当サイトに掲載されている作品を使用する際は、利用規約に同意したものと見なします。

かならず使用前に利用規約の確認をよろしくお願い致します。


▼【シナリオサムネイル(表紙)】の使用について▼

事前に作者まで連絡をお願いします。

無断使用が確認出来た場合は、表紙使用料3000円のお支払いに承諾されたと見なします。


下記ツイートボタンからシナリオのツイート、サイトのフォローなども協力よろしくお願いします!

臍帯とカフェイン

サイトフォローもよろしくね!


「ギジン屋の門を叩いて」⑯帰依三宝

尾石貝 茉希:おせっかい まき。依頼人。女性。大家の娘
妃山 小鳥:きさきやま ことり 女性。謎の女。にんじん。
寺門 眞門:てらかど まもん。店主。男性。いわくつきの道具を売る元闇商人。
猫宮 織部:ねこみや おりべ。助手。女性。家事全般が得意です。
 : 
 : 
 : 「ギジン屋の門を叩いて 帰依三宝(きえさんぽう)」
 : 
尾石貝 茉希:「猫宮さん、僕にもホットミルク。」(眞門の真似をしながら)
猫宮 織部:うーん、30点ですかねえ。
尾石貝 茉希:えー!今の結構自信あった!
猫宮 織部:なんか、こう、もっと渋みというか、優しさというか。
尾石貝 茉希:足りないって?カーッ!はいはい、のろけのろけ!
猫宮 織部:ち、ちがいます!
尾石貝 茉希:「失敬?」
猫宮 織部:あ、今のは似てました!
尾石貝 茉希:ほんと?よっしゃー!じゃあほら、次猫ちゃんの番
猫宮 織部:えー!えーっと……
猫宮 織部:「お売りしよう!!!」(眞門の真似をしながら)
尾石貝 茉希:似てるのか似てないのかわかんなーい。
猫宮 織部:う、うーん、じゃあ
猫宮 織部:「猫宮さぁん、なんで夕飯キムチ炒飯(ちゃーはん)なのぉ……からいよぉ……」(眞門の真似をしながら)
尾石貝 茉希:……猫ちゃんさあ
猫宮 織部:なんですか?
尾石貝 茉希:わざと?
猫宮 織部:え!?
尾石貝 茉希:はいはい、ごちそう様ごちそう様
猫宮 織部:な、なにがですか!!なにがですかぁ!
尾石貝 茉希:もうさー、のろけよ、それは、それはのろけ。はー!やってらんねー!
猫宮 織部:ま、茉希ちゃんがやろうって言ったんじゃないですか!!
尾石貝 茉希:猫ちゃんの物まねは!猫ちゃんにしか!見せない眞門さんだから!!
尾石貝 茉希:似てんのか似てないのかわかんないわけ!
猫宮 織部:は、はわわわわ
寺門 眞門:何やってるの、二人とも。
猫宮 織部:だ、旦那さま!?
尾石貝 茉希:あ、眞門さんちーっす。
寺門 眞門:……茉希
尾石貝 茉希:ん?
寺門 眞門:仕事は????
尾石貝 茉希:してませんけど?
寺門 眞門:してませんけど?じゃない!何をやっとるかお前は!
寺門 眞門:指輪(ゆびわ)!つきっぱなしじゃないか!外れてないじゃないか!
尾石貝 茉希:あー、これ?なんかさー。
尾石貝 茉希:慣れてきちゃった。別に本心を話すのも悪くないなーって。
尾石貝 茉希:あ、眞門さんなんか猫ちゃんといい感じじゃん、ついにあれ?しっぽりって感じ?
尾石貝 茉希:優しくしてあげた?
猫宮 織部:ななななななななな、何言ってるの!茉希ちゃん!!!!!
尾石貝 茉希:あはははは!ないかー!流石にそこまではないかー!!!ははは!!
