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臍帯とカフェイン

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刻々と、雷鳴(0:1:3)

【配役】

◆ジェフ:

ホームビデオのカメラで映画を撮ろうとする3人組の一人。

ジェフリー・オーギュスト。

本編では男性ですが、性別不問とします。

何やら顔色が悪いようです。


◆ローズ:

ホリベス州国立劇団「グリーンブーツ」の舞台を観て、夢を再び追いかけた元子役。

オーディションに落ちる日々の中、変な三人ぐるみの口車に乗せられて映画を撮る事に。

ローズマリー・ベルマーレ

本編で女性で、基本的に女性配役としますが男性が行ってもよいものとします。


◆カイン:

ホームビデオのカメラで映画を撮ろうとする3人組の一人。カメラ担当。

本業は小説家をしているが、なぜか脚本は書かない。

カイン・ウッドストック

本編では男性ですが、性別不問とします。


◆リック:

ホームビデオのカメラで映画を撮ろうとする3人組の一人。編集担当。雑用もします。

リカイン・アインスタイン

最近太ってきたことが悩みのようです。

本編では男性ですが、性別不問とします。


すべての創作者と、すべての表現者へ。

【本編】



(モノローグ)

ローズ:人生とは、気づかない内にスポットライトが当たっていて。

ローズ:ピカっと光を受けたと思っても、実際何が起きたかなんてわからなくて。

ローズ:忘れた頃に、後からその大事さに気づく。

ローズ:それはまるで、稲光の後の雷鳴みたいで。

ローズ:その大事な「もの」が遠くにあればあるほど、雷鳴の音も遅れてくるんだ。



3人の男性がビデオカメラを持ち集まって何かをしている。
そこに不機嫌そうな女性がぶつかる。


ローズ:きゃっ!!


ジェフ:あいて!!


カイン:おいおい、大丈夫かよ。


ローズ:ちょっと!!どこ見て歩いてんのよ!


ジェフ:いやちょっと待て、ぶつかってきたのはそっちだろう?


ローズ:あー!もう!ストッキング破れちゃったじゃない!

ローズ:どうしてくれるの!? 


ジェフ:だから!そっちから俺らにぶつかってきたんだろうって!


リック:お嬢さん、なんか落としたよ、これ。


リックから渡された書類を奪い取るローズ


ローズ:勝手に触らないでよ!!


カイン:さっきから何をそんなにイライラしてるんだ?お嬢さん

カイン:そりゃこんな所に突っ立ってた俺らも悪いかもしれないが

カイン:あんたもこんな大男3人にぶつかるなんて大概だぜ


ローズ:考え事してたのよ!悪い!?


リック:開き直りじゃないか・・・


ジェフ:・・・あんた、どっかで見たことあるな?


カイン:知り合いか?


ジェフ:いや、こんなべっぴんさんの知り合いいるはずないんだが・・・


リック:僕もどこかで見たことあるんだよな・・・


ローズ:・・・先を急ぐから、そこどいて。


リック:あーーーーーー!!!


ローズ:!?


ジェフ:リック、いきなり大声出してどうした!?


リック:「キンダーキンダキンダー♪おいしい!まんぞく!子供の味方!」


ジェフ:あーーーーーー!!!


カイン:なんだよ、いきなり歌い出して。


ジェフ:キンダーワンダーコーンフレークのCMの女の子だろ、あんた!!!


ローズ:・・・。


リック:絶対そうだよ!「キンダーワンダーハッピー♪おいしいまんぷくを毎朝おとどけ!」って!すごい、大きくなってるのに全然顔は変わってない!べっぴんさんだ!


カイン:CMの子役ってことか?


ジェフ:お前本当にわからないの?


カイン:あいにく子供の頃はテレビとか見なかったからな。


ローズ:通してもらえますか。


リック:僕大ファンだったんだよ!あ、そうだ、ねえ!写真撮ってよ、写真!


ジェフ:リック、流石に迷惑だよ。それに今はビデオカメラしかない。


リック:じゃあ動画を撮らせてもらおう!ね!


ローズ:お断りします。・・・それ、ビデオカメラ?


ジェフ:ああ、そうだよ、俺たち映画を撮るんだ。


ローズ:・・・あなたたちが? ぷっ、あははは!!


カイン:・・・なんだよ?


ローズ:こんな間抜けそうな3人で映画?

ローズ:脚本は誰が書いてるの? そのコーンフレーク好きな人?

