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リッジエル:それでは改めまして…初めまして。
リッジエル:ロサンゼルスアナハイムタイムスの記者をやっております、リッジエルと申します。
リッジエル:今回は、多くの取材依頼の中から私を選んで頂きありがとうございました。
リッジエル:まさか、個人のメールへご連絡を頂けるとは思ってもみませんでした。
リッジエル:ありがとうございます、『神父』。
ハインスタイン:君の書く記事は、時折読ませて頂いていたよ。
ハインスタイン:リッジエルくん。
ハインスタイン:今日はお互い『有意義な時間』にしようじゃないか。
リッジエル:ええ…よろしくお願いします。
リッジエル:しかし、僕の記事を?貴方が?
リッジエル:僕が書いている記事なんて。
リッジエル:地域のほのぼのした話ばかりで、あまり面白い事なんてなかったと思いますが…。
ハインスタイン:そのほのぼのとした話が、実にいい。
ハインスタイン:地域や住民に密着し、それぞれ個人のプライベートにもしっかりと張り付き、まるで『家族』にでもなったかのように、親密になれる。
ハインスタイン:気付けば、君専用のマグカップが居間に用意されているかのような、そんな安心感が読み取れる。
ハインスタイン:人としてとても大切なことだよ、リッジエルくん。
ハインスタイン:……ところで、質問を始めなくて良いのかね?
ハインスタイン:面会時間にも、限りがあるのだろう?
リッジエル:ああ、そうでした。まさか僕の記事にそんなに興味を持って頂けているなんて意外でしたので…。
リッジエル:それでは、質問を始めさせて頂きます。
リッジエル:ガブリエル・M・ハインスタイン神父。
リッジエル:貴方は、38人を殺害し、一人を殺害直前まで暴行を加えた。
リッジエル:周辺の住民からはあんなにも慕われていた貴方が、何故このような強行に及んだのか…これをお聞かせ願いたい。
ハインスタイン:強行?
ハインスタイン:君はこれを、強行だと思うのかね?
リッジエル:え?それはどういう…?
ハインスタイン:私が38人殺してなお、周辺の住民からの声はどうだったかね?
リッジエル:信じられないと…あんなにも良き隣人であった神父があのような恐ろしい行為に及ぶなんてと…皆似たような事を言っていました。
ハインスタイン:そうだ。おそらく誰一人として、気づかなかったのだろう?
ハインスタイン:私が、38人を殺してもなお、日常を続けていることに。誰一人として。
リッジエル:はい。
ハインスタイン:それはもはや「強行」ですらない。「日常」だよ。リッジエルくん。
ハインスタイン:君が朝寝ぼけた眼でチョコレートシリアルと牛乳を用意するのと同じ。
リッジエル:日常…人の命を奪う事が、そんなチョコレートシリアルと同じだというのですか?
ハインスタイン:では聞くがね、リッジエルくん。君はSNSというものを使うかね?
リッジエル:?…はい、よく使用しますが…。
ハインスタイン:そのSNS上では、君もこんなことをしたりするのではないかい?
ハインスタイン:面白くもない芸能人の暴露話を、特に何も考えずに拡散したり。
ハインスタイン:炎上をしている大物政治家のニュースを、正義感を振りかざし叩きまわっているインフルエンサーのつぶやきにグッド評価をつけたり。
リッジエル:それは…たしかに、そのような事もしているでしょう。
リッジエル:しかし、それがいったい人を殺す事とどう繋がるというのですか?
リッジエル:まさか、その行為が遠回しに人を殺すとでも言うのでしょうか?
ハインスタイン:殺しているのとなんら変わらないさ。
ハインスタイン:君たちのその行為に少なからず「悪意」はないだろう?
ハインスタイン:その政治家を殺そうと思って、君はグッド評価をつけるかね?
ハインスタイン:死ねばいいとおもって、その芸能人のニュースを拡散するかね?答えはノーだ。
ハインスタイン:そこに「悪意」などない。私にとっての認識は、それと大差はないのだよ、リッジエルくん。
ハインスタイン:君は、この名前を知っているかね?
ハインスタイン:「アンネシュ・ベーリング・ブレイビク」。
リッジエル:確か、ノルウェーの連続殺人犯。
リッジエル:単独犯としては世界最大の短時間大量殺人を犯した人物…まるでギネス記録を狙ったかのような話でしたね。
ハインスタイン:そうだ。しかし彼はそもそもとして、いじめられているクラスメートを助けるような好青年であった。
ハインスタイン:しかし彼は、短時間に77人の命を奪った。なぜだか知っているかい?
