「ギジン屋の門を叩いて」④火車に誘われて。(2:1:0)

「リビングデッド」:死臭を放つ。始終を放つ。
寺門 眞門:店主。男性。いわくつきの道具を売る元闇商人。
猫宮 織部:助手。女性。家事全般が得意です。
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 : 「ギジン屋の門を叩いて 火車に誘われて。(かしゃにさそわれて)」
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寺門 眞門:猫宮さん、僕の後ろに。
猫宮 織部:は、はい。
「リビングデッド」:売ってくださいよ、ギジン屋さん。
寺門 眞門:そんなものは無い。
「リビングデッド」:無いわけはないでしょう。
「リビングデッド」:まさに、今そこに、あるじゃないですか。
猫宮 織部:旦那様・・・。
寺門 眞門:出ていきたまえ。外道。
「リビングデッド」:いやいや、売っていただかないと。
「リビングデッド」:客ですよ、私は。
寺門 眞門:ふざけるな。出ていけ。
「リビングデッド」:売れよ?「呪物屋(じゅぶつや)」
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「リビングデッド」:猫宮 織部(ねこみや おりべ)を。
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猫宮 織部:(語り)旦那様と出会ったのは、今日のような土砂降りの雨の日でした。
猫宮 織部:(語り)そこには今ほど物はなく、ただがらんどうな寂しい部屋の一つ。
猫宮 織部:(語り)濡れネズミとなった私は、濡れた合羽を畳みながら
猫宮 織部:(語り)その部屋の主(あるじ)に問いかけるのです。
猫宮 織部:(語り)「すみません、こちらは何の店ですか?」
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寺門 眞門:「呪物屋」?知らないね、あんた日本語が読めないクチかい?
寺門 眞門:ここは「ギジン屋」見ての通り、雑貨屋だ。
寺門 眞門:貴様に売るものなど、ほこり一つも存在しない。
「リビングデッド」:そんなわけないだろう、そこに居るじゃないか。
「リビングデッド」:なあ、猫宮 織部。
寺門 眞門:彼女に話しかけるな、くされ外道。
「リビングデッド」:お前が猫宮 織部なんだろう?
「リビングデッド」:なあ、答えなくても目が語っている。なあ、猫宮 織部。
寺門 眞門:指一本でも触れてみろ、どうなるかわかってるんだろうな?
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猫宮 織部:(語り)優しく、どこか消え入りそうな声で帰ってくる。
猫宮 織部:(語り)ここはなんの店でもない、これからどうなるのかもわからない。
猫宮 織部:(語り)雨の湿気からなのか、髪がうねり、ねじれ、気だるそうに座る彼を
猫宮 織部:(語り)私は目を凝らしながら見つめた。
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「リビングデッド」:そんな怖い顔でにらむなよ。
「リビングデッド」:なあ、寺門 眞門(てらかど まもん)、これはお前にとっても悪い話ではないはずだ。
寺門 眞門:名前まで漏れているとはな。
猫宮 織部:旦那様・・・。
寺門 眞門:大丈夫、猫宮さん。心配いらない。
「リビングデッド」:私は何もあなた方の命をよこせと言っているのではない。
「リビングデッド」:ただ、売ってほしいのですよ。
寺門 眞門:ふざけるな。そんな死臭をぷんぷん漂わせながら。
寺門 眞門:禍(まが)が体中からあふれている。せめて隠してから来たらどうだ?
「リビングデッド」:それは失礼。一応においには気を付けていたのですがね。
寺門 眞門:猫宮さん、あいつに絶対に触れてはいけないよ。
猫宮 織部:は、はい。
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猫宮 織部:(語り)「何か私の顔についているかね?」
猫宮 織部:(語り)彼がまた、言う。いや、クチから勝手に漏れた。というほうが正しいのかもしれない。
猫宮 織部:(語り)私はクビを横に振る。いいえ、ただ、貴方も癖っ毛がひどいんだな、と。
猫宮 織部:(語り)髪の毛がうねうねとねじれているのは、なにも彼だけではない。
猫宮 織部:(語り)「表の張り紙に、家政婦募集とあったんですが・・・。」
猫宮 織部:(語り)職を探している事を告げると、彼は仄暗い部屋の中、ほんの少しの笑みをこぼし
猫宮 織部:(語り)立ち上がると、私に一歩、二歩と近づいた。
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寺門 眞門:それ以上近づくな!!
「リビングデッド」:いいじゃないですか、「商品」をよく見せてくださいよ。
寺門 眞門:「商品」などではない!
