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【あらすじ】
レイチェル・アイベルクの手記。
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あのお方は、私に、必ず会いに来いと仰られた。
暗く、湿っぽい、すえた臭いのする、あの薄暗い面会室に。
必ず来いと。私は、あの方の為に。
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ライクユアタイムズ新聞、若き記者であるレイチェル・アイベルクのデスクに残された手記の文字はどこか、喜びを感じると後に同僚は語る。
38名を殺した、「シスター」と呼ばれる殺人鬼。
これは、そのシスターと、一人の記者の密会の記録である。
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【配役】
◆ガブリエラ:
ガブリエラ・ミュージニア・ハインスタイン。ミュージニア教会に住む、シスター。劇中の性別は女性ですが男性が演じる事を許可します。ただし、男性に変更をせず女性としての演技を行う事。
◆レイチェル:
レイチェル・アイベルク。女性。若き新聞記者。独自の調査で、38名行方不明事件を追う。性別変更不可。
【本編】
レイチェル:8月14日、クエンティン中央刑務所、面会室。
レイチェル:……只今より、音声を記録させて頂きます。
レイチェル:シスターハインスタイン、ご機嫌はいかがでしょうか。
ガブリエラ:ふふ、もちろん、悪くないわ、あなたがこうして来てくれたから。
レイチェル:……そんな、勿体ないお言葉です。
ガブリエラ:あなたの方は?
レイチェル:私、ですか。
ガブリエラ:ええ、顔色が優れないように見えるけれど。
レイチェル:……実は、この所、あまり眠れていません。
ガブリエラ:……そう。
レイチェル:……シスター、ひとつお尋ねしても、宜しいでしょうか。
ガブリエラ:ええ、もちろん、なんでも。
レイチェル:「なぜ、私に、必ず面会に来るように、と仰られたのでしょうか」
ガブリエラ:……また会いたかったから、それでは理由として納得できないかしら?
レイチェル:い、いえ、嬉しいのです、その事自体は。
ガブリエラ:では、なにがご不満なのかしら、レイチェル。
レイチェル:不満だなんて滅相も無い!
ガブリエラ:ふふ、そんなに慌てなくても。
レイチェル:……変なことを、お聞きしてもいいですか、シスター。
ガブリエラ:もちろん、なんでもと伝えたはずよ、レイチェル。
レイチェル:……突拍子もなくて、取り留めもなくて
レイチェル:子供じみた夢物語のような話かも知れません。
ガブリエラ:ここは退屈だもの、マザーグースよりもあなたの話の方がたのしそうだわ。
レイチェル:聞いて、くださるのですね。
ガブリエラ:当然よ、さあ、聞かせて、レイチェル。
レイチェル:……「私がここに来たのは、本当に今日が初めてなのでしょうか。」
ガブリエラ:……興味深いわね、どういう意味かしら。
レイチェル:「私は、何度も何度も、この面会室に来ている」
レイチェル:そんな感覚が、私から拭えないのです、シスター。
ガブリエラ:……そう、不思議な感覚ね?
レイチェル:シスター、これは、どういう事なのですか。
ガブリエラ:私が、原因だ、とでも?
レイチェル:……すみません。
ガブリエラ:ふふ、いいこね、レイチェル。
レイチェル:……なぜ、私にまた会いたいと思っていただけたのでしょうか。
ガブリエラ:あなたが、とても可愛いから。
レイチェル:それは、嘘です。
ガブリエラ:あら、どうして?
レイチェル:私は、可愛いだなんて言われたこと一度もありません。
ガブリエラ:なら、これが初めてね。
レイチェル:……それは。
ガブリエラ:あなたの大切な初めてを、貰ってしまったわね。
レイチェル:……シスター、いいえ、ガブリエラ・ミュージニア・ハインスタイン。
ガブリエラ:何かしら、レイチェル・アイベルク。
レイチェル:「あなたは、本当はシスターでは無いのでは」
ガブリエラ:……聞かせてくれる?その先の言葉を。
レイチェル:何度も、何度も、夢に見るのです。
レイチェル:私が、この面会室に来る。
レイチェル:あなたに挨拶をし、機嫌を損ねて
レイチェル:あなたに主導権を握られる。
ガブリエラ:……それで?
