「ギジン屋の門を叩いて」①冥府におちる。(1:2:0)

捩治理川 燈子:依頼人。女性。殺したい人がいる。
寺門 眞門:店主。男性。いわくつきの道具を売る元闇商人。
猫宮 織部:助手。女性。家事全般が得意です。
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 : 「ギジン屋の門を叩いて」
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0:静かな住宅地の端っこにポツンと建つ、雑貨屋。
0:「ギジン屋」店内にて。
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捩治理川 燈子:絶対に、あいつをぶっ殺したいの。
寺門 眞門:なるほど。
捩治理川 燈子:だから死に物狂いで探した。
寺門 眞門:例えば?
捩治理川 燈子:腕利きの殺し屋とか。
寺門 眞門:いた?そんなの。
捩治理川 燈子:・・・居なかった。
寺門 眞門:そりゃあそうだろうね。ほかには?
捩治理川 燈子:自殺に見せかけた、殺人方法を調べたり。
寺門 眞門:へえ、自殺ねえ。
捩治理川 燈子:これは、いいところまでいった。
寺門 眞門:いいところ?
捩治理川 燈子:計画段階、まで。
寺門 眞門:計画。ふむ。それで?
捩治理川 燈子:・・・。
寺門 眞門:気づいちゃったんだ?
捩治理川 燈子:・・・。
寺門 眞門:結局は自分の手を汚さなきゃいけない、って。
捩治理川 燈子:・・・そうよ。
寺門 眞門:難儀だねえ。なんとしても殺したいのに、自分の手は汚したくないと?
捩治理川 燈子:・・・そうよ、悪い?
寺門 眞門:いいや?それもまた人間的でいいと思うよ。
捩治理川 燈子:それで・・・。
寺門 眞門:それで?
捩治理川 燈子:・・・「絶対に殺せる」道具。あるの?ないの?
寺門 眞門:はあ。お客さん、うちをなんの店だと思ってるの?
捩治理川 燈子:・・・表向きは、雑貨屋。
寺門 眞門:そうだね。
捩治理川 燈子:でも、実際は、呪われた道具やいわくつきのアイテムを販売してる、闇商人。
寺門 眞門:はあ。
捩治理川 燈子:そうなんでしょ?そうじゃなきゃ、こうして事務所に入れてくれてないでしょ?
寺門 眞門:んー。そうだねえ。
捩治理川 燈子:なんでもいいの。この手で・・・直接手にかけるようなものじゃなければ。
寺門 眞門:・・・はあ。
寺門 眞門:猫宮さーん、いるー?(遠くの相手を呼ぶように)
猫宮 織部:(呼ばれてくる)はーいはい、いかがなさいました?旦那様。
寺門 眞門:ちょっと表の看板、「閉店」に直してきてもらえる?
猫宮 織部:あー、はいはい、かしこまりました。
捩治理川 燈子:う、売ってくれるのね!?
寺門 眞門:お客さん、どこでこのお店の事聞いたの?
捩治理川 燈子:え・・・。えーっと、オカルト好きの知り合いから・・・。
寺門 眞門:まったく困るんだよね。こちとら裏稼業はとっくの昔に畳んでるんだよ。
捩治理川 燈子:・・・。
寺門 眞門:売る売らないは別としても、お客さん。まず事情を聴こうか。
寺門 眞門:裏稼業、闇稼業といえど「なんでもあり」って事はない。
寺門 眞門:どの世界にもルールや筋ってものがある。
寺門 眞門:誰これ構わず相手にすることはできない。
猫宮 織部:旦那様、お店のほうは閉めてまいりました。
寺門 眞門:ありがとう、猫宮さん。今日はもうあがってしまってもいいよ。
猫宮 織部:いえ・・・せっかくなので、同伴させていただきます。
寺門 眞門:そう?えーっと、お客さん、こちら、僕の助手をしてくれている猫宮さん。
猫宮 織部:どうも。
捩治理川 燈子:ど、どうも。
寺門 眞門:今回の件、猫宮さんも同伴させていただいてよろしいかな?
捩治理川 燈子:は、はい、それは・・・構いませんけど。
猫宮 織部:あらよかった!じゃあ、お茶でもいれてきますね。
寺門 眞門:あ、猫宮さん、僕ホットミルクで。
猫宮 織部:かしこまりました。お客様は、なにかお好みございます?
捩治理川 燈子:あ・・・じゃ、じゃあ、ホットコーヒーで。
猫宮 織部:お砂糖とミルクは?
