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臍帯とカフェイン

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【朗読】音声記録

(録音が始まる)

本日の音声記録、今日もなんとか生き延びている。

正確には、生き延びてしまったと言ったほうが正しいのかも。

キンダーワンダーのメイプルシロップ味のシリアルの味が恋しくなってから

もう38日と12時間が経ってる。

状況は変わらずと言った所、パパさんは相変わらずガレージで床を這いずりまわってるし

ママはバスタブでずっとうめき声をあげてる。

多分おとなりさんだと思われる物体は、肉がむき出しになってる恐らく猫だったものに食い散らかされてた。

もう、最悪の状況って言葉が安っぽく感じるレベル。

今日はこの部屋から一旦出て、食糧を探しに行ってきたところ。

街のほとんどはもう誰も居ないみたいに静まり返ってた。

もしかしたら私みたいに部屋に引きこもってる人も居るのかもしれないけど

出てくる人がいるわけないよね、そりゃ。

モッズマートの入り口は、たぶんぎりぎりまで粘ってた人達が作ったバリケードがあって

店内は思ったよりいつものモッズマートって感じだったけど

そのいつもの状態っていうのが逆に現実味がなくて

そのいつもの状態なのに誰も「生きた人間がいない」っていうのが

もうきっと、この状況が、誰にも、どうにもできないものなんだなって

痛感する要因の一つになってた。

今日の戦利品はサバの缶詰2つと、ぱさぱさするクラッカーひとつ。

本当は他にも持って来れそうなものはあったんだけど、食糧はそれだけにしといた。

もしかしたら、まだ、誰かが来る事もあるかもしれないから。

だって、そうでしょ、残して置いたら誰かが私みたいに探しに来るかもしれない。

そしたら、誰かと、生きた人間と、会話だってできるかも。

あんまり、期待もしていられないけど。

なんとなく持ってきた雑誌には、世界の終わり特集みたいなネットミームの集合体みたいな

記事が書かれてた。

今日はコレを読んで、静かに過ごそうと思う。

ママがまた唸り始めたみたい、浴室のほうから声がする。

縛った縄が解けてなければいいんだけど。今日の記録は終わり。


(少し疲れが出ている、録音が始まる)

本日の音声記録、今日もなんとか生き延びている。

正確には、生き延びてしまった、って言うのももう何回目なのかな、これ。

パパがガレージから居なくなってた。それが喜ばしい事なのか、寂しい事なのか、恐ろしい事なのかもうよくわからない。

でも、少し安心してる自分もいる。きっとパパのものであろう血の跡がずりずりと国道の方に伸びて行ってた。

また戻ってきたりするのかな、それとも、これが永遠の別れなのかな。

なんとなく思い出したのは、生きていた頃の元気なパパよりも

こんなことになって、私に襲い掛かるパパのすごい顔だった。

なんでだろ、そんな事じゃなくて、もっと優しい頃の事を思い出せばいいのに

悲しい気持ちよりも、恐ろしい気持ちのほうが大きくて、もうそれ以外思い出せない。

これを順応と呼ぶべきなのか、麻痺と呼ぶべきなのかわからないけど

でも、少なからず悲しい事なんだなって、思う事ができているから、まだ

ギリギリ私は人間であれているのかな、なんて思う。

昨日拾ってきた雑誌の記事を読んでみた。

そこには、世界の終わりが絶望なのか救いなのか論争してる人達のインタビューが載っていて

それは、なんだか、とても平和な事だなって思えて、なんだかすこし、むかついた。

今日は、昨日の鯖缶とクラッカー1枚を一日かけて食べた。

調味料が無いってだけで食事がまったく幸せじゃなくなるから不思議。

生きる為には食べなきゃいけないけど、これを食事と言っていいのかな。

給餌、という言葉がよぎる。生きる為に食べるだけの、消化行動なんだ。

まだ、生きててもいいのかな。というよりも、生きていなきゃいけないのかな。

よく、わからなくなってきたかも。今日の記録は終わり。


(少しの溜息のあと録音が始まる)

本日の音声記録、今日もなんとか生き延びている。

でも、今日はもう話したくないかも。今日の記録は終わり。

(ドタバタと慌てた様子で録音が始まる)

やだ、もう、やだ、やだぁ、もうやだ。

うううう、やだ、もう、終わりにしてよ、もう、嫌だ、こんなの。

ずっと扉を叩いてる、ママが、扉を叩いてる。

唸りながら、いまも、やだ、もう、やだ。やめてよ、もう。やだよ。

助けて、パパ、もう、いや、もうやめてよママ。やだよ。

どっかいって、パパみたいに、どっか行けばいいのに。

やだよ、もう、やだ、どっかいってよ。うううう。


(長い沈黙、ようやく話始める。録音が始まる。)

本日の音声記録。生き延びている。

全部終わった。終わったと思いたい。

ママの首からは、思っていたほどの血は出なかった。

いっそ、もっと出てくれたほうがよかった。

ちゃんと、ママを殺してしまったんだなって思わせてくれたほうがよかった。

私が今、さっき、ついさっき、息の根を止めたのはもうママじゃないんだ。

あれは、元ママであって、ママじゃなくて、きっと、それは、本当は喜ばしい事で。

罪悪感のかけらも出て来なかった。苦しさなんてなかった。

安心した、全部、安心してしまった。ようやく終わったと思ってしまった。

それは、よかったのかな。どうなのかな。

……罪悪感が、あればよかった、せめて。

愛しくて、大切だったものを奪ってしまったって、そういうたぐいの罪悪感があれば

その罪悪感で、私も、死ぬことができた。

それを理由に、私も、私を終わらせることで、ようやく、やっと、そういうたぐいの

最期を迎える事ができたのに。

罪悪感のかけらも、なかった。

私は、生き延びる為に、不必要なものを壊しただけなんだ。

すでに亡くした、失った、何かをまた壊しただけ。

パパの時と一緒、何も、安らかだった時の事を思い出せない。

それは、幸せな事なのかな。それは、必要な事なのかな。

これは、この今の私は、本当に人間で居られてるのかな。

ママの首を切った後、一番に思ったのは、次は塩を持って来ようって

ただそれだけだった。

安心して夜眠れるな、ってそれだけだった。

モッズマートに行くとき、家のバリケードを少し片してもいいか、ってそれだけだった。

悲しくもなかった、苦しくもなかった。

私が思ったのは、安心だけだった。

ママの形をしてるだけ。

してるだけの肉の塊を、捨てただけ。

世界の終わりなんかじゃない、

これは、私の終わりなんじゃないだろうか。

これは、私たちの終わりなんじゃないだろうか。

今日の記録は終わり。


(録音が始まる。)

本日の音声記録。生き延びている。

多分、これからも。生き延びてしまう。

今日の記録は、終わり。

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