膿覗き(0:0:4)
【配役】
◆穏やかではある人:
穏やかな口調ではある。
◆ヒステリックな人:
ヒステリック気味で、昔はよく笑っていて、女優になるのが夢だった。
◆高圧的な人:
高圧的に話す、あと数年で定年であると酔っ払いながら話していた。もう話さなくなった。
◆私:
私である。 私とはこの物語で台詞が1つも用意されていない。 この台本の中で私が許されていることは呼吸をすることだけ。 この物語で禁じられているのは、ミュートをすることと 呼吸を止めてしまうこと。
小さな部屋には私がひとり。
呼吸することしか許されていない。
横になる私。
立ったまま話3人と、横になる私。
呼吸することしか許されない。
呼吸することしか。
私:(あなたはこの時間、呼吸をすることしか許されない)
私:(これは台詞ではない)
私:(あなたはこの物語の間、呼吸をすることしか許されない)私:(逆に言えば)
私:(呼吸をすることだけを強いられてる)
私:(ミュートすることを禁ずる)
私:(呼吸を止めることを禁ずる)
高圧的な人:それで、どうなんだ。
ヒステリックな人:どうって?
高圧的な人:わかるだろ。
穏やかではある人:むしろ、見てわからない?
高圧的な人:まあ、そうか。
ヒステリックな人:明日から旅行だっていうのに。
穏やかではある人:大丈夫だよ、3日間くらいなら。
高圧的な人:まあ、そうだな。キャンセル料も馬鹿にならないわけだし。
ヒステリックな人:キャンセル料!キャンセル料なんてとんでもない!馬鹿げてる!
高圧的な人:だから、そうだって言っただろ。
穏やかではある人:揉めないでよ2人とも。
ヒステリックな人:だってこの人が余計な事言うから!
高圧的な人:余計とはなんだ、同じ事を言ってるんだろうが。
穏やかではある人:ああもう、わかったわかった。
ヒステリックな人:それで、どうするのよ。
穏やかではある人:どうするって?
ヒステリックな人:食事とか。
高圧的な人:なんだ、予約とってないのか?食べたいって言ってたのはお前だろ、あの、生しらす。
ヒステリックな人:そっちじゃない
穏やかではある人:ああ、そういうこと。
ヒステリックな人:そう。そういうこと。
高圧的な人:なんだ?
穏やかではある人:食事よりも水分のほうじゃない?
ヒステリックな人:ああ、それもそうね。
高圧的な人:どうするんだ?
穏やかではある人:うーん。スマホで調べてみる。
ヒステリックな人:あるの?
穏やかではある人:あるでしょ。
高圧的な人:あるか?
穏やかではある人:まぁ、発想の転換でしょ。
ヒステリックな人:昔からアイデアだけはすごいもんね。
穏やかではある人:まあね。
高圧的な人:どうだ?あったか?
穏やかではある人:あー、これとかどう?
ヒステリックな人:どれ?見せて?
穏やかではある人:これ。旅行の時の植木鉢への水のやり方。1週間くらいこれで行けるみたい。
ヒステリックな人:必要なものは?
穏やかではある人:バスタオルと、大きめのバケツだって。
高圧的な人:バケツなら仕事で使ってた大きいのがあるぞ。
穏やかではある人:いいね、それ使おう。
ヒステリックな人:バスタオルもあるから、買い足すものは無いね。
穏やかではある人:じゃあバケツに水汲んできて。
高圧的な人:はいよ。
ヒステリックな人:バスタオル取ってくるね。
穏やかではある人:うん、お願い。
私:(呼吸が荒くなる)
穏やかではある人:鎌倉かあ。何年ぶりだろ。
私:(呼吸は荒いままである)
穏やかではある人:あ、江ノ島のカフェ予約するの忘れてた。あぶな。
私:(何かを言いたくても無情である、あなたは何も声を発することはできない)
穏やかではある人:……動いた?
私:(呼吸は続く)
穏やかではある人:まさかね。
高圧的な人:持ってきたぞ。
穏やかではある人:ありがとう、そこに置いて。
高圧的な人:6リットルもあればいいか?
穏やかではある人:一日2リットルあればいいわけでしょ?
高圧的な人:そう言うよな。
穏やかではある人:じゃあいいんじゃない?
ヒステリックな人:乾いてるバスタオルこれしか無かった。
穏やかではある人:ああ、いいんじゃない?ちょっと短い気もするけど。
ヒステリックな人:……なんか臭くない?
穏やかではある人:そう?生乾き?
ヒステリックな人:いや、そうじゃなくて、この部屋。
穏やかではある人:あー……してるかも。
高圧的な人:なんだ、してるのか。
ヒステリックな人:変えておいてよ。
高圧的な人:お前がやれよ。
ヒステリックな人:なんで?そうやって押し付けるわけ?
高圧的な人:今水汲んできたんだぞ?
ヒステリックな人:だから何?疲れてるって?
高圧的な人:話にならないな。
穏やかではある人:喧嘩しないでって。明日旅行なんだよ?
ヒステリックな人:だって。
穏やかではある人:いいよ、どうせしばらく交換できないんだし。
高圧的な人:それもそうだな。
ヒステリックな人:あの江ノ島のカフェ予約した?
穏やかではある人:さっきした。
ヒステリックな人:忘れてたの?
穏やかではある人:忘れてた。
ヒステリックな人:もー、危ないなあ。
高圧的な人:車のガソリン入れてくる。
ヒステリックな人:あ、コンビニの近くのとこ?
高圧的な人:ん。
ヒステリックな人:じゃあ一緒にいく。お金おろさなきゃ。
高圧的な人:おろしてなかったのか?
ヒステリックな人:忘れてたんだもん。
穏やかではある人:えー、人のこと言えないなあ。
ヒステリックな人:皆で行けばいいでしょ。
穏やかではある人:まあ、そっか。
穏やかではある人:あ。ほら、バスタオル、バケツに垂らして。
ヒステリックな人:あ、そっか、ごめんごめん。
穏やかではある人:反対側を、そう、口のとこに。
ヒステリックな人:突っ込んでいいよね。
穏やかではある人:いいと思う。
ヒステリックな人:おっけ。
穏やかではある人:じゃあ、いこっか。
穏やかではある人:行ってきます。
私:(それでも、あなたは呼吸しかできない。)
私:(呼吸をすることしか。)
0コメント