「ギジン屋の門を叩いて」③亀卜の後(2:1:0)
帆柄家 一亀:ほがらか かずき。依頼人。なんとしても結婚したい。
寺門 眞門:てらかど まもん。店主。男性。いわくつきの道具を売る元闇商人。
猫宮 織部:ねこみや おりべ。助手。女性。家事全般が得意です。
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: 「ギジン屋の門を叩いて 亀卜の後(きぼくのご)」
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帆柄家 一亀:うさぎと亀の話って、ご存じですか?ギジン屋さん。
寺門 眞門:ああ、アイソーポスの寓話(ぐうわ)かね。
寺門 眞門:ちょうどウサギの皮を使ったかわいいアクセサリーを入荷したよ。
寺門 眞門:ストラップにもなるから、スマートフォンにつけてもおすすめだ。
帆柄家 一亀:ギジン屋さん。
寺門 眞門:ウサギの毛とは古来より幸運をつかさどる。
寺門 眞門:特に尻尾の毛には呪術がかけられてるんじゃないかってくらいの効果があり
帆柄家 一亀:・・・ギジン屋さん。
寺門 眞門:加工も難しいことから本来なら値段が張るところ、
寺門 眞門:なんと今なら2600円。これはお買い得だ。
帆柄家 一亀:ギジン屋さん!!!
寺門 眞門:はあ。わかってるわかってる。どうせ呪物だろ?
帆柄家 一亀:わかってるじゃないですか!!
寺門 眞門:そっちの稼業は当の昔に畳んだと何度説明すればいい?
寺門 眞門:いったい誰が吹聴してるんだ、まったく。
帆柄家 一亀:それは、その、オカルト好きの友人から・・・。
寺門 眞門:そのオカルト好きの友人ってのはそもそも何者だ!
寺門 眞門:大体この手の話を知人などに聞いてもそのオカルト好きの友人の
寺門 眞門:実態というものがまったく見えてこない!
寺門 眞門:実に不愉快だ!
猫宮 織部:だ、旦那さま?大きい声を出していかがなさいました?
寺門 眞門:猫宮さん!猫宮さんもそう思わないかね!?
猫宮 織部:は、はい?
寺門 眞門:怪談話や都市伝説などの話をするときもそうだ。
寺門 眞門:「これは知人から聞いた話なんですがね」
寺門 眞門:その!知人とは!なんなのだ!
寺門 眞門:なぜどいつもこいつも「知人」から聞いた話をする!
寺門 眞門:なぜ必ずしもどの人間にも「オカルト好きの知人」はいるのに
寺門 眞門:「私がそのオカルト好きの知人です。」と
寺門 眞門:本人が出てこない!?
猫宮 織部:ま、まぁたしかに。
寺門 眞門:私はそのオカルト好きの知人とやらを絶対に許さん。
帆柄家 一亀:ギジン屋さん!!
寺門 眞門:なんだ!この非客人(ひきゃくじん)め!!
帆柄家 一亀:話を聞いてくださいよ!
寺門 眞門:い・や・だ!!ここは雑貨屋だぞ!!毛糸で編まれたチンアナゴのぬいぐるみを買え!!
寺門 眞門:陶器で作られたかわいいカエルの親子が釣りをしている置物を買え!!
寺門 眞門:今ならセットで3000円にしてやる!!!
帆柄家 一亀:いや、それは、いらない・・・です。
寺門 眞門:不愉快だ!!!
猫宮 織部:ま、まあまあ。旦那様。落ち着いてくださいな。
猫宮 織部:お客様、お茶を入れてまいりますわ。
猫宮 織部:何がお好きですか?コーヒー?お紅茶?
帆柄家 一亀:あ・・・えっと、コーヒーと紅茶も飲めなくて。
猫宮 織部:あら。では緑茶などがよろしいかしら?
帆柄家 一亀:えっと・・・お恥ずかしながらホットミルクなどはございますでしょうか。
寺門 眞門:ホットミルク!!!!
帆柄家 一亀:わ、わわ!な、なんですか?
寺門 眞門:貴様ホットミルクが好きなのか!
帆柄家 一亀:は、はい。す、好きですけど・・・。
寺門 眞門:・・・好きな食べ物は?
帆柄家 一亀:ぴ、ピスタチオクリームの、マカロンです。
寺門 眞門:猫宮さん、ホットミルク2つお願いできるかな。
猫宮 織部:ふふ、はい、承知いたしました。
寺門 眞門:とびっきり甘くしてね。
猫宮 織部:ふふ、はいはい。
帆柄家 一亀:は、話を聞いていただけるんですか?
