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臍帯とカフェイン|声劇シナリオ・ポエトリー

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【配役】

◆ガブリエラ:

ガブリエラ・ミュージニア・ハインスタイン。ミュージニア教会に住む、シスター。劇中の性別は女性ですが男性が演じる事を許可します。ただし、男性に変更をせず女性としての演技を行う事。


◆レイチェル:

レイチェル・アイベルク。若き新聞記者。独自の調査で、38名行方不明事件を追う。性別変更不可。


【詳細】

ジャンル:サスペンス

配役:性別不問1名(ただし女性としての演技を求める) 女性1名

時間:30分

合作相手:シオン様



レイチェル:ふぅ……

レイチェル:……失礼します。

レイチェル:初めまして。私、レイチェル・アイベルクと申します。

レイチェル:この度は取材に応じていただきまして、誠にありがとうございます、シスター。


ガブリエラ:にわか雨が、降ったのね。


レイチェル:えっ……なぜ、それを……。

レイチェル:……もしかして、私どこか濡れていますか? だとしたら、さすがの観察眼ですね、シスター。


ガブリエラ:2分、遅れたからよ、あなたが。


レイチェル:……推察力だったとは。

レイチェル:ですが、それだけでにわか雨だと分かるなんて……。

レイチェル:あぁ、いえ。それよりも、せっかく時間をいただいているのにも関わらず、遅れてしまって申し訳ございません。


ガブリエラ:いいの。せっかくの面会だもの。いい時間にしましょう?


レイチェル:……はい。ありがとうございます、シスター。

レイチェル:それでは早速、取材に移らせていただきます。

レイチェル:弊社では、録音をさせていただいているのですが、ご了承いただけますでしょうか?


ガブリエラ:録音? 勿論よ。好きにしてちょうだい。

ガブリエラ:このガラス一枚で、そちらで何をしようが私は手出しできないんだもの。


レイチェル:ありがとうございます。

レイチェル:こちらの録音を元に記事を作成させていただきますので、決して貴女の言葉を偽ることはない、ということだけ約束させていただきます。


ガブリエラ:『偽ることはない』、今、そう言ったのね。


レイチェル:……はい。

レイチェル:貴女の言葉を正確に世間に届ける。そのために私はここに来ましたから。


ガブリエラ:そう、それは楽しみね。


レイチェル:では、録音を開始させていただきます。

レイチェル:8月14日、クエンティン中央刑務所、面会室にて。

レイチェル:改めまして、記者のレイチェル・アイベルクです。

レイチェル:シスター、貴女はガブリエラ・ミュージニア・ハインスタインご本人でお間違いないでしょうか。


ガブリエラ:ええ、間違いないわ。


レイチェル:貴女の罪状は、38名の殺害を行ったこと。

レイチェル:これに、何か間違いはありますか?


ガブリエラ:いいえ、何も。


レイチェル:ありがとうございます、シスター。

レイチェル:それでは……何故その38名を殺害したのか、教えていただけませんか?


ガブリエラ:つまらないわね。


レイチェル:……つまらない、ですか。

レイチェル:よく、言われます。申し訳ありません。


ガブリエラ:そんなに、理由が必要かしら。

ガブリエラ:あなた達は、必ず何かに理由を求める。

ガブリエラ:こうであったから、こうした。

ガブリエラ:この思想から、これに発展した。

ガブリエラ:理由ばかり。

ガブリエラ:教育じみているわ。

ガブリエラ:まるで、これから叱咤でもするつもりみたい。


レイチェル:それは、たしかにそうかもしれません。

レイチェル:ですがシスター。人が理由を求めるのは、理解したいと思うからではないでしょうか。

レイチェル:勿論、全てを理解することなんてできません。でも、理解しようとすることはできます。

レイチェル:貴女がどうして38名もの殺害を行ったのか。少なくとも私は、それを知ることで貴女を知りたいと思いました。

レイチェル:けれど、それすらもつまらないと感じられるようであれば、質問を変えます。


ガブリエラ:あなたは『私』を取材に来たの?

ガブリエラ:私の起こした『事件』の取材に来たの?