「リビングデッド」:そんなはずはない。呪物のにおいがします。彼女からは。
「リビングデッド」:それも、とても濃厚な。
寺門 眞門:・・・。
「リビングデッド」:使っていますよね?彼女に、呪物を。いいや、彼女自体が呪物なのか。
猫宮 織部:それは・・・。
寺門 眞門:猫宮さん、そいつと話さなくていい。
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猫宮 織部:(語り)「君は、君の意思で来たのか?それとも「それ」の意思で来たのか?」
猫宮 織部:(語り)私をまじまじと見つめるその手は強く強張っている。
猫宮 織部:(語り)「どちらでも、あるかもしれません。」そう答えた私の手もまた、ひどく強張っていた。
猫宮 織部:(語り)そう伝えた瞬間に、私の身体は「じゅく」と音と立てて燃え上がり
猫宮 織部:(語り)仄暗いこの部屋を見渡せるほどに、赤く、白く、照らした。
猫宮 織部:(語り)「この呪いを、解く事はできますか?もし、もしできるなら、私は、私はここで。」
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寺門 眞門:猫宮さんは呪物でもなんでもない。
寺門 眞門:私の大切な助手であり、大切な家政婦だ。
寺門 眞門:よって売り物でもなければ、貴様のようなド腐れ外道に触れ合わせることすらさせん。
「リビングデッド」:ほう、家政婦。
寺門 眞門:出ていけ。「リビングデッド」。
「リビングデッド」:なんだ、わかってるんじゃないですか。
「リビングデッド」:そう、私は死体。生きるしかばね。死して歩くもの。
「リビングデッド」:蘇る者。
寺門 眞門:それだけ死臭を放っていて、わからないはずがないだろう。
「リビングデッド」:なら話は早い。その「火車憑き(かしゃつき)」を私に寄こしなさい。
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猫宮 織部:(語り)「火車。猫の形をした物の怪の一つだな。その呪いがかかっている。」
猫宮 織部:(語り)私の燃え上がる額に手を当てると、彼は言った。
猫宮 織部:(語り)古来より猫というものは、死体に近づいてはならない。
猫宮 織部:(語り)棺桶を跨がせてはならない、と言い伝えられている。
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「リビングデッド」:「火車」が近づけば、「死人」が起き上がる。
「リビングデッド」:「火車」が棺桶を跨げば、その死者は「不滅者(ふめつしゃ)」となる。
「リビングデッド」:火のにおいがね、ぷんぷんするんですよ。
「リビングデッド」:何かで抑えているのでしょうがね、隠しきれていないですよ、猫宮織部。
寺門 眞門:・・・何をするつもりだ。
「リビングデッド」:そんなの決まってるじゃないですか。
「リビングデッド」:その呪いは、私の為にあるものだ。
「リビングデッド」:だから、猫宮織部そのものも私の元にあるべきだ。
寺門 眞門:はっ、支離滅裂だ。貴様は暴君か何かか?
「リビングデッド」:女性の扱いなら慣れているつもりですよ。
寺門 眞門:そうは見えんな、今流行りのオラオラ系というやつか?
「リビングデッド」:なんとでも。
「リビングデッド」:猫宮 織部。その呪いは、苦しいだろう?
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猫宮 織部:(語り)「私、つらいんです。この呪いのせいで、沢山の人を傷つけている。」
猫宮 織部:(語り)「悪魔の子、と揶揄(やゆ)されることもありました。」
猫宮 織部:(語り)「でも、ここに、貴方がいると聞いて。」
猫宮 織部:(語り)「「呪物屋」の、貴方がいると聞いて。」
猫宮 織部:(語り)彼は何も答えない。私から噴き出る炎が彼の手のひらを焼く。
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寺門 眞門:(語り)その呪いは、深く深く彼女の奥底に根付いていた。
寺門 眞門:(語り)それこそ、簡単に引きはがすことができるものでもない。
寺門 眞門:(語り)彼女から噴き出す炎は、私の手のひらを焼き。
寺門 眞門:(語り)それと同時に、その手のひらを癒し続けるのだ。
寺門 眞門:(語り)何もかもを、「癒してしまう」なにもかもを「元通りにしてしまう」
寺門 眞門:(語り)それは、死者すらも。
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猫宮 織部:(語り)苦しくないはずがなかった。
猫宮 織部:(語り)すべての世の理を、変えてしまう、この身が怖かった。
猫宮 織部:(語り)もちろん喜ぶ人もいた。うれしいうれしいと涙をこぼし。
猫宮 織部:(語り)私の手を握る人たちがどれだけいたことか。
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寺門 眞門:(語り)死んだ者として、「息を吹き返す」ことが必ずしも幸せではない。
寺門 眞門:(語り)世の理を変えてしまうことは、簡単な責任ではない。
寺門 眞門:(語り)ここは、ゲームの世界ではないのだ。
寺門 眞門:(語り)死によって、癒されるものがある、死によって、終われる感情がある。
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猫宮 織部:(語り)「・・・家事、得意ですか?」だんまりを続けていた彼が発した一言は
猫宮 織部:(語り)そんな単純な会話だった。
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寺門 眞門:「日常生活を、送る程度には。」彼女はそう答える。
寺門 眞門:ただの気まぐれであったかもしれないし、そこに運命はあったのかもしれない。
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「リビングデッド」:なあ、猫宮 織部。私と来れば、その呪いを「快感」に変えてあげますよ。
猫宮 織部:・・・ホットミルク。
「リビングデッド」:え?