尾石貝 茉希:なんかもう、ほら!そこまであからさまだとさ!してないと不健全というか……
猫宮 織部:(さえぎるように)茉希ちゃんてば!!!!
尾石貝 茉希:あははは!ごめんごめん、ほら、私なんでも話しちゃうから今。ごっめんごっめん。
寺門 眞門:……はあ。なんで「暴露(ばくろ)」してしまう事に順応してしまってるんだお前は……。
尾石貝 茉希:嘘をつかない生活ってさ、案外快適よ。
寺門 眞門:む、まぁ、それは確かにそうなのかも知れんがな。
猫宮 織部:ちょこっとだけ羨ましいです。なんか、ストレスなさそうで。
尾石貝 茉希:言うじゃーん、猫ちゃぁん。でも、ストレスゼロ!ではないんだなあ、これが。
寺門 眞門:ところで、いつの間に「猫ちゃん」「茉希ちゃん」なんて呼び合う仲になったんだ?
猫宮 織部:あ、えっと、何度かお会いするうちに意気投合して
尾石貝 茉希:なんなら仕事探すフリしてここにきてたわー、ははは!
尾石貝 茉希:なんかさ、色々大変だったみたいじゃん、ちょこっとだけ、ちらっとだけ聞いたよ。
寺門 眞門:な……っ!?ね、猫宮さん?
猫宮 織部:他の人に、知られてもいい範囲まで……だけ。
猫宮 織部:きっと茉希ちゃん、誰かに聞かれたら話しちゃうので、そこは、ね。
寺門 眞門:そ、そっか。
尾石貝 茉希:そーそー。眞門さんの寿命がなんやかんやあって残り1年しかないことと、
尾石貝 茉希:猫ちゃんの記憶を戻すというか、過去を探るというか?そこだけ、聞いた。
寺門 眞門:……そうか。
尾石貝 茉希:なんとかなるっしょ!
寺門 眞門:え?
尾石貝 茉希:なんとかなるなる!大丈夫だよ!
尾石貝 茉希:ここにさ、働かなくても生きていける人間がいるんだよ?
尾石貝 茉希:一生懸命働いて、なんやかんや色々な事を解決?してる眞門さんが
尾石貝 茉希:幸せにならないわけがないじゃーん。
猫宮 織部:……茉希ちゃん
尾石貝 茉希:ね?猫ちゃん、猫ちゃんが幸せにするんだもんねー?
猫宮 織部:ちょ、ちょっと!!!!
寺門 眞門:……ありがとう、茉希
尾石貝 茉希:な、なに?なんか素直な眞門さんこっわ……
寺門 眞門:素直にもなるだろう、私とて傷ついたり、そこから反省したりもするのだよ。
妃山 小鳥:へえ、偉いですねえ、そういうの。
尾石貝 茉希:だ、誰あんた!?
猫宮 織部:え、え、え!?え!?ど、どちら様ですか!?
寺門 眞門:い、今扉あいたか?あ、あれ?な、何者だ貴様
妃山 小鳥:ああ、気にしないで続けてください。
妃山 小鳥:なんだか、素敵なやり取りに「師弟(してい)」関係を含む恋愛感情って素敵だなーって
妃山 小鳥:懐かしくなっていたところですので。
猫宮 織部:な、ななな、なんなんですか……?お、お客さん……?
妃山 小鳥:泥棒にでも見えますか?
尾石貝 茉希:見えなくもないけど、それ以前に気配を感じさせず背後に立ってるって時点で怪しい。
寺門 眞門:茉希の言う通りだ。何者だ?貴様。
妃山 小鳥:いやですねえ、ただの「気配を消すのが少し上手い客」、ですよ。
寺門 眞門:いるか!そんな客!!!
妃山 小鳥:あら。断言できるのかしら?
猫宮 織部:え?
