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不透明少女連盟(1:2:0)

【配役】

◆アキラ 男性

 ➡スカートとブレザーを着た、女子高生の恰好をする男子生徒。

  何も気にせず、彼女はナンバーガールの話を続ける。


◆あかり 女性

 ➡男になりたかった女子生徒。言葉遣いは乱暴で一人称は「俺」

  いじめを受けている。


◆はーちゃん 女性

 ➡いじめの主犯格の女子生徒。

  言葉遣いも態度も乱暴で、ヒエラルキーの頂点にいる。

  携帯にはストラップがジャラジャラ。いつも音楽を聴いている。


※この物語は上記の性別を必ず順守し、上演してください。

 性別変更不可です。




【あらすじ】

オルタナティヴ・ロック。ナンバーガールの話ばかりするスカートを履いた男子生徒「アキラ」。

「はーちゃん」からいじめられている「あかり」。

青春って、なんなんだろうね。よくわからないものに憧れて、そうか、こうやって大人にならなきゃいけないんだ。

気持ち悪いな、それって。それって、すごく、気持ち悪いんだ。私も、俺も。全部。



◆◆場面◆◆(放課後の教室)12月15日

アキラ:ナンバーガールのドラムはアヒト・イナザワじゃないと絶対に駄目なのよ


あかり(M):サイコパスとスーサイドの夜更けだ。


アキラ:ボーカルの向井秀徳(むかい しゅうとく)の声は、あのオルタナティヴ・ロックの中では「歌声」じゃなく「楽器」ってことなのよね


あかり(M):大人達は言う。

あかり(M):「青春を謳歌せよ」って。

あかり(M):青春というものに囚われて、青春というものに透明感を投影している。


アキラ:ねえ、聞いてんの?


あかり:五月蠅いな、ちょっと黙ってろよ。


あかり(M):目に見えない青春の「軌跡」ってやつを、未だに信じて、あんたらは生き延びてる。

あかり(M):上等だよ、って中指立てた俺や、俺たちを見ながら、スカートの下の白い太ももに

あかり(M):透明少女の夢を見るんだ。


アキラ:ZAZEN BOYSも嫌いじゃないけどね。結局、向井が表現したかった「透明少女」という概念

アキラ:いや、モラトリアムの権化は向井一人で生み出せる代物じゃなかったってことよね。


あかり:五月蠅いって言ってるだろ。


はーちゃん:ぶつぶつぶつぶつきもちわりぃんだよ!!!

はーちゃん:言いたい事があるなら面と向かって言ってこいよ。


あかり(M):「透明人間」というものをご存じだろうか。

あかり(M):目には見えず、でも、そこに存在する。

あかり(M):大人たちの言う、少女や少年の透明性というやつはきっとこの透明人間と同じだ。


アキラ:学校なんてくだらないもの、なんで存在してるんだろ、あたし、そこんところが良くわかんないのよね。


あかり:くだらないって思えてるなら上等だろ、そういう感情を芽生えさせる場所としてとても有効じゃないか。


はーちゃん:お前が!一番くだらねえだろうが!


あかり(M):放課後の、夕陽が射す教室で。

あかり(M):カーテンはふわりと漂い、12月の冷たい風だけが時計の短針に触れる。

あかり(M):校内放送が終わる。もう下校時刻はとっくに過ぎていて、開けっ放しの窓からは

あかり(M):野球部の悲鳴にも似た応援歌が聞こえてくる。

あかり(M):この教室は檻そのものだ。


はーちゃん:なんとか言ったらどうなんだよ、なあ、無視してんじゃねえよ。


あかり(M):透明人間を捕まえて置くための、檻、そのものだ。


アキラ:NAMUAMIDBUTSUの曲の中で冷凍都市って言葉が出てくるわよね、この歌詞が私大好きなの。


はーちゃん:無視、してんじゃねえよ。


あかり(M):俺の目の前には、ずっと、好きなバンドの話ばかりするスカートを履いた男がひとり。


アキラ:はーあ、あたしに楽器が弾けたらな。


あかり(M):そして、俺の後ろには執拗に俺のイスを蹴る「はーちゃん」がひとり。

はーちゃん:なんとか言えよ、なあ!!

