『必要ない人生』(0:0:2)
【配役】
◆夜宵:やよい。性別不問。寄り添う。
◆隼瀬:はやせ。性別不問。手をつなぐ。
夜宵:それでは、タイトルは決まりという事で宜しいでしょうか?
隼瀬:……やっぱり、もう少し、待って貰えないかな。
夜宵:ええ、構いませんよ。いくらでもお待ちします。
隼瀬:ありがとう、助かるよ。
夜宵:そんな、当たり前のことをしているだけです。
隼瀬:それでも、人を待たせるというのは気が引けるよ。
夜宵:人が宜しいんですね。
隼瀬:そうかな。
夜宵:そうですよ。お人好しっていい言葉ですよね。
隼瀬:そうだね、とてもいい言葉だと思う。
夜宵:あ、ごめんなさい、私が話しかけてたらまとまるものも纏まりませんよね。
夜宵:少し退席いたしますね。
隼瀬:いや、いいんだ、話している方が気も紛れるし
隼瀬:何より話しながらのほうがアイデアが浮かぶ。
夜宵:では、お相手させて頂いても宜しいのでしょうか?
隼瀬:是非とも、頼みたいな。
夜宵:ありがとうございます。隣に掛けても宜しいですか?
隼瀬:もちろん。
夜宵:では。失礼いたします。
隼瀬:申し訳ないね、本当に。
夜宵:謝らないでください、隼瀬(はやせ)様。
夜宵:時間なら、気にしなくても宜しいんですから。
隼瀬:いやいや、それだけじゃなく、だよ。
夜宵:と、言われますと。
隼瀬:こんな優柔不断に付き合わせてしまうことを。
夜宵:……それだけ、多くの気持ちが詰まっていて、一言で語り尽くせないということでは無いですか?隼瀬様。
隼瀬:君は人を褒めるのが美味いね、夜宵さん。
夜宵:滅相もございません、そう感じた事をお伝えしたまでですよ。
隼瀬:……ありがとう。
夜宵:……ご納得、いきませんか?
隼瀬:え?
夜宵:タイトルを、付けられない方に多いのです。
夜宵:今までの方々を見ていても。
隼瀬:納得、か。
夜宵:ええ。
隼瀬:どうなのかな、納得、いっていないんだろうか。
夜宵:納得とは、少し違いますか?
隼瀬:……そうだね、違うかもしれない。
隼瀬:納得は、いっているんだ、きっとね。
夜宵:良かった。
隼瀬:ありがとう。
夜宵:そんな、私ではなく、隼瀬様の培って来られたこと、ですから。
隼瀬:少し、昔話をしてもいいかい?
夜宵:もちろんです。
隼瀬:昔ね、愛した人がいたんだ、私にも。
夜宵:素敵です。
隼瀬:ああ、本当に素敵な人だった。
隼瀬:朗らかで、爽やかで、それでいて誰にでも優しい、愛の溢れた人だった。
隼瀬:……ああ、本当に、素敵な人だったな。
隼瀬:今でも思う。
隼瀬:あの人と出会えただけで、人生は十分だったって。
夜宵:それほど大切な方だったのですね。
隼瀬:うん。
隼瀬:だから、困ってる。
夜宵:何に、でしょう。
隼瀬:走馬灯って、人生を振り返るものだろう?
隼瀬:なのに、どうしてもそこから始まってしまうんだ。
隼瀬:生まれた時よりも、仕事よりも……
隼瀬:あの人の笑った顔が、最初に浮かぶ。
夜宵:……それは、とても自然なことだと思います。
隼瀬:そうかな。
夜宵:はい。
夜宵:強く残ったものから、順に映る方が多いですから。
隼瀬:君は、ずいぶん詳しいね。
夜宵:お側で、よく拝見していますので。
隼瀬:……そうか。
隼瀬:じゃあ、やっぱりタイトルは、まだ決められないな。
夜宵:理由を、お聞きしても?
隼瀬:タイトルを付けてしまった瞬間、
隼瀬:この人生がまとまってしまう気がしてね。
夜宵:……。
隼瀬:まだ、終わったと認めたくないんだ。
隼瀬:格好悪いだろう?
夜宵:いいえ。
隼瀬:え?
夜宵:とても、人らしいです。
隼瀬:……君は、本当に人を肯定するのが上手だ。
夜宵:肯定しているわけではありません。
夜宵:そう、見えているだけです。
隼瀬:不思議な言い方だね。
夜宵:……隼瀬様。
隼瀬:うん。
夜宵:走馬灯に、題名を付けなかった方も、いらっしゃいます。
隼瀬:そうなのかい?
