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「ギジン屋の門を叩いて」②文学奴隷(2:1:0)

先野橋 陽介:さきのばし ようすけ。依頼人。小説家見習い。もう書きたくない。
寺門 眞門:てらかど まもん。店主。男性。いわくつきの道具を売る元闇商人。
猫宮 織部:ねこみや おりべ。助手。女性。家事全般が得意です。
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 : 「ギジン屋の門を叩いて:文学奴隷」
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0:静かな住宅地の端っこにポツンと建つ、雑貨屋。
0:「ギジン屋」店内にて。
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先野橋 陽介:もう二度と、筆をとりたくないのです。
寺門 眞門:ほう、二度と。
先野橋 陽介:はい、この手が、物語を紡いでしまうことをやめたいのです。
寺門 眞門:やめればいいじゃないか。
先野橋 陽介:それが簡単にできれば苦労しないのです。
寺門 眞門:はあ。
先野橋 陽介:書きたい衝動というのは、そんな簡単に止められるものではない!(語気を荒げて)
寺門 眞門:お客さんうちはカウンセリング屋とかじゃないんですよ。
先野橋 陽介:わかってます・・・わかってますよ!!
先野橋 陽介:わかってるから、こうしてきてるんじゃないですか!
寺門 眞門:はあ。まったく。
先野橋 陽介:ここなら売っているのでしょう!?
先野橋 陽介:書くことをやめることができる、いわくつきの呪物を!!
猫宮 織部:旦那様?なにかございました?外からでも聞こえるほどの怒号が・・・。
寺門 眞門:あ、猫宮さん。おかえり。どう?売ってました?
猫宮 織部:はい!売ってましたよ!
寺門 眞門:ああ、よかった!あとで一緒に食べましょうね。
猫宮 織部:はい!・・・えーっと、お客さん、ですか?
寺門 眞門:いーや。
先野橋 陽介:客です!
寺門 眞門:物を買わない者を客とは呼ばん!!
先野橋 陽介:だから!売ってくれって言ってるじゃないですか!
寺門 眞門:まったく・・・。
猫宮 織部:あー・・・「そっち」の。
先野橋 陽介:「ギジン屋」さん!あなただけが頼りなんだ!頼む!
寺門 眞門:はあ。
猫宮 織部:・・・旦那様、お店、閉じておきましょうか?
寺門 眞門:ううん、大丈夫、ありがとう猫宮さん。
寺門 眞門:(男を見つめ)
寺門 眞門:お客さん、名前は?
先野橋 陽介:さ、先野橋!!先野橋 陽介(さきのばし ようすけ)だ!
先野橋 陽介:職業は小説家見習い、かの文豪「獄門 京太郎」(ごくもん きょうたろう)先生の元で
先野橋 陽介:住み込みで、働かせていただいている。
猫宮 織部:えー!獄門京太郎といえば、あの有名なミステリー作家の?
猫宮 織部:すごいじゃないですか!
寺門 眞門:有名なのかい?
猫宮 織部:すっごく有名ですよ!出す小説すべてベストセラー!
猫宮 織部:あの太宰治の生まれ変わりともいわれるくらい、
猫宮 織部:人の憂いた(うれいた)部分を表現する巨匠ですよ。
寺門 眞門:ほお、あの太宰君の生まれ変わりと?
先野橋 陽介:太宰「君」って、どこから目線なんですかあなた。
寺門 眞門:君に言われたくないね、先野橋くん。
猫宮 織部:そんなすごい先生のもとにいたら、デビューもすぐじゃないですか。
猫宮 織部:最高の先生でしょ?
先野橋 陽介:・・・。
猫宮 織部:え?最高の先生でしょ?
先野橋 陽介:・・・それは。
猫宮 織部:ちがうんですか?
寺門 眞門:猫宮さん。映画評論家が、最高の映画を作れるかい?
猫宮 織部:え?いや・・・映画評論家はあくまで評論する立場なので・・・。
寺門 眞門:そう。評価はできるかもしれないが。最高の作品が作れるかどうかは別だ。
先野橋 陽介:・・・。
寺門 眞門:それは逆もまたしかり。映画の巨匠が、よりよい映画評論家になれるか?というと
寺門 眞門:それは必ずしもイコールではない。そうだろう?
先野橋 陽介:・・・はい。
猫宮 織部:つまり?
寺門 眞門:うまく教えてもらえるわけではない、といったところだ。
寺門 眞門:そもそも、小説などというものは「才能」と「センス」そして、一握りの「努力」で
寺門 眞門:出来上がるものだ。才能とセンスはどう磨く?
