インビジブル・ペインターズ(0:0:2)
【配役】
◆ウィンストン:
元・売れない画家。ウィンストン・パノマール。 作中男性だが、性別は不問とする。
◆ヴィットーリオ:
ホリベスの隣、ベスタフ州マフィア「テオドーレリア」の若頭。ヴィットーリオ・チョッパーズ。作中男性だが、性別は不問とする。
すべての創作者と、すべての表現者へ。
ウィンストン:ぜ、絶対的に……絶望的だ……
ヴィットーリオ:あぁん!?もういっぺん言ってみろタコナスが!
ヴィットーリオ:それ以上法外な値段吹っかけてくるなら容赦しねえって言っとけ!
ウィンストン:あ、あばばばばばは、あばばば
ヴィットーリオ:純度の低いもん寄越してきたら容赦しねえとも伝えろ!いいな!
ウィンストン:ぜ、絶対やばいもんの取引してるううううう
ヴィットーリオ:客を待たせてんだ、切るぞ
ヴィットーリオ:いいな、日和るんじゃねえぞ
ヴィットーリオ:……すまない、「先生」、待たせたな。
ウィンストン:ま、ままままま、待ってなんかないです
ヴィットーリオ:どうした、「先生」?
ヴィットーリオ:寒いか、震えてるぜ
ウィンストン:さ、さむ、さむくない、寒くないです!
ヴィットーリオ:遠慮するなよ、「先生」。
ヴィットーリオ:暖房すこしあげてくる。
0:席を離れるヴィットーリオ
ウィンストン:……無理無理無理無理無理!
ウィンストン:なんだこれ、なんだこれは!
ウィンストン:ウィンストン・パノマール、どうしてこうなった!
ウィンストン:こんなの、こんなの、チャイの中に昆布入れるようなもんだよ・・・!
ヴィットーリオ:チャイの中に昆布って言ったか?「先生」
ウィンストン:な、なななな、何も!何も言ってません!
ヴィットーリオ:??
ヴィットーリオ:そうか?
ウィンストン:そうです、ええ、け、決して、何も
ヴィットーリオ:「しっちゃかめっちゃか」とか、そんな感じの意味か?
ウィンストン:ひ、ひいいいいいい、そ、そうですう……。
ヴィットーリオ:はは、画家先生の考える事は面白い
ウィンストン:そ、そそそそ、それは、光栄です……。
ヴィットーリオ:あんたの絵、観させてもらったよ。
ウィンストン:は、はひ?
ヴィットーリオ:いい絵だった。
ウィンストン:み、観に来られてたんですか。
ヴィットーリオ:ああ、話題だったからな、ほら、納屋の壁にガムボールで
ヴィットーリオ:なんて言ったかな、あれ。
ウィンストン:が、「ガムボールマシン・ラプソディ」、ですね。
ヴィットーリオ:そうそう、コンテストかなんかで酷評された絵を、ガムで描いたんだって?
ヴィットーリオ:審査委員長の家の納屋に。
ウィンストン:は、はい、そ、そうです。
ヴィットーリオ:なんでそんなことしたんだ、先生。
ウィンストン:な、なんで、ですか?
ヴィットーリオ:そう、きっかけの話だよ。
ウィンストン:……そ、その絵が、噛み終えたガムみたいだ、なんて言われたんですよ。
ヴィットーリオ:ほう、噛み終えたガム。
ウィンストン:そう、だから、じゃあ、噛み終えたガムで実際に描いてやるよちきしょー!って
ヴィットーリオ:はっはっは!いいね、反骨精神だったのか、あの絵は。
ウィンストン:え、ええ。そう、でしゅ。
ヴィットーリオ:いいな、あの絵は、噛み終えたガムの屑が、ほんの少しの発想の転換で3億の値がついたってわけか。
ウィンストン:え、ええ、どうやら、そのようで。
ヴィットーリオ:いいよ、あんた、すごくいい、流石だぜ、「先生」
ウィンストン:あ、はは、あははは、ありがとうございますそれでは僕はこのへんで……
ヴィットーリオ:あ?