ローズ:ビデオカメラって言ったって、これ、ホームビデオ撮るときのじゃない

ローズ:あははは! おっかしい。


ジェフ:・・・何がおかしいっていうんだ?


ローズ:映画ってそんな簡単じゃないのよ、道楽もいいとこよ。役者は誰なの?


ジェフ:俺たちだよ


ローズ:あはははは! もう最高。


リック:言わせておけばおまえ!!


ジェフ:・・・リックちょっとたんま。カインも、ちょっと耳貸して。


カイン:なんだよ?


ジェフ:ごにょごにょごにょ。


リック:ええー!?


ローズ:いい加減そこ通して欲しいんですけど。


カイン:おい、ジェフ、本気か?


ジェフ:まかせとけって。なあ、あんた。俺たちは確かに間抜けな3人だ。


ローズ:ええ、どこからどう見てもそうね。


ジェフ:俺達の映画は失敗するか?


ローズ:成功する可能性があるとでも思ってたの?ぱっとしない映画ができるだけでしょ。


ジェフ:じゃあ、どうしたら見れるもんになるかな?天才子役様のご意見を伺いたいんだけど。


ローズ:「元」子役だから! 今は女優!


ジェフ:その割に最近見かけないけど-・・・


ローズ:なっ・・・気にしてる事を・・・


ジェフ:「元」天才子役様!どうしたらいいでしょうか!


ローズ:・・・そんなの、簡単でしょ。華のある女優を使うのよ。


ジェフ:華のある女優! あなたみたいな?


ローズ:えっ? あっ、そ、そうよ? なによ、わかってるじゃない。


ジェフ:あなた以上に華のある女優さんもいないですものねえ。


ローズ:と、当然よ! 私がCMに出れば売り上げ30%アップ間違いなしだったんだから!


ジェフ:じゃあ、そんなあなたが僕の映画に出てくれたら間違いなく超大作ですね!


ローズ:当然でしょ! わかってるじゃない!


ジェフ:じゃあ、出てください!


ローズ:は? いやよ、なんであなたの映画に出なきゃならないのよ。


ジェフ:だめなんですか?


ローズ:だめだめ、だめに決まってる。釣り合わないわよ。


ジェフ:そんなこと言って、実際に大作にならなかった時が怖いだけなんじゃ?


ローズ:・・・は?


ジェフ:だからぁ、怖いんでしょ、自分が出演しても大作にならなかったら。


ローズ:そんなわけないでしょ! 私の知名度しらないの!?

ローズ:全盛期はCM19社、ドラマは3作品も同時にやってたんだから!


ジェフ:いや、でも、ねえ、いいですよ、無理しなくて


ローズ:は?


ジェフ:ビッグマウスってしんどいですよね、わかります。僕ら、時間無いんで、自信ないなら結構です。


ローズ:・・・。


ジェフ:ほら、二人とも、行こう。また冒頭のシーン撮り直さないと。


カイン:お、おう。


リック:い、いこうか。


ローズ:・・・待ちなさいよ。


ジェフ:なんでしょう?


ローズ:・・・やってやろうじゃないの。


カイン:え?


リック:まじかよ。


ローズ:やってやろうじゃないのよ!あんたの映画とやらに出てやるわよ!!その代わり、映画が有名になったら絶対に謝ってもらうわよ!


ジェフ:(小声で)ほら、な、いけたろ?


カイン:おまえこえーよ。



◆シーン1

ローズ:はあああ!? 台本がないってどういうことよ!?


カイン:どういうことも何も、そのままの意味だよ。


リック:監督はジェフ。ジェフのやりたいなと思った事をその時にやるだけ。


ローズ:場所は!? 状況は!? 小道具は!?


カイン:基本的にその場にあるものでどうにかする。


ローズ:・・・頭いたくなってきた。


カイン:俺らみたいなまぬけな貧乏3人組に色々準備できるわけないだろ?


