せめて、今日の食事が美味しいように(0:2:0)
【配役】
■みすず:
小野寺 美涼(オノデラ ミスズ)女性 恋人を交通事故で亡くす
■ましろ:
甲斐谷 茉白(カイタニ マシロ)女性 兄を交通事故で亡くす
0:【場面】喫茶店 コロラド 小岩駅南口店にて
ましろ:そういう訳で、近いうちにあなたの私物は全部お送りしますので……。
みすず:そう、わかった。
ましろ:住所が変わるなら事前に連絡ください、弁護士さん経由でも構わないので。
みすず:うん。
ましろ:それから、これ。
みすず:……なあに、これ。
ましろ:兄の部屋に置いてありました。
みすず:……そう。
ましろ:多分あなたの為に用意したものだと思うので。
みすず:ましろちゃん。
ましろ:渡していない以上これは兄のものですが、いずれはあなたの物になっていたというなら
ましろ:あなたに渡すのが多分道理ですし
みすず:ましろちゃん。
ましろ:なんですか?
みすず:受け取れない、これ。
ましろ:……じゃあ、どうしろと?
みすず:……。
ましろ:私に捨てろって言うんですか?
ましろ:そんな酷なことさせます?
みすず:……ごめん、そうだよね。
ましろ:あなたが捨ててください。
みすず:……ごめんね。
ましろ:……それは何に対してですか?
みすず:……全部。
ましろ:全部だなんて、簡単に言わないでよ。
みすず:……そう、だね。ごめんね。
ましろ:謝られても困ります。
みすず:……ましろちゃん。
ましろ:言ってしまえばあなたも被害者なわけですし。
ましろ:あなたに謝られる筋合いはないです。
みすず:……ご飯、食べてる?
ましろ:……は?
みすず:ご飯、ちゃんと、食べてる?
ましろ:いきなりなんですか?
みすず:ごめんね、でも、心配で……。
ましろ:あなたに心配をされる筋合いないです!!!
みすず:……ごめん。
ましろ:……いえ、すいません、大きい声出して。
みすず:ううん、いいの……。
ましろ:…………プロポーズ、受けてましたか?
みすず:……え?
ましろ:兄が、プロポーズしてたら、受けてましたか?
みすず:……うん、多分。
ましろ:……そう、ですか。
みすず:……そう、だね。
ましろ:変な事聞いてすいませんでした。
ましろ:……伝える事は、伝えたので、私はこれで。
みすず:ましろちゃん。
ましろ:……なんです?
みすず:……やっぱり、ご飯、食べよ。
ましろ:……なんでですか。
みすず:私たち、一緒にご飯を食べるべきだと思う。
ましろ:嫌ですよ。
みすず:おねがい。
ましろ:……今更、でしょ。もう私達は今後関わる事もない他人ですから。
みすず:そうかも知れない。
ましろ:ですよね、では。
みすず:でも、なら、なおさら、これが最後、でしょう?
ましろ:……。
みすず:……おねがい。
ましろ:……わかりました。一緒に食事をしたら満足なんですね?
みすず:うん。
ましろ:……メニュー、貸してください。
みすず:……うんっ。
0:みすず、ましろにメニュー表を渡す。
ましろ:……食欲、無いんですけどね。
みすず:……ましろちゃん、タマネギ、食べられる?
ましろ:バカにしてます?
みすず:し、してないよ。してない。
ましろ:……食べられるようになりました。
みすず:それじゃあ、これとか、どうかな。
ましろ:……オニオングラタンスープですか?
みすず:うん、好きなんだ、ここのオニオングラタンスープ。
ましろ:……あなたは、どうしますか。
みすず:私は、これにするよ。
ましろ:一緒になっちゃいます。
みすず:……いや、かな。
ましろ:……これでいいです。
みすず:……よかった、パンもついてくるからね。
みすず:飲み物はどうする?
