朗読詩「彗星観測」
人って、未来を考える事ができるから。
だから、不安や悲しみや、うまく行かなかった事を想像しちゃうんだって。
何も浮かばない夜空の事を考えながら、
玄関先の靴をかかとだけは揃えて置く
眠れない夜のしっぽを追いかけながら、こすりつづけた眼が腫れてしまう前に
僕らの彗星を探した。
擦りむいた傷跡を知った。
遠い星の出来事みたいに感じていればよかったことも、
溶け切らない角砂糖のかたまりみたいな、
こそこそと内緒話をするみたいな柔らかな声で
どうでもいいことも、どうでもよくないことも
いつかどこかにそっと置いた憂鬱の名前や
嫌いになりたくてなれなかった
多くの後悔を、僕はまだ持ち続けているんだなって
痛みの場所を、わかっていた。
「結局さ、誰かいないとさびしいんだもんね」
ふとした時に隣に人がいたほうがいいんだなって、思っちゃうんだ。
難しいよね、ひとって。そう言う彼女の声は掠れながら
難しいよね、ひとって。そう言いながら夜は更けていく。
何もかもを捨てて、夜空に浮かぶ星座みたいな生き方ができていたら
もう少しやわらかな毎日がここにあったのかな。
やわらかいものだけで包まれていたらいいな。
でもそんな、やわらかいものばかり集めていたら。
段々と溶け出して、彗星のしっぽみたいに溶けながら生きる事になるのかな。
夜はいつか明ける。
明けた夜が、朝となる瞬間を、きっとどんなひとも待ちわびていて。
その美しさに涙を流したり、嬉しくなったりする。
大事に持っていたギターケースの中身みたいな、
咲き切らなかったあの日のポインセチアみたいな、
やさしさの形をなぞりながら僕の心臓の形を知る。
言葉の重みや、生きる事の難しさはきっと
どんな時だって夜のうちに僕の中にとけていくんだ。
天体観測をするみたいだ。
ひとと、ひととの距離を見るのは。
僕の中にある何かの星のひとつと、あの子や
あの人、この子の中にある星との距離をさぐりながら
ようやく掴んだ星座をノートに書き記していく。
体中の全部の点と点をつないで、それが夜空になっていくなら
どんなによかったかな。
やわらかで、溶け始めている、僕の心を書き記していく。
人って、未来を考える事ができるから。
だから、不安や悲しみや、うまく行かなかった事を想像しちゃうんだって。
何も浮かばない夜空の事を考えながら、
玄関先の靴をかかとだけは揃えて置く
眠れない夜のしっぽを追いかけながら、こすりつづけた眼が腫れてしまう前に
僕らの彗星を探した。
僕らの生き方を探した。
この夜にほんの少しだけ、
優しく眠れるだけでいい。
君が眠れるだけでいいよ。
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