ローズ:・・・そうね、それを踏まえておくべきだったわね。


リック:でもほら、カメラの三脚はリサイクルショップで売ってた奴を買ってきたよ。


カイン:型番があわなくて装着できねぇけどな。


ローズ:意味ないじゃない・・・。


カイン:でも、あんたが居ればなんとかなるだろう? 大女優さん。


ローズ:あ、当たり前でしょう!? 私を誰だと思ってるの。


カイン:頼もしいね、じゃあ最初はオープニングだ。夕陽を背景にあんたを撮らせてもらう

ぜ。



◆シーン2

ジェフ:おそくなってごめん(カタコト)


ローズ:ううん、いいのジェフ。全然待ってないわ。


ジェフ:よかったー(カタコト)


ローズ:そんなしゃべり方しか出来ないの?あんた。


ジェフ:セリフが違うよ、ローズ、そこは「あなたに逢うためだもの、何時間でも平気よ」だよ。


ローズ:あなたにあうためだものー、なんじかんでもへいきよー(カタコト)


ジェフ:なんで急にカタコトなんだよ。


ローズ:セリフも、演技も、最低最悪すぎるでしょ!?それに合わせようとしたらこうなるわよ!


カイン:まあ、俺らド素人だしな。


リック:そうそう、ジェフに高い演技力を求めるほうが悪い。


ローズ:あんたたち、そんな調子でよく映画撮ろうなんて思えたわね。


ジェフ:だって撮ってみたかったんだもの。


ローズ:はあ。私、とんでもない事に巻き込まれてる気がする。



◆シーン11

ローズ:ふふ、何それ。おっかしい。


ジェフ:だって、しょうが無いだろ?ジャングルの奥地にトイレットペーパーなんかあるわけないんだからさ。


ローズ:だからって、普通木の棒で拭く?


ジェフ:じゃあローズならどうするんだよ?


ローズ:えー?私?難しいな……葉っぱとか?


ジェフ:葉っぱはやめといたほうがいい、時々殺人葉っぱがあるからな、ジャングルには。


ローズ:何それ。


ジェフ:知らないのか?細かい目に見えないとげが無数にある葉っぱだよ、肛門にそれが付着すると悶絶して死ぬ可能性だってある。


ローズ:そもそも私ジャングル行かないわよ。


ジェフ:そんなこと言って、売れ始めたら行かざるを得ないかもしれないだろ?


ローズ:だとしても絶対やだ。……ちょっと、カイン、それカメラ回してる?


カイン:当然だろ?ばっちり撮ってるぜ?


ローズ:ちょっとやめてよ、こんな下品な話!


リック:生存方法の話じゃないの?


ローズ:どこがよ!ただのうんちの話じゃない、うんちの!


ジェフ:大女優様の口からうんちなんて単語が出てきたな!


ローズ:あんたが最初に言い始めてるのよこのはなし!


カイン:ばっちり撮れてるけど、これいくらで売れるかな?


ローズ:消して!!!


リック:どこに売る?


ローズ:消して!!!



◆シーン38

ローズ:ラブシーンは嫌。


カイン:嫌って言われても。


ローズ:嫌なものは嫌。


リック:ラブシーンNGの女優なんて聞いた事無いんだけど。


ローズ:リック、カイン、あんた達が相手役ならいいわよ。


ジェフ:俺のことがNGってこと!?


ローズ:正解。


カイン:爆笑


リック:爆笑


◆シーン56

ジェフ:眠い?


ローズ:……ちょびっと。


ジェフ:毛布持ってきてるよ、使う?


ローズ:だいじょうぶ……。


ジェフ:寒い?


ローズ:さむくない。


ジェフ:眠い?


ローズ:ちょびっとって言ったじゃん。


ジェフ:ごめんごめん。


ローズ:……雨、やまないね。


ジェフ:ああ。やまないな。


ローズ:今日って、何撮るつもりだった?


ジェフ:決めてなかった。


ローズ:はいはい、そんな事だろうと思ってた。


ジェフ:何撮っても、いいと思ってたからさ。


ローズ:……なにそれ?


ジェフ:忘れられない何かになるってのは、難しいもんだよな。


ローズ:……どういう意味?


ジェフ:いや、だってさ、映画って、そういうものだろ。


ローズ:……そう、だね。


ジェフ:誰かにとっての何かになるってすごく難しいし、簡単じゃないんだ。

ジェフ:失ってから気づくことだってある。


ローズ:耳が痛いわ、そんな話。


ジェフ:映画って、雷鳴みたいだよな。


ローズ:雷鳴?