捩治理川 燈子:い、いえ。ブラックで大丈夫です。
寺門 眞門:へえ!ブラックで飲めるなんて、大人だね?
捩治理川 燈子:そ、そんなんじゃないです。
猫宮 織部:では淹れてまいりますね。
寺門 眞門:ありがとう、猫宮さん。
捩治理川 燈子:あ、ありがとうございます。
寺門 眞門:・・・さて、それで。聞かせてもらおうか。
捩治理川 燈子:あ、はい、えっと・・・どこから話せば・・・。
寺門 眞門:まずは名前を聞かせていただきたいね。
捩治理川 燈子:あ、す、すいません。えっと、捩治理川 燈子(ねじりがわ とうこ)といいます。
寺門 眞門:燈子さん、ね。いい名前だ。燦燦(さんさん)と照る頭の悪そうな太陽光ではなく
寺門 眞門:寒空の下で、ぼんやりと灯る灯篭(とうろう)や行灯(あんどん)のような、ほのかなひかりを感じる。
捩治理川 燈子:・・・ありがとうございます。
寺門 眞門:私は、この「ギジン屋」の店主。寺門 眞門(てらかど まもん)だ。
捩治理川 燈子:ま、まもん・・・?
寺門 眞門:こういう字を書く。(自分の寺門眞門という字を書いてみせる)
捩治理川 燈子:・・・芸名かなにか、ですか?
寺門 眞門:失礼な。列記とした本名だよ。戸籍見せようか?
捩治理川 燈子:い、いや、大丈夫です。門っていう漢字が2個も使われてるんですね。
猫宮 織部:お待たせいたしました。旦那様、ホットミルクです。
寺門 眞門:ありがとう、猫宮さん。
猫宮 織部:どうぞ、ホットコーヒーです。
捩治理川 燈子:・・・ありがとうございます。
猫宮 織部:「門」という字は不思議なものなのです。
捩治理川 燈子:・・・え?
寺門 眞門:なんだい、聞こえてたのかい。
猫宮 織部:はい。門というものは、その門をくぐる「なにか」で、性質をがらりと変えます。
捩治理川 燈子:せい、しつ・・・。
猫宮 織部:ええ。例えば。その門を太陽が通るのであれば。
寺門 眞門:「間」(あいだ)。
寺門 眞門:あんなに巨大な太陽がくぐっただけで、そこにはすきま、絶え間(たえま)が生まれる。
猫宮 織部:そうです。そして一国の王が通るのであれば。
捩治理川 燈子:・・・「閏」(うるう。)
猫宮 織部:ええ、あるはずのないものとなってしまいます。
猫宮 織部:門とは、一つの区切り。そして、何かを変えるきっかけ。
猫宮 織部:よく言いますでしょう?「門出を祝う」って。
捩治理川 燈子:・・・はい。
猫宮 織部:門とは、新たな一歩なのです。
寺門 眞門:猫宮さん、それくらいでいいよ。ありがとう。
寺門 眞門:まあ、普通ひとつの名前に同じ漢字を2つも使うのは確かに聞いたことがない。
寺門 眞門:女優の樹木希林でさえ、同じ「き」でも違う漢字を使う。
捩治理川 燈子:なんか、すいません・・・。
寺門 眞門:ぶっ殺したい。
捩治理川 燈子:えっ。
寺門 眞門:ぶっ殺したいと思って、ここに来たのだろう?
寺門 眞門:その理由を教えてくれ。
捩治理川 燈子:あ、は、はい。
捩治理川 燈子:・・・私には、一つ上の兄がいます。
寺門 眞門:お兄さんのお名前は?
捩治理川 燈子:・・・弦夜(げんや)。
猫宮 織部:重苦しい名前ですね。
寺門 眞門:そうかな、僕は好きだよ。
猫宮 織部:あら、そうですか。
寺門 眞門:弦を張ったような静けさの夜に、ぽうっと燈り(あかり)が灯るのだろ?
捩治理川 燈子:・・・父は、そう言っていました。
寺門 眞門:キミの父上はいいセンスをお持ちのようだ。宮沢賢治を彷彿(ほうふつ)とさせるね。
猫宮 織部:あら、そこまで言います?
寺門 眞門:それは言い過ぎたかもしれん。さ、続けてくれ。
捩治理川 燈子:・・・兄は、なんでもできます。
捩治理川 燈子:文武両道、とでも言えばいいのでしょうか。
捩治理川 燈子:何をやらせても人並み以上に力を発揮し、周りの注目の的になるんです。
猫宮 織部:いますよね、そういういけ好かない人って。
捩治理川 燈子:・・・尊敬しています。
寺門 眞門:そんなお兄さんを?