あかり(M):この物語は、きっとこうやって始まる。

あかり(M):男になりたくて仕方ない俺が、女になりたくて堪らないバンドバカと、

あかり(M):「はーちゃん」からの虐めに耐え抜く物語。

アキラ:ねえ、あかり、やっぱりあたしとバンドやりましょうよ、ね、そうしましょ。

あかり(M):いや、もしかすると、そうでは無いのかもしれない。

あかり(M):はじまりすらしない、ただの妄想なのかも。


アキラ:そうね、バンド名はね、えっとね、待って、いいの考えるから


はーちゃん:本当、ずっとずっと気持ち悪いんだよおまえ、なあ。


あかり(M):妄想ですら、烏滸がましいかもしれない。


アキラ:そうね、バンド名は……


あかり(M):(タイトルコール)

あかり(M):「不透明少女連盟」(ふとうめい-しょうじょ-れんめい)


◆◆場面◆◆(あかりのモノローグ)12月14日


あかり(M):1999年、7の月。アンゴルモア大王が襲来し、世界は破滅すると言われていた。

あかり(M):実際に1999年の7月に起きたのはナンバーガール、ファーストアルバム「スクールガール・ディストーショナル・アデクト」が無事販売を開始しただけだった。

あかり(M):同年に発表され、多くのオルタナティヴ・ロッッカーズ達に影響を与えた「透明少女」という楽曲はそのアルバムの顔とも言えた。

あかり(M):滅びてしまえばよかったと思う、そんなアルバムも、こんな国も星も。

あかり(M):破滅して、本当に何もかも無くなって、本当の意味での透明になってしまえばよかったのだ。

あかり(M):俺の吐く息と同じみたいに、透明なままで居たらよかったのだ。



◆◆場面◆◆(通学路・朝)12月14日


アキラ:ギターの才能がまったく無い事が問題よね、あたし。


あかり:俺はバンドはやらん。


アキラ:あかりは何がやりたい? あたしはね、作詞。


あかり:作詞はバンドのポジションじゃないだろ。


アキラ:作詞とボーカルだけやってられないかな?


