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「ギジン屋の門を叩いて」⑧望みを棄てよ(2:2:0)

先野橋 陽介:小説家見習い。もう書けない、あなたが居ないなら。
要 梔子:人探し。小説家。呪われました。
寺門 眞門:店主。男性。いわくつきの道具を売る元闇商人。
猫宮 織部:助手。女性。家事全般が得意です。
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 : 「ギジン屋の門を叩いて 望みを棄てよ(のぞみをすてよ)」
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 : 
先野橋 陽介:もう二度と、筆を取ることはできないのです。
寺門 眞門:ほう、二度と。
先野橋 陽介:この心に、咲き乱れていたはずの、大切な一輪の花を
先野橋 陽介:引き剝がされてしまった。
寺門 眞門:だから、もう物語は紡げない、と。
先野橋 陽介:貴方には、わからない。
寺門 眞門:そうだな。
先野橋 陽介:きっとこの心は、この気持ちは、誰にも、わからないんだ。
寺門 眞門:その通りだ。
猫宮 織部:旦那様!
寺門 眞門:その通りだろう。
猫宮 織部:でも・・・
寺門 眞門:なあ、「才能無し」。
先野橋 陽介:・・・
寺門 眞門:だから、そうやって入水自殺でもしてやろうって魂胆なんだろうが
寺門 眞門:そんなもの、すでに過去の文豪が何度もして失敗している
先野橋 陽介:・・・だからなんだっていうんだ
寺門 眞門:溺れて死ぬのはつらいぞぉ?すンごいんだから、水とかがっぼがぼクチに入ってきて
先野橋 陽介:わかったようなクチをきかないでください
寺門 眞門:・・・いつの時代も、文人というのはすーぐ死にたがる
先野橋 陽介:・・・それ以上近寄らないでください
寺門 眞門:これだから、文人という生き物は短命なんだ
寺門 眞門:そもそもいつも死と隣り合わせ、死を思えなどという思想が気に食わない
寺門 眞門:「メメントモリ」?上等だ、いつだって死なんてものは平等に降り注ぐ
寺門 眞門:そんなもの気にして動いたほうが負けというものだ
寺門 眞門:死を思う必要なんてない。
寺門 眞門:そもそも「死」とは自分自身。「生」と「死」の両面を持つから
寺門 眞門:貴様ら人間は、そうやって「命」を書き切ろうとする、違うかね、獄門。
要 梔子:・・・それは
先野橋 陽介:こないでください、貴女は僕の知っている「獄門 京太郎(ごくもん きょうたろう)」ではない。
先野橋 陽介:「要 梔子(かなめ くちなし)」でもない。
猫宮 織部:先野橋さん・・・
先野橋 陽介:一体、なんで、なんでなんだ。
寺門 眞門:・・・先野橋、確かに今の「これ」はお前の知る「獄門」ではないのかもしれない。
先野橋 陽介:・・・
寺門 眞門:文を紡ぐ事もせず、大切な何かも忘れ、ただ「音を聞く」ことができるようになった一人の女だ。
先野橋 陽介:・・・呪物だろ、呪物なんだろ?そんな、珍妙な事が簡単に起きるはずがない
寺門 眞門:・・・そうだな、恐らくは
猫宮 織部:で、でも、旦那様が何かしたわけじゃないんです!先野橋さん!
先野橋 陽介:関係ない!!!どうせお前も、あの「蠅(はえ)」みたいな奴も、同じ、同じだ!!
寺門 眞門:「蠅」、ねえ。
猫宮 織部:「蠅」・・・
先野橋 陽介:僕の信じた「獄門先生」は、「梔子」さんは、そんな冷たい表情で
先野橋 陽介:僕の事を見ない、僕の手を振り払わない、変わってしまった、変えられてしまった
先野橋 陽介:あんたらみたいな、裏でこそこそ、怪しい商売をしてるやつらなんかがいるから・・・!
猫宮 織部:(ぼそりと)その闇商人を頼りにきてたじゃないですか・・・
寺門 眞門:猫宮さん
猫宮 織部:・・・失敬(不服そうに)
要 梔子:・・・陽介
先野橋 陽介:そんな「梔子」さんみたいな恰好で、僕の名前を呼ばないでくれ!!!
猫宮 織部:先野橋さん!!梔子さん本人なんですよ!!!
先野橋 陽介:認めない、俺は認めない、そんな、そんなの
先野橋 陽介:呪物なんて、呪いなんて、くそ、くそ・・・
寺門 眞門:先野橋
先野橋 陽介:なんだよ!この悪魔が!
