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臍帯とカフェイン

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Vivid case.1【悲劇のヒロイン】(0:2:2)

【配役】


◆ミケ:

➡ミケ・オルソン。38人殺しの事件を追っていたが不幸体質により

 現在は遺失物係兼お悩み相談の部署に飛ばされた刑事。

 独り言が多く、まるで小説のモノローグのように語る事から

 同僚からは「モノローグ」と呼ばれる事もしばしば。

 作中の性別は男性ですが、性別不問とします。


◆ビー:

➡ビー・ドレイク。収容したヴィランの首に爆弾をつけ、いつでも殺害できる状態に

 してから警察の捜査に協力させるといった非人道的捜査計画「グレイ・プロジェクト」にて

 キャルボニー州からクエンティン州に移送されたヴィラン。

 一人称が安定しないのは本人も自覚している。

 作中女性で、性別変更不可です。


◆ヴェロア:

➡ヴェロア・モーテルタス。ストーカー被害に悩む自称アイドル。

 作中女性で、性別変更不可です。


◆CK:

➡チェアノックという名前であると本人は豪語しているが

 同僚からはCKと呼ばれている。ミケの元相棒。

 現在はミケのグレイ・プロジェクトのサポートを行う。

※作中、犯人というキャラクターが出てきます。

 兼役をお願いします。

 作中男性ですが、性別不問とします。


ミケ:人生最悪の日というものは唐突に訪れる。 


 ビー:なあ、どうしてさあ。


 ミケ:穏やかな日常をぶち壊すように、ふてぶてしくも来訪するんだろうな。 


 ビー:悲劇のヒロインは居るのに 

ビー:悲劇のヒーローってのは居ないんだろうな。 


 ミケ:知るか、俺に聞くな。 


 ビー:おいおい、『相棒』。 

ビー:そんなツレない態度とるなよな、お前はピーナッツバターを鼻に塗られたブルドックかよ。


 ミケ:まさしくそいつは、ふてぶてしい態度で俺のデスクに座り込む。 


 ビー:なあ、その『モノローグ』みたいなしゃべり方は何なんだ? 


 ミケ:……癖なんだ。 


 ビー:はっ!!まるで青々としたなすびみたいな野郎だ、面白い。 


 ミケ:どういう意味だ?


 ビー:渋くて食えたもんじゃないって意味さ、『相棒』 

ビー:それで、こちらさんはどなた様なんだい? 


 ヴェロア:……ストーカーの事で、相談に来たんです。


 ビー:だ、そうだ、『相棒』 

ビー:さっそく仕事だ、うれしい限りだね。 


 ミケ:『相棒』じゃない、うれしくない、馴れ馴れしくするな。 

ミケ:お前とチームを組むなんて俺は認めてない。 


 ビー:お前さんに拒否権なんてあるのかい?『モノローグ』

 ビー:こんな州のお悩み相談所みたいな部署からおさらばできるチャンスじゃないのかい? 

ビー:なあ、元刑事さん。 


 ヴェロア:あの…… 


 ミケ:いちいちうるさいやつだな! 

ミケ:誰がお前みたいなヴィランと組むか!

 ミケ:お前がどんだけ特殊な能力を持っていようと 

ミケ:たとえ姿かたちがミューズのように美しかろうと

 ミケ:お前と手を組むつもりは断じてない! 


 ビー:あ、おい、聞こえるか?ほら。

 ビー:ほら、聞こえてきた!イージーパイ♪イージーパイ♪ 

ビー:やすくてはやい~♪イージーパイ♪

 ビー:イージーパイの販売トラックだ、ほら、行こうじゃないか『相棒』 


 ミケ:あんなもん食うくらいなら犬の餌でも食ったほうがましだ!! 

ミケ:味覚も感性もとことんあわない! 


 ヴェロア:あの!!!!!! 


 ミケ:あ……えっと、すみません。 


 ビー:くくく、大の大人が怒られているのは滑稽だね。 


 ミケ:(小声で)あとで覚えてろ。 


 ヴェロア:ストーカーの話、聞いてくれるんですか、聞いてくれないんですか。 


 ミケ:もちろん聞きますとも。 


 ビー:ききたくなーい。 


 ミケ:少し黙ってろ。 


 ビー:『相棒』のいう事しかきけなーい。 


 ミケ:お前の相棒にはならない、他をあたれ。 


 ヴェロア:……帰ります。他の警察署をあたることにします。


 ミケ:わー!!!すいませんすいません!ちゃんと聞きますから! 


 ヴェロア:……もう。 


 ミケ:申し送れました、クエンティン中央署、刑事のミケと申します。


 ビー:今は遺失物係とお悩み相談窓口の担当だけどね、くくく。


 ミケ:その頬に風穴開けられたくなかったら黙っててくれないか。ヴィラン。 


 ビー:おーこわ。 


 ヴェロア:……話しても?


 ミケ:はい、いつでもどうぞ。 


 ヴェロア:……ストーカーに、困っているんです。 


 ミケ:ストーカー被害にあわれている……と 

ミケ:失礼ですが、ご職業は? 


 ヴェロア:……アイドル、です。


 ビー:「偶像」のお仕事なんて大変だね。 


 ミケ:ご職業がアイドルなら確かにストーカー被害は多そうだ。 

ミケ:主にどんな被害にあわれています? 


 ヴェロア:違うんです。 


 ミケ:違う? 


 ヴェロア:被害にあってるのは、ストーカーの方。 


 ビー:何言ってるの? 


 ヴェロア:……死んじゃうんです、私のストーカーが、全員。 


 ミケ:死ぬ??? 


 ビー:面白くなってきたにおいがする。 


 ミケ:おもしろがるな。


 ビー:刑事が事件を面白がらないでどうする、偽善者か?

 ビー:事件があればこそ、お前らはおまんま喰いっぱぐれなく生きていけるんだろ? 

 ビー:もっと喜べよ、刺激的な事件を、なあ、『相棒』 


 ミケ:……ヴェロアさん、でしたか。


 ヴェロア:はい。 


 ビー:おーい、無視すんな。 


 ミケ:もう少し細かく、教えていただけますか。 


 ビー:おーい、偽善者、いや、偽善は当たり前なんだし、他の名称がいいな。 


 ヴェロア:……はい、その、大丈夫なんですか? 


 ビー:そうだ!似非(えせ)ヒーロー!似非ヒーローなんてどうだい、『相棒』 


 ミケ:……大丈夫です、居ないものだと思ってください。 


 ヴェロア:は、はぁ。 ビー:ツレないなあ、『相棒』 


ビー:そぉんなにツレない態度ばっかとるならさぁ。 

ビー:早いとこその右ポケットにあるリモコンのさ、ボタンを押したらいいじゃないか、ねえ、『相棒』 

ビー:そしたら、ボン! 