ウィンストン:なんでもないです。
ヴィットーリオ:そうだよな、まさか帰るなんて言わないよな。
ウィンストン:うううううう、当然じゃないですか、やだなー……うううううう。
ヴィットーリオ:そうかそうか、泣くほど楽しんでくれてるか、嬉しいね。
ウィンストン:一体何が目的なんですか、3億ですか、3億渡せば許してもらえるんですかー……
ヴィットーリオ:バカいっちゃいけねぇよ、先生。
ヴィットーリオ:あんたの絵を3億で買ったのはうちの組みのオヤジさ。
ウィンストン:……ひょえ?
ヴィットーリオ:あんた本当に、立派な画家先生なんだなあ!
ウィンストン:どういう意味です?
ヴィットーリオ:「金の出所」なんて気にしちゃいないだろ?
ウィンストン:それ、は
ヴィットーリオ:はは、絵の事しか頭にありませんって顔してやがる
ウィンストン:……いけませんか?
ヴィットーリオ:あげく、うちのオヤジが出した3億で何したって?
ヴィットーリオ:ホリベス州すべてのコンビニエンスストアにガムボールマシンを設置したって?
ヴィットーリオ:画家先生、あんたってやつは
ウィンストン:……。
ヴィットーリオ:本当に、お人好しで、最高の画家なんだな?
ウィンストン:ほめ、られ、てるんですよね?
ヴィットーリオ:当然。
ウィンストン:あり、がとうござい、ます?
ヴィットーリオ:一本、吸うかい?
ウィンストン:え、あ、いや、け、結構です。
ヴィットーリオ:なんだ、あんた煙はやらないのかい?
ウィンストン:え、ええ。
ヴィットーリオ:酒は?
ウィンストン:あんまり、強くないです、ね。
ヴィットーリオ:へえ。画家先生にしちゃ珍しい。
ウィンストン:そう、ですか?
ヴィットーリオ:そんな名前で煙も酒もやらねぇだなんて、いい育ちってわけだな。
ウィンストン:そんな名前、っていうと……?
ヴィットーリオ:ウィンストン・キャスター・ホワイト。
ヴィットーリオ:有名な煙草の銘柄だろ?
ウィンストン:は、はあ、ちょっと、よく、わからないです。
ヴィットーリオ:はは、そうかい、まあ、こんなもん吸わないほうがいいわな。
ヴィットーリオ:一本、失礼するよ。
ウィンストン:あ、はい、ど、どうぞ。
0:胸ポケットから煙草を取り出し、口にくわえるヴィットーリオ。
0:取り出した煙草は「ウィンストン・キャスター・ホワイト」。
ヴィットーリオ:(静かに煙を吹かす)
ヴィットーリオ:あんた、なんの為に絵を描くんだい。
ウィンストン:……そ、それが、僕をここに連れてきた理由、ですか。
ヴィットーリオ:な・ん・で、絵を描くんだい?先生。
ウィンストン:……それを説明したら、ここから解放して、くれ、ますか?
ヴィットーリオ:質問に質問で返すたあいい度胸してるじゃねえか、先生。
ウィンストン:う……。
ヴィットーリオ:(煙草を咥えながら)
ヴィットーリオ:質問されたら簡潔に答える、それが社会のルールだって教わらなかったかい、先生。
ヴィットーリオ:それとも……
0:ごそごそと胸ポケットを更に探る
ウィンストン:け、拳銃で脅すとかぁ!そういうのは!よ、よくないと思うんですよぉ!
ヴィットーリオ:……ぷ、ははは!拳銃?あんたに?バカいっちゃいけねえ。
0:胸ポケットから携帯灰皿を取り出す
ヴィットーリオ:これだよこれ、うちの組じゃ煙草を吸うのは俺だけでね。
ウィンストン:は、灰皿、な、なんだー……び、びっくりした。
ヴィットーリオ:まあ、あんたの返答次第じゃ、鉛玉はここじゃないどこかに飛ぶ事になるがね。
ウィンストン:りりりりりリリアーナに手を出したらただじゃおかないぞ!!!!!
ウィンストン:ぼ、僕はカラテだって出来るんだ!つ、通信教育でちょっとかじっただけだけど!!!
