「ギジン屋の門を叩いて」⑭絶望とは罪である。
捩治理川 弦夜:ねじりがわ げんや。くず。ガスマスクは外しました。もう隠さなくていいから。
「リビングデッド」:りびんぐでっど。あるく死体。
寺門 眞門:てらかど まもん。店主。男性。いわくつきの道具を売る元闇商人。
猫宮 織部:ねこみや おりべ。助手。女性。家事全般が得意です。
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: 「ギジン屋の門を叩いて 『絶望とは罪である。(ぜつぼうとはつみである)』」
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捩治理川 弦夜:ごめんね、『ギジン屋』。
寺門 眞門:貴様…貴様…!!!
捩治理川 弦夜:猫宮さん壊れちゃった、ははははは!!!
寺門 眞門:猫宮さん…っ!!猫宮さん……っ!!
捩治理川 弦夜:あははは、無駄無駄、暇だったからさ
捩治理川 弦夜:「蘇る(よみがえる)力」っていうの?
捩治理川 弦夜:試してみたくてさぁ、燈子を蘇らせて、
捩治理川 弦夜:また「笛の音」を聞かせて、ってやってみたんだけどさ。
捩治理川 弦夜:27回目くらいだったかなぁ?
捩治理川 弦夜:反応無くなっちゃって!!!!!あははは!!
寺門 眞門:弦夜……弦夜…お前は……お前はなんという事を……
捩治理川 弦夜:蘇るって、あんな感じなんだね、いやあ、神秘的だったなあ
捩治理川 弦夜:目の奥の光りっていうのがさ、こう、まさしく『灯る(ともる)』んだよ。
捩治理川 弦夜:それこそ、月の無い夜に、ぼんやりと照る燈篭(とうろう)みたいにさあ!
「リビングデッド」:……寺門 眞門、あの男が「蠅(はえ)」ですか。
寺門 眞門:……そうだ、自身の事を「蠅の王」などと抜かしている……。
「リビングデッド」:まったく。あなたがついていながら、どういう事なんですか。
寺門 眞門:……。
「リビングデッド」:はい、これ。お店に一人、居ましたよ、友人と言っていましたが。
寺門 眞門:これは……帆柄家の……ロールケーキ。
「リビングデッド」:ええ、あと、これ。
0:「リビングデッド」、黒い箱を眞門へと渡す。
寺門 眞門:な、お前、これは……
「リビングデッド」:必要になるかと思いまして。
寺門 眞門:…………。
捩治理川 弦夜:なにこそこそおっさん二人で乳繰り(ちちくり)合ってんだよ!!
捩治理川 弦夜:無視すんな、こっちのターンだろうが!!
捩治理川 弦夜:今!王である俺が話してんだよ!
寺門 眞門:……弦夜、「何もかもをぶっ殺す」そう言っていたな
捩治理川 弦夜:そう、全員殺す。まずはこの町の奴らを全部だ!
寺門 眞門:……「ずれ」を直すためだと言っていたな。
捩治理川 弦夜:そのとーり!なんだ、案外記憶力はいいんだな?
捩治理川 弦夜:責任感も、思慮深さも無いからそこんところ心配だったけど
捩治理川 弦夜:少し安心したよ、『ギジン屋』ぁ?
寺門 眞門:……「ずれ」とはなんだ。
捩治理川 弦夜:あ?
寺門 眞門:お前の言う「ずれ」というものがなんなのか?を聞いているんだ。
捩治理川 弦夜:あー、もういいよ、そういうお説教タイムみたいなの。
捩治理川 弦夜:うんざりうんざり。
「リビングデッド」:子供ですねえ。
捩治理川 弦夜:あ?なんなんだよお前?誰だよ?
「リビングデッド」:私ですか?
捩治理川 弦夜:お前以外居ないだろうが!
「リビングデッド」:いや、「死が無い」通りすがりですよ
捩治理川 弦夜:「しがない」通りすがり??