寺門 眞門:当然だ。アマイモン好きに悪いやつはいない。
寺門 眞門:全国の甘党はすべからく愛され、すべからく同志だ。
帆柄家 一亀:は、はあ。
寺門 眞門:ウサギと亀、だったかな?
帆柄家 一亀:は、はい。僕、あの話ってすごく嫌いなんですよ。
寺門 眞門:ほう。
帆柄家 一亀:足の速いウサギは、要領よく進んで行き、ゆっくりと休むじゃないですか。
寺門 眞門:まあ、そうだな。
帆柄家 一亀:もちろん、そのサボりがあったからこそ、最終的に
帆柄家 一亀:ウサギは亀に負け、地道にコツコツとまじめにやってきた亀が勝つ。
寺門 眞門:うむ、それを元に「油断大敵」という教訓で語られることが多いな。
帆柄家 一亀:そうなんですよ。そこがまず解せないんです。
寺門 眞門:解せない?
帆柄家 一亀:そうです。じゃあ、その油断がなかったらそもそもとしてウサギの圧勝だったじゃないですか。
寺門 眞門:確かにそうだな。
帆柄家 一亀:と、いうことはですよ、亀はウサギがさぼりでもしない限り勝てない!
寺門 眞門:うむ。
帆柄家 一亀:ならなんで、勝負しようなんて思ったんですか!
帆柄家 一亀:おかしいじゃないですか!
帆柄家 一亀:亀ですよ?ウサギに勝てるはずがない。勝率でいったら何パーセントなんですか?
帆柄家 一亀:っていう話ですよ。
帆柄家 一亀:そんな中で、ろくに足が速くなるトレーニングをしたわけでもない亀は
帆柄家 一亀:その、ウサギが怠けるかもしれないというほんの数パーセントの確立にかけて
帆柄家 一亀:勝負を受けたっていうんなら、とんでもないギャンブラーじゃないですか!
寺門 眞門:き、君、熱量がすごいな。
帆柄家 一亀:だって!だって納得いかないんですよぉ!!!
猫宮 織部:お待たせいたしました。ホットミルクです。
寺門 眞門:ありがとう、猫宮さん。
帆柄家 一亀:ありがとう、ございます。
猫宮 織部:なにやら熱く語っておられましたね?
寺門 眞門:ああ、すごかったよ、もう一度聞くかい?
帆柄家 一亀:ウサギと亀という話を知ってますか!お姉さん!
猫宮 織部:あ、「今北産業」でお願いいたします。
寺門 眞門:ウサギと亀。
寺門 眞門:納得いかない。
寺門 眞門:亀はギャンブラー。
寺門 眞門:なぜ戦った。
猫宮 織部:4行ですわね?
寺門 眞門:失敬。
帆柄家 一亀:ギジン屋さん!!!
寺門 眞門:な、なんだね。
帆柄家 一亀:納得いかないと思いませんか!
寺門 眞門:ま、まあそうだな。確かに。
猫宮 織部:でもその話がどう関係あるんです?
帆柄家 一亀:婚活がうまくいかないんですよおおお!!
寺門 眞門:コンカツ。
猫宮 織部:コン、カツ・・・?
帆柄家 一亀:僕の名前は、帆柄家 一亀(ほがらか かずき)。
帆柄家 一亀:家は極々普通の一般家庭。持ち家なしのマンション住まい。
帆柄家 一亀:趣味はバードウォッチングと、ボトルシップ作り。
帆柄家 一亀:年齢イコール彼女いない歴ですが、一途にあなたを愛することだけは
帆柄家 一亀:誰にも負けないつもりです。猫宮さん、よろしくお願い致します!
猫宮 織部:は、はあ・・・。
寺門 眞門:よろしくするな。猫宮さんはダメだ。
猫宮 織部:ま、旦那様ったら。
寺門 眞門:まあしかしよく喋る男だな。
帆柄家 一亀:ギジン屋さん、僕は名前の通り、たぶん亀なんです。
寺門 眞門:ふむ、亀。
帆柄家 一亀:いつもいつも、女性に声をかけようとすると
帆柄家 一亀:僕よりも素早く女性にかけよるイッケイケのやつ等が
帆柄家 一亀:そんな奴らが僕は憎いんですよ。
寺門 眞門:なるほど。まるでウサギのような奴らにすべて持っていかれてしまうと。
帆柄家 一亀:はい・・・。
帆柄家 一亀:でも、ウサギと亀の寓話(ぐうわ)の通り
帆柄家 一亀:地道にコツコツと、ゴールに向かって歩いていれば
帆柄家 一亀:きっといつかは報われる。そう思って通ってきました。
猫宮 織部:どれくらい通われたんです?
