poteto gratins(0:0:2)
【配役】(0:0:2)
◆ウィンストン:
元・売れない画家。まだ、レストランの給仕。ウィンストン・パノマール。 作中男性だが、性別は不問とする。
◆クロード:
元・若き天才俳優。国立劇団の専属脚本家となったばかり。クロード・クリスウェル。 作中女性だが、性別は不問とする。
すべての創作者と、すべての表現者へ。
0:【場面】とあるレストランにて、電話をする二人。
クロード:困りますよ、そんなの。
ウィンストン:ええ、じゃあ今日は無理ってこと?
クロード:メイヴさんがご飯食べたいって言ったんじゃないですか。
ウィンストン:そっかぁ、いや、お仕事なら仕方ないよ。
クロード:……わかりましたよ、もう、僕から伝えておきます。
ウィンストン:気にしないで、僕のほうから伝えておくよ。
クロード:じゃあ、切りますよ。
ウィンストン:じゃあ、切るね。
0:クロード、ウィンストン、共に電話を切り着席する。
ウィンストン:あのね、クロード(同時に)
クロード:あの、ウィンストンさん(同時に)
ウィンストン:あ、わ、ごめん、先にどうぞ。
クロード:いえ、ウィンストンさんの方からでいいですよ。
ウィンストン:いやいやいや、クロードからでいいよ。
クロード:めんどくさいな(ボソッと)
ウィンストン:今めんどくさいって言った!?
クロード:言いました。
ウィンストン:ヒドイ!
クロード:……メイヴさん来られなくなったみたいです。
ウィンストン:えっ、そうなの?
クロード:はい、どうやらお得意様の接待が急に入ってしまったようで。
ウィンストン:座長も大変だねえ。
クロード:仕方ないですよね、何せ国立劇団ですし。そちらは?
ウィンストン:リリアーナも、急な仕事で来られないって。
クロード:リリィのお仕事ってなんでしたっけ?
ウィンストン:美術館の学芸員!お義父さんの美術館で働いてるんだぁ。
クロード:パズス美術館ですか、この辺じゃ一番大きい美術館ですね。
ウィンストン:そうなんだ、交代のシフトの人が産気づいちゃったみたいで。
クロード:ありゃりゃ、それは大変だ。
ウィンストン:ね、だから今日は来れないってさ。
クロード:そうですか......じゃあ、仕方ないですね。
ウィンストン:今日は二人で食事しよう!(同時に)
クロード:今日は解散ということで。(同時に)
ウィンストン:え?
クロード:はい?
ウィンストン:クロードなんて言った?
クロード:ウィンストンさんの方こそ、なんて言いました?
ウィンストン:えっと、二人で食事をしよう、って。
クロード:はいー!?
ウィンストン:え、クロードは?なんて言ったの?
クロード:今日は解散にしよう、って。
ウィンストン:ええー!?なんでよ!?
クロード:なんでって......気まずいでしょ?
ウィンストン:気まずいってなに!?
クロード:気まずいは気まずいですよ。
ウィンストン:おなかも空いたしせっかく予約したんだし!
ウィンストン:食べていこうよ!ここのグラタンすごく美味しいって評判なんだよ!?
クロード:嫌だよ、食事は楽しくしたいだろ。
ウィンストン:僕との食事は楽しくないってこと!?
クロード:そうとは言ってないだろ?
ウィンストン:言ってるよ!言ってるようなものでしょ!?
ウィンストン:そんなの、右折しかしないターミネーターみたいなものじゃないか!
クロード:どういう例えだよ
ウィンストン:う、伝わらなかったか
クロード:……僕と一緒に食べて楽しい?
ウィンストン:なんで?
クロード:いや、なんとなく、というか。
ウィンストン:なんで?
クロード:いや、だから、なんとなく。
ウィンストン:なんで?
クロード:ああもうめんどくさいな!
クロード:だって、なんか気まずいだろう!?
ウィンストン:気まずいかな?
クロード:気まずいよ!
ウィンストン:なんで?
クロード:なんでなんでばっかだな君は!
ウィンストン:だってわかんないんだもん。
クロード:……グリーンブーツの、脚本の、許可、君からとってなかったし。
ウィンストン:あー。
クロード:許可、とって、なかったし、それから、会ってなかった、し……。
ウィンストン:そんな事気にしてたの?
クロード:気にするだろ。
ウィンストン:気にしなくていいのに。
クロード:……調子狂うな。
ウィンストン:そうかな、僕結構楽しいけど。
クロード:……そういうところも、だよ。
ウィンストン:ちゃんと話してみたかったんだ、クロードと。
クロード:そういうところだよ!