「リビングデッド」:ええ、「死が無い」……ね
捩治理川 弦夜:そんなわけあるか!「ただの」通りすがりがそんな親しそうに物渡したりしないだろうが
「リビングデッド」:じゃあ、知り合いってことでいいです。「死が無い」ね。
捩治理川 弦夜:いちいち「しがない」「しがない」うるせぇんだよ
「リビングデッド」:それは失敬
寺門 眞門:人の口癖を真似するな……
「リビングデッド」:こうすれば猫宮 織部も私の事を少し好きになってくれるかなぁと思いまして
寺門 眞門:…努力の方向性が違う…。
「リビングデッド」:で、「ずれ」がどうしたんですか?
捩治理川 弦夜:あ?なんなんだよお前はほんとに
「リビングデッド」:いえね、なにやらくだらない事で憤慨(ふんがい)されているような気がしましてね
捩治理川 弦夜:……くだらない、だと?
「リビングデッド」:ええ……くだらないですね
捩治理川 弦夜:……殺すよ?おじさん
「リビングデッド」:だって、ねえ。
「リビングデッド」:いや、例え話なんですけどね、ほら、よく木材とかを止めるときに
「リビングデッド」:ネジを回したりするでしょ?
「リビングデッド」:私、見かけによらず不器用でしてね
「リビングデッド」:よく曲がった状態で回しちゃうんですよ、ネジ
捩治理川 弦夜:なんの話してんだよ、お前…
「リビングデッド」:曲がったまま回しちゃうとね、ネジ穴とかに対して変にずれて入っちゃって
「リビングデッド」:こう、うまくとめられなくてね
「リビングデッド」:浮いちゃったりするんですよ
捩治理川 弦夜:馬鹿にしてんのか?
「リビングデッド」:そういう時って、木材がずれてるんですかね?いや、そんなことないですよね
「リビングデッド」:『回す方のネジがずれてるんですよ』
捩治理川 弦夜:……だからなんだ
寺門 眞門:いや、しかしそういうことだ。なかなかどうして、的を得ている。
捩治理川 弦夜:ギジン屋貴様…
寺門 眞門:弦夜、お前の言う「ずれ」とはなんだ。
寺門 眞門:お前が直そうとしている事はなんだ?
寺門 眞門:それは「世界を正すべき」事なのか、どうなんだ。
捩治理川 弦夜:知った風なくちをきくなよ、「ギジン屋」
捩治理川 弦夜:俺はこれだけ「世界」の為に「自分を作った」なのに
捩治理川 弦夜:それなのに俺に「優しくない世界」なんて
捩治理川 弦夜:そんなもの、「世界」のほうが「ずれ」てんだよ
捩治理川 弦夜:俺だけが、認められればいい
捩治理川 弦夜:それだけで十分すぎるほどに、俺は、俺という存在は
捩治理川 弦夜:この世界にとって「柱」だ!
寺門 眞門:馬鹿な事を言うな、弦夜。
寺門 眞門:それがただの「子供」の我がままであることくらい、お前自身わかっているだろう。
捩治理川 弦夜:……。
寺門 眞門:それこそ「お前は馬鹿じゃない」、すべてわかっているはずだ。
寺門 眞門:そうだろう?間違えてしまうことも、道を踏み違えることも、人生には必要だ。
寺門 眞門:しかし、そのままにしておくことはできない。
寺門 眞門:踏み違えた道は、元に戻さねばならん。
寺門 眞門:愛だとか、恋だとか、そんなものはいい、今は置いておいていい。
寺門 眞門:ただ、ただ、その踏み違えた道を歩む「王」は本当に「お前の中で正しいのか?」
捩治理川 弦夜:しらねーよばーか
寺門 眞門:な……
捩治理川 弦夜:この期に及んで、説得できるとでも思ってるの?
捩治理川 弦夜:あまい。あまいんだよ、「ギジン屋」。
捩治理川 弦夜:「言っただろ?なあ、お前に対して、わざわざ言ってやったろう?」
捩治理川 弦夜:「きれいごとを抜かすな、屁理屈で締めくくるな、勝手にまとめてんじゃねえ」
捩治理川 弦夜:「てめぇの、そういう、「偽善的な何かが」」
捩治理川 弦夜:「ずれ」そのものなんだよばぁーーーーーーか!!