妃山 小鳥:雑貨屋のフリをした元闇商(もとやみしょう)がいたり、
妃山 小鳥:脱サラした魔法少女、
妃山 小鳥:夜な夜な神様相手にカウンセリングをする精神科医、
妃山 小鳥:ラップをする探偵がいるんですよ?この町には。
妃山 小鳥:「気配を消すのが少し上手い客」なんて居ても、おかしくもなんともないじゃないですか。
尾石貝 茉希:今期一番の説得力だよこりゃ
寺門 眞門:そ、それはそうだが……なんだ?妙に詳しいな、貴様
猫宮 織部:この町にお住まいなんですか?
妃山 小鳥:ええ、そうね。ずーっとこの町にいるわ。
猫宮 織部:……今日は、どのようなご用件で……?
妃山 小鳥:あら、もうさっきの微笑ましいやり取りはおしまい?
尾石貝 茉希:この空気感でやれたら、メンタルばちくそ強いって
妃山 小鳥:ふふ、それもそうね。
寺門 眞門:……雑貨を買いにきた、というわけでは無さそうだな?
妃山 小鳥:あら。お香とかがあるなら見せていただきたいわ。
妃山 小鳥:でもそうね、今日は買い物というよりも、聞きたい事があってきたんです。
妃山 小鳥:「ギジン屋」さん。
寺門 眞門:……一応、聞こうか。
妃山 小鳥:ありがとう。
妃山 小鳥:聞きたいのは、ここに一度来た事がある「小石川 藤十郎(こいしかわ とうじゅうろう)」という男の事なの。
寺門 眞門:……ほう?
猫宮 織部:小石川さん!あの、ラップで事件を解決したり、女装して推理したりする
猫宮 織部:「規格外(きかくがい)」探偵の小石川さんですね!
妃山 小鳥:……ふふ、そう。彼、いまだにそんな風に推理してるのよね。
尾石貝 茉希:知り合いなん?猫ちゃん
猫宮 織部:ええ、以前に一度ご来店いただきました!
寺門 眞門:その、小石川がどうしたと言うんだね。
妃山 小鳥:この鹿骨町(ししぼねちょう)には、事件が多すぎるんですよ。
寺門 眞門:……ふむ?
妃山 小鳥:5年前から、事件は減る事はなく、どんどんと増えていく。
妃山 小鳥:この町は異常なんですよ。
寺門 眞門:それは否めないな。
尾石貝 茉希:びっくり人間のスーパーバーゲンみたいな町だもんねー、鹿骨町(ししぼねちょう)って。
猫宮 織部:確かに……
尾石貝 茉希:猫ちゃんも大概だけどね!
猫宮 織部:ぴえ!
寺門 眞門:それで?その事件の多さがどうしたのかね?
妃山 小鳥:私が思い描いていた未来と違うんです。
寺門 眞門:思い描いていた未来?
妃山 小鳥:ええ。
寺門 眞門:……貴様、小石川の何だ?結局何が言いたい?
妃山 小鳥:助手と、師匠の関係ってどういう形が理想だと思います?
猫宮 織部:え?
尾石貝 茉希:出た出た、いるよね、質問に質問で返すやつ
寺門 眞門:……いや、茉希、この場合、その「質問」そのものが答えだ。
尾石貝 茉希:え?どういうこと?
妃山 小鳥:察しのいいこと。
寺門 眞門:貴様、小石川の元助手だな?
猫宮 織部:元助手って……あの「腐らない人参(にんじん)」を送り付けた……!?
妃山 小鳥:ご名答。あなた達二人、探偵になったらいかがかしら?
尾石貝 茉希:来週から「名探偵 猫宮織部」はじまりまーすっと
猫宮 織部:はじまりません!!そもそも何で私なの!茉希ちゃん!
尾石貝 茉希:いやほら、女性主人公のほうが売れる時代だから
猫宮 織部:私には無理ですー!!
寺門 眞門:そんな「当ててくれ」と言わんばかりの言い方で、
寺門 眞門:察することができないほど鈍感ではないよ。
妃山 小鳥:あら。私の元先生と違って素敵ですね。
寺門 眞門:……貴様、名前は?