あかり:俺はバンドやるなんて言ってないから、できないし、そもそも。


アキラ:できるよ、やろうと思えば。


あかり:ならやろうと思えよ、ギターを。


アキラ:作曲ができる人も居たらいいんだけどな。


あかり:聞けよ、話を。


アキラ:やっぱりやるからにはオリジナル曲が欲しいでしょ、バンドなら。


あかり:それはまず演奏できるやつらが至る境地だよ。


アキラ:でも、あたし、あんたしか居ないからなぁ、話せるの。


あかり:……やらないよ、俺は。


あかり(M):いじめが始まったのは、中学の入学式からだった。

あかり(M):性別がチグハグだと揶揄(からか)われたのが初めだったように思う。

あかり(M):馬鹿にされ、ふさぎ込み、唯一耳からの侵入を許したのが音楽だった。

あかり(M):オルタナティヴ・ロックの、特にナンバーガールというバンドの曲は

あかり(M):他の音楽と比べても、耳心地が良く、我の強い歌詞は心を潤していた。


はーちゃん:どけよ。


あかり(M):わざとらしく肩をぶつけたこの女が、そのいじめの元凶だった。

あかり(M):皆から「はーちゃん」と呼ばれるその女は所謂スクールカーストと呼ばれるものが存在するのであれば

あかり(M):間違いなく頂点に君臨している、俺やこの変態スカート男では太刀打ちできない相手だ。


アキラ:冷凍都市っていう単語をオマージュとして使いたいのよね、それこそ向井の魂を受け継いでるっていう

アキラ:わたしなりの返答なのよ、それって。


あかり:おい、やめとけって。


はーちゃん:朝から気色悪い話やめてくれる、あと、どけよ、早く。


あかり(M):睨みつけるはーちゃんの切れ長な瞳は、それでも美しいと思えるものだった。

あかり(M):その美しさが、なおの事、この心を惨めなものにさせるとも思った。

あかり(M):アキラは変わらずブツブツと念仏のようにナンバーガールの話をしている。

あかり(M):俺は、なるべく心を落ち着かせようといつも深呼吸をする。

あかり(M):吸って、吐いて、吐いて、吸って。

あかり(M):俺が、もっとちゃんと間違いの無い女の子に「生まれて」いたなら。

あかり(M):俺が、もっときちんと、おかしさの無い男の子に「生まれて」いたなら。

あかり(M):この状況だって、今よりもう少し、マシなものになっていたのかも知れない。

あかり(M):ほんの少しでも、マシなものになっていたのかも知れない。

あかり(M):吸って、吐いて、吐いて、吸って。

あかり(M):そうやって俺「たち」は、いつもこの学校では「透明人間」だった。



◆◆場面◆◆(はーちゃんのモノローグ)12月15日


はーちゃん(M):サイコパスと、スーサイドの夜更け。

はーちゃん(M):7歳の頃から聞き続けた音楽を、私はそういうキャッチコピーを付けた。

はーちゃん(M):気がくるって、発狂しそうな自分自身と、希死念慮の事を考える真夜中につけた名前だ。

はーちゃん(M):ずっと、あいつに出会うまでは私は孤独だった。

はーちゃん(M):周りに誰が居ようが、誰が離れようがそれは変わらず、私はただ孤独だった。

はーちゃん(M):それを埋めるのは、いつも音楽だったし、その音楽は、より一層私の心をかき乱していた。

はーちゃん(M):だから、嬉しかったと同時に、酷く裏切られた思いだった。

はーちゃん(M):私は裏切られたのだと思った。明確に、裏切られたのだと。

はーちゃん(M):いや、違うな、そんなんじゃない。私は、私自身の心の狭さも

はーちゃん(M):何も言わず、一歩進んでいった「あいつ」の事も許せない、愚かな女なのだ。



◆◆場面◆◆(事件)12月15日


あかり(M):12月15日、その日、はーちゃんは「やり過ぎた」という顔をした。

あかり(M):はじめて見たかもしれない、少し焦った顔だ。

あかり(M):いつも背中から椅子を蹴り続ける程度だった彼女の暴力は、珍しく正面から降りかかってきていた。

あかり(M):そのつもりがあったのか、無かったのか、投げられた筆箱に入っていたコンパスの針が

あかり(M):右の下瞼に突き刺さる。それは、他の生徒からすれば「事件」と呼べる出来事であっただろう。

あかり(M):そんな時も、アキラは変わらずナンバーガールの話をしていた。

あかり(M):「眼帯も、オルタナティブの観点で見れば恐らくロックだ」なんて、意味のわからない事を言っていたのにも呆れた。



◆◆場面◆◆(はーちゃんのモノローグ)12月15日


はーちゃん(M):12月15日。やりすぎたと思った。

はーちゃん(M):苛立ちを隠しながら放った筆箱は、隠しきれていない私の心を現したのか。

はーちゃん(M):見事流血事件の引き金となった。

はーちゃん(M):教室がざわめく。効果音のようにざわざわと少しずつ音が大きくなるのがわかる。