寺門 眞門:馬鹿で結構だ!!!!!!!!!!
捩治理川 弦夜:は、はぁ?
寺門 眞門:馬鹿で結構コケコッコーだと言っているんだ!!!!この「ド阿呆(あほう)」が!!!!
「リビングデッド」:……鶏ですか?
寺門 眞門:違う!!!
寺門 眞門:弦夜、お前が好き勝手やっている以上、私も好き勝手やるというただそれだけだ
寺門 眞門:私が「ずれ」だ?大いに結構、そう思いたまえ!
寺門 眞門:「貴様の世界では、そうなのだろうな!」
寺門 眞門:その「小さくて、か細くて、安定すらしない」貴様のいう「ちっぽけで無意味な世界で」ならな!
捩治理川 弦夜:なっ……そんなものお前も……
寺門 眞門:そうだ!私の「世界」も至極小さい。
寺門 眞門:小さすぎるくらいに「小さい」
寺門 眞門:何が「大悪魔(だいあくま)」だ、何が「呪物商」だ。
寺門 眞門:そんな「呼称」に固執していて何になる!
寺門 眞門:私は、「寺門 眞門」だ、「私は寺門 眞門」だ!!!!!
捩治理川 弦夜:うるせーな!!だから何だって言うんだよ!!
寺門 眞門:そんな私の小さな世界を、そんな世界でも、それを支えてくれる
寺門 眞門:安定させてくれる、私の大事な、大事な助手を!!!
寺門 眞門:猫宮さんを傷つける「お前」は!!私にとっての「ずれ」なのだよ!!
捩治理川 弦夜:……はっ(小ばかにした感じ)
寺門 眞門:だから弦夜、これは「大人」と「子供」でもない。
寺門 眞門:「呪物商」と「呪物商」でもない。
寺門 眞門:「私」と「お前」の「エゴ」のぶつかり合いだ。
「リビングデッド」:ひゅう。
寺門 眞門:茶化すな!
捩治理川 弦夜:……表明してもらったところ悪いけど、だから何だって言うの?
寺門 眞門:そんなもの、簡単だろう?弦夜
捩治理川 弦夜:あ?
寺門 眞門:「ぶっ殺したい!!!!!!!!」
捩治理川 弦夜:……。
寺門 眞門:ここからはそういうお互いの、ずれと、ずれの張り合いだ。
捩治理川 弦夜:上等だよ、「ギジン屋」
捩治理川 弦夜:どれだけお前が熱く語ろうが、覚悟を決めようが
捩治理川 弦夜:関係なくアドバンテージはこっちにあるんだよ。
捩治理川 弦夜:お前の大事な大事な「猫宮さん」はこちらの手中にある。
捩治理川 弦夜:お前が軽率に燈子に売った、「オルフェウスの笛」もな!!
捩治理川 弦夜:状況は何も変わらない!変わらず、王は俺で、そして、世界は俺にひれ伏すんだよ!!!
寺門 眞門:「殺せないだろう?猫宮さんの事は。」
捩治理川 弦夜:……は?
寺門 眞門:強がるなよ、弦夜。いや「ベルゼブブ」?
寺門 眞門:「猫宮さんの事は殺せない」
寺門 眞門:私が殺させないとか、そういう事ではない。
寺門 眞門:「単純に、お前には殺せない」そうだろう?
捩治理川 弦夜:なにを根拠に……
寺門 眞門:「すべてぶっ殺したら、お前は王ではなくなる。」
捩治理川 弦夜:……。
寺門 眞門:「王」とは。
寺門 眞門:「民」が居なければ成り立たない。
寺門 眞門:本当に「ただ全員をぶっ殺すだけ」でいいなら、こうして私がここに来る時間すら
寺門 眞門:お前は与えなかったはずだ。
「リビングデッド」:まあ、それは確かにそうですねえ。
寺門 眞門:お前は「なにかを待っていた」だからこそ、こうして私も間に合ったわけだが……
捩治理川 弦夜:……
寺門 眞門:弦夜、「お前の計画の為に」猫宮さんは必要だったのだろう?