帆柄家 一亀:・・・5年。
猫宮 織部:それはぴえん!!!ぴえんこえてぱおんですね!?
寺門 眞門:もうそれは諦めたほうがいいのではないか?
寺門 眞門:どういった所に通っているのか知らないが、基本的にああいうところは
寺門 眞門:登録から1年ほどでとりあえずは女性とマッチングするようにできていると聞くぞ。
猫宮 織部:あら。詳しいですね、旦那様。
寺門 眞門:ん!?い、いや違うよ?通おうとなんてしてないよ?
猫宮 織部:どうだか。
帆柄家 一亀:わかってます。いくらなんでも5年は長すぎる。
帆柄家 一亀:僕も、結婚相談所の方とシミュレーションしたり
帆柄家 一亀:おしゃべり練習教室なんかにも通いました。
猫宮 織部:今時そんなものもあるんですね。
帆柄家 一亀:でもダメなんです!!!トーク力はあがりましたよ。
帆柄家 一亀:今だってめちゃくちゃ喋れてるでしょ?!
帆柄家 一亀:僕の事、いっぱい知ってもらえてるでしょ?!
猫宮 織部:は、はあ。
帆柄家 一亀:でもそれじゃダメなんだ!僕が声をかけるよりも先に
帆柄家 一亀:ウサギ野郎たちがぴょこすこぴょこすこ、僕の狙った女性たちに声をかけて
帆柄家 一亀:全部もっていってしまうんです!
帆柄家 一亀:もちろん彼らが悪いわけじゃない!それはわかってます!
帆柄家 一亀:彼らだって、走るトレーニングをしてきた人たちなんだ!
帆柄家 一亀:でも、でもぉぉぉぉ!!!
帆柄家 一亀:勝てないんですよぉぉぉぉ!!
帆柄家 一亀:こんなに努力してるのに、奴らはウサギなのに
帆柄家 一亀:ぜんっぜん油断してくれないんですよ!ギラギラなんですよ!
帆柄家 一亀:草食動物の速さじゃないんですよ、あれはもう!
帆柄家 一亀:どう考えても肉食獣のごとき速さなんだ!!!
猫宮 織部:なんなら亀のほうが肉食べる生き物なんですけどね。
帆柄家 一亀:猫宮さぁぁぁぁぁぁん!!
猫宮 織部:ひゃあ!!!!!
寺門 眞門:やめろ馬鹿者。泣きつく相手が違うだろうが。
帆柄家 一亀:うう・・・すいません・・・。
猫宮 織部:ぴ、ぴえんぴえんのぴえんぺらーですわね・・・。
寺門 眞門:ふむ。帆柄家。君は、それで、どういった物が欲しいのかね?
寺門 眞門:女性が言い寄ってくる道具かね?それともそのウサギたちを全員ぶち殺す道具かね?
帆柄家 一亀:こ、殺すだなんてとんでもない!!!
帆柄家 一亀:ぼ、僕はただ、ほんの少し、ウサギたちよりも「第一歩」を踏み出す速さが欲しいだけなんです。
帆柄家 一亀:ゆ、勇気を得られる道具。第一歩を踏み出すことができる道具。
帆柄家 一亀:そ、そういう道具ってないですか!?
寺門 眞門:第一歩を踏み出す道具、ねえ。
帆柄家 一亀:は、はい!
寺門 眞門:無くは、ないな。
猫宮 織部:あら!旦那様!今日はノリノリですね?
寺門 眞門:まだ売るとは言ってない。
寺門 眞門:帆柄家。甘党同志として、話を聞かせてくれ。
帆柄家 一亀:は、はい。
寺門 眞門:貴様は女性を、どういった部分で評価する?
帆柄家 一亀:ひょ、評価。
寺門 眞門:そうだ。先ほど言っていたな?「狙った女性は取られてしまう」と。
帆柄家 一亀:・・・はい。
寺門 眞門:よもや、顔で選んでる、なんてことはあるまいな。
猫宮 織部:まあ!そんなの女の敵ですよ!