ビー:一瞬で君の前から消えてあげられる。 

ビー:でもそうしないのは、 

ビー:『使える』と思ってるからだろぉ?

 ビー:なあ、『相棒』



 ◆【場面】昨日。 



 ミケ:俺は不幸だ。 


 CK:おいおい、またか、『モノローグ』


 ミケ:この世は俺にだけ優しくない世界だ。 

ミケ:どうしたって、自分がこうなって欲しくないと思った方向に流れていく。 


 0:近づいてくる同僚に話しかけるCK 

CK:……はあ、はじまったよ。よう!ジャック、元気か?この間のバーベキューは楽しかったな。 


 ミケ:天邪鬼の極みだ。そうして自分の意図しない世界の理に俺は翻弄されていく。 


 CK:え?ああ、ミケのこと?ほら、いつもの病気だよ、病気。そうそう、なんでもかんでも思ったことを話しちまう、そうそう、『モノローグ』なんてあだ名、びったしハマってるよな。 


 ミケ:俺は不幸だ。 


 CK:お?終わったらしい。

 CK:腹は決まったか?ミケ。 


 ミケ:お前には俺が覚悟の決まったヘラクレスオオカブトにでも見えてるのか? 


 CK:例えが下手くそすぎるだろ、ミケ。

 CK:見たことないぞ、そんなヘラクレスオオカブト。 

CK:とにかく、先程説明した通りだ。

 CK:このリモコンの解除キーはお前の生年月日。 

CK:お前が危険だと判断すれば、いつボタンを押してもいい。 



 ミケ:じゃあ今押す。 


 CK:OK、五回ほど殴ろうか? 


 ミケ:勘弁してくれ。 


 CK:これも仕事だろ、腹決めろよ。 


 ミケ:仕事だからだろ。 


 CK:なんで?いいじゃないか、最高の『駒』を手に入れたようなものだ。


 ミケ:『駒』だ? 


 CK:ああ。いくら名高いヴィランとは言え、こうして命さえ握っておけば、それは能力がずば抜けて高い駒だろ。 


 ミケ:……。


 CK:不服か? 


 ミケ:……女の子だぞ。


 CK:……はあ? 


 ミケ:まだ若い、一人の女だ。 


 CK:おいおいおいおい、ミケ、そりゃあないぜ。

 CK:今までで一番クールじゃないぞ、それは。

 CK:いいか。ミケ。 


 ミケ:なんだよ。


 CK:奴は『ヒーロー殺し』。 

CK:あのスーパーヒーロー『マンチェスト』を殺した凶悪なヴィランだぞ?

 CK:どんな異能を持ってるかも判明してない。 

CK:あのキャルボニー州の猛者達が逮捕に手を焼くほど頭のキレる怪物だ。 

CK:それを?はあ? 

CK:「女の子だぞ」? 


 ミケ:悪かったよ。 


 CK:頭がイカれてるぜお前は。

 CK:まったく。そんなんだから捜査課から外されるんだよ、ミケ。 


 ミケ:わかってる。 

ミケ:そんなこと、分かりすぎるくらいよくわかってるよ。


 CK:例の『38人殺し』。まだ追いたい気持ちはあるんだろ? 


 ミケ:……。 


 CK:それなら選択肢は1つ。そうだろ?なあ。 

CK:名残惜しそうに何度も何度も古めかしい手帳を開いては閉じて開いて閉じて。

 CK:食堂で見かける度に心配になるぜ? 


 ミケ:心配は要らない。


 CK:そうは行くかよ。うちの娘がな、何故だかお前のファンなんだよ。

 CK:元バディとしてそこは誇らしいがな。 

CK:……こんな、遺失物係と、お悩み相談受付なんて、やってる場合じゃないだろ、なあ。


 ミケ:……わかってるよ、そんなこと。 

ミケ:言われなくともわかってる。 


 CK:いいや、わかってないね。 


 ミケ:……。 


 CK:うまく利用しろ、このヴィランを飼い犬として使っていく『グレイ・プロジェクト』を。

CK:早く捜査課に戻ってこい。 


 ミケ:……善処するよ。


 CK:……よし、それじゃあ、ご対面だ。 

CK:おい、入ってこい。『ヒーロー殺し』


 0:ドアが開く。バインダーに挟まった資料を読みながら、彼女は登場した。


 ビー:「ミケ・オルソン」へえ、ここの署長と同じ苗字だ。

 ビー:「38人殺しの事件を追う際に」ふむふむ。 

ビー:「妊婦の乗ったジャポネーゼ産のワゴンに衝突、妊婦に怪我を追わせ部署を移動している」なるほど、それはいわゆるあれだね、『使えない奴』 


 ミケ:……。 


 CK:……ヒーロー殺し、彼が君のパートナーになるミケだ。


 ビー:やあー!きみがミケ!ハロハロ!コンニチワー!你好你好(にーはおにーはお)!

 ビー:僕ね、『相棒』というものに憧れてたんだ。 

ビー:命を人質に取られた超絶悪趣味な監禁ゲームに違いはないけど! 

ビー:宜しく頼むよ、『相棒』 


 ミケ:……俺は、不幸だ。


 CK:……まあ、うまくやれよ。 



 ◆【場面】現在 



 ヴェロア:私の名前は、ヴェロア・モーテルタス。 

ヴェロア:最近では、出したCDがチャートに載るくらいには売れてきたアイドル歌手をしています。 

ヴェロア:地下アイドルをしていた頃からも、こう、過度なファンというか。

 ヴェロア:「過激」なファンというか。 


 ミケ:いわゆる、ストーカー。


 ヴェロア:はい、そういった人達は居ました。 


 0:彼女の話を聞きながら、『ヒーロー殺し』は例のパイを頬張り続ける。 

 ビー:あぐ、もぐ。うん、やっぱ美味いぞ、このイージーパイ。 


 ミケ:鼻歌まじりにイージーパイを頬張っている。信じられない、よくあんなもんを食う気になるもんだ。


 ビー:早い安い美味い、何より食べやすくってとってもイージー。最高じゃないか。

 ビー:とても効率的だ。好感がもてる。 


 ミケ:……そのイージーって意味じゃあないぞ、それ。


 ビー:ええ?じゃあなんだって言うんだ? 

ビー:あ、クソ女も食べるかい?


 ヴェロア:く、クソ女!?


 ミケ:ビー。


 ビー:わ!初めて名前で呼んでくれたね、『相棒』! 


 ミケ:……はあ。それで、ヴェロアさん、そのストーカーがどうしたと? 


