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臍帯とカフェイン

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「living dead」死にてんがう。(ギジン屋番外)

 : 「配役」
語り部①:読み手。性別不問。
語り部②:読み手。性別不問。
 : 
 : 
 : 
 : 
 : 朗読劇
 : 
 :「ギジン屋の門を叩いて」
 : 
 : 番外 
 : 
 : 
 : 「LIVING DEAD」 死にてんがう。
 : (「リビングデッド」 しにてんがう)
 : 
 :
語り部①:永遠とも思える「渇き(かわき)」が、
語り部①:永遠とも思える「諦め(あきらめ)」が、
語り部①:この身を焼き、この心を締め付け続ける。
語り部②:死ぬ事すらも許されないのなら、
語り部②:生きる事も許されないのなら、
語り部①:どうかもう、いっそこの私を
語り部①:脳髄(のうずい)ごと吹き飛ばして
語り部①:空いた穴に、混沌(こんとん)としたその罵詈雑言(ばりぞうごん)を流し込んでくれと希う(こいねがう)。
語り部②:父の眼玉(めだま)は、常に私の「なにか」が「どうなってゆく」のかをまじまじと観続ける。
語り部②:それは、研究者がモルモットを観察するかのようで
語り部②:それは、あたかも「父自身」が神にでもなったようで
語り部②:その透明な水槽に押し込められた私は、「観られている」ことを「見つめながら」私を演じるしかなかった。
語り部①:そこには、いつも「最高」と「完璧」が存在した。
語り部①:その「最高」と「完璧」が、私の全てをぐずぐずに殴り続ける。
語り部①:完璧であれ、完璧であれ、完璧であれ。
語り部①:何かに成れ、何かをしろ、成し遂げろ、誰でもないお前が、この血が、血筋が、途絶えぬように、より高みへのぼるために。
語り部②:「DO」ドゥ。
語り部②:「BE」ビィ。
語り部②:成さねばならない、成さなければならない、成らなければならない。
語り部②:その刷り込みは、私を、私ではない何かにするには充分すぎるほどの、「簡単な凶器」であり「簡単な狂気」だった。
語り部②:人は安心を求める、雨が降れば地が固まる事がわかっているのと同じ。
語り部①:崩れないものにすがりたい。
語り部①:消えないものを手にしたい。
語り部①:美しいものが欲しい。
語り部①:揺らがないものに身を預けて、
語り部①:間違わない何かを目指したい。
語り部②:その、柱であれ。
語り部②:その中心にいろ。
語り部②:全てを巻き込み、すべてに頼られる。
語り部②:そんな「中心」で常にいろ。
語り部②:いるべきだ、なぜならそれが「ネジ」だから。
語り部②:すべてを留め(とどめ)、すべてを支える、それが、この財閥(ざいばつ)だからだ。
語り部①:そうして、この捻治理川 弦夜(ねじりがわ げんや)という男は産まれ、育った。
語り部①:何もかもを凌駕していなければならない、何もかもを受け入れなければならない。
語り部①:カリスマ、リーダーシップ、包容力やあれや、それ。
語り部②:「それが当たり前でなければならない」
語り部②:「それを苦にすら思ってはいけない」
語り部②:それこそが帝王(ていおう)であり、それこそが当主足り得ると。
語り部②:そうして崩さざるを得なかった自我は、鬱屈(うっくつ)とした「趣味」を目覚めさせる。
語り部①:「兄さん」
語り部①:無垢な瞳で、すがるように私を呼ぶ妹の声は。
語り部①:どんな屈強な大人を従える時よりも、
語り部①:どんな難解な問題に挑む時よりも、
語り部①:私を高揚(こうよう)させ、私を落ち着ける柘榴(ざくろ)の実だった。
語り部①:何も知らず、この笑顔が本物であると憧憬(どうけい)の香りを放ちながらその身を寄せる。
語り部②:何もかもを私に擦り付け、
語り部②:何も知らず、のうのうと「寄り添う側」に落ちぶれている愚妹(ぐまい)を
語り部②:こんなにも、こんなにも狂ったように求め、翻弄(ほんろう)し、それを覗き見る楽しみを覚える日が来ようとは。
語り部②:父が僕を覗き見る時、私は深淵(しんえん)な瞳で、妹を覗き見る。
語り部①:そうだ、一番最初に殺すなら間違いなくこの愚妹(ぐまい)だ。
語り部①:信頼に信頼を重ね、憧憬(どうけい)を愛と見間違えたその瞬間から、その表情がまるで、削ぎ落とされた柿の実のようになるその刹那(せつな)を、その、刹那を。