ジェフ:気づかない内にスポットライトが当たっていて。

ジェフ:ピカっと光を受けたと思っても、実際何が起きたかなんてわからなくて。

ジェフ:忘れた頃に、後からその大事さに気づく。

ジェフ:それはまるで、稲光の後の雷鳴みたいで。

ジェフ:その大事な「もの」が遠くにあればあるほど、雷鳴の音も遅れてくるんだ。

ジェフ:映画ってさ、見終わったらその時は「面白かったー」ってなるけど

ジェフ:その映画の大事なテーマとかさ、セリフってのは案外、終わってから染みるものだ。


ローズ:なるほどねえ。


ジェフ:ローズはさ、いい女優になるよ。


ローズ:もう女優なんですけど。


ジェフ:あはは。いや、そうかも知れないけどさ。

ジェフ:もっと、もっといい女優になるよ。


ローズ:……ド素人に言われても「そうかあ」って思えないんだけど?


ジェフ:それはそうか。


ローズ:……なんかさ、顔色悪いけど、大丈夫?


ジェフ:ちょっと寒いね。雨で冷えたかな。


ローズ:毛布、取ってくるよ。


ジェフ:ありがと。


ローズ:(遠ざかりながら)ねえー、カインー、そっちに毛布無いー?



◆シーン58

ローズ:ジェフが居ないんだけど?


カイン:ああ。


ローズ:リックも居ないんだけど。


カイン:そうだな。


ローズ:どういうこと?今日は二人で撮影ってこと?


カイン:いいや。


ローズ:どういうこと?


カイン:あんた一人だよ。俺はカメラマン。


ローズ:ええ……?


カイン:台本もある。


ローズ:めっずらし!どういう風の吹き回し?


カイン:俺が書いた。


ローズ:書けたの?


カイン:俺の本業、小説家だぜ。


ローズ:初耳。


カイン:初めて言ったからな。


ローズ:……じゃあ、最初からあんたが脚本書けばよかったんじゃ?


カイン:そうだろうな。


ローズ:なんか怒ってる?


カイン:怒ってる?なんで?


ローズ:いや、なんか、そんな気がしただけ。


カイン:悪い、気を遣わせたな、怒ってないよ。


カイン:ちょっと、読んでみてくれるか?


ローズ:はいはい、それでは失礼して……。


カイン:やれそうか?


ローズ:ふーん、一人芝居になるわけね。全然、楽勝よこんくらい。


カイン:よかった。


ローズ:今すぐ撮るの?


カイン:ああ。出来れば。


ローズ:おっけー!巻いていこう!



ローズ:(M)それから、ジェフも、リックも、カインも私の前から姿を消した。

ローズ:(M)おそらく、彼らが撮りたかった映画が完成したのだろう。


ローズ:(M)うまく乗せられた私の演技は、彼らの映画をきちんと彩る事ができたのか。


ローズ:(M)わからないまま、少しの月日が経つ。


ローズ:(M)安い機材、安い演技。

ローズ:(M)決して、最高峰と言えないこの映画の思い出が

ローズ:(M)私の中では、最高のモノになっていた。


ローズ:(M)何度、オーディションに落ちた事だったろうか。


ローズ:(M)腐っていた私の気持ちをつなぎ止めていたのは、輝かしい表舞台への羨望でも

ローズ:(M)有名になる事への期待でもなく。


ローズ:(M)あの3人と撮影した、ホームビデオのカメラに収められた安い映画だった。



◆1年後
(チャイムの音)

ローズ:はいはい、今出ますよ、ちょっと待ってー。

(チャイムの音)

ローズ:今出るってば!!もう!!せっかちね

(トビラを開ける音)


ローズ:はいはい、どちらさま……


カイン:よっ


リック:ひさしぶり。


ローズ:え、ええ!? やだ!カイン!リック!久しぶりじゃない!?


カイン:一年ぶりくらい、だな。

    

ローズ:そうよね、そうよ、もう一年くらい経つわ。

ローズ:急に連絡つかなくなったから、心配してたのよ!

ローズ:やだ、リック、少し太ったんじゃないの?


リック:見事にリバウンド。


ローズ:ははは。でも、元気そうでよかった!


カイン:ローズも。


ローズ:えっと、ジェフは?


リック:……今日はね、そのことで来たんだ。


ローズ:そのこと?


カイン:ああ。見て欲しいものがあるんだよ。


ローズ:見て欲しい……? あ、もしかして


リック:うん。完成したんだ。映画。


ローズ:すごい!ずっと楽しみにしてたの!


カイン:USBに保存してきた。部屋の中で、パソコンで観よう。


ローズ:いいわね!何かポップコーンかフィッシュアンドチップスでも作りましょうか!


カイン:……いや、要らないと思う。


ローズ:えー!? 映画にはポップコーンやチップス、あとコーラが必要でしょう?