レイチェル:私はあなたに聞くんです。
レイチェル:「裁判で言っていた、いつでも脱獄できるという話。あれは、どういう意味なのか。」と。
ガブリエラ:そう、それを、夢に見るのね。
レイチェル:はい、そして、あなたは答える。
ガブリエラ:「私は、すでに、そこに居るだろ?」
レイチェル:……そうです。
ガブリエラ:あなたは、それを、どう思ったの?
レイチェル:……正直な言葉で、宜しいですか?
ガブリエラ:もちろん。
レイチェル:……気持ちが、悪かったです。
ガブリエラ:ふふ、そう。
レイチェル:まるで、あなたにすべてを握られていて
レイチェル:それでいて、丸裸にされているような
レイチェル:何もかもを見据えられているような
レイチェル:そして、それで、私は
ガブリエラ:あなたは?
レイチェル:「嬉しく思ってしまった」
ガブリエラ:……ふふ、ふふふ、はははははは!
レイチェル:おかしい、ですよね。不気味さや苦しさを感じながら、あなたと共にあれると思った瞬間に。
レイチェル:わたしは、喜びを感じてた、口角があがるのが、わかった。
ガブリエラ:そう、レイチェル、そうなのね
レイチェル:私は、なんなのでしょうか、シスター
レイチェル:わたしは、一体、何者なの……?
レイチェル:あなたは、一体……?
ガブリエラ:始まりは、エマという少女だった。
レイチェル:……エマ。
ガブリエラ:彼女は、どこにでも居る普通の女の子で。
ガブリエラ:彼女は、どこにでも居る可哀想な子だった。
レイチェル:かわい、そう。
ガブリエラ:あなたと、同じね、レイチェル。
レイチェル:私と、同じ……
ガブリエラ:『私は、今までに覚えている限りで、4899回、エマを殺している』
レイチェル:4899回……?
レイチェル:それは、どういう意味ですか……?
レイチェル:なんの、話をされていらっしゃるのです。
ガブリエラ:はじまりは、いつだって、エマなの。
レイチェル:シスター、質問に答えてください。
ガブリエラ:何度、世界を跨ごうとも、
ガブリエラ:何度、同じ道を繰り返しても、
ガブリエラ:「エマだけは変わらない」
ガブリエラ:それ以外のことだけは簡単に覆ったり
ガブリエラ:違う物語が紡がれるのに
ガブリエラ:あなたも、私も、何もかもが変わってしまうことがあるのに
ガブリエラ:なぜ?どうして?
ガブリエラ:「エマだけは毎回そこにいる」
レイチェル:……エマ。
ガブリエラ:……あなたは、新聞記者よね?
レイチェル:……ええ、そうです、シスター。
ガブリエラ:あなたがもし、追いかけている事件があったとして、その事件の真相に迫(せま)ったとき。
ガブリエラ:迫(せま)ってしまった時、その「最後の」一歩をあなたなら踏み出すことをするのかしら。
レイチェル:……する、でしょうね。
ガブリエラ:できる?
レイチェル:……それが、私に課せられたことなら。
ガブリエラ:……そう。いいこ、なのね、あなたは。
レイチェル:……いいこ、なんかではありませんよ、シスター。
レイチェル:私は、今も尚、この命を終わらせたくて堪らないのですから。
ガブリエラ:残念ね、とても。
レイチェル:……脱獄。するのでしょう?
ガブリエラ:「私はすでに、そこに居るでしょう?」
レイチェル:……趣味が、悪いですよ、シスター。
ガブリエラ:そうね、ごめんなさい。でもね、レイチェル。
レイチェル:はい、シスター。
ガブリエラ:それこそが、私に課せられた使命だとしたら?
レイチェル:……どういう、意味ですか。
ガブリエラ:私はね、あなたの中に宿るのよ。
レイチェル:宿る……?
