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臍帯とカフェイン|声劇シナリオ・ポエトリー

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【配役】

◆ドルチェ:

 誰もだませた事のない元・ペテン詐欺師。ドルチェ・クラウン。劇中の性別は男性ですが、性別不問。


◆メイヴ:

元・天才役者。国立劇団座長。メイヴ・ハーティ。 作中男性だが、性別は不問とする。


【詳細】

ジャンル:ヒューマンドラマ

配役:性別不問2名

時間:約20分


すべての創作者と、すべての表現者へ。




ドルチェ:失礼します


メイヴ:……名前と、出身、自己PRがあれば言ってくれ。


ドルチェ:ドルチェ・クラウン、出身はべスタフっす。

ドルチェ:自己PRは、特にないです。


メイヴ:これは、一応オーディションなんだが、自己PR無しで本当にいいんだな?


ドルチェ:俺にはまだ、何もないっす。


メイヴ:……どうしてそう思う?


ドルチェ:シルバさんから、聞いてませんか。


メイヴ:なんにも。あの人肝心な事は何一つ言わないからな。


ドルチェ:シルバ先生らしいや。


メイヴ:……あの人に、演技を教わってきたのか?


ドルチェ:ほんの、少しだけ。


メイヴ:ほんの、少しね。


ドルチェ:……死んだんです、ドルチェ・クラウンは、一度。


メイヴ:死んだ……?


ドルチェ:小さな町の、小さな病院一室に、置いてきました。

ドルチェ:何もできなくて、後悔ばかりで、人から奪う事しか考えてなかった自分を。

ドルチェ:あの場所に置いてきました。


メイヴ:……そうか。


ドルチェ:だから、すいません。

ドルチェ:今の自分には、まだPRできるなにかがひとつもありません。

ドルチェ:今からが、ドルチェ・クラウンなんです。


メイヴ:……なんて言われた?あのシルバ・ブライトマンに。


ドルチェ:何も。


メイヴ:なにも?オーディションに対してどうするべきかも?


ドルチェ:はい、何も。


メイヴ:あの人はいつも急だし、いつも言葉が足りないな、まったく……


ドルチェ:でも、ただひとつだけ。


メイヴ:ひとつ?


ドルチェ:「変わり続ける、覚悟をしろ」と。


メイヴ:……ハァ!!!まったく!あの身勝手魔人め!

メイヴ:面倒事だけ押し付けて消えたと思ったら、今度は弟子を送り付けて来やがった……!


ドルチェ:み、身勝手魔人。


メイヴ:こうも言ってなかったか?


ドルチェ:え?


メイヴ:「他人を舐めるな」と。


ドルチェ:……「自分自身を舐めるな」、とも。


メイヴ:……くそったれめ。


ドルチェ:不味かったですか?


メイヴ:……お前は、悪くないよ。


ドルチェ:それじゃあ……?


メイヴ:「俺も、全く同じ事を言われた」


ドルチェ:……同じことを。


メイヴ:それが何を意味するかわかるか?ドルチェ・クラウン。


ドルチェ:……わかんねえっす。


メイヴ:「俺もお前もあの人の弟子」ってことだよ。


ドルチェ:…………あ、アニキ?


メイヴ:やめろやめろ!アニキ呼ばわりするな!


ドルチェ:兄弟子、ってことっすよね?


メイヴ:そうかもしれないがやめろ!


ドルチェ:お、お兄ちゃん?


メイヴ:もっとやめろ!


ドルチェ:さーせん。


メイヴ:……ふう。本来、今年のオーディションはもう終了してるんだよ。


ドルチェ:はい。


メイヴ:それを、あの人からの電話一報で特例のオーディションを行う事になった。


ドルチェ:ありがとうございます。


メイヴ:……演技経験は?


ドルチェ:詐欺を少々。


メイヴ:……詐欺?


ドルチェ:はい。詐欺。


メイヴ:……おまえ、経歴は?ここに来るまで何をしてた?


ドルチェ:「レゾナンス」ってマフィアで下っ端やってました。


メイヴ:ああもう!シルバ!!!あの老害。くそ!

メイヴ:どういう人材を送ってきてるんだ!?


ドルチェ:でも、あまりにも詐欺が成功した事無くて、ボスからは居ないものとされてたというか。


メイヴ:……足抜けは?して来たんだろうな?