 ヴェロア:ある日を境に、その私のストーカーが次々に死んでるんです。 

ヴェロア:それも、全員目玉をくり抜かれて。 


 ミケ:オエ。 


 ビー:んん!むぐぐ、面白い話だ!いいツマミになる! 


 ミケ:グロテスクを肴にイージーパイを貪るな!オエ。気持ち悪。 


 ヴェロア:私の周りからストーカーは殆ど居なくなりました。 

ヴェロア:でもその代わり、毎月私のストーカー達の目玉がくり抜かれて……写真が送られてくるんです。 

 ビー:それこそイージーだね、アイドルやめなよ、クソ女。


 ヴェロア:ま、またクソ女って。


 ミケ:ビー。謝りなさい。 


 ビー:ごめんね? 

ビー:でも簡単な話なのは本当だろう? 

ビー:誰でも思いつく事だ、そのアイドルとやらを辞めてしまえばいい。 


 ヴェロア:……マネージャーが、応援してくれるから。 


 ミケ:マネージャー? 


 ヴェロア:はい。地下アイドルだった私を引き抜いてくれた、恩人でもあるんです。


 ビー:へえ。恩人ねえ。その恩人とやらもクソ恩人なんだろうなあ。 


 ミケ:おい、ヴィラン、いい加減にしろよ。 


 ビー:酷い。ビーって呼んで欲しいのに。 


 ヴェロア:……ふざけてるんですか? 


 ビー:うん、ふざけてる。 


 ミケ:おい!!! 


 ヴェロア:私は真剣に悩んでるんです。 

ヴェロア:アイドルになる夢だって、私は皆に笑顔を与えたい、みんなに幸せになって欲しい。

 ヴェロア:私が皆の支えになるんです。 


 ビー:反吐が出るほどの模範解答じゃないか。


 ミケ:いちいち突っかかるな、ヴィラン。


 ビー:やーだー!名前で呼んでよう!『相棒』! 


 ヴェロア:貴女に私の気持ちはわからないんだわ。


 ビー:わっからないね、1ミリも。


 ヴェロア:……。 


 ビー:ヒーローとアイドルってのは似た生き物なんだね?

 ビー:そうやって『正義』の押しつけをしていく。 

ビー:私が平和の象徴だ、私がいれば安心だ、私こそが正義だ、なんて。

 ビー:まさしくそれが『正義』でなければ気がすまない、『ヒロイズム』の押し売りだ。

 ビー:それこそ、あんたはアイドルなんだろうから……『偶像崇拝』の押し売りなんだろーけど。 


 ヴェロア:……押し売りじゃない。 


 ビー:ふーん。じゃあさ、一つ聞かせてもらってもいいかい、ヴェロア・モーテルタス。 


 ヴェロア:……なによ。 


 ビー:お前そんなブス顔なのに、なんでアイドルなんかやってんの? 


 ミケ:おい!!! 


 ビー:よく見ろよ、『相棒』

 ビー:どこをどう見ても僕のほうが美しいと言える。


 ヴェロア:見た目がすべてじゃないわ!! 


 ビー:いいや、見た目がすべてだね。

 ビー:とくにあんたのいる世界は確実に、見た目がすべてのはずだ。 


 ミケ:もうやめなさい。


 ビー:名前で呼んでくれなきゃやめなーい。

 ビー:見た感じダイエットを頑張ってるわけでも、ニキビを治そうともしてない、そんなアイドルがいるかな?ねえ? 


 ミケ:ビー。


 ビー:やめるね、へへ。


 ヴェロア:……私、この人きらいです。 


 ビー:安心して、僕もきらい。 


 ミケ:いい加減にしろ。 

ミケ:……ともかく、その目玉が届いた時実際に確かめる必要がある。 

ミケ:ヴェロアさん、そのお悩み、クエンティン中央署お悩み相談受付が対応させていただきます。 


 ヴェロア:ほんとですか!?よかった。


 ビー:しかし、この時はまだ知らなかった。 

ビー:まさか俺たちが、こんな事件に巻き込まれて行くことになるなんて。 


 ミケ:なんの真似だ。


 ビー:『モノローグ』 


 ミケ:……おまえは!! 



 ◆【場面】ヴェロア自宅 



 ビー:もぐ、もぐもぐ、んむ、んぐむぐ。 


 ミケ:口に入れながら喋るな、子供かお前は。 


 ビー:ごくん、食べながら喋ったら誰か死ぬのかい?『相棒』 


 ミケ:そんなんで人が死んでたら警察が何人居ても世界は平和にならない。


 ビー:警察が何人居たって世界は平和にならないよ。 


 ミケ:あ?


 ビー:ましてやヒーローが居たってそうだ。 

ビー:人の悪意は終わりなんて迎えない。 

ビー:「知恵の実」を齧ってしまった時から、人にはそういった「異能」が与えられてるんだよ。


 ヴェロア:「異能」……? 


 ビー:そう、「争う」という才能さ。 


 ミケ:争いを才能と言うか、お前は。 


 ビー:才能さ。才能だから、困ったもんなんだ。 

ビー:獣は総じて何かと争う。

 ビー:身を守る為、場所を得る為、優位になる為。

 ビー:それは消す事のできない本能だ。 

ビー:だが「人は必要以上に争うことができる」

 ビー:それは「本能」でもなんでもない、「異能」そのものだろ。


 ヴェロア:……。 


 ミケ:……だからなんだ?何が言いたい?


 ビー:世界は平和になんてならないよ、絶対にね。 

ビー:だから、人はヒーローか、ヒーローじゃないものかに別れる。

 ビー:そうやって、ヒーローになった人間は、一体何を思うんだろうね? 

ビー:と言ってもここにはヒーローじゃない何かしか居ないけど!!


 ヴェロア:不快ですね、本当に。


 ビー:ありがとう、「悲劇のヒロイン」? 


 ミケ:結局そうやって煽りたいだけなら黙ってくれないか、ヴィラン。


 ビー:あーん、もー、名前で呼んでって言ってるだろぉ~?あいぼぉ~う? 


 ミケ:なんでこんな奴とバディを組まなければならないんだ。同僚からの助言すらも今の俺には唯の重荷にしかならない。俺は、不幸だ。 


 ビー:癖でてるよ、『相棒』 


 ヴェロア:……まともな人って、居ないんですか、警察には。 


 ミケ:なっ、そ、それ俺の事も言ってます? 


 ヴェロア:……。 


 ビー:はははは!いいね!そういう性格悪そうな所は嫌いじゃないよ! 