ガブリエラ:私はね、楽しみにしてたの。あなたに会うのを。

ガブリエラ:わかる? 私がいま、どんな気持ちか。


レイチェル:私は、「貴女」の取材に来ました。いくら失望されようと構いません。

レイチェル:貴女のことを教えてください。ガブリエラ・ミュージニア・ハインスタイン。


ガブリエラ:それなら、『私が話したくなるように質問なさい』。

ガブリエラ:レイチェル・アイベルク。


レイチェル:寛大なお心に感謝します、シスター。

レイチェル:……貴女は38名殺してなお、平然としているように見える。

レイチェル:いえ、違う。なんというか……綺麗なのです、シスター。

レイチェル:無垢ではない。けれど、とても綺麗なのです。

レイチェル:どうして貴女は、38名殺しておいてなお、そんなにも穢れがないのですか。

レイチェル:……人を殺すことを、罪悪と感じていないのですか。


ガブリエラ: あら、綺麗だなんて、唆る誘い文句だわ、レイチェル。


レイチェル: さ、誘い文句!? ……ごほん。すみません、取り乱しました。

レイチェル: 私の目には、貴女は……やはりとても綺麗に映るのです、シスター。その理由が、「人を殺す」ということに対する価値観によるものなのか、元来のものなのかは分かりませんが……。

レイチェル: 貴女は……いえ、あなたは、人を殺すことを楽しんでもいなければ、悪だとも感じていないように見えます。なら、貴女はどんな気持ちで38名を殺したのですか?


ガブリエラ: いいわ、とてもいい質問の仕方よ、レイチェル。

ガブリエラ: なぜ、人は、人を殺す者のことを『殺人鬼』だなんて言うのだと思う?


レイチェル: 難しい質問ですね……。

レイチェル: ……理解できないからではないでしょうか。自分が理解できないから、理解できないものを「鬼」だなんて呼んで、自分たちと区別する。

レイチェル: 自分は凡夫で、善だと主張するために。

レイチェル: あとは、凶悪であることの象徴として、ただの言葉として使っている人もいるかもしれません。


ガブリエラ: そう。理解出来ないことや、理解したくないものを、人は『人ならざる者』と区別したくなる。

ガブリエラ: だから、鬼だなんて名前を付けるのよね。

ガブリエラ: その生き物と、自分が同じであると思いたくないから。


レイチェル: でも、結局どこまで行っても人間は人間にしかなれません。区別したところで、根本は何も変わらない。

レイチェル: 私は貴女を「殺人鬼」だとは思いません、シスター。


ガブリエラ: そう。ならあなたは異質ね、レイチェル。私と同じとさえ言える。

ガブリエラ: どんな気持ちで殺したのか、答えはこれよ。

ガブリエラ: 『同族殺しを憂うのは人間だけ』


レイチェル: 貴女と……? でも、私は貴女のようにはなれません、きっと。

レイチェル: ……質問を続けさせていただきます。

レイチェル: 憂いていないと、貴女は言うのですね。

レイチェル: では、その38名を選んだ理由は、何かあるのですか?

レイチェル: 例えば……とても悪辣で、生かしておけないような人間だったとか。

レイチェル: あるいは……殺して欲しいと希われたとか。

レイチェル: 何か、共通点があったのですか?


ガブリエラ: 共通点、共通点。

ガブリエラ: そうね、共通点……。

ガブリエラ: その聞き方では、そそらないわ。


レイチェル: ……失礼しました。

レイチェル: そうですね……貴女は、私を異質だと言いました。同じだとも。

レイチェル: だから、私なりの推理を述べさせていただきます。

レイチェル: ……貴女は……あなたは、綺麗だと思ったものを殺したのではないですか?

レイチェル: 無垢が世間を知って汚れる前に。純粋が不条理を前にして崩れる前に。

レイチェル: その人の持つ「綺麗」が、穢される前に。


ガブリエラ: ……続けて、レイチェル・アイベルク。


レイチェル: 世の中には、様々な人がいます、シスター。

レイチェル: 多くの人は、ただ毎日を享受している。

レイチェル: けれど、その中にひと握り、「何もない毎日」ではない日々を送っている人達もいる。

レイチェル: 例えば、病に倒れて死を目の前にして怯えてしまう人。

レイチェル: 親から虐待を受けて育ち、歪んでしまう人。

レイチェル: 性犯罪に巻き込まれ、全てに絶望してしまう人。

レイチェル: そういう「生にしがみついている人」が、何かのきっかけで死を望んでしまうような、そんな一歩手前の人達を。

レイチェル: 貴女は、救うように殺したのではないですか?

レイチェル: 慈愛を持って、自らの手を汚して、あの世に行かせないように。

レイチェル: 「綺麗」なままであるように。


ガブリエラ: そうね。

ガブリエラ: そう、あなたもう、『出来上がっている』のね、レイチェル。


レイチェル: ……なんの、話ですか?