はーちゃん(M):やりすぎたと思った。でも、それでもこの心は晴れなかった。

はーちゃん(M):当の本人が、何も言い返してこない事にも、苛立ちは膨れていった。

はーちゃん(M):まるで私なんて居ないみたいに、ただスルーされている。

はーちゃん(M):ざまあみろと思った。でも、同時に、悲しくもなった。

はーちゃん(M):痛みを感じてもなお、私の言葉は届かないのだ。



◆◆場面◆◆(全校集会)12月16日


はーちゃん(M):12月16日。全校集会。私は壇上に呼び出された。

はーちゃん(M):私の起こした流血事件は、いじめではなく事故として決着を迎え、

はーちゃん(M):頭のいかれた女教頭の発案で全校生徒の前で謝罪するという珍事を引き起こした。

はーちゃん(M):だるそうに座る生徒。にこやかに私を見る、これでいいのだと決めつける教師たち。

はーちゃん(M):へどが出ると思った。そこには、大人たちと子供達の押し付け合いがすでに始まっている。

はーちゃん(M):青春と、その青春を謳歌させようとする大人の、そして、何も考えていないからっぽの頭たちの。

はーちゃん(M):「2年3組、出席番号6番、桐島、檀上にあがりなさい」

はーちゃん(M):女教頭の嫌に透き通る声が体育館に響く。響くたびに、揺れる窓すらも気味が悪かった。

はーちゃん(M):「はい。」と一言返事をすると、「あいつ」は壇上に上がってくる。

はーちゃん(M):他の生徒たちが、なんだかいつもより引いているようにも感じる。

はーちゃん(M):「あいつ」の手には、なぜか、拡声器が握られていた。



◆◆場面◆◆(放課後の教室)12月15日 はーちゃんの見ていたこと


アキラ:(ぶつぶつと、聞こえるか聞こえないかの大きさで独り言を話す)

アキラ:ナンバーガールのドラムはアヒト・イナザワじゃないと絶対に駄目なのよ


はーちゃん:あいつ、また独り言言ってる。


アキラ:(ぶつぶつと、聞こえるか聞こえないかの大きさで独り言を話す)

アキラ:ボーカルの向井秀徳(むかい しゅうとく)の声は、

アキラ:あのオルタナティヴ・ロックの中では「歌声」じゃなく「楽器」ってことなのよね

アキラ:ねえ、聞いてんの?


はーちゃん(M):独り言をぶつぶつと話す、スカートを履くアキラの椅子の背を蹴る。

はーちゃん(M):何度も、何度も小突きながら、私は、私の中にいるキラキラしていたアキラを蹴る。


アキラ:(ぶつぶつと、聞こえるか聞こえないかの大きさで独り言を話す)

アキラ:ZAZEN BOYSも嫌いじゃないけどね。結局、向井が表現したかった「透明少女」という概念

アキラ:いや、モラトリアムの権化は向井一人で生み出せる代物じゃなかったってことよね。


はーちゃん:ぶつぶつぶつぶつきもちわりぃんだよ!!!

はーちゃん:言いたい事があるなら面と向かって言ってこいよ。


アキラ:(ぶつぶつと、聞こえるか聞こえないかの大きさで独り言を話す)

アキラ:学校なんてくだらないもの、なんで存在してるんだろ、あたし、そこんところが良くわかんないのよね。


はーちゃん:お前が!一番くだらねえだろうが!

はーちゃん:なんとか言ったらどうなんだよ、なあ、無視してんじゃねえよ。


アキラ:(ぶつぶつと、聞こえるか聞こえないかの大きさで独り言を話す)

アキラ:NAMUAMIDBUTSUの曲の中で冷凍都市って言葉が出てくるわよね、この歌詞が私大好きなの。


はーちゃん:無視、してんじゃねえよ。


アキラ:(ぶつぶつと、聞こえるか聞こえないかの大きさで独り言を話す)

アキラ:はーあ、あたしに楽器が弾けたらな。


はーちゃん:なんとか言えよ、なあ!!

はーちゃん:気持ちわるいだよおまえ、男がスカートなんか履いて!!

はーちゃん:小学校まではお前普通に男だったろうが!!


アキラ:(ぶつぶつと、聞こえるか聞こえないかの大きさで独り言を話す)

アキラ:ねえ、あかり、やっぱりあたしとバンドやりましょうよ、ね、そうしましょ。

アキラ:そうね、バンド名はね、えっとね、待って、いいの考えるから


はーちゃん:本当、ずっとずっと気持ち悪いんだよおまえ、なあ。


アキラ:そうね、バンド名は……「不透明少女連盟」



◆◆場面◆◆(全校集会)12月16日


はーちゃん(M):「2年3組、出席番号6番、桐島、檀上にあがりなさい」

はーちゃん(M):女教頭の嫌に透き通る声が体育館に響く。響くたびに、揺れる窓すらも気味が悪かった。

はーちゃん(M):「はい。」と一言返事をすると、「あいつ」は壇上に上がってくる。

はーちゃん(M):他の生徒たちが、なんだかいつもより引いているようにも感じる。

はーちゃん(M):「あいつ」の手には、なぜか、拡声器が握られていた。


はーちゃん:それ、なんのつもり?


アキラ:……。


はーちゃん:なにかおっぱじめようっての?