ましろ:同じでいいです。
みすず:じゃあ、ダージリンティーにするね。
ましろ:それでいいです。
みすず:(遠くに居る店員を呼び)すいません。
みすず:えっと、オニオングラタンスープと、あと、ダージリンティーのセットで。
みすず:あ、えっと、パンとライス選べるんですか、えっと。
ましろ:……パンでいいですよ。
みすず:あ、うん。えっと、パンでいいです。はい、お願いします。
みすず:ありがとう、ましろちゃん、鈍くさくてだめだね、ほんと。
ましろ:いえ、別に。
みすず:……私のこと、嫌い?
ましろ:……ずいぶん、ストレートに聞くんですね?
みすず:他に、聞き方、わからなくって……
ましろ:……嫌いです。
みすず:……えへへ、そう、だよね。
ましろ:……もう、身体は大丈夫なんですか?
みすず:え?
ましろ:……足、大丈夫なんですか?
みすず:えっと、うん。半年はかかるって……
みすず:でも、綺麗に折れてたから、治りは早いだろうって。
ましろ:……そう、ですか。
みすず:うん。
ましろ:……。
みすず:ごめんね。
ましろ:……だから、謝らなくても……
みすず:私が、生き残っちゃって、ごめん。
ましろ:……。
みすず:私が、代わりに死んだほうが、よかったと思う。
ましろ:なんで、そんなこと言うんですか。
みすず:……あなたのお兄さんを、奪っちゃったんだもん。
ましろ:……。
みすず:ごめんなさい、本当に。
ましろ:……運転していたのは、兄です。
みすず:鎌倉に行きたいって言ったのは、私。
ましろ:……。
みすず:ごめんね、ましろちゃん。
みすず:本当に、ごめん。
ましろ:謝られたって、兄が戻ってくるわけじゃないです。
みすず:……本当に、そうだね、その通り。
みすず:でも、ごめんなさい、本当に。
ましろ:……先輩。
みすず:先輩って呼んでくれるの、久々だね。
ましろ:……私、どうしたらいいのかわからないんです、先輩。
みすず:……うん。
ましろ:あなたが悪いわけじゃない。
ましろ:それはわかってます、頭の中では、わかってるんです。
ましろ:でも、私、今、あなたが憎くて溜まらない。
みすず:……うん、わかってるよ。
ましろ:私には、兄しか居なかったんです。
みすず:……うん。
ましろ:兄だけが、私の家族で、兄だけが、私の支えで。
ましろ:兄だけが、私のすべてでした。
ましろ:私は今、誰に、何を思えばいいんでしょうか。
みすず:……。
ましろ:ハンドル操作を誤った兄に怒ればいいの?
ましろ:夜勤後の疲れている兄に鎌倉へのドライブを願ったあなたを恨めばいいの?
ましろ:それとも
みすず:ましろちゃん……。
ましろ:それとも、何もできずに、立ち尽くすしかできなかった私を恨むべきなの?
みすず:それは、それは違うよ、ましろちゃん
みすず:あなたは何も悪くない。
ましろ:でも、あなたも悪くない。
みすず:……。
ましろ:なのに、なのに私、あなたに当たってる。八つ当たりしてる。
みすず:……いいんだよ、ましろちゃん。
ましろ:よくないよ。
みすず:いいんだよ……。
ましろ:よくない、そんなの間違ってる、私おかしいことしてる!
