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むくりこくりの怪物たち。(セリフ集)

この台詞集はXのタグ企画で作成したものです。

◆怪物の名称

◆何を食すのか(食性)

◆フレーバーテキスト(説明)

◆怪物のセリフ

上記4点で構成されています。

https://x.com/nyoskerion/status/1831908706277318959



1.【原稿用紙の怪物】

食性:食欲

ーーー

その怪物はどの文豪にも等しく取り憑いたといふ。書き綴る毎に部屋には洋墨が飛び、執念とも言える鬼の形相が文豪には浮かぶ。何時しか、食べる事も飲む事も忘れ乾いた舌根は物語しか語らぬ牛蒡のようになる。

台詞:

「書かずにはいられない、そういう生き物だ。小生が隣に立つと、あの生き物はそういうモノと成り果てていく。物語を紡ぐ事だけが生き甲斐となりそれだけが自身であると思い込んでいくのだろうな。空腹を忘れた頃が、一番の美味である。」


2.【鈴蘭の怪物】

食性:目線

ーーー

華やかという言葉は似合わないかも知れない。けれど、小規模に実る花弁に私の目線は釘付けだった。叩けば落ちるその儚い1本の鈴蘭は、1人の人間の心にまで根を延ばした。胸の痛みは恐らく、恋なんてものよりも、苦しく、私を蝕む。

台詞:

「ほんの少しでいいの、その目を私に配ってくれるだけでいい。身を寄せる事も求めない。何もしなくていい。ただ、私の事を見つめて、見つめ続けて、私しか見ないその目の、眼差しのまま、私のことしか考えないで。その目線が、その目線がね、私を大きくしていくの。」



3.【隠し扉の怪物】

食性:好奇心

ーーー

私の家には隠し扉がある。そこを見る度にわたしはシャーロック・ホームズになったみたいに探偵の真似をしてじりじりと近づいていく。この扉は、怪物の口だ。通ってはならないとわかっているのに、右足が吸い込まれていく。

台詞:

「ほおら、通りなよ。これは君だけの隠し扉。誰にも知られない、君だけの秘密がここを通る。君だけが、この秘密を持ち出せる。だから、隠し扉はこうして存在する。逃げるため、追い越すため、連れ去るためにさ。頂きます、ご馳走様。さよなら、君の好奇心。」



4.【蚕蛾の怪物】

食性:なし

ーーー

その怪物は、白く儚げで、触れればそのまま解けてしまいそうな女型の怪物だった。その姿は多くの男の庇護欲を駆り立て、村の男すべてがこう思っていた。「あの子を守るのは自分だ」と。

台詞:

「この口は、物を話すだけ。この胎(はら)は、美しさを魅せるため。何もかもが、必要が無くて、何もかもが誰かに守られる前提の私は、一体、何を喰らう為に生まれたのでしょう。弱い私は、さぞ魅力的でしょう?目を離したら、死ぬかもしれない私は。」



5.【水槽の怪物】

食性:音

ーーー

誰もいない、平日のさ、空いてる水族館って行ったことある?最高なんだよ、まさに海の中に入ったような感覚。段々と音が消えて行ってさ、気づいたら一番大きな水槽の前で何時間もぼーっとしてる。でもなんかあれから変なんだよ、ずっと耳元で泡の音がする。

台詞:

「日常の音、喧騒、罵声なんて水の中に入ったら無いようなものでしょ?聞こえるのは泡の立ち上がる音と、波の音だけ。波の音は風の通り道。そうやって、色んな事をシンプルにしていきましょう?他には何も要らない、それ以外はすべて、私が食べてあげる。」



6.【風鈴の怪物】

食性:後悔

ーーー

その怪物は、私の家の軒先にずっと居た。無精のせいで四季を越したその怪物はどんな時もどんな事も見てきたし、覚えている。ちりん、と鳴く度に私の中の後悔が酷く呼応する。

台詞:

「いいんですよ、泣かなくても。そう、あなたは傷ついたんだもの。ほら、もっと、風に揺られながらあなたはあなたのままで居て。あなたが人間らしく苦しむ度にわたし、ここに居てよかったって思えるの。ずっと、ここに居てよかったって。」



7.【真空管の怪物】

食性:両耳

ーーー

宇宙では音が届かないと言う。真空では音が振動しない為に、音が響かないのだ。ということはだ、我々は音ではなく空気の声を聞いているということになるだろうか。では問題。この閉じ込められた空間が真空になったら音はどうなるか?答えは1つ、まず先に死ぬ。

台詞:

「もしもーし、聞こえますかー?聞こえないか。でもさ、知ってる?宇宙でも抱きしめあったらお互いの身体を通して声は聞こえるんだって。でもさ、宇宙服を着たままじゃ、意味ないね。肌と肌で、触れ合わなきゃ。ざんねん。ご馳走様。」



8.【蒼空の怪物】

食性:恋心

ーーー

見上げるとその怪物はいつもそこに居た。何を思おうが、何を思わなかろうが。その怪物は大きく、羽を拡げたケツァルコアトルみたいに、そこをただ流れていくだけだ。

台詞:

「何でもかんでも、空に何かを託すでしょ。その隣に私は居るんだ、いつも。恋人達が互いを思う願いも、この雲に乗せようとする。だからさ、味見してやるんだ、その気持ちを。そしたらさ、簡単に沈んでいくんだから、面白いよ、人間ってさ。」



9.【宗教画の怪物】

食性:真実

ーーー

その宗教画には曰くがあった。至る場所に売られ、転々とするその絵はいつの日にか呪われた絵画なんて呼ばれ方をする。だが、その宗教画の美しさはいつまでも変わらず、絵の中の女神は笑っている。

台詞:

「宗教画の価値って、どこにあると思う?そう、信仰心だわ。つまりこの絵にはなんの価値もないの。まるで鏡みたいだと思わない?この絵に自分の信仰心を映してるのよ、じゃあ、私って、一体なに?誰の、信仰心なの?私って。おなか、空いた。」



10.【鳥居の怪物】

食性:信仰心

ーーー

真ん中を歩いた。すべてのど真ん中を歩いた。風が吹いた。私のど真ん中を空けていくように、風が吹いた。鳥居を抜けると、そこは雪国であったし、極楽であったし、永遠だった。目の前で彼女が笑う。失くしたものはなんだ、何故私はここにいる。

台詞:

「1枚、2枚、3枚、はあ。しけてるなあ。今時油揚げ3枚で神頼みだなんて。あ、ほら、見て、あいつもまた「真ん中」を歩いた。偉そうに、ばかばかしく、偉そうに。行きはよいよい、帰りは怖い。戻ってきたら、美味しく食べようね。」



11.【比翼連理の怪物】

食性:未来への言葉

ーーー

比翼連理の怪物は、相手に合わせた姿をとる。美男子になる事もあれば、みすぼらしい老婆になる事も。そうして結ばれる相手から刈り取り、貪るは未来への言葉。

未来の無い愛なんて、ごみ溜と同じだ。

台詞:

「愛してる?ねえ、私の事、本当に愛してる?嬉しい、どんな私でも僕でも俺でも愛してくれるって伝わってくる。もうこれこそが【真実の愛ってことで、いいよね】ありがとう、本当にありがとう。ここまででいいよ、そう、もう充分。あとは、どんな味がするか、確かめるだけ。」



12.【朝露の怪物】

食性:藝術

ーーー

何人もの画家がその怪物の美しさを描こうとした。一人はその為に家を売り、一人は家族と離別した。その朝露は、月桂樹の葉に凭れかかり、まるで女神のような顔をして笑っている。誰もその美しさを、描ききれなかった。

台詞:

「本当に、私を描きたいの?それとも、私を描いたつもりになりたいの?それが、あなたの描きたいこと?それとも、あなたの人生がそれなのかしら。いいよ、私はただ、あなた達を見ているだけでいいんだもの。これが私だって、わかっているから。」



13.【招き猫の怪物】

食性:平和

ーーー

あいつが手を招く度に、男が一人、また一人と誘い込まれて行くんだよ。その光景を、人々は待ち望んでたみたいに、おかしいとも思わない。貼り付けたみたいな笑顔がずっと動かないんだ。また一人、一人と夜に消えていく。明日は俺かも知れない。

台詞:

「おひとり様、ご案内~。あなたのこれからの安寧と平和を代価に、幸せしか存在しない世界にお招きしましょう。綺麗な女を抱きたい?金持ちになりたい?一生笑っていられる宵の夢を、嫌という程招こうじゃありませんか、ああ、あんたも美味そうだ。」



14.【賽子の怪物】

食性:思考力

ーーー

丁半博打の怒号が聞こえる。夜な夜な夜通し、怒号が聞こえる。からりころりと、振り回されて、開く扉は思考を喰らう。その怪物は、下手したら命そのものを吸うかも知れない。本人だけでなく、その周りをも。

台詞:

「はい、まいど。はい、こちらもまいど。さあさあ、丁か半かのせめぎ合い。どちらが買ってもいい試合。必ずこれは殺し合い。勝つものいれば、負け続け、どんどん莫迦になっていく。賭けるものなどとうにない、あとは軽めの命だけ。これは最期の果たし合い。」



15.【握手の怪物】

食性:同意

ーーー

右手ではダメとか、左手ではダメとか、両手を添えるとか添えないとか、包むようにとか、意味が変わったり、姿が変わるのって化け物じみてるとおもわない?本当の姿なんて。どこにあるのか。誰も知らない、そういう怪物。

台詞:

「貴方様も、ああ、貴女様も、ええ。ええ。固く手を握ろうではありませんか。そうしてシェイクハンドの連結が世界を平和にするって言うんだから、さぞかしまぁこの世界ってやつの懐は深いんでしょうよう。貴方もおひとつ如何です?何?同意できない?それはそれは、ご馳走様。」



16.【水彩画の怪物】

食性:満足感

ーーー

水彩画の怪物は、どんな人間の元にも現れる。簡単な話、我々全員が水彩画と共にある。泪が溢れる度、我々の世界はその怪物のものなのだ。

台詞:

「あなたの満足感を喰らう度にね、あなたからの満足感が私に満たされていくの。そこにの隣には達成感と感動がいたのだわ。でも、泪が溢れる度にぼやける世界では、あの子の笑顔も上手く見えないでしょう?そうやって水彩に浸されていくの。ぼんやりとね。」



17.【楽市楽座の怪物】

食性:望郷

ーーー

人の集まる場所にあの怪物は居る。栄え、集い、商いを始め、交流し、繁栄していく。守りたいもの、捨てたく無いものが増え、段々と故郷の山を忘れる。故郷の母を忘れる。帰れなくなる、帰らなくなる。大切なモノが変異する。そういう怪物さ。

台詞:

「その女を口説くのに必死だろ?そう、それでいい。ここで富を得て、ここで根をはり、ここで子を成せ。忘れていく度、戻らなくなる度、俺の腹が膨れる。そしてここがまた御前の子の故郷となる。どこもかしこも誰かの故郷で、どこも誰の故郷ですらない。」



18.【蛍光灯の怪物】

食性:期待

ーーー

夜眠る前に考えるのは、明日も幸せかどうかってこと。布団に入って考えるのは、照明を消し忘れたこと。紐を引く。がちゃりと映写機が止まったような音と共に暗闇が来る。するとどうだろう、途端に明日が怖い。起きることが、怖いのだ。

台詞:

「目を凝らして見ていると、暗闇の中でもぼんやりと浮かぶものがある。それを頼りにしても、いい考えなんて浮かぶはずない。だってそれが私だから、私の纏う闇だからだ。明日への膨らんだ期待に齧り付くとさ、途端に泣き始める。人間って、可愛いよな。」



19.【虎視眈々の怪物】

食性:普遍性

ーーー

普通の女の人だと思ったんです。なんなら、少し甘い言葉を囁けば簡単についてくるような、そう、チョロそうな感じ。でも、そんなこと無かった。僕が狙ったんじゃないんだ、狙わされていたんだ。狙おうとしたことに、気づかないように。

台詞:

「そんな私、そんなはしたない女じゃないんです。いや、お願い、お待ちになって。……って、言って欲しいんだよねえ、わかるよ、青年。どう?ドキドキした?自分のものになるって思ったよね。明日からはさ、「自分のものにならない」明日が待ってるよ。いただきます。」



20.【遺灰の怪物】

食性:重さ

ーーー

彼女が死んだ。なんてことは無いなにもない日に、彼女が死んだ。空が青かった事以外特筆する事がない日に、彼女が死んだ。思い出も、この心も、もう使えないハンカチもここにあるのに。彼女の重さだけが無くなった。

台詞:

「21gが魂の重さなのだとしたら、如何せん軽すぎると思わない?私は死んだ、死んで何も無くなった。その私の体積からあの人の抱えた私の想い出を差し引いて、あの人の泪が止まらないのなら、それは、それはもうきっと、怪物以外の何者でも無いんだわ。ごめんなさい。」



21.【井戸の怪物】

食性:恐怖心

ーーー

蓋がいつも開いている。しかもほんの少し開いてるんだ。何回閉めても、ほんの少し開いてる。意を決して全て開けてみたらさ、一匹蛙が居るだけなんだよ。でもさ、なんでか、良かったって思えないんだ。その蛙、どうやって、生きてたんだよ、そこで。

台詞:

「井の中の蛙、大海を知らずっていうだろ。大嫌いなんだあの言葉。世の中、知らない事だらけだろ、知らないことは怖い事だ。井戸の中よりも、怖い事だらけだ。ここが知識の泉で、外郭は、何もかもナンセンス。そんな事だって、あるかもしれないよなあ。落ちてくるのを、待ちながらさ。」



22.【蟹座の怪物】

食性:経産婦

ーーー

その浅瀬には、親子で行ってはならないという。子の皮を被り、何度も呼ぶその声は、女の「母性」を利用した。あぶくが波にかき消されていく。骨を砕く音。挟み込んで、もう離さない。それも、愛か。

台詞:

「お母さん、こっちだよ、こっち。そう、そのまま、そのままこっちに来て。僕の、僕の為だけに、その肉と、その骨を、すべて晒して欲しいんだから。ああ、お母さん、大好きだよ、その苦しい顔も、何もかもが、僕のためのものだものね。」


23.【洗面器の怪物】

食性:嘘

ーーー

水を張ったその洗面器からは多数の音がする。正しくは声であるが、如何せんそこになんの意味があるのか分からないのだ。ただ分かるのは、顔を洗う度に私の口という口から嘘が溶けだしていく。その化け物は、私から嘘を奪ったのだ。

台詞:

「口は災いの元っていうだろ、なのになんでそこにあり続けるんだろうね。必要の無いものは、進化の過程で削ぎ落とされて行くはずだろ?じゃあ、何故、口は無くならないのか?そんなの簡単だ、その嘘にこそ、意味があるからだ。嘘を喰らう、どちらも、口が付くよなぁ。」



24.【御伽噺の怪物】

食性:睡眠欲

ーーー

昔昔在る処に夢を喰らう怪物が居ました。しかし夢と言うものは何時もどんな味になるかが分かりません。男は考えました。常に理想の味にありつくにはどうするべきか。簡単な話でした、眠りたいという気持ちを喰らえばよかったのでした。

台詞:

「こっくり、こっくり、頭が船を漕いでいる。その眠たさとも、今日でお別れ。最後の微睡みを、沢山味わうといい。ほら、段々目覚めてきた、眠さとは、もうお別れ。この睡眠欲こそが、夢の源。いついかなる時も、高尚な甘露のままだ。じゃあ、頂きます。」


25.【琥珀糖の怪物】
食性:慈愛
ーーー
宝石と見間違うそれは、紛い物ながら誰かにとっては本物の宝石であったように思う。幼子の手には、それが握られていた。冷たくなったその手では、もはや琥珀糖はただの石そのもので。溶けだす事もなく、キラキラと輝いていた。怪物は、泣きながら夜道を歩く。
台詞:
「本当の美しさは、目に見えないんだよ。だから、私は、美しいわけじゃないの。ね、あなたは、少しでも幸せだった?どうなのかな。こんなに、細い指で、あなたは何を思ってたかな。ごめんね、こんなものしかあげられなくて。ごめんね。……いただき、ます。」

26.【食卓の怪物】
食性:沈黙
ーーー
ナイフとフォークの置き方ひとつで喧嘩になる家だったのね、あたしの家って。喧嘩になってる日なんてパパとママの空気感といったら、最悪。ずーっと沈黙でさ、閑古鳥が鳴くってやつ。テレビの音が虚しいのよ。でもいつの間にかさ、沈黙も無くなった。それって、いいことかな。
台詞:
「ちちんぷいー、はい、これで沈黙はあたしのお腹の中。どんどん話してね、話して、語って、怒って、怒鳴って、暴露して。色んなことをもっと話したほうがいい。それで、また、産まれた沈黙は、あたしのものだから。ご馳走様、あなた達のおかげだよ。おなかいっぱい。」

27.【座布団の怪物】
食性:爆笑
ーーー
それは地獄と変わらないよ、ほんと、昔からあるジンクスってやつだけどね。その座布団は絶対使っちゃいけないってこと。それでしまい込んでるのにさ、必ず一年に一回、何故か使うことになるんだよ。呪いだね、これは、もはや。
台詞:
「噺家ってね、すごいのよ?いつもいつも面白い話ばかりしてくれるの。だけどね、ほら、私って嫉妬がすごいでしょ?だからね、一年に一回だけ。その爆笑を私のものにしたいの。偉いと思わない?一年に一回で我慢してるの。まるで織姫と彦星。わたしね、待てる怪物なの。」

28.【モノクロ写真の怪物】
食性:涙
ーーー
うちのおばあちゃんはね、その写真を観るといつも泣いてたの。亡くなったおじいちゃんが写ってた写真ってその一枚だけだったから。でも、おばあちゃん、もう泣かなくなっちゃった。おじいちゃんの事も、覚えてないって。でも、これでよかったのかも。
台詞:
「もう泣かなくていいよ、ね。だって、その悲しい気持ちだけ、積もっていっちゃうから。だからね、食べてあげたんだよ、私が、あなたの涙を。だからね、もう何も思い出さなくていいよ。全部がぼんやりとして、少しずつ、少しずつ、枯れていくように、いけたらそれで。」

29.【水性クレヨンの怪物】
食性:幼心
ーーー
僕の描いた絵を、母さんはよく壁に貼り付けてくれていた。ちょっとした展示会みたいで僕は書き上げる度に誇らしい気持ちになっていた。でも、母さんは違ったんだな。だから、あの怪物に食べてもらったんだ。今日から僕は、もう大人だ。
台詞:
「早く大人になりたいって?珍しい奴もいたもんだな。そんなに生き急いでどうするんだよ。まぁ、いいけどさ。それで、一体どれだけ食べていいんだ?思春期はどうする?もう要らない?何もかも、誰かに頼らず大人になるんだな?わかった、ようこそ大人の世界へ。さよなら、少年時代。頂きます。」


