あしたなにしよう(0:0:2)
【配役】
◆私:性別不問
◆君:性別不問
0:君と私しか、居ない部屋。
私:遺書、書けた?
君:うん、書けた。
私:なんて、書いた?
君:当たり障り無い事。
私:まあ、そっか。
君:そりゃ、ね。
私:拝啓、ってあるじゃない?
君:うん、手紙の最初に書くやつね。
私:私ずっと、背景のことだと思っててさ。
君:背中の景色のほうの背景ね。
私:そうそう、だからずっとさ、この手紙を書く背景のことを書くんだと思ってた。
君:ははは、そんなわけないじゃん。
私:そうだよね、はは、でもさ、なんか得した気分。
君:なんで?
私:また新しい事、学べたんだなーって。
君:そういう所、結構好きだよ。
私:ありがと。
君:どういたしまして。
私:ねえ。
君:なあに?
私:部屋、なんだかがらんとしちゃったね。
君:そうだね、思ってたより広いなぁって。
私:うん、思った。言うて2LDKだったし。
君:ね、すっかり忘れてた。物が多かったんだなあ。
私:粗大ゴミ、持って行ってくれるのかな。
君:どうだろうねえ。まだ動いてるのかな、そのあたりって。
私:わかんない、でも、コンビニはやってたし。
君:まあ、粗大ゴミシール買えたくらいだもんね。
私:案外、まだみんな諦めてないのかもよ。
君:なんかいいね、そういうのって。
私:そうかな。
君:そうでもない?
私:そうでもしないと、しんどいんじゃないかな。
君:そっか。
私:うん。そんな気がする。
君:ねえ、どうしてさあ
私:うん。
君:遺書書こうなんて、言い出したの?
私:どうして、って。世界は終わっちゃうんでしょ?
君:うん、500キロメートルの彗星だってさ。ぶつかるの。
私:じゃあ多分、生きていられるほうが難しいわけじゃん。
君:そうだねえ。
私:死んじゃうならさ、書かなきゃな、って。
君:誰に?
私:え?
君:遺書は、誰かの為に残すものでしょう?
私:あ……そっか。
君:え?
私:なに?
君:考えてなかったの?
私:いや、考えてないわけじゃないけど。
君:だって今そっかって。
私:いや、その。
君:何?
私:……君に宛てて書いてたかも。
君:……なんで?
私:なんでだろ。
君:馬鹿だなあ、君が死んでるとしたらこっちも死んでるんだけど。
私:あはは、そっか、そうだよね、言われてみればそうだ。
君:馬鹿だなあほんと。
私:ねえ。
君:なあに?
私:君は、誰に宛てて書いたの?
君:……誰にでもよくない?
私:よくないよ、知りたい
君:なんで。
私:私だけ知られてるの悔しいじゃん。
君:いいじゃん、悔しがってなよ。
私:ずるい
君:まあまあ、いいじゃないの。
私:ずるい
君:しつこいね
私:ずるい
君:……君に、だけど。
私:同じじゃん。
君:違います。
私:なんで?同じじゃん。
君:わかってて書くのと、わかってないで書くのじゃ全然違う。
私:そういうもの?
君:そういうもの。
私:……よく、わかんないなあ。
君:わかるときが来るといいね。
私:あ、意地悪な顔してる。
君:元々こういう顔だよ。
私:その意地悪な顔好きだったよ。
君:いきなり何。
私:わかってて言ってるからね、これは。
君:……そりゃ、どうも。
私:ねえ。
君:なあに?
私:楽しかった?
君:なにが?
私:私との生活。
君:どうかな。
私:あ、また意地悪な顔してる。
君:好きなんでしょ?この顔。
私:好きだよ、今も。
君:そりゃ、どうも。
私:楽しかった?
君:楽しかったよ。
私:よかった、私も楽しかった。
君:楽しすぎたかもね。
私:うん、それは、あるかも。
君:ねえ。
私:うん、どうしたの。
君:楽しかった?
私:楽しかった。
君:うん。楽しかったね。
私:なんで、終わっちゃうんだろうね。
君:うん。
私:いつか、こんな日が来るなんて誰か想像してたのかな。
君:どうなんだろ、君は想像してた?