 ヴェロア:私は大嫌いです。


 ビー:そう自暴自棄になるなよ。


 ヴェロア:貴方のことが、です。 


 ビー:知ってる、煽っただけだよ。 


 ヴェロア:なっ……この……。 


 ミケ:ああもう!やめろ、ビー! 

ミケ:ヴェロアさんも、相手にしないでください!


 ビー:はぁーい、やめまーす。 


 ヴェロア:……この「ビー」って人、なんなんですか。

 ヴェロア:絶対警察官じゃないですよね。 


 ミケ:それは……その……。 


 ビー:あんた、アイドルやってんのに新聞も読まないタイプ?


 ヴェロア:……は? 


 ビー:底が痴れるね。 


 ヴェロア:なっ……なんてこと言うのあなた!


 ミケ:おい、ビー! 


 ビー:痴れるだろ?なあ、『相棒』 

ビー:クソ女、よく聞いとけよ。 

ビー:僕の名前は「ビー・ドレイク」 

ビー:ドレイクとは、そう、空想上の火竜のことだ。

 ビー:「火竜になれ」だなんて、笑ってしまうね? 


 ヴェロア:……ビー・ドレイク……?


 ビー:こう言えば、君の足りない頭でもわかるかな?

 ビー:「ヒーロー殺し」 


 ヴェロア:……っ!

 ヴェロア:キャルボニー州のヒーローを殺したっていう、あの……!? 


 ミケ:……俺は、本当に、不幸だ。


 ヴェロア:どういう事なんですか!? 

ヴェロア:どうして人殺しが警察にいるのよ!? 


 ミケ:それは、その。


 ビー:僕ってば可哀想なんだ。見えるかい?この黒くてセクシーな首輪。 

ビー:はぁ、この首輪が『相棒』の趣味だっていうんなら最高なんだーけど。 


 ミケ:ふざけるな。 

ミケ:それに、お前、一応は機密事項だぞ…… 


 ビー:説明しないって方が不自然だ、それに「本来説明する必要もないくらい」僕は既にこのクエンティンでは悪目立ちしてると思うけど? 


 ヴェロア:……ニュースには、疎いのよ。 


 ビー:へえ!?芸能界にいながら、ニュースには疎い?だぁから、そんなブッサイクなままアイドルが出来るんだなあ。 

ビー:こういうのなんて言うんだっけ、ジャポネーゼで、ああ、そうそう、「コーガンムチ」 


 ヴェロア:言葉の意味はわからないけど貴女がとても性格が悪くて、最低の人なんだという認識が改めてできたわ、ありがとう。


 ビー:どういたしまして。 


 ミケ:はあ……地獄か、ここは。 

ミケ:……で、大体いつもこの時間に、この部屋のポストに「例のアレ」が投函される、と。 


 ヴェロア:……ええ、そうよ。 


 ミケ:投函される目玉の気持ちなんて考えたことあるか?目玉もまさか自分がポストに入ることになるなんて思わないよな。 

ミケ:どんな気持ちで封をされているのだろうか。 

ミケ:こうして今も、犯人の手の中で封筒に入りながら今か今かとその時を待ってるのだろうか。

 ミケ:オエ。気持ち悪い。 

ミケ:今日は投函されないでくれないかな。

ミケ:絶対に見たくない。オエ。 


 ビー:癖。 


 ミケ:う。


 0:その時、かさり、と玄関ポストで音がなる。
 0:思っていたよりも、その音は軽い。 


 ミケ:俺は不幸だ。


 ヴェロア:け、刑事さん!来ました、来ましたよ!玄関!開けてください!犯人がまだいるかも!


 ビー:もう開けてるよ。


 0:先程まで毒舌しか放っていなかったビーが、既に玄関を開け犯人の顔を確認しにいっている。


 ミケ:早。 


 ヴェロア:……あなたが、行くべきなのでは、 


 ミケ:そ、それは、そう、ですね。 

ミケ:いや、でもしかし、貴女の護衛も必要ですし。


 ヴェロア:……冴えない男。 


 ミケ:……なにか? 


 ヴェロア:いいえ、別に。それなら、刑事さん、ポストの中身、確認してくださいよ。


ミケ:ええ!? 


 ヴェロア:私はもう、嫌という程見てきましたから。 


 ミケ:そ、それは、しかし。


 ヴェロア:はやく。 


 ミケ:……う、わかりました。

 ミケ:渋々俺は、その薄くピンクに塗られた玄関ドアに近づく。 


 ヴェロア:黙って出来ないの? 


 ミケ:癖なもので。 

ミケ:玄関ポストのポケットには、確かに白い何かが投函されているのがわかる。

 ミケ:恐る恐るふたを開ける、どうやら錆び付いているようでキィキィと留め具が鳴る。


 ヴェロア:はやくしてよ。 


 ミケ:留め具のボルトは真鍮(しんちゅう)製か?ならばサビ付きではなく、歪みによるものなのか。 


 ヴェロア:ディテールはいいから! 


 ミケ:わ、わかってる。 

ミケ:取った、取ったぞ、オエ、もう吐きそうだ、あ、しまった、手袋を忘れてた。 


 ヴェロア:はぁ……もう。 


 ミケ:開ける、開けるぞ、うわ、なんだ、なんか入ってる、開ける前からわかるぞ、丸い、丸いなにかだ。 


 ヴェロア:もう、うるさい!


 ミケ:ああ!オエ。オエ。ぐにぐにしてやがる!ちくしょう!最悪だ、最低だ、俺は今期最大に不幸だ! 

ミケ:ちくしょう! 


 ビー:なーにしてるんだい、うるさいよ、『相棒』 


 ミケ:び、ビー!!よかった!!戻ってくれてよかった!!!ビー!!この、このこのこの、この封筒に!め、めめめめめ 


 ビー:目玉。 


 ミケ:目玉が! 


 ヴェロア:はやく開けなさいよ


 ミケ:オエーーーー。


 ヴェロア:本当つかえない。


 ビー:初めて意見が一致した、その通りさ、クソ女。


 ヴェロア:嬉しくないんだけど。


 ビー:それも一致。さーて、帰るよ、『相棒』


 ミケ:え? 


 ヴェロア:……え? 


 ミケ:帰るの?なんで?


 ヴェロア:そ、そうよ。 


 ビー:クソ女。もうこの件で警察を頼ろうとするのはやめたほうがいい。優しい僕はそう助言してやるよ。 


 ミケ:……え、な、何いってるんだ? 