ウィンストン:どういうところだよ!
ウィンストン:君僕の事嫌いなの!?
クロード:き…
ウィンストン:き……?
クロード:嫌い
ウィンストン:えええええ!!
クロード:で、ありたか、った。
ウィンストン:ええええ……?
クロード:……何が旨いんだって?
ウィンストン:え?
クロード:だから、ここ、何が旨いって評判なんだって?
ウィンストン:あ、あ、えっと、グラタン!ポテトグラタンだよ!
クロード:じゃあ、それを頼もう。
ウィンストン:一緒に食事してくれるってこと?
クロード:改まって言うなよ、わかるでしょ、脈絡的に!
ウィンストン:へへへ、やったね。すいません、ポテトグラタンひとつ!
クロード:……僕と食べて楽しいかな、とも思うんだよ。
ウィンストン:楽しいよ。
クロード:なんで?
ウィンストン:なんで、って、楽しいものは楽しいよ。
クロード:なんで?
ウィンストン:あ、これ確かに面倒だね。
クロード:そうだろう?
ウィンストン:クロードはさ、僕の事嫌いだったって言ってたけど
クロード:ああ。
ウィンストン:嫌いでありたかった、っていうのはどういう事なの?
クロード:そのままの意味だよ。
ウィンストン:そのままかぁ。
クロード:そう、そのまま。
ウィンストン:クロードってさあ。
クロード:何?
ウィンストン:演技の天才だけどさあ。
クロード:……なに?
ウィンストン:コミュニケーション、めちゃくちゃ下手だよね。
クロード:んな……。
ウィンストン:しょっちゅうメイヴともすれ違ってたりするし
ウィンストン:一人でぷんぷん怒ってたりするし
クロード:ウィンストン僕の事嫌い?
ウィンストン:ううん。 クロード:じゃあなんでそんな事言うんだよ!
ウィンストン:僕と、すごく違う存在だから、見ていて楽しいんだよ。
クロード:……楽しい?
ウィンストン:うん。
クロード:……そりゃ、どうも。
ウィンストン:嫌だった?
クロード:嫌じゃ、ないよ。
ウィンストン:じゃあ、どうしたの?
クロード:見ていて楽しいだなんて、初めて言われた。
ウィンストン:そうなの? クロード:そうだよ。
クロード:……あんまり、友達が居る方じゃないからさ、僕は。
ウィンストン:何人くらい居るの?
クロード:……訂正するよ。友達は居ない。
ウィンストン:なるほど。その訂正には勇気がいったね。
クロード:……うるさいなあ?
ウィンストン:間違いを認める事ができるって大切な事だと思うんだよ、クロード。
クロード:そういうの一々口に出すのやめないかい、ウィンストン。
ウィンストン:でも、僕には伝えてくれたじゃない。
クロード:……何が?
ウィンストン:メイヴが、僕をどう思っているかとか、僕自身がどういう人間なのか、って。
クロード:あれは、その。
ウィンストン:嬉しかったよ、すごく。
クロード:……そりゃ、どーも。
ウィンストン:なんだかね、クロードって、はじめて出会った頃のメイヴにそっくり。
クロード:……メイヴさんと?
ウィンストン:うん。芸大時代のね、メイヴって、すごく角の大きなテキサスロングホーンが散弾銃持ってるみたいなやつだったんだ。
クロード:……えーっと?それはつまり、怖いとか、そういうこと?
ウィンストン:うーんと、なんていうか、近寄りがたいって言うか。
クロード:じゃあそう言えよ!まどろっこしいなあ!
ウィンストン:なんか、こう、まどろっこしいだけだと伝わらない部分があるじゃない!
クロード:独特な感覚すぎてむしろクセになりそうだよ。
ウィンストン:褒めてくれてる?
クロード:いいや、全然。
ウィンストン:なんだよ!
クロード:続けて?メイヴさんが、テキサスロングホーン?だっけ?
ウィンストン:……そう、ふふ、懐かしいな。
ウィンストン:メイヴもさ、友達って言える友達があんまり居なかったんだ。
クロード:あんまり?
ウィンストン:あー、いや、そうだね、ちゃんと言ったほうがいいかも。
ウィンストン:多分一人も居なかったんじゃないかな、あの時。
クロード:……同じだ。
ウィンストン:役者さんって、もしかしたらそうなのかな。
ウィンストン:でも、それも特殊な方なのかもしれないね。
ウィンストン:なんていうかその、自分の世界っていうのを強く持ってたから。
ウィンストン:息が合わないというか、誰かに空気を合わせるのがきっと苦手だったんだ。
クロード:……わかるような、気がする。
ウィンストン:役者さんってさ、大変だよね。
クロード:大変?