猫宮 織部:そりゃ、いいものを見たり・・・
猫宮 織部:・・・いい評価を受けたり?
寺門 眞門:それをどう、表現する?どう伝えればいい?
寺門 眞門:盲目の人間に、空の青さを伝えるのと同じだ。
寺門 眞門:簡単ではない。何より「天才」と呼ばれる者ほど、努力よりも
寺門 眞門:その「才能」を使い、物語を紡いでいる部分は大きい。
先野橋 陽介:才能がない、センスがないって、毎日のように言われているんです。
寺門 眞門:ならばセンスも才能もないのだろう、君には。
猫宮 織部:だ、旦那さま!
寺門 眞門:本当のことだ。センスや才能というものは細分化することなどできない。
寺門 眞門:「あり」か「なし」か。ただそれだけだ。
寺門 眞門:太宰治ほどの巨匠であるといわれているのだろう?その男は。
寺門 眞門:ならば、その判断もより鋭角で、さらに「簡単」なはずだ。
先野橋 陽介:・・・「男」じゃありません。
猫宮 織部:え?
先野橋 陽介:先生は、女なんです。
寺門 眞門:ほう?京太郎と名乗りながら、女性であると。
先野橋 陽介:はい・・・。
寺門 眞門:なおさら悔しいな?
猫宮 織部:・・・男性はそういうところ、気にしますもんねえ。
寺門 眞門:僕は、猫宮さんに怒られても嫌じゃないけどね?
猫宮 織部:あら、旦那様ったら。
寺門 眞門:ふふふ。
先野橋 陽介:・・・売ってください。
寺門 眞門:ふむ。
先野橋 陽介:お願いします。「ギジン屋」さん。お願いします・・・。
寺門 眞門:なぜ、書きたくないのだね?
先野橋 陽介:それは・・・。
寺門 眞門:才能がない、センスがないと言われようと。
寺門 眞門:書いたらいい。それでも書きたくないというのであれば、
寺門 眞門:その手を切り飛ばせばいい。違うかい?
先野橋 陽介:・・・おっしゃる通りです。
寺門 眞門:では、ここで切り落としたまえ。
寺門 眞門:猫宮さん、15番の棚に入ってる包丁持ってきて。
猫宮 織部:あのなんでもスパーっと切り落としちゃうやつですね!少々お待ちを!
先野橋 陽介:それじゃダメなんだ!!!(大きく叫ぶ)
寺門 眞門:・・・もう少し静かに話せないのかね、君は。
先野橋 陽介:この手を・・・失うわけにはいかないんです。
寺門 眞門:ほう?それはなぜ?
先野橋 陽介:それは・・・。
寺門 眞門:言えないのかね?
先野橋 陽介:・・・。
猫宮 織部:まあまあ、旦那様。人には言えないことの一つや二つあるでしょうし。
寺門 眞門:それでは困るんだよ。
寺門 眞門:どこで聞いてきたのか知らないが、確かにうちはいわくつきの呪物や道具、
寺門 眞門:呪いのアイテムなどを取り扱う闇商(やみしょう)だ。しかしそれも過去の話。
寺門 眞門:代価を払うから、といって簡単に商売をできる立場ではないんだ。
猫宮 織部:まあ、それはそうなんですけど・・・。
先野橋 陽介:耳が、聞こえないんです。
猫宮 織部:え?
先野橋 陽介:獄門先生は、耳が聞こえないんです。
寺門 眞門:・・・なるほど。
先野橋 陽介:日常生活で、僕と先生は手話で会話をします。
先野橋 陽介:そのためには、この手を失うわけにはいかない。
先野橋 陽介:かといって、僕はもう小説家であるわけにはいかないんです。
寺門 眞門:才能がないから?
先野橋 陽介:・・・はい。
寺門 眞門:ではそこを去ればよいだろう。
先野橋 陽介:そ、それは・・・。
寺門 眞門:はん。どうせそうだろうと思った。
猫宮 織部:どういうことですか?旦那様
寺門 眞門:ねんごろなんだよ、その大先生と。
猫宮 織部:あらぁー・・・。
先野橋 陽介:・・・先生は、すごく弱い方なんです。
先野橋 陽介:たくさんのメディアからも、身を隠して生きてきました。
先野橋 陽介:・・・僕の小説を見るときの先生の顔が、とてもつらそうなんです。
猫宮 織部:・・・つらいけど、弟子として評価はしなければならない。
猫宮 織部:そこに愛だの情だのは関係なく、いち先生としての評価をしなければならないんですね。
寺門 眞門:その大先生とやらのほうが、幾分大人じゃないか。
先野橋 陽介:もう、そんな顔も見たくないし、させたくない。
先野橋 陽介:すっぱりと小説はあきらめて、先生の事を支える道に、気持ちを切り替えたいんです。
猫宮 織部:なんていい話・・・。
猫宮 織部:素敵じゃないですか。旦那様。私この方、すごく好き。好きです。
寺門 眞門:・・・自己犠牲という精神は、私も嫌いじゃないよ。尊いものだ。
先野橋 陽介:じゃ、じゃあ!!
