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リューネシアサーガ戯曲 「THE LAST SONG」美学怪盗

※前編と後編が、そのまま掲載されています。

イラスト:香澄 様


▼のべるぶホームページにて、せしぼん様にシナリオ解剖していただきました。
是非ご覧下さい。

【配役】(3:1:1)モブキャラは兼役推奨
オプラティム:男性 細かい事が気になるノベルニアテアトルの俳優
ビゴー:男性 自信過剰なノベルニアテアトルの俳優
語り部アルパカ:性別不問 口上とつばを吐くのが得意
シーユー:女性 美学怪盗 シーユー・アンドルフィン
「十日」:男性 十日と書いてテンペストと読む。記憶が無い。

  場面転換◆大劇団ノベルニアテアトル 控室

オプラティム:「この身砕けちろうとも、我が心に嘘偽りはない!」
ビゴー:ぜーんぜんだめ。
オプラティム:んー・・・。
ビゴー:ほら、お前もなんか言ってやれ。
語り部アルパカ:ぜんぜん出来てメェ~
オプラティム:お前語り部アルパカに変な言葉教えるなよ。
ビゴー:全然出来てメェ~
オプラティム:……「この身砕け散ろうとも!」
ビゴー:いや、全然だめだろ、何そのセリフ読み。
オプラティム:しっくり来ないんだよなあ。
語り部アルパカ:しっくり来ないんだよメェ~
オプラティム:真似しなくていい。
ビゴー:お前そんなんじゃすぐ降ろされちゃうぞ、主役。
オプラティム:うーん……。
オプラティム:なあ、このセリフってさあ。
ビゴー:んー?
語り部アルパカ:メェー?
オプラティム:本当に、リューネシアの王様の最期のセリフ?
ビゴー:台本にはなんて書いてある?
オプラティム:……そう書いてある。
ビゴー:だよな?
語り部アルパカ:だよメ?
オプラティム:いや、そうなんだけどさあ。
ビゴー:あのリューネシア史上最悪の堕落騎士「ドル・ゴルドー」の事件を知ってるだろ?
オプラティム:そりゃもちろん。教科書にも載ってるくらいだ。
ビゴー:はい、暗幕があがる。
オプラティム:おっ、えっ?
ビゴー:場面は第三幕、ラストシーン、死体の山を乗り越え城門を闊歩する。
オプラティム:う、うん。
ビゴー:狙いはもちろん、城の王。そして、時の姫。
オプラティム:うん……。
ビゴー:王の首にゴルドーの刃が!!!
オプラティム:こ、「この身砕けちろうとも、我が心に嘘偽りはない!」
ビゴー:ほーら。教科書通りのリューネシア史。こんだけ手垢のついた台本も無いだろ。なー?アルパカ?
語り部アルパカ:メェー。
オプラティム:……。
ビゴー:……おいおいおいおい、しっかりしろよ、本当。
オプラティム:なんかごめん。
ビゴー:お前が今回の主役、国のために散った王様なんだろ?
ビゴー:何をそんなに悩む必要があるんだよ?なー?アルパカ?
語り部アルパカ:メェー。
オプラティム:わかってる、わかってるよ? こんなの大抜擢。頑張らない他はない、わかってるんだけど……。
ビゴー:じゃあ何をそんな燻ぶってんだよ。
オプラティム:……違う気がするんだよ。
ビゴー:……はー?
オプラティム:違う気がするんだよ、何度この王様に同化しても、考えても、降ろしてみても、全然しっくりこない。
ビゴー:おいおいおい、天才役者さんは違いますなー、言うことが。
語り部アルパカ:エルトン(天才)気どり!エルトン(天才)気どり!メェー!
ビゴー:お、言うじゃんお前ー。
オプラティム:うーん。
ビゴー:……緊張してんの?
オプラティム:それも、ある、かもなんだけど。
ビゴー:わかる、わかるよオプラティム。大劇団ノベルニアテアトルに入団して早6年。
ビゴー:中々目が出ず、飲んだくれた日もあった。
ビゴー:だが、今回の「リューネシアサーガ」でまさかの主役に大抜擢だ!
ビゴー:悩むよな?わかる、わかるよ、だがそんなもの気にすることは無い!
ビゴー:さあ!語り部アルパカ!こんな時は口上だ!
語り部アルパカ:メエ!!!
語り部アルパカ:さあさあ!お立合いお立合い!
語り部アルパカ:時代は遥か昔、このリ・ネシアはリューネシアと呼ばれていた!
語り部アルパカ:絶世の美女、時の姫!叡智の剣王、リューネシア王!
語り部アルパカ:そして「ゴルドーを疑われた」堕落騎士ゴルドーの悲惨な崩落劇!
語り部アルパカ:そんじょそこらの劇だと思ったら大間違い、
語り部アルパカ:なんと大劇団ノベルニアテアトルの演目だって話だ!
語り部アルパカ:さあさあ!お立合い!「リューネシアサーガ」まもなく開場!
語り部アルパカ:ぺっっっ!!!!(唾を吐き出す)
ビゴー:うわっ!!!!!顔にかかったラッキー!!!!!
オプラティム:……なーんか、しっくりこないんだよなあ。