ハインスタイン:おっと、その右手にもったスマホを机に置きたまえ、リッジエルくん。
リッジエル:な…
ハインスタイン:君の思う、結論を私は聞きたいのだよ。
ハインスタイン:さあ、なぜだと思う?リッジエルくん。
リッジエル:わ、わかりません…。しかし、彼は何か…怒りのようなモノを抱えていたのではないかと思いました。
ハインスタイン:そうだ。怒りだ。上出来だよ、リッジエルくん。
ハインスタイン:その怒りは何に対しての怒りであったと思うかね?
リッジエル:世間…決めつけられた常識…そして、それをさも当たり前で当然であるかの如く異質なモノに振りかざす者達…
ハインスタイン:そうだ。続けて。
リッジエル:真実をねじ曲げ、自分の都合のいいように解釈し、都合がわるければ切り捨てる。
ハインスタイン:うむ、それで?それだけではないだろう?リッジエルくん。
リッジエル:・・・そんな事に疑問すら感じない愚かな思考停止…何故こんなにも世間は想像力が乏しく、何故こんなにも自惚れていられるのか…。
ハインスタイン:・・・もっと想像したまえ。その先を、想像するんだ。
リッジエル:(少し悩みながらもハインスタインの言葉に締め付けられていく)
リッジエル:重ねた年月だけで勝手に有利不利を決めつけ、何の努力もせずに自分が上の存在だとのたまう!
リッジエル:この世に存在する人間以外のモノはいつから人間の所有物になった!おかしいだろ!!
リッジエル:ああ…僕は…
ハインスタイン:(微笑)
ハインスタイン:少し「くすぐっただけ」で、これだ。
ハインスタイン:リッジエルくん、君にはもともと素質がある。
ハインスタイン:わかっているのだろう?本当は。
ハインスタイン:アンネシュは、最終的に、その矛先が「移民問題」に終着した。
ハインスタイン:だがそれは大きな問題ではない。重要なのはそこではない。
ハインスタイン:リッジエルくん。君は7つの大罪というものを聞いたことがあるね?
リッジエル:…はい…よく三文小説でネタにされるあれですよね?聖書にも、記述があります。
ハインスタイン:そうだ。「傲慢」「強欲」「嫉妬」「憤怒」「色欲」「暴食」「怠惰」。
ハインスタイン:これらが七つの大罪と呼ばれる。
ハインスタイン:それでは、リッジエルくん。
ハインスタイン:もしこの7つの大罪に、もう一つ「追加」するのであれば。
ハインスタイン:君なら何が大罪にあたるとおもうかね?
リッジエル:一つ……「追加」……?
リッジエル:(しばらく悩み)
リッジエル:……ああ、そんな…いや…それが大罪だと言うのか?
リッジエル:神父。それが大罪なのだとしたら、私は何を信じたらいいか…
ハインスタイン:同じことを考えたようだね。
ハインスタイン:そう「正義」だよ。振りかざしすぎた「正義」は、どうあっても死に繋がる大罪だ。
ハインスタイン:そして、リッジエルくん。
ハインスタイン:悲しい事に、その「正義」とは。かざす人物、かざす側面、かざす信念によって、いつだって裏返ってしまう。
ハインスタイン:では、さらに問おう。リッジエルくん。
ハインスタイン:君の生まれ故郷は、どこだい?
リッジエル:私は、グアイマスという砂漠と海が広がる街で育ちました。
ハインスタイン:…メキシコの、いい街だ。
ハインスタイン:私も何度か足を運んだことがある。
ハインスタイン:人もあたたかく、素晴らしい街だ。
ハインスタイン:君はその故郷を、『愛して』いるかね?
リッジエル:はい、愛しています。
リッジエル:あの街での事が僕には何よりも宝物です。
ハインスタイン:では、その街の人々を私が殺して廻ろう。一人一人。
ハインスタイン:そう、伝えたら、君ならどうするかね?
リッジエル:貴方を、止めます。どのような手を使っても。
ハインスタイン:その今の君の想いと、私の『動機』に大きな違いはない、と言えば、伝わるね?リッジエル。
ハインスタイン:振りかざされた「悪意」は、行き過ぎた「正義」だ。
ハインスタイン:その行き過ぎた「正義」は、どこに振り下ろされる?