ヴィットーリオ:へえ?やりあおうってのかい?
ウィンストン:あ、あばばばばば
ヴィットーリオ:……へっ、画家先生、そう簡単にパートナーの名前を口にするもんじゃねえぜ。
ヴィットーリオ:それは相手に「狙ってください」って言ってるようなもんだ。
ウィンストン:あ、わ、あわわ。
ヴィットーリオ:そう身構えるなよ、先生。
ヴィットーリオ:あんたの反応があんまりに可愛すぎてついいじめたくなっちまう。
ウィンストン:……え?
ヴィットーリオ:まあ、あんたが勝手に怖がってるだけだが。
ウィンストン:……なんかこう、悪い人、なんじゃ、ないんですか?あなた。
ヴィットーリオ:あんたにゃ俺がマフィアか何かに見えてるのかい?
ウィンストン:違うんですか?え?だって組とかなんとかって……
ヴィットーリオ:俺はただあんたの目の前で煙草を吹かしてるだけじゃあないか?
ウィンストン:……言われて、みれ、ば?
ヴィットーリオ:まあ、マフィアだけど。
ウィンストン:やっぱマフィアじゃん!!!!やだ!やだーーーーもうやだーー!!!!!
ヴィットーリオ:うるせえ!!
ウィンストン:はひいいいいい、す、すいませんんん。
ヴィットーリオ:……うちのオヤジがいたくあんたを気に入っててね。
ヴィットーリオ:俺ぁ、芸術だか現代アートだかってのはよくわからねえ。
ヴィットーリオ:だから、教えてくれよ、あんた、なんで絵を描くんだい。
ウィンストン:……その、オヤジさんっていうのは、僕の何を気に入ってくれてるんですか。
ヴィットーリオ:質問に質問で答えるなって言わなかったか?先生。
ウィンストン:……でも、先にそれを、教えてほしい、です。
ヴィットーリオ:……ふん。急に目つきが変わりやがる。
ウィンストン:……こ、これでも、画家の端くれ、です、から。
ヴィットーリオ:……あんた、全然天才っぽくないだろ。
ウィンストン:……ほめ、られて、ます?
ヴィットーリオ:いいや、褒めてはいねぇな。
ウィンストン:そ、そうですか。
ヴィットーリオ:プロフェッショナルってのは、自ずとその空気が出てくるもんだ。
ヴィットーリオ:野球のスター選手はどんどんと胸を張る、高慢になるやつもいるだろうな。
ヴィットーリオ:医者なんてもっと酷い、気づけば全員「ワタシが命をコントロールしてます」みたいな顔つきになっていく。
ヴィットーリオ:どうしたって人間は、才能や努力を突き詰めていった先で、人間辞めるだろ?
ウィンストン:そ、そう、です、かね?
ヴィットーリオ:でも、あんたはずっと人間だ。しかも、そこら辺に居そうな。
ウィンストン:……褒められてないですよね、これ。
ヴィットーリオ:ああ、俺は褒めてねえよ。
ヴィットーリオ:だがな、オヤジはそれがいいって言うんだよ。
ウィンストン:……天才っぽくない、僕が、いいってこと?
ヴィットーリオ:絵描きっぽくないんだろ、オヤジから見ると、あんたって絵描きは。
ヴィットーリオ:絵をひけらかすわけでもなく、3億を手に入れてもあんたがしたことはただガムボールを置いただけだ。
ウィンストン:お、おいしいものだって食べましたよ。
ヴィットーリオ:その考えが凡庸(ぼんよう)なんだよ。
ウィンストン:ぼ、凡庸。
ヴィットーリオ:変わるだろ、普通、大金を手にすれば。
ヴィットーリオ:環境が変われば、持てはやされれば。
ウィンストン:……それは。
ヴィットーリオ:だが、あんたの絵は何も変わらない。
ヴィットーリオ:ずっと、ずっと、あんたがそのまま出てるんだとよ。
ウィンストン:……その、オヤジさんって、すごく、アートが好きなんですね。
ヴィットーリオ:まあ、人間の輪切りの標本ほしがるくれえだからな。
ウィンストン:……今なんて言いました?