 ヴェロア:そ、そうよ、そういう身の危険を感じた時のための警察でしょ。


 ビー:あまり僕をナメるなよ、クソ女。


 ビー:なんならこの場で全て終わらせてやってもいい。


 ヴェロア:な……。 


 ミケ:お、おい、ビー。 


 ビー:さあ、帰って正式に『相棒』として書類にサインしてもらおう。僕が相当優秀だと言うことをたっぷり説明してあげるよ、『相棒』 


 ヴェロア:……。 


 ミケ:お、おい、ビー、意味がわからないちゃんと説明を。


 ビー:する必要はないよ。こんなクソ女の為に。


 ヴェロア:……なんなのよ。 


 ビー:あー? 


 ヴェロア:なんなのよあんたの態度はさっきから!!! 

ヴェロア:馬鹿にして、馬鹿にして馬鹿にして馬鹿にして!!!! 

ヴェロア:あんたみたいに少し顔がいいからって人生薔薇色のやつが!!! 

ヴェロア:人の気も知らないでなんなのよ!!!!!! 


 ビー:だまれよこのクソ女。 


 ヴェロア:また!そうやって!


 ビー:てめぇのそのイカれた承認欲求ゾンビ脳で昼夜問わず繰り広げられてる悲劇のヒロインごっこに付き合うほどこっちは暇じゃないんだよ。 


 ヴェロア:な…。 


 ビー:てめぇのプライドの為に黙って居てやろうと思ったがな、はっきり言ってやるよ、クソ女。


 ミケ:お、おい、ビー?


 ビー:誰だよ、てめぇは。 


 ヴェロア:だ、誰って。


 ビー:私はお前と違って、毎日2時間のヨガを欠かさない。朝昼晩には5社の新聞をかならず読む。 

ビー:「ライクユアタイムス」「クエンティンセントラル」「ゴーウェブニュース」「キャルボニーからこんにちは」「マイチョウシンブン」 

ビー:どのニュースにも、どの新聞にも

 ビー:「ヴェロア」なんてアイドルの名前は出てきたことがない。 


 ヴェロア:……。


 ビー:そんなズタボロの肌でアイドル?そんな贅肉を押し込んだキャミソールでアイドル?そんな品性も見られない喋り方でアイドル? 

ビー:笑わせんなよ、クソ女。 


 ミケ:び、ビー……?


 ビー:「人なんて居なかった」


 ビー:玄関を開けたタイミングも投函とほぼ同時。 

ビー:ここは角部屋、逃げる道も1つしかない。

 ビー:「誰も、居なかったぞ、クソ女」? 


 ミケ:で、でも、この封筒は


 ビー:「開けてみろよ」 


 ミケ:う……でも


 ビー:「開けろ」 


 0:クエンティン中央署、遺失物係、待機所 


 ミケ:そして、封筒を開けるとそこには綺麗に赤赤と光るプチトマトが二つ入っていた。


 ビー:おいしかったね。 


 ミケ:食べるなよ。 


 ビー:感謝して欲しいくらいだね、無駄な仕事しなくて済んだんだから。 


 ミケ:……でもよくわかったな、あの人言ってる話がすべて「自作自演」だったって。 


 ビー:簡単な話だよ、相棒。

 ビー:あいつにも言ってやったけど、自らを磨く努力もしない奴が「アイドル」なんかになれるわけないんだよ。 

ビー:売れるために必死で、毎日のCDチャートが気になるヤツなら自ずとニュースも新聞も観るだろう? 

ビー:それで、僕の顔を知らないって?

 ビー:仮にも自分でチャートに入ってるなんて言うやつが?

 ビー:はっ、ありえないね。


 ミケ:……なるほどな。


 ビー:どう? 


 ミケ:どう、って?


 ビー:僕、使えるでしょ。 


 ミケ:……まあ、たし、かに。


 ビー:なんなら夜のお世話もしてあげるけど? 


 ミケ:ハア!?


 ビー:お得だと思わない?使うだけ使って、舐めまわして、すすり切って、噛み終えたガムみたいに味がしなくなったら、ポチ、ボン! 

ビー:……何も気に止めることも無い。 


 ミケ:……。 


 ビー:楽だろ?使い勝手いいだろ?

 ビー:どっかのメンヘラ女みたいに、こんなはずじゃなかったのにぃ~って泣きついたり、死んでやるって脅すことも無い。 


 ミケ:……。 


 ビー:なにせ、僕の命は君が握ってるんだから、ね?『相棒』


 ミケ:……お前が俺なんかより随分使えて、頭がキレる奴だってこともわかったよ。 


 ビー:そうだろそうだろ?じゃあ、晴れて正式に『相棒』ってことでー! 


 ミケ:でも、やっぱり嫌だ。 


 ビー:……は? 


 ミケ:嫌だ。 


 ビー:頭湧いてんの?なあ、似非ヒーロー。 

ビー:お前にとってのメリットと、リスクも無いことを説明したよな?

 ビー:それもわからないド低脳か?あんた。 


 ミケ:女の子だから。


 ビー:……は?なんて? 


 ミケ:お前が、女の子だからだ。


 ビー:……今すぐてめぇのこぎたねえ‪✕‬‪✕‬‪✕‬を三徳包丁で切り取って甘辛く炒めてやろうか!?青茄子緑クソ野郎が。 


 ミケ:……口が汚いぞ。


 ビー:てめぇはなんだ?ヒロイズム撒き散らすクソうぜぇ小綺麗警察気取ってんのか?騎士道?フェミニスト?はあ?気持ちわりぃこと言ってんじゃねえぞ。


 ミケ:なんとでも言えよ。


 ビー:この世にはヒーローと、そうじゃないものしか居ねえって言ってんだろ。 


ビー:てめぇがヒーローになんかなれるかよ?なあ?


 ビー:てめぇの愚かでちっぽけなヒロイズム性感帯に俺を擦り付けて気持ちよくなってんじゃねえぞ!?ああ!? 


 ミケ:……うるさいな!さっきから! 

ミケ:お前にも事情があるかもしれないけどなあ!

 ミケ:俺にだって思うことや守りたいことはあんだよ! 

ミケ:ヴィランのお前になんで説教されきゃなんねえんだよ! 


 ビー:「ヴィラン」ってのは、なんなんだよ。


 ミケ:あ? ビー:なあ、ヴィランって何なんだよ?


 ミケ:何って、そんなの、人を傷つけたりするやつのことだろ。


 ビー:じゃあ「あのクソ女」もヴィランだな? 


 ミケ:は? ビー:嘘をつき、てめぇや俺を傷つけた、あいつもまさしくヴィランだよなあ!?


 ミケ:さっきからなんなんだよてめぇはよ。 


 ビー:ヒーロー気取りしてぇならな、そういったクソみてぇなやつらも、全て守るんだぞ?


 ビー:なあ? ミケ:だから!!!なんでヴィランにそんな説教されなきゃいけねえんだよ!!! 