ガブリエラ: 『私はいつだって、愛という感情のもと、それを行ってきた』

ガブリエラ: ねえ、レイチェル。教えて。

ガブリエラ: 『どうして、そう思ったのかしら』

ガブリエラ: 『なぜ、私を取材にきたのかしら』

ガブリエラ: 『どうして、真実を伝えたいのかしら』

ガブリエラ: ……いいえ。

ガブリエラ: もっと簡単に聞いた方がいいわね。

ガブリエラ: その方が、そそるもの。

ガブリエラ: ねえ、レイチェル。

ガブリエラ: 『なぜ、私に関わりたかった?』


レイチェル:……あなたが、貴女が「綺麗」だったからです。シスター。

レイチェル:貴女が裁判に立つ前から。貴女が警察に連れて行かれる前から。貴女が、おそらく38名殺す前から。

レイチェル:私は、貴女を知っている。いいえ。

レイチェル:正確には、あなたに一目惚れしているんです。私。

レイチェル:祖母は敬虔なキリスト教徒でした。

レイチェル:まだ今よりもう少し幼かった頃、祖母に連れられ私は何度か教会に足を運んだ。

レイチェル:その時に、貴女を見かけたのです。シスター。貴女は「綺麗」で穢れなき瞳をしていて、その時に稲妻が走りました。

レイチェル:こんな素敵な人がいるんだって、世界が明るくなった。

レイチェル:けれど、母はそれを許しませんでした。

レイチェル:すぐに別の州への引っ越しが決まり、私は貴女とは一度も話せないまま、貴女への想いだけが募っていった。

レイチェル:何をしているんだろう。

レイチェル:何を考えているんだろう。

レイチェル:そう思って、いろんな本を読み漁りました。本は裏切らなかったから。本から得る知識は、貴女と出会った時のような衝撃を与えてくれたから。

レイチェル:貴女のことを、他の誰にも理解されたくなかったから。私が一番に理解したかったから。

レイチェル:貴女を愛しているから。

レイチェル:だから私は、貴女に関わりたかったんです、シスター。

ガブリエラ:そう、あなた、私の事、愛おしくて堪らないのね。

レイチェル:えぇ。そうですね。

レイチェル:……だから、貴女の「愛」を受けた38名がどんな人達だったのか知りたい。そう、思っています。


ガブリエラ:知る必要ないわ、レイチェル。


レイチェル:……どうしてですか、シスター。


ガブリエラ:そんな事より、私そのもののことを知るべきよ、あなたは。

ガブリエラ:なぜか、わかる?


レイチェル:わか、りません。

レイチェル:だって、私は……貴女を愛する1人の人間という前に、「記者」としての役目を果たさなくてはいけません。

レイチェル:ここまで吐露しておいて今更かもしれませんが、それでも、そうしないと、また母に怒られてしまう……


ガブリエラ:死ぬからよ、私は。

ガブリエラ:居なくなる、この後、間違いなく。あなたの前から。

ガブリエラ:私を愛していると言いながらあなたが求めるのは、私がした『事象』のことばかり。

ガブリエラ:あなたはそれを取材して、どう記事にするのかしら?

ガブリエラ:そこに書かれるのは私の話ではない、可哀想な被害者のことだけ。


レイチェル:それは、……それは。

レイチェル:いや、いやなんです。嫌なんです、シスター。貴女を全て知り尽くしてしまったら、貴女が全てを零してしまったら、貴女の全てを暴いてしまったら。他の人が貴女の魅力に気付いてしまう気がして。貴女が生を諦めてしまう気がして。貴女が本当に、この世からいなくなる証左になる気がして。


ガブリエラ:居なくなるのよ、この世界の私は確実に。


レイチェル:やめて!!!

レイチェル:やめてください。お願いだからそんな事言わないで……脱獄してください。どんなに生き汚くたっていい、生きてください……。私の希望を奪わないで……!


ガブリエラ:いけない子。そんな事だから、いつまでもお母様から離れられないのよ、レイチェル。


レイチェル:いや……いやなんです。もう置いて行かれたくない……。

レイチェル:「叩かないで、お母様……」「ちゃんといい子にしますから……」「置いて行かないで、ここにひとりにしないで、お祖母様……」


ガブリエラ:『私を見なさい、レイチェル・アイベルク』


レイチェル:……っ、はい。……すみませんでした。取り乱したりして……。


ガブリエラ:『そのまま、見て、私を』


レイチェル:はい……。


ガブリエラ:『壊して欲しいのね?あなたの世界を』


レイチェル:ぅ、あ、……っ。……は、い。


ガブリエラ:『あなたのしがらみも含めて、すべて、壊してくれると希ったのね、私に』


レイチェル:そう、です。浅ましくも、それを、それを願いました……。


ガブリエラ:『だから、知りたかったのよね。どういう人間が壊してもらえているのか』


レイチェル:……はい。どうしたら、貴女の「愛」を受け取れるのか、ずっと……ずっと考えていました……。


ガブリエラ:残念だけど、そんな事を知ったところで、もう私はあなたを壊しても、殺してもあげられない。

ガブリエラ:わかるわよね?