寺門 眞門:いや、「火車憑き(かしゃつき)」の力が。
寺門 眞門:大方、全員を殺した後に自分にとって都合のいい相手だけを蘇らせるなんていう
寺門 眞門:幼稚な計画なのだろうがな。
捩治理川 弦夜:……く……。
寺門 眞門:図星だろう?
「リビングデッド」:そのようですねえ。
捩治理川 弦夜:煩い……うるさいうるさいうるさい!!
捩治理川 弦夜:ああ、そうさ、その為に「猫宮織部」が必要だ!!
捩治理川 弦夜:だ、だからなんだっていうんだ!人質として使えなくても!
捩治理川 弦夜:こいつの力が今俺の元にある事実は変わらない!
捩治理川 弦夜:そ、そうさ、眞門、お前をぶち殺すことだってできる!!
捩治理川 弦夜:なんならそこの急に出てきた男も!!!
「リビングデッド」:私ですか?
捩治理川 弦夜:お前以外いないだろうが!!
「リビングデッド」:……私は貴方の敵では無いと思いますよ。
寺門 眞門:は?貴様、何を言っている?
「リビングデッド」:いや、私そもそも「猫宮 織部」派ですし。
「リビングデッド」:別に「寺門 眞門」がどうなろうと知ったこっちゃないですし
「リビングデッド」:なんなら猫宮織部のいるあちら側に行きたいのが本音ですね
寺門 眞門:き、貴様……
捩治理川 弦夜:……はっ、なに?あんたら仲間じゃないの?
寺門 眞門:仲間じゃない!
「リビングデッド」:仲間ではないですね
捩治理川 弦夜:ぷっ……なんなんだよ、ほんとに。
捩治理川 弦夜:そこのお前。
「リビングデッド」:はい、私ですか?
捩治理川 弦夜:お前は「猫宮 織部」が欲しいのか?
「リビングデッド」:ええ、欲しいですね。
捩治理川 弦夜:そうか。俺は猫宮 織部の「力」さえ使えればそれでいい。
捩治理川 弦夜:「寺門 眞門」をぼこぼこにしろよ、そうしたら「お前に猫宮織部のからだはあげてもいい」
「リビングデッド」:ほんとですか?喜んで
0:リビングデッド、眞門に掴みかかり押し倒す。そのまま馬乗りになりながら
「リビングデッド」:すみませんね、「寺門 眞門」。
0:何度も眞門を殴る
寺門 眞門:ぐっ……き、貴様……がはっ…
「リビングデッド」:猫宮織部が欲しい、そう言いましたよね、私
寺門 眞門:やめ…ぐっ…
「リビングデッド」:あなたに恨みがあるわけではないんですよ
寺門 眞門:ぐっ…ごほ……
「リビングデッド」:でも、少し気持ちがいいですね。恋敵を殴るというのは。
寺門 眞門:ぐっ……はっ……
「リビングデッド」:ほらほら、まだ続きますよ
寺門 眞門:ぐ……
捩治理川 弦夜:それぐらいでいい。
「リビングデッド」:お気に召しました?
捩治理川 弦夜:ああ、いい眺めだったよ。
捩治理川 弦夜:こっちに来てもいいぞ、まあ、反応ないけどな。「猫宮 織部」
「リビングデッド」:ああ、ありがとうございます。
「リビングデッド」:じゃあ、「寺門 眞門」。「すみませんねぇ」
0:弦夜に近づく「リビングデッド」
「リビングデッド」:よろしくお願いしますねえ、「蠅」さん。
捩治理川 弦夜:ああ……
「リビングデッド」:いや、「王」と呼んだほうがいいのか。手の甲にキスでもしましょうか。
捩治理川 弦夜:してもらおうか。
「リビングデッド」:それでは失礼して。
0:弦夜の前で跪く「リビングデッド」、弦夜の手はそのまま「リビングデッド」の頬を撫でる。
捩治理川 弦夜:その程度の三文芝居で俺が騙されるとでも思ったの?