捩治理川 燈子:・・・はい。
猫宮 織部:あら健気。
捩治理川 燈子:兄は、そんな自身の能力を鼻にかけることもせず、謙虚で。
捩治理川 燈子:・・・よくできた人なんです。
寺門 眞門:人間ができている、と。
捩治理川 燈子:はい。あの人なら、本当に日本の頂点に立って、皆を指揮することも容易いと思うのです。
寺門 眞門:それは無理だろう。
捩治理川 燈子:な、なぜです。
寺門 眞門:政治家という意味だろう?
捩治理川 燈子:え、ええ。それこそ、総理大臣なんて目じゃない
寺門 眞門:(目じゃ、のあたりから割り込むように)ぶわっはっは!!!
捩治理川 燈子:な、なにがおかしいんですか!
寺門 眞門:2点ある。
捩治理川 燈子:え・・・?
寺門 眞門:一つ、政治家なんて生き物はどの時代でも「ひとでなし」にしかなれない。
寺門 眞門:一つ、そもそも君のいう兄が「できた」人間である保証などどこにもない。
寺門 眞門:それこそ、見たところ君も、その兄もまだ学生だろう?
寺門 眞門:人の痛みも、穢れも、酸いも甘いもまだまだ知りもしない「こども」の分際で
寺門 眞門:「にんげんである」としているところがちゃんちゃらおかしい。
寺門 眞門:そして、人を「ぶっ殺したい」などとのたうち回る君の推す人間が
寺門 眞門:そんな君の観点で見た人間が、できた人間などと思えないからだ。
猫宮 織部:3点でしたね。
寺門 眞門:失敬。
捩治理川 燈子:・・・あなたに何がわかるっていうの!?
捩治理川 燈子:兄さんは本当にすごい!!すごいのよ!!!
捩治理川 燈子:何もできない私を蔑むこともせず・・・
捩治理川 燈子:いつも守ってくれる!!!
捩治理川 燈子:あ、あなたなんかにそんな風に言われる筋合いはないわ!!
寺門 眞門:いいや、あるね。
捩治理川 燈子:なっ・・・。
寺門 眞門:燈子さん。あなたは仮にも「人を殺したい」と仰っている。
寺門 眞門:そんな中で私がしなければいけないことはあなたの話をうんうんと
寺門 眞門:木偶の棒のように聞き入ることではない、あなたがどんな人間なのかを知ることだ。
寺門 眞門:どのような価値観で、どのような信念で、どのような理屈で人を殺めようというのか。
寺門 眞門:それを確かめているのがこの場だ。
捩治理川 燈子:・・・。
寺門 眞門:続けたまえ。
猫宮 織部:その前に、お二人とも。飲み物をお飲みになって?
猫宮 織部:せっかく淹れたのに、まだ一口もお召しになられてないなんて。
寺門 眞門:これは失敬。いただくよ。(ホットミルクをすする)
捩治理川 燈子:・・・いただきます。
寺門 眞門:ところで、どうしてブラックなんだい?
捩治理川 燈子:・・・どうしてって、好きだから、です。
寺門 眞門:ブラックを?
捩治理川 燈子:え、ええ。
寺門 眞門:信じられない。
猫宮 織部:気にしなくていいんですよ、燈子さん。旦那様は子供舌なので
猫宮 織部:苦いもの、辛い物が嫌いなだけなんです。
猫宮 織部:ね、旦那様。
寺門 眞門:アマイモンがすきだ。
捩治理川 燈子:・・・子供。
寺門 眞門:子供に子供といわれるとはな。
捩治理川 燈子:・・・兄は優しいんです。
寺門 眞門:ふむ。
捩治理川 燈子:私は、眞門さんが言う通り、人でなしだと思います。
捩治理川 燈子:でもそんな人でなしの私を、きちんと「人として」見て
捩治理川 燈子:「人として」接してくれる兄は、私にとっての光なんです。
寺門 眞門:「私にとって」ふむ。納得した。
捩治理川 燈子:・・・いつしか、私は兄に惹かれました。
猫宮 織部:あら。
捩治理川 燈子:・・・兄は、私の恋心さえも、否定せず、受け止めてくれました。
猫宮 織部:巷ではやりのあれですね、えっと、なんていうんでしたっけ、えっと。
寺門 眞門:あおはる?
