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臍帯とカフェイン|声劇シナリオ・ポエトリー

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Spot right(0:1:4)

【配役】

◆ドルチェ:

 誰もだませた事のないペテン詐欺師。ドルチェ・クラウン。劇中の性別は男性ですが、性別不問。


◆ルシオ:

 小劇団「テレサ」の座長。パティオの親友。看護師長をしている。ルシオ・ルシア。劇中の性別は女性ですが性別不問。


◆シルバ:

 病院に通う演技に詳しい人。シルバ・ブライトマン。劇中の性別は男性ですが、性別不問。


◆ロビン:

 ドルチェを追う警察官。ロビン・フォレスト。劇中の性別は男性ですが性別不問。


◆ユウナ:

 メイヴ・ハーティに憧れる盲目の女性。劇中の性別は女性です。


【詳細】

ジャンル:ヒューマンドラマ

配役:性別不問4名 女性1名

時間:約45~50分





すべての創作者と、すべての表現者へ。



0:【場面】ホリベス田舎町のどこか、逃げては追う


ロビン:待て、逃げるな!止まれ、ドルチェ!


ドルチェ:止まれって言われて止まる馬鹿がいるかよ


ロビン:性懲りも無く何度も何度も!これが何回目の通報かわかってるのか!


ドルチェ:知るかよそんなの、こちとら仕事してるだけだ


ロビン:一度も成功したこと無いだろうが、この下手くそ詐欺師が!


ドルチェ:い、良いところでお前が邪魔しに来るからだろ。


ロビン:良いところだった事なんて無いだろうが、逃げるなって言ってるだろ、とまれ!


ドルチェ:逃げ足だけは一流ってボスにも言われてるんでね


ロビン:逃げ足だけじゃ成り上がるなんて夢のまた夢だろ?ドルチェ


ドルチェ:うるさいポリ公だな、まったく


ドルチェ:体調悪くしてるか?声がいつもより1オクターブ低いな?


ロビン:お前がこうやって人様に迷惑かけてるからだろうが!


ドルチェ:知るかよそんなこと、じゃあな、ポリ公!


ロビン:なっ……お前、ドルチェ!くそ……戻って来いドルチェ!おまえ!

ロビン:「詐欺師の才能なんて無いんだよ!」


ドルチェ:(モノローグ)

ドルチェ:物心ついた頃から、決して褒められるような人生では無かった。

ドルチェ:誰かに何かを奪われるのが当たり前だし、誰かの何かを奪うのが当たり前だった。

ドルチェ:誰にでも嘘をついて、生き延びてればそれでよし。そんな人生だった。


0:ホリベス田舎町のどこか、病院のロビーにて


ユウナ:ねえ、ルシオさん、私ね、演劇っていうのを聞きに行きたい


ルシオ:劇か……それは、やっぱりあれ?


ユウナ:うん、国立劇団。ルシオさんのお友達、入団してるんでしょ?


ルシオ:ふふ、そうだよ、すごいでしょ。


ユウナ:いいな、すごいなあ、私も国立劇団、行ってみたいなあ


ルシオ:ユウナはどの役者さんに会いたいの?


ユウナ:えっとね、やっぱりそれは座長の……


シルバ:やあ、ルシオ、ユウナ、こんにちは。


ユウナ:あ、シルバさんの声


シルバ:やあ、ユウナ、今日は顔色がいいね。


ユウナ:シルバさんは今日もいいお声だね。


ルシオ:本当、いい声だよねえ、シルバさんって。


シルバ:そんなことないよ、全然、そんなことない。


ルシオ:今日は?どうしたの?


シルバ:ちょっと腰が痛くてね、湿布をもらいに来たのさ。


ユウナ:それは大変!


ルシオ:もうすぐ受け付け始まるから、シルバさんそこで座っててね。


シルバ:ありがとさん。


0:【場面】ホリベス田舎町、パトカーの中で


ロビン:ロビン・フォレストから本部。通報のあった詐欺師はまたも逃走。

ロビン:特に被害はなし。はいはい、すいませーんと。

ロビン:……まったく。ドルチェ、お前もいい加減足洗えよな………。


ドルチェ:(モノローグ)

ドルチェ:そうして生きるのが当たり前だった。

ドルチェ:そんな人生、ドラマにも舞台にもならない。

ドルチェ:俺は、どこまでいっても脇役で、それでよかったんだ。

ドルチェ:きっとそれは、今も、多分、もしかしたら。

ドルチェ:それでも、人生には、誰のでもない、いや、誰のでもある

ドルチェ:人生というものには、必ずあるんだ。



ドルチェ:(タイトルコール)

ドルチェ:Spot right(スポットライト)



0:【場面】ホリベスの田舎町、誰にも見られずに


ドルチェ:……ったく、あのクソポリ公。今度こそはうまくいくと思ったんだけどな。

ドルチェ:ちくしょう、結局また一文無しだ。

ドルチェ:……また、カモを探さなきゃな。


ルシオ:もしもし、パティオ?ふふ、うん、久しぶり。


ドルチェ:はあ。今度はどうやって金を稼ごうか……


ルシオ:うん、見たよマンションの写真、すごいね。すごく高かった。


ドルチェ:ああ、くそ、腹減ったな……


ルシオ:どう?都会の生活は。もう寂しくなったりしてない?


