが?
佐原 健吾:小さいころにやった「箱庭」みたいだなーって
前田 沙雪:「箱庭」かあ。私も保健室とかでやったことある
佐原 健吾:お、仲間じゃん
前田 沙雪:この部屋が箱庭なのだとしたらさ、今私たちはどういう意味を持つんだろうね
佐原 健吾:意味ねえ
前田 沙雪:そう、意味
佐原 健吾:そりゃもう、「公私ともに最高のパートナー」じゃないのかね?
前田 沙雪:・・・そうかな
佐原 健吾:そうだろ、実際嫁と一緒にいるよりも、うーんと長い時間一緒なわけだし
前田 沙雪:・・・そうだね
佐原 健吾:もう、そりゃもう、一番のパートナーなわけで
前田 沙雪:・・・うん
佐原 健吾:信頼、とか。信用、とか。そういう意味になるんじゃないかね?
前田 沙雪:・・・「愛」とかじゃないんだ。
佐原 健吾:え?
前田 沙雪:いい、なんでもない。
佐原 健吾:・・・「愛」ねえ。
前田 沙雪:聞こえてたんじゃん
佐原 健吾:そりゃまあ。
前田 沙雪:いいよ、別に。忘れて。
 : 
佐原 健吾:(モノローグ)
佐原 健吾:愛や、恋や、その他多数のもろもろ、有象無象。
佐原 健吾:クチに出すのは簡単で、クチに出したら形になってしまうもの。
佐原 健吾:さっき吐き出したはずの煙が、天井に張り付いている。
佐原 健吾:俺が吐き出したものすべてが、「形」になってしまいそうで
佐原 健吾:それが酷く怖く感じて、そのたびに「煙」に巻いてしまいたくなる。
 : 
佐原 健吾:ちゃんと、「大事に思ってるよ」
前田 沙雪:・・・うん
佐原 健吾:ほんとだよ
前田 沙雪:・・・うん
佐原 健吾:キスする?
前田 沙雪:・・・今はいい
佐原 健吾:なんで?
前田 沙雪:うまくできる気がしないから、いま
佐原 健吾:リードするよ
前田 沙雪:そういうことじゃないもん
佐原 健吾:そっか
前田 沙雪:うん
佐原 健吾:このまま寝る?
前田 沙雪:・・・寝ない
佐原 健吾:どうしたいの?
前田 沙雪:・・・ちょっと、手握ってていい?
佐原 健吾:いいよ
前田 沙雪:・・・うん
佐原 健吾:・・・手小さいよな
前田 沙雪:健吾さんが大きいんだよ
佐原 健吾:そうかな
前田 沙雪:うん、そう
佐原 健吾:そうでもないと思うよ
前田 沙雪:わかんない
佐原 健吾:わかんない?
前田 沙雪:うん、わかんない
前田 沙雪:わたし、健吾さんしか知らないし
佐原 健吾:まあ、そうだろうけど
前田 沙雪:「男は、女にとって最初の男になりたがる。」
前田 沙雪:「女は、男にとって最後の女になりたがる。」
佐原 健吾:なにそれ?
前田 沙雪:・・・ねえ、健吾さん
佐原 健吾:ん?
前田 沙雪:・・・やっぱいいや
佐原 健吾:なんだよ?
前田 沙雪:いい。なんでもない。
佐原 健吾:へんなやつ。
前田 沙雪:ねえ
佐原 健吾:ん?
前田 沙雪:なんでいつも、指輪外さないの?
佐原 健吾:外さないよ
前田 沙雪:なんで?
佐原 健吾:失礼じゃん
前田 沙雪:・・・奥さんに?
佐原 健吾:違うよ、君に
前田 沙雪:わたし?
佐原 健吾:そう
前田 沙雪:よくわからない
佐原 健吾:わかるときが来るよ
前田 沙雪:・・・ねえ
佐原 健吾:ん?
前田 沙雪:手を「にぎる」?
佐原 健吾:んん?
前田 沙雪:手を「つなぐ」?
佐原 健吾:「つなぐ」、だろ
前田 沙雪:・・・そっか、へへへ
佐原 健吾:なんだよ、もう
前田 沙雪:寝よっか、健吾さん
佐原 健吾:ああ、そうだな
前田 沙雪:「箱庭」
佐原 健吾:ん?
前田 沙雪:ここが「箱庭」なのだとしたらさ
佐原 健吾:うん
前田 沙雪:健吾さんは、きちんと「癒されて」くれてるのかな
佐原 健吾:・・・もちろん
前田 沙雪:よかった
 : 
佐原 健吾:(モノローグ)
佐原 健吾:「女は、オーガズムに達したふりをするけど、」
佐原 健吾:「男は恋に落ちたふりをする。」
佐原 健吾:かの女優の残したその言葉は、いったいどれほどの男女の共感を得たのだろう。
佐原 健吾:でも、それを演じるのは、誰のためでもなく、相手のためなのかもしれない。
佐原 健吾:この「箱庭」と化した、部屋は見渡す限り私と、彼女の寝息しか漂わない。
佐原 健吾:誰にも明かせぬまま、「箱庭」は、今日という「夜」に溶けていく。

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