ヴィットーリオ:ま、現代アートってやつが好きなんだろうよ。
ウィンストン:え、ねえ、人間の輪切りって言いました?今、ねえ?
ヴィットーリオ:質問に答えろよ、画家先生。
ウィンストン:ねえ!人間の輪切りって言いましたよね!!!!今!!!!
ヴィットーリオ:いいから答えねぇか!!!!!
ウィンストン:ひ、ひいいいい、すいませんすいませんすいません。
ヴィットーリオ:はあ、調子狂うな。これだから一般人の相手はしたくねえんだ。
ウィンストン:……絵を、描く理由……。
ヴィットーリオ:そうだよ、それを聞きたがってんだ、うちのオヤジは。
ウィンストン:………………「わからない」です、ね。
ヴィットーリオ:…………あ?
ウィンストン:絵を描く理由、わからない、かも。
ヴィットーリオ:はあ?????あんた自分で何を言ってるかわかってんのか?
ウィンストン:だって、「そんなこと考えた事もなかった」。
ヴィットーリオ:……「そんなこと考えた事もなかった」?
ウィンストン:……あんた、なんで煙草を吸うの?
ヴィットーリオ:……は?
ウィンストン:煙草を吸いたい理由、ある?
ヴィットーリオ:…………。
ウィンストン:…………気づいたら描いてる。描くのが当たり前すぎて、気づいたら描いてるんだ。
ウィンストン:好きとか、嫌いとか、思う事もある。
ウィンストン:やめようと思った事も、正直何度だって。
ウィンストン:でも「なんで僕は絵を描くんだろう」って思った事は、無いよ。
ウィンストン:気づいたら、描いてるんだ。
ヴィットーリオ:いかれてんな。
ウィンストン:そ、そう、かな。
ヴィットーリオ:……くそったれ。
ウィンストン:く、くそってなんだよ、聞いておいてそれはないんじゃない?
ヴィットーリオ:「オヤジ」は、きっとあんたはそう言うだろうって言ってやがった。
ウィンストン:……え。
ヴィットーリオ:くそったれ、全部お見通しらしい、あのくそオヤジには。
ヴィットーリオ:……悪くねえ、気に入ったよ、画家先生。
ウィンストン:……じゃあ、家に帰して、くれますか。
ヴィットーリオ:そりゃ無理な相談だ。
ウィンストン:な、なんでだよ!
ヴィットーリオ:そりゃ、ここからが本題だからだ、先生。
ウィンストン:……ええ?
ヴィットーリオ:まさかこんな事が聞きたくてあんたを白昼堂々さらってきたわけじゃねえさ。
ウィンストン:何が、狙いなの。
ヴィットーリオ:絵を、描いちゃくれねえか。
ウィンストン:………………え?
ヴィットーリオ:絵だよ、絵。
ウィンストン:今もしかして、絵を描いてくれって言った?
ヴィットーリオ:言った。
ウィンストン:運び屋をしろとか、そういう意味の暗号だったりする?
ヴィットーリオ:どんな暗号だよ。
ウィンストン:わかった!!!描いた絵に麻薬か何かを仕込んで密輸するとかそういう!?
ヴィットーリオ:なんでそんなめんどくさいことしてヤク運ばないとならんのだ。
ウィンストン:……絵を描けって言った?
ヴィットーリオ:言ったって言ってるだろ、しつこいなあんたも。
ウィンストン:なら普通に依頼してよ!!!!!!!
ヴィットーリオ:それもそうだな、次からはそうしよう。
ウィンストン:絵の依頼で黒塗りの車に押し込められる事なんてこの先そうそうないよ!!!
ウィンストン:どうもありがとう貴重な体験を!?
ヴィットーリオ:へへ、現代アートの巨匠に感謝されると少し嬉しいな。
ウィンストン:皮肉で言ったんだよ!キミも大概厄介者だな!?
ヴィットーリオ:わかってて乗ってんだよ、画家先生。
ウィンストン:あ、そ、そうですか、すいません
ヴィットーリオ:……で、描いてくれるのか?どうなんだ?