寺門 眞門:どのような小説を書くんだね?君は。
先野橋 陽介:・・・持ってきてます。
猫宮 織部:あら!!読みたい!読みたいです!
寺門 眞門:どれ、失敬。猫宮さん一緒に読むかい?
猫宮 織部:はい!もちろんです!
寺門 眞門:ふむ・・・。なるほど。
猫宮 織部:あ、恋愛ものなんですね!大好物です!えへへへ。
寺門 眞門:この、男性の言うセリフの「もう二度と君を手放そうとしない。この手がどんなに、奈落の底でも。」
寺門 眞門:というセリフは、どういった心境だったんだい?
先野橋 陽介:あ、それは。僕が学生時代にした恋愛がモチーフになっている話で。
猫宮 織部:えー!もしかしてこのセリフって・・・。
先野橋 陽介:・・・はい、恥ずかしながら当時の恋焦がれる人に向けて言った言葉です。
寺門 眞門:へえー!君、見かけによらず熱いセリフを言うじゃないか。
猫宮 織部:熱いです!ちょっと臭いところがまた、熱いです!
先野橋 陽介:あ、ありがとうございます。
寺門 眞門:この、夕陽を背景に二人が抱き合うが、夕陽が落ちる速度とともに少しずつ離れていく
寺門 眞門:心理描写と情景を掛け合わせた様子も趣があるな。
猫宮 織部:あー!旦那様!そこ、そこ私も好きです!!!!
猫宮 織部:主人公の男の子が、本当は離したくない、このまま連れ去りたいっていう
猫宮 織部:ずっぶずぶの気持ちが手に表れてしまって、指のさきまで息を感じるくらい
猫宮 織部:ゆっくりゆっくり離れていく描写とかもう!!!
猫宮 織部:すこすこのすこ!!!!すこてぃっしゅふぉーるどです!!
寺門 眞門:猫かい?
猫宮 織部:ちがいます!
寺門 眞門:失敬。
猫宮 織部:先野橋さん!これすっごく面白いですよ!!
寺門 眞門:悪くはないな。
先野橋 陽介:あ・・・ありがとうございます!
寺門 眞門:遅れたがね、私はこの「ギジン屋」の店主。
寺門 眞門:「寺門 眞門」(てらかど まもん)だ。
先野橋 陽介:ま、まもん。すごい名前ですね。
寺門 眞門:よく言われるよ。
先野橋 陽介:それで、その、売っていただけるのでしょうか。
寺門 眞門:(いただける、のあたりから割り込むように)小説というものは、宝だ。
先野橋 陽介:え、は、はい。
寺門 眞門:幾千年の時代を過ごしてきた悪魔でさえ、小説というものを焼き払うようなことはしなかった
寺門 眞門:あの「聖書」でさえ、きちんと紐解けば「物語:として非常に面白みがあり
寺門 眞門:最高の小説だ。でなければ、今の時代にも聖書が、悪魔に消されることもなく存在する理由が見当がつかない。
先野橋 陽介:は、はあ。
寺門 眞門:「ペンは剣よりも強し」とはまさに。
寺門 眞門:どのような屈強な体も、どのような武器も、風が吹けば錆び
寺門 眞門:時が来れば衰える。
先野橋 陽介:・・・はい、本当に、その通りだと思います!
寺門 眞門:しかしこの書物というものはどうだ!時代を超えれば超えるほど
寺門 眞門:その実、味を深め、それは最上級のワインのように素晴らしい香りを放つ!
先野橋 陽介:はい!わかります!だから小説というものはどの時代でも、どういった人物が書いても
先野橋 陽介:それは後世に伝えられていく!最高のタイムマシーンなんだ!
寺門 眞門:タイムマシーン!!面白いことを言う!!
先野橋 陽介:ありがとうございます!!
寺門 眞門:そのタイムマシーンが生み出す「感覚の泉」は!!!「感性の波」は!!
寺門 眞門:またそのあとに生まれていくアニメーションや戯曲!様々なものにいのちを吹き込むのだろう!?
