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art school(1:1:0)

こちらのシナリオは、▼なき様との合作シナリオです。
【あらすじ】
人が人を喰らいあい、迎えてしまった『終末』の中、僕とアトリはただ2人。
この、誰も居なくなってしまった世界で、ただ2人の人間になってしまった。
「これから、どうすれば良いんだろうね。」
アトリが、何も動くもののないビル群を眺めながら言う。
「さながらアダムとイブだね、これじゃ。」
屋上から見渡す夕焼けは、世界が終わっていようが関係無しに、等しく綺麗で。
すべてが終わってしまった。でも、僕達はここにいる。
君が、「さいごに」言った「あいしてる」は、
一体どんな意味だったんだろう。

【配役】
アトリ:女性がすきな女性
テイ:男性がすきな男性




アトリ:これから、どうすればいいんだろうね。

テイ:さながら、アダムとイヴだね。僕達。
テイ:見渡す限り、動くものすら見当たらない。
テイ:アトリ、そこのフェンス脆くなってるから寄りかかったら危ないよ。

アトリ:ありがとう
アトリ:つい、見入っちゃって。
アトリ:(少し周りを見渡しながら)
アトリ:皆この世界で暮らしてたんだって
アトリ:まだ、いるんじゃないかなって。

テイ:いるのかな。どうなんだろう。
テイ:でももう久しく銃声も、悲鳴も聞こえない。
テイ:本当に、この世界で僕ら二人なんじゃないかな。

アトリ:あの耳が焼けるような声が響いてた時は
アトリ:私たちまだ出会ってなかったんだね
アトリ:何十年も昔の話みたい。
アトリ:目まぐるしく、消えすぎた。
アトリ:二人かぁ。

テイ:消えすぎた……ね。本当に。
テイ:で、これからどうしよう……だっけ。
テイ:そうだな……アダムとイヴに習って、
テイ:子供でも作ってみる?なんてね。

アトリ:馬鹿言わないでよ
アトリ:できないって、わかってるでしょ

テイ:わかってるよ、言ってみただけ。
テイ:僕も、君じゃ『勃(た)たない。』

アトリ:でしょうね、お互い様
アトリ:(細く短いため息)
アトリ:…ねぇ、いたんでしょ?
アトリ:こうなる前にさ。

テイ:……居たよ。
テイ:僕よりもガタイがすごく良くてさ。
テイ:手を繋ぐと、野球のグローブに包まれたみたいで、うん、すごく。
テイ:好きだったんだ。
テイ:アトリも、居たんだろ?

アトリ:居たよ。
アトリ:近くにいると柔らかい香りがして、脆くて
アトリ:笑顔が…本当に可愛かった。
アトリ:まだ目に焼きついてるよ。

テイ:……でも、もう居ない。

アトリ:やめて。

テイ:……ごめん。

アトリ:……いいの。ごめん。
アトリ:その、おこるつもりはなかったの
アトリ:思い出して切なくなる自分に腹が立って

テイ:ううん、いいんだ。
テイ:無神経すぎた。
テイ:……なんで僕らが生き残ったんだろうね。

アトリ:私たちはアダムとイヴにはなれないのにね
アトリ:笑っちゃうよ。

テイ:ほんとに……ね。
テイ:意地悪だなあ、世界って。

アトリ:私ね、よく考えることがあるの
アトリ:どうして私は女に生まれたのか
アトリ:どうして女しか愛せないのかって。
アトリ:世界も、神も、意地悪だなあって。
アトリ:答えなんて、出ないんだけどさ。

テイ:僕も、思うよ。
テイ:でもさ、この姿だったから、
テイ:僕はあいつに好きになって貰えたんだ。
テイ:そう思うとさ、なんかこう、もどかしいんだよ。
テイ:別の姿では、きっと愛されない。
テイ:でもこの姿のままじゃ、愛が認められない。
テイ:難儀だなあって。

アトリ:そっ…か。
アトリ:…そんなに間違ってることなのかな。
アトリ:まぁ今となっては認める人も認めない人も、居ないわけだけど。

テイ:……ほんとだね。
テイ:でも、認める認めないも関係なくさ。
テイ:残されたのは、僕らというわけ。
テイ:笑っちゃうよね。
テイ:……これからどうするって話だったよね。
テイ:……僕の話をさ、ちょっとだけ聞いてもらえる?

アトリ:うん。

テイ:ある所にさ、一組のゲイのカップルが居たんだ。

アトリ:(合わせてなかった目線を初めて合わせ、真っ直ぐみる)

テイ:その一組のカップルはさ、付き合い初めた2年目の記念日にさ。
テイ:お互いの名前を彫った指輪を買いにいったんだよ。

アトリ:素敵。

テイ:お互いの名前を彫るよりもさ、お互いのイニシャルを合わせたものを彫りたいとか。
テイ:指輪はゴールドよりもシルバーが良いとかさ、言い合いながら。

アトリ:微笑ましい…言い合い…だね。

テイ:でもさ、あの日。
テイ:噛まれたのは、背の高い男の方でさ。
テイ:みるみるウチに、様子がおかしくなる彼を見てさ。

アトリ:それ…

テイ:……あんだけ、愛してるって、言葉を囁きあったりさ。
テイ:お互いの肌の温度を確かめあったり、したのに。

アトリ:…この世界が、憎い?

テイ:……どうなんだろうね。
テイ:よくわかんないんだ。
テイ:あの日からずっと、ずっと、頭にモヤが掛かったみたいでさ。
テイ:だって、あんなに愛してるって思ってたのに、僕、彼を置いて逃げたんだ。

アトリ:逃げた、のかな。
アトリ:本当に愛してるから、なんじゃないのかな。
アトリ:一緒に過ごした場所とか、交わした言葉とか、感じた体温とか。
アトリ:死んじゃったらさ。何もなくなるんじゃないかな。
アトリ:守りたかったんだと思う。

テイ:守り……たかった……。

アトリ:うん、きっとね。
アトリ:なんて、最後に会えもしなかった私がいうのもなんだけど。

テイ:……アトリは、どうだったの?