ウィンストン:……お断りします。
ヴィットーリオ:……ほう?良い度胸だな。
ウィンストン:……こんな事をする人に、いいですよなんて言えるのは入れ歯のアリゲーターガーくらいなもんだよ……。
ヴィットーリオ:入れ歯の、なんだって?
ウィンストン:アリゲーターガーだよ!知らないの!?淡水の超巨大魚だよ!
ヴィットーリオ:ああもうそんなのどうだっていい!アーティストの例え方はいまいちわからん!
ウィンストン:……家に、かえしてよ。
ヴィットーリオ:なら、絵を描け、ウィンストン・パノマール。
ウィンストン:……こんな圧力をかけて描かせた絵に意味なんてあるの?
ヴィットーリオ:……へえ、言うじゃないの。
ウィンストン:言うよ、だって、これは絵に対する冒涜だ。
ヴィットーリオ:……どうすればいい?
ウィンストン:どうすればって……普通に、依頼してくれたらいいじゃないか。
ヴィットーリオ:次からはそうする。今、どうすれば絵を描いてくれる?
ウィンストン:…………どんな絵を、描いて欲しいの?
ヴィットーリオ:描いてくれるのか?
ウィンストン:ち、違う。まだ描くとは言ってない!でも、なんか、理由でもあるのかと、思って。
ヴィットーリオ:……あんたなら、描けるかもしれねえと、そう踏んだ。それだけの事だ。
ウィンストン:……僕なら、描ける?
ヴィットーリオ:ああ。あんたなら、描ける。
ウィンストン:……この間から、なんか含みのある依頼ばっかりだなあ……。
ヴィットーリオ:何がだ?
ウィンストン:こっちの話……。
ウィンストン:……どんな絵を、描けって言うんだい。
ヴィットーリオ:…………「目の見えない人間に、見せる絵」を描いてくれねえか?
ウィンストン:……目の見えない、ひとに?
ヴィットーリオ:そうだ。
ウィンストン:……これは試練か何かなのかい?オーマイゴッシュだ……。
ヴィットーリオ:描けるのか、描けないのか、どうなんだ。
ウィンストン:……キミは、マフィアなんだよね?
ヴィットーリオ:……ああ、ベスタフ州じゃ、知らない奴は居ない。
ウィンストン:ベスタフ……治安悪いところだ。
ヴィットーリオ:そうだ。だからマフィアが必要なんだ、あのあたりじゃ。
ウィンストン:……どんなことを、してるの?マフィアでは。
ヴィットーリオ:それを聞いてどうする?
ウィンストン:……例えば、人を、殺したり、危ないものを運んだりも、するわけでしょ。
ヴィットーリオ:まあな。それが、仕事なら。
ウィンストン:……存在しない相手を殺せって言われたら、あんたなら、どうするの?
ヴィットーリオ:……それが、今回の答えだと受け取っていいんだな?ウィンストン・パノマール。
ウィンストン:…………。
ヴィットーリオ:…………そうか、ま、そうだよな。
ウィンストン:…………。
ヴィットーリオ:…………ここで起きた事は忘れてくれ、画家先生。
ヴィットーリオ:帰りは部下に送らせる、駅前まででいいな?
ウィンストン:……誰なんだい。
ヴィットーリオ:あ?
ウィンストン:その、目の見えない人っていうのは。
ヴィットーリオ:それは部外者が殺しのターゲットを聞くような行為だぜ?先生。
ウィンストン:……そうかもね。
ヴィットーリオ:あんた、覚悟はあんのかい?
ウィンストン:……あのさあ!
ヴィットーリオ:あ?
ウィンストン:怒ってるんだよ、ぼくは!
ヴィットーリオ:な……。
ウィンストン:なんなんだい!もう!マフィアはそんな風にしか話せないの!?
ウィンストン:そんな劇的じゃないと依頼もできないの!?
ウィンストン:もう、普通に僕のアトリエに来て、普通に相談してくれたらいいじゃない!
ヴィットーリオ:お、おお……。
ウィンストン:挙げ句、目の見えない人に見せるための絵とか!無理難題すぎるでしょ!
ウィンストン:普通は受けないよ、いや、普通でも受けないよ、そんな依頼!