妃山 小鳥:妃山 小鳥(きさきやま ことり)。
妃山 小鳥:以後、お見知りおき頂きたいですね、「先生」。
寺門 眞門:私は君の先生ではないよ。
妃山 小鳥:あら、すいません、そうですよね。「旦那様」?
猫宮 織部:なっ、あ、貴方の旦那様ではございません!
妃山 小鳥:あら、それじゃあ貴女の旦那様なのかしら?
猫宮 織部:そそそ、それは。
寺門 眞門:そうだ。
猫宮 織部:きゃふっ…………
尾石貝 茉希:なんかイチャつきのレベルあがってない?しんど。
寺門 眞門:五月蠅い(うるさい)、茉希。
尾石貝 茉希:へいへい
妃山 小鳥:……にぎやかですね。
尾石貝 茉希:この人らいっつもこんな感じだよ、今日はなんか一段とだけど
猫宮 織部:ま、茉希ちゃん!
尾石貝 茉希:ごめんごめん、ほら、なんでも話しちゃうからあたし
猫宮 織部:もう!
寺門 眞門:……で、その「元助手」とやらがなんの用なんだね?
寺門 眞門:申し訳ないが「殺人」の手伝いはできないぞ。
妃山 小鳥:ふふ、逆ですよ逆
寺門 眞門:逆?
妃山 小鳥:ええ。「ギジン屋」さん、この町から「すべての事件を無くす」方法
妃山 小鳥:ありませんか?
寺門 眞門:……すべての事件を無くす方法、だと?
妃山 小鳥:そうです。
妃山 小鳥:本当に単純な窃盗や、それこそギミックだらけの計画殺人。
妃山 小鳥:ほんの少しのファンタジーに、迷宮入り寸前のサスペンス。
妃山 小鳥:ありとあらゆる「事件」という「事件」を。
妃山 小鳥:私、「葬り去りたい(ほうむりさりたい)」んです。
猫宮 織部:事件という、事件を……?
尾石貝 茉希:何それかっこいいー、なんか正義の味方みたいじゃん
猫宮 織部:で、でも、貴女は、小石川さんの為に殺人を……
妃山 小鳥:ええ、私は殺人を犯した。
妃山 小鳥:愛する「先生」の「新たな推理力」のために。
妃山 小鳥:今後、降りかかるであろう、数々の難題に先生が立ち向かえるように
寺門 眞門:(割り込むように)殺人を正当化することはできない。
寺門 眞門:いかなる理由、いかなる状況であったとしても。
妃山 小鳥:……あら、懐かしいセリフ。
寺門 眞門:小石川の口癖、なのだろう?
妃山 小鳥:……そうね、聞き飽きるほどに。
猫宮 織部:わかっていても、せざるを得なかった……
妃山 小鳥:そう、よくわかってるわね、そちらの「助手」さんは。
猫宮 織部:……。
妃山 小鳥:今更、私自身の事を正当化しようとも思ってないわ。
妃山 小鳥:私は「間違えている」。
妃山 小鳥:そんな事「解っている」のよ。
妃山 小鳥:十分すぎるほどに「理解」している。
尾石貝 茉希:理解していても、せざるを得ないってどういう事なん?
妃山 小鳥:そうね、私にそれ以外の方法が思いつかなかったのよ。
尾石貝 茉希:ふーん
寺門 眞門:私たちが警察に通報すると思わないのかね?
妃山 小鳥:しないわ、あなた達は。
寺門 眞門:……ほう?
妃山 小鳥:だって「解ってるでしょ?」貴方たちも。
寺門 眞門:……一筋縄ではいかんな、やはり。
猫宮 織部:……そうですね、旦那様。
尾石貝 茉希:なになになに、ごめんわかんない、私一人取り残されてる完全に。
寺門 眞門:……駅前のほうに、一つ探偵事務所があるだろう?茉希
尾石貝 茉希:ああ、うん、あのなんかすごい人気のところでしょ?