先野橋 陽介:ええ!ええ!そうです!すべてが小説から始まり、どんな人にも、どんな国にも
先野橋 陽介:たくさんのたくさんの感情を運んでいく!!!小説とはそう、尊い!!!!
寺門 眞門:わかる!!!わかるぞ先野橋!!!!!
先野橋 陽介:だから僕は、先生の書く作品はきっと未来で、そう、聖書のように扱われることも
先野橋 陽介:ひょっとしたらあるかもしれない!だから支えたいんです!!!!
寺門 眞門:わかる!!!!!!わかるぞ!!!!!!!!!!
先野橋 陽介:ありがとうございます!!!じゃあ、売っていただけるんですね!!!!
寺門 眞門:絶対に売ってやらん!!!!
先野橋 陽介:え。
猫宮 織部:え。
寺門 眞門:聞こえなかったのか?絶対に売ってやらん。今すぐ帰れ。才能無し。
猫宮 織部:ちょ、ちょっと旦那様!今絶対売ってあげる流れだったじゃないですか!
寺門 眞門:そうかい?
猫宮 織部:(一人芝居風に)
猫宮 織部:「売りましょう!!」
猫宮 織部:「え!売っていただけるんですか!」
猫宮 織部:「猫宮さん、1番の棚のやつ、もってきて。」
猫宮 織部:「はーい、旦那様。」
猫宮 織部:この流れ!絶対この流れだったじゃないですか!
先野橋 陽介:そ、そうですよ。な、なんでだめなんですか!!
寺門 眞門:それがわからないからお前は「才能無し」なんだよ。
寺門 眞門:お前の書く小説はくだらん。実にくだらん。
寺門 眞門:今すぐ、この店から出て行ってくれ。不愉快だ。
猫宮 織部:だ、旦那さま・・・。
先野橋 陽介:な・・・なんなんだあんたは!!!
先野橋 陽介:ド素人のあんたにまで、なぜ才能無しだと言われなければならない!!!
先野橋 陽介:不愉快だ!!!!もういい!!!二度と来ない!!!こんな店!!!
猫宮 織部:あ、ああ!ちょ、ちょっと!先野橋さん!先野橋さんったら!!
寺門 眞門:・・・ふむ。
猫宮 織部:旦那様!ひどいじゃないですか!
寺門 眞門:・・・猫宮さん。
猫宮 織部:ど、どうしたんですか?
寺門 眞門:小説家って、どういうものだと思う?
猫宮 織部:ど、どういう・・・?
猫宮 織部:そ、そうですねえ。「0から1を作る」いわば創造主のようなものじゃないでしょうか。
寺門 眞門:よく言われるよね。
猫宮 織部:はい。それが、どうしたんですか?
寺門 眞門:「0から1を作る」ことなんて出来やしないんだよ。
猫宮 織部:え?
寺門 眞門:いくら何もない状態から、物語を作ったとしても
寺門 眞門:そこには「作者そのもの」が入り込む。
寺門 眞門:人から言われた言葉、作者が感じたこと、それは「1」ではないかい。
猫宮 織部:それは・・・。
寺門 眞門:呪いなんだよ。これは。
猫宮 織部:呪い・・・。
寺門 眞門:自身のことを切り取り、それをそこに投影させなければならない
寺門 眞門:作家だけが受ける、呪いだ。
猫宮 織部:旦那様・・・。
寺門 眞門:身を削らなければ、生み出すこともかなわない。
寺門 眞門:それをしてきたものが、「書くことのできない手」を
寺門 眞門:手に入れたところで、本当に「書くことをやめられる」と思うかね。
猫宮 織部:・・・何がなんでも、また、書きたくなる、と思います。
寺門 眞門:そう。それこそ、口でも足でも、何を使ってでもまた書き始める。
猫宮 織部:ああ・・・。
寺門 眞門:そしてまた、その苦悩を「糧」に。物語を紡ぐんだ。
猫宮 織部:そんなの・・・。
寺門 眞門:そんなの、もうすでに呪われているだろう?猫宮さん。
猫宮 織部:・・・はい。
寺門 眞門:しんみりしてしまったね。猫宮さん、あれ出してよ。
寺門 眞門:せっかく買ってきてくれた、ようかん。
猫宮 織部:は、はい、そうですね!お茶も入れてまいります!
寺門 眞門:僕、ホットミルクね。
猫宮 織部:ふふ、承知いたしました。
寺門 眞門:・・・「文」(ぶん)が「門」を通ると何になると思う。
寺門 眞門:「閔」(びん)、憐れむという意味だ。
寺門 眞門:作家など、憐れな生き物なんだよ、最初からね。

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