  場面転換◆時同じくして、とある寂れた酒場 「瓶の割れた床」亭

シーユー:ねえ、貴方にはある?生きていく上での、美学ってやつ。
「十日」:……なんだ、あんた。
シーユー:なんだとはピルミス酒を濾(こ)したような事言うのね。
シーユー:……どこ見てるの?
「十日」:……こんな寂れた酒場には「不釣り合い」な腕章だな。
シーユー:あら、これが気になる?私はね、陽光の国《ユクト》から貴方たちと友達になりにきたのよ。
シーユー:そう、友達に、ね。
「十日」:……友達、ねえ。異国人の考える事はわからねえわ。
シーユー:あら、ねえ、貴方が飲んでいるその飲み物は何?
「十日」:これか?ルッソベリーの紅茶だ。知らないのか?
シーユー:へー!これがルッソベリーの!
シーユー:ふーん……これが、ルッソベリーね。
シーユー:(十日の紅茶を奪い、飲み干す)
「十日」:あっ、お前
シーユー:へえ。思いのほか甘いのね。
「十日」:お前は「甘かない宙づり猿」みたいだけどな。
シーユー:何それ、誉め言葉?
「十日」:リューネシア諺だよ、しらねぇのか。インテリそうな顔して。
シーユー:……ねえ、例えばなんだけど。
「十日」:なんだ。もう紅茶は奢ってやったぞ、他を当たったらどうだ?
シーユー:貴方は紅茶には砂糖入れる?
「十日」:……は?
シーユー:私はね、甘くするなら砂糖じゃなくて蜂蜜じゃないと駄目なの。
「十日」:蜂蜜?
シーユー:そう、それが私の美学だから。
「十日」:その、髪をくるくると弄ぶのは癖か?
シーユー:この国にも、あるでしょう?沢山の美学が。
「十日」:……何言ってるんだ?お前
シーユー:それこそ、魔導士にも、あなた達のような騎士にも。
シーユー:でも、ねえ、不思議なものよね。
「十日」:……なにがだ。
シーユー:やっぱり、灯台と同じなのかしら。
「十日」:耳ついてるか?おい
シーユー:ほら、自分の足元は照らせないじゃない?
「十日」:全然なんの話なのか要領を得な(いな、姉ちゃん)むぐ!!!
シーユー:(十日の口を勢いよくふさぐ)
シーユー:貴方の記憶を見せなさい、「十日(テンペスト)」
シーユー:私は、美学怪盗。
シーユー:あなた達の国、最大の禁忌。
シーユー:ゴルドーの秘密を。
シーユー:いいえ。
シーユー:ゴルドーの「美学」を盗みにきたの、私。

  タイトルコール
  ◆◆◆リューネシアサーガ戯曲「The last song」

  場面転換◆5か月後 劇場 ノベルニアテアトル

語り部アルパカ:終演~!終演~!
語り部アルパカ:本日の演目はすべて終演~!
語り部アルパカ:かーーーーーーっ!!ぺ!!!!!!!
客A:きゃ!顔にかかっちゃった!
客B:えー!いいなあ!絶対いいことあるじゃん
客A:でもくさーい
語り部アルパカ:終演~!