寺門 眞門:そこの小石川という男、その男を愛するあまりに
寺門 眞門:「殺人」を犯したのがこの女だ。
尾石貝 茉希:ぶえっ!!!じゃあ本当に殺人犯なの!
寺門 眞門:そうだ
尾石貝 茉希:ふえー、殺人犯とか初めて見たやべー。写真撮っていい?インスタにアップする
寺門 眞門:茉希。
尾石貝 茉希:失敬?
猫宮 織部:……小石川さんは、この方を捕まえようと今、奮起(ふんき)しています。
寺門 眞門:そうだ。その小石川の気持ちを汲みたい我々が
寺門 眞門:「通報するわけがない」そう踏んで、立ち入ってきた、そうだな?
妃山 小鳥:ご名答。やっぱり探偵した方がいいんじゃない?貴方たち。
尾石貝 茉希:来週から「名探偵 寺門 眞門」はじまりまーすっと
寺門 眞門:始まらん。
猫宮 織部:(ぼそりと呟くように)ちょっと見たいかも。
寺門 眞門:猫宮さん
猫宮 織部:失敬
妃山 小鳥:……説明は終わったかしら?
尾石貝 茉希:まだ全然わかってないけど、お姉さんが頭いかれてて
尾石貝 茉希:なんかやばい雰囲気に巻き込み事故食らった茉希ちゃんかわいそーって
尾石貝 茉希:いうことは理解した。茉希だけに巻き込みってうまくない?
妃山 小鳥:そう、理解が速くて助かるわ。
尾石貝 茉希:帰りてー
妃山 小鳥:もう少し我慢してね?
猫宮 織部:……私たちに危害を加えるつもりは……
妃山 小鳥:ないわよ、当然ながら。
寺門 眞門:……嘘は無さそうだな。
妃山 小鳥:ええ。ただ「客」として来ただけだもの。
寺門 眞門:……事件という事件を葬り去りたい、か。
妃山 小鳥:ええ。できるかしら?
寺門 眞門:なぜ、そんなことをしたいんだ?
妃山 小鳥:……なぜ?とは?
猫宮 織部:えっと……殺人犯としては、事件が多いほうが、その
尾石貝 茉希:隠れ蓑(かくれみの)にしやすい
猫宮 織部:そう、茉希ちゃんありがとう
尾石貝 茉希:ユアウェルカム。
妃山 小鳥:そうね。でもそれは望んでいないの。
寺門 眞門:望んでいない……?
妃山 小鳥:ええ。
寺門 眞門:どういうことだ?
妃山 小鳥:捕まりたいのよ、私は。
猫宮 織部:つ、捕まりたい……
寺門 眞門:ふむ、やはり我々の想像の通りだったわけだな。
猫宮 織部:人参の花言葉……
妃山 小鳥:そこまで理解してるの?ふふ、案外本当に向いてるかもしれないわよ。
妃山 小鳥:あなた達。「探偵」。
尾石貝 茉希:来週から「名探偵 尾石貝 茉希ちゃん」はじまります。
妃山 小鳥:あなたじゃないわよ。
尾石貝 茉希:失敬
寺門 眞門:最近私より君たちのほうが言ってないかい?それ
尾石貝 茉希:気のせい気のせい
妃山 小鳥:「小石川 藤十郎を一流の探偵に育て上げる」。
妃山 小鳥:この計画を立てた時から、私の中の「プロット」……筋書(すじがき)は
妃山 小鳥:一ミリも変わっていないんですよ。
妃山 小鳥:「あの人の手で、終止符を打ってほしい」。
妃山 小鳥:そんな覚悟が無ければ、「人を殺すことなんてできないもの」。
猫宮 織部:……どれほどの、覚悟だったんですか。
妃山 小鳥:どれほど?