リック:ローズ


ローズ:大丈夫よ、リック、コーラはね、ちゃんとゼロカロリーのものもあるから。


リック:違うんだ、ローズ


ローズ:……?


リック:そういうんじゃ、無いんだよ。



◆ローズの部屋

カイン:……接続、できたな。


ローズ:う、うん


リック:再生、してもいいかな。


ローズ:ええ、いつでも、大丈夫、だけど。


カイン:……俺ら、隣の部屋に居るから。


ローズ:ええ!? 一緒に観るんじゃないの?


カイン:ああ。これは、一人で観たほうがいいとおもう。


ローズ:ええー……ホ、ホラー映画になってるとかじゃないわよね?


リック:……ローズ、またあとでね。



◆シーン0

ジェフ:なあ、これ本当に撮れてる?


カイン:撮れてるよ


リック:電源の所緑色に光ってるでしょ?


ジェフ:本当だ


リック:そうしたらもう録画始まってるってこと


ジェフ:オーケイ、最高の始まりだね


カイン:……最低な始まりの間違いだろ?


ジェフ:そんな事言うなよ、気が滅入るだろ


カイン:俺は今からでも辞めたいよ、こんな事。


リック:……右に同じ、かな。


ジェフ:そんなこと言うなって。


カイン:言うだろ。


ジェフ:最後の頼みだと思ってさ。


リック:思ってっていうか……


カイン:「最期の頼み」そのものだろ、バカ。


ジェフ:……そうだね。さて、どんな映画にしていこうかな。


リック:あんまり激しいのは駄目だよ、ジェフ、お医者さんからも無理はするなって……。


ジェフ:アクション映画みたいな感じの記録って面白そうじゃないか!?


カイン:却下。無理だろ。誰がアクションするんだよ。


ジェフ:だめかー。


リック:うん。


ジェフ:じゃあ、ラブストーリーとかは?


カイン:却下。誰と、誰が、ラブストーリーなんて演じるんだよ。


ジェフ:女の子が居ないかー!


リック:普通にVログみたいな、生活の記録じゃだめなの……?


ジェフ:……稲妻みたいにさ、ビガビガーって光るような思い出が欲しいじゃん。


ジェフ:それこそ、運命的な出会いの記録とかそういうやつ。


ジェフ、リック、カインがビデオカメラを持ち撮影をしていると
そこに不機嫌そうな女性がぶつかる。


ローズ:きゃっ!!


ジェフ:あいて!!


カイン:おいおい、大丈夫かよ。


ローズ:ちょっと!!どこ見て歩いてんのよ!


ジェフ:いやちょっと待て、ぶつかってきたのはそっちだろう?


ローズ:あー!もう!ストッキング破れちゃったじゃない!

    どうしてくれるの!?


ジェフ:だから!そっちから俺らにぶつかってきたんだろうって!


映像を見ているローズ


ローズ:……これって……。

    

◆シーン3

ジェフ:やあ、こんばんは(カタコト)


リック:なんか駄目だと思う


ジェフ:やあー、こーんばんわ(カタコト)


リック:さっきより駄目


カイン:なあ、そんな頑張って練習する意味あるのか?


ジェフ:あるだろ、巻き込んだのはこっちなんだから


カイン:いや、それはそうだけどさ


ジェフ:巻き込んだ以上、最高の映画になるようにしなくちゃ


リック:ジェフのそういう真面目な所、好きだけどさ


リック:……でも、無理しないほうがいいんじゃないかな、ジェフ


ジェフ:どうして?


リック:……だって、君


ジェフ:全然、まだまだ頑張れるよ


カイン:……まあ、お前が決めた事だから、止めたりはしないよ


ジェフ:ありがと


ジェフ:って、あれ?もしかしてこれ撮影してる?


カイン:当然。


ジェフ:や、やめてくれよ、恥ずかしい


カイン:オフショットってのは必要だろ?映画には。


ジェフ:彼女に練習してた姿見られるってことだろ?


リック:何か困ることでも?


ジェフ:困るだろそりゃ!男は努力の姿を隠してたほうがかっこいいんだから


リック:えー?なにそれ


ジェフ:ある日突然さ、稲光のように颯爽と現れるのさ


カイン:はいはい、またでたロマンチスト


ジェフ:かっこつけたいだろ


リック:……もしかして、惚れた?


ジェフ:ば、ばか、ないよ、ない


カイン:惚れたな、これは


ジェフ:ないって!