寺門 眞門:そうやって、「悪魔」めと慷慨(こうがい)されるのも久方ぶりだ
先野橋 陽介:その、斜に構えた物言いがいちいち・・・人を小ばかにしてるんだ!
寺門 眞門:ああ、馬鹿にはしているな
猫宮 織部:だ、旦那さま!
寺門 眞門:いいんだ、猫宮さん。続けさせておくれ。
寺門 眞門:先野橋よ、貴様は「なんだ」?
先野橋 陽介:・・・は?
寺門 眞門:貴様は「なんなのだ」と聞いてるんだ
先野橋 陽介:質問の意味がわからない
寺門 眞門:才能無しめ、少しは想像力を働かせろ
先野橋 陽介:なっ・・・
寺門 眞門:貴様は曲りなりにも「言葉」を操ることを「生業」とする「小説家」なのだろう
先野橋 陽介:・・・
寺門 眞門:「言葉」とは、なんの為にある
先野橋 陽介:なんのため・・・?
寺門 眞門:貴様の恥ずかしい恋愛、えーっとチジョ、じゃない、チツジョじゃなくて
猫宮 織部:痴情の乱れ(ちじょうのみだれ)ですか?
寺門 眞門:そうそれ。そういったお前自身の「恥部(ちぶ)」を全世界に発信するためにあるのか?
先野橋 陽介:ち、恥部だと
寺門 眞門:ああ、そうだ、恥部だ。恥部以外のなにものでもないだろう?お前の文章は。
寺門 眞門:なあ、「獄門」?
要 梔子:・・・そう、だな
先野橋 陽介:なっ・・・
寺門 眞門:お前が何故、才能無しなのか、答えは出ているか?先野橋
先野橋 陽介:・・・それ、は、僕に、表現力が無いから・・・
寺門 眞門:馬鹿を言うな
先野橋 陽介:え・・・
寺門 眞門:お前の表現力は、才能の塊だよ
先野橋 陽介:え・・・?
猫宮 織部:すごく好きです、あの夕陽をバックにした表現とか。あのクサくて熱いセリフも。
要 梔子:・・・
寺門 眞門:先野橋よ、一つお前にヒントをやろう
先野橋 陽介:ヒント・・・?
寺門 眞門:「貴様は、なぜラブストーリーを書く」
先野橋 陽介:え?
寺門 眞門:他にもたくさんのジャンルというものが、物語がある。
寺門 眞門:猫宮さん、どんなジャンルが好き?
猫宮 織部:そっれはもちろんラブストーリー!特に禁断の愛ですが!!!
猫宮 織部:でもそれ以外なら、うへへへへ、アクションやヒーローものなんかも好きですねえ
猫宮 織部:あ、ハードボイルドなやつとかも、脳汁ぶしゃーーーーーーってなりますね!
寺門 眞門:ありがとう、脳汁はぶしゃーって出るのかい?
猫宮 織部:でます!!
寺門 眞門:そうかい(笑いながら)
寺門 眞門:・・・私はミステリーやサスペンス、児童文学などが好みでね
先野橋 陽介:・・・何が言いたい
寺門 眞門:「獄門 京太郎は、なんのジャンルの作家なのだね?」
先野橋 陽介:え・・・
猫宮 織部:確かに、それは不思議に思ってたんですよね
猫宮 織部:獄門京太郎といえば、大人気ミステリー作家
猫宮 織部:どうして、先野橋さんは、そんな巨匠のもとでまったく違う「ラブストーリー」なんてジャンルを
猫宮 織部:書いてるのかな?って
先野橋 陽介:そ、それは・・・
寺門 眞門:なあ、獄門。「なぜなんだ?」
要 梔子:・・・それは、こいつが、ラブストーリーしか書けないから
先野橋 陽介:・・・そのとおりです
寺門 眞門:そう、それは「なぜだ」
寺門 眞門:なあ、先野橋、最初の質問に戻そう。
寺門 眞門:「『言葉』とは、なんの為にある」
先野橋 陽介:・・・言葉は、伝えるためだ、気持ちを伝える為にある
寺門 眞門:そう、伝達手段の一つだ
要 梔子:伝達手段・・・
寺門 眞門:先野橋よ、お前、小説なんて書いてなかったんだよ
先野橋 陽介:え・・・?
寺門 眞門:お前は、いいや、貴様はずっと「要 梔子という一人の人物に対するラブレター」を書いていたに過ぎない
先野橋 陽介:・・・ラブ、レター
寺門 眞門:そうだ
寺門 眞門:さて、獄門よ。
寺門 眞門:貴様、その「聞く力」を得た際に、何かを代償としたと言ったな
要 梔子:・・・
寺門 眞門:そろそろ貴様にも盛大に吐露(とろ)してもらうぞ
要 梔子:・・・私に、話すべきことなどないよ
寺門 眞門:いいや、あるだろう。ただただ、その「事実」だけが
寺門 眞門:この才能無しの「求める答え」なのだから
先野橋 陽介:求める・・・答え・・・?