ましろ:でも、でも、どうしたらいいのかわかんない、どうしたらいいの。
ましろ:何も考えたくない、何も、感じたくない。
ましろ:私、私ひとりぼっちになっちゃった。
ましろ:誰も悪くないことなんてわかってる、でも、誰も悪くないなら
ましろ:どうすればいいの、この気持ちを、どうしたらいいの。
みすず:……どうしたら、いいんだろうね。
ましろ:……ごめんなさい、みすず先輩、ごめんなさい……。
みすず:あ、謝らないで、ましろちゃん、謝らないで。
ましろ:ごめんなさい、八つ当たりして………
ましろ:ごめんなさい……みすず先輩だって、死にかけたのに……
みすず:……でも、私は、生きてるから……。
ましろ:一秒でも、一瞬でも、あなたが代わりに死んで居ればって、
ましろ:思っちゃったんです、私。
みすず:……うん。
ましろ:……ごめんなさい、そんなこと、思ってしまって……本当に……。
みすず:いいんだよ、ましろちゃん、そう思って当然なんだもん。
ましろ:……だめですよ、だめなんですよ、そんなこと、思っちゃったら。
みすず:……いいんだよう、ましろちゃん。
みすず:それであなたが少しでも、少しでもね、気持ちが楽になるなら
みすず:私、それでもよかったの。
ましろ:……優しすぎますよ、そんなの。
みすず:……ましろちゃん、私ね、あなたのお兄さんの事大好きだった。
ましろ:……知ってます。
みすず:私ね、ほら、鈍くさいでしょ……
みすず:昔からね、どこか一歩遅れちゃったり、間違っちゃったり
みすず:焦っちゃったりするとね、パニックになっちゃって
ましろ:……昔から、そうでしたね
みすず:へへ……ほんと、ましろちゃんにはいっぱいフォローしてもらっちゃった……
みすず:……お兄さんも、たくさん、私の事理解してくれた。
みすず:理解、してくれて、いっぱいね、そのままの君でいいよって。
ましろ:……言いそう。
みすず:……この指輪ね、彼が選んでたの、知ってたんだ。
みすず:見て、裏にね、書いてあるでしょ。見える?
ましろ:……刻印?
みすず:うん……
みすず:「ステイ・フー・ユー・アー」って書いてあるの。
ましろ:……どういう意味?
みすず:「あなたはあなたのままで」
ましろ:……兄らしい。
みすず:ずっと、ずっとね、そうやって言ってくれるのは、彼だけだった。
ましろ:……うん。
みすず:ごめんね、ましろちゃん、ごめんね
ましろ:……あやまらないで
みすず:わたしも、どうしたらいいのかわからないの、このきもち
ましろ:……せんぱい
みすず:ごめんね、ごめん、ないちゃだめなのに
みすず:なきたいのは、ましろちゃんの方なのに
みすず:ごめん、ごめんなさい、わたしが生き残っちゃった、ごめんなさい
ましろ:……あやまらないで、せんぱい、泣かないで……。
みすず:ごめんなさい、私にも、私にも、彼しかいなかったのに
みすず:うう、ううう、ごめんなさい、ましろちゃん
ましろ:せんぱいのほうが、先輩のほうが、つらいのに
ましろ:私、いっぱい八つ当たりしてごめんなさい、ほんとうに
みすず:もう、会えないんだって、彼に
ましろ:せんぱい……ううう……
ましろ:私、私、先輩と、お兄ちゃんが仲良くしてるところ
ましろ:大好きだったの、いっぱい、いっぱい好きだった
みすず:ましろちゃん
0:スープが届く
みすず:……私、もう、誰かの幸せを願ったり誰かと幸せになることをね
みすず:望んだり、願ったりすることは、出来ないかも知れない。
ましろ:……先輩。
みすず:でも、でもね。
みすず:誰かの一日の食事がせめて美味しいものになるように祈るくらい
みすず:それくらいのことは、したいの。
ましろ:……。
みすず:誰かが、ご飯をね、美味しいって食べられる一日が
みすず:来ますようにって、願いたいの
みすず:ましろちゃん、あなたのことも、そうやって、願ってもいい?
みすず:願いたいの、そう、ありたいの
ましろ:私も、私もですよ
ましろ:私だって、願っていいですか、先輩
ましろ:せめて、誰かのその日のご飯が、おいしいものでありますようにって
ましろ:私だって、先輩に
みすず:……食べよ、ましろちゃん。
ましろ:……はい、温かいうちに。
0:お互いスープを一口飲む
みすず:……おいしい
ましろ:……はい、おいしいです、すごく、おいしい。
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