【朗読詩】明日の知らない私のセーブポイント
冷蔵庫を私のセーブポイントにした。
夜中の三時の事だ。
繰り返しその夜を過ごしてから気づくんだ。
どんな夜も、どんな平凡も、どんな私も、同じ私なんて一秒も存在してなかったんだって。
冷蔵庫を開ける。
レモンサワーを取り出す。
私の物語がはじまる。
「あなたの言葉って、なんだか」
そう言って私の言葉を遮った、
それが永遠に続く呪詛みたいに、
それがまるで私のすべてであるかのように。
まっさらな大地を踏みしめた後の跡の痕みたいに。
スターバックスコーヒーで頼んだ、
アーモンドラテの悩ましい部分のように。
私の物語の中に深く深く刻まれている。
冷えた缶のプルタブが鳴る。
かしゅ、っと弾けたそれが、
私のことを一番良く、知っている。
私よりも、私の事を知っているそれは
蘇ることのない私の中の痕の跡みたいな
読みかけの愛のセリフの途中のような
そういう類の痛みを知っている。
この物語の私は、いつか世界を救うだろうか。
誰かの心を救い、
誰かの心を癒し、
誰かにとってかけがえのないものに
私はなるのだろうか。
夜中の音をすべて吸い込んでしまった、
私の部屋の冷蔵庫が、ぶうんとモーターを回す。
誰も知らない私がそこにいる。
そういう私を思い出すために、
私はそこをセーブポイントにした。
レモンサワーの苦さと酸っぱさが、
明日の私まできっと残っている。
「あなたの言葉ってなんだか、」と
苦い顔で遮ったあの光景が
残り続けるのと一緒で。
囁かな満足が、
きっと明日も明後日も
私の知らない、明日の私に残っていって
それと同じだけ、
囁かな苦しさや悲しみが、
私の知らない所で、
知らない私に残っていく。
そうして積み上げた私が、
愛を知ることがあるのなら
それはきっといつかの冒険譚みたいに
誰かに自慢げに話せる日が来るといい。
私がセーブしつづける私の、
ほんの少し背伸びして
ほんの少し無理をした毎日の
愛の記録として残していけたらいいんだ。
冷蔵庫を私のセーブポイントにした。
夜中の三時の事だ。
繰り返しその夜を過ごしてから気づくんだ。
どんな夜も、どんな平凡も、どんな私も、同じ私なんて一秒も存在してなかったんだって。
冷蔵庫を開ける。
レモンサワーを取り出す。
私の物語がはじまる。
私の知らない、明日の私を始めるために。
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