アキラ:……ちょっと、ね。


はーちゃん:未成年の主張って? ふる。


アキラ:今までごめんね、はーちゃん。


はーちゃん:……は?


はーちゃん(M):「先生、少し時間をください」そう言うと、アキラは拡声器の電源を入れる。

はーちゃん(M):ざざ、とノイズが入って、その後すぐ、それは始まった。

はーちゃん(M):もしこれが物語だっていうのなら、それは、とても、不格好な始まり方だと思った。

はーちゃん(M):桐島アキラの目は、私ではなく、壇上から見える何かでもなく、澄んだ透明な何かを見据えてるようだった。


アキラ:(大きく、長い深呼吸をしたあと)


アキラ:「冷凍都市に告ぐ。」

アキラ:「僕たちの今に、青春という名前をつけるな。」



◆◆場面◆◆(あかりとアキラのやりとり)12月15日 夜


アキラ:バンドが出来ないならせめて作詞のほうを頑張るって方向で動こうと思うのよね。


あかり:……アキラ。


アキラ:それこそ、今じゃインターネットに詞を掲載してる人なんていっぱい居るわけだし、

アキラ:その詞が誰かに刺されば作曲をしてくれる人だって……


あかり:アキラ!!!


アキラ:……なに?


あかり:もう、限界だよ。


アキラ:なにが?


あかり:全部だよ。


アキラ:全部って?


あかり:わかってるだろ。


アキラ:わかんない。


あかり:そんなわけないだろ。


アキラ:あかりが何言ってるのか、あたしにはよくわからない。


あかり:わかれよ!!いい加減!!現実を見ろよ!!

あかり:今日だって、失明しかけた!!

あかり:その眼帯をよく見ろよ!!!

あかり:どんどんはーちゃんのやる事は過激になっていってる!

あかり:お前が無視すれば無視するだけ!はーちゃんを傷つけてるってことがなんでわかんないんだよ!


アキラ:だれそれ、知らない。


あかり:知らないじゃ済まないんだよもう!

あかり:アキラ!!


アキラ:うるさいよ、あかり、面白くない、その話。


あかり:アキラ!!!


アキラ:うるさいな!!!!あかりは!!うるさいな!!!

アキラ:いい加減にしてよ!!!知らないって言ってるじゃん!

アキラ:はーちゃんの事なんて知らないよ!!!

アキラ:私にはあかりがいる、あかりが居ればそれでいいんだから!


あかり:居ないんだよ!!!!


アキラ:……。


あかり:俺は!居ないんだよ!!居ないだろ!

あかり:お前の隣にいない!俺は、お前の頭の中にしか居ない!

あかり:俺は居ないだろ!アキラ!


アキラ:いるじゃん!ここに、ちゃんといるでしょ!

アキラ:いて、こうして、私としゃべってるじゃん!


あかり:アキラ……


アキラ:別に全然つらくないから、蹴られようが、コンパス刺されようが

アキラ:私は全然平気。私にはナンバーガールとあかりが居ればそれでいい。


あかり:……ちゃんと、はーちゃんと話をしろって。


アキラ:したくない。


あかり:はーちゃんはずっと怒ってるんだよ、ずっと。


アキラ:私だって怒ってる。


あかり:アキラ。


アキラ:はーちゃんが言ったんだよ!男がスカート履くのはおかしいって!

アキラ:そんなのは間違ってるって!私だって、私だって話したかった、話したかったけど

アキラ:伝わらないじゃん、何も、伝わらなかったじゃん。

アキラ:そうやって、はーちゃんと話せ、はーちゃんと向き合えって言うけど

アキラ:そうやってあかりは私の頭の中でブツブツ文句言ってるだけでいいからそんな事言えるんだよ。

アキラ:分かってなんてもらえないよ、私の今の事なんて、誰にもわかってもらえない。

アキラ:分かってもらえないのに、話をして、それでもやっぱりわかって貰えなかったら

アキラ:私のこの今はどうなっちゃうの?一体だれが守ってくれるの?

アキラ:この私の、どうしようもない気持ちも悩みも、何もかもを、誰がどうしてくれるってのよ!


