「そのあじを食べるのは私だ」(1:1:0)
【配役】
千歳:女性
康介:男性
千歳:(玄関先にて宅配便のやり取り)
千歳:はーい、ちょっと待ってくださーい。はい、印鑑……っと。ありがとうございまーす!おつかれさまでーす!
康介:どうしたの?何か届いた?
千歳:うん、多分この間ネットでポチったやつだと思う!
康介:え、なになに?
千歳:ほら、コロナの影響でさ、お魚屋さんが大変だからって。
康介:あー!漁師さんから直接買い付けるってやつか!
千歳:そうそう!それ!その日に捕れた新鮮なお魚を送ってくれるやつ!
康介:うわー!超テンションあがってきたんだけど!はやく開けてみようよ!
千歳:おっけー!ちょっとまってね。あ、そういえばさ。
康介:んー?
千歳:最近お隣さん、ペット飼い始めたみたい。
康介:ペット?このマンション大丈夫だったっけ?
千歳:ダメだったと思う。よく夜にどたばたしてたり鳴き声が聞こえるんだけど、注意したほうがいいかな?
康介:んー、明日管理人さんに言ってみようか。それよりさ、はやく中身見たいよ!
千歳:うん、おっけー、じゃあ開けてみよ!
千歳:わ、見て。すごい!
康介:すごい!いちにいさん……え、すっごい量入ってる!!
千歳:美味しい食べ方のレシピとかも入ってるね、ふむふむ、なになに。
康介:わ!これサイズちいさいけど鯛だ!あ、すごい!これヒラメじゃないの!?
千歳:煮付けに天ぷら、塩焼きにお刺身、すごいよ、色々美味しい作り方載ってる!
康介:これ太刀魚だ!おいしいんだよなあ!炙ったら最高!日本酒ってまだあったっけ?獺祭(だっさい)と一緒に飲んじゃおうかなあ!
千歳:多分まだ半分くらいあるよ!あー、フライとかも良いよねえ。どうしよ!迷っちゃう!でもやっぱり一番は……
康介:あ、こ、これは!
千歳:あじが一番だよねー。(あわなくてもいいので同時に発言)
康介:一番すきなあじだ!!(あわなくてもいいので同時に発言)
千歳:え?
康介:え?
千歳:康介、光り物苦手じゃなかった?
康介:いや、あじだけは別格だよ?
千歳:いやいやいや、無理しなくていいって。
康介:いや、無理なんてしてないって。
千歳:鯛あげる。
康介:お、おお、ありがとう。
千歳:だからあじは私が食べる。
康介:おいおいおいまて。なら鯛いらない。鯛いらないよ。
康介:あじよこせ、あじ。
千歳:やだ。
康介:やだってなに。
千歳:これは私がハマゾンでポチった物だ。だから私のモノ、わかる?どぅーゆーあんだーすたん?
康介:まてまてまて。そのポチった時に発生したお金は誰の懐から出ている?
千歳:あなたからですが何か?
康介:ひらきなおるなよ!!!開いてるのはあじのお腹だけでいいわ!
康介:それなら実質、エンドユーザは僕だろう?君は仲買業者。さ、エンドユーザーにきちんとコンテンツの提供をしなさい。
千歳:しません。仲買した上で独立させていただきました。今後我が千歳商会はそちらに商品を卸しません。閉店。がらがら。
康介:そうはいかんぞ!それは契約違反だー
千歳:契約なんてしーてーまーせーんー!不渡り手形かなんかなんじゃないですかー?それー!
康介:ぐぬぬぬ!!!!!
康介:……千歳さん。
千歳:……なんでしょう。
康介:……2人が平和になる道はないのですか。
千歳:……なくも、なくもなくもなくもない。
康介:どっち!
千歳:……半分こする?
康介:それ、名案。そうしよ?
千歳:……そだね、ちょっと大人げなかった。食べる量は減っちゃうけどさ、半分ずつにしよっか。
康介:うん、それがいいよ。そうしよ!
千歳:じゃあ、こうやって、よし、三枚おろしにして分けて……と。
千歳:これが康介の取り分ね。
康介:ちょっと待て!!!これ真ん中の骨の部分だろが!!
千歳:そうだけど?
康介:残り2切れの身は!?普通そっち分けるだろ!?
千歳:康介くん。
康介:な、なんだよ。
千歳:康介くんはさ、あじ、好き?
康介:ああ、すっげぇ好き。
千歳:どれくらい好きなの?
康介:そりゃどの魚よりも一番好きだよ!!!
千歳:そうだよね、どの魚よりも美味しくて思わず喉から手が出ちゃうくらい最強に美味しい魚だよね。
康介:ああ!そうだよ!だから……!
千歳:だからさ、骨まで美味しいよね?
康介:え?
千歳:身も骨も美味しい。あじの中に優劣なんてないよね?
康介:ちょ……え?