リック:綺麗だもんね、確かに、彼女


ジェフ:……ないよ、あっちゃ、だめだろ


カイン:……そうだな



◆シーン12

ジェフ:ごめん、二人とも


リック:無理しすぎだよ


カイン:39.4度、こりゃ安静に、だな


ジェフ:はー、ごめん、本当に


リック:いいよ、全然、こんなことくらい。覚悟の上だ。


カイン:俺ちょっと薬もらってくるわ、解熱剤


ジェフ:助かる


リック:……ねえ、ジェフ


ジェフ:んー?


リック:今からでもさ、撮影をやめてさ、入院するっていう手もあるんだよ


ジェフ:……。


リック:まだ、間に合うかもしれない。


ジェフ:リック。


リック:うん。


ジェフ:いいんだ、決めた事だから


リック:……でも


ジェフ:ありがとな、心配してくれて。


リック:……いいんだよ、そんなこと


ジェフ:なあ、昨日のシーン11の映像ってもうパソコンに入ってる?


リック:入ってるよ


ジェフ:それ、俺に転送してくんないかな、スマホに


リック:いい、けど、なんで?


ジェフ:頼むよ


リック:……いいよ、はい、今送った


ジェフ:ありがと!


ジェフのスマホから音声が聞こえる

【V】ローズ:ふふ、何それ。おっかしい。


ジェフ:はは、いい顔で笑ってる


【V】ローズ:だからって、普通木の棒で拭く?


ジェフ:このさ、ちょっとしかめっ面したときの大げさなまゆげがいいよな


【V】ローズ:えー?私?難しいな……葉っぱとか?


ジェフ:もっと、この素の自分を出したらいいのに、彼女


リック:……ジェフも今、いい顔してるよ。



◆シーン55

ジェフ:これ、撮れてるのかな。


ジェフ:……うん、ランプついてる、撮れてるね。


ジェフ:今日はあいにくの雨。


ジェフ:映像記録も、気づけばシーン55まで来た。


ジェフ:何も考えずに始めた事だったけど、思いのほか上手くいってるし


ジェフ:なにより、意外に楽しめてる。


ジェフ:ありがとう、リック、カイン。


ジェフ:今日は本当はこの海岸沿いでさ、ローズの歩く映像を撮りたかったんだ。


ジェフ:ローズはさ、黙ってたら美人だろ。


ジェフ:って、これローズも観てたりするかもなのか。


ジェフ:やば、怒られるかも、はは。


ジェフ:……リック、カイン、代わりに怒られてくれよな。


ローズ:(遠くから近づいてくる)ちょっと、ジェフー、どこー。


ジェフ:ああ、ローズ、ここだよ。


ローズ:今日は雨やまないって、ウェザーニュースで確認してきた。


ジェフ:そうかー、だめかー。


ローズ:せっかく早起きしてきたのに。


ジェフ:眠い?


ローズ:……ちょびっと。


ジェフ:毛布持ってきてるよ、使う?



◆ローズの部屋

ローズ:いや!!!離してよ!!!


カイン:ローズ、最後まで、最後まで観てくれ!!


ローズ:ふざけんな!!!こんな、こんなもの作りやがって!!

ローズ:私に内緒で、私にずっと内緒で!!!!

ローズ:ジェフを連れてこい!!!こんな、こんなの、映画でもなんでもないじゃない!!!


リック:頼むよ、ローズ、最後まで観てくれ!


ローズ:ジェフを連れてきなさいよ!!!

ローズ:ちょっとでもあいつに気を許した私がばかだった!こんなの映画じゃない!


カイン:連れて来れないんだよ!!


ローズ:……どういう意味よ。


リック:……。


ローズ:ねえ


カイン:……映像でも、言ってたろ、「最期の」、頼みなんだよ……


ローズ:やだ、聞きたくない


カイン:察し、ついてるだろ、ローズ


ローズ:やだ


カイン:お前はバカじゃない、高飛車で、プライドが高いけど、バカな女じゃない


ローズ:やだ!!!


リック:ジェフの頼みなんだよ!ローズ!


ローズ:……。


リック:頼むよ、俺たちだって、迷ったんだ、今日ここに来るべきなのか


ローズ:来なければ、よかったじゃない

ローズ:ただの、性悪女を利用するだけして、使い終わったらぽいってした男でいたら、よかったじゃない……


カイン:……そうだな


ローズ:なんで。

ローズ:なんで今更、こんなものひっさげてきたの?