夜宵:はい。
夜宵:思い出せば、すぐに内容が溢れてしまう人生だった方です。
隼瀬:……それは。
夜宵:とても、良い人生でしたよ。
隼瀬:…………。
隼瀬:じゃあ、
隼瀬:今回は、それでいこうか。
夜宵:承知いたしました。
隼瀬:無題、ではなく
夜宵:はい。
隼瀬:……タイトルは
夜宵:「必要なかった人生」、ですね。
隼瀬:……はは。
隼瀬:それ、なんだか、すごく救われるね。
夜宵:そうであれば、幸いです。
隼瀬:ねえ、夜宵(やよい)さん。
夜宵:はい。
隼瀬:もし、もう一度会えたらさ……
隼瀬:ちゃんと、ありがとうって言えるかな。
夜宵:……大丈夫です。
隼瀬:どうして、そう言い切れるんだい。
夜宵:走馬灯の中で、すでに何度も、伝えていらっしゃいましたから。
隼瀬:……そうか。
夜宵:はい。ですから、安心して。
隼瀬:安心して、か。まさか死んでから、そんな言葉を言って貰えるなんてな。
夜宵:よき人生であったと、思います。羨ましいくらいです。
隼瀬:……もう一度、観ることはできるかな。
夜宵:走馬灯をですか?
隼瀬:ああ、駄目かな。
夜宵:……いえ、構いませんよ。隼瀬様がご納得いくまで。何度だって。
夜宵:このまま、お流ししますね。
隼瀬:ありがとう。……ああ、そう。この公園にもよく行ったな。
夜宵:手を、握られるのがお好きだったんですね。
隼瀬:……そうなのかな。
夜宵:よく、手を握られておりました。
隼瀬:そうなのかもしれないね。
隼瀬:……人生には、必要なものと、そうじゃないものがあるだろう?
夜宵:ええ。わかります。
隼瀬:何が必要で、何が必要じゃないか。
隼瀬:それが簡単に分かれば良かったんだけどね。
夜宵:難しいですね。それを決めるのは。
隼瀬:うん。いつも、必要の無かったことや、ものを
隼瀬:手に持ちすぎて、それを持ちすぎていて
隼瀬:本当に、必要なことがわからなくなる。
隼瀬:若い頃は、特にね。
夜宵:それを、隼瀬様はどうしていったのですか。
隼瀬:……変わってしまうことや、どうしようもできない事を、手放すしか無かったよ。
夜宵:どうでしたか?
隼瀬:……どうだったんだろうなあ。
夜宵:今、どうでしょう?
隼瀬:……大切なもの?
夜宵:はい。
隼瀬:……この手の中に、あるかもしれないね。
夜宵:……だから、手を繋いで居られたのかもしれませんね。
隼瀬:そうかな、そうかも、そうだと、いいな。
夜宵:……よく、笑っておられます。
隼瀬:そうだね、愛しい人だったんだ。
隼瀬:この人さえ居れば、もうそれだけでいいって思える程だったから。
夜宵:いえ、違います。
隼瀬:違う?
夜宵:隼瀬様が、です。
隼瀬:……私?
夜宵:ええ。ここに来るまでも、来てからも、今も。
隼瀬:そんなに、笑っている?
夜宵:はい。とても穏やかに。
隼瀬:なら、必要なものや、大切なものを、ずっと持てていたんだね。きっと。
夜宵:ええ。間違い無いかと思います。
隼瀬:君は、本当に人を褒めるのがうまいね。
夜宵:私では御座いません。
隼瀬:……君では、無い?
夜宵:……この方、先にお亡くなりになられたのでしょう?
隼瀬:……そう、私が死ぬより何年も前にね。
夜宵:……同じ、でしたよ。
隼瀬:……本当に?
夜宵:ええ。映る走馬灯のほとんどが、隼瀬様と同じでした。
隼瀬:……そっか、そうなんだ。
夜宵:内緒ですよ。
隼瀬:……はは、言っちゃいけないことだった?
夜宵:はい、本来は。
隼瀬:……ありがとう。
夜宵:いえ。とても、羨ましくなるほど、素敵な走馬灯です。
隼瀬:……また、会えるかな。
夜宵:ええ、きっと。この方と隼瀬様が行く場所は、きっと同じです。
隼瀬:違うよ。
夜宵:違う?
隼瀬:君とさ。
夜宵:……私と、ですか。
隼瀬:ああ。また、いつか、会えるかな。
夜宵:……ええ、きっと。いつか、きっと。
隼瀬:その時も、付けられないといいな。
夜宵:ええ。名前の付けられないほどの人生を、ぜひ、またお持ちください。
隼瀬:ありがとう、また。
夜宵:ええ、また。お待ちしております。
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