ドルチェ:今使える衣装って何残ってたっけ、ありゃ……白衣はもう破れてら……


ルシオ:なーんだ、寂しいって言ったら飛んでいってあげたのに。


ドルチェ:学者も、だめ。虫食ってる。


ルシオ:そうそう、会えた?誰って、決まってるだろ?ほら


ドルチェ:はーあ、金持ちで有名なやつとかならこんなひもじい思いとかしないんだろうな。


ルシオ:(揃わなくても同時に)メイヴ・ハーティ!

ドルチェ:(揃わなくても同時に)メイヴ・ハーティとか


ルシオ:ん?


ドルチェ:あ?


ルシオ:あ、いや、ごめんごめん、大丈夫、ちょっとこっちで奇跡が起きてただけ。


ドルチェ:……そうか!これだ!俺様ってばやっぱり天才なのでは!?


ドルチェ:(モノローグ)

ドルチェ:国立劇団のメイヴ・ハーティ、昔一度だけ舞台を観たことがある。

ドルチェ:拍手喝采を受け、紙吹雪の舞う中で輝き続けるその姿を。

ドルチェ:俺とはかけ離れた位置にいる人、絶対に近づけない人、嘘だからなれる人。


0:【場面】病院のロビー


シルバ:「詐欺師に注意」?


ロビン:ええ、この辺りに潜伏している可能性があるので。


ルシオ:それ、ちょっと怖いですね。


ロビン:あー……でも、そこまで驚異があるわけじゃなくて。


シルバ:と、言うと?


ロビン:一度も、詐欺が成功したことがない詐欺師でしてね。


ルシオ:成功したことがない?


ロビン:下手くそすぎましてね、詐欺が。


シルバ:はっは、才能の無いペテン師?


ロビン:まあ、そういうことですね。


ルシオ:騙された人がまだ居ないなら、その人って捕まる意味あるんです?


ロビン:騙された人が居なくても、詐欺は詐欺ですよ。


シルバ:それで、こいつが来たらあんたに連絡すればいいんだね?


ロビン:ええ、直接こちらの番号にご連絡いただければ。


ルシオ:このチラシ、院内に貼りだしても?


ロビン:ええ、もちろんです。


シルバ:それにしても、詐欺師の世界にも才能の有無があるとはな。

シルバ:どの世界にも、必ずあるものと考えると、才能とは恨めしいものだ。


ルシオ:シルバさんが言うと、なんだか説得力が違いますね。


シルバ:貫禄、あるだろ?


ルシオ:はい、とっても。

ルシオ:あ、いけない、ナースコール。ごめんなさい、失礼しますね。


ロビン:いえ。それでは、宜しくお願いします。


0:【場面】ある日の病院前広場


ドルチェ:さーあ、よってらっしゃいみてらっしゃい。

ドルチェ:我こそは国立劇団の座長、メイヴ・ハーティだ。

ドルチェ:サインでも握手でもなんでもござれ、さあさあ、国立劇団のメイヴ・ハーティだよー。


ルシオ:……ぷっ、く……シルバさん、あれ……


シルバ:く、くく、あれだな


ドルチェ:ほら、そこのおばあちゃん、俺があのメイヴ・ハーティさ。

ドルチェ:握手をしようか?サインも書くぜ?その代わりと言っちゃなんだが

ドルチェ:そうそう、少しばかりお恵みを……


ルシオ:シルバさんごめん、私耐えらんない、あははは……本当に居た……下手くそな詐欺師


シルバ:本当に下手くそだな、まずディテールが悪い。


ルシオ:一応メイクで寄せてはいるのがちょっと可愛いじゃないですか


シルバ:これで本人は一生懸命な所も相まってだな。


ルシオ:あ、ほら、カサブランカおばあちゃんがオレンジあげてる。


シルバ:ちょっとまんざらでも無いのがいいな。


ルシオ:メイヴ・ハーティがこんな所で物乞いするわけないのに。

ルシオ:例の警察の人に、連絡しときます?


シルバ:うーむ、もう少し様子を見てもいいんじゃないか?