ハインスタイン:『救世主』は、平等にビスケットを分ける為にハンマーを振りかざしたわけではない。
ハインスタイン:粉々になった『それ』は、我々が口にするためでは無い!
ハインスタイン:リッジエル!!
ハインスタイン:目の前で、クリームシチューを作る『愛しき』取材対象の町民が!
ハインスタイン:ある日『誰か』の正義に押し潰されるなら!
ハインスタイン:君はどうする!
ハインスタイン:リッジエル!
ハインスタイン:リッジエル、リッジエル、リッジエル!!!
ハインスタイン:愛しさは時に脆い、失う事が恐ろしくなるそうだろう!
ハインスタイン:……では、君はどうするね?
ハインスタイン:リッジエル。
リッジエル:なんてことだ…じゃあ僕は…一体何の為に………
リッジエル:(暫く黙ったあと…)
リッジエル:ああ、神父…私はわかりました…。
リッジエル:今、やっと理解しました…。
リッジエル:ずっと変だと思っていました。
リッジエル:何故こんなにも人は分かり合えないのか…
リッジエル:人は愛ゆえに、人を憎み
リッジエル:愛ゆえに、人を邪魔だと感じる…
リッジエル:その愛のベクトルが何処へ向かっているのか、ただその違いだけで憎悪に変わる。
リッジエル:ゆえに…愛おしい…。
リッジエル:そうか!だからこそ…
リッジエル:神父!私はやっと…やっと貴方の愛の深さを知りました!
リッジエル:なんという慈悲深さ、コレこそが腐った人類にもう一度愛について思いださせる行為!
リッジエル:神父…貴方はなんという…
ハインスタイン:くっ……ふふふ……
ハインスタイン:くはははっ!!!!
ハインスタイン:(高笑い)
リッジエル:なっ…申し訳ありません!
リッジエル:私のような者が、まるで知ったような事を…
ハインスタイン:『君は』そういった選択をするのだね!
ハインスタイン:リッジエル!
ハインスタイン:私が話をしなくとも君は恐らく、私と同じ道を辿っていた!
ハインスタイン:実に『素晴らしい』よ、リッジエル。
ハインスタイン:君は、親密に人と接することができ、そして『愛する』ことができる。
ハインスタイン:なあ、リッジエル。『強行』ですらないだろう、リッジエル。
ハインスタイン:愛は常に隣にある。
ハインスタイン:正義も、悪意も、常に隣にある。
ハインスタイン:そこに、我々は腰掛け、日々を過ごしている。
ハインスタイン:ただそれだけなのが、理解できたね……?
リッジエル:ええ、目が覚めたような気分です。
リッジエル:神父、貴方を一眼見たその時から違和感を感じていました。
リッジエル:こんなにも人の良さそうな人物が、何故殺人を犯したのかと…
リッジエル:正義も悪意も変わらない…そんな簡単な事を何故、僕は今まで気がつかなかったのか…
リッジエル:世間に惑わされてはならなかった。
リッジエル:僕の、修行不足でした。
リッジエル:そう言えば、貴方はこんな事を仰っていましたね?
リッジエル:『私は簡単に刑務所から脱獄出来る。条件が揃えば明日にでも。』と…
ハインスタイン:ああ、その事かね。
ハインスタイン:『もう、脱獄は、終わったよ。リッジエル。』
リッジエル:!?
リッジエル:そうか…そういう…
リッジエル:ならば、39人目のあの時!何故あんなにも簡単に捕まったのかと不可解に思っていましたが…。
リッジエル:全て貴方の思い通りだったのですね?
ハインスタイン:ふふ、さて、ね。
ハインスタイン:さあ、もうこの楽しい時間は終わりのようだ。
ハインスタイン:看守たちがイラついている。
リッジエル:ふふ、そうですね。
リッジエル:これで素晴らしい記事が書けそうです。
リッジエル:この度はお付き合い頂きありがとうございました。
リッジエル:それでは…お元気で…。
リッジエル:(小声で)
リッジエル:貴方のおかげで、僕の進むべき道が見えました…。
ハインスタイン:(少し間をあけて)
ハインスタイン:くっ……くっくっく……
ハインスタイン:ほら、脱獄できた。
ハインスタイン:彼はもう、人を切り開いてみたくて堪らない。
ハインスタイン:(暗い笑いでフェードアウト)

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