悪口くらい言ったっていいじゃん（0：0：2）

【配役】

◆漫画家：性別不問

◆編集：性別不問

編集:書けましたー？

漫画家:うるさい

編集:ねえ、先生、書けましたー？

漫画家:うるさいっての

編集:ねーえー、先生まだですかー？

漫画家:ええい！！！その口まつり縫いしてやるこっちに来いクソ編集！！！

編集:そんな事してる暇あったら早くネーム描きやがれください遅筆ぐーたら漫画家！！！

漫画家:はい、すいません、書きます。

編集:よろしい。

漫画家:書けません。

編集:だめです。

漫画家:思い浮かびません。

編集:だめです、書いてください。

漫画家:考えつきません、助けてください。

編集:甘ったれないでください、だめです。

漫画家:う……うう……ダメだよ……だってダメだもん

漫画家:世界の終わりなんて書いたことないもん……

編集:他の先生方は既に書いておられますけども。

漫画家:そいつらがおかしいんだ！！！化け物だ！！！キショい！！！

編集:自分が上手くいかないのを他人のせいにしてるから、ツケが回ってきてるんでしょ。

漫画家:かはっ……刺さる……それはもはや言葉の暴力だよ……

編集:堅気な仕事もせず、空想と妄想を具現化する事を生業としてる人がアイデアが出ないってもはや救いようないですよ先生。

漫画家:ねえーーーー、死んじゃうよ、私、そんなに刺されたら死んじゃうよ。

編集:いっぺん生まれ変わってみるのもありですよ、先生

漫画家:私はこの私のままで評価されたいのっ！！！違う私なんて私じゃないの！！！

編集:評価されたいってんなら評価されるだけの努力をしてくへたまえよ遅筆ぐーたら漫画家先生よお！！！

漫画家:ああーーーーーん、ぐうの音も出なくてもうしんどいよーーーー。

編集:これはチャンスなんですよ、先生

漫画家:うう、わかってますよ……

編集:わかってないです。選ばれてるんですよ、先生は。12人の漫画家の中に。

編集:翡翠（ヒスイ）出版主催、「救いの詩、滅びの詩」企画。世界の終わりを絶望と救済の2チームに別れて描き合うコミックフェスティバルですよ。

編集:業界の注目度は最高潮、もはやメディアでの取り上げられかたも異常！

編集:その選ばれし12人の漫画家のうちの1人が！あなたでしょ！

漫画家:もうなーんにも実感ない、書けないだもん。

編集:しゃきっとしろ！！！

漫画家:しゃきっとした所でピーマンの中身は空洞だろ！？おなじだよ！！！！

編集:ピーマンと比べるな！！！ピーマンはしゃっきりすればするほど美味しいんだからあなた以上なんですよ！

漫画家:くはーーーーーー、救いもねえなちきしょー！！！！

編集:もうあなただけですよ、ネームも完成してないのは。

漫画家:泣いていい？あ、もう泣くわ、無理、我慢できないもん。

編集:一体どうしちゃったんですか先生、いつもならパパパーっと出てくるでしょ。アイデア。

漫画家:どうしたって聞いたね？君、今。

編集:ええ、聞きましたよ。

漫画家:聞いたからには最後まで聞いて頂く必要があるけどいいんだね？

編集:なにがですか。

漫画家:覚悟はあるんだね！？

編集:だからなにがですか。

漫画家:他の漫画家の悪口をだよお！！！！！

編集:ネームも書けないのに悪口は出てくるって、仕事もしないのに飯だけは食うスネかじりと似てますね。

漫画家:君は私のこと、殺そうとしてる？

編集:いえ、ネームを頂かないとおまんま食いっぱぐれるので死んで貰っては困ります。

漫画家:君ほんとに私の担当編集？本当はスパイとかじゃない？

編集:いえいえ、紛うことなきあなただけの担当編集ですよ、はあと。

漫画家:うううう……味方は居ないのか私には……

編集:その悪口を聞いたら、ネームが書けるんですか？

漫画家:聞いてくれるの？

編集:ネーム書けるんですか？

漫画家:少なからずモヤモヤは晴れる

編集:書けるんですね？

漫画家:圧がすごいよお

編集:ネーム、書けるんですね？

漫画家:書く、書くから聞いてよお

編集:わかりました、聞きましょう

漫画家:ほんと？やった、わあい

編集:で、なにがあったって言うんですか

漫画家:あいつら全員、タンスの角に小指ぶつけてSNSのアカウント炎上してくれないかなーって思ってんの

編集:SNS炎上したのあなたのほうじゃないですか

漫画家:炎上してないし

編集:いい作品が書けたら心が勃起すると言って女性ファンから叩かれまくって

漫画家:やめてほんとそれ実話だから

編集:急に他の漫画家を巻き込んだランキングバトルみたいなの開催しようとして他漫画家から総攻撃受けてたり

漫画家:それはもう反省してるから

編集:炎上してるでしょ

漫画家:ボヤだもん

編集:ボヤでも火事は火事なんですよ、知ってました？

漫画家:悪口言わせてよおおおおお！！！！

編集:ああ、すいませんすいません、つい

漫画家:言っていい？

編集:どうぞ

漫画家:そもそも締切が１ヶ月しかないって何？

編集:まぁ、漫画の締切ってそんなもんだとも思いますけど

漫画家:にしたって、やるって決めてから１ヶ月だよ！？コンテストとかでもそんなに短い締切ないでしょ！

編集:うーんまあ、そうですかねえ

漫画家:その１ヶ月の締切をよ！？

漫画家:凌駕してさあ！？

漫画家:開催告知してから3日で完成させたバケモンがいるっていうじゃん！！

編集:ええ、いらっしゃいましたね。

漫画家:しかも「ネームが」じゃないんだよ！？

漫画家:本編が完成してんだよ！？

編集:その先生の担当さんが喜んでましたよ。

漫画家:人間じゃないでしょ！その速度人間じゃないでしょ！？

漫画家:腕7本くらいあるんじゃないの！？そいつ

編集:こういう時あんまり奇数で言わないですけどね

漫画家:13本くらい！！！

編集:だからなんで1本半端にするんですか。

漫画家:しかもさ、しかも、めちゃくちゃに面白いってなんだよ、なんなんだよ、天才なのかよ、もうそんなの身体から腐った牛乳のにおいがする欠点とか無いと納得いかないよお