寺門 眞門:そうだ、なんてことはない、ただただ貴様らの痴話喧嘩(ちわげんか)なんだよ、これは
猫宮 織部:チワワ喧嘩・・・!
寺門 眞門:猫宮さん
猫宮 織部:失敬
先野橋 陽介:・・・先生は、もう僕は必要ないと言いました。
先野橋 陽介:耳が聞こえるようになった以上、「二人だけの世界」ではなく
先野橋 陽介:「開けた世界」が先生のもとに来た、だから
猫宮 織部:だから、もう先野橋さんは要らない、と?
先野橋 陽介:・・・はい、僕は「仕方なく選ぶしかなかった存在」なのだと
要 梔子:・・・その通りだ
寺門 眞門:そんなはずはない
先野橋 陽介:え・・・?
猫宮 織部:んもう!!にぶちんですね!!
寺門 眞門:「なぜ、何を代償にしても、聞きたいと思ったのか」
先野橋 陽介:聞きたいと、思ったのか・・・
要 梔子:・・・やめろ
寺門 眞門:ざわつくのだろう?獄門、この話を蒸し返すたびに
寺門 眞門:貴様の心が、抜き取られた「真意」が、痛むのだろう?
要 梔子:そんなはずはない、そんなはずは
寺門 眞門:「そんなはずはない」そう高(たか)を括(くく)っていた
寺門 眞門:私に必要なものは、一番大切なものは、そんな「才能なし」ではなく
寺門 眞門:おそらく「文学」そのものであったのだと
要 梔子:・・・ちがう、ちがう!!!
寺門 眞門:しかしそれは違った、貴様もそこの「才能なし」となんら変わりない
寺門 眞門:「1」からしか生み出せぬ、自身を切り売りして書くことしかできぬ、
寺門 眞門:「文学奴隷」なのだから!!
要 梔子:そんなモノではない!
要 梔子:私はそこの、そこの、そいつと・・・陽介とは違う・・・!
寺門 眞門:同じだ!!獄門!!!
要 梔子:違う!!!私は、私が一番大切なのは「文学」で・・・!
要 梔子:その「文学」で、世界に、喧嘩を・・・
寺門 眞門:「なんの為に」!!!「世界に喧嘩を売った」!!!
要 梔子:・・・っ
先野橋 陽介:せ、先生・・・?
寺門 眞門:貴様は、何を、誇示するために!!!
寺門 眞門:「文字」で!「文学」で!「世界に喧嘩を売った!!!」
寺門 眞門:貴様が一番大切に「したかった」ものはなんだ!!!!
寺門 眞門:貴様が「一度は捨てたのに」「またみっともなくも、愛するかのように」
寺門 眞門:「拾い上げたもの」は「なんだ!!!」
寺門 眞門:「獄門」!!!!!
要 梔子:ちがう・・・ちがうちがうちがうちがう!!!!!!!
要 梔子:そんな事のために、そんな物のために!!!
要 梔子:私が、この、聞こえる力を得たのだとしたら!!!
要 梔子:・・・滑稽(こっけい)すぎるじゃないか!!!!
要 梔子:阿呆(あほう)だ!阿呆すぎる!!
要 梔子:それを手にしたいが為に、それに関する「感情」を無くしたのだとしたら!!!
寺門 眞門:わかっているじゃないか、獄門
要 梔子:うっ・・・うぅ・・・(嗚咽が漏れ始める)
先野橋 陽介:せん・・・せい・・・?
要 梔子:うるさい・・・!うるさい!!!!
猫宮 織部:・・・「愛する人への気持ち」が、代償ってことですよね
要 梔子:なっ・・・
寺門 眞門:あーあ、言っちゃった
猫宮 織部:えっ!だ、だめでした?
寺門 眞門:んーん、この人たち素直じゃないからちょうどよかったよ
猫宮 織部:よ、よかった
先野橋 陽介:「愛する人への気持ち」・・・?
寺門 眞門:そう、なんとも皮肉だな。獄門。
寺門 眞門:先野橋の声を聴きたいが為に買った「聞く力」。
寺門 眞門:その代償は「その先野橋への愛情」だったのだから。
要 梔子:ちがう・・・ちがう・・・そんな、そんな惨めな結果、のぞんでない・・・
要 梔子:私は、私は・・・
先野橋 陽介:梔子さん・・・
要 梔子:その名前で呼ぶな!!!