猫宮 織部:ちょっと違う気がしますけども!
捩治理川 燈子:・・・アオハルかどうかは、わからないですが。
捩治理川 燈子:私たちは、血の繋がり以上の濃い絆で結ばれました。
猫宮 織部:なんて素敵な。
寺門 眞門:外道じゃないか。
猫宮 織部:ちょっと!旦那様!
寺門 眞門:外道だろう?濃い血の交わりということだろう?
寺門 眞門:重罪だぞ。それは法の話ではなく、自然の摂理での罪だ。
猫宮 織部:そんなことございません!!尊いものです!
猫宮 織部:かの聖書や神話の数々も基本的には近親でのまぐわいによって
猫宮 織部:その絆がはぐくまれています!!
寺門 眞門:本音は?
猫宮 織部:どちゃくそシコい!!性癖がん刺さり!!!
捩治理川 燈子:まじめに聞いてください!!!!
猫宮 織部:失敬。
寺門 眞門:失敬。
捩治理川 燈子:・・・家族の目を盗みながら、何度も逢瀬を繰り返しました。
寺門 眞門:全然関係ないけど、逢瀬とかまぐわいって表現のほうがなんかこうぐっとくるね。
猫宮 織部:旦那様。
寺門 眞門:失敬。
捩治理川 燈子:・・・でも、ある日、あの女が現れたんです。
寺門 眞門:あの女?
捩治理川 燈子:・・・家庭教師です。
寺門 眞門:・・・ぼん、きゅっ、ぼん、なんだろう?
捩治理川 燈子:・・・はい。
猫宮 織部:あらー・・・。
捩治理川 燈子:・・・それからというもの、兄はその家庭教師に夢中。
寺門 眞門:それのどこが「人間ができている」んだ?
捩治理川 燈子:・・・兄さんは悪くない、悪いのは誘惑をするあの女なんです。
猫宮 織部:あららぁー・・・。
寺門 眞門:それで、その女を殺したい、というわけだ?
捩治理川 燈子:・・・。
寺門 眞門:くだらん。実に、くだらん。
捩治理川 燈子:・・・。
寺門 眞門:ただの色情のもつれではないか。そんなもの、その兄に一言びしっと言ってやれば済む話だろう?
捩治理川 燈子:そ、そんな簡単な話じゃないんです!!!
寺門 眞門:嫌われたくないのだろう?いいや、違うな、現実を知るのが怖いだけだ。
寺門 眞門:兄が自分に対して抱いていたのが愛情などではなく、ただの劣情で
寺門 眞門:その発散のはけ口となってしまっていた事実を知るのが怖いのだろう?
捩治理川 燈子:いや!ちがう!やめて!
寺門 眞門:若いからだの色欲の塊が!見ている景色を歪ませ!気持ちを「つくり」!
寺門 眞門:あたかも正しいことを、きれいなことをしているという錯覚のなかで
寺門 眞門:それを恋と呼び、愛と呼び、着飾ったその化け物を認めたくない!
捩治理川 燈子:いや!!!!!
寺門 眞門:そしてただ一人、兄はその夢から覚めたのかもしれない!!
寺門 眞門:その覚めた夢の中で!さらなる劣情をぶつける相手を見つけてしまった!
寺門 眞門:だからその夢をつぶそう!!現実はここなのだと知らしめよう!!
寺門 眞門:「ぶっ殺したい」!!!!!!!!!!!
捩治理川 燈子:いやぁぁぁぁぁ!!!!!!!
寺門 眞門:お売りしよう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
捩治理川 燈子:いやぁ・・・・・え?
猫宮 織部:売るんですか?
寺門 眞門:ええ、お売りしましょう。
捩治理川 燈子:売って・・・いただける・・・?え?なにを・・・?
寺門 眞門:「ぶっ殺す」道具ですよ。「ぶっ殺す」道具。
捩治理川 燈子:え・・・ええ!?う、売っていただけるんですか!?
寺門 眞門:ええ。お売りします。猫宮さん、28番の棚のやつ、持ってきてもらえる?
猫宮 織部:28番ですね、少々お待ちを。
捩治理川 燈子:え、え、い、いいんですか?
寺門 眞門:ええ。面白いお話も聞かせていただけましたし。
寺門 眞門:何より、そんな「人でなし」相手じゃないと、こういったものはお売りできませんから。
捩治理川 燈子:よ、喜んでいいのか複雑・・・。
猫宮 織部:お待たせしました。
寺門 眞門:ありがとう、猫宮さん。
捩治理川 燈子:こ、これは・・・?
