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臍帯とカフェイン

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「living dead」思ひ死に。

 : 「配役」
語り部①:読み手。性別不問。
語り部②:読み手。性別不問。
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 : 朗読劇
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 :「ギジン屋の門を叩いて」
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 : 番外 
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 : 「LIVING DEAD」 思ひ死に。
 : (「リビングデッド」 おもいしに。)
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語り部①:花を飾るのが好きだった。
語り部①:それは、私の話ではなく、私の事を慕う彼女の話だ。
語り部①:城下町は、明日行われる夏祭りのことしか頭になく。
語り部①:町民のほとんどが、どことなく浮き足立っていた。
語り部②:軒下に吊るした緑色の風鈴の、切子細工が陽の光に反射しては、時折、水面(みなも)を泳ぐ小魚のようにちらりと跳ね返っては、またキラリとその場でくるくると回る。
語り部②:気まぐれのように吹く風がそれに当たる度に、ちりんと鳴るその風鈴の音が聞こえる度に彼女はこちらを振り返り「夏ですね、伝右衛門(でんえもん)さん」と嬉しそうに言うのだ。
語り部①:「今年の夏祭りは、お侍さんたちはみんな、大名様の家で飲めや歌えや……なのでしょう?」
語り部②:「さてね、そんな話も出ているようだが。」
語り部①:「伝右衛門さんは?行かなくていいの?」
語り部②:「私が行ってもやることなんてないよ、おトキ。」
語り部②:南蛮土産のしゃぼんを膨らませては、窓の外に揺蕩うそれを自身の心と照らし合わせたり、ただ眺めてみたり。どことなく、不貞腐れたような私を彼女はいつも見抜いていた。
語り部②:金持ち百姓なのは父であって、私自身には何もない。金も、権力も、なんなら何かの才能さえ。しかしこの刀を腰にさげはじめてから、変わったのは私の心持ちではなく、周りの態度だった。
語り部①:刀がそこにあるだけで、チンピラ共は頭を低くするし、どことなく女子供も静かになる。家に出入りする人間も増え、その誰しもが父の財産をどうにかこうにかしてやろうという輩でいっぱいだった
語り部①:私自身の何かはそこには無く、すべてが父の力だったのは言うまでもない。
語り部②:そこに怒りを覚えればまだ良かった。そこに疑問を持てばよかった。そこに、なにかを感じればよかった。私はただそこに甘え、無気力に日々をこの刀と過ごしただけだった。
語り部②:「あの侍の刀は一度も振るわれたことが無い」と囁かれ始めるのは、すぐの事だった。
語り部①:「伝右衛門さん、見て、ほら、アブラゼミ。」
語り部②:このおトキという女だけは、私が如何なる噂を立てられようと傍にいるもの好きな女で。
語り部②:この膨らみ、弾けるしゃぼんの玉のように、ただ漂う私を、そのままで良いと認める数少ない存在でもあった。
語り部②:おトキは、遠い親戚の設けた九人兄妹の末っ子で、単なる口減らしの為にこの隠岐平家(おきだいらけ)に連れてこられた可哀想な女だった。
語り部①:「蝉の鳴き声っていいですよね、伝右衛門さん。」
語り部②:「そうか?私には煩くてかなわんが。」
語り部②:じいくじいくと森がざわめくような音がする、これはすべて蝉の鳴き声なのだと思うと少し目眩がする。
語り部①:「蝉って、夏の間の、しかもみじかい時しか生きないんですよ。その蝉の鳴き声は、すべて求愛の声なんですって。それってとても動物的だけど、でもそれって、なんだかこう、生きてるって感じがするじゃないですか。」
語り部②:そう話す彼女の横顔は、蝉なんかよりも、うんと思い切り生きてるって感じがすると私は何回思った事だろう。
語り部①:生きているのか、死んでいるのか。
語り部①:わからずただ毎日を浪費する私には、彼女の生き方が随分と眩しく見えたものだった。
語り部②:生きているのか、死んでいるのか。