捩治理川 弦夜:魂胆丸見えなんだよ。残念だったね、おっさん。
「リビングデッド」:……ばればれでしたかぁ
0:弦夜、「リビングデッド」の耳元で「笛の音」のカセットテープを再生する
「リビングデッド」:ぐっ……
寺門 眞門:な……
捩治理川 弦夜:残念だったな、眞門。騙されてやれなくて。
捩治理川 弦夜:殴られ損だね?というか、誰が見ても、この芝居は「安すぎる」だろう?
捩治理川 弦夜:こんなので騙されるほど、「子供」じゃないんだよ、悪いね
捩治理川 弦夜:さぁて、味方が誰もいなくなったところで、どうする?「ギジン屋」
捩治理川 弦夜:おとなしく自分で命を絶つ?それとも、死にゆく世界を見届ける?
捩治理川 弦夜:俺としてはどっちでもいいけどーーーーー!!
寺門 眞門:……
捩治理川 弦夜:なあ、なんとか言えよ!!!「寺門 眞門」!!!
捩治理川 弦夜:さっきみたいにさ!!!きれいごと並べてみろよ!!なあ!!!
寺門 眞門:……「捨てようとするものが、捨て台詞を吐いてはならない」
捩治理川 弦夜:あ?
寺門 眞門:知らないのか?捨て台詞っていうのは、「捨てられる」者にだけ許された特権だ。
捩治理川 弦夜:お前何言ってんだよ?
寺門 眞門:「捨て台詞」を「今勝たんとしているときに」「吐く」そんな愚行をするものが
寺門 眞門:……「王」なんて器なわけがないだろう?
捩治理川 弦夜:は?
「リビングデッド」:その通り
捩治理川 弦夜:は?お、おまえ
「リビングデッド」:すいませんねえ、私、最初から死んでるもので
捩治理川 弦夜:なっ
0:「リビングデッド」、起き上がり弦夜の持つカセットテープを奪い取る
捩治理川 弦夜:くそ!!!お前!!!!
「リビングデッド」:動かないでください、『蠅』。
「リビングデッド」:これで形勢逆転、貴方は何も武器を持っていないことになりますねえ
捩治理川 弦夜:はっ!!ばーーーーか!!俺にそれは効かないんだよ!!!
寺門 眞門:……そう、その「オルフェウスの笛」の効果は、「聞かない」という事象を持つ
寺門 眞門:弦夜には、意味をなさない。
捩治理川 弦夜:もう何を言ってるか聞こえないんだよ!!ばーーーか!!!
捩治理川 弦夜:「聞かない」ことで、俺にはその笛の音色は無意味だ!!
寺門 眞門:もうそれは説明したんだよ、弦夜。聞こえてないから仕方ないか。
「リビングデッド」:これを奪った意味、無かったと言うことですかねぇ
寺門 眞門:いや、意味はあったよ、「リビングデッド」。
寺門 眞門:万が一にも、奴がそれを猫宮さんに使わないという保証はなかった。
寺門 眞門:殺さないで「あろう」という予測はついていたが、もしもの場合もある。
「リビングデッド」:なら報われますねえ。猫宮織部とのデート一日で手を打ちますよ。
寺門 眞門:それを決めるのは猫宮さんだ。
捩治理川 弦夜:ほらほらほら!!!近づいてみろよ!!!呪物なんかなくても、猫宮織部は
捩治理川 弦夜:こちらにいる!!!こうなったら猫宮織部なんていらねえぇ!
捩治理川 弦夜:少しでも近づいてみろ!!ぶっ殺すからな!!!
寺門 眞門:近づく必要なんてないさ
寺門 眞門:……と言っても、聞こえてないのだよな、「お前」には。
捩治理川 弦夜:あぁ?なんだよ、なんか言ってんのか!?きこえねぇよばーーーか!!