オプラティム:……ふう。
ビゴー:おいおいおい、浮かない顔してどうした主役様よぉ!
オプラティム:ああ、ビゴーか……お疲れ様。ゴルドー役大変だったでしょ。
ビゴー:まあなー、でもこの天才ビゴー様にかかれば余裕よ。
オプラティム:うん……。
ビゴー:まーた考えてんのか?
オプラティム:うん……。
ビゴー:一体何が不満なんだよ? 俺程じゃないが、お前だってわりかし良い王様だったぞ。
オプラティム:うん……。
ビゴー:最後の剣戟のシーンなんて、いやー、ゴルドーとして最高の悪役を演じられた!
ビゴー:お前も熱いバトルを繰り広げた!みたかよ、観客のあの顔!
ビゴー:はー!まだ胸がどくどく興奮してる、ほら、聞いてみる?
オプラティム:うん……。
ビゴー:……オプラティム。
オプラティム:うん……。
ビゴー:オプラティーム。
オプラティム:うん……。
ビゴー:ジャマナウォッシュのあべこべザンザール。
オプラティム:うん……。
ビゴー:ばーか。
オプラティム:なんでそんな酷いこと言うの?
ビゴー:聞こえてんじゃねえか。
オプラティム:ごめん、上の空だったかも。
ビゴー:……まだ気にしてんの?セリフの事。
オプラティム:……。
ビゴー:もうさー、劇は始まっちゃったんだぜ?
ビゴー:お前の違和感の事はよくわからないけどさ、それでもちゃんといい演技だったぜ?
オプラティム:ジャマナウォッシュのあべこべザンザールってなに?
ビゴー:絶対今じゃないだろ。
オプラティム:気になったらもうだめなんだよ、その事で頭がいっぱいになっちゃう。
オプラティム:何?あべこべザンザール?
ビゴー:そんなもん適当だよ適当!!!
オプラティム:あ、適当なのか……納得……。
ビゴー:……お前そうやって、一つでも気になる事があるとずーっとうじうじ考えるわけ?
オプラティム:仕方ないだろ、そういう性分なんだから。
ビゴー:本当損な性格だよな、まあ、それだけのめり込むからこその主役なんだろうけど。
オプラティム:……だってさ。
ビゴー:なに?
オプラティム:なんで城の兵士を皆殺しにしたの?
ビゴー:は? なんの質問?それ。
オプラティム:なんで?
ビゴー:教科書見直してこいよ。
オプラティム:見直したよ、リ・ネシア国建国の歴史58ページ、堕落騎士ゴルドーの反逆。
オプラティム:長命画家エルトン・エーカーの代表作、「孤軍の叫び」の絵画と共に説明がされてる。
ビゴー:そりゃそうだ。もちろん、書かれているのは……
オプラティム:書かれているのは、悪に心を売ったゴルドーが、自身の力を誇示するために
オプラティム:わざと城の兵士を皆殺しにした。
ビゴー:だよな? ほら、今回の劇も同じ。そうだろ? ゴルドーの残虐性をしっかりと表現したいいシーンになってたじゃないか。
オプラティム:じゃあ、なんでタイトルが「孤軍の叫び」なんだ。
ビゴー:あ?
オプラティム:……変なんだよ、なんか。
ビゴー:なんで?
オプラティム:この「孤軍」って何を指してるの?


  場面転換◆リ・ネシア国 裏通り
十日:「ゴルドーを疑って 在りし日すらも信じよう」
十日:「死体の山は 忽然と たがった運命 呼び鈴パイ」
十日:「ネズミの王が 隠してる」
シーユー:物騒な歌ね。その歌、なんの歌なの?
「十日」:知らない。何なんだろうな。
シーユー:知らないって何よ?知らない歌が歌えるわけ?
「十日」:何故だか耳に残るという事はあるだろう?
シーユー:じゃあ、その歌誰が歌ってたのよ?
「十日」:……知らない、誰なんだろうな。
シーユー:話にならない。
「十日」:そう言うな、シーユー。
シーユー:頼りの相棒の記憶は一向に戻らない。
シーユー:覚えてるのは?
「十日」:見知らぬ死体の山。
シーユー:それと?
「十日」:人間のもも肉は案外美味しかった。
シーユー:それで、ついたあだ名が?
「十日」:十日で死体を食いつくした、暴風雨みたいな男で
シーユー:「テンペスト」。
「十日」:それ以外は覚えてない。
シーユー:はあ。つかえない食人鬼を拾ってしまった、シーユーちゃん大ピンチ、ってわけね。
「十日」:仕方ないだろう、私は物語の主役にはなれない。そう簡単に記憶が戻ってたまるか。
シーユー:あんたね、その口癖いい加減やめたほうがいいわよ。
「十日」:……すまん。
シーユー:主役になれない人間なんてごまんといるのよ。
シーユー:そのセリフがあなたから出る度に、私は思うわけ。
シーユー:ああ、あなたは本当は主役になりたかったんだな、と。
「十日」:そういうわけじゃない。
シーユー:そういうネガティブ嫌いなの、私の美学に反する。
「十日」:悪かったよ。直すようにする。
シーユー:そういったの何回目か覚えてる?
「十日」:覚えてない。
シーユー:はーあ、まったく困ったもんだわ。
「十日」:……それで、シーユー。
シーユー:うん?
「十日」:本当に、やるのか?
シーユー:当たり前でしょ。その為にわざわざこんな寂れた美術館に来たんだから。
「十日」:……しかしなあ。
シーユー:何?いまさら怖気づいてるの?
「十日」:俺は、盗みなんてしたことない。
シーユー:つまらない男。
「十日」:……昔はしてたかもしれない。
シーユー:はいはい、そういうのは思い出してから言ってくれる?
「十日」:……本当に盗めるのか? 寂れたとは言え、この美術館の警備は厳重だぞ。
シーユー:なんて事ないよ。私が誰だか忘れたの?
「十日」:「美学怪盗」
シーユー:なに?聞こえない
「十日」:……「美学怪盗」様
シーユー:……ふっふーん。
「十日」:シーユー、顔がにやけてる。
シーユー:当たり前でしょう、十日。
シーユー:奪うよ、この国の秘密。
シーユー:エルトン・エーカーの名画、「孤軍の叫び」を。