先野橋 陽介:うっ・・・
寺門 眞門:惨めでも、情けなくても、みっともなくとも
寺門 眞門:獄門、それが事実なんだ
要 梔子:う・・・うぅ・・・
寺門 眞門:呪物の力を得る、呪いの力を使うというのは
寺門 眞門:そういう「どちらが軽いか」を秤にかけて、それ以外をすべて踏みつぶすような
寺門 眞門:そんな等価交換の仕方しかしない
要 梔子:うう・・・うぅ・・・
先野橋 陽介:・・・そんな、ことって
寺門 眞門:しかし、これは明らかな「不当契約」だ
猫宮 織部:え?
要 梔子:・・・え?
先野橋 陽介:不当・・・契約?
寺門 眞門:ああ、具体的に言えば、「聞く力」などというなんとも「生産性のない」願いに対して
寺門 眞門:支払うものが多すぎる。過剰に代価を払いすぎている。
猫宮 織部:過剰・・・?
寺門 眞門:獄門、お前が失ったものは「愛情」だけではないよ
要 梔子:え・・・?
寺門 眞門:さて、先野橋
先野橋 陽介:な、なんですか
寺門 眞門:「『言葉』とは、なんの為にある」
先野橋 陽介:・・・言葉は、伝える為にあるものだ
寺門 眞門:そうだな、では、獄門が本当に伝えたかった事はなんなのだろうな
先野橋 陽介:・・・
寺門 眞門:お前と同じなのではないか?「ただ、愛を伝えたかっただけ」ただそれだけなのだよ
先野橋 陽介:・・・愛を
寺門 眞門:まあ、愛なんていう不確かで不明瞭なもの、そう簡単に伝えられるわけないがな!
寺門 眞門:だが、そもそもの「愛」を失った状態で、獄門、貴様は「文学」と「愛」両方を
寺門 眞門:代価として支払ってしまっている
寺門 眞門:さらに言うなれば、もしかすると、もう一つ。
猫宮 織部:もうひとつ?
寺門 眞門:ああ、だがこれは確証がない。
先野橋 陽介:ギジン屋・・・どういうことなんだ・・・?
寺門 眞門:「クーリングオフ」!!!!してやろうではないか!!!
猫宮 織部:く、クーリングオフ・・・っ!?
寺門 眞門:ま、正確にはクーリングオフではないのだがね
寺門 眞門:その「不当契約」を「正しい契約」に直して
寺門 眞門:本来払うべき「代価」に変更してやろう、ということだ
先野橋 陽介:そ、そんなことできるんですか!
寺門 眞門:曲がりなりにも、私は長年、呪物を扱ってきた闇商だよ?
寺門 眞門:造作もない
要 梔子:・・・どう、すればいいの
寺門 眞門:どうもしない、私が貴様の額に触れたら、その瞬間に「改めて」代価が決まる
要 梔子:触れる・・・だけ
寺門 眞門:ああ。ただ、「何が代価になるのか?は私にもわからん」
猫宮 織部:さながら・・・代価ガチャ・・・
寺門 眞門:お、うまいこというね
先野橋 陽介:・・・先生、僕は
要 梔子:・・・何も言うな、「バカタレ」
要 梔子:・・・ギジン屋、たのみたい・・・
寺門 眞門:ふん、そうだ、そうやって素直なほうがかわいいぞ、貴様らは
猫宮 織部:SR(エスレア)・・・いや、UR(ウルトラレア)こいこいこいーっ!!
寺門 眞門:急に俗物的だからやめて猫宮さん
猫宮 織部:うう、失敬
寺門 眞門:では、いくぞ、獄門
要 梔子:・・・ああ、頼む
 : 
 : 
 : 
 : 間 
 : 
 : 
 : 
要 梔子:・・・終わったのか?
寺門 眞門:ああ、無事に。どうやら「聞く力」は残ったままのようだな。
先野橋 陽介:よ、よかった
要 梔子:なんだ、情けない声を出して、「バカタレ」め
先野橋 陽介:だ、だって、だって
猫宮 織部:よかった、でも、代価は何になったんでしょうね
要 梔子:わからない、だが、そう、だな
要 梔子:・・・私が大事にしていたものは、恐らく戻ってきているよ
寺門 眞門:ほう
先野橋 陽介:せ、先生
要 梔子:陽介、お前は、そんな情けなくて、愛おしい声だったんだな
先野橋 陽介:先生・・・っ
猫宮 織部:はぁぁん!よかった、よかったかったカルカッタです・・・!