寺門 眞門:今からお前にすることも、そして、燈子さんにしてしまったことも
寺門 眞門:すべて。
寺門 眞門:私は、忘れん。すべてを背負って、今「責任」を取る。
0:眞門、「リビングデッド」から渡された「黒い箱」に手を入れ、在るものを取り出す。
寺門 眞門:猫宮さんの意識が、今、なくてよかった。
捩治理川 弦夜:俺は王だ!!!蠅の王なんだ!!!!
捩治理川 弦夜:近づくな!!眞門!!近づくな!!!!!
寺門 眞門:弦夜。
捩治理川 弦夜:ち、ちかづくな!!!!!
0:眞門、少しずつ弦夜に近づきながら手に持ったそれを弦夜へと見せる。
捩治理川 弦夜:な……がっ………がふ……ぐぇ………
寺門 眞門:弦夜。聞こえていないだろうがな。
寺門 眞門:私も「勝者」ではない。私も「捨てる側」ではない。
寺門 眞門:だから、これは、「捨て台詞」だ。
捩治理川 弦夜:ぐ……眞……門……きさ……ま……
寺門 眞門:「冥府に落ちろ!!!!!このド阿呆!!!!!」
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「リビングデッド」:死にましたねえ。
寺門 眞門:……「死んだ」んじゃない。「私が殺した」んだ。
「リビングデッド」:でも、町を守ったのでしょう?それと、猫宮織部を。
寺門 眞門:……違うさ。自分で自分の尻を拭った(ぬぐった)だけだ。
「リビングデッド」:……それにしても、よくそんな「即死級アーティファクト」持ってましたねえ。
寺門 眞門:……「即死する目玉」達。友人に押し付けられたものだよ。
「リビングデッド」:貴方、ご友人とかいらっしゃったのですか?
寺門 眞門:……失礼なやつだな
「リビングデッド」:いえね、居なさそうじゃないですか。
寺門 眞門:うるさい。貴様覚えとけよ、あんなに本気で殴りおって。
「リビングデッド」:必要だったでしょう?
寺門 眞門:……
「リビングデッド」:……どうしますかねえ。
寺門 眞門:……
「リビングデッド」:猫宮織部の「心」は壊れたままですよ、寺門眞門
寺門 眞門:……大丈夫さ。
「リビングデッド」:……なにか手があるとでも?
寺門 眞門:……ああ。
寺門 眞門:「理想を現実にする指輪」、これを使う。元々、弦夜に使う予定だったものだ。
「リビングデッド」:……ほう?
寺門 眞門:指輪よ、私の理想は「猫宮さんが目を覚ます」ことだ。
寺門 眞門:その為なら、私の「寿命」などいくらでもくれてやる!!!!
「リビングデッド」:な……寿命って……!!
0:眞門が隠し持っていた指輪が光り、砕け散ると同時に猫宮が目を覚ます
猫宮 織部:う……だんな……さま……?
寺門 眞門:……おかえり、猫宮さん。
猫宮 織部:…ッ…だんなさま……だんなさま……だんなさま!!!!!!
猫宮 織部:だんなさまぁ!!!!!!
寺門 眞門:うん、うん、つらい思いさせたね、怖かったね。
猫宮 織部:うっ…うっ…旦那様ぁ……うあぁぁぁん!!!
寺門 眞門:もう大丈夫、大丈夫だよ、猫宮さん、もう終わったんだ。
猫宮 織部:うっ…ぐすん…ぐす……おわっ…た?
寺門 眞門:ああ、もう、「終わった」んだ。
「リビングデッド」:……寺門眞門、どういうつもりですか
猫宮 織部:り、「リビングデッド」さん……?
「リビングデッド」:なんですか、さっきの指輪は。
寺門 眞門:……いいだろう、そんなことは。
「リビングデッド」:よくない。寿命をくれてやる?それによって理想を現実にする?何を、何を世迷言(よまいごと)を。
猫宮 織部:え…?え……?
寺門 眞門:……言うなよ、「腐れ外道(くされげどう)」。
「リビングデッド」:言うでしょう!?
猫宮 織部:……私を、助けるために……?