【配役】(3:1:1)モブキャラは兼役推奨
オプラティム:男性 細かい事が気になるノベルニアテアトルの俳優
ビゴー:男性 自信過剰なノベルニアテアトルの俳優
語り部アルパカ:性別不問 口上とつばを吐くのが得意
シーユー:女性 美学怪盗 シーユー・アンドルフィン
「十日」:男性 十日と書いてテンペストと読む。記憶が無い。

(オプラティムとビゴーの兼役も可能)
エルトン:女性 エルトン・エーカー
ゴルドー:男性 ドル・ゴルドー

  場面転換◆美術館 展示「孤軍の叫び」 前
警備員:あいつらだ!ひっ捕らえろ!
ビゴー:はあッはあッ!!!お、オプラティム!!早く走れ!!!
オプラティム:わ、わかってるよ!!!で、でも!これ以上は!む、無理!!
「十日」:ちぃ……ッ!!!何が!!美学「怪盗」だ!!シーユー!!!
「十日」:そんな!堂々と!!盗むやつがあるかッッ!!!
シーユー:う、うるさい!!!無駄口叩いてないでッ!!早く走りなさいよッ!!!
ビゴー:な、なんでッ!!俺たちもッ!!逃げなきゃいけないんだ!!!
シーユー:仕方ないでしょ!!!大人しく!!巻き込まれなさいよっ!!はあ!!はあ!!
警備員:まて!!!!逃がすな!逃がすなーーーー!!!
「十日」:ほんっとうに……馬鹿野郎だお前は!!!
シーユー:こそこそやるなんて!!私の美学に反するのよ!!!!
オプラティム:こ、こっち!みんなこっち!こっちに抜け道ある!!!
ビゴー:急げーーーー!

語り部アルパカ:号外!号外ぃー!
語り部アルパカ:リューネシアの秘宝、エルトン・エーカー至極の一品!
語り部アルパカ:「孤軍の叫び」が4人組に盗まれた!
語り部アルパカ:現場には「美学怪盗参上」と書かれたカードありぃ!
語り部アルパカ:白昼の堂々たる窃盗!犯人は「美学怪盗」!
語り部アルパカ:警備の隙をつき!堂々とただ持ち去った!!!
語り部アルパカ:号外!号外ぃー!
語り部アルパカ:んべぇーーーーー!!!
客A:きゃっ!!一番特大のつばがかかった!
客B:こいつぁすごい!きっと飛んでもない幸運が飛んでくるぞ!!
語り部アルパカ:号外!号外ぃー!