ドルチェ:はい、電話したら即効捨てられたっす。


メイヴ:……逮捕歴は。


ドルチェ:ねえっす。何せ一度も成功したことなくて。


メイヴ:……ギリッギリだぞ、それは、ホントに。


ドルチェ:わかってます、だから、もうこれが最後のチャンスっていうのも、わかってる。


メイヴ:どうして、ここなんだ?


ドルチェ:え?


メイヴ:演技をしたいなら、何も国立劇団じゃなくてもいいだろ。


ドルチェ:そう、っすね。


メイヴ:なんで、ここなんだ。


ドルチェ:……言わないと、だめですか?


メイヴ:オーディションだぞ?


ドルチェ:……っすよね。


メイヴ:……話したくないなら、その分加点しない。

メイヴ:それだけだ。


ドルチェ:笑わないで聞いてくれます?


メイヴ:……笑っちまう様な話なのか?


ドルチェ:俺が、そんな話したら多分大爆笑すると思う。


メイヴ:……笑うやつは居ないよ、この国立劇団には。


ドルチェ:……っす。


メイヴ:なぜ、ここなんだ。ドルチェ。


ドルチェ:メイヴ・ハーティを超えたいから。


メイヴ:…………ふう。


ドルチェ:超えたいからです。


メイヴ:ドルチェ・クラウン。「その言葉が、何を意味するか、わかってて言ってるのか」


ドルチェ:……。


メイヴ:「わかってて、言ってるのか」


ドルチェ:わかってる。


メイヴ:言ってみろ。


ドルチェ:……。


メイヴ:ここで言い淀むくらいの夢なら、殺した自分と共に捨ておけ!!ドルチェ・クラウン!!!

メイヴ:俺を、私を超えるという事がどういうことなのか言ってみろ!!!


ドルチェ:……あなたを舞台から引きずりおろして、俺がそこで輝くんです。


メイヴ:何のために。


ドルチェ:……。


メイヴ:何のために、それをする!ドルチェ・クラウン!


ドルチェ:……。


メイヴ:……言えないか。


ドルチェ:……。


メイヴ:所詮元マフィアじゃ、こうやって言えない事とぶち当たった時に、その夢は終わるんじゃないのか?


ドルチェ:……迷ってるんです。


メイヴ:……迷う。


ドルチェ:今でも、迷ってるんです。

ドルチェ:俺は、こんな風に、表の道を歩こうとしちゃいけないんじゃないかって。


メイヴ:……。


ドルチェ:路地裏の、臭い通路で、薬さばいてる奴らみたいに、コソコソ生きて

ドルチェ:死ぬ時は、どぶの中で息絶えるような人生の方がよかったんじゃないかって。


メイヴ:じゃあ、何故、そうしない。


ドルチェ:憧れちまったから。


メイヴ:……憧れた。


ドルチェ:「メイヴ・ハーティ」という、舞台の上で輝き続けるあんたに憧れちまった。

ドルチェ:俺を、あんたと勘違いした女の子がいたんです。

ドルチェ:あんたの演技が好きで、大好きで、あんたに会いたくて、でも、現れたのは俺だった。


メイヴ:……俺の名を騙って、詐欺をしたのか?


ドルチェ:そうです。


メイヴ:……。


ドルチェ:そこで、シルバ先生に出会いました。


メイヴ:……あの人が好きそうなシチュエーションだ。

メイヴ:劇団にいた時も、よく野良猫を拾ってきてた。


ドルチェ:……その子は、最期まで、俺の事をメイヴ・ハーティだと勘違いして、いなくなっちまった。


メイヴ:その子に、救われたっていうのか?


ドルチェ:違う。


メイヴ:違う?


ドルチェ:俺は恥ずかしいんだ。


メイヴ:……恥ずかしい?


ドルチェ:俺は、そんなドラマのような事が無けりゃ、全うに生きようなんて思えなかったクズだ。クズなんです。


メイヴ:……。


ドルチェ:何も無かった、元々何も持ってすら居なかった。

ドルチェ:でも、あの子はそんな俺をあんただと勘違いしたまま死んでいった。

ドルチェ:「そんなの、申し訳なさすぎる」

ドルチェ:俺が、俺なんかが、あの子の最後の一時を

ドルチェ:貰っていいはずがない!