語り部①:何よりの生きる糧としよう。
語り部①:それまでの、それからの、それほどの。
0:ーーーーーーーーーーーーー
語り部②:「居ますか?猫宮 織部(ねこみや おりべ)。」
語り部②:ギジン屋の戸を開けると、中は薄暗く、そして、見たことも無い男が部屋の真ん中で棒立ちで居た。
語り部①:「あ、すいません、今店主さんは出払ってしまっていて。」
語り部②:見るからに人の良さそうなその男は、こちらを向いてそう言う。
語り部②:「貴方はどなたですか?見ない顔だ。」
語り部①:「あ、えっと、ここの店主さんの友人といいますか……。」
語り部②:「ほう、友人。怪しいな。」
語り部①:「あ、怪しいだなんて!とんでもない!」
語り部②:「寺門 眞門(てらかど まもん)がいないのに、なぜお前がひとりで店内にいる。」
語り部①:「さっきまでは居たんですよ!」
語り部②:男は、慌てた様子を見せるが、どうにもそこから悪意は感じない。
語り部②:どうやら本当に、友人ということらしい。
語り部②:試しに寺門 眞門の好きな飲み物を聞けば、即座にホットミルクと答えたあたり親交は深いらしい。
語り部①:そのままギジン屋の店内を突き進む。
語り部①:事務所の更に奥、客の目につかないところに「それら」が保管されているのは、普段猫宮 織部がそこに入り、棚を漁るところから容易に想像ができた。
語り部①:「ちょ、ちょっと」ずけずけと事務所に入る私に、男は声をかける。
語り部①:「なあに、少し借りるだけですよ。」
語り部②:28番と書かれた棚にある、黒い箱を取り出す。
語り部②:「さて、これがあればいいですかね。」
語り部②:男は訝しげにこちらを見る。
語り部②:外の雨音は段々と弱まり、戸を叩くような雨粒は、ぱらりぱらりと雫をこぼす程度になっている。
語り部①:「それ、なんなんですか?」
語り部①:好奇心を貼り付けた顔で、男は聞く。
語り部①:おそらく必要になると、思ってね。
語り部①:私はそう答えると、そそくさと店外へと向かう。
語り部①:戸をあけて見上げた空は、雲が切れていき、その隙間からは陽の光が差し込みはじめている。
語り部①:「ちょ、ちょっと、どこにそれをもっていくんですか。」
語り部①: 
語り部①:「なあに、ちょっと『蝿』(はえ)が湧いているものでね。」
0:ーーーーーーーーーーーーー
語り部②:永遠とも思える「渇き」が、
語り部②:永遠とも思える「諦め」が、
語り部②:この身を焼き、この心を締め付け続ける。
語り部①:死ぬ事すらも許されないのなら、
語り部①:生きる事も許されないのなら、
語り部②:どうかもう、いっそこの私を
語り部②:脳髄(のうずい)ごと吹き飛ばして
語り部②:空いた穴に、混沌としたその罵詈雑言を流し込んでくれと希う。
語り部①:「少しも反応が無くて、面白くないね、猫宮さん。」
語り部①:きり、と眼光を鋭くしたまま猫宮織部は頑なに何も話さない。
語り部①:殺してしまおうかと何度考えたかわからないが、この女を今殺してしまえば私はただの暴君となってしまう。
語り部①:「ずれ」を整える為には、冷静にならなければならない。
語り部②:ついでに連れてきた「愚妹(ぐまい)」の亡骸(なきがら)を時折もの悲しげに見つめながら、猫宮織部は、凛とそこに居た。
語り部②:まるで何もかもを信じていますというような顔で。何が起きても、大丈夫というような顔で。
語り部①:綺麗事ばかりを吐くその口を、くいと結び、何も話さない。
語り部①:いいや、違う。「話さずともわかるでしょう?」と、眼が語っているのだ。それ程までに、あの男を、寺門 眞門を信用しているのだと。
語り部①:そう「眼」が語っているのがわかる。
語り部②:面白くない。面白くない。面白くない。
語り部②:思い通りにいかないこの女が面白くない。
語り部②:誰も人が来ないこの裏路地では、指折り時を数え待ちわびる私と、面白くない女が一人、そして「元愚妹」だけだ。
語り部②:猫宮織部は、喋らない。
語り部①:面白くない、面白くない、面白くない。
語り部①:この女の、「火車」の力が、「何もかもを蘇らせてしまう力」が無ければ。
語り部①:今すぐにでも、なぶり殺してやるのに。
語り部①:今すぐにでも、今すぐにでも。
語り部②:そうだ。
語り部②:本当にこの女の「火車」の力は、人を蘇らせてしまうのだろうか?