語り部②:何もせずただ動いているのと変わらない私は、その蝉なんかよりも随分と生き物から外れていると思ったものだった。
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語り部①:「猫宮 織部(ねこみや おりべ)」。
語り部①:その存在を認識してからというもの、眠れぬ夜を何度過ごしただろう。
語り部①:飢えて、渇き、何も欲することの無くなった私自身が、滅することの無くなった私が。
語り部①:欲しくて欲しくて堪らない。
語り部①:喉が乾いているのを実感した。
語り部②:脈打つはずのない、心の臓が、熱く血潮(ちしお)を巡らせ
語り部②:欲している。渇望している。
語り部②:あの、火車(かしゃ)のにおいのするあの女を。
語り部②:癒しのにおいが、死者のにおいが、あの身体を、あのすべてを、欲している。
語り部①:火車のにおいがする。
語り部①:癒しのにおいがする。
語り部①:生命のにおいがする。
語り部①:そこにはおそらく、私の求めるものがある。
語り部①:私の欲するものがある。
語り部②:深みのある、美しい暗緑色(あんりょくしょく)が目に浮かぶ。かの千利休(せんのりきゅう)も愛して止まなかった、美しく、凛とした、茶器は、この乾いた身体に「何を」注ぐのだろうか。
語り部②:甘い甘い菓子を用意したらいいだろうか、その隣に彼女を置くのなら、そう部屋は暗いほうがいい。
語り部①:火車の光を浴びながら、私は癒され、満たされ、そして、真の意味で「生きて」「死ぬ」こともできる。
語り部①:こんな「動いている」だけの身体ではなく、真の意味での「不死者」となれる。
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語り部②:伝右衛門、貴様は何故刀を抜かぬ。
語り部②:父からの、諦めに近いまなざしが私の肌に突き刺さる。
語り部②:それはまるで、虫が蠢く(うごめく)かのように私をじろりじろりと見定め、そして、やはりどこにも期待などは無かった。
語り部①:そこに血があるからですよ、とあっけらかんと答える私に、目を合わせることもしなくなった父。その様子を襖ひとつ隔てた隣の部屋で、おトキが聞き耳を立てているのが分かる。
語り部②:何故(なにゆえ)そうも、侍という生き物が偉そうに街を練り歩くのかも私には理解出来なかったし、その刀の持つ権力を振りかざしたがる父の事も理解は出来なかった。
語り部①:私は、百姓でよかったのだ。
語り部①:ただ、季節に合わせ稲を植え、時折そろばんをはじき、上等な米と、たまに芋が食えればそれで充分であった。
語り部②:それすらも、もしかすると贅沢なことであったとも思う。
語り部②:しかし、私の思う幸せとは、そうだったのだ。
語り部②:何も髷を結い、袖をばらんばらんと靡かせながら、刀をちらつかせる、風を切る歩き方がしたかったわけではない。
語り部①:そして、それをよくよく理解してくれていたのは、父でも、伏し目がちな母でも、これを語る私自身でもない。
語り部①:おトキだけであったのだろう。
語り部①:彼女は何度もそういった私の本質を刺すように、季節の変わり目を嬉しそうに話すようになったのだ。
語り部②:その中でも、一際夏を喜んだのは、おそらく彼女自身も夏が大いに好みであったからだろうと思う。
語り部①:彼女の摘んだ、梔子の花が度々私の部屋には飾られていた。
語り部②:蝉の声が、この街すべてを覆っている。
語り部②:ざわめきながら、命が摩耗していく。
語り部②:からからに乾いた身体は、いつでも横たわるだけで
語り部②:この胸の高鳴りを殺し、そして、夏だった。
語り部①:急ごしらえで作られた提灯が、次々と街にぶらさがり、怒号もいつしか歓声へと移ろいで行く。祭囃子も近づいてきたような気さえする。いつもは人の少ない蕎麦屋も、どことなく活気にあふれているような、そんな空気が漂う。
語り部②:花を飾るのが好きだった。
語り部②:それは、私の話ではなく、私の事を慕う彼女の話だ。
語り部②:城下町は、明日行われる夏祭りのことしか頭になく。
語り部②:町民のほとんどが、どことなく浮き足立っていた。
語り部①:軒下に吊るした緑色の風鈴の、切子細工が陽の光に反射しては、時折、水面を泳ぐ小魚のようにちらりと跳ね返っては、またキラリとその場でくるくると回る。
語り部①:気まぐれのように吹く風がそれに当たる度に、ちりんと鳴るその風鈴の音が聞こえる度に彼女はこちらを振り返り「夏ですね、伝右衛門さん」と嬉しそうに言うのだ。