あかり:……だから、俺を生んだんじゃないか、お前は。


アキラ:……。


あかり:怖いのはわかるよ、アキラ、だって、俺だって怖い。

あかり:俺、男なんだぞ、女になりたいお前の中で、俺は、女なのに、男になりたいんだ。

あかり:どこにアイデンテティがあるのかも、何が正しいのかも、わかんないよ、俺も。

あかり:でも、それは、はーちゃんだって同じだろ、きっと。

あかり:ずっと、ずっと仲良くしてくれてたのは、はーちゃんだけだっただろ?


アキラ:でも、もう、要らない。


あかり:アキラ。


アキラ:透明人間なんだよ、あかり、私って。


あかり:……。


アキラ:存在してはいけないものは、そこに居ないのと同じだし、見えないのと同じなんだよ。


あかり:……それを、お前が、俺に言うなよ。


アキラ:……あかりは、居るよ、ここに。


あかり:俺は何もできない、お前の為に何もできない。

あかり:お前が透明人間だって言うなら、その、存在しない透明人間のお前の中にいる俺は何なんだよ。

あかり:なあ、アキラ。

あかり:これだって、結局は自問自答なんだよ、俺はお前で、お前は俺なんだから。


アキラ:大人になるんだよ、私たち。


あかり:……は?


アキラ:知ってる?大人になるんだよ、私たちって。


あかり:そんな当たり前のこと、何言ってんだよ……


アキラ:大人になって、いつか、この日の出来事を「昔の思い出」みたいに語りだしてさ


あかり:……。


アキラ:「青春」って名前を、付け始めるんだよ、今までの辛さや、苦しみにも、全部。

アキラ:無かったことにするんだよ。誰にも言えないような事も、醜い感情も、大人になったら、それも全部

アキラ:「青春」だった、って。

アキラ:無かったことになるんだよ、青春って言葉のせいで、きらびやかで、憧れて、懐かしんで

アキラ:通ってきてもよかったものなんだって、思える何かに、変わってくんだよ。


あかり:……。


アキラ:私、はーちゃんで勃起したの。


あかり:……。


アキラ:勃起したんだよ、私。ねえ、あかり。


あかり:それは、


アキラ:じゃあ、それも無かったことになる?

アキラ:こんなに悩んで、苦しんで、私と、あなたに、分離しちゃうくらい悩んで

アキラ:訳わかんなくなって、苦しくて、苦しくて苦しくて

アキラ:「今」があるのに。私は、それでいいと思う?

アキラ:ねえ、あかり。どう?

アキラ:それも、話せる?全部。話せるのかな。

アキラ:ねえ。


あかり:……。


アキラ:もう一人の私は、どう思うの?


あかり:……わかんないよ、俺だって……。


アキラ:そう、だよね。


あかり:わかんないよ。でも、このままじゃ良くないって、そう、思うじゃんか、良くない、そうだろ。


アキラ:あかり。


あかり:……なんだよ。


アキラ:私って、気持ち悪いかな。ねえ、どう思う?



◆◆場面◆◆(全校集会)12月16日


はーちゃん(M):「先生、少し時間をください」そう言うと、アキラは拡声器の電源を入れる。

はーちゃん(M):ざざ、とノイズが入って、その後すぐ、それは始まった。

はーちゃん(M):もしこれが物語だっていうのなら、それは、とても、不格好な始まり方だと思った。

はーちゃん(M):桐島アキラの目は、私ではなく、壇上から見える何かでもなく、澄んだ透明な何かを見据えてるようだった。


アキラ:(大きく、長い深呼吸をしたあと)