ドルチェ:「だから、あの子が恥ずかしくないように、恥ずかしくない俺になる」

ドルチェ:「その為に、あんたを超えたい、あの子の人生に、メイヴ・ハーティより凄い役者に出会えたという箔をつける事ができるのは俺だけだ」


メイヴ:…………まったく、あの人と言い、お前と言い……。


ドルチェ:……俺には今、それしか言うことはできないっす。


メイヴ:……ずるいな、本当。


ドルチェ:……すいません。


メイヴ:本当は、オーディションは形だけ。採用するつもりなんて微塵もなかった。


ドルチェ:……そっすよね。


メイヴ:だから、そんなドラマ話すのは、ずるいってもんだ。ドルチェ。


ドルチェ:……すいません。


メイヴ:謝るなよ。


ドルチェ:え……


メイヴ:それだけ、お前は本気になってるんだろ、今。


ドルチェ:……はい。


メイヴ:どうしても、叶えたい夢が、出来てしまったんだろう?


ドルチェ:……はい。


メイヴ:その為に、ここなんだ?


ドルチェ:その為に、ここなんです。


メイヴ:俺を、超えられるか?


ドルチェ:……超えます、超えてみせる。


メイヴ:簡単じゃないぞ。


ドルチェ:……わかってる。


メイヴ:恐ろしい事も、苦しいことも、沢山待ち受けてる。


ドルチェ:……「死ぬこと」より、恐ろしくて、苦しいことなんてありますか。


メイヴ:……はは、そうか、骨太(ほねぶと)なんだな、ドルチェ。


ドルチェ:野良犬と腐った肉を奪い合ったこともあります。


メイヴ:……それは、骨太(ほねぶと)だな。


ドルチェ:豪雪の中の野宿は、二度と経験したくない。


メイヴ:本当に骨太(ほねぶと)だな……?


ドルチェ:人と思われなくたっていいです。


メイヴ:それは流石にだぞ。


ドルチェ:雑用係でもいい、なんでもやります、だから。お願いします。


メイヴ:……。


ドルチェ:頼みます!!!メイヴ座長!!!

ドルチェ:俺は何がなんでもスターになる!

ドルチェ:この世の中のすべての瞳をかっさらえる、

ドルチェ:眼を、眼を閉じても瞼に浮かぶくらい

ドルチェ:キラキラしたスーパースターに!!


メイヴ:……焦りすぎだろ、ドルチェ。


ドルチェ:お願いします!!!


メイヴ:……ちゃんとオーディションはしてやる、お前が、どれだけの熱意を持ってるかは伝わった。


ドルチェ:……ありがとう、ありがとうございます。


メイヴ:……あの人は、元気か?


ドルチェ:シルバ先生ですか?


メイヴ:ああ。


ドルチェ:はい、最近は腰が痛いって言ってますけど。


メイヴ:……俺の入団オーディションはな、あの人だったんだよ。


ドルチェ:シルバ先生が……?


メイヴ:何やらされたと思う?


ドルチェ:……え、演技のオーディションじゃないんすか?


メイヴ:あの偏屈魔人がそんな事で決めるわけがないだろ……


ドルチェ:じゃあ、何を?


メイヴ:……ふふ。


ドルチェ:え?


メイヴ:選考番号1番、ドルチェ・クラウン。


ドルチェ:え、あ、はい


メイヴ:課題演目、「モーフィウス卿」は、頭に叩き込んできたか?


ドルチェ:……はい、当然です。

ドルチェ:あなたの演じた役も、あのクロード・クリスウェルの演技も、すべて、頭に叩き込んできた。


メイヴ:そうか、では演じられるか?


ドルチェ:……やります、なんでも。


メイヴ:そうか。


ドルチェ:はい。


メイヴ:「じゃあ、このモーフィウス卿が何故面白くないかを話せ」


ドルチェ:…………はい?


メイヴ:「課題演目、モーフィウス卿の、面白く無い理由を話せ」


ドルチェ:な、何を言ってるんすか


メイヴ:お前の言葉で、お前の思った通りに、この演目が面白くなかった理由をお前の言葉で話せ。


ドルチェ:な、なんでそんなこと。


メイヴ:演技を、一切せずに。俺に伝えろ。


ドルチェ:…………それが、シルバ先生のオーディションだったんですか?