猫宮 織部:……並大抵の覚悟じゃ、ないですよね。
猫宮 織部:人を殺せるほどの、覚悟だなんて。
妃山 小鳥:……そうね。「クチに出すのも悍ましい(おぞましい)」くらいに
妃山 小鳥:悩んだわね。毎日、その事しか、「先生」の事しか考えられないくらい。
猫宮 織部:……妃山(きさきやま)さん。
妃山 小鳥:「この人の為なら、私の身体も、心も、ぐずぐずに腐ってもいい」。
妃山 小鳥:そんな感じだったかしらね。
猫宮 織部:……。
妃山 小鳥:……私のしたことで、先生は予想通り1000の事件を解決する、
妃山 小鳥:「規格外探偵」として、この町に名を轟かせている(とどろかせている)。
尾石貝 茉希:すごいよね、連日報道されてたりするし。
妃山 小鳥:辿り着かないのよ。
尾石貝 茉希:え?
妃山 小鳥:事件の量が多すぎて、先生が私まで辿り着かないの。
寺門 眞門:……1000件もこなしてるくらいだからなあ。
猫宮 織部:確かに……
妃山 小鳥:そう、だから、事件そのものが起きないようにできないかしら
妃山 小鳥:ギジン屋さん。
寺門 眞門:無理だな。
妃山 小鳥:まあ、そうよね。
寺門 眞門:ああ、それが出来ていたら今頃我々も悩んでない。
猫宮 織部:そうですね……
妃山 小鳥:じゃあ、聞き方を変えるわ。
寺門 眞門:ん……?
妃山 小鳥:「すべての事件の犯人を、私にすることはできる?」
猫宮 織部:な……
寺門 眞門:できる。
猫宮 織部:ええ!?
寺門 眞門:おそらく、それならできる。
尾石貝 茉希:できんのかい!
寺門 眞門:ああ。そこまで都合よくは無いかもしれないがな。
妃山 小鳥:……と、いうと?
寺門 眞門:たいてい呪いというものは、「うまい方向」には傾かない(かたむかない)ということだ。
妃山 小鳥:えらく遠回しな言い方ね、ギジン屋さん。
猫宮 織部:どんな、呪物なんですか?旦那様
寺門 眞門:ようするに「殺人を犯した人間」の意識や、思想、そして人格そのもの
寺門 眞門:もっと言うなれば、魂(たましい)ごと、妃山、貴様という「器(うつわ)」にぶち込んでしまえばいい。
妃山 小鳥:……なるほど?
寺門 眞門:「人の意識を混ぜる石」がある。
妃山 小鳥:人の意識を。
尾石貝 茉希:混ぜる石?
猫宮 織部:どういった石なんですか?旦那様
寺門 眞門:仏教に伝わる話があってね、「曼荼羅山(まんだらやま)」という山が
寺門 眞門:人や、毒物や、邪心や、すべての「悪」という「悪」を
寺門 眞門:混ぜこむ「すり鉢(すりばち)」にされたという話がある。
猫宮 織部:すり鉢に……
寺門 眞門:ああ。その言い伝えの名残でね。「曼荼羅山の石」は
寺門 眞門:意識を、魂を、心を、混ぜるという「呪力」を持ってしまった。
妃山 小鳥:……どうしたら混ぜる事ができるのかしら?
寺門 眞門:そこまで難しくはない。この石を持って、相手に触れるだけだ。
妃山 小鳥:……触れた相手はどうなるの?
寺門 眞門:「空(から)」になる。それこそ、魂の抜けた人形のように。
妃山 小鳥:……そう
猫宮 織部:……使うんですか?
妃山 小鳥:……。
猫宮 織部:妃山さん……?
妃山 小鳥:……貴女だったら、使う?
猫宮 織部:私、ですか
妃山 小鳥:ええ、同じ境遇だったとしたら。
猫宮 織部:……使わないと、思います。
妃山 小鳥:……そうね、どうしてなのか聞かせてくれる?