千歳:だって最強に美味しいあじだよ?どの部位もナンバーワン。どこが美味しいかなんて決められないよね?
千歳:身も皮も骨もにおいも、すべてがオンリーワンでナンバーワン。そうだよね?
康介:そ、そうだけど……。
千歳:だから、身でも骨でも価値は同じ。しかも康介くんはさ、骨せんべい大好きだし、なんなら日本酒と一緒に食べるんだよね?
康介:そ、そうだよ……?
千歳:ということはさ、アジフライにして盛モリご飯を食べたい私と違って、旨みがたっぷり詰まったその骨の部分をさ。泣く泣く私はあなたに献上するのですよ。
康介:は?え、いや、え?
康介:いやなんか、ほだされそうだったけどおかしいだろ。
千歳:おかしくないよ!!!!
千歳:じゃあ康介は!!あじの部位にケチつけるの!?優劣をつけるの!?そんなのあじに失礼じゃん!おかしいじゃん!
康介:お、おい。
千歳:あじは等しく美味しい。優劣が付け難い。だから、このバランスでもおかしくない。むしろあなたの好きな骨せんべい分、そっちに好きなの献上してるので私のほうが損していますはい論破ー。
康介:ぐぬぬぬぬ!!!!
千歳:否定できないわよね?そうよね?だってそこを否定してしまったら、あなたより私のほうがあじを愛しているということになる!
千歳:そう!それはもう揺るぎない事実!!!勝った!!!これは私の勝ちだ!!
康介:い、異議あり!!!
千歳:却下。反論の余地なし。
康介:いいや!!ある!!!
康介:骨せんべい分損している、と言うのなら、わかりました。
康介:この骨はお返しします。
千歳:え?
康介:その代わりその身の半分で我慢しましょう!さあ、貰いましたよ!
千歳:あ、ああ!
康介:どうしたんですか?骨せんべい分の損は取り返したし、貴女としては得をしている状況ですよね?
千歳:う……うう……
千歳:アジフライと塩焼きにしようと思ってたのにぃ……
千歳:うう……康介ぇ……。
康介:な、なんだよその目は……
千歳:地球上の生物すべてに宣戦布告する!!!あじはすべて私のものだ!!!
康介:あ!おま!とるな!!
千歳:あじの美味しいところが全部?皮や骨までおいしい?そんなの、そんなのわかりきっているじゃない!
千歳:分かりきった上で私は!!
千歳:すべて我がモノにしたいのよ!!
康介:お前が何を言おうとその理論はお前が提唱しはじめたんだぞ!そんなもんもう暴君以外の何ものでもないだろう!
康介:はい!論破!これが正に弾丸論破ぁ!
千歳:言葉では負けても、気持ちでは負けてないもん!誰がなんと言おうと私の方があじが好きだし、なんならあじを愛してる!!あじとベッドを共にしてもいいわよ!
千歳:そもそも私は六年前からあじの事を愛してるの!あなたは!?いつから好きなのよ!!
康介:愛に年数は関係ないだろ!!
千歳:いつからよ!!
康介:……二ヶ月くらい前からですけど!!
千歳:ほーーーーら!!これはもう愛の深さが違う!
千歳:まるでそう、熟成させた年代物のワインのように私の愛のほうが深いのよ!!ラブあじ!!クレイジーフォーあじ!!
康介:今どきは結婚だって電撃!イナズマ!スピードが命なんだよ!
康介:愛した年数でその愛の密度が測れるか?
康介:毎日だらだらと愛を囁くだけなのと
康介:毎日あじのために身を粉にしてすべてを捧ぐのじゃ愛の密度はちーがーいーまーすー!
千歳:はーぁ?私は毎日すべてをあじに捧げてますぅー。
千歳:あじを食べていいのは私だけ!!あじは私にとって特別な存在なわけ!!
康介:そんなもん俺もベーシックで愛してますー。俺にとっても特別な存在ってのがベーシックですー。
千歳:……きらい。
康介:まてそれは無いだろ。
千歳:やだやだやだ!康介嫌い嫌い!やーだー!
康介:あーーーもーーー!!
康介:それはずるいだろ!!!
康介:もうさ、こうしよ、それぞれが一番おいしいと思う調理法であじを料理してさ。それを全部シェアしよ、な?
千歳:むー……。
康介:な?じゃないと収まりどころないもん。他にも魚いっぱいあるしさ。
千歳:……和平条約を結びます。
康介:おーけー!そうしよう!
千歳:あれ?その、あじは?あじはどこ?ないよ?
康介:え?あれ!?ほんとだ!?あれ!?
千歳:康介!窓開いてる!!
康介:え!?ちょ、ちょっとベランダに……え?ええ!!??
千歳:ど、どうしたの!?
康介:お隣さんのペットのペガサスがあじ食べちゃってる!!!!!
千歳:ぺ、ペットのペガサス!!???
康介:……ブリでも食べる?
千歳:……そう、だね。
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