 ビー:「ヒーローなんていない」


 ミケ:は? ビー:「正義」の対義語は、「悪」じゃない。


 ビー:また違う「正義」だ。


 ミケ:……。 


 ビー:ヒーローなんでのは居ねえんだよ、どこにも。 


 ミケ:……居るよ。 


 ビー:どこに? 


 ミケ:……こんなに世界は広いんだ、どこかに、かならず。


 ビー:はっ!!!幼稚園に聞かせてやりたいぜ。 


 ミケ:……お前は、なんなんだよ、一体。 


 ビー:……『ヒーロー殺し』。 


ビー:ヒーローなんて、殺したこと、ないけどな。 


 ミケ:……は?


 CK:おい、おふたりさん。 


 ミケ:うわ、びっくりした。ノックくらいしろよ。


 CK:扉全開で今更何を。 

CK:そんな事より、『グレイ・プロジェクト』初の仕事発生だ。 


 ミケ:え?


 CK:『異能』に関わる事件だよ、街中で異能ヴィランが暴れ回って、人質と一緒に寂れた倉庫で引きこもってやがる。 


 ビー:それは、分かりやすく分かりやすい事件だね。


 CK:ああ、『ヒーロー殺し』、お前の能力、期待してるぞ。


 ビー:……。 


 ミケ:……。


 CK:……なんだよ、この親友の葬式みてぇな雰囲気は。


 ビー:……ちなみに、通報者は?


 CK:あ?えーっと、女だな。 


CK:ヴェロア・モーテルタス。



 ◆【場面】寂れた倉庫



 ヴェロア:助けて!!!誰か、助けてよ!!! 


 犯人:この女ぁ、どうなってもいいのかよ!オラぁ!! 


 ミケ:……「自作自演」なんじゃなかったのか、ドレイク。


 ビー:おかしいな、そのはずなんだけど。


 犯人:こそこそしてんじゃねえ!俺の「異能」でこの辺一帯燃やしつくしてやるぞ!オラぁ! 


 ミケ:まずいな、だいぶ興奮してる。


 ビー:燃やし尽くすって言ってるけど。


 ミケ:ドレイク、絶対挑発するなよ。 


 ビー:ビーって呼んでくれないから嫌だ。


 ミケ:ビー、絶対、挑発、するなよ。


 ビー:はぁい。 


 ヴェロア:はやく!早くだれか助けてよ!!! 


 ミケ:大丈夫、ヴェロア、落ち着いてくれ、ちゃんと助けに来てる。 


 ヴェロア:はぁぁぁぁ?なんであんた達なの!? 


 ミケ:なんでって言われても…… 


 ヴェロア:頼りなさすぎる…… 


 犯人:近寄るんじゃねえぞ!!!この女がどうなってもしらねぇぞ!!! 


 ミケ:落ち着け、な、どうどう。 


ミケ:えっと、どうすりゃいいんだ、こういう時。


 ビー:発砲しろよ、刑事だろあんた。 


 ミケ:それは、えっと。 


 ビー:ほら、その腰についてるお粗末なブツをぶっ放してやんなよ。

 ビー:合法的に射殺が許されてるんだから。あんたらは。


 ヴェロア:そ、そうよ!早くこいつの頭を打ちぬいて私を助けてよ!!! 


 犯人:うるせええ!!!黙ってろこのあばずれ女!!!


 ヴェロア:ひっ…… 


 ミケ:ビー!挑発するなって!


 ビー:今のは僕じゃなくて、あのクソ承認欲求女じゃない? 


 ミケ:発砲しろとか言うからだよ!


 ビー:お前さ、まさかとは思うけど。 


 ミケ:……。 ビー:銃、撃てねぇの?


 ミケ:その時俺は思った、まさかそんなわけないだろって。


 ビー:癖出てるよ、『モノローグ』。 

ビー:あんた属性盛りすぎだろ、モノローグ調の口癖に、似非ヒーローヒロイズム、おまけに銃の打てない三下刑事だぁ?

 ビー:あんたの設定を考えたのは、プロットもナラティブもわからない中学生夢女子文学少女だな。 


 ミケ:ぞ、属性とかじゃないから。


 ビー:なあ、『相棒』。あんた、やっぱり俺をきちんと相棒にしたほうがいいと思うぜ。 


 ミケ:しない、絶対…… 


 ビー:わからずやだな。 


 犯人:ごちゃごちゃ言ってんじゃねえぞ!!!異能、使うぞ!!いいんだな!!?? 


 ミケ:やばい、怒らせてる……えっと、ネゴシエーションの基本はまず同調から……


 ビー:ばぁか、そんな事やってたら命がいくつあっても足りないよ、似非ヒーロー。

 ビー:それにだ、『相棒』 


 ミケ:『相棒』じゃない!


 ビー:助けたいんだろ、似非ヒーロー!? 


 ミケ:な……


 ビー:あんたはあの女を助けたい、俺はただ自分の価値を知らしめたい。 

ビー:何故ならあんたは、38人殺しを追ってた刑事だからだ。

 ビー:俺にとっちゃこんな『グレイプロジェクト』なんてきな臭い計画どうだっていい。

 ビー:俺が求めるのは、38人殺しを追っていたあんただけなんだよ、『相棒』


 ミケ:……どうしてお前が38人殺しに執着するんだよ。 


 ビー:今は黙って俺の話を聞けよ、似非ヒーロー。 

ビー:あんたはエピローグから不思議の国のアリスを読むタイプの阿呆なのか? 


 ミケ:……そんな事したら、あのおとぎ話が台無しになるだろ。 


 ビー:……いいね、そう来なくっちゃ。 

ビー:ちょっとあたしに任せなよ、『ミケ』。


 ミケ:お前、名前…… 


 ビー:『相棒』が嫌なら名前で呼ぶしかないだろ?それとも何かい、『ダーリン』とでも呼んでナニをしゃぶって欲しいタイプ? 


 ミケ:そ、そんな事言うな!


 ビー:終わるまで待ってろよ、お預けだぜ。 


 犯人:ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ!!!!この女殺すぞ!!! 


 ビー:おお、殺してみろよ、やってみせてくれ。


 犯人:なっ……!? 


 ミケ:ちょ、ドレイク!? 


 ヴェロア:な、なんて事言うのあなた!?


 ビー:早く、やってみせてくれよ。その「異能」とやらで。 

ビー:燃やし尽くすんだろ?燃焼、爆発、発火、さあ、あんたはどのタイプの「異能」なんだろうな? 

ビー:なあ。どうした、ほら、早くやってみせてくれよ。ヴェロア。


 ミケ:……え? 