ドルチェ:くそ、全然引っかからないな。手に入ったのがオレンジひとかけ?

ドルチェ:ぶるるる、背筋が冷えるぜ、まったく。


ユウナ:なんの騒ぎ?


ルシオ:ああ、ユウナ。聞こえる?


ユウナ:うん、誰かいるの?


シルバ:国立劇団の、メイヴ・ハーティだとさ。


ユウナ:メイヴ・ハーティ!?


ルシオ:ちょっと、シルバさん?


シルバ:すまんすまん、出来心で。


ユウナ:会いたい、私、メイヴ・ハーティに会いたい!


ルシオ:ユウナ、えっとね、これは


ドルチェ:呼んだかな!?そこのお嬢さん!


ユウナ:あ、あ……


ルシオ:(小声で)あーあ、もう、シルバさん!


シルバ:(小声で)すまんて


ユウナ:本物?本物のメイヴ・ハーティ?


ドルチェ:ああ、もちろん。本物さ。握手するかい?サインが欲しい?


ユウナ:サインはいらないの、ああ、素敵、ずっと、ずっとあなたに会いたかった。


ドルチェ:遠慮はいらないよ、ほら、サイン色紙をあげよう。


ユウナ:あ、えっと、うん、ありがとう。


ドルチェ:……どうしたんだい?受け取って?


ユウナ:ごめんなさい、どこにあるのか、わからなくて。


ドルチェ:……君、目が……?


ユウナ:うん、ごめんなさい、見えなくって。


ルシオ:ユウナ、病室に戻りましょう?


ユウナ:待って、お願い、もう少し。


ルシオ:でも。


ユウナ:ねえ、メイヴさん、お願いがあるの。


ドルチェ:なんだい?お願いって、あ、こちらも一つお願いがあって。


ユウナ:メイヴさんの頼みならなんでも聞くわ!


ドルチェ:え、あ、ありがとう、君のお願いっていうのは?


ユウナ:先に聞いてくれるの?


ドルチェ:もちろんだとも、さあ、言ってごらん?


ユウナ:私、あなたの演技が「見たい」


ドルチェ:え……?


ユウナ:今度ね、手術が控えてるの。


ドルチェ:手術……?


ユウナ:うん。その手術の前にね、あなたの演技が「見たい」の。


ルシオ:……ユウナ、戻ろう?


ユウナ:う、うん……メイヴさん、お願い、この町でも公演をして!そしたら私絶対見に行く。


0:ルシオに連れられ病室に戻るユウナ


ドルチェ:……なんだよ、俺のお願い聞く前に戻っていっちまった。


シルバ:……あんた、メイヴ・ハーティじゃ無いだろ?


ドルチェ:な、何を言ってるんだ、俺がメイヴ・ハーティだ。


シルバ:馬鹿いっちゃいけない、こんな田舎町でも流石に皆メイヴ・ハーティの顔くらい知ってる。


ドルチェ:……くそ、警察には言うなよ、俺はとんずらする……


シルバ:ただ1人を除いてな。


ドルチェ:え?


シルバ:あの子、目の見えない……ユウナという子だけは、お前さんを本物のメイヴ・ハーティだと思ったみたいだな。


ドルチェ:……目が見えないからだろ?


シルバ:ああ、そうだろうね。目が見えないから、お前さんのひどい変装ではなく、声に反応したんだろうよ。


ドルチェ:声?


シルバ:お前さん、耳がいいだろ?


ドルチェ:まあ、よく聞こえるほうだとは思うけど。


シルバ:いや、人の癖や、特徴を捉えるのがうまいと言ってるんだ。よく聞き分けてる。


ドルチェ:そう、なのか?


シルバ:だが、それの表現がてんでダメだ。


ドルチェ:言ってくれるね……


シルバ:どうだい?少しばかり、稽古をしてみないかね?


ドルチェ:は?稽古?


シルバ:そう、演技の稽古さ。


ドルチェ:そんなことして、何になるっていうんだよ?


シルバ:あの子が、あんなに興奮してワクワクした顔を見たのは久しいんだよ。

シルバ:それこそ、前にお兄さんが来たとき以来てんで笑わなくなった、心の底からは。


ドルチェ:……そんなの、俺には関係ない。


シルバ:警察には黙っててやる。


ドルチェ:ええ……?


シルバ:その間の衣食住も用意してやろう。


ドルチェ:あんたが?


シルバ:そうだ、保証してやる。


ドルチェ:……あんたのほうが詐欺師っぽいな、なんか。


シルバ:はは、なあに、近からず遠からずかもしれんな!


ドルチェ:ま、まあ、飯が食えるなら、申し分無いけど。


シルバ:はっは、なら決まりだな、早速うちに来い。


ドルチェ:堅いパンとかじゃ嫌だからな!ちゃんと牛乳の入った柔らかいパンを出してくれよ!?