アキラ:「冷凍都市に告ぐ。」

アキラ:「僕たちの今に、青春という名前をつけるな。」


はーちゃん(M):始まったのは、歌とも少し違う、詞の朗読のような。

はーちゃん(M):言葉の羅列だった。


アキラ:「タワーマンションからばら蒔かれる号外は、」

アキラ:「心臓の形をわからなくさせる」

アキラ:「都市型のウイルスみたいな」

アキラ:「冷凍されたシンブンシティだ。」


はーちゃん(M):ナンバーガールを彷彿とさせるような言葉運びに、

はーちゃん(M):その場で私だけが小さい頃の桐島アキラという人物を思い描いた。

はーちゃん(M):はじめはざわついていた他の生徒も、教師も、次第に静かに

はーちゃん(M):その詞の朗読、いや、叫びのような何かに耳を傾けていた。

はーちゃん(M):なんだか、私だけが知っている、昔の、私の初恋の相手だったアキラに戻ったみたいだった。


アキラ:「冷凍都市に告ぐ、」

アキラ:「僕たちの人生を、青春と呼ぶな。」



◆◆場面◆◆(あかりとアキラのやりとり)12月15日 夜


アキラ(M):物心ついた頃から、私は可愛い物に目がなかった。


アキラ(M):本当はランドセルもピンク色のやつが良かったし、

アキラ(M):プールの時間に胸部を晒すのが兎に角嫌だった。


アキラ(M):時々、母親の化粧台から口紅をくすねながら

アキラ(M):誰もいない暗い部屋で静かにその匂いを嗅ぐのが好きだった。


アキラ(M):祖母と久しぶりに会うと、いつもぎゅーっと抱きしめてくれる。


アキラ(M):その時、頬から香る化粧の匂いが私にもつけばいいと

アキラ(M):何度も祖母に抱き着いたのを覚えている。


アキラ(M):私には、そうすることしか出来なかった。


アキラ(M):なんとなく、なんとなく、この心を打ち明けると

アキラ(M):私のこの今の暮らしや、家族や、抱え始めた色々なものが

アキラ(M):すべて崩れ去ってしまう事に、なんとなく気づいていた。


アキラ:私って、気持ち悪いかな。ねえ、どう思う?


アキラ(M):私には見えている、そこに居る「男になりたい女の子」に話しかける。

アキラ(M):まだ、幼さが残るような気がするその顔がゆがむ。

アキラ(M):「わからないよ、俺には。俺には、何も言えない。」そう言うと、泣きそうになる「彼」が

アキラ(M):私自身そのものの答えであることも、また、事実だった。


アキラ(M):だから多分、私は、ちゃんと話す事はできない。はーちゃんと、また、話す事なんて。


アキラ(M):私みたいな酷く醜い人間ですらない、そう、透明ですらない穢れた私が


アキラ(M):大好きなはーちゃんと話すなんてこと、あったらいけないんだよ。


アキラ(M):だって、私は、透明ですらない。不透明な、少女ですらない、なんだ、私は。


アキラ(M):なんだ、私は。



◆場面◆◆(不透明少女)12月16日


あかり(M):その日は、いつもと何も変わらない朝だった。

あかり(M):起きがけの喉はしゃがれていて、加湿器の電源をつけるのを忘れるいつも通りの朝。

あかり(M):脱ぎ捨てられて、くしゃくしゃになった、紺色のスカート。

あかり(M):長らく会話をしていない家族との、ポストイットを使ったメモ合戦の跡。いつも通りの朝。

あかり(M):ただ一つ、違うのは。


あかり:……ふざけんなよ、アキラ、それは、おかしいだろ。


あかり(M):桐島アキラが、もう、居ないってことだけ。


はーちゃん:それ、なんのつもり?


あかり:……。


はーちゃん:なにかおっぱじめようっての?


あかり:……ちょっと、ね。


はーちゃん:未成年の主張って? ふる。


あかり:今までごめんね、はーちゃん。


はーちゃん:……は?


はーちゃん(M):「先生、少し時間をください」そう言うと、アキラは拡声器の電源を入れる。

はーちゃん(M):ざざ、とノイズが入って、その後すぐ、それは始まった。

はーちゃん(M):もしこれが物語だっていうのなら、それは、とても、不格好な始まり方だと思った。

はーちゃん(M):桐島アキラの目は、私ではなく、壇上から見える何かでもなく、澄んだ透明な何かを見据えてるようだった。


あかり:(大きく、長い深呼吸をしたあと)