ウィンストン:うん。僕ら画家はさ、何度だって描き直すことができるじゃない?
クロード:絵を?
ウィンストン:そう、絵を。
ウィンストン:納得できなければ、また一からやり直して、自分だけの世界で
ウィンストン:それの息の根を止める事も、生かす事もできる。
ウィンストン:でも、演技って、そうじゃないだろう?
クロード:……なんだか、役者より役者の事、わかってるんだね。
ウィンストン:ずっと、悩み続けてきたやつを、隣で見てたからね。
ウィンストン:自分自身で練り上げた世界で、他の誰かとその世界をさらにぶつけ合うだろう?
ウィンストン:ぶつけて、それは違うって否定したり、飲み込んだり、飲まれたり。
ウィンストン:そういうのを繰り返して、一つの舞台っていう作品を作る。
ウィンストン:だからさ、いつも、僕ら画家以上に、自分の世界の足場がきっと不安定でさ。
クロード:……それを、守りたくて、殻に籠ること、あるよ。
ウィンストン:…うん。
クロード:本当に、よく見てるね、役者のこと。
ウィンストン:一人だけ、だけどね。沢山の役者さんの事はわかんないけど、メイヴのことだけは。
ウィンストン:そんなね、メイヴの初めの頃とすごく似てるなって思うんだ、クロードって。
クロード:……二人って、なんでルームシェアし始めたの?
ウィンストン:ふふ、気になる?
クロード:……気になる、かも。
ウィンストン:陶芸の授業でね、大喧嘩したんだよ。
クロード:大喧嘩?
ウィンストン:そう、大喧嘩。どちらがろくろを使うかで、それはもう殴り合いの大喧嘩。
クロード:えええ……
ウィンストン:意外でしょ。
クロード:意外。
ウィンストン:二人とも顔あざだらけになってさ、そんな子供みたいなことで。
クロード:意外。
ウィンストン:で、講師にすんごく怒られてさ、二人で反省文を書いて来いって言われて。
ウィンストン:100枚の原稿用紙に。
クロード:100枚!?
ウィンストン:そう、酷いでしょ?それを書くのに、僕の家に転がり込んできた所から始まったんだよ。
クロード:そんな始まり……。
ウィンストン:ちょうどルームメイトも探してたからさ。
ウィンストン:最初は大変だったよ、顔を合わせる度に嫌味を言い合ってたし。
クロード:メイヴさんが?
ウィンストン:そうだよ?結構味のある嫌味言ったりするんだから。
クロード:……例えば?
ウィンストン:「お前は角の折れたユニコーンだ」って。
クロード:……それって。
ウィンストン:ふふ、知らなかったでしょ。最初に言い始めたのはメイヴからだったんだよ。
クロード:……知らなかった。
ウィンストン:知っている様で知らない事や、知らないでいて知っている事もある。
クロード:なにそれ。
ウィンストン:僕の大切な人の言葉。
クロード:……なんか、深いね。
ウィンストン:うん。深いよね。
クロード:……どうして、二人は、今はそんな風にお互いを尊敬できてるんだい?
ウィンストン:どうしてだと思う?
クロード:……何か、きっかけがあったの?
ウィンストン:きっかけ、ねえ。
クロード:うん。
ウィンストン:無かった、かな。
クロード:え……?
ウィンストン:きっかけなんて、無かったと思う、たぶん。
クロード:どういう事……?
ウィンストン:焦げ目を作っていったんだよ、二人で。
クロード:焦げ目……?
ウィンストン:それこそ、毎日の喧嘩さ。
クロード:毎日の。
ウィンストン:うん、毎日の。
ウィンストン:嫌味を言い合って、罵り合って、嫌いだって言い合って。
ウィンストン:段々と、知っていった。
クロード:……何を?
ウィンストン:メイヴが、どれだけ真剣で、どんな世界を持っていて、それでいて、何に怒る人なのか。
クロード:何に、怒る人なのか。
ウィンストン:うん。メイヴはいっつも、自分に自信の無い事や持っていない物の事で怒ってた。
ウィンストン:授業の時も、普段の生活の時もね。
クロード:自分に、ないもの。
ウィンストン:まるで、この間の僕みたいだよね。
クロード:……そうかもね。
ウィンストン:お互いに、知っていったんだよ、強火で話して、お互いを焦がしながら。
ウィンストン:それで知るんだ、その焦げ目の奥にあるその人の世界を。
クロード:そうやって、お互いを知っていった。
ウィンストン:うん。
クロード:……僕はまた、知った気になってた。
ウィンストン:知った気に?