語り部②:「人が死ぬ瞬間」は見ることができた。
語り部②:目の色が、目の光が消える瞬間を見た。
語り部②:消える瞬間のその瞳には、生きている時以上に「私」が鮮明に写ることを知った。
語り部①:すり潰すように、放つ言葉がどのような重たさを持つのかを知った。
語り部①:愛した瞬間を思い出しながら、どろりと溶けていく思考を知った。
語り部①:崩れ落ちる、元魂(もとたましい)は、肉を支えないことを知った。
語り部①:あれだけ瑞々しかった(みずみずしかった)四肢(しし)は、力なく崩れたあと微塵(みじん)も魅力を感じなかった。
語り部①:人が死ぬ瞬間を知った。だが。
語り部②:「人が蘇る瞬間」を、見たことはない。
語り部②:私が何を思いついたのかを、感じ取ったのか。ここにきて初めて、猫宮織部の瞳が、鈍く陰る(かげる)のを見た。
語り部②:ぞくりと背筋が持ち上がる、肩から顎にかけて虫の這うような高揚感があがってくる。
語り部②:何度でも試せるじゃないか、この「笛の音色」と「猫宮織部」が在れば。
語り部①:「まだまだ楽しめそうだな、おい、猫宮織部。」
語り部①:そう声をかけると、猫宮織部の目に涙が溜まるのがわかる。
語り部①:これはいい、これは、いい。
語り部①:何回、試せるだろうか。
語り部①:まだ、時間はある。
0:ーーーーーーーーーーーーー
語り部②:死体に群がる蛆(うじ)は、最短十日ほどの短い期間で蝿に成るという。
語り部②:また、恐ろしい事に、成虫になる前から、蛆という生き物は「生殖活動(せいしょくかつどう)」が行えるというのだからタチが悪い。
語り部②:死したこの私のからだにも、蛆は湧くのだろうか。雨の零れた(こぼれた)この道を踏みしめながら思う。
語り部①:「蝿の王」ベルゼブブ。
語り部①:かの著名な物語では、豚の首に群がる蝿の大軍そのものを、ベルゼブブと称して崇めていたという。
語り部①:どの時代、どの国、どんな世界線であったとしても、そうやって「純粋なる悪」にすがる人間は絶えない。
語り部②:あの小説家見習いに、話を聞きに行った時のことだ。
語り部②:蝿のような、フルフェイスのガスマスクをつけた者が、この鹿骨町で「何かをしよう」としていることを知った。
語り部②:そして、その小説家見習いの手を繋ぐ、和服の女からは。
語り部②:ギジン屋一同との出来事を、そして呪いの代価のことを。
語り部①:死した身体を、その蝿とやらの「巣」に運んでいく。
語り部①:不思議と以前より、身体の渇きを感じないのはこの雨上がりの匂いが、思いの外好きになってきているからなのか。
語り部①:それとも、存外ホットミルクという飲み物が、しょうに合ったからなのか。
語り部①:霞みがかっていたはずの、この「腐れ外道(くされげどう)」。
語り部②:群がる蝿を叩きに行ければいい。
語り部②:重たかったはずの足を、踏みしめながら、今この身体を「置き去り小路(おきざりこみち)」へと、運んでいく。
0:ーーーーーーーーーーーーー
語り部①:そうだ、一番最初に殺すなら間違いなくこの愚妹だ。
語り部①:信頼に信頼を重ね、憧憬(どうけい)を愛と見間違えたその瞬間から、その表情がまるで、削ぎ落とされた柿の実のようになるその刹那を、その、刹那を。
語り部①:何よりの生きる糧としよう。
語り部①:それまでの、それからの、それほどの。
語り部②:5回目で、ついに泣き出した。
語り部①:15回目で、一旦嘔吐し。
語り部②:23回目で、はじめて言葉を発する。
語り部①:28回目で、また反応が無くなった。
語り部②:36回目、
語り部①:37回目、
語り部②:38回目。
語り部①:何度でも、何回でも。
語り部②:いくらでも、望むままに、生命を
語り部①:好きにできる。生命に、横暴をかますことができる。
語り部②:生命そのものに、暴力を。
語り部①:生きているのか、死んでいるのか。
語り部②:わからぬほどに、変わらぬほどに。
語り部①:死にてんがう、終わらせてくれと希う(こいねがう)。
語り部②:死にてんがう、それでも求めて歩み寄る。
語り部①:死にてんがう、生きるも死ぬも見境なく。
語り部②:死にてんがう、ずれを戻して、捻り切る(ねじりきる)。

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