帆柄家 一亀:そ、そんな滅相もない!!
帆柄家 一亀:も、もちろん僕にも顔の好みというものはあります。
帆柄家 一亀:でも、そこで決めているわけではありません!
寺門 眞門:ならば、出会いなど本来いくらでもあるはずだろう?
寺門 眞門:「選ばなければ、男も女も星の数ほど」いるはずだ。違うか?
帆柄家 一亀:・・・その通りです。
猫宮 織部:女の敵ー!!!選ぶなんてひどいですよ!!!
寺門 眞門:いいや、それは違うぞ。猫宮さん。
猫宮 織部:え?
寺門 眞門:「顔だけで選ぶのは、浅はかなこと」だ。
寺門 眞門:それこそ、努力などを度外視した「顔の造形」のみにこだわれば、そうだろう。
帆柄家 一亀:・・・。
寺門 眞門:しかし「選ぶこと」は「悪」ではない。
猫宮 織部:ええ・・・?どういうことですか?
寺門 眞門:そもそもとして、「容姿というものには内面が表れる」。
寺門 眞門:相手によく見られたい、少しでも気に入られたいと「努力」をする事ができるからこそ
寺門 眞門:容姿というものは磨かれていく。そこには器量がある。気配りがある。
猫宮 織部:た、確かに。
寺門 眞門:「相手にどんな風に見られても構わない」という者は逆に
寺門 眞門:「同じだけ、相手の事にも興味がない」という事になりがちだ。
帆柄家 一亀:はい・・・。
寺門 眞門:帆柄家。もう一度聞く。貴様は「何を重視」している。
帆柄家 一亀:・・・「雰囲気」です。
猫宮 織部:ふ、ふんいき!?
寺門 眞門:なるほど、よくわかった。「帆柄家さん」、お売りしよう。
猫宮 織部:え、え、ええ!?ちょっと旦那様、全然わかりません、どういう事ですか!?
寺門 眞門:「人は、人を、選ぶべき」なのだよ。
寺門 眞門:特に「恋愛に関して」は。
猫宮 織部:え、ええ?
寺門 眞門:「顔で選ぶな」「年収で選ぶな」とよく社会は宣う(のたまう)。
帆柄家 一亀:はい、相談員の方にもそういわれました。
猫宮 織部:ま、まあたしかに。
寺門 眞門:しかし、じゃあ、モテないからといって「誰でもいい」で選択したのであれば。
猫宮 織部:あ・・・。
帆柄家 一亀:それは、「誰でもよかった」という理由で、選ばれた相手に、失礼だと思うんです。
猫宮 織部:・・・確かに、そうですね。
寺門 眞門:では、何で選ぶのか。
猫宮 織部:・・・えっと。
寺門 眞門:難しいよね、猫宮さん。でも、そこを濁さず、彼はなんて答えた?
猫宮 織部:「雰囲気」・・・。
寺門 眞門:そう。「なんとなく、その人の事が好きになれるかどうか」。
寺門 眞門:こと恋愛においては、この「フィーリング」が一番大切にすべきところなんだよ。
帆柄家 一亀:はい、僕も、そう思います。
寺門 眞門:そして、彼がなぜ、いつも出遅れてしまうのか?
寺門 眞門:それは。
猫宮 織部:・・・周りをじっくり観察して、よくよく周りを見て、決めているから。
帆柄家 一亀:・・・はい。
寺門 眞門:その境地に達するまで、彼は5年間の努力を惜しまなかったんだ。
寺門 眞門:だから、売ろう。帆柄家さん。
帆柄家 一亀:ぎ、ギジン屋さん・・・。ありがとうございます!!
寺門 眞門:ちょっと待っていてくれ。ミルクでも飲んで。
帆柄家 一亀:あ、ありがとうございます!いただきます!
猫宮 織部:・・・うまくいくと、いいですね。帆柄家さん。
帆柄家 一亀:は、はい。ありがとうございます、猫宮さん。
猫宮 織部:でも、なんで結婚したいんですか?
帆柄家 一亀:なんで・・・?