クロード:メイヴさんの事も、君のことも。
ウィンストン:そっか。
クロード:悪い癖だな、少しを掴んで、全部を知った気になっているの。
クロード:君や、メイヴさんがはじめから唯一無二の親友であったかのように思ってた。
クロード:よくないな、本当に……。
ウィンストン:よくないなんてこと、ないよ。
クロード:え?
ウィンストン:それの正体、知ってる?ク
ロード。 クロード:正体って……?
ウィンストン:その、少しを掴んで知った気になる、ってやつの正体さ。
クロード:……無知?
ウィンストン:いいや。
クロード:……わかんないよ、ウィニー、分かるように話して。
ウィンストン:「興味」だよ。
クロード:「興味」……?
ウィンストン:うん、「興味」。それが、その感情の根幹、正体だと思うんだ。
ウィンストン:好意なのか、悪意なのか、関係なしにその人の事を「知りたい」っていう興味から
ウィンストン:その気持ちは始まってるだろう?
クロード:それは……
ウィンストン:「興味」を持って「知ったつもり」にならなかったら
ウィンストン:その先の、その奥の「深く知る」という衝撃には出会わないんだ。
クロード:……なんかさ。
ウィンストン:うん?
クロード:メイヴさんも、ウィニーも、本当にさ。
ウィンストン:う、うん?
クロード:……いや、なんでもないよ。
ウィンストン:な、なんだよ。
クロード:尊敬できるよ、本当に、二人はさ。
ウィンストン:……そうかい?
クロード:うん。
クロード:……ダニングクルーガー曲線、だよね、きっと、この話って。
ウィンストン:だにえる、なんだって?
クロード:知らないで話してたの?
ウィンストン:初耳だ。
クロード:ダニングクルーガー曲線、ダニングクルーガー効果とも言うんだけど。
クロード:認知バイアスっていう、いわゆる「自己過大評価」が何故起きるのか、っていうのを
クロード:あらわしたグラフのこと。
ウィンストン:全然知らない。
クロード:そういうところだよ、ウィニー。
ウィンストン:どういうところ!?
クロード:……要するにね、人って言うのは物事を知り始めた瞬間はとても調子に乗ってしまうんだよ。
クロード:自分はできてる、自分は天才なんじゃないか、って。
クロード:でも、ある程度知識がついてくると、自分には才能がないんじゃないかって落ち込む。
クロード:そこから緩やかに、自身の知識と感覚が合致していくと真の意味での自己評価が見えてくるってやつ。
ウィンストン:なんだかすごく難しい話だ。
クロード:そういうところだよ、ウィニー。
ウィンストン:だからどういうところ!?
クロード:……僕はさ、この曲線って、「こうなるから調子に乗るなよ」って意味なんだと思ってた。
ウィンストン:うん。
クロード:でも、ウィニーが言ってる事って、そうじゃないよね。
ウィンストン:……うん、そうだね。
クロード:「調子に乗る」ことができなければ、その曲線はカーブを描かないんだ。
ウィンストン:知ったかぶりから、興味が始まる。知ったつもりになった後、本当の意味で知る事になる。
ウィンストン:それがきっと、
クロード:それがきっと、本当の意味での自分の世界であり、他人の世界とつながった瞬間なんだ。
ウィンストン:……ふふ、うん、そういう事だと思う。
クロード:……「他人を舐めるな」、か。
ウィンストン:え?
クロード:僕の大切な人の言葉。
ウィンストン:……ふふ、そっか。いい言葉だね。
クロード:……僕にも、できるかな、友達が。
ウィンストン:なんで?
クロード:なんでって……。
ウィンストン:僕は友達だろ?
クロード:……そういうところだぞ、ウィンストン。
ウィンストン:だから、なんでよ!
クロード:そういうところが、尊敬できるって言ってるんだ。
ウィンストン:……君も、焦げ目が作れるじゃない。
クロード:……作れるかな、これからも。
ウィンストン:できるさ、なんだって、その舞台に立ち続けていたら。
クロード:角の折れたユニコーンでも?
ウィンストン:できるでしょ、角が折れても馬は馬なんだからさ。
クロード:……ふふ、確かに。
ウィンストン:あ、届いたよ、ポテトグラタン。うーん!いいにおい!
クロード:これは確かに美味しそう。
ウィンストン:とりわけようか?
クロード:……いや、そのまま突こう、それでいいだろ?ウィンストン。
ウィンストン:ん?聞こえなかった。
クロード:……それでいいだろ?ウィニー。
ウィンストン:ああ、もちろん!
fin
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