あかり:「冷凍都市に告ぐ。」

あかり:「僕たちの今に、青春という名前をつけるな。」


アキラ(M):物心ついた頃から、私は可愛い物に目がなかった。


あかり:「タワーマンションからばら蒔かれる号外は、」

あかり:「心臓の形をわからなくさせる」

あかり:「都市型のウイルスみたいな」

あかり:「冷凍されたシンブンシティだ。」


アキラ(M):本当はランドセルもピンク色のやつが良かったし、

アキラ(M):プールの時間に胸部を晒すのが兎に角嫌だった。


あかり:「冷凍都市に告ぐ、」

あかり:「僕たちの人生を、青春と呼ぶな。」


アキラ(M):時々、母親の化粧台から口紅をくすねながら

アキラ(M):誰もいない暗い部屋で静かにその匂いを嗅ぐのが好きだった。


あかり:「死にたいと行きたいのあいだの」

あかり:「どうでもいい、がのさばっている」

あかり:「未来の形を模索した我々の」


アキラ(M):頬から香る化粧の匂いが私にもつけばいいと

アキラ(M):何度も祖母に抱き着いたのを覚えている。


あかり:「どうしようもない生き様すらも」

あかり:「四角の枠いはめ込んだら」

あかり:「生きる資格の無いウォーキングデッドだ。」


アキラ(M):私には、そうすることしか出来なかった。

アキラ(M):なんとなく、なんとなく、この心を打ち明けると

アキラ(M):私のこの今の暮らしや、家族や、抱え始めた色々なものが

アキラ(M):すべて崩れ去ってしまう事に、なんとなく気づいていた。


あかり:「愛してるなんて簡単に言えない、」

あかり:「誰かの言葉や、」

あかり:「誰かの、誰かの想いを奪うくらいなら、」

あかり:「僕らは簡単に、」

あかり:「僕らは、簡単に、」

あかり:「愛してるなんて簡単に言えない、」


アキラ(M):私って、気持ち悪いかな。ねえ、どう思う?


あかり:(大きく、深呼吸をして)


あかり:気持ち悪いって、言ってやればよかった。


あかり:俺だけしか、その気持ちをわかってやれなかったのに

あかり:こうして、こうやって、わからないって蓋をして

あかり:その言葉を、その心を、腐らせてしまった

あかり:気持ち悪いって、気色悪いって、もっと、ちゃんと

あかり:ちゃんと!!!言ってやればよかった!!!


あかり:気持ち悪い!気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!

あかり:気持ち悪いよ、お前、ちゃんと気持ち悪いよ

あかり:気持ち悪くて、なあ!!気持ち悪すぎて、どうしたって、お前は人間だよ!

あかり:透明なのか、不透明なのか、わかんないけど!

あかり:お前はちゃんと人間だったんだよ!!


あかり:なあ!!!置いていかないでくれよ、なんで、なんで置いていったんだよ。

あかり:ずるいよ、そうやって、痛い事も辛いことも全部俺に押し付けて

あかり:なんでお前が消えるんだよ!!!


あかり:ぐちゃぐちゃの、ドロドロの、汚くて、何も誇れなくて

あかり:誰にもわかってもらえなくて!!!!!

あかり:サイコパスと!スーサイドのはざまを行き来してる!!!


あかり:きもちわりいよ!何もかもが、進んでいても、止まっていても

あかり:そのすべてが、ここから見える全部が!!!

あかり:俺が、俺自身が何者でもない気持ちの悪い何かだって!!

あかり:それの連続で、ずっと死にたくて、ずっと消えたくて!!!


あかり:透明になれればよかったよ、本当になれたんならよかった、でも!!!


あかり:透明人間なんて居ないんだよ、居ない事になんてできないんだよ、

あかり:気持ちの悪いものは気持ちの悪いまま!!

あかり:そこに、居るんだよ、あるんだよ、居続けるんだよ!!!

あかり:不透明な状態で!!!ここに!!!居るんだよ!!!!

あかり:なんで置いていくんだよ!!!

あかり:俺がいるだろ、ここに、俺が、いるだろ!!


あかり:気持ち悪いよ!!!俺も、お前も、ちゃんと気持ち悪いんだよ!!!!


あかり:頼むから、頼むから……


あかり:「俺たちの人生を、青春と呼ぶな。」




special thanks


夏川早希
灰白粘膜太郎
ナンバーガール

and YOU.


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