30.【破釜沈船の怪物】
食性:退路
ーーー
その怪物は、いつも勇士の傍に居た。それは不可能を可能にし、無茶無謀を現実として見せた。どの勇士も口々に言う。『勝たなければいけなかったわけではない、ただ、逃げ道を失ったと思っただけだ』と。
台詞:
「さあ!!!舞台は整った!!!もう貴様に退路は無い!貴様がすべき事はこの地獄を切り倒し、根絶やしにし、英雄となるか!戦犯となるかだ!糞味噌の路傍の骨となるのがお望みか?いいや、その眼はまだ死んでいない。私にはわかる。貴様の退路は私が喰らった、後は進むだけだ!」

31.【電気飴の怪物】
食性:興奮
ーーー
粗目砂糖って不思議なもんでさ、そのまま口に入れてりゃ暫くは甘味なのよ。だがよ、これを熱して広げてみたら忽ち口溶けは絹のような電気飴の完成よ。博打ってのはそういうもん、刹那の興奮に水かけようってものなんさ。博打と電気飴はよ、似てんのよ。
台詞:
「祭囃子が聞こえたら、その裏じゃ誰かが丁半決めてると思ったらいいさ。一瞬で溶ける幸せのために俺らぁ生きてんのかね。ふと冷静になりゃ、途端に粗目は粗目のほうが良かったと気づくんだが……おっと、また鴨が葱を背負って来やがった、ごっつぉさん!」

32.【百日紅の怪物】
食性:四肢
ーーー
年々大きくなるんだよ、うちの庭の百日紅。百日紅ってさ、本当は植えたらいけないって言われてんだ。お釈迦様の誕生の秘密を知ってる不憫な花だからさ。大きくならないよう、こう、ばちんばちんと、剪定すんだよ。だからさ、うちのものには切らせないんだ。帰ってくるからさ、それが。
台詞:
「また今年も、私の枝を切りに悪魔のような奴らが私を囲む。折角伸びてきたこの四肢を何度も何度ももがれて、私は大人になる事を禁じられるの。だからね、私は同じ事をこいつらにしてやるんだ。こいつらの枝を一本ずつ、私は喰らうことにしてるの。毎年、毎年ね。」

33.【雲形定規の怪物】
食性:憧憬
ーーー
その怪物はいつも私の傍に居た。ことある事に「それでいいのか」と私を鼓舞するのは、私の為ではなく私の憧れを食べる為なのはわかっている。雲形定規は雲を描く。でも、雲には成れないのだ。私に、夢を見せようとしてくるこの怪物は、なんて儚い存在だろう。
台詞:
「君は本当にそれでいいの?憧れた地が、憧れた空が、憧れた道があるんじゃないの?もう、何年も空腹が満たされない。夢を見ることの何が悪いって言うんだ。やれなくても、やりたいって、言えばいいだろ、それが君の憧憬であり、着地点なんだろ。ずっと雲に浮かんでることなんて、できないんだよ。」

34.【染井吉野の怪物】
食性:記憶
ーーー
いずれ日本からは桜が消えるんだってさ。そう伝えるとその怪物は顔色ひとつ変えなかった。わかっていましたよ、と言わんばかりに微笑むその怪物は、美しく儚げで、本当に今にも消えてしまいそうで。僕は、なんだか悲しくなった。時間が止まればいいのに。
台詞:
「そうやって、私の為に泣いてくれるのね。嬉しい、私には、嬉しさしかない人生だった。誰かの出会いや、誰かの出会いに寄り添えて良かった。誰かの記憶の中に、必ず私は居るんだって。だから、私が消えてもいいの。だって貴方達の中に私はいつでも咲くでしょ。このまま、何も食べたくない、私。」