編集:なんですかその欠点、発想が気持ち悪いな

漫画家:他にはさ、なんかもはや映画1本分の重厚な物語書いちゃってる人とかもいんの

編集:ああ、あのいつもライバル視してる先生ですね

漫画家:めっちゃ面白すぎなんだよおおおおお

漫画家:映画じゃん！！！！あんなの映画じゃん！！！

漫画家:アマプラで観れるやつじゃん！！！！

漫画家:アニメ化不可避じゃんあんなの！！！

漫画家:あんなクソ重厚SFストーリーなんで思いつくの！？

漫画家:おかしいよ！！！頭ん中どうなってんだよ！！！！

編集:流石のストーリー構成でしたよね

漫画家:あと今回初めてお話させて頂いたエモい作品書くあいつだよ！！！！

編集:どいつです？

漫画家:あのポカポカしそうなあいつだよ！！！！

編集:あー、はいはい、あの先生ですね、エモい作品書くので有名な。

漫画家:なんなのあの人、むかつくんだけど

編集:ムカつくとは一体なにが。

漫画家:なんであんなオシャレでエモエモなセリフ思いつくの？

漫画家:頭の中に村上春樹でも飼ってんの？

漫画家:繊細なうえにキャッチーでわかりやすいって何なの？

編集:村上春樹を頭の中で飼うというパワーワード。

漫画家:だってなんなんだよあれ！！！

漫画家:くっそえも！エモの権化じゃん！

漫画家:エモすぎて雨上がりのにおいしてきた。

漫画家:ぺトリコールじゃん、ぺトリコール漫画家じゃん。

編集:その語彙力を作品に活かせばいいのに。

漫画家:あとあの能力者もの書いたらピカイチのあいつだよ！！！！

編集:ああー、はいはい、巻頭カラーによく選ばれてるあの先生ですね。

漫画家:なんなんだよ！あいつ！！！

漫画家:あいつが一番ふざけてやがる！！！

漫画家:能力者ものだけじゃなくてSFまでしっかり書けんのかよ！！！

漫画家:トッポかよ、最後までチョコたっぷりのトッポかよ！！！

編集:これ悪口なんですよね？

漫画家:極めつけはあいつだよあいつ！！！

漫画家:スチームパンクとかファンタジーで一世を風靡したあいつ！！！

編集:ブラックシャドウの方ですかね？

漫画家:そう！あいつだよ！！！

編集:あの方とは先生も何回か対談したりコラボとかもされてたじゃないですか、共作とかも。

漫画家:したよ？共作。

編集:じゃあ悪口なんて言わなくたって……

漫画家:共作したからだろーがあ！！！！！

編集:ええええ？

漫画家:あの時の良さはそのままに、どんだけレベルアップしてんだよあいつはよお！！！！

漫画家:挑戦的なギミックまで使いやがって

漫画家:それでいて物語がちゃーーーんとしんどいってなんだよ

漫画家:辛いけど辛くないでも本当はちょっと辛いラー油みたいじゃんかよそんなの！

編集:懐かしいですねそれ

漫画家:一番好きだよ、一番好きな漫画家だよ！

漫画家:ちくしょう！なんだあいつ天才かよ！

漫画家:知ってんだよ、あの漫画家がいつもクソほどネーム書いてプロット書いて

漫画家:設定資料もめちゃくちゃ用意して努力してんの

漫画家:天才じゃんそんなのもう、もはや、天才じゃん！

漫画家:スチームパンクもかけてヒューマンドラマもかけて

漫画家:もはや何でも書けるだろあいつ！！！

編集:まぁ多分書けるんじゃあないですかねえ

漫画家:あーあー！あいつの家に急に身に覚えのないクレカの督促状とか届かねえかなあーーーー！！！

編集:別ベクトルで潰そうとするの小物すぎますよ

漫画家:なんかの間違いである日急に宇宙人とかに連れ去られてくんねえかなあ！！！！！！