シルバ:なかなか肝が据わってるな、あんた、名前は?


ドルチェ:……ドルチェ。ドルチェ・クラウン。


シルバ:そうか、道化師だなんて皮肉な名前だなあ。


0:【場面】ある日の病院のロビー


ルシオ:ええ!?あいつを匿ってるんですか!?


シルバ:しー!声がでかい、ルシオ


ルシオ:あ、あ、ごめんなさい……あまりにも衝撃的すぎて……


シルバ:演技に関しては少しだけ覚えがあってな


ルシオ:少しって何言ってるんですか……


シルバ:はっは。ちょっとな、育ててみたくなった。


ルシオ:絶対やめた方がいいですよそんなの。


シルバ:そう思うか?


ルシオ:そう思います。


シルバ:わかってはいるんだがなあ。


ルシオ:わかってるならどうして?


シルバ:演技が一番うまくなるヤツの特徴って、わかるかね、ルシオ。


ルシオ:ええー……それがわかってたら、私の劇団ももっと有名になってるんですが。


シルバ:はっは。そうだった、あんたも劇団の座長だったな。


ルシオ:ド田舎町の小劇団ですけどね~……うーん、なんだろ、表現がうまいこと?


シルバ:それも間違いではないけどね。


ルシオ:なんです?


シルバ:「良く聞いて、真似る事」だよ。


ルシオ:良く聞いて、真似る?


シルバ:そう。それで行くとあのドルチェというヤツァ、耳が良すぎるほど良い。

シルバ:……ひょっとすると、とんでもなく化けるぞ?


ルシオ:なんか貴方が一番楽しそうですね?


シルバ:わかる?


ルシオ:わかります。とても。それで、例のペテン師は?


シルバ:ユウナと話してるさ。


0:【場面】ユウナの病室


ユウナ:ふふふ、メイヴさんって面白い。劇団員さんってそんな事もするの?


ドルチェ:当然さ。すべてが演劇の肥やしになるんだ、どんなことでも経験しなくちゃ。


ユウナ:だからって、ふふ、全国を旅しながらお医者さんの真似したりするの?


ドルチェ:そうさ。嘘と演技は同じものだからね。


ユウナ:えー、本当かしら。


ドルチェ:本当さ、嘘は演技だし、演技だって嘘だ。


ユウナ:……私はすこし、違うと思うけどなあ。


ドルチェ:違う?


ユウナ:うん、本質は同じかもしれないけど、でも、演技は、嘘とは少し違うもの。


ドルチェ:……ユウナは、演技が好きなの?


ユウナ:うん、本物をきちんと見に行った事は無いんだけどね。ほら、私、目が見えないから。


ドルチェ:……そっか、何が起きてるか、わからないものな。


ユウナ:でもね、昔一度だけラジオでね、流れた事があるの。

ユウナ:すごかったんだよ、あなたの演技ってね、なんだか目に浮かんでくるの。


ドルチェ:目に浮かぶ……?


ユウナ:そう、おかしい事言ってるでしょ?私、目が見えないのにね。

ユウナ:でも、伝わってくるの、ああ、今この人は激しい顔をして舞台を右往左往してるんだなって。

ユウナ:その瞳は、何千里も先の誰かを見据えているんだなって。

ユウナ:おかしいよね、顔も見たことないのに、想像できちゃうの。


ドルチェ:……おかしいってことないよ。


ユウナ:そう?へへ、嬉しい。


ドルチェ:……もう少し落ち着いたら、きっと君に演技を「見せる」よ。


ユウナ:本当?


ドルチェ:ああ、絶対。


ユウナ:そういえば、メイヴさんのお願いってなんだったの?


ドルチェ:……それは、全部終わってからでいいよ。


ユウナ:そう?ふふ、楽しみ。


0:【場面】シルバ宅


シルバ:なんだその声の出し方は!喉にわたあめでも詰まらせてるのか!


ドルチェ:くっそ……いちいちその棒で殴るのやめろよ!


シルバ:うるさい!私は旧時代の教え方しかできん!ほら、もう一回やれ!


ドルチェ:くそったれ……「我が名はモーフィウス!」


シルバ:どこのへっぴり軍団のモーフィウスだ!お前のモーフィウスはひょろひょろの学生か!?


ドルチェ:くそ……「我が名はモーフィウス!」


シルバ:今度はドラァグクイーンだ、どの世界にオカマみてぇな騎士がいるんだよ!


ドルチェ:い、いるかもしれないだろ!


シルバ:口答えするな!本物のメイヴ・ハーティはそんな口答えしないぞ!