寺門 眞門:……ごめん、本当は、つらい記憶も無しにしてやれたら、よかったんだけど。
猫宮 織部:な、何を言って……
寺門 眞門:僕の残りの寿命全部だと、起こすので精一杯だった。
猫宮 織部:な、何言ってるんですか?旦那様…?
「リビングデッド」:……どれだけの量を渡したんですか、その、寿命とやらを。寺門眞門。
寺門 眞門:……残り全部だよ。
「リビングデッド」:だとしたら今この場で死んでいるはずでしょう!!
猫宮 織部:旦那様…?え?旦那様……?え…?
寺門 眞門:……「残り1年」は残してくれたかな。
猫宮 織部:な、なんてこと……なんてことを……!
「リビングデッド」:寺門眞門、あなた何を、何を考えているんですか。
「リビングデッド」:そ、そんな、寿命をささげるくらいなら、不死者である私に使わせたらよかった!!
「リビングデッド」:あなたが、あなたがその業(ごう)を背負う必要はないでしょう!?
寺門 眞門:いいんだ、これで。……いいんだ。
寺門 眞門:さ、猫宮さん、帰ろう。
猫宮 織部:ま、待ってください…えっ…えっ?だ、旦那様の寿命が…あと1年……?
猫宮 織部:えっ……?だめ、だめです、そんなの、だめです!!
猫宮 織部:その指輪貸してください!!返します!!私また意識なくしますから!!
猫宮 織部:だめ!!!だめですそんなの!!!絶対にだめ!!
寺門 眞門:指輪はもう、ないよ。砕け散ってしまった。
猫宮 織部:いや!!!!やだ!!!!いやです!!!!
「リビングデッド」:……
寺門 眞門:猫宮さん
猫宮 織部:いや!!!絶対いや!!そんな、そんなのって無い!!
猫宮 織部:そんなの、だめです絶対に!!!
寺門 眞門:「織部。」
猫宮 織部:やだ!!
寺門 眞門:織部、これが正しい形なんだ。
猫宮 織部:やだ!!やです!!
寺門 眞門:私がこんなに長く現世にいることも、呪物というものが存在することも。
寺門 眞門:それこそが本来の意味での「世界のずれ」なんだよ。
寺門 眞門:蠅の王などと、関係ない、「強欲の王」である私も、「閏(うるう)」、ずれを正すべきなんだ。
猫宮 織部:いや!!やだ!!!聞きたくない!!!!
「リビングデッド」:……ちょっと……お取込み中失礼しますがね、『蠅(はえ)』と、女の子の遺体が、黒くなって崩れていきますよ……?寺門眞門
寺門 眞門:……呪いの力で、魂が消えたからだ。もう、蘇る事はできない。
猫宮 織部:やだ……いやだ……
寺門 眞門:織部。
猫宮 織部:そんなの、そんなのおかしいですよ!!!
猫宮 織部:旦那様は……「眞門さん」は二人を、二人を助けようとしてくれた!!!
猫宮 織部:人間の心を信じて、燈子さんを助けるって、決めてくれた!!!
寺門 眞門:それでも、私がやってきたことの「贖罪(しょくざい)」にはならないんだよ、織部
猫宮 織部:いやぁ……いやぁぁ……
寺門 眞門:……「猫宮さん」、僕は今、「猫宮さんのホットミルクが飲みたいんだ」
猫宮 織部:……「旦那様」……。
寺門 眞門:……帰ろう?「猫宮さん」
猫宮 織部:……はい……「旦那様」。
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猫宮 織部:(M)
猫宮 織部:太陽と月が対になるのと同じ。
猫宮 織部:善と悪が、光と影が、対になるのと同じ。
猫宮 織部:移ろい、形を変えながら、心というものは変動していく。
猫宮 織部:今思えば、ここで私は、踏みとどまるべきだったのかもしれない。
猫宮 織部:「隣」に君が居ない、この雑貨屋のカウンターで、一人佇む。
猫宮 織部:絶え間なく、雨音が戸を叩く。
猫宮 織部:誰も居ないこの店内を、憂うかのように。
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:「ギジン屋の門を叩いて 『蠅(はえ)』編
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0:ー完ー
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