朗読詩「海獣」
昨日だってそうだった。
大して金にもならない仕事で、ただ毎日を削っていた。
どう削ってみても、まるで僕から出てくるフケみたいに
細々と卑しく落ちてゆくだけできっと何も感じちゃいない
ポラロイドカメラを自分に向けて切ってみたって
きっと僕だけはそこに写らないんじゃないかなんて考えてみたりもして
そこからゆっくりと、僕は夜の部屋に溶けてゆくのだから。
*
波の音を聞いていた記憶をいくら思い返しても
そのどこからどこまでが胎動だったのかなんて
思い出すことも出来ないし、思い返そうとも思わない
セックスの最中に僕の性器からにおう潮の香りは
いつだって偽者なのだからどうしようもなかった
その後にはなんとなく煙草を火をつけて
紫煙を燻らせながら横目でバスルウムを見る
そこに海はない。
* *
昨日だってそうだった。
切れ掛かった蛍光灯を取り替えぬままに。
ここ三日は陽の目を見ていないタオルケットに包まるだけで
もうそこに清潔さも爽快さもましてや暖かさもない
そのまま水母になったようなイメエジのままで
緩やかに憂鬱を漂うことだけが救いのように感じた
そこに海がない、ただそれだけの理由でなんだって憂鬱だった
冷蔵庫を開ければコントレックスしか無い
そこに海がない、ただそれだけの理由だった。海獣になりたい
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