ローズ:知らないでいたほうがよかった、こんなこと、こんな


リック:……ごめん


ローズ:死んじゃったの、ジェフ


カイン:……ああ


ローズ:いつ


カイン:……撮影に、来なかった日


ローズ:どうして


カイン:……。


ローズ:どうして、教えてくれなかったの


リック:……。


ローズ:会いたかった、最期にちゃんと、会いたかった。

ローズ:私、私この一年間、ずっとこの映画のことと、あなたたちの事考えてた。

ローズ:短い期間だったけど、最高の友人と、最高の映画を撮ったんだって、思って


カイン:俺も、「俺たちも」そう思ってたよ


ローズ:じゃあなんで!!!


リック:ジェフの、頼みだったんだ


ローズ:……。


リック:最期の、酷い姿の俺じゃなくて、笑顔の、楽しい自分を覚えていて欲しい、って。


ローズ:……あんまりだよ、そんなの、あんまりだよ。


カイン:すまない、ローズ、秘密にしてたこと


ローズ:……あんまり、だよ


カイン:でも、頼む、最後まで、観てくれ、頼むよ。


ローズ:……わかった。



◆ローズの部屋 シーン56

【V】ジェフ:ローズはさ、いい女優になるよ。


【V】ローズ:もう女優なんですけど。


【V】ジェフ:あはは。いや、そうかも知れないけどさ。


【V】ジェフ:もっと、もっといい女優になるよ。


【V】ローズ:……ド素人に言われても「そうかあ」って思えないんだけど?


【V】ジェフ:それはそうか。


【V】ローズ:……なんかさ、顔色悪いけど、大丈夫?


【V】ジェフ:ちょっと寒いね。雨で冷えたかな。


【V】ローズ:毛布、取ってくるよ。


【V】ジェフ:ありがと。


【V】ローズ:(遠ざかりながら)ねえー、カインー、そっちに毛布無いー?