寺門 眞門:「笛」です。
捩治理川 燈子:笛・・・。
寺門 眞門:この笛でクリストフ・ヴィリバルト・グルックの「精霊の踊り」を吹くと
寺門 眞門:殺します。
捩治理川 燈子:クリストフ・・・なんですか?
寺門 眞門:クリストフ・ヴィリバルト・グルック。
寺門 眞門:ご存じなければ、練習してください。
捩治理川 燈子:れ、練習・・・?
寺門 眞門:ええ。あなたはただ笛を吹くだけ。手を汚すこともない。簡単でしょ?
捩治理川 燈子:・・・まぁ、確かに。
寺門 眞門:いかがですか?
捩治理川 燈子:・・・おいくらですか。
寺門 眞門:お金ですか?
捩治理川 燈子:え・・・はい。
寺門 眞門:いりませんよ。
捩治理川 燈子:え、ええ?
寺門 眞門:正確に言えば、「今は」いらないです。
捩治理川 燈子:・・・と、いうと?
寺門 眞門:「殺した」ときに、後払いでいただければ。
捩治理川 燈子:い、いいんですか・・・?
寺門 眞門:ええ、それが「ギジン屋」のやり方なので。
捩治理川 燈子:あ、ありがとうございます!!!家に帰ってまず練習します!!!
寺門 眞門:はーい、頑張ってくださいね、また何かあればいつでもどうぞー・・・・・っと。
猫宮 織部:いってしまいましたね。
寺門 眞門:ああ、いってしまったね。
猫宮 織部:グルックの「精霊の踊り」。
猫宮 織部:あのギリシャ神話に出てくるオルフェウスの戯曲に使われる歌ですよね。
寺門 眞門:ああ、そうだね。
猫宮 織部:吟遊詩人オルフェウスが、死んだ妻をよみがえらせる為に
猫宮 織部:冥府に落ち、妻を連れ帰る。
寺門 眞門:そして、連れ帰る道中に決して後ろを振り向いてはならないと言われたオルフェウスだが
寺門 眞門:つい振り向いてしまい、妻は再度冥府に落ちる、というお話だよ。
猫宮 織部:うそつき。
寺門 眞門:ん?
猫宮 織部:通常のギリシャ神話ならそうですが、この戯曲の中ではその後
猫宮 織部:責任を感じ自害しようとするオルフェウスに感動し、愛の神エウリディーチェが
猫宮 織部:妻をよみがえらせてハッピーエンドじゃないですか。
寺門 眞門:・・・そうだね。
猫宮 織部:まったく旦那様も意地が悪いですね。彼女がその事実に気づいたときに
猫宮 織部:真実の愛とはどういったものなのか、それに気づいて改心する、そこまでが
猫宮 織部:セットなのでしょう?
寺門 眞門:・・・まあ、気づけないだろうね。
猫宮 織部:え?
寺門 眞門:ただの嫉妬心で人を殺めようとする浅はかな少女が、そこまで視野広く
寺門 眞門:物事をとらえられるわけがないだろう。
猫宮 織部:え、で、でも。
寺門 眞門:あの軽薄な小娘が精霊の踊りを知っているはずがないよね。
猫宮 織部:え、ええ。練習するといってました。
寺門 眞門:あの笛は「精霊の踊り」を吹いたら、殺すんだよ。
猫宮 織部:・・・。
寺門 眞門:練習して、一番最初にその「精霊の踊り」を耳にするのは、誰だろうね。
猫宮 織部:だ、旦那様・・・!
寺門 眞門:門を、音がくぐっていったら、なにになる?
猫宮 織部:・・・。
寺門 眞門:僕は、「眞門」(マモン)だよ?
寺門 眞門:「人でなし」の命を勘定に金を稼ぐ、悪魔だよ。
猫宮 織部:旦那様・・・。
寺門 眞門:さあ、お店をまた開店させよう。
寺門 眞門:あ、「開店」にも、門が使われてるよね。
寺門 眞門:「開」の真ん中の文字の意味、知ってる?猫宮さん。
猫宮 織部:両手、でしたか。
寺門 眞門:そう。門は「手」で開くもの。手を汚さずに生きることなんて、できやしないんだよ。

臍帯とカフェイン

サイコパスとスーサイドの夜明け。 小説/台本/SS/現代詩/コミュニティ

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