語り部②:その日の夜、おトキは父に言伝と買い出しを頼まれ
語り部②:番屋通りの酒屋まで使い走りをさせられていた。
語り部①:明日に控えた夏祭り、町人も全員浮足立ち、もうすでに酒に酔った男どもでいっぱいだった。
語り部①:がなり声や、煽り文句、喧嘩の声に、大歓声。
語り部①:なんでもかんでもを祭りと称して、明日の夏祭り前に景気づけでもしているのだろう。
語り部②:そのまま、おトキは戻ってこなかった。
語り部①:いや、正確には。
語り部①:「おトキだったもの」しか、戻ってくることはできなかった。
語り部②:右肩から、左わき腹にかけて、大きく斬りつけられ
語り部②:おトキの着物にはべったりと、おトキだった血潮がべったりと張り付き、固くなったおトキを抱き上げるとばりばりと音を立てて、皮膚からはがれる音がする。
語り部①:あれだけ、温かく、脈動していたはずの心の臓は
語り部①:もはやただの飾りでしかなく。
語り部②:ここまで深い傷はどう考えても、「刀」で斬られたことしか、考えられず、私はそのまま、
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語り部①:「『腐れ外道』さん、そうして貴方は、大名家に集まった侍の仕業であると踏んで、立ち入った。」
語り部②:「その通りです、本当に、すべて見ることができるんですねえ、占い師さん。」
語り部②:そういうと、占い師の彼女は曇った表情を見せる。
語り部②:それが、私が一度死んだ物語なのだ。
語り部②:大名家に集まった侍の誰かが、恨みなのか、気まぐれになのか、理由もなくなのか、おトキを斬り捨てた事は間違いなかった。
語り部①:普段毛嫌いする刀を握りしめ、大名家に立ち入った事がそもそもの間違いではあったのだ。
語り部①:簡単にお縄についた私は、大名暗殺を企てた一人として、切腹を余儀なくされた。ただそれだけの事だった。
語り部②:刀嫌いの男が、はじめて刀を自身の意思で持ち、そしてそれを使う事もせずに、今度は自身が腹を斬り、首を落とされる事になるなんて誰が想像しただろうか。
語り部②:占い師の彼女の分のコーヒー代をテーブルにそっと置くと、「会えてよかったですよ、今日は。」一言残し、テーブルをあとにする。
語り部①:「あの、すいません、勝手な事をしてしまって。」
語り部②:「なあに、いいんですよ、私もなんとなく懐かしくなりました。ありがとう、イグルミナナナさん?」
語り部①:生きているのか、死んでいるのか、わからず漂っていた私は、結局こうして現代でも「生きているのか、死んでいるのか」わからない存在となり果てていた。
語り部①:そんな中で見つけた、猫宮織部という甘露は私にとって、心のオアシスそのもの。
語り部①:心の底から、欲しくて、焼け焦げるような相手だった。
語り部②:喉が焼けるあの感覚をまた、ホットミルクで鎮めなければ。蠢く体中の血液を、宥めなければ。
語り部①:人を、生き返らせてしまう、蘇らせてしまう「火車」の力が。私の身も心も癒し、潤し、「生きる」という事をこの身に刻み、そして、今度こそは本当に「愛」やら「恋」やらを、この心臓に呼応
語り部①:させるかのように。
語り部②:ごとり。
語り部②:鈍く、固い、金属の落ちた音がする。
語り部①:「あれ、『腐れ外道さん』、何か落とされましたよ。」
語り部②:ふと振り返ると、私の足元には確かに黒く、手のひらほどの大きさの箱が落ちている。
語り部②:その箱には、数字を入力するダイヤルのようなものがついている。仕掛け箱のようなものだろうか。
語り部②:「いや……私のものでは無いんですがねえ。」
語り部②:そう言い、私はその黒い箱を、拾い上げた。
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語り部①:問答など、無用なのだ。
語り部①:ただ、私が求むのは「猫宮織部」そのもの。ただそれだけなのだ。
語り部①:その火車の光が、その熱が、その炎が。
語り部①:欲しい、この手に、欲しい。
語り部②:その門を叩いた。
語り部②:仄かに香る、火車の呪い。
語り部②:その門を開いた。
語り部②:「閄」(こく)と、声を掛ければ振り返る。
語り部②: 「ギジン屋。売って欲しいものがある。」
語り部②:死人に口無し、これは「問い」ですらない。問答無用なのだ。
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