  場面転換◆どこかの裏路地

オプラティム:ぜえ・・・ぜえ・・・。
シーユー:・・・はあ・・・はあ・・・あんた、やるじゃない。
オプラティム:撒けた・・・みたいだ・・・
「十日」:シーユー!!!なんなんだあのやり方は!
シーユー:あ、あれが私の美学なんだから仕方ないでしょ!
ビゴー:もうむり、走れない
「十日」:美学美学って、この美学馬鹿!
シーユー:美学馬鹿とは何よこの記憶馬鹿!
「十日」:記憶馬鹿は酷いだろ!
オプラティム:ちょ、ちょっと落ち着いて
ビゴー:・・・なあ、ティム。オプラティム。
オプラティム:なに?ビゴー。
ビゴー:・・・あの男の背中にあるのって・・・。
二人、「十日」の背に預けられた絵画を見る。
オプラティム:・・・・・これって!?「孤軍の叫び」じゃないか!!!
シーユー:ん!流石知っているね!そう、これはあのエルトン・エーカーの名画「孤軍の叫び」。
オプラティム:なななな、なんでここにあるの!
ビゴー:ティム。これが原因で、俺らも追いかけられてたんだよ・・・。
オプラティム:・・・共犯扱いってこと?
「十日」:間違いなくそうだな。
シーユー:仕方ないじゃない、逃走経路に貴方たちが居たんだから。
「十日」:ただ逃げた道の事を逃走経路とは言わない。
シーユー:いうでしょ、逃走した経路なんだから。
ビゴー:巻き込まれたんだよ、完全に。最悪だ。
オプラティム:……最悪かな?
ビゴー:ティム?
オプラティム:ねえ、これ、本物なんですよね。
シーユー:当然、間違いなく、正真正銘本物の「孤軍の叫び」よ。
「十日」:逆に、よくあんな正々堂々盗ってこれたな……。
シーユー:木を隠すなら森、気配を隠すなら堂々と、って言うじゃない。
「十日」:聞いたことないぞ……。
ビゴー:……おいおい、ティム、やめてくれよ?
オプラティム:すごい!!こんなに間近で見れる何てこと今まであったかい?!
オプラティム:あ、あの!!すいません!ちょっと僕にも近くで見せてもらえませんか!?
ビゴー:始まった……興味が沸いたら一直線……。
シーユー:仕方ないわね、巻き込んでしまったのも事実。
シーユー:はい、どうぞ。(オプラティムに絵画を渡す)
オプラティム:わ、わあ!すごい、絵具の一つ一つがきめ細かい……。
シーユー:そう。普通こういった油絵と呼ばれるものは、間近で見るものではない。
オプラティム:そうですよね、本来なら数歩離れた距離で本来の「見せたい形」っていうのが出てくる。
オプラティム:でもこの絵は、近くで見れば見るほど、本当にそこに人物が居るみたいに
オプラティム:建物がそこにあるように……「はっきりと」見えてくる……!
シーユー:そう!その通り!この絵の神髄は、あんな展示場では発揮されないんだ!
シーユー:こうして、手に取り、まじまじと見てはじめて絵の真実が見える!それがエルトン・エーカーの美学!!!
オプラティム:こ、これが!天才の美学……!!!
「十日」:……お前も苦労してそうだな。
ビゴー:……お互いに、ね。
オプラティム:(絵画をまじまじと見つめ)……これが、ゴルドーの裏切りの場面。
シーユー:……あなた、本当にそう思う?
「十日」:シーユー。(制止するように)
シーユー:止めないで、「十日」。ねえ、あなた名前は?
オプラティム:僕ですか?
シーユー:そう。そして貴方も。(ビゴーを指し)
オプラティム:僕は、ノベルニアテアトルで俳優をしてます。オプラティム。
ビゴー:右に同じ。ビゴーだ。
シーユー:……ノベルニアテアトルってあの、街の中央にある大きな劇団?
オプラティム:そうそう、そうです。
「十日」:この街の花形というところだな。丁度今、「リューネシア」の歴史を舞台にした話をやっているんだろう?
シーユー:……「美学」ね。
「十日」:何?
シーユー:見えたのよ。「美学」だわ。この出会いは。
「十日」:美学馬鹿……。
シーユー:なんとでも言って、「十日」。
シーユー:ねえ、オプラティム。あなた、あの美術館には何故来たの?
オプラティム:それは……
ビゴー:おっと、ティム。やめとけ。素性も知れない、しかも盗人なんかに言う必要ない。
オプラティム:なんで?いいじゃない
ビゴー:いいわけないだろ
オプラティム:ビゴーは黙ってて、今僕はこの二人の話が聞きたいんだ
ビゴー:オプラティム!!!
オプラティム:な、なにさ
ビゴー:お前の悪い癖だ!興味のあるもの、気になった事、些細な事、少しでももやっとするとそれを晴らさずにはい
られない!
ビゴー:それがいい事でも悪い事でも見境なしだ!
オプラティム:そ、そんなこと。
ビゴー:ある。お前はいつだってそうだ。特にこと演技に関わる事だとそうだ。
ビゴー:お前が今から言おうとしてる事はこの「リ・ネシア」を疑ってるってことなんだぞ。
ビゴー:憲兵の動き次第じゃ反逆罪だ。
ビゴー:事もあろうにそれを、大劇団ノベルニアテアトルの役者が言うって?
ビゴー:勘弁してくれ!