35.【水素爆弾の怪物】
食性:希死念慮
ーーー
爆発した。その怪物は、私の目の前に現れる度に爆発した。それは、私が涙で溢れんばかりの心を震わせた時や、私がどこか遠い地に想いを馳せた時。そして、自分を殺したくなった時だ。何度も、何度も爆発する。爆発したそいつは、七色に光ながら私の胸に住まう。
台詞:
「今その見えている物も、これから見るものも、一生見ることが無いその風景も、すべてその手に込めるのだ!筆を取れ、人間!私の腹を満たす度に貴様は一歩ずつ谷を下る!その谷は、誰にも到達できぬ心の爆心地だ!描け!人間よ!その筆を取り、私をすぐ満たせ!」

36.【沈水香の怪物】
食性:未練
ーーー
お香を焚く、という言葉は「幸を敲く」とも詠めるとその坊主は語る。誰かの不幸を癒せるのは、誰かの幸せだけなのだと。そのほんの一部、自身を誰かに預ける事が人としての誉れなのだと。怪物は、よくわからないという顔をしながら坊主の顔を見上げる。
台詞:
「こっちに来い!不幸せな奴も、幸せになりきれない奴も!すべてすべて、ひっくるめて俺様が極楽浄土に連れてってやる!安心しろ、未練は俺の腹ん中だ。だから、安心して成仏しろよ。俺には、そうしてやることしか出来ねぇからさ。俺の満腹っつー幸せをよ、分けてやるよ。」

37.【意図の怪物】
食性:真相
ーーー
嘘から出た誠か、誠が嘘を隠すのか。その探偵の傍にその怪物は居た。辿り着くべき真相は闇の中、どういった理屈で人は人を殺し、人は人を愛すのか。人の形を成しながらその怪物は言う。「先生、この犯人の意図とは、一体なんでしょう。」
台詞:
「さあ先生、早く、早く真相に辿り着いてください。その答えは、その謎は、理屈もへったくれも何もかもを綯い交ぜにして、さあ!結論を!結末を!それは意図的なのか、恣意的なのか、さあ!先生!ご決断を!あなただけが、私の空腹を満たすのですから!」

38.【ととまじりの怪物】
食性:目の前にあるもの
ーーー
それは大きく、それは小さく、至る所に存在した。それは誰かの心でもあり、時には誰かそのものであった。それを人は「演技」であると言う。それを人は「演技そのもの」であるという。その怪物はそういう類のどこにでもあり、どこにも居ない存在。
台詞:
「雑魚も鮪も、炊いてしまえば総て同じ。摩って仕舞えば竹輪の棒さ。どんなに魚(とと)を交えても、そこに居たり、居なかったり、だから、人間、お前は演技がしたいのだろう?なら俺の出番さね。手当り次第、目の前の総てを喰らっては投げ、総てに成るし、何にも成らない。さあ行こう、舞台はそこである!」

39.【電光石火の怪物】
食性:空気
ーーー
「あ」と気付いた時には既にその怪物の手中である。知らぬ間にそれはこの部屋に充満し、一寸の火花が散るとそれだけで終いになる事は誰もが知っていた。雷撃かの如く、炸裂するそれを人々は電光石火と呼んだ。
台詞:
「空気を喰らう、その代わりにこの部屋は瓦斯(がす)で満たされていく。気付かぬうちに満たされて、気づく間もなく炸裂するそれは、正に電光石火疾風迅雷。御前さんの頭を飛ばすには、充分だろう?さあ、そろそろ息が苦しいんじゃないかい?冥土の土産だ、派手に散ろう!」

40.【一石二鳥の怪物】
食性:温度
ーーー
一石を投じると、そこには波紋が広がった。波紋とは、人から人に伝播する。当然だ、人の80パーセントは水分なのだから。
では伝播した熱はどうなるのか。冷めていくのだ。末端に届く頃には、白湯ほどにも温もりは無い。
台詞:
「こうして、投げつけるだろ。そうしたらさ、誰かに当たる。そうやって人間は住処を増やしていった。それがわかるから、僕はそれを利用するのさ。暴動、差別、戦争、伝播する熱さを少しずつ頂いていくのさ。」

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