ドルチェ:本物のメイヴ・ハーティだって棒で叩かれたら口答えくらいするだろ!


シルバ:それもそうか。


ルシオ:こんにちわ、やってるねえ。


シルバ:おお、ルシオ、今日は非番かい?


ルシオ:うん、これから劇団で稽古なんだけど。その前にちょっと観に来ちゃった。

ルシオ:お腹空いてない?差し入れ持ってきた。


ドルチェ:差し入れ!ご飯!休憩!


シルバ:まったく、わかったわかった、休憩にしよう。


ドルチェ:やったぜ!


ルシオ:……はは、うちの団員とおんなじ。ほら、ホットドッグ。


ドルチェ:ホットドッグ最高!いただきます!


ルシオ:……食べながらでいいんだけどさ、ドルチェ。


ドルチェ:(咀嚼しながら)なんだよ


ルシオ:……ありがとね。


ドルチェ:(飲み込んだあと)……なんで?


ルシオ:ユウナさ、手術に消極的だったんだよ、実は。


ドルチェ:……なんで???


ルシオ:怖いじゃん、頭を開かなきゃいけない手術なんて。


ドルチェ:頭?なんで頭なんだよ?あいつが悪いのは目じゃないの?


ルシオ:脳にね、大きな腫瘍があるんだ。


ドルチェ:腫瘍……?


ルシオ:そ。それがね、視神経の圧迫もしてる事がわかって。

ルシオ:まあ、取り除いても視力は回復しないかも知れないけど……


ドルチェ:俺、いや、「メイヴ・ハーティ」が来たから、手術する気になったって?


ルシオ:そ。


ドルチェ:……。


ルシオ:だからさ、感謝してるんだよ実は。

ルシオ:誰も君の事メイヴ・ハーティだなんて思ってないけどさ。

ルシオ:あの子だけは信じてる。なんでかわからないけど。

ルシオ:声が似てるのかな。


シルバ:もしくは、別の、かもな。


ドルチェ:……なんでさ、あんたら俺を通報しないの?


ルシオ:不思議だよね。絶対したほうがいいんだけど。

ルシオ:……でも、なんかね、奇跡でも起こしてくれちゃうような、ワクワクというか。

ルシオ:悪戯がばれる前の幼稚園児みたいな気分もあるのかも。


ドルチェ:……俺の嘘に、付き合わせてるんだけど、結果的に。


ルシオ:そうだね。

ルシオ:よくない事ではあるんだけどね、嘘って。

ルシオ:……「白い嘘」って知ってる?


ドルチェ:「白い嘘」?


ルシオ:世の中にはさ、ついていい嘘と、ついちゃいけない嘘があってね。

ルシオ:ついていい嘘っていうのを「白い嘘」……ホワイトライって言うの。


ドルチェ:……でも、嘘はいけないことだろ。


シルバ:お前がそれを言うか!


ドルチェ:だって


ルシオ:うん。でもね。医療現場では、ケアの為にこの「白い嘘」をついたりするんだ。


ドルチェ:嘘が許される?


ルシオ:そう。その嘘は、巡り巡って、相手のためにつく嘘だから。

ルシオ:……だからね、ありがと、結果的に私たちがしなきゃいけない嘘を

ルシオ:君に任せてしまってるからね。


ドルチェ:……シルバ、練習しよ。


シルバ:ホットドッグは?


ドルチェ:冷めても食えるからあとでいい。


シルバ:急にやる気になったか?


ドルチェ:こんなこっぱずかしい話、聞いてらんないよ。


ルシオ:……ふふ、行くよ、練習頑張って。


ドルチェ:「我が名はモーフィウス!」


シルバ:もっと心の底から言葉を放て!何の為にここでモーフィウスは名乗りをあげてんだ!


ルシオ:……頑張って。


0:【場面】パトカーの車内


ロビン:……はい、はい、そうですか。ご連絡ありがとうございます。

ロビン:いえ、助かります。はい。すぐに向かわせていただきます。

ロビン:……ったく、やっぱり予想通り。何も学習しねえな、ドルチェ。

ロビン:……性懲りも無く、また詐欺か。しかも今度はメイヴ・ハーティ?

ロビン:俺らの中でも、一番人を騙すのが下手だった男が、なーんで天才役者のまねごとなんかしてんだよ、まったく。

ロビン:……真っ当に生きる道だって、あんのにな。

ロビン:……はあ、向かうか。今度こそとっ捕まえて、豚箱に入れてやらねえと。


0:【場面】また別の日の練習風景


シルバ:台本はどうした?


ドルチェ:必要ないだろ?


シルバ:……もう、セリフ覚えたのか?