要 梔子:ところで
猫宮 織部:はい!なんでしょう!
要 梔子:陽介はどこに?
先野橋 陽介:え・・・?
猫宮 織部:どこに・・・って?
要 梔子:先ほどから、陽介の声は聞こえるが、姿が見えない
猫宮 織部:・・・え?
先野橋 陽介:な、何言ってるんですか、梔子さん
要 梔子:ふふ、その名前で呼ばれるのは、こんなにも擽(くすぐ)ったいものなのだな
猫宮 織部:え・・・え・・・?
要 梔子:ほら、陽介、隠れてないで出てきてくれ
先野橋 陽介:く、梔子・・・さん
寺門 眞門:なるほど
猫宮 織部:だ、旦那様、こ、これって
要 梔子:・・・?
要 梔子:どうしたんだ?
寺門 眞門:獄門
要 梔子:?
寺門 眞門:先野橋なら、目の前にずっといる
要 梔子:・・・え・・・?
寺門 眞門:願望通り「先野橋の声」は聞こえる。
寺門 眞門:そして、不当な対価であった「愛情」は元に戻った
猫宮 織部:で、でもこれって
寺門 眞門:ああ、恐らくだが「先野橋の事だけ、見えない」が支払った代価だ。
要 梔子:み、みえない・・・?
先野橋 陽介:そん、な、そんなことって
先野橋 陽介:こ、声が聞こえるだけ・・・?
先野橋 陽介:声だけ・・・?
寺門 眞門:・・・そうなるな
先野橋 陽介:そんな、そんなのって・・・
先野橋 陽介:ぼ、ぼくは、まだ、先生に、梔子さんに、小説の書き方というものを
先野橋 陽介:お、教えてもらってない・・・
先野橋 陽介:見せたい原稿だって、こ、こんなに、ほら
0:先野橋、自身のカバンから原稿を取り出し、梔子に見せる
要 梔子:・・・見える
猫宮 織部:え?
要 梔子:原稿用紙に、書かれた、陽介の文章が、見える
先野橋 陽介:え・・・?
寺門 眞門:・・・はっ・・・ははは・・・
猫宮 織部:だ、旦那さま?
寺門 眞門:奇跡だな、これは。
寺門 眞門:「文学奴隷」の成した、奇跡だ。
寺門 眞門:先野橋、お前の「文」は、どうやら、獄門に届くらしいぞ
寺門 眞門:見えないのは、本当に「お前の姿」だけらしい
先野橋 陽介:・・・そっか、そうなんですね
要 梔子:陽介・・・?
先野橋 陽介:・・・はは、ははは
寺門 眞門:・・ふ、ふは、ははは
猫宮 織部:ふ、二人とも・・・?
先野橋 陽介:わらっちゃいます、ね・・・ははは
先野橋 陽介:お互いの「願望」だけは、しっかりと、残ってるだなんて
寺門 眞門:「UR」(うるとられあ)だ、これは
先野橋 陽介:ええ、まさしく
要 梔子:陽介・・・
先野橋 陽介:大丈夫、大丈夫だよ、梔子さん、大丈夫
先野橋 陽介:絶対に、この手を離さない、例えそこが、奈落の底でも。
 : 
 : 
 : 
 : 間
 : 
 : 
 : 
寺門 眞門:猫宮さん
猫宮 織部:はい、なんですか?旦那様
寺門 眞門:いつだったか、「音」が「門」を潜ったら「闇」になる、なんて話をしたね
猫宮 織部:ええ、しましたね
寺門 眞門:「愛する人」を見る事ができないという事実。
寺門 眞門:これもきっと、恐らくは「闇」と同意義なのだろうね。
猫宮 織部:・・・ええ、でも旦那様。
寺門 眞門:なんだい、猫宮さん
猫宮 織部:夕陽に照らされて、手を繋ぐ二人は、どことなく幸せそうでした。
寺門 眞門:・・・そうだね。猫宮さん
猫宮 織部:はい
寺門 眞門:「クチナシ」という花を知ってる?
猫宮 織部:はい、あの「実をつけない」ことで有名な花ですよね。
寺門 眞門:そう、とても不吉な意味合いで取られる事が多い花だけどね
猫宮 織部:ふふ、知ってますよ
寺門 眞門:ん?
猫宮 織部:花言葉
寺門 眞門:ははは、言おうとしてたのに
猫宮 織部:ふふふ、梔子の花言葉は「私は幸せ者」
寺門 眞門:その通り、いやはや、これは失敬
猫宮 織部:ふふふ
寺門 眞門:・・・文学奴隷とは、難儀な生き物だね。

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