メイヴ:……俺の時は、課題演目はロミオとジュリエットだったよ。


ドルチェ:……俺でも知ってる、名作じゃねえすか。


メイヴ:さ、ドルチェ。聞かせて貰おうか。


ドルチェ:……あんたに正面切って、あんたの作り上げたものを批判するなんて、ロミオとジュリエットの批判よりきつくないですか?


メイヴ:なんでもやるんだろ?


ドルチェ:……はい、なんでもやりますよ。


メイヴ:じゃあ、教えてくれ。


ドルチェ:……キャラクターの思想が、観客に響いてない。


メイヴ:ほう、どんな所がだ?


ドルチェ:主人公の思想が、まず嘘をついている状態から始まってる。身分を隠し、正義の為と言いながら民衆を騙して扇動している。


メイヴ:続けて。


ドルチェ:それは、簡単には共感できない。

ドルチェ:世の中、悪いことをした奴は、罰せられて当然だ。

ドルチェ:でも、モーフィウスは嘘から始まる。

ドルチェ:それが正義の為だとは言え、そこに共感する為には観客は少し考えちまう。


メイヴ:そうだな。


ドルチェ:そこを、帳尻を合わせるために、登場人物達が都合よく改心していく。それは、なんというか。


メイヴ:チープ?


ドルチェ:……そう、感じる。


メイヴ:では、ドルチェ。


ドルチェ:はい。


メイヴ:「演技というのは、嘘じゃないのか」


ドルチェ:……。


メイヴ:存在しないものを、さも存在するかのように語る俺達がしていることは、嘘じゃないのか?


ドルチェ:それは……


メイヴ:「では、どうすればいいと思う?」


ドルチェ:え……


メイヴ:「どうすれば、良かったと思う?」


ドルチェ:どうすれば……


メイヴ:どう話を作れば、どう演技をすれば

メイヴ:「モーフィウス卿」は、もっと面白くなった?

メイヴ:もっといい劇になった?


ドルチェ:それは……


メイヴ:……どう思う?ドルチェ・クラウン。


ドルチェ:…………わからないです。


メイヴ:……そうか。


ドルチェ:すいません……。


メイヴ:俺もな、同じ事を言った。


ドルチェ:…………え?


メイヴ:ロミオとジュリエットをどうすればもっと面白く作り替えられるか、って言われてな。

メイヴ:「わかりません」って即答してやった。


ドルチェ:え、ええ……?


メイヴ:「わかるわけ、無いだろ?そんな事」


ドルチェ:ず、ずるくないっすか?そんなの。


メイヴ:ずるくないよ。


ドルチェ:ど、どうして。


メイヴ:「だから、俺は国立劇団に入団出来たんだから」


ドルチェ:な、なんで


メイヴ:「こうすれば面白くなります」なんて、どうしてわかるんだ?

メイヴ:俺たちは神様なんかじゃない。

メイヴ:どの創作者も、どの表現者も、何かを作り出したとてそれは「神様なんてものじゃない」


ドルチェ:神様じゃ、ない。


メイヴ:「わからないから、突き詰めて行くんだよ」

メイヴ:わからないから、わかろうとする。

メイヴ:面白いかどうかを決めるのは、俺らか?脚本家か?


ドルチェ:……違う。


メイヴ:……だれが、決めるんだ?面白いのかどうかを。


ドルチェ:「観客だ、いつだって、それを決めるのは観客だ。」


メイヴ:……だから、こうすれば面白くなるなんて簡単に口に出来てしまう奴は、採用されなかったんだよ。


ドルチェ:……難しすぎるでしょ。


メイヴ:あの人は、そういう人なんだ。


ドルチェ:……偏屈魔人だ。


メイヴ:まさしくな!ははは!


ドルチェ:……俺は、どうですか、メイヴさん。


メイヴ:なにが。


ドルチェ:な、なにがって。


メイヴ:オーディションの結果か?


ドルチェ:……はい。


メイヴ:……そうだなあ。


ドルチェ:……だめ、ですか。


メイヴ:考えておけよ。


ドルチェ:えっと、何を、ですか。


メイヴ:もう二人いる同期に、なんて自己紹介するかを、だよ。


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