猫宮 織部:混ざったとして、それは、きっと、私自身では無くなるから、じゃないでしょうか。
尾石貝 茉希:ねえ、私にも話振ってくんない、暇なんだけど
寺門 眞門:茉希、ちょっと待っておけ
妃山 小鳥:ごめんなさいね、もう少し待っていただける?
尾石貝 茉希:ちぇ。
妃山 小鳥:えーっと、失敬?
寺門 眞門:貴様まで言わんでいい。
妃山 小鳥:そういうものなのかと。
寺門 眞門:違う。
猫宮 織部:……妃山さん、今からでも自首することはできないんですか
妃山 小鳥:……自首?
猫宮 織部:はい……小石川さんには、妃山さん、貴女が必要だったのではないでしょうか
妃山 小鳥:……。
猫宮 織部:きっと、どんな推理力や、「閃き」や、力があったとしても
猫宮 織部:……一番必要なのは、そんなものなんかじゃなくて
猫宮 織部:「ツラい時に背中を預けられる」、「もう一つの背中」だったのではないでしょうか。
妃山 小鳥:……お説教?
猫宮 織部:い、いえ……そういうわけでは。
猫宮 織部:でも、きっと、何年経っても、小石川さんは貴女の事、待ってくれると思うんです。
妃山 小鳥:素敵ね。
猫宮 織部:え……?
妃山 小鳥:そう「言いのけてしまえる」くらいに、「貴女は」信じてるのでしょう?
妃山 小鳥:「旦那様」を。
猫宮 織部:……はい。
尾石貝 茉希:だぁぁぁーーーーってさーーーー!!!
尾石貝 茉希:よかったねーーーー!眞門さーん!
寺門 眞門:……お前今ほんと空気読めてないぞ、茉希。
尾石貝 茉希:指輪のせいだからしゃーないしゃーない!!
妃山 小鳥:……ギジン屋さん、おすすめのお香はあるかしら。
寺門 眞門:ん、いいのか?呪物は。
妃山 小鳥:ええ。きっとその呪物を使っても、私は納得できない気がする。
寺門 眞門:…まあ、そうだな。
寺門 眞門:そうだな……これなんてどうだ?
妃山 小鳥:……紫色のお香?これは?
寺門 眞門:「藤の花(ふじのはな)」のお香だ。
妃山 小鳥:……「藤」
猫宮 織部:……あ。
尾石貝 茉希:ん?どったの?猫ちゃん
猫宮 織部:……妃山さん
妃山 小鳥:…なにかしら。
猫宮 織部:「藤の花」の花言葉って、ご存じですか?
妃山 小鳥:……いえ、ごめんなさい
猫宮 織部:……「決して離れない」。
寺門 眞門:……はっ、なるほど
妃山 小鳥:……もっと、きちんと話していたら、違ったのかもしれないわね。
妃山 小鳥:私たちの……「バディ」も。
猫宮 織部:……遅いなんてこと、無いと思います。
妃山 小鳥:……そうね、そう、願うことにするわ。
妃山 小鳥:いくらかしら?このお香。
寺門 眞門:……とっておけ、特別大サービスだ。
妃山 小鳥:……ありがとう。もし「先生」が来る事があれば、宜しく伝えてください。
 : 
 : 
 : 
 : 
 : 
尾石貝 茉希:美人さんだったね。
猫宮 織部:うん……
尾石貝 茉希:……ちょっと、もの悲し気な感じもね
猫宮 織部:……うん
寺門 眞門:あの「上玉(じょうだま)」を、男と勘違いしていた辺り
寺門 眞門:小石川は本当に鈍感なのだろうな。
尾石貝 茉希:でも男ってすこし鈍感なくらいの方がかわいいじゃん。
猫宮 織部:そ、そんな事は
尾石貝 茉希:何度も何度もアタックしても全然靡かない(なびかない)のに
尾石貝 茉希:ある日一緒に行った花火大会、鼻緒(はなお)が切れた下駄
尾石貝 茉希:「大丈夫か?ほら、背中に乗れよ。」たくましい背中。
尾石貝 茉希:そして、押し付けた胸から、とくとくと私の鼓動の速さが
尾石貝 茉希:背中越しに伝わる。
尾石貝 茉希:「ふふ、なんだ?そんなにドキドキして、俺に惚れた?」
尾石貝 茉希:なんてあまーい笑顔で照れながら言われたり
猫宮 織部:どちゃくそシコいーーーーーーーーーー!!!!!