ドルチェ:まあ。


シルバ:……ハッ!やるじゃないか


ドルチェ:聞いてたらすぐに覚えられるだろ、こんなの。


シルバ:聞いて覚えたのか?


ドルチェ:ああ、昔から読んで覚えるより、聞いて覚えるほうが得意なんだよ。

ドルチェ:あんまり文字を読むのって得意じゃなくてさ。


シルバ:やっぱり、耳がいい。


ドルチェ:ええ?


シルバ:ドルチェ、今から公演まで、ひたすらメイヴ・ハーティの。

シルバ:……いや、クロード・クリスウェルが上演した「モーフィウス卿」を聞き続けろ。


ドルチェ:ずっと!?


シルバ:食事の時もだ。


ドルチェ:食事の時も!?


シルバ:入浴の時も。


ドルチェ:濡れちゃうだろ、再生機器が!


シルバ:寝てる時もだ。


ドルチェ:勘弁してくれ!!!!


0:【場面】病室、ドルチェ、一世一代の大嘘の日。


シルバ:緊張してるか?


ドルチェ:してるわけねえだろ、老害。


シルバ:言うようになったな?


ドルチェ:全部終わったら暴行罪で訴えてやるぜ、絶対。


シルバ:それだけ軽口がたたけるなら余裕だな。


ルシオ:ユウナが病院内で自慢しまくってたからねえ、思ってたよりお客さん入っちゃったよ


ドルチェ:……何人?


ルシオ:30人くらい。


ドルチェ:ちょっとした小劇場みたいじゃんか……。


シルバ:どこだって、劇場になる。いい経験だろ、ドルチェ。


ルシオ:あれ、受付から電話だ。はい、ルシオです、どうしたの?


ルシオ:……えっ?


0:【場面】病院受付ロビー


ロビン:だーかーらー。居るのはわかってるんですって、今朝匿名のたれ込みがあったんだから。

ロビン:ドルチェ・クラウン、ほら、見かけたら連絡しろってチラシ渡したよね?


ルシオ:……警官さん?


ロビン:ああ、これは、看護師長さん。


ルシオ:どうしたんですか?こんな朝早くから。


ロビン:いえね、今朝匿名のたれ込みがあったんですよ。

ロビン:チラシに描かれた男らしき人物がここ最近この病院を出入りしてる、って。


ルシオ:……ちょっと何の話なのかわかりませんね。


ロビン:……あれー?看護師長さん、ちょっと目線が泳ぎました?


ルシオ:いいえ、全然。


ロビン:警察官にそんな嘘通用すると思ってます?


シルバ:警官さん、それくらいにしてやってくれませんか?

シルバ:あんまり大きい声を出されると、他の患者さんたちにもよろしくない。


ロビン:……これはこれは、以前お会いしましたね。


シルバ:ええ、その節はどうも。


ロビン:いるでしょ?ドルチェのヤツ。


シルバ:ドルチェ?はて、わかりませんね。


ロビン:そうやって匿っても、なんの意味もないですよ?ヤツはただのペテン師なんですから。


シルバ:きっとどうしようもなく駄目な男なんでしょうなあ


ロビン:本当、その通りでして


シルバ:ですが、残念ながらここには今、国立劇団のメイヴ・ハーティという役者しか来ておらんのですよ


ロビン:それがドルチェ・クラウンだって言ってるんですよ


ルシオ:……どこからどう見ても、メイヴ・ハーティでしたけどね。


ロビン:馬鹿いっちゃいけないですよ、看護師さん、あんなペテンに騙されるヤツ今まで1人もいなかったんですから。


シルバ:だとすれば、そのドルチェという男ではなく、本物のメイヴ・ハーティが居るということですな。


ロビン:おお、そう来たか。


ルシオ:……ちょっと電話失礼しますね。


ロビン:ええ、どうぞ。


ルシオ:もしもし、うん、申し訳ないんだけど手の空いてる看護師全員ロビー来てくれる?


ロビン:おーっと、そう来ますか。


ルシオ:……ここには、メイヴ・ハーティしかいない、そう言ってますよね、警官さん。


ロビン:……じゃあ、そのメイヴ・ハーティに会わせて貰えます?


ルシオ:構いませんよ、令状があるなら。


ロビン:……令状なんて無くても、私には権限があるんですけどね?


ルシオ:そうですか?では、メイヴ・ハーティに一体なんの件で会われるんです?


ロビン:なかなかやりますね?看護師長さん


0:【場面】取り残された2人、病室


ユウナ:メイヴさん?


ドルチェ:……皆、行っちゃったね。


ユウナ:そうなの?


ドルチェ:うん、今、この病室には俺とユウナだけだ。


ユウナ:皆、どうしたんだろ。


ドルチェ:……きっと、ユウナの為に席を外してくれたんだよ。


ユウナ:ええ!?どうして!?