オプラティム:(ビゴーの話を無視し)ゴルドーは裏切ってなんかないと思うんだ。
ビゴー:ティム!!!!!!!
シーユー:……へえ?
ビゴー:ティムティムティム、本当にそこまでにそとけよお前、それ以上は言うな。関わるな。
ビゴー:反逆罪だぞ?主役の座はどうなる?今からでも訂正しろ、なあ。
オプラティム:しないよ。ビゴー。
ビゴー:おい。
オプラティム:うるさいな!黙っててよ!
ビゴー:……おまえ。
オプラティム:僕は主役の座なんてどうでもいいんだよ。
オプラティム:でも、ただ、ただ、自分の演技や、自分の心に嘘をつきたくない。
オプラティム:僕らのやってる事は、演技っていうのは、こうして過去にあった出来事をただなぞればいいのか?
オプラティム:違うだろ、僕らがしていることは、「その役の人生を降ろしてきている」んだ。
オプラティム:その役そのものに「成る」んだ。
オプラティム:だったら、直すべきだろ。
オプラティム:正すべきだ。堕落騎士ドル・ゴルドーの歴史が、リューネシアが滅んだ理由が。
オプラティム:間違っているなら、僕らは「ドル・ゴルドー」として歴史を、その心を正すべきだ!
シーユー:……ひゅー、いいね。
ビゴー:……。
オプラティム:君は天才だ、ビゴー。
ビゴー:いきなりなんだよ。
オプラティム:君は僕を演技の天才だと言う。
オプラティム:でも、君だって同じだ、僕は君を天才だと思ってる!
オプラティム:だから、きっと君だって同じだろ?
ビゴー:……それは。
オプラティム:そうじゃなきゃ、なんで僕を反逆罪で憲兵に突き出さないのさ。
ビゴー:そんなの……
オプラティム:友達だから、なんて言うなよな。
ビゴー:……ゴルドーが生き残って、反逆罪だと吊るしあげられて
ビゴー:「すべての人間が死んだ」話なのに、「なんでゴルドーが全て悪い話」に歴史が作られてるんだ……。
オプラティム:ビゴー!!(喜びながら)
ビゴー:わかってるよ!俺だってわかってる!どう演じてもおかしい。
ビゴー:台本通りに演じたら、その場に残っていたのは「ドル・ゴルドー」ただ一人だ。
ビゴー:なぜドル・ゴルドーが自分の不利になるように「自分が全員を殺した」なんて言えるんだ。
ビゴー:じゃあ、エルトン・エーカーは?あいつはどこに居て、どうやってこの絵を描いたんだよ。
ビゴー:「誰かが、誰かの都合がいいように」物語をでっち上げたとしか思えないじゃないか。
オプラティム:ビゴー!!!!流石僕の親友だ!!!!
ビゴー:ああもう!お前のせいで俺も反逆罪だ!ルッソベリーを顔に塗りたくられた気分だ!
「十日」:ルッソベリー?「ルッシベリー」だろ?
ビゴー:俺の地元じゃそう言うんだよ。
シーユー:……一つの同じ物も、見方や場所、人が違えば、まったく別の物になるかもしれない。
シーユー:それがきっと、この「孤軍の叫び」を「美学」たらしめる、いいえーーー「真実」たらしめる何かを暴く為の鍵なのかもしれない。
シーユー:いいじゃない、貴方、いいえ、貴方たち二人。
シーユー:「美学」だわ。とてもいい!
「十日」:……知らないぞ、お前ら。戻れなくなるかも知れない。
オプラティム:望む所だよ。
ビゴー:もう、こうなったら行くところまで行ってやる!
シーユー:……だってさ?「十日」
「十日」:……なら好きにしたらいい。
シーユー:二人に紹介がまだだったわね。
シーユー:この唐変木は「十日」(テンペスト)、記憶を無くした元騎士よ。
「十日」:唐変木とはお言葉だな……
シーユー:そして私は、「シーユー・アンドルフィン」。またの名を、「美学怪盗」。
シーユー:リューネシアが崩落した理由、ゴルドーの歴史の真実を奪いにきたのよ。
ビゴー:「真実」を奪う?どういうことだそりゃ。
シーユー:私の一つの名前は、「嘘屋」。
シーユー:あなた達の国の嘘と、真実を、私の物とするのよ。
シーユー:「嘘」も「美学」も、似てて、似ていない。
シーユー:何かを突き通す為に、飾る心が美学なのよ。
シーユー:そうして、自身に嘘をついて、貫いた先が「美学」になる。
シーユー:それは、その逆もしかりってこと。
シーユー:「ここに、エルトン・エーカーの描いた嘘と真実がある。」
シーユー:覚悟はいい?「美学」の先に潜るよ。
語り部アルパカ:そう言うと、「美学怪盗」はエルトン・エーカーの名画「孤軍の叫び」を頭上へと放つ。
語り部アルパカ:刹那、雄たけびにも、嗚咽にも似た、一つの咆哮が聞こえる。
語り部アルパカ:辺りは血の雨、よどんだ空気と、いつかの景色。
語り部アルパカ:蠢く(うごめく)涙に、ネズミの大群。
語り部アルパカ:死ぬ事すらも、殺す事さえもどこにも救いはない。
語り部アルパカ:リューネシアの崩落した日に、飛びすさる。
語り部アルパカ:お立合い、お立合い。
語り部アルパカ:これは「リューネシア」崩落の歴史、「ゴルドーの裏切り」の史実。
語り部アルパカ:さあ、お立合い、お立合い。
語り部アルパカ:んべぇーーーーーーーー!!!!!