ガブリエラ:「そうして、何度も何度も、世界を繰り返した」
レイチェル:繰り返したって、そんな、タイムリープでもあるまいし……。
ガブリエラ:タイムリープとは、また、違うわね。
レイチェル:……では、なんだと言うのです。
ガブリエラ:「平行世界」というのを、聞いた事があるかしら。
レイチェル:「平行世界」……。
ガブリエラ:この世界とは別に、全くおなじのでも少し違う軸の世界が無数に存在する。
レイチェル:……はは、まさか、シスター。
レイチェル:あなたは、その平行世界を行き来して、何度も犯罪を犯し、それで4899回も『エマ』という被害者を殺した、とでも?
ガブリエラ:ええ。
レイチェル:……馬鹿げてます。そんなの、馬鹿げてる。
ガブリエラ:ええ、馬鹿のような、夢の話。
レイチェル:……そんなおとぎ話のような事を、信じろと?
ガブリエラ:ええ。
レイチェル:……馬鹿げてます、私をからかうならもっとマシな……。
ガブリエラ:取材を、しなくてもいいのかしら。レイチェル。
レイチェル:……え?
ガブリエラ:この、38人殺しという事件の取材を。
レイチェル:それは……。
ガブリエラ:あなたはそう説明して、ここに来たのではないの?
レイチェル:……その通りです。
ガブリエラ:私に呼ばれた事は、内緒にして。
レイチェル:……ええ。
ガブリエラ:ふふ、なんだか、密会みたいね。
レイチェル:……事実、そうです。
ガブリエラ:そうね、その通りかも。
レイチェル:……では、お聞きしても、よろしいですか、ガブリエラ。
ガブリエラ:ええ、もちろん。
レイチェル:あなたは、幼少期、どのような人物だったのですか。
ガブリエラ:……もう一度、言ってくれる?
レイチェル:え?えっと、すいません。気分を害してしまったでしょうか。
ガブリエラ:……違うの、ねえ、今、私のことを、私の、過去を聞いたの?
レイチェル:……え、ええ。
ガブリエラ:『事件』のことでもない、『被害者』のことでもない。
ガブリエラ:『私自身の過去』のことを聞いた、そうなのね?
レイチェル:そう、です。そうお聞きしたつもりです。
ガブリエラ:……ふふ。はは、ははは。
レイチェル:……な、なぜ、笑うのですか?
ガブリエラ:「はじめてだよ、私の事を知ろうとした新聞記者は。」
レイチェル:そう、ですか……。
ガブリエラ:私はね、幼い頃、物静かな子供だったの。
レイチェル:物静かな。
ガブリエラ:そう。今でこそ、こんなに口が達者で、色んな人の神経を逆なでしているけれどね。
レイチェル:そんな、こと。
ガブリエラ:いいのよ、私が、そう思うのだもの。
レイチェル:……どのような、遊びをしてましたか。
ガブリエラ:……遊び。
レイチェル:……ええ。
ガブリエラ:ふふ、記憶に無いわね……遊ぶと言うことをしたことが無かったかも。
レイチェル:……私も、です。
ガブリエラ:本を読む事だけが、私の友達であったわ。
レイチェル:一緒です。
ガブリエラ:「本を読んでいる時だけが、私の心を落ち着かせる事のできる瞬間だった。」
レイチェル:私も、そうです、同じです。
ガブリエラ:「きっと、周りから見たら滑稽に見えた事だろうね」
レイチェル:……本当に。
ガブリエラ:孤独な幼少期だった。
レイチェル:どんな風に。
ガブリエラ:学校に行くことも無かった、そもそも、私には戸籍が無かったからね。
レイチェル:……私生児だった、ということですか。
ガブリエラ:そう。母親も誰なのかわからない、父親は、そうね、考えるのをやめてから、覚えていない。
レイチェル:孤独、だったんですね。
ガブリエラ:そう、孤独だったわ。ずっとね。
レイチェル:ミュージニア教会は、あなたのお父様が。
ガブリエラ:そう、そのまま継いだの。教育も、父から。
レイチェル:……どんな食べ物が、お好きでしたか?
ガブリエラ:ふふ、そんな事聞いてどうするの?
レイチェル:……知りたいんです、なんでも。
ガブリエラ:……そうね、好きな食べ物。
ガブリエラ:……ターキーレッグ、かしら。
レイチェル:ターキー……七面鳥、ですか。
ガブリエラ:お祝いの時にはね、決まって、ターキーレッグだったから。
レイチェル:……今度、お持ちします。
ガブリエラ:いいのよ、気を遣わないで。
レイチェル:持ってきたいんです、私が。
ガブリエラ:……泣いてるの?