猫宮 織部:すこすこのすこ!!!すこあめーくです!!!
寺門 眞門:得点をあげたのかい?
猫宮 織部:あげてません!!!
尾石貝 茉希:でもさー、どうなんだろうねーほんと
寺門 眞門:ん?何がだ?
尾石貝 茉希:いやさ、きっとさっきの人もさ
尾石貝 茉希:ちゃんと自分の心を素直に話してたら、きっと
尾石貝 茉希:あんな悲しい顔しなくて済んだんでしょ?
寺門 眞門:……そうだな。
尾石貝 茉希:やっぱさ、人間全員が本音を語る、みたいな
尾石貝 茉希:そんな世界のほうがさ、平和なんじゃない?世の中って
寺門 眞門:……。
猫宮 織部:そんなことない。
尾石貝 茉希:猫ちゃん?
猫宮 織部:本音を話す事も、すべてを正直に言うことも、
猫宮 織部:すべて素敵なことだけど。
猫宮 織部:でも、「言わない」から「伝わる気持ち」がある。
猫宮 織部:「言えない」から、「滲みでる(にじみでる)」優しさがある。
寺門 眞門:猫宮さん……
猫宮 織部:「人」が「門」を通ると、「閃(せん)」という意味になって
猫宮 織部:そこには「ひらめく」という意味と「のぞきみる」という二つの意味がある。
尾石貝 茉希:うん。
猫宮 織部:でも多くの人は、「閃」に「のぞきみる」なんて意味があるなんて
猫宮 織部:知らないでしょう?
尾石貝 茉希:そう、だね
猫宮 織部:見えない部分なんだよ、それって。
猫宮 織部:でも、「閃」には、その意味があるんだ。
猫宮 織部:その意味があるからこそ、「人」は「人」を「覗う(うかがう)」事ができるんだ。
尾石貝 茉希:「うかがう」。
猫宮 織部:そう。相手の事を「見て」「考えて」「知ろう」とする。
猫宮 織部:ただ、暴露されつづける情報に甘えるんじゃなくて
猫宮 織部:「知ろうとすること」、それこそが「人間」なんじゃないかなって。
寺門 眞門:猫宮さん……
猫宮 織部:……あっ!!
猫宮 織部:いや!その!すいません旦那様!
猫宮 織部:旦那様のターンを奪ってしまうような!ああ!
寺門 眞門:ターンとかじゃないから(笑いながら)
猫宮 織部:ああああー!すいません!すいません!
猫宮 織部:お茶淹れてきますー!!!!
 : 
 :(少し間をあけ)
 : 
尾石貝 茉希:……眞門さん
寺門 眞門:ん?なんだ
尾石貝 茉希:……猫ちゃん、眞門さんみたいになってたね
寺門 眞門:……ああ。
尾石貝 茉希:よかったね
寺門 眞門:な、なんだよ
尾石貝 茉希:ううん、「いい助手」が出来て、さ
寺門 眞門:……ああ、本当に。
尾石貝 茉希:……前の「助手」さんみたいに、ならないといいね。
寺門 眞門:ならんよ。
尾石貝 茉希:私、隠せないから、聞かれたら言っちゃうからね。
寺門 眞門:その前に自分で話すよ。
尾石貝 茉希:……うん。
寺門 眞門:猫宮さんは、最高の助手だよ。
尾石貝 茉希:……諦めちゃだめだからね。
寺門 眞門:わかってるよ。
寺門 眞門:私の「しあわせ」は、全部ここにあるのだから。

0コメント

  • 1000 / 1000