  場面転換◆リューネシア国 城門前
エルトン:……もう、限界だ、ゴルドー。
ゴルドー:……何を弱気になっている?らしくないな、天才エルトン。
ゴルドー:お前がそんな気持ちでいたら、描きたい絵画も足を生やし逃げ出すぞ。
エルトン:ゴルドー、私は君のそういう性格を好ましく思っている。
エルトン:だがな、ゴルドー。
エルトン:もう、おどける必要も、誰かを安心させる必要もない。
エルトン:……ゴルドー、この国は、終わりだよ。
ゴルドー:終わらないさ。
エルトン:……ゴルドー。
ゴルドー:終わらない。まだ、私と君がいる。
エルトン:……ゴルドー。
ゴルドー:いいんだ、エルトン・エイカー。君はこの歴史を記す必要がある。
ゴルドー:わかっているよ。
エルトン:……すまない、ゴルドー。
ゴルドー:姫と、王は、きちんと天の国に行けたかな、エルトン。
エルトン:……ああ、穏やかな顔をしていた。行けるに決まっている。
ゴルドー:そうか、よかった、それは本当に、よかった。
エルトン:……少し、話をしないか。ゴルドー。
ゴルドー:時間が、あるかな。
エルトン:許すかぎりでいい。
ゴルドー:……そうだな、これが「最期」になる。まだ話せていない事もたくさんある。
エルトン:本当に、いいのか。
ゴルドー:? 何回蒸し返すんだ君は。君は転送魔法陣で逃げろ、そう決めただろ。
エルトン:そうじゃない。
ゴルドー:そうじゃない?
エルトン:……この国の、事実についてだ。
ゴルドー:……いいんだよ。
エルトン:……だが。
ゴルドー:いいんだ。君は正しい歴史を記し、それを流布させる責任があるだろ。
エルトン:……君が提示したのは、「事実」ではないだろう。
ゴルドー:事実だよ。私が姫と王を殺した。この手で首を切りとり、玉座に並べた。
エルトン:事実じゃない。
ゴルドー:事実さ。
エルトン:事実じゃないだろう!ゴルドー!
エルトン:王と姫は、「暗き者」となった!それは瞬く間に感染し、城中を、兵士も、侍女も
エルトン:……子供たちさえも!!
エルトン:蝕み、変異させ、それが波となり、こうして残ったのは私と君だけだ!!
エルトン:何故それを君が一人で背負わなければならない!
エルトン:私と共に、私と共に来ればいいだろう……っ!!
ゴルドー:……君は、本当に優しいな、エルトン・エーカー。
エルトン:……だって!
ゴルドー:泣くなよ、エルトン。笑ってくれ。
ゴルドー:私は、この国が好きだ。
ゴルドー:春には、ベルベリーが実り。
ゴルドー:多くの冒険者たちがその胸に夢を抱いて、このリューネシアに来る。
ゴルドー:ノベルニアの中でも、ひときわ大きなこの国に。
ゴルドー:きっと、この国はもっと豊かになる。
ゴルドー:きっと、大きな劇団ができて、大きな美術館ができて。
ゴルドー:建国の歴史を模した戯曲や、そう、君の描いた絵画が並べられている。
ゴルドー:子供達は笑顔で歌を歌い、その、輝かしい未来で、君はきっと笑顔で絵を描いている。
ゴルドー:長命なエルフの君だ、当然、描いている。
エルトン:ゴルドー……君は、君ってやつは……
ゴルドー:だから「こんな事実は無いほうがいい」。
ゴルドー:「王が、姫が、民を襲い」
ゴルドー:「一夜にして、国が滅びたなんて事実は、無いほうがいい」。
ゴルドー:だから私は、「裏切者」でいいんだ。
エルトン:ゴルドー…………。
ゴルドー:すまないね、酷な役をさせてしまって。
エルトン:どの口が言うんだい、それを。
ゴルドー:……城門の鍵が、限界だ。
ゴルドー:行きなさい、エルトン・エーカー。
ゴルドー:転送魔法陣は玉座にある。
エルトン:……(何も言わず、玉座へ向かおうとする)
エルトン:(しかし、耐えきれず)ゴルドー。
ゴルドー:早く。
エルトン:……ッ
エルトン:私はッ!!ドル・ゴルドーという、このリューネシアを最後まで守り切った騎士をッ!!
エルトン:心底愛しているッ!
ゴルドー:……。
エルトン:未来永劫!君は「堕落騎士」として!!
エルトン:この国の恥として!語り継がれるッ!!
エルトン:それはきっと、君の名前を使って!侮蔑の言葉が産まれる程に!!!
エルトン:我らの友、ネズミの王と!!ネズミたちを使い!必ずノベルニア中に流布させるっ!!!
ゴルドー:……。
エルトン:絶対にッ!絶対にそういう未来にしてやるッ!!!!
エルトン:私が……私がッ!!愛するキミの為に、絶対に!!!!!
エルトン:(そう言い切ると、涙をふく事もせず、エルトン・エーカーは玉座へと向かった)
ゴルドー:…………エルトン・エーカー、君というやつは。
  場面転換◆大劇団ノベルニアテアトル 第三幕
オプラティム:「……堕落騎士ドル・ゴルドー、私は君の事を絶対に忘れない」
ビゴー:「これが最後の剣戟だ、皆の者。」
ビゴー:「私は!この孤軍の唯一の騎士団長!!!!ドル・ゴルドー!!!」
ビゴー:「この身砕けちろうとも、我が心に嘘偽りはない!」
語り部アルパカ:観客席は、誰一人動く事ができなかった。
語り部アルパカ:ゲリラ的に変更された「リューネシアサーガ」は
語り部アルパカ:「オプラティム」と「ビゴー」という二人の役者により
語り部アルパカ:この国を揺るがす程の真実として、上演された。
語り部アルパカ:誰一人として、瞬きすらも、唾を嚥下することもない。
語り部アルパカ:そして、2つの拍手が、唯一その劇場で反響した。
シーユー:(拍手)ブラボー!
「十日」:(拍手)シーユー、恐らくこれは空気が読めてない。
シーユー:いいのよ、それで。いつだって美学は認められないものだもの。
シーユー:はじめは、ね。
「十日」:そういうものか。
シーユー:そういうものよ。
語り部アルパカ:舞台上では、「二人」の人生がそこにある。
語り部アルパカ:憲兵たちが、大きな扉をあけて流れ込んでくる。
語り部アルパカ:まさしく、リューネシアの終わりの日の、暗き者の行軍のように。
「十日」:憲兵だぞ、シーユー。
シーユー:大丈夫、私たちにじゃないわ。
語り部アルパカ:カーテンコールの最中、誰も立たない。
語り部アルパカ:客席はそのまま静寂を守る。
語り部アルパカ:誰も、「批判」する事も、「肯定」することも無かった。
語り部アルパカ:ただ、目の前の真実を、飲み込もうとしていた。
「十日」:これで、満足なのか?「美学怪盗」
シーユー:そうね、ゴルドーの嘘を本当にしてしまったエルトン・エーカー。
シーユー:そこにあったのは、間違いない「美学」だった。
シーユー:これ以上の美学がある?
「十日」:……違いねえ。
シーユー:でしょ、なら、それを「明らかにする」と決めたあの子たちも間違いなく
「十日」:美学、だろ?
シーユー:ご明察。