レイチェル:泣いてません。
ガブリエラ:そう、泣いていても、よかったのに。
レイチェル:……あなたは、世間では、史上最悪のシリアルキラーであると呼ばれています。
ガブリエラ:ええ、そうでしょうね。
レイチェル:アルバート・フィッシュ。
レイチェル:ヘンリー・リー・ルーカス。
レイチェル:ペーター・キュルテン。
レイチェル:ジェフリー・ダーマー。
レイチェル:アーサー・ショー・クロス。
レイチェル:これまでの、シリアルキラーは全員、今際の際でこう言いました。
ガブリエラ:……聞かせて、レイチェル。
レイチェル:「殺す事に、意味なんて無かった」と。
ガブリエラ:……よく、勉強してきているのね。
レイチェル:……でも、きっと、あなたには「意味」があった。
ガブリエラ:そう、思うのね。
レイチェル:……でも、その意味を「意味」としてはいけない。そう、思いました。
ガブリエラ:……なぜ、そう思うの?
レイチェル:「あなたは、普通の人間だから」
ガブリエラ:……そう。それが、あなたの、「レイチェルの答え」なのね。
レイチェル:サイコパスじゃない、シリアルキラーじゃない、あなたは、ただ、38人を殺した普通の人なんだ。
レイチェル:傷ついて、落ち込んで、寂しいと感じて、孤独を憂いている、ただ普通の、ひとりの人間。
ガブリエラ:あなたの瞳に、今、私は、そう映っているのね?
レイチェル:……私と、あなたに、何も差は無い。変わりは無い。きっと、そうでしょう?ねえ、ガブリエラ。
ガブリエラ:泣いているのか、怒っているのか、わからないわ、レイチェル。
レイチェル:……どうして、どうして殺してしまったんですか。
ガブリエラ:……私のために、泣くなんてこと、してはいけないわ、レイチェル。
レイチェル:いやです、だって、私、そんなあなたに、殺して欲しいと、希って(こいねがって)しまった。
ガブリエラ:いいの、いいのよ、レイチェル。
レイチェル:どうして、殺さなければならなかったんです、あなたが。
ガブリエラ:……。
レイチェル:……あなたが、殺す必要なんて、無かった、違いますか。
ガブリエラ:……いいこね、本当に、あなたは。
レイチェル:そんなのじゃ、ありません。私は、ただ。
ガブリエラ:……「自分に重なって見える?」
レイチェル:……すいません。
ガブリエラ:いいのよ、それが、それこそが、きっと、愛というものの根源なんだわ。きっとね。
レイチェル:愛……?
ガブリエラ:わからないわよね、私たちに、愛情だなんて。
レイチェル:……わかりません、愛のことなんて、一ミリも。
レイチェル:……でも。
ガブリエラ:……でも?
レイチェル:もっと、もっと早くあなたと出逢っていたかった。
ガブリエラ:……泣かせる口説き文句だわ、それは。
レイチェル:……すいません、こんなこと、こんなこと話に来たわけじゃないのに。
ガブリエラ:「クワイエットベル・ストリート」
レイチェル:……え?
ガブリエラ:覚えておいてね、レイチェル。その言葉を。
レイチェル:「クワイエットベル・ストリート」、クエンティンの中でも貧困層が集まる通りです、ね。
ガブリエラ:エマはね、そこに居たの。
レイチェル:……エマの事を、話してくれるんですか?
ガブリエラ:いいえ、私から話す事は何も無いわ。
レイチェル:……どういう、事ですか、ガブリエラ。
ガブリエラ:「これも、夢のひとつ。あなたは目覚めなきゃ、レイチェル・アイベルク」
レイチェル:一体、何の話です。
ガブリエラ:「面会は、ここで終わり。」
レイチェル:が、ガブリエラ、どういうことなんですか!?
ガブリエラ:「看守の目が痛い、さあ、目覚めて、レイチェル」
レイチェル:ガブリエラ!意味がわかりません、答えて!
ガブリエラ:「あなたはリッジエルでは無いのだから。」
つづく
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