ドルチェ:ユウナの、初めての「観劇」だから。


ユウナ:……ふふ、緊張しちゃうな。


ドルチェ:……始めるよ、ユウナ。本当は、この役はクロード・クリスウェルが演じる役なんだけど。

ドルチェ:『その剣(つるぎ)の切っ先に、明明(めいめい)となる未来がある。』

ドルチェ:『その礎(いしずえ)となる覚悟すらも、私には容易い。』

ドルチェ:『我が名はモーフィウス、穿(うが)て、そして、切り開け。私はここに在る。』


0:【場面】その後


ロビン:……やっと出てきたな、ドルチェ。


ドルチェ:げっ、ポリ公!?


ロビン:逃げるな、ドルチェ、今日はお前を捕まえに来たんじゃ無い。


ドルチェ:え……な、なんで。


ロビン:どうやらこの町には、詐欺師は来なかったみたいだからな。


ドルチェ:……ロビン。


ロビン:勘違いするなよ。お前が許されたわけじゃない。

ロビン:俺は、あの病院の看護師たちの熱い気持ちを汲んだだけだ。


ドルチェ:……「アニキ」。


ロビン:お前は、一回豚箱に入れてやらねえと、改心しないって思ってたよ。


ドルチェ:「アニキ」、俺……


ロビン:こんな事で変わったとおもうな、お前の性根は、そんな簡単に変わらない。


ドルチェ:……うん


ロビン:お前がしてきた悪事は成功しなかったとしても悪事であることにかわりない

ロビン:俺達は、ちゃんと世の中に向き合うんだ、マフィアなんて抜けて、真っ当にな。


ドルチェ:わかってる。


ロビン:どうだった?初めて人のために何かをした感想は?


ドルチェ:そんなの、照れくさくて言えるかよ


ロビン:……変わり続けろよ、お前が思う以上にな。

ロビン:お前が思う、何倍も、変わり続けろ。


0:【場面】エピローグ、手術を終えたユウナの元へ1人のペテン師が向かう。


ドルチェ:(モノローグ)

ドルチェ:物心ついた頃から、決して褒められるような人生では無かった。

ドルチェ:誰かに何かを奪われるのが当たり前だし、誰かの何かを奪うのが当たり前だった。

ドルチェ:誰にでも嘘をついて、生き延びてればそれでよし。そんな人生だった。

ドルチェ:そうして生きるのが当たり前だった。

ドルチェ:そんな人生、ドラマにも舞台にもならない。

ドルチェ:俺は、どこまでいっても脇役で、それでよかったんだ。

ドルチェ:きっとそれは、今も、多分、もしかしたら。

ドルチェ:それでも、人生には、誰のでもない、いや、誰のでもある

ドルチェ:人生というものには、必ずあるんだ。

ドルチェ:人生には、必ず「SPOT LIGHT(スポットライト)」が当たる瞬間っていうのが。


ドルチェ:(モノローグ)

ドルチェ:空っぽの病室、ユウナも、看護師も、ルシオも、シルバも居ない。

ドルチェ:そうか、まだ手術が終わっていないのかも知れない。

ドルチェ:手術終わりを祝う花束を小脇にかかえて、俺は手術室に向かう。

ドルチェ:なんだよ、2人とも、ここに居たのか。


ルシオ:……ドルチェ。


ドルチェ:やっぱり、脳の手術だもんな、時間かかるよな。

ドルチェ:オーケーオーケー、皆で待とうぜ、あ、でもまだ麻酔ってやつが効いてるのかな。

ドルチェ:手術なんてしたことないからわかんねえや。


シルバ:……ドルチェ、落ち着いて聞くんだ。


ドルチェ:なんだよ、2人揃って辛気くさい顔(ツラ)して。

ドルチェ:あ、そうか、わかった、待ち疲れたんだな?わかった、俺がここで待ってるからさ。

ドルチェ:2人はちょっと仮眠でもしてこいよ。


ルシオ:ドルチェ、聞いて


ドルチェ:なあに、大丈夫大丈夫、2人がいなくても俺が2人の真似して3人いるみたいな感じで迎え入れてやるって。この俺様の名演技に乞うご期待ってかんじだよ!


ルシオ:違うんだ、ドルチェ、聞いて


ドルチェ:嫌だ!!!!


シルバ:……聞くんだ、ドルチェ。


ドルチェ:嫌だ!絶対に嫌だ!

ドルチェ:そんな暗い顔嘘だろ?趣味が悪いぜ、元詐欺師に嘘つこうだなんて、趣味が悪すぎる


ルシオ:聞いてよ、ドルチェ……


ドルチェ:やだ、絶対やだ。


シルバ:……ドルチェ!!