  場面転換◆リューネシア国 城門前

エルトン:絶対にッ!絶対にそういう未来にしてやるッ!!!!
エルトン:私が……私がッ!!愛するキミの為に、絶対に!!!!!
エルトン:(そう言い切ると、涙をふく事もせず、エルトン・エーカーは玉座へと向かった)
ゴルドー:…………エルトン・エーカー、君というやつは。
ゴルドー:エルトン!!!!!!!!
エルトン:(突然の大声に振り向く)……ゴルドー……?
ゴルドー:「リ・ネシア」だ!!!!!
エルトン:「リ・ネシア」……?
ゴルドー:新しい国の名だ。あの美しいリューネシアを「再び」。
エルトン:……任せてくれ。
ゴルドー:頼んだ。
ゴルドー:……実に、いい国だった!

  場面転換◆騒然としている大劇団ノベルニアテアトル 入口 語り部アルパカ前
シーユー:さあて、「十日」、結局貴方の記憶は戻らなかったわけだけど?
「十日」:……あの「孤軍の叫び」の絵画は、あの瞬間がクライマックス。
「十日」:俺があの死体の山にたどり着いたのか、はたまた関係ないのかは。
シーユー:まだ、隠された「真実」ってわけだね。
「十日」:……これからどうする?
シーユー:そんなの、決まってるでしょ。
シーユー:「美学」を盗み、「嘘」を売る。
シーユー:これからも私の美学は変わらないよ。
「十日」:……そうか。
シーユー:その為には、相棒が必要なのよ。
「十日」:え?
シーユー:相棒は、「謎を抱えているに限る」、これが「相棒の美学」でしょ。
「十日」:……はっ、本当にあるのか?そんな美学。
シーユー:いいから、いくよ!ほら!
語り部アルパカ:終演~!終演~!
語り部アルパカ:本日の演目はすべて終演~!
語り部アルパカ:主役の二人が憲兵にとっつかまっちまった!
語り部アルパカ:さあ!これは見ものだ!座長も脚本家も顔が真っ青!
語り部アルパカ:こんな日には家で大人しく呼び鈴パイでも食べて過ごそう!
語り部アルパカ:終演~!終演~!
語り部アルパカ:本日の演目はすべて、しゅうえーん!
語り部:んべーーーーーーーー!!!!!

-終-

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