猫宮 織部:あ、いえ、深い意味はないんです。私に結婚願望がないので、どういう理由なのかしら?って。
帆柄家 一亀:あ、ああ。なるほど。そうですね・・・。
帆柄家 一亀:僕って、なんのとりえもない。ただの亀だと思うんです。
猫宮 織部:亀。
帆柄家 一亀:はい。趣味という趣味も、正直どこにでもありふれたもので。
帆柄家 一亀:かっこいいと言えるものでもないし、僕自身にオンリーワンの何かがあるわけでもない。
猫宮 織部:そんな。
帆柄家 一亀:いえ、そうなんです、本当に。
帆柄家 一亀:だからこその、なんていうんでしょう、普通なりの、意地っていうんですかね。
猫宮 織部:普通なりの意地?
帆柄家 一亀:はい。普通だし、すごくもなんともないけど、その運命の相手を、幸せにすることだけは
帆柄家 一亀:絶対に負けないと思うんです。だって、ほら、亀はコツコツと進めていったら
帆柄家 一亀:最後にはウサギに勝てるじゃないですか・・・?
猫宮 織部:・・・ふふ、なるほど。
帆柄家 一亀:はい、だから、そういった運命の相手と、僕と雰囲気を共有できる人と
帆柄家 一亀:一緒に歩んでいけたら、ゴールにつくまでのこの道も、幸せになるかなって。
帆柄家 一亀:それが、結婚したい理由、ですかね。
猫宮 織部:ふふ、そうなんですね。
寺門 眞門:待たせたな。帆柄家。
帆柄家 一亀:あ、いえ!そんな全然!猫宮さんが相手してくれたので!
寺門 眞門:これだ。
帆柄家 一亀:わ、ありがとうございます!結構大きいですね?
帆柄家 一亀:おいくらですか?
寺門 眞門:5600円だ。
猫宮 織部:えっ
帆柄家 一亀:安い!ありがとうございます!
寺門 眞門:必ず身に着けておくこと。必ずだぞ。
帆柄家 一亀:はい!わかりました!
帆柄家 一亀:あ、ギジン屋さん!
寺門 眞門:ん?
帆柄家 一亀:お名前を、お伺いしてもいいですか?
帆柄家 一亀:その、甘党同志ということで。
寺門 眞門:寺門。寺門 眞門(てらかど まもん)だ。
帆柄家 一亀:マモン・・・かっこいい!いい名前ですね!
寺門 眞門:貴様もな。
帆柄家 一亀:また来ます!今度は結婚の報告に!ありがとうございました!
0:店を出る帆柄家
猫宮 織部:・・・旦那様?
寺門 眞門:んー?なあに、猫宮さん。
猫宮 織部:いったい何をお売りになったんです・・・?
寺門 眞門:んー、呪物だよ?
猫宮 織部:うそつき。
寺門 眞門:・・・呪物に間違いはないさ。自分をだます為の、ね。
猫宮 織部:自分をだます為。
寺門 眞門:ウサギのしっぽのアクセサリー。ちんあなごのぬいぐるみ。カエルの置物さ。
猫宮 織部:やっぱり!!!ちょっとダメですよそれじゃ!!
寺門 眞門:そして、もう一つ。一冊の本。
猫宮 織部:本?
寺門 眞門:ウサギと亀の本を、ね。
猫宮 織部:な、なんでですか?
寺門 眞門:ウサギと亀の話は、俗にいう「イソップ童話」のものが有名だがね。
寺門 眞門:実はもう一つあるんだよ、猫宮さん。
猫宮 織部:もう一つ・・・?
寺門 眞門:そう、そっちの話ではね。亀はウサギをだますんだ。
猫宮 織部:ええ!?亀がですか!?
寺門 眞門:そう。彼を縛っていたのは「固定概念」。
寺門 眞門:彼はもう「亀」ではなくきちんとした「人間」なはずだ。
猫宮 織部:だから・・・。
寺門 眞門:そう、彼に本物の呪物はいらない。うまく騙されてくれれば、それでいいんだ。
猫宮 織部:で、でもそんなの運任せじゃないですか!
寺門 眞門:いいんだよ、それで。
猫宮 織部:え?
寺門 眞門:「亀」が「門」を通ったら、「䦰」(キュウ)。
寺門 眞門:「おみくじ」という意味だよ。
猫宮 織部:旦那様・・・。
寺門 眞門:当たるも当たらぬも運次第、そしてね、もう一つ意味がある。
猫宮 織部:もう一つ・・・?
寺門 眞門:「たたかって、勝ち取る」という意味さ。
寺門 眞門:甘党同志への、いい「餞別」(せんべつ)になるといいね。
猫宮 織部:・・・ええ、ふふ、本当に。
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