 ヴェロア:な、何を言って…… 


 ビー:このクエンティン州で突発的に発生し始めた特殊能力「異能」。 

ビー:それは、ヴィランやスーパーヒーローにだけじゃない、一般市民にも発現しはじめた。

 ビー:そのきっかけは人それぞれだ、ある日急に目覚めた者、または強く欲して手に入れた者。

 ビー:「人の欲」に反応するんだよ、この「異能」ってのは。

 ビー:ほら、早く、燃やし尽くしてみなよ。できるわけがない、そう、できるわけがないんだ、あんたには、ヴェロア。 


 ミケ:ビー、どういうことだ、理解が追い付いてない……


 ビー:「存在しないだろ、その犯人という男」。


 ヴェロア:な……そんなわけ…… 


 0:と、言うビーの一言でヴェロアを人質にしていた犯人は霧のように消えた。 


 ヴェロア:そんな……うそよ…… 


 ビー:「ミュンヒハウゼン・シンドローム」だ。


 ミケ:みゅ、みゅんひ、なんだって……? 


 ビー:ミュンヒハウゼン・シンドローム。

 ビー:虚偽性障害、自身をわざと傷つけ、「かわいそうだ」と思って欲しい、そういう精神疾患だ。 

ビー:ヴェロア、あんた、「異能」に目覚めかけてんだよ。 


 ヴェロア:どう、いう、こと。


 ビー:さながら「異能」の名前は、そうだな。

 ビー:「悲劇のヒロイン(プロローグ)」、あんたの承認欲求を満たす為に

 ビー:あんたが想像する事を具現化する、「自虐的」な「幻想」を作る為の「異能」だ。


 ヴェロア:わたしが……い、異能……? 


 ビー:自分が輝ける舞台を、自分が主人公になれる場所を、自分で作る浅ましい「異能」だ。そうだろ? 


 ミケ:ドレイク! 


 ビー:「ビー」って呼んでくれなきゃ嫌!しゃぶってあげないよ! 


 ミケ:い、いらん! 


 ビー:しけてやがる。 


 ヴェロア:で、でも、私、そんな、異能力者だなんて、そんなはず。 


 ビー:よく考えろよ、クソ承認欲求女。


 ヴェロア:な、なによ 


 ビー:普通、人質が警察に通報するかよ? 


 ミケ:あ……。


 ビー:どんな間抜けなんだ?その犯人は?人質?なら要求は?要求あっての人質だよな?


 ヴェロア:……。 


 ビー:すべてが浅はか。まぁ仕方ない、あんたがやろうと思ってやったんじゃない。 

ビー:次第にその右手に痣のような模様が浮かび上がる。そしたら晴れて異能者の仲間入り。

 ビー:政府の管理対象として、常に注目してもらえるぜ、よかったな。 


 ヴェロア:そんなの、そんなの嫌……


 ビー:文句言うなよ、クソ女。あんたが肥大化させたその承認欲求が撒いた種だ。 

ビー:まぁ、まだ道が終わったわけじゃない、監視されながらまずはその醜い身体をどうにかするところから…… 


 ヴェロア:嫌……いやよ……そんなの……


 ビー:聞き分けがないなぁ、僕が収監されたときなんてもっと素直だったぜ? 


 ミケ:……ドレイク?


 ビー:「ビー」って呼べよ、ミケ!!! 


 ミケ:ビー?今そんな事押し問答してる暇ないかも……?


 ビー:は? 


 0:わなわなと震えるヴェロアの右手が赤黒く光っている。 


 ビー:オーマイゴッド。 


 ヴェロア:ふざけないでよ……私、私、そんな存在になんてなりたくない……

 ヴェロア:私がなりたいのはキラキラした世界で、キラキラしながら歌って踊るアイドルなのよ…… 

ヴェロア:K-POPとか、J-POPとか、ティーンエイジャーのあこがれになるのよ……


 ビー:クソ女、それくらいにしとかない? 


 ヴェロア:私の事馬鹿にしてきたやつも、私の事値踏みしてきたやつらも 

ヴェロア:ママも、パパも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも

 ヴェロア:全員が、うらやむような、そんなスポットライトのあたる存在になるのよ!!!!!

 ヴェロア:ヒロインになるの!!!もうそれが「悲劇のヒロイン」でもいい! 

ヴェロア:私が、私がこの世界で一番になるの!!!きらきらした存在になるんだから!!!!


 ビー:ウップス。 


 ヴェロア:「異能」発動!!!!!応えて、「悲劇のヒロイン(プロローグ)」!!! 

ヴェロア:本当に、すべてを具現化できるっていうんなら、もう一度!!!!


 0:「異能発動」の声と共に、先ほどの「犯人」がまた目の前に形成されていく。 


 犯人:ぐ……うぐあ……ヴェロアを傷つける奴は全員俺が燃やす…… 


 ミケ:おいおいおいおい、ちょっと待てよ、その犯人の右手も赤黒く光ってますけど


 ビー:ミケ、撤退だ、こいつはやばいぜ 


 ミケ:どういう事だよ 


 ビー:見ての通り、こいつ、幻想を見せるタイプじゃない、こいつ、きっちりかっちり具現化させるタイプの異能だ。 


 犯人:異能!!!発動!!!! 犯人:「燃える恋心(マイプロミネンス)」!!!!

 犯人:うねる炎よ、あいつらを八つ裂きにしろ!!!! 


 0:犯人の男の異能がミケとビーに襲い掛かる。 


 ミケ:待て待て待て待て!!!本当に熱いぞ! 


 ビー:そこの物陰!!! 


 0:物陰に隠れる二人。 


 ミケ:結果的に挑発して自体が悪くなってるじゃないか!


 ビー:あははは。やっちまった。


 犯人:出てこい!!!燃やし尽くしてやる!!! 


 ミケ:「異能」ってやつはなんでもありなのか!?


 ビー:なんでもありだよ、そういう物だろ。この物語はそういう類のバトル・ロー・ファンタジーなんだぜ?なあ、そうだろ、みんな? 


 ミケ:どこに向かって話してるんだよ!


 ビー:そりゃぁこれを観てくれてる誰かさ。 


 ミケ:よくわからない事を言うな。


 ビー:第4の壁を超えるってやつだよ、みんな大好きなんだぜ、そういうの。

 ビー:デッドプールとか、最高だろ? 


 ミケ:しらん!!! 


 犯人:「燃える恋心(マイプロミネンス)」!!!!焼き尽くせ!!!!


 ミケ:あちちちち!!! 


 ビー:と、まぁ、ふざけてられるのもここまでか。 


 ミケ:打開策!打開策は無いのか!? 


 ビー:あるよ、打開策。 


 ミケ:あるのか! 


 ビー:あたしがあいつらの所に特攻するだろ? 