ヴィットーリオ:す、すまん。
ウィンストン:……大切な人なの?
ヴィットーリオ:……妹だ。
ウィンストン:あんたの?
ヴィットーリオ:……ああ、血のつながりはねぇんだがな。俺の大切な妹だ。
ウィンストン:……まったく見えないの?
ヴィットーリオ:ああ、産まれてこのかた光さえ感じた事はねえ。
ウィンストン:……なんで、絵を見せたいのさ。
ヴィットーリオ:……笑うなよ?
ウィンストン:笑わないよ。
ヴィットーリオ:……見せたいって、おもっちまったのさ。
ウィンストン:……僕の、展示会に、来てから?
ヴィットーリオ:ああ。
ウィンストン:……僕の、絵を、見てから?
ヴィットーリオ:そうだ。
ウィンストン:……ずるいなあ。
ヴィットーリオ:そうか?
ウィンストン:ずるいよ、そんなこと言われたら
ウィンストン:……頑張りたく、なっちゃう。
ヴィットーリオ:アートのことは、いまいちわかんねえよ。
ヴィットーリオ:でも、なんか、いいって思っちまったんだよ。
ウィンストン:……わかるよ、そういう、ときめきみたいな奴。
ヴィットーリオ:見せてやりてえんだよ、その、妹にも。
ウィンストン:……見せて、あげたいね。
ヴィットーリオ:……なんとか、頼めないか?
ウィンストン:……。
ヴィットーリオ:なあ、画家先生。
ウィンストン:……。
ヴィットーリオ:ウィンストン先生、この通りだ。頼む。(土下座をする)
ヴィットーリオ:あんたにゃ関係のない話だが、この道に入って一度たりとも人に頭をさげたことはねえ。
ヴィットーリオ:それが誇れることじゃないのはわかってる。
ヴィットーリオ:だが、あんたにはいくらでもこの頭を下げてもいいと思ってる。
ヴィットーリオ:これくらいじゃ足りねえ事もわかってる。
ヴィットーリオ:いくらでも、あんたが欲しいだけの金を積む。
ヴィットーリオ:だから、頼む、ウィンストン先生。
ヴィットーリオ:絵を、描いちゃくれねえか。
ウィンストン:……キミ、名前は?
ヴィットーリオ:……ヴィットーリオ。ヴィットーリオ・チョッパーズだ。
ウィンストン:……チョッパーズさん、頭をあげてください。
ヴィットーリオ:……いいや、あんたがイエスって言うまでこの頭はあげらんねえ。
ウィンストン:……イエスとは、言えないよ、やっぱり。
ヴィットーリオ:……………………そうか、そう、だよな。
ヴィットーリオ:すまねえ、そりゃそうだ、義理もねえしな。
ウィンストン:……描くことは、できないよ。
ヴィットーリオ:わかった、それ以上何も言わないでくれ、チンピラのただの妄言だった。
ウィンストン:…………描く事は、ね。
ヴィットーリオ:…………あ?
ウィンストン:引き受けるよ、その依頼。
ヴィットーリオ:……なんだって?
ウィンストン:引き受けるって言ったんだよ、チョッパーズさん。
ヴィットーリオ:あんたそりゃ、引き受けるって意味か?
ウィンストン:そうだよ、それ以外にある?
ヴィットーリオ:あ、あんた、そりゃ、いや、もう、なんていうか、へへ、はは
ヴィットーリオ:あんた、バカなんじゃないか、や、いや、ちがう、そういう意味じゃなくて
ヴィットーリオ:マンマミーア、そんな、本当に?
ウィンストン:……見せたくなる絵だった、なんて言われて、何もしないなんて画家じゃないだろ、そんなの。
ヴィットーリオ:ああ、はは、すげえ、すげえや。
ヴィットーリオ:ありがとう、ウィンストンさん、あんた最高だ。
ヴィットーリオ:いくらでも積む、いくらがいい、俺の貯金ぜんぶ渡したっていい!
ヴィットーリオ:待ってろ、たしか8億くらいは口座に……
ウィンストン:お金は、受け取れない。
ヴィットーリオ:なんでだ!それじゃ俺の気が済まない!受け取ってくれ!