ガブリエラ:あなたは、馬鹿じゃないもの。


レイチェル:っ、……はい。わかっています。わかっては、いるんです。


ガブリエラ:『あなたの世界は、あなた自身が壊すのよ、レイチェル』


レイチェル:私の世界を、私が、壊す……?


ガブリエラ:『その為に、私を知って、レイチェル』

ガブリエラ:『なぜ38人を殺したかなんて、他の記者でも聞けることじゃなく』

ガブリエラ:『今、この場で私とあなたしか聞くことのできない質問を』


レイチェル:……わかりました、シスター。

レイチェル:貴女は、いつからその「愛」を持ち始めたのか、お聞きしてもいいですか?貴女の「愛」の根幹を、私は知りたいのです。


ガブリエラ:『最初からよ』


レイチェル:最初から……?生まれつき、ということですか?


ガブリエラ:『生まれとか、そんな事じゃないの』


レイチェル:……どういう、ことでしょうか。


ガブリエラ:『それを、引き出す質問をしてごらんなさい?』


レイチェル:……っ、はい。

レイチェル:あなたは、貴女は「綺麗」です。それはきっと貴女が、人とは少し異なっているからで、貴女の「愛」を人は理解できない。

レイチェル:貴女はその「愛」を「最初から持っている」と言った。……最初……最初……。

レイチェル:……あなたは「輪廻転生」や「並行世界」の存在を信じて……いえ、知って、いらっしゃるのですか?

レイチェル:私は、貴女を神聖視している自覚があります。

レイチェル:貴女ならできないことは無いとさえ思っている。思ってしまっている。

レイチェル:だから、もしかしたら貴女は、自己を俯瞰して見ているのではないかと。

レイチェル:とてもとても高く、それこそ、「別の自分」という存在を知覚していてもおかしくはないとさえ、思ってしまうのです。

レイチェル:……突拍子もないことを言っている自覚はありますが、私の脳ではそれくらいしか、思い浮かびません……。


ガブリエラ:ふふ、ふふふふ……ははははは。何万と繰り返したこの世界往来で、その質問をしてきたのは、あなたが初めてよ、レイチェル

ガブリエラ:ただ、言葉が長すぎるわ。

ガブリエラ:もっと会話をして、私と。


レイチェル:……はい。あなたは、「輪廻転生」や「並行世界」の存在を知覚しているのではないですか?


ガブリエラ:『リッジエル・アイベルク』

ガブリエラ:また別の世界では、あなたはそんな名前の記者。

ガブリエラ:私は、シスターではなく神父。

ガブリエラ:そうね、『ガブリエラ』ではなく『ガブリエル』。

ガブリエラ:一文字変わるだけで、こんなにも印象が変わるのだわ。


レイチェル:「リッジエル・アイベルク」……「ガブリエル」……。本当に、実在するのですね。……では、「最初から」というのは、「最初の世界から」という意味……ですか?


ガブリエラ:ふふ。やっぱりあなた、馬鹿じゃないのね。


レイチェル:ありがとうございます。……まだ信じられません。けれど、貴女が「在る」と言うのなら、きっと存在するのでしょうね。


ガブリエラ:繰り返してるのよ、すべて。何度も私は38人を殺して、それをあなたに話す。でもね、わからないことがあるの。


レイチェル:わからないこと……?……なんですか?


ガブリエラ:『話をしたあと、他の世界のあなたはどうなったのかしら』


レイチェル:「話したあとの私」……。


ガブリエラ:そう。

ガブリエラ:一体どうなるのかしらね。

ガブリエラ:私のことを記事にするのかしら。

ガブリエラ:悲しい、悲しい思いを背負ったまま。

ガブリエラ:世界を恨みながら、真っ当な人間のふりをして。


レイチェル:それは……それ、は……。

レイチェル:分かりません。

レイチェル:貴女の、あなたのいない世界で、一人になる。

レイチェル:それは酷く孤独でしょう。

レイチェル:その中で、あなたの意志を継ぐ私もいるかもしれません。

レイチェル:あなたのことを異質だと拒絶する私も、もしかしたらいるかもしれない。でも、きっと誰もが。さっき貴女が言ったように――「自分の世界を、自分で壊した」のではないでしょうか。


ガブリエラ:そうね。きっとそう。じゃあ、この世界のあなたはどうするの?それだけ、教えて頂戴。


レイチェル:……貴女は、私に勇気をくださいますか、シスター。


ガブリエラ:『当然じゃない。はじめから、私はいるでしょう?あなたの中に』


レイチェル:……っ。ふふ。はい。まずは、貴女の言葉をすべて記事にします。その後で、私の世界を壊してみます。貴女に報いることができるように。

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