ドルチェ:……ユウナは?


ルシオ:……霊安室。


ドルチェ:……なんで。なんでだよ。手術したら、治るんだろ、なあ。

ドルチェ:あいつ、怖いのに、我慢して手術受けたんじゃん、なんでだよ。


ルシオ:……CTに、写らない位置に、もう一個あったんだ、腫瘍が。


ドルチェ:いやだ。


ルシオ:手術中、血がとまらなくて、みんな、その場でできる、ぜんぶを、やったんだよ。


ドルチェ:いやだ、聞きたくない。


ルシオ:……きいてよ。


ドルチェ:……。


ルシオ:……私だって、こんなこと、言いたいわけ、ないじゃない……。

ルシオ:嘘であってほしい、よ、詐欺であって、ほしい。

ルシオ:嘘だって、言ってよ……


ドルチェ:……ごめん、ルシオ


ルシオ:(静かに泣いている)


ドルチェ:…………ごめん、ルシオ……。

ドルチェ:……ごめん、ユウナ……。

ドルチェ:…………俺が、詐欺師だったからか?


シルバ:……。


ドルチェ:俺が詐欺師だったから。

ドルチェ:だから、ユウナの手術は失敗したのか?

ドルチェ:これが、これが本物のメイヴ・ハーティだったら、ユウナは死なずに済んだのか……?


シルバ:……関係ない、ドルチェ、それは、関係ないんだ。


ドルチェ:でも……


シルバ:私たちは時々、魔法のようなものを手にしたような感覚になる。

シルバ:でも、この世の中に万能なものなんて存在しない。

シルバ:演技は人の心や生き方を変えることはできる。でも、人の全てを変えることはできない。


ドルチェ:でも、でも!!!

ドルチェ:俺が、俺がァ。…もっと、もっとまともな人間だったら。

ドルチェ:もっと、力を持ってて、努力してて、何もかもを照らす光のような生き方ができてたら

ドルチェ:俺は……俺は……


シルバ:……それは、誰にもわからない。「他人を、舐めるなドルチェ。」

シルバ:だが同時に、自分自身を、舐めるな。


ドルチェ:……でも


シルバ:お前は、間違いなく、ユウナの光だった。

シルバ:メイヴ・ハーティだったからじゃない、お前が、ドルチェだったからだ。


ドルチェ:……俺、俺、このままで終わりたくない。

ドルチェ:詐欺師のドルチェに戻りたくない。

ドルチェ:くだらない嘘で、誰かを騙すんじゃなくて、俺の嘘で……俺の嘘で誰かを笑顔にしたい!

ドルチェ:どうしたらいい、なあ、シルバ先生俺はどうしたらいい!?

ドルチェ:どうしたら、こんな後悔しなくて済む!?

ドルチェ:どうしたら、どうしたら皆の為になることができる!?

ドルチェ:奪うんじゃなくて、盗むんじゃなくて、そういう人生じゃ無い生き方ができる!?


シルバ:変わり続ける覚悟があるか


ドルチェ:ある


シルバ:どんな事も、どんな経験も、どんな後悔も、自分のためと思えるか


ドルチェ:思える


シルバ:……何のために?


ドルチェ:……ユウナに恥じないため

ドルチェ:俺は、ユウナに恥ずかしくない生き方をする。

ドルチェ:偽物のメイヴ・ハーティじゃない

ドルチェ:俺が、本物の、ドルチェ・クラウンとして……あの舞台に、本当に立つ。

ドルチェ:メイヴ・ハーティなんかよりも輝いて

ドルチェ:輝いて……眩しいくらい輝いて……どこに居たって、わかるくらい

ドルチェ:そんな、まぶたの裏側にも浮かぶような!そんな役者になる!


シルバ:……。


ドルチェ:……教えてくれ、先生、俺は、どうしたらいい。


シルバ:(静かにスマホを取り出す)

シルバ:……もしもし、久しぶりだな。元気にしてたか?

シルバ:ああ、わかったわかった、小言は後で聞く。

シルバ:……なあ、メイヴ、ひとつ頼みがあるんだが、いいか?

シルバ:なに、そんな難しいことじゃない。



シルバ:オーディションの予約だ。



ドルチェ:俺は、どこまでいっても脇役で、それでよかったんだ。

ドルチェ:きっとそれは、今も、多分、もしかしたら。

ドルチェ:それでも、人生には、誰のでもない、いや、誰のでもある

ドルチェ:人生というものには、必ずあるんだ。

ドルチェ:人生には、必ず「spot right(スポットライト)」が当たる瞬間っていうのが。

※ spot right …… 正しいことを選ぶ

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