 ミケ:それで? 


 ビー:あんたはそのポケットのリモコンであたしの首を飛ばすだけ。 

ビー:首が確実に飛ぶレベルの爆弾がついてんだ、あいつ一人くらい巻き添えにできる。 


 ミケ:却下だ。 


 ビー:はあ。なんでか理由を教えてもらえる? 


 ミケ:お前が女の子だからだ。 


 ビー:くだらないヒロイズムって、命を奪うんだぜ?知ってた? 


 ミケ:知らない。 


 ビー:この場合、どちらかが生き残らないと意味がないだろ。効率を考えろよ。 

ビー:本当は人々の為にもあたしが生き残ったほうが有意義だけど、あたしの命はもはや虫以下。 

ビー:あんたが生き残るのが、セオリーだろ。 


 ミケ:だからって女の子を犠牲になんてできない


ビー:てめぇはよぉ!!!そうやって女の子女の子って、俺を女扱いして何がしてぇんだよ!? 

ビー:そんなにその粗末な×××しゃぶって欲しいか!?あぁ!? 


 ミケ:うるせえ!!!!何が何でも女子供を傷つけるような事はしないって決めてんの!俺は!!! 

ミケ:それが俺のポリシーなんだよ、ヒロイズムなんだよ、誰になんて言われようが俺はそうするって決めてんだよ!! 


 ビー:……妊婦さん怪我させてんじゃん。 


 ミケ:……不本意。 


 ビー:……目の前にさ。 


 ミケ:あ?


 ビー:凶悪な自分の仇を殺せるボタンがあったとする。 


 ミケ:なんだよ、急に。


 ビー:その隣には、いたいけな少女を殺してしまった知的障害の男を殺せるボタンがある。


 ミケ:なんの話だって。


 ビー:ミケ。あんたならどっちのボタンを押す? 


 ミケ:は?


 ビー:あんたがヒーローなら、どちらのボタンを押して、「ヴィラン」の息の根を止める? 


 ミケ:なんだその質問。 


 ビー:答えろ、似非ヒーロー。 


 ミケ:「どっちも押さねぇよ」 


 ビー:……なんで? 


 ミケ:罪は、償うもんだ。

 ミケ:いくら仇だとしても、少女を殺したとしても 

ミケ:その罪は、そいつが死んでどうにかなるもんじゃないだろ。

 ミケ:ヒーローなら人を殺していいわけじゃない。

 ミケ:どちらも押さない、捕まえにいって、罪を償わせる。 


 ビー:……だからあんた、似非ヒーローなんだよ。 


 ミケ:言ってろ。


 ビー:……リモコン、貸して。 


 ミケ:は?なんでだよ。


 ビー:いいから、貸して。 


 ミケ:な…… 


 ビー:あたしのこと、一人の女の子って思ってるなら、今、ここで、ちゃんと貸して。


 ミケ:……わかったよ。 


 0:ミケ、ポケットの起爆スイッチをビーに渡す。


 ビー:やっぱり、旧式タイプだね。このリモコンを首の側面にあてて……よっと


 0:かちゃり。という音と共に首輪が外れる。 


 ミケ:な、な!?


 ビー:舐めないでいただきたいね、本当に。 

ビー:補助装置的に当然ついてるだろ、安全性を考慮した首輪の外し方くらい。


 ミケ:ド、ドレイク……変な気おこすなよ…… 


 ビー:起こすよ、当然。だって僕は、ヴィランだぜ?


 0:外れた首輪をヴェロアと犯人の方向へ放り投げる。


 ミケ:あ、ちょ、ばか!!!!


 ビー:はははは!派手にいこう!



 ◆【場面】病院、見知らぬ天井。



 ミケ:そして、ぼん!という爆発音と共に俺の意識はそこで消えた。

 ミケ:ビーの投げ込んだ首輪は、あの男の炎に引火しそのまま爆発。 

ミケ:俺が目を覚ましたのはそのあと、この、見知らぬ天井というわけだ


 CK:気を失った程度でよかったよ、本当に。 


 ミケ:同僚のカルバンクラインが俺に話しかける、それをどこか現実味を帯びないなとぼんやり考える俺。 


 CK:誰がカルバンクラインだよ。チェアノックだって言ってるだろ。


 ミケ:絶対カルバンクラインだろ、CKって。


 CK:モノローグは終わった? 


 ミケ:終わった。


 CK:ご苦労さんだったな。


 ミケ:俺は不幸だ。 


 CK:ああ、まさしくな。だが、幸運でもあるだろ。


ミケ:なんで? CK:生きてる。 


 ミケ:それは、まぁ、確かに、そうか。 


 CK:異能力者、ヴェロア・モーテルタス。収容したよ。 


 ミケ:収容? 


 CK:ああ、お前と一緒に仲良く伸びてた。 


 ミケ:そうか。 ミケ:…………あいつは!!!????? 


 CK:あいつ? 


 ミケ:ビー・ドレイク!!!!!ヒーロー殺し!!!! 

ミケ:お、俺、あいつの首輪……!!!!! 


 ビー:呼んだ??? 


 ミケ:おっ、おおおおおお!?


 CK:きちんとお前の隣にいたよ、その子。


 ビー:そう、偉いだろ? 


 ミケ:……なんで、逃げなかったんだ? 


 ビー:逃げても意味なんてないからだよ、言っただろ、ミケ。 

ビー:あたしは、あんたが居るから、協力してやってんだ。 


 ミケ:……そう、か。


 ビー:少しは信用したかよ? 


 ミケ:もう爆発は勘弁してくれ。


 ビー:じゃあせめて発砲できるようになれ。


 CK:お前ら案外いいコンビかもしれないな。娘への土産話が増えたよ。 


 ミケ:勘弁してくれ。


 ビー:勘弁できないね、もう、僕らは相棒だからね。


 ミケ:は?いや、サインしてないし。 


 CK:いや、正式に受理されたよ、お前ら二人のコンビ。 


 ミケ:は!?なんで!? 


 CK:なんでって、ちゃんとサインが書かれてたぞ、機密保持誓約書とパートナー契約書に。


 ミケ:……おまえ、まさか。 


 ビー:よろしく頼むぜ、似非ヒーロー? 

ビー:ところで、どうだい?このナース服。

 ビー:さっき看護師詰所でひとつ拝借してきたんだ。 

ビー:こういうの好きかい?好きだよな、男は大体ナースが好きなんだ。 

ビー:あ、ほら、あれだったらこの服でしゃぶってやろうか?なあ?聞いてる?おーい、聞いてんのか? 


ビー:なあ、『相棒』


 ミケ:……俺は、最大級に不幸だ。 



 ーFIN-

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