私:ううん、全然。
君:だよね。
私:だから、今ね。
君:うん。
私:楽しかった、楽しかった事を想いだしてるんだけど。
君:うん。
私:悲しくて、辛くて、楽しくなくなってくる。
君:そりゃ、そうだよね。
私:うん。
君:手、握る?
私:いいの?
君:いいよ。
私:そういうの、嫌いだったでしょ?
君:いいよ、今更だ。
私:じゃあ、ちょっと、失礼して。
君:どう?
私:あったかいなあって感じする。
君:そりゃ、よかった。
私:どう?
君:震えてるなあって感じする。
私:ゆるせ。
君:ゆるす。
私:ありがとう。
君:ねえ。
私:なあに?
君:きっと世界中の皆がさ、怖いんだよ、この瞬間。
私:うん。
君:おとぎ話みたいな、世界の終わりが目の前に迫ってきててさ。
私:うん。
君:おとぎ話が、もう、おとぎ話じゃなくなってて。
私:うん。
君:物語の主人公みたいな人達も、世界を救うヒーローも
君:きっと、皆、変わらず、怖くて仕方ないんだ。
私:うん、そうかもしれない。
君:今、絶望、してる?
私:わかんない。
君:うん、わかんないよね。
私:でも、してないような気もする。
君:うん、わかるよ。
私:なんでだろうね。
君:なんでだろうね。
私:ねえ。
君:なあに?
私:あした、なにしよっか。
君:あした?
私:うん、あした。
君:そうだなあ、あしたか。
私:私はね、明日、まず粗大ゴミが回収されてるか見てみるんだ。
君:はは、そうだね。それはいいかも。
私:君は、どうする?
君:それじゃあ、残りの缶詰をあけて、ちょっとしたオードブルでも作ってみようかな。
私:パーティだ。
君:うん、パーティだね。
私:いいね、楽しそう。
君:それから、今までしたことなかった事とかしてみようかな。
私:どんな事する?
君:何がいいかな。
私:うーん、電気は通ってないからなあ。
君:やり残したゲーム、いっぱいあったんだけどな、そういえば。
私:桃鉄100年クリアできなかったね。
君:でもあれは、クリアできないよ、30分で寝落ちしてるもん君。
私:だってなんか眠くなる。
君:絵とか、描いてみようかな。
私:いいね、どんな絵を描く?
君:空がずっと暗いから、夜の絵でも描いてみようかな。
私:いいね、そういうの好きかも。
君:うまく描けないかもしれないけど。
私:うまく描けなくてもいいじゃん。
君:そっか、うまく描けなくてもいいか。
私:洗濯物、干したいな。
君:お日様でてないけど、乾くかな。
私:乾かないかな。
君:どうだろ。
私:でもきっと、洗濯して、干して、綺麗な服着たら気持ちいいよ。
君:清々しいね。
私:うん、きっと、気持ちいい。
君:抱きしめてたいな。
私:珍しい。
君:本当はずっとそう思ってたよ。
私:珍しい。
君:ずっとね。
私:そっか。
君:うん。
私:はぐ、しよ。あした。
君:うん。
私:泣かないで。
君:うん。
私:怖くないよ。
君:うん、怖くないよ。
私:ずっと一緒にいるから。
君:うん、ずっと一緒にいて。
私:うん、はぐして、布団にくるまって、一緒にいよ。
君:うん。
私:あたたかいねって笑ったり、泣いたりしながら
私:ずっと一緒にいよ。
君:うん。
私:布団のなかで、お互いの遺書読み合ったりしながらさ。
君:はずかしいよ。
私:いいじゃない、人生最後の恥ずかしいだよ。
君:それでも、恥ずかしいよ。
私:その、意地悪な顔、大好きだよ。
君:ありがと。
私:ずっとお話してよ。
君:うん。
私:何でも無い事も、大切な事も、最後の瞬間までずっと。
君:話すよ、何でも無い事も、大切な事も、最後の瞬間までずっと。
私:ね。あした、なにしようか。
君:うん、あした、なにしようか。
私:怖くないよ。君がいるから。怖くない。
君:うん、ありがとう、怖くないよ。
私:一緒にいてくれて、ありがと。
君:こっちのセリフだよ。一緒に、いてくれてありがと。
私:拝啓、って遺書ではあんまり使わないのかな。
君:どうだっていいよ、今更。
私:そっか、いいよね、そんなこと。
君:うん。どうだっていいよ。君が最後まで隣にいれば。
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