ウィンストン:だめだよ。
ヴィットーリオ:どうして!まさかあんたそんなところも聖人じみてんのか?おいおい
ウィンストン:いや、絵は、描かないから。
ヴィットーリオ:……は?
ウィンストン:依頼は受けるよ。でも、絵は描けない。
ヴィットーリオ:……あんた、何言ってる?
ウィンストン:無理だ。
ヴィットーリオ:……。
ウィンストン:壊す目的の絵を描くことはできる。味のなくなった絵を皮肉った絵を描く事もできる。
ウィンストン:……でも、目の見えない人に見せるための絵を描くことはできない。
ヴィットーリオ:……じゃあ、なんで依頼を受けるって?
ヴィットーリオ:金も受け取らねえ、絵は描かねえ、でも依頼は受ける?
ヴィットーリオ:ずっと何言ってんだあんた。
ウィンストン:……僕が描くんじゃない。
ヴィットーリオ:……あんたが、描くんじゃ、ない?
ウィンストン:描こう、その、妹さんと、一緒に。
ヴィットーリオ:……何を、言って。目の見えない人間に、絵を描かせようってのか?
ウィンストン:そうだ。
ヴィットーリオ:馬鹿言うなよ、おい、あんた本物の馬鹿か。
ヴィットーリオ:目の見えない人間に、どうやって絵を描けっていうんだよ。
ヴィットーリオ:何も見えないんだぞ。妹は。
ウィンストン:無茶な事言ってるよ。
ヴィットーリオ:ああ、無茶だ!
ウィンストン:でも、見せたくなったんだろ、あんたも。
ヴィットーリオ:……。
ウィンストン:「絵そのもの」に価値なんて無いんだ。
ヴィットーリオ:……は?
ウィンストン:ただ、そこには、画家やアーティストの魂が入ってるだけ。
ウィンストン:作品は、それらの器でしかないんだよ、チョッパーズさん。
ヴィットーリオ:わかんねえな、画家先生、あんたの言ってることがわからねえ。
ウィンストン:絵そのものに価値があるんじゃない。
ウィンストン:それを見て、感動したあんたの心に価値があるんだよ。
ウィンストン:その絵が、できるまでの過程に勝ちがあるんだ。
ウィンストン:出来上がって、飾って、あんたと出逢って、そのあんたが
ウィンストン:目の見えない妹に、見せたいと思ったあんたの心に価値があるんだよ。
ヴィットーリオ:……。
ウィンストン:クロード・モネという画家がいる。
ヴィットーリオ:「睡蓮」の……?
ウィンストン:知ってるじゃないか。
ヴィットーリオ:……オヤジに、多少は、な。
ウィンストン:彼は晩年、目が見えなかったんだ。
ウィンストン:それでも、それでも絵を描いた。描き続けた。
ウィンストン:目が見えない事はハンデかもしれない。
ウィンストン:でも、目が見えないからって絵を描けない理由にはならない。
ウィンストン:あんたは、絵を見せたかっただけじゃない、その、絵を見た時の感動を
ウィンストン:妹さんに、あげたかった、違う?
ヴィットーリオ:…………感動、させられるか?
ウィンストン:感動、させられるよ。僕らのほうが、きっと。
ヴィットーリオ:……頼んでいいのか、そんなこと。
ウィンストン:マフィアが、ターゲットの事部外者に教えたりする?
ヴィットーリオ:……しねえな。
ウィンストン:じゃ、じゃあ、僕は今同じマフィアの一員ってことだ!
ヴィットーリオ:……は、はは、あんた、いかれてんな。
ウィンストン:……僕の絵で、感動してくれてありがと。
ヴィットーリオ:……こちらこそだよ、大先生。
ウィンストン:それじゃあ、ちょっと、お願いしたいことがあるんだけど……
ヴィットーリオ:なんだ?なんでも用意する、金か?画材か?
ウィンストン:純度の高いやつを、お願いしたいんだよ、ね……
ヴィットーリオ:……ええ?
ウィンストン:純度の高い、チャイの茶葉!3人分!
0コメント