編集:作品で戦ってくださいよ

漫画家:でもそんなの序の口なんだよ

編集:序の口？

漫画家:あいつだよ

編集:あいつ？

漫画家:あの、世界観ばちばちの女傑地球把握系漫画家のあいつだよ！！！！！

編集:あー、ああー、はいはい、あの先生

漫画家:あいつ今回の企画の運営もやってるでしょ

編集:やられてますね

漫画家:忙しいはずだよな

編集:そうでしょうね

漫画家:なんであんなにペンが早いんだよ！！！！

編集:才能でしょうね

漫画家:才能の一言で片付けてんじゃねえ！！！

編集:じゃあどうしろって言うんですか。

漫画家:何作品提出するつもりだよ！他の連載も抱えてんだぞあの女傑！！！

漫画家:ペンが早いにも程があるでしょ！！！

漫画家:逆冨樫だよ、そんなの逆冨樫！！！

編集:遠回しに冨樫先生の悪口を言うんじゃない

漫画家:妬ましいーーーー！！！あいつ妬ましいよぉーーー！！！

漫画家:しかも聞いてくれよ

編集:聞いてますよずっと

漫画家:あいつさ、あいつ、あいつさあ！

漫画家:すーーーーぐ他の漫画家のいいとこ吸収すんだよ！！！！

編集:素晴らしい才能じゃないですか

漫画家:素晴らしいよ！素晴らしすぎる才能だよ！

漫画家:素晴らしすぎて妬ましいんだよおおお！！

編集:他人の才能を羨み続けて地団駄を踏んでると、途端に自身の足場は踏み固められて寝心地悪くなるって知ってます？

漫画家:聞いたことない煽り名言残してんじゃねえよてめえ！！！

編集:ありがとうございます

漫画家:褒めてない！

漫画家:他人のいい所も吸収できて、しかも自分の色をそこに入れ込むこともできますとかそんなのもはや文化的カレイドスコープじゃん！！！

編集:急に詩的な表現出してくるじゃないですか

漫画家:あの人万華鏡だよ！！！綺麗なビーズもお堅い小豆もなんでもかんでも取り込んでそれを回す度に景色を変えていくか人間万華鏡としか言いようがないでしょ！！！

編集:好きなんですか？

漫画家:大好きだろ！！！ふざけんな！！ちきしょう！！！

漫画家:叩くところがねえよ！！！ちきしょうめ！！！

漫画家:あれでいて性格悪いとかあったらよかったのに！

漫画家:性格悪かったらよかったのに！！！

漫画家:めちゃくちゃホスピタリティの塊のすげえ優しい漫画家先生なんだよあいつはよお！！！

編集:いいことじゃないですか

漫画家:いいことだよ！わかってるよ！ちきしょう！！

漫画家:人間なんて大嫌いだ！！！

編集:もののけ姫の話してます？

漫画家:ちくしょーー！！！！せめて、せめて……性格くらい悪くあれよ……ちきしょう……ちきしょう……

編集:鼻水出てますよ先生

漫画家:他の漫画家たちもよぉ……なんなんだよ……ちきしょう……叩くところねえよ、ちきしょう

漫画家:全員おしりに座ると痛いニキビ出ろちきしょう……

編集:姑息すぎますねえ、で。

編集:どうですか？落ち着きましたか？

漫画家:落ち着いた……

編集:それは良かった、書けそうですか？

漫画家:かけるとおもう……

編集:ああ、よかった！なんとか間に合いそうですね！

漫画家:……この悔しさをバネにして、私はもっといい作品を書いてやるんだ……ちくしょう……ちきしょう……

編集:あ、そういえばさっき来た時にマンションの入口に張り紙があったんですけど

漫画家:なに？

編集:明日エレベーター点検あるそうですよ

漫画家:エレベーターの話はしないで！！！！！！！！！！