アトリ:…いつも、太陽みたいに笑う彼女が泣きながら電話してきたよ。
アトリ:自分の親や、妹もいるのに。…私にさ。

テイ:……うん。

アトリ:電話の内容が、どんなのだったか、わかる…?

テイ:……聞かせて。

アトリ:…あなたの作るオムライスはどんな
アトリ:お店よりも美味しかった
アトリ:疲れて帰ってもあなたがいればそんな疲れなんて吹っ飛ぶの
アトリ:あなたの笑顔や紡ぐ言葉に救われていた
アトリ:たまに落ち込みすぎるところは悪いところだから、そんな時はこの言葉を思い出してね
アトリ:元気の源は、愛からよ
アトリ:愛しているわ。
アトリ:そこで、電話は切れた。

テイ:……。
テイ:(何かを伝えたいが。言葉が出ない。)

アトリ:私だって…ずっと、ずっと彼女に対して思っていたことを伝えたかった。
アトリ:伝えられずに…伝え…られずに…。
アトリ:一方的にいうんだから…いっつも。
アトリ:愛って何…?なんなのよ。
アトリ:こんな世界になったって!彼女がいない世界なんて!
アトリ:生きてる価値なんて見出せないじゃない!!

テイ:……アトリ。

アトリ:会いたい…あいたいよ…。
アトリ:私だって、守りたい…でも…胸が苦しくて
アトリ:…生きていることすら吐き気がするの。

テイ:……うん。……うん。

アトリ:人間が、世界が、邪魔をしてたはずなの
アトリ:はずなのに…。

テイ:うん……。
テイ:(アトリを、じっと見つめ涙ぐむ)
テイ:ねえ、アトリ……。
アトリ:……。
テイ:……ダニーボーイって曲、知ってる……?

アトリ:…ううん、知らない。

テイ:……僕も、受け売りなんだけどね。
テイ:アイルランドの民謡……なんだって。

アトリ:どんな…歌なの?

テイ:旅立つ息子をね、お母さんが悲しみを隠しながら、優しく見送って……。
テイ:帰ってこない息子を、季節の移り変わりと共に、待つ歌なんだって。

アトリ:…っ

テイ:……僕さ、最初はよくわからなかったんだ。

アトリ:うん…

テイ:でもさ、もう音楽プレイヤーも使えないこの終わった世界に、立った時にさ。

アトリ:……。

テイ:何度も何度も、頭の中で聞こえるんだよ。
テイ:おお、ダニーボーイって。
テイ:それでさ、なんか、思ったんだ。

アトリ:うん

テイ:目に見えなくても、遠く離れてても、
テイ:愛っていうのはいつもそこに、あって。
テイ:誰かを思う度にそれは膨らんで。
テイ:でもそれは、自分の中だけで育つものじゃなくて。
テイ:きっと、誰かからそっと受け取ったものなんだ。
テイ:……アトリが、彼女さんから、受け取ったみたいに。

アトリ:テイも…受け取っていたの?

テイ:……そうなのかもしれない。
テイ:それにさ、思うんだよ、アトリ。
テイ:『彼女が居なくなった世界』じゃないんだよ、ここは。

アトリ:どういうこと…?

テイ:彼女が『居た』世界、なんじゃ、ないかな。
テイ:だって、僕も、アトリも、こうして生きてる。
テイ:『一緒に過ごした場所とか、交わした言葉とか、感じた体温とか。』
テイ:『死んじゃったらさ。』
テイ:『何もなくなる。』
テイ:でもさ、僕らが生きてたら、世界はさ『彼らや』『彼女たちが』『居なくなってしまった世界』なんじゃなくて。
テイ:……『居た』世界、なんだよ、って思うんだ。
テイ:……誰かさんの、受け売り、なんだけどさ。

アトリ:そっか、そうだよ…ね。
アトリ:ねぇ、テイ。

テイ:……うん、なに?アトリ。

アトリ:少し、少しだけ、後ろ向いてて。

テイ:……いいよ。
テイ:(アトリに背中を見せる。)

アトリ:…うっ…うう……うううぅ…
アトリ:(声を抑え嗚咽しながら)

テイ:……こんな風になっても、夕陽は、変わらず綺麗なんだね。
テイ:(音もなく、一筋涙が零れる)

アトリ:…うん
アトリ:(間)
アトリ:私、さ。
アトリ:今不思議な気持ちなの。

テイ:聞かせて。アトリ。

アトリ:人を、世界を、ずっと憎んでた
アトリ:彼女の言葉しか受け取れなかったの。
アトリ:だから、きっと、彼女しか愛せなかったんだと思う。
アトリ:でも、なんでだろう、テイ
アトリ:あなたの言葉も私の体に溶け込んでくる
アトリ:ありえないと思っていたことが今、起こってるの。
アトリ:世界が変わったから私も変わったのかな。

テイ:……世界の終わりのパートナーが、アトリでよかった。
テイ:夕陽は変わらず綺麗だけど、きっと僕らはこれから沢山変わっていく。
テイ:でもこの気持ちだけは変わらないよ、アトリ。
テイ:最後のパートナーが、君でよかった。
テイ:……子供でも作ってみる?
テイ:……なんてね。

アトリ:ふふっ、バカ。
アトリ:そっか…
アトリ:私も、あなたがパートナーで、よかった。
アトリ:ありがとう、テイ、あいしてるよ。

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