【V】ジェフ:……あのさ、今から話す事はさ、俺の独り言だから。


ローズ:……うん。


【V】ジェフ:俺さ、死ぬんだって、もうすぐ。


ローズ:……。


【V】ジェフ:二人はさ、なんとかして生きながらえろ、って言ってくれるんだけどさ。


ローズ:……当たり前、でしょ。


【V】ジェフ:わかるんだよ、本当に、もう、あと少ししか保たないって。

【V】ジェフ:だからさ、記録を残したいって、思ったんだ。

【V】ジェフ:自分が生きた証をさ、誰かの記憶にさ、残るものを。


ローズ:……ばかだよ、あんた。


【V】ジェフ:馬鹿げてるだろ。


ローズ:うん、馬鹿げてる。


【V】ジェフ:でも、そうしなきゃいけないって、思ったんだよ。

【V】ジェフ:だって、人生ってのは一瞬だからさ。

【V】ジェフ:……そう、稲妻みたいに。


ローズ:稲妻……、


【V】ジェフ:……そう、だな、うん、そうなんだよ。俺はさ、稲妻なんだ。

【V】ジェフ:ぴかっと一瞬だけ強く光ってさ、直視してたら、目に光りが残っちゃうくらい、強い光。

【V】ジェフ:それでさ、すぐ消えちゃうんだ。本当に、一瞬で。


ローズ:わらえ、ないよ、そんなの。


【V】ジェフ:笑えるだろ、そんなジョークもまだ言えるんだぜ。いや、これ、ジョークですらないか。


ローズ:わらえないって……。


【V】ジェフ:映画ってさ、いいよな。


ローズ:なにがよ……。


【V】ジェフ:映画ってさ、始まったら、必ず終わるんだ。

【V】ジェフ:刻々とさ、フィルムがどんどん回っていって、クライマックスに向かっていく。

【V】ジェフ:観客の手のひらは段々とさ、汗ばんできて、もう後半なんてさ、ポップコーン食べるのも忘れてる。

【V】ジェフ:そんでさ、最後を迎える。

【V】ジェフ:笑えるハッピーエンドでも、悲しいバッドエンドでも、変わらず終わりが来る。

【V】ジェフ:でもさ、また、映画は始まる。何度も、何度だって、一番最高のシーンをさ。

【V】ジェフ:何度だって、始まって、何度だって、終わるんだ。

【V】ジェフ:……だからさ、この映像を、俺は、映像記録だって言いたく無かったんだよ。

【V】ジェフ:何度も始まって、何度だって終わる、「映画」なんだって、言いたかったんだ。


ローズ:……嫌いじゃないよ、そういう考え方。


【V】ジェフ:嫌われてないかな、君に。


ローズ:大嫌い


【V】ジェフ:なんか、大嫌いって、言ってる君が目に浮かぶ。


ローズ:言ったわよ、言ってやったわよ。


【V】ジェフ:……なかなか、君が戻って来ないからさ、ひとつか、ふたつ、言いたいこと、言ってもいいかな。


ローズ:言いなさいよ、ひとつでも、ふたつでも、みっつでもよっつでも。


【V】ジェフ:死にたくねえなあ。


ローズ:……ばか。


【V】ジェフ:死にたくねえよ、俺、こんな風に、こんな風に終わりたくなんてさ


ローズ:わかってる、わかってるよ


【V】ジェフ:なんで俺なんだろ、俺、なんかさ、悪いことしたのかな


ローズ:悪くないよ、あんたは、何も悪くない


【V】ジェフ:好きになっちまった、君のこと


ローズ:ジェフ……


【V】ジェフ:駄目なのに、好きになっちまった、最後の最後で、君のことが愛しくてたまらなくなっちまった

【V】ジェフ:迫ってくる命の期限が恐ろしくて、眠れない夜も、君の声をきくと不思議と眠れるんだ


ローズ:電話しなさいよ……いくらでも、話してあげたわよ……


【V】ジェフ:まぶたを閉じると、君のいじわるな笑顔がうかぶんだ


ローズ:そこは美しい顔を思い出しなさいよ


【V】ジェフ:何もかもが、君で埋まっていく、埋まっていくのがわかる

【V】ジェフ:この「映画」は、ラブストーリーにはならなかったけど

【V】ジェフ:でも、俺の、俺の人生はさ、「ラブストーリー」がちゃんとあったんだ。


ローズ:私、あんたと、ラブシーンしてあげればよかった


【V】ジェフ:ローズ、君さ、いい役者になるよ。


ローズ:うれしくない


【V】ジェフ:君はとびっきり美しくて、衝撃的で、俺の心に稲妻を打ったんだ。


ローズ:死んだやつに言われても!うれしくないのよ!!!


【V】ジェフ:この稲妻が、雷鳴に変わる前に、俺は消えちまうけど、でも

【V】ジェフ:ローズ、君の雷鳴は、これから鳴るんだ。

【V】ジェフ:君の光は、もう、十分に光り終えた。

【V】ジェフ:あとは、雷鳴が轟くだけ。轟くだけだ。

【V】ジェフ:愛してるよ、ローズ。幸せになってくれ。



◆シーン ??

【V】ローズ:なんか怒ってる?


【V】カイン:怒ってる?なんで?


【V】ローズ:いや、なんか、そんな気がしただけ。


【V】カイン:悪い、気を遣わせたな、怒ってないよ。


【V】カイン:ちょっと、読んでみてくれるか?


【V】ローズ:はいはい、それでは失礼して……。


【V】カイン:やれそうか?


【V】ローズ:ふーん、一人芝居になるわけね。全然、楽勝よこんくらい。


【V】カイン:よかった。


【V】ローズ:今すぐ撮るの?


【V】カイン:ああ。出来れば。


【V】ローズ:おっけー!巻いていこう!


【V】カイン:……3、2、1……アクション。


【V】ローズ:『生意気なあんたのこと、最初はむかついてたけど。でも、うん、今なら言ってあげてもいいよ。』

【V】ローズ:『私、あなたの事、愛してる。』




(モノローグ)

ジェフ:人生とは、気づかない内にスポットライトが当たっていて。

ジェフ:ピカっと光を受けたと思っても、実際何が起きたかなんてわからなくて。

ジェフ:忘れた頃に、後からその大事さに気づく。

ジェフ:それはまるで、稲光の後の雷鳴みたいで。

ジェフ:その大事な「もの」が遠くにあればあるほど、雷鳴の音も遅れてくるんだ。

ジェフ:あんたにも、あるだろ?そういうこと。

ジェフ:苦しくて、辛くて、心が大きく揺れる時。

ジェフ:その時がさ、稲妻の瞬間なんだよ。

ジェフ:そんなもの、一瞬だ、あっという間。

ジェフ:その後のほうが大事なんだ、雷鳴はいつだって遅れてやってくる。

ジェフ:刻々と、あんたの元にさ。

ジェフ:だから、あとはさ、鳴り響かせてやるだけさ。刻々と、雷鳴をさ。

-fin-

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