猫宮 織部:私にとっての快感は!旦那様に「ホットミルク」をお出しするときです。
猫宮 織部:この呪いはさぞかし、貴方にとって魅力なのでしょう。
猫宮 織部:「リビングデッド」というものがどういったものなのか、
猫宮 織部:ただの人間の私には見当もつきません。
猫宮 織部:貴方がどれだけ危険なのかも、私の目には何もうつらない。
寺門 眞門:猫宮さん・・・。
猫宮 織部:でも、確かなのは!
猫宮 織部:旦那様にホットミルクをお作りするのが私の幸せで!
猫宮 織部:こんな雨の日は、お互い髪がうねって仕方ないねと旦那様と笑いあうのが私の楽しみで!
猫宮 織部:それは絶対に、貴方と一緒では得られません!!
猫宮 織部:とっととお帰りくださいませ!!
「リビングデッド」:・・・ほう。
寺門 眞門:とのことだ。女性の扱いには慣れているんだろ?
寺門 眞門:どうするんだ?見せていただきたいね、扱いとやらを。
「リビングデッド」:……振られても、言い寄るほど、野暮ではないよ、私はね。
「リビングデッド」:しかし、猫宮 織部。なんの呪物を使ってその呪いを抑えているのかわからないが、
「リビングデッド」:私はこれからも君をあきらめない。そして、君のその呪いを欲する者は
「リビングデッド」:君たちが想定するよりも、多いことを忘れないことだな。
「リビングデッド」:猫宮 織部。また会いに来るよ。
寺門 眞門:二度と来るな。
猫宮 織部:このくされげどう!!
「リビングデッド」:……言うねえ。
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猫宮 織部:(語り)「君が合羽を着てきてくれてよかった。」
猫宮 織部:(語り)彼はそういうと、私に一つの玉を持たせる。するとみるみるうちに
猫宮 織部:(語り)身体から噴き出していた炎は、小さく小さく陰って(かげって)いき
猫宮 織部:(語り)私の中の「火車」と呼ばれる何かが、幼子のように眠りについていくのがわかった。
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猫宮 織部:こ、ここここここここここここ、ここここ!!
寺門 眞門:鶏かい?
猫宮 織部:違います!!!!
寺門 眞門:失敬。
猫宮 織部:怖かった!!!はちゃめちゃに怖かったです!!
寺門 眞門:さすがに肝が冷えたな、ふう。
猫宮 織部:うううう、やっぱりこの「玉」じゃダメなんじゃないですか?旦那さまぁ。
寺門 眞門:何を言う。最上級の呪物だぞ、その「しりこだま」は。
猫宮 織部:でもぉ・・・。
寺門 眞門:人を腑抜けにさせてしまう、「河童」の最上級の呪物だ。
寺門 眞門:嫌なら返してくれてもいいんだよ?猫宮さん。
猫宮 織部:謹んで、お借りいたします。
寺門 眞門:ほんとに、「かっぱ」には何度も助けられるね、我々は。
猫宮 織部:何度も・・・?
寺門 眞門:覚えていないかい?猫宮さんが初めてうちに来た日だよ。
猫宮 織部:・・・「合羽」ですか?
寺門 眞門:そう、「合羽」。
猫宮 織部:・・・どういうことですか?
寺門 眞門:「門」を「合羽」が通るとどういう意味になると思う?
猫宮 織部:え・・・?
寺門 眞門:「闟」(トウ)。
猫宮 織部:トウ・・・?
寺門 眞門:「安定する」という意味さ。
猫宮 織部:旦那様・・・。
寺門 眞門:なんだか今日は疲れてしまったねえ。
寺門 眞門:とっても緊張したよ。
猫宮 織部:ええ、本当に。・・・ホットミルク、飲みますか?旦那様。
寺門 眞門:ああ、いいね、いい提案だよ、猫宮さん。
寺門 眞門:私は、猫宮さんの入れたホットミルクを飲んだ時が、一番の快感だ。
猫宮 織部:・・・ふふ、髪の毛、うねってますよ。
寺門 眞門:猫宮さんも、ね。
猫宮 織部:ホットミルク、淹れてきますね。
寺門 眞門:ありがとー、猫宮さん。
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寺門 眞門:この火車という呪いが、猫宮さんから離れ、門を出る時が来ればいい。
寺門 眞門:「車」が「門」を出たとき。「閳」(せん)、「明らかになる」という意味だ。
寺門 眞門:はたして、何が明らかになるのやら。少なからずそれが、幸せなものであるといい。

臍帯とカフェイン

サイコパスとスーサイドの夜明け。 小説/台本/SS/現代詩/コミュニティ

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